(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同一軸線上に対向した状態で配置されトルク出力部材として車両における一方側の車輪と他方側の車輪とにそれぞれ連結される一対のサイドギヤと、トルク入力部材として前記一対のサイドギヤの軸線を中心として回転する支持部材と、該支持部材に回転可能に支持され前記一対のサイドギヤに跨った状態で噛合されるピニオンギヤと、が備えられているトルク伝達装置において、
前記一対のサイドギヤが、外周面又は内周面のいずれか一方に歯が設けられる円筒歯車とされると共に互いの歯の歯数が異なるものとして構成され、
前記ピニオンギヤが、外周面に歯が設けられて該歯が前記一対のサイドギヤに噛合する円筒歯車とされ、
前記ピニオンギヤが、該ピニオンギヤの軸線方向を前記一対のサイドギヤの軸線方向と同方向に向けた状態で配置され、
前記ピニオンギヤに、前記車両の走行状態に応じた回転を付与する回転駆動源が関連付けられている、
ことを特徴とするトルク伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記トルク伝達装置においては、一対のサイドギヤ及びピニオンギヤとして傘歯車が用いられており、ピニオンギヤを一対のサイドギヤに跨ぐように噛合させるためには、一対のサイドギヤを互いに離間させて、ピニオンギヤの直径よりも多少、短い長さ程度、離させなければならない。
しかも、上記トルク伝達装置においては、差動装置における支持部材の側方(一対のサイドギヤの並設方向一方側外方)に差動制限機構(デフロック機構)としてクラッチ機構を構成しなければならず、その支持部材の側方においては、クラッチ機構の構成要素についての配設空間の他に、そのクラッチ機構の作動空間(クラッチ機構の構成要素であるクラッチ部材の連結、連結解除のための移動空間)を確保しなければならない(特許文献1における
図1参照)。このため、当該トルク伝達装置は、一対のサイドギヤの並設方向外方に比較的大きく伸びるものとなっている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、差動機能及び差動制限機能を確保しつつ、一対のサイドギヤの並設方向において、極力、コンパクト化を図ることができるトルク伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明にあっては、
同一軸線上に対向した状態で配置されトルク出力部材として車両における一方側の車輪と他方側の車輪とにそれぞれ連結される一対のサイドギヤと、トルク入力部材として前記一対のサイドギヤの軸線を中心として回転する支持部材と、該支持部材に回転可能に支持され前記一対のサイドギヤに跨った状態で噛合されるピニオンギヤと、が備えられているトルク伝達装置において、
前記一対のサイドギヤが、外周面又は内周面のいずれか一方に歯が設けられる円筒歯車とされると共に互いの歯の歯数が異なるものとして構成され、
前記ピニオンギヤが、外周面に歯が設けられて該歯が前記一対のサイドギヤに噛合する円筒歯車とされ、
前記ピニオンギヤが、該ピニオンギヤの軸線方向を前記一対のサイドギヤの軸線方向と同方向に向けた状態で配置され、
前記ピニオンギヤに、前記車両の走行状態に応じた回転を付与する回転駆動源が関連付けられている構成とされている。
【0008】
この構成により、円筒歯車としての一対のサイドギヤに同じく円筒歯車としてのピニオンギヤが跨るようにして噛合されていることから、ピニオンギヤが自転しない状態(ピニオンギヤが回転駆動されない状態)の下で、トルク入力部材としての支持部材が一対のサイドギヤの軸線を中心として回転すれば、ピニオンギヤが支持部材と一体的に回転(一対のサイドギヤの軸線を中心として公転)することになり、そのピニオンギヤの回転により一対のサイドギヤが押圧されて、その一対のサイドギヤは、実質的に一体的に回転することになる(直結状態(差動制限機能)。このため、一方側の車輪が空転しようとする状況になっても、他方側の車輪を回転させ続けることができる。
しかも、トルク分配については、ピニオンとサイドギヤとが円筒歯車として組み合せられている下では、ピニオンギヤが傘歯車であるときのようにトルク分割機能はなく、一方のサイドギヤと他方のサイドギヤとにはその其々の負荷に応じたトルクが常に分配され、路面状況の急変に対してタイムラグなしでトルクの最適配分を実現できる。
また、一対のサイドギヤが、歯数が異なる円筒歯車により構成され、その一対のサイドギヤに円筒歯車としてのピニオンギヤが噛合され、そのピニオンギヤに、車両の走行状態に応じた回転を付与する回転駆動源が関連付けられていることから、車両の旋回時等の走行状態においては、ピニオンギヤを、支持部材の回転に伴う回転状態(公転状態)の下で、回転駆動源による回転駆動によりピニオンギヤの軸線を中心として自転させることができ、このピニオンギヤの自転と一対のサイドギヤの歯数が互いに異なることとを利用して、一対のサイドギヤ間に、旋回時等の回転数差を吸収する好ましい所望の回転数差を生じさせることができる(差動機能)。
【0009】
その一方、円筒歯車としての一対のサイドギヤに円筒歯車としてのピニオンギヤが跨るようにして噛合され、そのピニオンギヤの自転の有無により差動機能と差動制限機能(より具体的にはデフロック機能)とを選択できる構成であることから、支持部材の側方に、差動制限機能を確保すべくクラッチ機構を構成する必要がなくなる。
さらには、差動機能、差動制限機能を選択的に実行するに当たっては、ピニオンギヤを一対のサイドギヤに常に噛合させた状態の下で、ピニオンギヤを自転させるか否かにより実行できることになり、ギヤ同士の噛合、噛合解除の切換動作は必要でなくなる。
【0010】
本発明の好ましい構成態様として、本発明の前記構成を前提として、次の態様をとることができる。
(1)前記一対のサイドギヤが、外周面に歯が設けられる円筒歯車とされ、
前記支持部材が前記一対のサイドギヤの外周側に配置され、
前記ピニオンギヤが、前記一対のサイドギヤの径方向外方側において、該一対のサイドギヤに噛合されている構成をとることができる。
これにより、ピニオンギヤに回転力を外部から簡単に伝達できることになり、一対のサイドギヤを極めて近接させた配置の下で、その一対のサイドギヤにピニオンギヤを噛合させることができる。結果、当該トルク伝達装置を、一対のサイドギヤの並設方向において、著しくコンパクトにすることができる。
【0011】
(2)前記一対のサイドギヤが、内周面に歯が設けられる円筒歯車とされ、
前記支持部材が前記一対のサイドギヤの内周側に配置され、
前記ピニオンギヤが、前記一対のサイドギヤの径方向内方側において、該一対のサイドギヤに噛合されている構成をとることができる。
これにより、差動機能と差動制限機能との切換えを行うために、支持部材の側方にクラッチ機構を設けなくてもすむ具体的態様を提供できる。
【0012】
(3)前記車両における一方側の車輪と他方側の車輪とが、左右の車輪により構成され、
操舵角を検出する舵角センサと、該舵角センサが検出する操舵角情報に基づき、旋回時に、前記回転駆動源を制御して、旋回外側車輪に連結される一方のサイドギヤの回転数を、他方のサイドギヤの回転数に比して大きくすると共に、該舵角センサが検出する操舵角が中立位置から大きくなるほど大きくする制御装置と、が備えられている構成をとることができる。
これにより、車両における旋回時に、左右輪の回転数差を的確且つ具体的に調整して、旋回容易性を確保できる。
【0013】
(4)上記(3)を前提として、
前記制御装置は、前記旋回外側車輪に連結される一方のサイドギヤの回転数を、他方のサイドギヤの回転数に比して大きくするに際して、前記回転駆動源の回転方向を正回転、逆回転のいずれかの方向に回転するように制御する構成をとることができる。
これにより、車両の旋回方向に応じてピニオンギヤの自転方向を変え、そのピニオンギヤの自転と、歯数が異なる一対のサイドギヤ(通称、不思議歯車)との関係により、旋回外側車輪に連結される一方のサイドギヤの回転数を、他方のサイドギヤの回転数に比して大きくすることができる。
この時、前記回転駆動源は、左右のサイドギヤ間の回転数差のみを実現する駆動トルクで良いため、コンパクトなものとなる。
【0014】
(5)上記(3)を前提として、
前記車両の車速を検出する車速センサが備えられ、
前記制御装置は、前記車速センサが検出する車速が高速になるほど前記回転駆動源の回転数を低下させるように設定されている構成をとることができる。
これにより、車速の状況をも考慮に入れた差動機能を実行することができ、車速が速くなるほど差動機能を低下させて、タイヤのスリップ率増大による駆動力の減少が抑えられる。また、高速での旋回時に、旋回内側車輪が遠心力により浮き上がろうとする状況(リフトイン)において、旋回外側車輪に駆動力を的確に伝達することができる。
【0015】
(6)上記(5)を前提として、
前記制御装置は、操舵角の中立位置を基準とした所定の操舵角範囲で、前記回転駆動源の回転を禁止すると共に、前記車速センサが検出する車速が速くなるほど、該所定の操舵角範囲を操舵角の増大方向に拡張するように設定されている構成をとることができる。
これにより、高速旋回時における旋回制御の安定化を図ることができる。
【0016】
(7)前記車両における一方側の車輪と他方側の車輪とが、前後の車輪により構成され、
走行状態を検出する走行状態検出装置と、該走行状態検出装置からの情報に基づき、前記回転駆動源を制御して、前記前側車輪と前記後側車輪とに対する回転数差を制御する制御装置と、が備えられている構成をとることができる。
これにより、制御装置による回転駆動源の制御により、走行安定性を高めるように調整できる。
【0017】
(8)前記一対のサイドギヤ及び前記ピニオンギヤが、平歯車によりそれぞれ構成されている構成をとることができる。
これにより、本発明を構成するに当たり、歯車として普及品を用いることができ、製造の容易化、構造の簡素化等を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の内容から本発明によれば、差動機能及び差動制限機能を確保しつつ、一対のサイドギヤの並設方向においてコンパクト化を図ることができるトルク伝達装置を提供できる。
また、差動機能、差動制限機能の実行に際して、ギヤの噛合、噛合解除の切換動作が必要でなくなることから、クラッチ機構とは異なり、作動の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
第1実施形態を示す
図1において、符号1は、リヤデファレンシャルとして用いられる実施形態に係るトルク伝達装置を示す。このトルク伝達装置1は、本実施形態においては、車両2における左側後輪3Lから車幅方向内方に伸びる左側車軸4Lと、右側後輪3Rから車幅方向内方に伸びる右側車軸4Rとの間に介在されており、エンジン側からの出力トルクがこのトルク伝達装置1を介して左右の後輪3L,3Rに伝達される。
【0021】
トルク伝達装置1は、
図1に示すように、トルク出力部材として一対のサイドギヤ5L,5Rを備えている。一対の各サイドギヤ5L(5R)は、外周面に歯5La(5Ra)を有する円筒歯車である平歯車によりそれぞれ形成されており、その両サイドギヤ5L,5Rは、その歯5La(5Ra)の歯数だけが異なり、他のモジュール、径については、同一とされている。本実施形態においては、一対のサイドギヤ5L,5Rのうちの一方のサイドギヤ5L(5R)における歯5La(5Ra)の歯数が他方のサイドギヤ5R(5L)における歯5Ra(5La)の歯数よりも1歯だけ少なくなっている。
この一対のサイドギヤ5L,5Rは、比較的厚み(軸線方向長さ)が薄い平歯車であることを利用して、その両板面が左右の車軸4L,4Rの軸線方向において、干渉することなくできるだけ近接した状態で配置され、その一対のサイドギヤ5L,5Rが占める並設方向(
図1中、左右方向)の長さは、極力、短くなっている。このうち、左側サイドギヤ5Lには、左側車軸4Lの車幅方向内端部が相対回転不能に連結され、右側サイドギヤ5Rには、右側車軸4Rの車幅方向内端部が相対回転不能に連結されている。本実施形態においては、左側サイドギヤ5Lに対する左側車軸4Lの車幅方向内端部の連結、右側サイドギヤ5Rに対する右側車軸4Rの車幅方向内端部の連結において、スプライン結合が用いられている。
【0022】
トルク伝達装置1は、
図1に示すように、支持部材としてのケース6を備えている。ケース6は、中空体又は枠体としつつ伸びた形状に形成されており、そのケース6は、その内部に左右の車軸4L,4Rを跨ぐようにして収納している。このため、ケース6内部には、左右の車軸4L,4Rと共に、その各車軸4L(4R)に連なるサイドギヤ5L(5R)が収納されている。
このケース6は、左右の車軸4L、4Rに対して回転可能に支持されている。このため、ケース6の伸び方向一端側(
図1中、左側)と左側車軸4Lとが軸受け7を介して支持され、ケース6の伸び方向他端側(
図1中、右側)と右側車軸4Rとが軸受け8を介して支持されている。
このケース6の伸び方向一端側外周には、リングギヤ9が設けられている。このリングギヤ9は、傘歯車として形成されており、そのリングギヤ9の歯9aには、同じく傘歯車とされたピニオンギヤ10が噛合されている。このピニオンギヤ10は、プロペラシャフト11の外周に固定されており、エンジン側からの出力トルクが、プロペラシャフト11、ピニオンギヤ10、リングギヤ9を介してケース6に伝達されることになっている。これにより、ケース6は、エンジン側からの出力トルクが入力されたときには、一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線(左右の車軸4L,4Rの軸線)を中心として回転することになる。
【0023】
トルク伝達装置1は、
図1に示すように、ピニオンギヤ12を備えている。ピニオンギヤ12は、該ピニオンギヤ12の軸線方向を一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線方向に向けた状態でケース6に回転可能に支持されている。具体的には、支持軸13が、その軸線を一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線方向に向けた状態で軸受け14を介してケース6に回転可能に支持され、その支持軸13外周にピニオンギヤ12が取付けられている。このピニオンギヤ12には、外周面に歯12aを有する円筒歯車である平歯車が用いられており、そのピニオンギヤ12は、一対のサイドギヤ5L,5Rに対して跨るように噛合されている。
【0024】
トルク伝達装置1は、
図1に示すように、回転駆動源としてのモータ15を備えている。このモータ15は、動力伝達機構16を介して前記支持軸13に連係されている。
動力伝達機構16は、本実施形態においては、支持軸13外周面に取付けられた伝達ギヤ(平歯車)17と、その右側車軸4Rに回転可能に支持されたリングギヤ18と、モータ15の出力軸に取付けられた出力ギヤ19と、を備えている。伝達ギヤ17は、支持軸13上において前記ピニオンギヤ12に隣り合うようにして配置されており、伝達ギヤ17の軸線を中心とした回転により、支持軸13及びピニオンギヤ12は一体的に回転することになる。リングギヤ18は、有底円筒形状に形成されており、その開口側をサイドギヤ5R(5L)に向けつつ、その底部が右側車軸4Rに対して相対回転可能に支持されている。このリングギヤ18の内周面に内周歯18giが形成され、その外周面に外周歯18goが形成されており、このリングギヤ18の内周歯18giには伝達ギヤ17に噛合されている。出力ギヤ19は、リングギヤ18の外周歯18goに噛合されており、その出力ギヤ19の回転によりリングギヤ18は右側車軸4Rに対して相対回転することになる。
モータ15は、その出力軸の回転により回転駆動力を出力ギヤ19を介してリングギヤ18に伝達する機能を有する。このため、モータ15が駆動されると、リングギヤ18は、右側の車軸4Rに対して相対回転することになり、そのリングギヤ9の相対回転により伝達ギヤ17がその軸線を中心として回転し、これに伴い、支持軸13を介してピニオンギヤ12も、その軸線を中心として回転することになる。
【0025】
トルク伝達装置1は、
図1に示すように、前記モータ15を制御すべく、制御装置としての制御ユニットUを備えている。このため、制御ユニットUに、舵角センサ20からの車両2の操舵角情報、車速センサ21からの車両2の車速情報(走行状態検出情報)、加速度センサ2からの車両2の加速度情報(走行状態検出情報)が入力され、制御ユニットUからはモータ15に制御信号が出力される。
【0026】
この制御ユニットUは、記憶部24と、制御部25と、を備えている。
記憶部24はROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶素子をもって構成されており、その記憶部24には、制御実行に必要な制御プログラム、モータの回転方向、回転数を求めるに際して利用するマップ等の設定情報が格納され、その制御プログラム等は、必要に応じて、制御部25に読み出される。
【0027】
制御部25は、CPU(Central Processing Unit)をもって構成されており、そのCPUは、記憶部24に記憶された制御プログラムに従って、演算部26、制御実行部27として動作することになっている。
演算部26は、記憶部24に記憶されているマップを用いて、車速センサ21が検出した車速、加速度センサ22が検出した加速度、舵角センサ20が検出した操舵角に基づき、舵角センサ20が検出した操舵角がモータ15の不感帯にあるか否かを判断すると共に、操舵角がモータ15の不感帯以外の領域にあると判断したときには、モータ15の回転方向、回転数を求めることになっている。
【0028】
マップの内容を示す
図2を参照しつつ具体的に説明する。
マップにおいては、操舵角の中立位置(0°)を基準として所定の操舵角範囲がモータ15の不感帯として設定されており、その不感帯は車速が速くなるほど広くなることになっている。このため、車速に応じた不感帯に操舵角が属する限り、モータ15の回転は禁止(停止)されることになる。
また、マップにおいては、操舵角が不感帯(中立位置が中心)よりも一方の側(
図2中、右側)に大きいときには(右旋回のとき)、モータ15が正回転方向に回転され、そのモータ回転数は、操舵角が大きいほど大きくなるように設定されている。逆に、操舵角が不感帯よりも他方の側(
図2中、左側)に大きいときには(左旋回のとき)、モータ15が逆回転方向に回転され、そのモータ回転数は、操舵角が大きいほど大きくなるように設定されている。これにより、車両2の旋回時には、その状態を捉え、その状態に応じた回転方向及び回転数をもってモータ15が回転されることになり、これに伴い、ピニオンギヤ12は、その軸線を中心として自転し、そのピニオンギヤ12の自転に基づき、歯数が異なる一対のサイドギヤ5L,5Rには、旋回時の回転数差を吸収する回転数差が生じることになる。
しかもこの場合、車速センサ21が検出する車速が高速になるほどモータ15の回転数を低下させるように設定されている。これにより、車速が速くなるほど差動機能が低下され、タイヤのスリップ率増大による駆動力の減少が抑えられ、高速での旋回時に於いても、旋回内側車輪が遠心力により浮き上がろうとする状況(リフトイン)において、駆動力を旋回外側車輪を介して路面に的確に伝達できることになる。
尚、本実施形態においては、加速度についても、車速の場合同様、加速度が大きくなるに従ってモータ15の回転数が低下されるように設定されている。
【0029】
制御実行部27は、上記演算部26からの情報に基づき、モータ15に制御信号を出力する機能を有している。
これにより、車両2の旋回時には、歯数が異なる一対のサイドギヤ5L,5Rと、その一対のサイドギヤ5L,5Rに噛合するピニオンギヤ12の自転方向及び自転速度に基づき、一対のサイドギヤ5L.5Rは、旋回内側に位置するサイドギヤ5L(5R)の回転数に比して旋回外側に位置するサイドギヤ5R(5L)の回転数が大きくなり、この回転状態が、各車軸4L(4R)を介して車輪3L(3R)に伝達される。
【0030】
次に、上記制御ユニットUの制御内容の概要について説明する。
本実施形態においては、車両2が走行状態にあるとき(直進状態)には、エンジン側からの出力トルクが、プロペラシャフト11、ピニオンギヤ10、リングギヤ9を介してケース6に入力され、ケース6は、一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線を中心として回転される。これにより、ピニオンギヤ12は、常に、ケース6と一体的に回転(一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線を中心として公転)することになり、そのピニオンギヤ12は、一対の両サイドギヤ5L,5Rを押圧して、その一対のサイドギヤ5L,5Rを実質的に一体的に回転させる(直結状態)。このため、ぬかるみにはまったり、リフトイン状態となったりして、一方側の車輪3L(3R)が空転状態になろうとしても、他方側の車輪3R(3L)を回転させ続けることができ、その他方側の車輪3R(3L)の駆動に基づき、ぬかるみから脱出することができ、また、路面に対して駆動力を的確に伝達することができる。
【0031】
車両2が旋回するときには、その旋回を捉えてモータ15が駆動され、ピニオンギヤ12は、ケース6の回転に伴う回転状態(公転状態)の下で自転される。このピニオンギヤ12の自転の方向は操舵方向により決められ、自転の回転数は操舵角の大きさにより決められるが、このピニオンギヤ12の自転と、一対のサイドギヤ5L,5Rの歯数が互いに異なることとを利用して、旋回の程度(操舵角の大きさ)に応じて、旋回内側のサイドギヤの回転数に比して旋回外側のサイドギヤの回転数が大きくされ、その各サイドギヤ5L(5R)の回転状態が各車輪3L(3R)に反映される。これにより、車両2が旋回される場合であっても、車両2は容易に旋回することができる。
【0032】
次に上記制御ユニットUの制御例を
図3に示すフローチャートに基づき具体的に説明する。尚、Sはステップを示す。
制御が開始されると、S1において、初期情報として各種情報、具体的には、モータ回転数−操舵角情報(特性線)、フラグF=0(モータ15が停止状態にあること)等が読み込まれる。各種情報が読み込まれると、S2において、車両2の車速と加速度とが読み込まれ、そのS2の情報に基づき、S3において、車速(加速度も考慮)に応じたモータ回転数−操舵角特性が選択される(
図2参照)。
続いて、S4において、操舵角が読み込まれ、次のS5において、S4の操舵角が不感帯に属するか否かが判別される。操舵角に応じたピニオンギヤ12の回転制御を行う必要があるか否かを判断するためである。
【0033】
S5の判断がYESのときには、S6において、フラグF=1(モータ15が回転状態にあること)であるか否かが判別される。制御開始当初は、F=0であることから、S6の判断はNOとされ、新たに処理を開始すべく前記S2に戻される。
【0034】
一方、S6がYESのときは、操舵角がモータ15の不感帯に属するものの、それまでは、ピニオンギヤ12の回転制御を行っていたときであり、このときには、S7においてモータ15が停止される。このS7の後、次のS8においてフラグFはリセット(F=0)され、前記S2に戻される。
これにより、S6がNOのとき及びS7においてモータ15が停止された後においては、ピニオンギヤ12は、自転せずに、ケース6と一体的に回転(一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線を中心として公転)することになり、そのピニオンギヤ12は、一対の両サイドギヤ5L,5Rを押圧して、その一対のサイドギヤ5L,5Rを実質的に一体的に回転させる(直結状態(デフロック機能実行))。これにより、一方側の車輪3L(3R)がぬかるみにはまったりして空転状態になったとしても、他方側の車輪3R(3L)を回転させ続けて、その他方側の車輪3R(3L)の駆動に基づき、ぬかるみから脱出することができる。
【0035】
S5の判断がNOのときには、S9において、
図2に基づいて、S4の操舵角に応じたモータ15の回転数が読み出され、次のS10において、そのモータ回転数をもってモータ15の回転駆動が実行される。これにより、例えば、右旋回の場合には、旋回外側となる一方のサイドギヤ5L(左側後輪3L)の回転数は、ピニオンギヤ12の自転により、旋回内側となる他方のサイドギヤ5R(右側後輪3R)の回転数よりも大きく且つその右旋回の際の操舵角が大きいほど大きくなり、車両2が右旋回する場合であっても、その右旋回は容易に行われることになる。同様に、左旋回の場合には、旋回外側となる他方のサイドギヤ5R(右側後輪3R)の回転数は、ピニオンギヤ12の自転により、旋回内側となる一方のサイドギヤ5L(左側後輪3R)の回転数よりも大きく且つその左旋回の際の舵角が大きいほど大きくなり、車両2が左旋回する場合においても、その左旋回は容易に行われることになる(差動機能実行)。
このS10の処理後、S11において、フラグFがF=1とされ、前記S2にリターンされる。
【0036】
したがって、上記トルク伝達装置1においては、差動機能、デフロック機能(差動制限機能)を選択的に実行することができ、その差動機能、デフロック機能を選択的に実行するに当たっては、歯数が異なる平歯車により構成される一対のサイドギヤ5L,5Rに平歯車としてのピニオンギヤ12を跨るようにして噛合させた下で、ピニオンギヤ12を自転(回転駆動)させるか否かによりその実行を決定することができる。このため、ケース6の側方(
図1中、右側方又は左側方)に、デフロック機能を確保するべくクラッチ機構(デフロック機構)を構成する必要がなくなる。
【0037】
しかも、ピニオンギヤ12及び一対のサイドギヤ5L,5Rとして、傘歯車ではなく平歯車が用いられることから、一対のサイドギヤ5L,5Rとして比較的薄いものをそれぞれ用いてそれらを近接配置することができ、その一対のサイドギヤ5L,5Rにピニオンギヤ12を噛合させることができる。
これにより、上記トルク伝達装置1においては、差動機能及びデフロック機能を確保しつつ、一対のサイドギヤ5L,5Rの並設方向(
図1中、左右方向)においてコンパクト化を図ることができる。
【0038】
また、平歯車としての一対のサイドギヤ5L,5Rに平歯車としてのピニオンギヤ12が跨るようにして噛合された状態の下で、ピニオンギヤ12を自転させるか否かにより差動機能とデフロック機能との切換が行われることになり、ギヤの噛合、噛合解除の切換動作は必要でなくなる。このため、差動機能とデフロック機能との切換実行にクラッチ機構を用いる場合とは異なり、当該トルク伝達装置1における作動の信頼性を高いものにできる。
【0039】
図4は、第2実施形態を示している。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図4に示す第2実施形態は、一対のサイドギヤ5L,5Rとして、内周面に歯が設けられる円筒歯車が用いられている場合を示している。
具体的には、各サイドギヤ5L,5Rをなす円筒歯車は、
図4に示すように、その軸線方向長さが比較的短くされた有底円筒状をなしており、その各開口側内周面に歯5La,5Raがそれぞれ設けられている。この両サイドギヤ5L,5Rは、その開口側が互いに対向しつつ近づいた状態をもって配置され、その両底部側は、開口側同士の場合よりも離間するように配置されている。この各底部の径方向中央部と左右の各後輪3L,3Rとは、左右の各車軸4L,4Rを介してそれぞれ連結されており、各サイドギヤ5L,5Rの回転は、左右の各後輪3L,3Rに伝達されることになっている。符号30は、車軸4L(4R)中に介在される継手を示す。
この両サイドギヤ5L,5Rにおける歯5La,5Raも、歯数だけが異なり(具体的には、一対のサイドギヤ5L,5Rのうちの一方のサイドギヤ5L(5R)の歯数が他方のサイドギヤ5R(5L)の歯数よりも1歯だけ少ない。)、他のモジュール、径については、同一とされている。
【0041】
支持部材としてのケース6は、
図4に示すように、前記一対のサイドギヤ5L,5R内に、その一対のサイドギヤ5L,5R間を跨ぐように配置されている。このケース6も、伸び形状の中空体として形成されており、そのケース6は、その軸線が一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線上に合致するように配置されている。このケース6の外周面には、開口31が形成されており、ケース6の内部は、開口31を介して外部に対して開放されている。
このケース6の伸び方向内方側外周には、リングギヤ9が取付けられている。リングギヤ9は、その径方向内方側部分が前記一対のサイドギヤ5L,5Rの間を通ってケース6の外周面に連結されており、その径方向外方側部分は、一対のサイドギヤ5L,5Rの径方向外方側に伸びて、その径方向外方側部分における歯部(傘歯車)9aに、前記第1実施形態同様、プロペラシャフト11に連なるピニオンギヤ10が噛合されている。
【0042】
ピニオンギヤ12は、
図4に示すように、ケース6内に収納されている。このピニオンギヤ12にも、外周面に歯12aが設けられた円筒歯車(平歯車)が用いられており、このピニオンギヤ12は、該ピニオンギヤ12の軸線方向を一対のサイドギヤ5L,5Rの軸線方向に向けつつ、支持軸13を介してケース6の左右側壁6aに回転可能に支持されている。このピニオンギヤ12は、ケース6の径方向中央部よりも径方向外方側に配置されて、そのピニオンギヤ12の外周面の一部(歯12a)が、ケース6の開口31を介して外部に露出されており、そのピニオンギヤ12の露出部分(歯12a)は、一対のサイドギヤ5L,5Rに対して跨るように噛合されている。
【0043】
このピニオンギヤ12には、
図4に示すように、モータ15の回転駆動力がリングギヤ18を介して伝達されることになっている。このリングギヤ18にも、内周歯18giと外周歯18goとが設けられており、リングギヤ18の内周歯18giは、一対のサイドギヤ5L,5Rの間を通ってケース6の開口に臨み、ピニオンギヤ12に噛合されている。勿論この場合、この内周歯18giは、一対の各サイドギヤ5L,5Rと同一の諸元のギヤとして設定されている。リングギヤ18の外周歯18goは、一対のサイドギヤ5L,5Rの径方向外方に位置されており、その外周歯18goにはモータ15の出力ギヤ19が噛合されている。
【0044】
これにより、このトルク伝達装置1においても、差動機能、デフロック機能を選択的に実行するに当たって、歯数が異なる一対のサイドギヤ5L,5Rに平歯車としてのピニオンギヤ12を跨るようにして噛合させた下で、ピニオンギヤ12を自転(回転駆動)させるか否かによりその実行を決定することができることから、ケース6の側方(
図1中、右側方又は左側方)に、デフロック機能を確保するべくクラッチ機構(デフロック機構)を構成する必要がなくなる。このため、このトルク伝達装置1においても、差動機能及びデフロック機能を確保しつつ、一対のサイドギヤ5L,5Rの並設方向(
図1中、左右方向)においてコンパクト化を図ることができる。しかも、差動機能とデフロック機能との切換において、ギヤの噛合、噛合解除の切換動作をなくして、当該トルク伝達装置1における作動の信頼性を高いものにできる。
【0045】
以上実施形態について説明したが、本発明にあっては、次の態様を包含する。
(1)トルク伝達装置1を、リヤデファレンシャルとして用いる他に、フロントデファレンシャル、センタデファレンシャル(前輪側と後輪側との間に介在)として用いること。
(2)トルク伝達装置1をセンタデファレンシャルとして用いる場合には、モータ15を制御することにより、旋回時における前側車輪と後側車輪との回転数差を吸収するように調整したり、前側車輪がスリップするような場合には、後側車輪に対するトルクを増大させるように調整すること。
(3)一対のサイドギヤ5L,5R及びピニオンギヤ12に用いられる平歯車に代えて、同じ円筒歯車に属するはすば歯車等を一対のサイドギヤ5L,5R及びピニオンギヤ12に用いること。