特許第6533650号(P6533650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533650
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/26 20060101AFI20190610BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20190610BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20190610BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20190610BHJP
   B01J 37/14 20060101ALI20190610BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   B01J23/26 AZAB
   B01J35/10 301F
   B01J37/02 101C
   B01J37/08
   B01J37/14
   B01D53/86 228
   B01D53/86 275
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-168330(P2014-168330)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-43296(P2016-43296A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】染川 正一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋人
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】緒明 佑哉
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第88/000171(WO,A1)
【文献】 特開2013−063895(JP,A)
【文献】 Xinhong ZHAO et al.,Synthesis, characterization and catalytic application of Cr-SBA-1 mesoporous molecular sieves,Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,2007年,Volume 261,pp. 225-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/73
B01D 53/86−90
B01D 53/94−96
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスと、クロム酸化物量子ドットとを有し、
前記クロム酸化物量子ドットが前記マトリックスの細孔内に保持されており、
ガス状化合物を酸素存在下で酸化処理することを特徴とする熱触媒。
【請求項2】
前記マトリックスが、シリカ、またはゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の熱触媒。
【請求項3】
前記クロム酸化物が、六価のクロム酸化物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱触媒を、酸素存在下で200℃以上の温度に加熱し、ガス状化合物を酸化処理することを特徴とするガス状化合物処理方法。
【請求項5】
300℃以上の温度で酸化処理することを特徴とする請求項4に記載のガス状化合物処理方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱触媒と、前記熱触媒を加熱するヒーターと、前記熱触媒にガス状化合物と酸素を含む気体を送る送風機を備え、前記熱触媒により前記ガス状化合物を酸素存在下で酸化処理することを特徴とするガス状化合物処理装置。
【請求項7】
平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスの前記細孔内に保持されたクロム酸化物量子ドットを、300℃以上で酸素により酸化して六価とすることを特徴とする酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム酸化物量子ドットを活性成分とする触媒、及びこの触媒を利用したガス状化合物処理方法、ガス状化合物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は化学反応を促進させることができ、環境浄化、化学工場などで盛んに利用されている。触媒利用の一例として、塗装工場、印刷工場、化学工場などから排出される揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:以下、VOCという。)や、皮革工場、し尿処理場などから排出されるアンモニア化合物、下水処理場などで発生する硫化水素等のガス状化合物処理がある。これらガス状化合物の多くは、人体や自然環境にとって有害であるため、例えば、白金、パラジウム等を用いた貴金属触媒で酸化処理されている。
【0003】
本発明者らは高価な貴金属触媒の代替材料としてCu、Co、Ce等の酸化物触媒がVOC等の分解に有効であることやその実用化技術を特許文献1〜3で提案した。この触媒は通常の排ガス処理において有効であることが実証試験によって示されている。また、VOC分解触媒としてCr、Ti等が報告されている。これら酸化物触媒は、工場等で排ガスを処理するために用いられているが、高温で触媒活性が発現するため、250〜350℃で使用されている。
酸化物触媒は室温では触媒活性を有さないため、分解前に触媒槽を予備加熱して高温にしなければならないが、この予備加熱には1〜2時間程度かかってしまう。不定期に排ガスが流れてくる場合は、処理すべきガス状化合物を含有する排ガスが流れて来たことをセンサーで察知してから加熱を開始すると、触媒が十分に高温になる前に排ガスが到達してしまうため、昇温中は排ガスを処理できず、未処理のまま放出されてしまう。吸着剤と触媒とを組み合わせて、触媒が活性を発揮する温度になるまでガス状化合物を吸着させておく方法も提案されている。しかし、吸着材に吸着したガス状化合物は高温になると離脱して放出されてしまうため、吸着槽と触媒槽とを分けて2系統とし、加熱した空気が吸着槽に流れ出ないようバルブで切り替える必要があり、装置が大型化、複雑化し、高コストである。
【0004】
特許文献4には、三価のクロム酸化物が、加熱による熱励起で酸化力の強い正孔が生じ、酸化反応に有効であることが示されている。一方、六価のクロム酸化物は不安定な物質であり、有機物と接触するとその有機物を酸化して自身は還元される。また、バルクのクロム酸化物は三価が最も安定であるため、六価のクロム酸化物は250℃程度で分解し始めて最終的には三価のクロム酸化物となる。六価のクロム酸化物は酸化力が強く、室温でも有機物を酸化することが可能であるが、三価のクロム酸化物を六価のクロム酸化物に酸化するには12気圧、460℃という高温高圧下で酸素と接触させる必要がある。
また、特許文献5には、1nm程度の細孔径を有するポーラスシリカを鋳型にして金属酸化物量子ドットを作製する方法が提案されているが、熱触媒への応用については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−094671号公報
【特許文献2】特開2011−224546号公報
【特許文献3】特開2012−200628号公報
【特許文献4】国際公開第2010/061854号
【特許文献5】特開2013−063895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、触媒燃焼式でVOC、アンモニア、硫化水素、一酸化炭素等のガス状化合物の処理を行う際、触媒が熱触媒として活性を発揮する温度に達する前に触媒槽にガス状化合物が入って来ても処理することができる触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスと、クロム酸化物量子ドットとを有し、
前記クロム酸化物量子ドットが、前記マトリックスの細孔内に保持されていることを特徴とする触媒。
2.前記マトリックスが、シリカ、またはゼオライトであることを特徴とする1.に記載の触媒。
3.前記クロム酸化物が、六価のクロム酸化物を含むことを特徴とする1.または2.に記載の触媒。
4.1.〜3.のいずれかに記載の触媒を利用したガス状化合物処理方法。
5.300℃以上の温度で処理することを特徴とする4.に記載のガス状化合物処理方法。
6.1.〜3.のいずれかに記載の触媒を備えることを特徴とするガス状化合物処理装置。
7.平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスと、クロム酸化物量子ドットとを有する触媒の製造方法であって、
前記マトリックスを、クロム前駆体を含有する溶液に含浸させた後に、
大気中で250℃〜700℃の範囲で焼成することを特徴とする、
触媒の製造方法。
8.平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスと、クロム酸化物量子ドットとを有する触媒の製造方法であって、
界面活性剤からなるロッドミセルを鋳型とするゾルーゲル法における加水分解時にクロム前駆体を添加して、クロム前駆体を含有するゾルを作成し、
該ゾルを大気中で250℃〜700℃の範囲で焼成することを特徴とする、
触媒の製造方法。
9.平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスの前記細孔内に保持されたクロム酸化物量子ドットを、300℃以上で酸素により酸化して六価とすることを特徴とする酸化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒は、熱触媒としての触媒活性を発揮する温度以下であっても、クロム酸化物の酸化力によりガス状化合物を酸化処理することができる。そのため、VOC等のガス状化合物を含む排ガス発生と同時に昇温を開始しても、排ガス中のガス状化合物の処理が可能であるため、昇温中に未処理のガス状化合物が外部に放出されない。さらに、予熱工程が不要なため、省エネルギー、低コストである。また、ガス状化合物処理装置を2系統にする必要がないため小型化、低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ガス状化合物処理装置の一例を示す図。
図2】マトリックスであるポーラスシリカの窒素吸着等温線。
図3】実施例1で得られたマトリックスに保持されたクロム酸化物量子ドット(a)、バルクのCr(b)、CrO(c)のX線光電子分光分析のスペクトル。
図4】実施例1で得られた触媒によるエタノール分解処理時のガス濃度を示す図。
図5】実施例1で得られた触媒によるトルエン分解処理時のガス濃度を示す図。
図6】比較例1で得られた触媒によるエタノール分解処理時のガス濃度を示す図。
図7】バルクの三価のクロム酸化物によるエタノール分解処理時のガス濃度を示す図。
図8】実施例1で得られた触媒の417℃(a)、350℃(b)、307℃(c)、およびバルクの三価のクロム酸化物の417℃(d)における酸素吸脱着による重量変化を示す図。
図9】実施例1で得られた触媒の昇温反応法によるエタノールの酸化反応を繰り返し行った際の1回目(run1)と5回目(run5)の二酸化炭素濃度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、金属酸化物量子の基礎研究の結果生み出されたものであり、平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスの細孔内に保持されたクロム酸化物量子ドットの酸化力を利用した新規な触媒に関する。
【0011】
本発明において「量子ドット」とは、平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスの細孔内に保持されたナノオーダーの微粒子を意味する。量子ドットはマトリックスの細孔内に保持されているため、その粒径はマトリックスの細孔より小さい。
また、平均細孔径は、マトリックスに77.4Kの窒素ガスを吸着させて得られる窒素吸着等温線を、HK法、BJH法、NLDFT法、GCMC法等により解析して算出することができる。本発明のマトリックスが有する細孔サイズの算出にはGCMC法(Grand Canonical Monte Carlo method)が適している。
【0012】
上記したように、バルクの六価のクロム酸化物は250℃程度で分解が始まり、最終的には三価のクロム酸化物となる。そして、三価のクロム酸化物を六価のクロム酸化物に酸化するには12気圧、460℃という高エネルギーが必要である。
【0013】
それに対し、クロム酸化物量子ドットは、バルクのクロム酸化物と異なり、六価の状態で安定である。六価のクロム酸化物量子ドットは250℃でも安定して存在し、さらに、三価や五価等のクロム酸化物量子ドットを300℃以上の高温にすると、酸素により六価のクロム酸化物に酸化される。すなわち、クロム酸化物量子ドットは、300℃以上の温度で六価が支配的となる。
クロム酸化物量子ドットが、六価が安定で、バルクと比べて非常に穏やかな条件で六価に酸化される原理は不明であるが、量子ドットとしたときに初めて発現する、これまでに知られていない新規な知見である。
【0014】
本発明の触媒は、平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスとクロム酸化物量子ドットを有し、クロム酸化物量子ドットがマトリックスの細孔内に保持されている。マトリックスの材料としては特に制限されないが、界面活性剤が形成するロッドミセルをテンプレートとする公知のゾル−ゲル法で平均細孔径が0.7〜3nmである細孔を有するマトリックスを容易に製造することができるため、シリカを好適に利用することができる。また、ゼオライトを用いてもよい。平均細孔径は0.8〜2.4nmであることがより好ましく、0.9〜1.8nmであることがさらに好ましい。平均細孔径が0.7nmより小さいと、ガス状化合物の流量が少なくなり、また、クロム酸化物量子ドットの保持量が少なくなるため、触媒活性が低下する。3nmより大きいと、バルクのクロム酸化物の物性が発現し始め、三価のクロム酸化物が支配的となってしまう。
【0015】
マトリックスの細孔内にクロム酸化物量子ドットが保持された触媒を得るには、マトリックスをクロム前駆体を含有する溶液に含浸させた後に大気中で250℃〜700℃の範囲で焼成する、もしくは、ゾル−ゲル法における加水分解時にクロム前駆体を添加して得られるクロム前駆体を含有するゾルを大気中で250℃〜700℃の範囲で焼成する等すればよい。クロム前駆体としては、水に可溶なものであれば特に限定されず用いることができる。また、水和物を形成して水に溶解するものであってもよい。例えば、硝酸クロム、水酸化クロム、酢酸クロム、炭酸クロム、シュウ酸クロム、酒石酸クロム、塩化クロム、クロム酸アンモニウム等を用いることができる。
【0016】
本発明の触媒が処理することのできるガス状化合物としては、酸化処理できる気体状の化合物であれば特に限定されない。例えば、VOC、アンモニア、硫化水素、一酸化炭素等が挙げられる。VOCとしては、例えば、メタン、エタン、プロパンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ナフタレンなどの多環芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸のエステル類、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0017】
本発明の触媒は、室温から約200℃まではクロム酸化物を酸化剤とする酸化反応によりガス状化合物を処理する。このとき、クロム酸化物はガス状化合物を酸化することで還元され、六価から五価、最終的には三価のクロム酸化物量子ドットに還元される。すなわち、クロム酸化物量子ドットを用いたガス状化合物の酸化処理において、ガス状化合物の量が少ないと六価のクロム酸化物は一部が五価に還元されるのみであり、三価まで還元されない。
【0018】
昇温時に、ガス状化合物はクロム酸化物量子ドットにより酸化されるが、最終生成物である二酸化炭素と水にはならず、いわゆる「ヤニ」となり、マトリックスの細孔に吸着する。本発明の触媒は六価のクロム酸化物の色である赤色を呈しているが、室温から約200℃でガス状化合物の処理をおこなうとヤニが吸着して徐々に黒色となる。
【0019】
約200℃以上でクロム酸化物量子ドットは熱触媒として働き始め、約280℃以上で十分な活性を示す。このとき、ガス状化合物は最終生成物である二酸化炭素と水になるまで酸化される。また、昇温工程でヤニが吸着して黒色となった触媒は、熱触媒として働くことでヤニを二酸化炭素と水にまで酸化するため、再び赤色となる。
なお、バルクの三価のクロム酸化物は、250℃程度から触媒活性を発揮し、300℃以上で十分な活性を示す。理由は不明であるが、クロム酸化物量子ドットはバルクの三価のクロム酸化物よりも低温で触媒活性を発揮する。
【0020】
さらに、約300℃以上でクロム酸化物量子ドットは酸素により六価のクロム酸化物量子ドットに酸化される。したがって、300℃以上では、クロム酸化物量子ドットは酸素により酸化されて六価となる酸化反応と、ガス状化合物を酸化して五価となる還元反応が同時に起こっている。酸化反応は高温になるほど早く進行し、高温になるほど六価のクロム酸化物量子ドットが早く再生されるため、本発明の触媒を用いたガス状化合物処理を行う温度は300℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましく、400℃以上が最も好ましい。本発明の触媒を用いたガス状化合物処理を行う温度の上限は、600℃程度である。
【0021】
本発明の触媒は処理すべきガス状化合物が発生してから昇温を開始しても、室温から約200℃まではクロム酸化物量子ドットが酸化剤として働くことにより、ガス状化合物を酸化処理することができる。そして、ガス状化合物が酸化されて生じるヤニは、マトリックスに吸着されるため放出されない。約200℃以上でクロム酸化物量子ドットが熱触媒として働き始め、ガス状化合物、及びマトリックスに吸着されたヤニを二酸化炭素と水に酸化する。触媒活性は280℃近辺で十分に高まり、さらに300℃以上になると、クロム酸化物量子ドットは酸素により酸化されて六価のクロム酸化物量子ドットが再生する。
【0022】
したがって、本発明の触媒は、ガス状化合物が発生してから加熱を開始しても、昇温中に未処理のガス状化合物を外部に放出することなく処理することができる。また、本発明の触媒の活性成分であるクロム酸化物量子ドットは、空気雰囲気下で300℃以上とするだけで六価のクロム酸化物となるため、本発明の触媒は容易に再生可能で繰り返し使用することができる。
【0023】
本発明の触媒はガス状化合物処理装置に好適に利用することができる。本発明のガス状化合物処理装置の一例を図1に示す。なお、ガス状化合物処理装置の構成はこれに限定されるものではない。
ガス状化合物処理装置では、ガス発生源から排出される排ガスが、送風機1によって放出される。排ガスは簡易フィルター2によりほこりやミスト等が除かれた後、触媒槽3に送られ、触媒槽3で本発明の触媒により酸化処理された後に放出される。簡易フィルター2と触媒槽3との間にはセンサー4が設けられており、排ガス中の処理対象物であるガス状化合物の濃度が測定される。センサー4は、温度コントローラ5に接続されている。温度コントローラ5は、センサー4によりガス状化合物が検知されると、触媒槽3を加熱するヒーター6を、所定の温度になるまで加熱する。また、必要に応じて窒素酸化物を窒素に還元する、吸蔵還元型触媒を併用すればよい。
【0024】
本発明の触媒は、処理すべきガス状化合物が発生してから昇温を開始してもガス状化合物を外部に放出することなく処理することができる。処理すべきガス状化合物が発生してから昇温を開始することができ、従来の酸化物触媒で必要であった予熱が不要なため、省エネルギー、低コストである。また、不定期なガス状化合物の発生に臨機応変に対応することができる。本発明の触媒を触媒燃焼式ガス状化合物処理装置に用いると、吸着槽と触媒槽との2系統にする必要がないため、装置を小型化することができ、低コストである。
【0025】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
[実施例1]クロム酸化物量子ドットの合成
界面活性剤のロッドミセルをテンプレートとするゾル−ゲル法によりポーラスシリカを合成した。シリカ源としてテトラメトキシシラン(TMOS)1等量と、カチオン性界面活性剤としてヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド(C6TAB)0.4等量とを、塩酸を用いてpHを2.0に調整した水4等量に分散させ室温で撹拌した。2日間の撹拌でTMOSの加水分解が進行し、均一なゲルが得られた。このゲルを60℃で24時間乾燥後、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去してマトリックスである白色のポーラスシリカを得た。
【0027】
ポーラスシリカを150℃で2時間、真空乾燥し、細孔内部に吸着した水を取り除いて試料とした。ガス/蒸気吸着量測定装置(日本ベル株式会社製、装置名:BELSORP−max)を用いた77.4Kの窒素ガス吸着によりポーラスシリカの窒素吸着等温線を測定した。図2に窒素吸着等温線を示す。I型の吸脱着特性を示し、マイクロポーラス構造であることが確認された。日本ベル株式会社の解析ソフト「BELMaster」を用いてBET法により比表面積を、「BELMaster」に搭載されている細孔分布解析ソフト「BELSim」を用いてGCMC法(細孔モデル:シリンダー、吸着剤表面:酸素、分布関数:Gauss、ピーク数:1)により平均細孔径を算出した。比表面積は603m/g、平均細孔径は1.2nmであった。
【0028】
ポーラスシリカを真空中に5時間静置した後、2Mの硝酸クロム水溶液に浸漬した。浸漬後、表面を洗浄し、大気雰囲気下600℃で3時間焼成してマトリックス細孔内にクロム酸化物量子ドットが保持された触媒を得た。触媒の色は赤色であった。
【0029】
図3(a)にマトリックスに保持されたクロム酸化物量子ドット、図3(b)にバルクの三価のクロム酸化物、図3(c)にバルクの六価のクロム酸化物のX線光電子分光分析(アルバック・ファイ株式会社製、装置名:PHI QuanteraII)のスペクトルを示す。クロム酸化物量子ドットのピークは、バルクの六価のクロム酸化物と一致しており、クロム酸化物量子ドットが六価であることが確認できた。
【0030】
[比較例1]セリウム酸化物量子ドットの合成
ポーラスシリカ作製後に、3Mの硝酸セリウム水溶液に浸漬した以外は、実施例1と同様にして、セリウム酸化物量子ドットが保持された触媒を得た。触媒の色は黄色であった。
【0031】
「触媒活性評価」
量子ドットの活性評価は昇温反応法にて行った。具体的には、触媒0.25gを収納した直径3mmホウケイ酸ガラス製の反応管に、エタノールを約600ppm、またはトルエンを約200ppmの濃度で含む乾燥空気混合ガスを毎分100ml送り込み、反応管内の触媒と混合ガスを接触させ、反応管を通過したガス成分をマイクロガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製、装置名:Agilent 3000マイクロGC)にて分析した。反応管の周囲には、反応管を加熱するヒーターを設置し、毎分5℃の速度で昇温した。エタノール、トルエンは分解されると二酸化炭素と水になるため、マイクロガスクロマトグラフィーでは、エタノール、またはトルエン濃度と、CO濃度を連続的に測定した。
実施例1で得られたクロム酸化物量子ドットを活性成分とする触媒によるエタノール分解処理時のガス濃度を図4、トルエン分解処理時のガス濃度を図5に示す。また、比較例1で得られたセリウム酸化物量子ドットを活性成分とする触媒によるエタノール分解処理時のガス濃度を図6に、バルクの三価のクロム酸化物によるエタノール分解処理時のガス濃度を図7に示す。
【0032】
実施例1で得られた触媒は、室温から420℃まで、エタノール、トルエンともほとんど検出されなかった。
室温から約200℃までは、六価のクロム酸化物量子ドットの酸化力によってエタノール、またはトルエンは酸化処理される。エタノール、またはトルエンが酸化されてヤニが生じるが、ヤニはマトリックス細孔内に吸着する。これは、酸化反応が進むに従い、赤色の触媒が黒色となることからも裏付けられる。そのため、室温から200℃近辺までは、エタノール、トルエン、COのいずれも検出されない。200℃以上の温度でCOが検出され始めるが、これは、六価のクロム酸化物が通常の熱触媒として機能し始めたためである。
【0033】
エタノール、トルエンともに350℃付近にCO濃度のピークが見られるが、これは、エタノール、トルエンの単位時間あたり投入量の全量が分解されたときのCO濃度(エタノールで約1200ppm、トルエンで約1500ppm)よりもはるかに高い。そのため、このピークは、六価のクロム酸化物により酸化されて細孔内に蓄えられていたヤニが、熱触媒として作用し始めたクロム酸化物量子ドットにより一気に酸化されて生じたものであると推測される。
【0034】
セリウム酸化物は、熱により触媒作用が生じる。また、ポーラスシリカは吸着作用を有する。比較例1で得られた触媒は、測定開始からしばらくはポーラスシリカがエタノールを吸着するため、エタノールは検出されない。しかし、温度が上がるにつれて、吸着物は離脱しやすくなるため、100℃付近からポーラスシリカから放出されたエタノールが検出されている。温度が200℃を超えるとセリウム酸化物の触媒作用によりエタノールが酸化処理されるため、エタノールが減少するとともに、分解生成物であるCOが増加し、最終的に全てCOに酸化されて、エタノールは検出されなくなる。セリウム酸化物では、昇温開始から昇温が完了する約320℃まで、エタノールが検出されており、昇温過程でエタノールが漏れ出てしまっている。
また、バルクの三価のクロム酸化物は、250℃程度から触媒活性を発揮し、300℃以上で十分な活性を示すことが確かめられた。
【0035】
「酸素吸脱着測定」
実施例1で得られた触媒の温度による酸素吸脱着能を、TG−DTA(熱重量・示唆熱)測定装置(株式会社島津製作所製、装置名:DTG−60H)を用いて測定した。
雰囲気ガスとして、乾燥空気と、約600ppmのエタノールを含む乾燥空気の二種類を交互に流し、その際の重量変化を測定した。実施例1で得られた触媒(80mg)の417℃、(a)350℃(b)、307℃(c)、及びバルクの三価のクロム酸化物(50mg)の417℃(d)における酸素吸脱着による重量変化を図8に示す。
【0036】
実施例1で得られた触媒は、エタノール存在下で重量減少し、乾燥空気下で重量増加した。これは、クロム酸化物量子ドットがエタノール存在下で酸素を放出し、乾燥空気下で酸素を取り込んでいることを示す。また、高温ほど重量変化が小さくなっており、高温ほど酸素を取り込む能力が高いことを示している。307℃でも重量増加しているものの、その増加量は僅かであった。
バルクの三価のクロム酸化物は重量変化しなかった。バルクでは三価のクロム酸化物は417℃でも酸素を取り込まないことが確認できた。
【0037】
「反復性試験」
実施例1で得られた触媒を、上記「触媒活性評価」試験と同様の条件でエタノールを含む混合ガスを流して昇温(室温→450℃、毎分5℃)、乾燥空気のみを流して降温(450℃→室温)を繰り返し行った。昇温過程におけるエタノール分解処理の1回目(run1)と5回目(run5)の二酸化炭素濃度を図9に示す。
1回目と5回目とで、全く同じ挙動を示しており、本発明の触媒が昇降温を繰り返しても触媒活性が低下しないことが確かめられた。
【符号の説明】
【0038】
1.送風機
2.簡易フィルター
3.触媒槽
4.センサー
5.温度コントローラ
6.ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9