(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533711
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】ギヤドモータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/16 20060101AFI20190610BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20190610BHJP
F16H 1/20 20060101ALI20190610BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20190610BHJP
G02B 7/08 20060101ALI20190610BHJP
F16H 35/10 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
F16H1/16
H02K7/116
F16H1/20
F16H55/17 A
G02B7/08 B
G02B7/08 Z
F16H35/10 D
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-148557(P2015-148557)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-26122(P2017-26122A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横塚 力
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−032245(JP,U)
【文献】
特開2004−109392(JP,A)
【文献】
特開2002−310241(JP,A)
【文献】
特開2014−117039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/16
F16H 1/20
F16H 35/10
F16H 55/17
G02B 7/08
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの出力軸に装着されたウォームギヤと、
前記ウォームギヤに噛み合い前記出力軸と直交する軸に回転自在に軸支されたハスバギヤと、
前記ハスバギヤと同軸且つ一体に回転する伝動ギヤとを備え、
前記ハスバギヤは、前記伝動ギヤの回転軸に直接係合されて前記伝動ギヤの回転軸方向に沿って移動自在に支持され、前記ハスバギヤと前記伝動ギヤの前記回転軸に沿った間には、前記ハスバギヤの前記伝動ギヤ側に向かう移動に対して弾性反発する弾性部材が配備されていることを特徴とするギヤドモータ。
【請求項2】
前記弾性部材は、圧縮バネであり、前記ハスバギヤの内部に前記圧縮バネを収容する収容部を設けたことを特徴とする請求項1記載のギヤドモータ。
【請求項3】
前記ハスバギヤが前記ウォームギヤと噛み合う側で前記ウォームギヤの基端側に向けて回転するように、前記ウォームギヤと前記ハスバギヤの歯面が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のギヤドモータ。
【請求項4】
前記ハスバギヤと噛み合っている前記ウォームギヤの歯面が前記伝動ギヤ側へ向いていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のギヤドモータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたギヤドモータを備えたカメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転を歯車伝動機構を介して出力するギヤドモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種装置(或いは機器)の電動機構には、モータの回転出力を歯車伝動機構により減速して出力するギヤドモータが用いられている。ギヤドモータには、モータの出力軸にウォームギヤを取り付け、ウォームギヤにハスバギヤを噛み合わせてモータの出力を伝動するものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−352136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術のように、モータの出力軸にウォームギヤを取り付け、ウォームギヤにハスバギヤを噛み合わせてモータの出力を伝動するギヤドモータは、ウォームギヤとハスバギヤの噛み合わせで大きな減速比を得ることができ、モータの出力を取り出す初段の減速機構で静穏性の高い安定した動力伝達が可能になる。
【0005】
しかしながら、モータの出力軸に直接ウォームギヤを取り付けてハスバギヤに噛み合わせると、動力伝達によってモータの出力軸にスラスト荷重が加わることになり、回転方向によっては、出力軸をモータの軸受から引き出す方向にスラスト荷重が加わることになって、出力軸の端部を支持するエンドプレート側の軸受で支持が不安定になり、出力軸の先端が触れ易くなる問題が生じる。
【0006】
このため、モータの回転駆動時にギヤ出力側に過負荷が加わってハスバギヤがロックされた状態になると、モータの出力軸に引き出し方向のスラスト力が加わって出力軸の先端に振れが生じることで、出力軸に装着されたウォームギヤがハスバギヤの傾斜を乗り上げた状態になり、歯飛びが生じてしまう問題が生じる。歯飛びが生じると、過負荷が除かれても正常な動力伝達ができなくなるので、ギヤドモータが内蔵された電子機器が正常に動作しない状態に陥ることになる。
【0007】
また、モータの回転駆動時にハスバギヤがロックされた状態になると、ハスバギヤにはモータの出力軸に垂直な軸方向の荷重が加わることになるので、その荷重によってハスバギヤが、他のギヤやギヤを囲むケースなどに強く押し付けられ、これによってウォームギヤ又はハスバギヤに破損が生じる虞がある。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、モータの出力軸にウォームギヤを取り付け、ウォームギヤにハスバギヤを噛み合わせてモータの出力を伝動するギヤドモータにおいて、ギヤの出力側に過負荷が加わってハスバギヤがロックされた状態になっても、歯飛びを回避し、ハスバギヤに加わる荷重を緩和して、ウォームギヤ又はハスバギヤの破損を防止すること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明によるギヤドモータは、以下の構成を具備するものである。
モータと、前記モータの出力軸に装着されたウォームギヤと、前記ウォームギヤに噛み合い前記出力軸と直交する軸に回転自在に軸支されたハスバギヤと、前記ハスバギヤと同軸且つ一体に回転する伝動ギヤとを備え、前記ハスバギヤは、
前記伝動ギヤの回転軸に直接係合されて前記伝動ギヤの回転軸方向に沿って移動自在に支持され、前記ハスバギヤと前記伝動ギヤの
前記回転軸に沿った間には、前記ハスバギヤの前記伝動ギヤ側に向かう移動に対して弾性反発する弾性部材が配備されていることを特徴とするギヤドモータ。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明のギヤドモータは、正常動作時には、弾性部材の反発力でウォームギヤ側歯面にハスバギヤが押されて、ウォームギヤとハスバギヤが適正に噛み合い、ハスバギヤがロックされた場合には、ウォームギヤから受ける荷重が弾性部材の反発力を超えるとハスバギヤが伝動ギヤ側に移動するので、ウォームギヤとハスバギヤ間の歯飛びを回避する。また、弾性部材が緩衝材になるので、ハスバギヤが急にロックされた場合にも、ハスバギヤに加わる荷重を緩和して、ウォームギヤ又はハスバギヤの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るギヤドモータの一例を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るギヤドモータにおけるギヤ列の一例を示す説明図((a)が平面図、(b)が正面図)である。
【
図3】本発明の実施形態に係るギヤドモータの要部(ハスバギヤと伝動ギヤ)を示した説明図(縦断面図)である。
【
図4】本発明の実施形態に係るギヤドモータを備えた電子機器(カメラ)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係るギヤドモータを示している。ギヤドモータ1は、モータ10と、モータ10の出力軸11に装着されたウォームギヤ2と、ウォームギヤ2に噛み合い出力軸11と直交する軸に回転自在に軸支されたハスバギヤ3と、ハスバギヤ3と同軸且つ一体に回転する伝動ギヤ4とを備えている。伝動ギヤ4は、ギア列5の一つのギヤに噛み合っており、ギヤ列5の末端ギヤが出力ギヤになっている。図示の例では、ギア列5は、伝動ギヤ4に噛み合う平歯ギヤ5Aと他の平歯ギヤ5B,5C,5D,5Eによって構成されているが、ギア列5の形態は特にこれに限定されるものではない。
【0013】
モータ10の出力軸11、ウォームギヤ2、ハスバギヤ3、伝動ギヤ4、ギヤ列5は、ケース6に収容されている。図示の例では、ケース6は上ケース6Aと下ケース6Bを複数のビス7Aで結合する構成になっている。モータ10は、ビス7Bによって下ケース6Bに固定される。ケース6内には、出力軸11と直交するように軸部P1,P2,P3,P4が設けられ、軸部P1がハスバギヤ3と伝動ギヤ(平歯ギヤ)4を同軸上に軸支し、軸部P2が平歯ギヤ5A,5Bを同軸上に軸支し、軸部P3が平歯ギヤ5C,5Dを同軸上に軸支し、軸部P4が平歯ギヤ5Eを軸支している。
【0014】
図3に示すように、ウォームギヤ2に噛み合うハスバギヤ3と伝動ギヤ4は、同軸上に係合されており、回転軸4A回りに一体に回転するようになっている。また、ハスバギヤ3は、伝動ギヤ4の回転軸4A方向に沿って移動自在に支持されている。具体的には、ハスバギヤ3の軸孔3Pに対して伝動ギヤ4の軸部4Pが回転軸4Aに沿って摺動自在に嵌合しており、ハスバギヤ3の下端と伝動ギヤ4の軸部4Pとは、カットワッシャ9で抜け止めされている。軸孔3Pと軸部4Pとの間には、回転軸4A方向に沿ったスプライン又はキー溝が形成されており、ハスバギヤ3と伝動ギヤ4とは、このスプライン又はキー溝の係合で回転軸4A回りに一体回転するようになっている。
【0015】
また、ハスバギヤ3と伝動ギヤ4の間には、ハスバギヤ3の伝動ギヤ4側に向かう移動に対して弾性反発する弾性部材8が配備されている。弾性部材8は、回転軸4Aと同軸に配置される圧縮バネによって構成することができる。この弾性部材8によって、伝動ギヤ4は上ケース6Aに常に当接している。
【0016】
ハスバギヤ3の内部には、弾性部材(圧縮バネ)8を収容する収容部3Aが形成されている。収容部3Aは、回転軸4Aに沿った円筒溝であり、その中に配置された弾性部材(圧縮バネ)8は、伝動ギヤ4に対してハスバギヤ3をカットワッシャ9側に付勢している。
【0017】
このようなギヤドモータ1は、正常動作時には、弾性部材8の反発力でウォームギヤ2側(歯面)へハスバギヤ3が押されて、ウォームギヤ2とハスバギヤ3が適正に噛み合い、モータ10の出力軸11の回転を、ウォームギヤ2、ハスバギヤ3、伝動ギヤ4、ギヤ列5へと伝動する。
【0018】
モータ10の出力軸11の回転が右回転であるか左回転あるかに拘わらず、出力軸11に装着されたウォームギヤ2と噛み合うハスバギヤ3が、ウォームギヤ2と噛み合う側でウォームギヤ2の基端側に向けて回転するようにウォームギヤ2とハスバギヤ3の歯面が形成されている場合には、出力軸11には引き出し方向のスラスト荷重が作用することになる。また、ハスバギヤ3と噛み合っているウォームギヤ2の歯面が伝動ギヤ4側へ向いている場合には、出力軸11の回転によってハスバギヤ3は伝動ギヤ4側への荷重を受けることになる。
【0019】
このようなウォームギヤ2とハスバギヤ3との噛み合い状態で、ギヤ列5の出力側に過負荷が加わってハスバギヤ3がロックされた場合には、モータ10の出力軸11の回転によって、ハスバギヤ3はウォームギヤ2から回転軸4Aに沿った荷重を受けることになるが、その荷重が弾性部材8の反発力を超えるとハスバギヤ3が伝動ギヤ4側に移動するので、出力軸11に引き出し方向のスラスト荷重が作用して、出力軸11の先端が触れ易くなったとしても、ハスバギヤ3の斜面をウォームギヤ2が乗り越える事態にはならず、歯飛びを回避することができる。
【0020】
また、ハスバギヤ3が急にロックした場合、出力軸11の回転によってウォームギヤ2からハスバギヤ3に作用する衝撃荷重は、弾性部材8が緩衝材となって衝撃吸収されるので、ハスバギヤ3がウォームギヤ2から大きな荷重を受けることを避けることができ、ハスバギヤ3の破損を未然に防止することができる。
【0021】
伝動ギヤ4は、弾性部材8によって上ケース6Aに常に当接している。このため、ウォームギヤ2の回転方向を切り替えても、伝動ギヤ4は回転軸4A方向へ移動することがない。これにより、出力軸11の回転方向の切り替え時における伝動ギヤ4と上ケース6Aとの衝突音の発生を抑止することができる。
【0022】
弾性部材8の反発力は、ウォームギャ2がハスバギヤ3から受ける、出力軸11が引き出されるときのスラスト荷重より小さく設定されている。これによって、出力軸11が引き出される前にハスバギヤ3が伝動ギヤ4側に移動することになり、出力軸11が引き出されることによる不具合を回避している。
【0023】
以上説明したように、本発明の実施形態は、モータ10の出力軸11に装着したウォームギヤ2にハスバギヤ3を噛み合わせてモータ10の出力を伝動するギヤドモータ1において、ギヤ列5の出力側に過負荷が加わってハスバギヤ3がロックされた場合にも、歯飛びを回避し、ハスバギヤ3に加わる荷重を緩和して、ハスバギヤ3の破損を防止することができるので、電子機器内に内蔵した場合に、過負荷に伴う故障を起こし難く、耐久性が高い電動機構を提供することができる。
【0024】
図4は、本発明の実施形態に係るギヤドモータ1を備えた電子機器の一例であるカメラ100を示している。ギヤドモータ1は、カメラ100内に内蔵され、オードフォーカス機構や各種の電動機構を構成することができる。本発明の実施形態に係るギヤドモータ1を備えるカメラ100は、静穏性が高く、安定した動作を実現する駆動部を備え、更に、故障を起こし難く、高い耐久性を得ることができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1:ギヤドモータ,
10:モータ,11:出力軸,
2:ウォームギヤ,3:ハスバギヤ,3A:収容部,3P:軸孔,
4:伝動ギヤ(平歯ギヤ),4A:回転軸,4P:軸部,
5:ギヤ列,5A〜5E:平歯ギヤ,
6:ケース,6A:上ケース,6B:下ケース,7A,7B:ビス,
8:弾性部材(圧縮バネ),9:カットワッシャ,100:カメラ,
P1〜P4:軸部