特許第6533712号(P6533712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533712
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】引き手
(51)【国際特許分類】
   E05B 1/00 20060101AFI20190610BHJP
   A47B 95/02 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   E05B1/00 311C
   A47B95/02 501A
   A47B95/02 501B
   A47B95/02 501C
   A47B95/02 503C
   A47B95/02 504A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-151505(P2015-151505)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31629(P2017-31629A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】394016874
【氏名又は名称】河淳株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 育也
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−085092(JP,A)
【文献】 実開昭54−032571(JP,U)
【文献】 特公昭39−005148(JP,B1)
【文献】 実開昭54−063724(JP,U)
【文献】 欧州特許出願公開第00554037(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00
A47B 95/02 、 97/00
F25D 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉や引き出し等の固定部に取り付けられる手前に角状に突の引き手本体部と、
該引き手本体部の前方溝に嵌め込みにより固定され、一部が引き手本体部の前面から突出する樹脂製のカバー部材とからなり、
該カバー部材は、該引き手本体部に対応する形状のカバー部材本体部と、該カバー部材本体部の把持部であって且つ該前方溝の溝底側に形成されるクッション部とからなり、
該クッション部は、単孔体が多数横並びで連続する多孔体であり、
該単孔体は、該カバー部材本体部から斜め内側下方に延びる左右帯部と、該左右帯部の先端を連結し反先端側に突の底帯部からなる可撓性薄肉であることを特徴とする引き手。
【請求項2】
該底帯部は、該左右帯部の先端を連結し反先端側にアーチ状に突であることを特徴とする請求項1記載の引き手。
【請求項3】
該単孔体は、扁平形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の引き手。
【請求項4】
該クッション部の多孔体は、1層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の引き手。
【請求項5】
該クッション部は、2個以上、18個以下の単孔体が多数横並びで連続するものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の引き手。
【請求項6】
該カバー部材本体部は、内層と外層の2層構造であり、該外層の樹脂は、該内層の樹脂より柔らかい樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の引き手。
【請求項7】
該引き手本体部は、四角突状の両側端部が取付端面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の引き手。
【請求項8】
該カバー部材の内層の両端は、内側に屈曲して延出する係止部を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の引き手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉や引き出し等の固定部に取り付けて使用する把持部が直線状の引き手であり、他の建具等に繰り返し激突しても、クッション部の損傷がなく、長期間に亘り使用できる引き手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
扉や引き出し等の固定部に取り付けて使用する引き手としては、引き手が固定部に埋没する埋め込み型引き手と、固定部に一対の取付脚と該両取付脚を連結する把手部とからなる突型引き手(例えば、実開昭63−5161号公報)が知られている。
【0003】
この中、突型引き手は、固定部から突出しており、例えば引き手を持って勢いよく引き出すと、勢い余って、例えば近くの壁等の他の固定部を傷つけることがある。特に、近年、高級感を付与するため、引き手本体部が金属製のものが多用されており、この場合、特に他の部材への損傷の問題が顕著となる。また、身体の動きや反応が鈍くなってきているお年寄りには、日常の生活において、引き手との意図しない接触などが起こり、怪我の元となっている。また、このようなことを防止するために、クッション材(カバー部材)などを接着剤などで取り付けることも可能ではあるが、接着剤での接着は、経時変化による接着剤の劣化により、あるいは接触によっても剥がれ易いという問題がある。
【0004】
この問題を解決するものとして、特開2014−152568号公報には、扉や引き出し等の固定部に取り付けられる手前に突状の把手される引き手本体部と、該引き手本体部の前面に嵌め込みにより固定される内層と樹脂製の外層の2層構造のクッション材とからなり、該クッション材の外層が、該引き手本体部の前面から突出している引き手が開示されている。また、特開2015-85092号公報には、扉や引き出し等の固定部に取り付けられる手前に突状の引き手本体部と、 該引き手本体部の前面に嵌め込みにより固定される樹脂製のカバー部材とからなり、該カバー部材の長手方向の中央部に、クッション性を付与する切り欠き部または空洞部を形成し、該カバー部材の一部は、該引き手本体部の前面から突出している引き手が開示されている。特開2014−152568号公報や特開2015-85092号公報の引き手は、いずれも前方に突のアーチ状であり、引き手本体部からはみ出るカバー部材がクッションとなり、上記問題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−5161号公報
【特許文献2】特開2014−152568号公報
【特許文献3】特開2015-85092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、把持部が直線状の手前(前方)に四角突状の引き手は、把持が容易であり好まれている。この引き手は、勢いよく引き出し、例えば近くの壁等の他の固定部に激突すると、引き手の把持部のクッション体の前面全体が壁などに当たる。また、激突する相手部材の形状や位置によっては、把持部のいずれの箇所も作用力を受けることになる。
【0007】
そして、手前(前方)に四角突の引き手に対して、特開2015-85092号公報記載の空洞を適用したものに、前方からの作用力が繰り返し作用すると、空洞部を形成する薄肉部のある一定の箇所において折り曲げ力が繰り返し作用し、その部分に亀裂が入るという問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、引き手に対して前方から強い力が繰り返し作用しても、クッション部を構成する多孔体全体が変形して、一定の箇所に折り曲げ力が集中しない引き手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、該引き手本体部に、クッション性を付与する特定形状の可撓性の多孔体を形成した樹脂製カバー部材を嵌め込めば、引き手に対して前方から力が繰り返し作用しても、多孔体の変形が特定方向にならず、自由変形して、一定の箇所に折り曲げ力が集中しないこと等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、扉や引き出し等の固定部に取り付けられる手前に角状に突の引き手本体部と、該引き手本体部の前方溝に嵌め込みにより固定され、一部が引き手本体部の前面から突出する樹脂製のカバー部材とからなり、該カバー部材は、該引き手本体部に対応する形状のカバー部材本体部と、該カバー部材本体部の把持部であって且つ該前方溝の溝底側に形成されるクッション部とからなり、該クッション部は、単孔体が多数横並びで連続する多孔体であり、該単孔体は、該カバー部材本体部から斜め内側下方に延びる左右帯部と、該左右帯部の先端を連結し反先端側に突の底帯部からなる可撓性薄肉であることを特徴とする引き手を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、該底帯部は、該左右帯部の先端を連結し反先端側にアーチ状に突であることを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、該単孔体は、扁平形状であることを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、該クッション部の多孔体は、1層であることを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、該クッション部は、2個以上、18個以下の単孔体が多数横並びで連続するものであることを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、該カバー部材本体部は、内層と外層の2層構造であり、該外層の樹脂は、該内層の樹脂より柔らかい樹脂であることを特徴とする引き手を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、該引き手本体部は、四角突状の両側端部が取付端面であることを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、該カバー部材の内層の両端は、内側に屈曲して延出する係止部を有することを特徴とする前記引き手を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、引き手に対して前方から力が繰り返し作用しても、単孔体の変形が特定方向にならず、潰れる部分も丸く変形して、一定の箇所に折り曲げ力が集中しない。このため、長期間の使用に際し、クッション部のヘタリや損傷が起きず、長期間安全に使用できる。また、従来と同様に、カバー部材の取り付けが容易で剥がれ難く、他の建具等に激突しても、傷付けることがなく、人が接触しても安全である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施の形態における引き手の斜視図である。
図2図1の引き手の分解斜視図である。
図3図1の引き手の左側面図である。
図4図1の引き手の平面図である。
図5図1の引き手の正面図である。
図6図1の引き手の背面図である。
図7】(A)は図5のX−X線に沿って見た拡大端面図であり、(B)は図5のX−X線に沿って見た拡大端面図である。
図8】引き手本体部の背面図である。
図9】引き手本体部の正面図である。
図10図9のY−Y線に沿って見た断面図である。
図11】カバー部材の平面図である。
図12】引き手本体部にカバー部材を嵌める様子を説明する図である。
図13】引き手の断面図である。
図14】(A)カバー部材の平面図であり、(B)カバー部材のクッション部が潰れた状態を示す図である。
図15】カバー部材の変形例を示す平面図である。
図16図15のZ−Z線に沿って見た端面図、(B)は図15のZ−Z線に沿って見た端面図である。
図17】カバー部材の他の変形例を示す図である。
図18】カバー部材の他の変形例を示す図である。
図19】従来のカバー部材のクッション作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施の形態における引き手を図1図14を参照して説明する。引き手10は、扉や引き出し等の固定部50に螺子40により取り付けられるものである。扉としては、引き扉、上げ扉および回転扉等が挙げられる。この中、回転扉が本発明の効果が顕著に表われる。また、引き出しとしては、手前に引き出すものなど種々の形態のものが挙げられる。
【0021】
引き手10は、手前に突状の引き手本体部1を有する。引き手本体部1は、手前に角状に突であり、扉等の表面に平行で直線状に延びる把持部と、把持部の両端から直角に屈曲して扉等の表面側に延びる両側脚部とからなる。これにより、引き手本体部1と固定部50間に隙間3を形成し、この隙間3に指が入り、引き手本体部1を把手可能としている。引き手本体部1の両側脚部の端部が取付端面15であり、正面視が略長方形状である。
【0022】
引き手本体部1は、金属製のものが本発明の効果を顕著に発揮する。金属としては、特に制限されず、亜鉛ダイキャスト、真鍮およびステンレス等またはこれらの表面仕上げ物が挙げられる。なお、金属には、例えばプラスチックなどの表面にクロムメッキされたメッキものも含まれる。引き手本体部1を金属製とすることで、使い勝手がよくなり、安定して長期間使用可能となる。
【0023】
引き手本体部1の前面には、くり抜き状の溝14が形成されている。すなわち、くり抜き状の溝14は、一方の端部から他方の端部にかけて所定の幅w、所定深さhの平面視が角状の溝である(図9及び図10)。従って、くり抜き状の溝14を形成する上下両部は、引き手本体部1の上下部を形成する上壁部11a、下壁部11bとなっている。また、くり抜き状の溝14の両脚部には、螺子孔12が形成されている。螺子孔12を有する螺子孔部の下端142は脚部の下端より先端側にあり、これにカバー部材2の係止部221が係止する。これにより、カバー部材2を嵌め込んだ際、カバー部材2の端面は、螺子部の下端142に係止すると共に、引き手本体部1の取付端面15と面一となり、取付けの際、支障となることがない。一方、引き手本体部1の前面が、カバー部材2の一部(前面側)が出っ歯となるため、他の建具等に激突しても、傷付けることがなく、人が接触しても安全である。引き手本体部1の厚みwに対するくり抜き状の溝幅wの比、w/wとしては、概ね、0.5〜0.7、好ましくは、0.6である。
【0024】
また、螺子孔12は、螺子40を固定部50の裏側から前方へ前進させることにより、螺子孔12と螺合し、固定部50と引き手本体部1が固定される。なお、螺子長さは、螺子先端がカバー部材2に接触するか接触しない程度の長さであればよい。
【0025】
引き手10は、引き手本体部1の前面、好ましくは前面の全体に嵌め込みにより固定される樹脂製のカバー部材2を備える。すなわち、引き手本体部1の前面とは、端部を除く、把持部と両側脚部を言う。カバー部材2は、引き手本体部1に対応する形状のカバー部材本体部24と、カバー部材本体部24の把持部であって且つ前方溝の溝底側に形成されるクッション部25を有する。すなわち、カバー部材2は、くり抜き状の溝14に嵌め込まれ、引き手本体部1の前面からカバー部材本体部24の一部が出っ歯として突出することになる。すなわち、固定部50から突出する部分の前端は全て、カバー部材2が表われることになる。これにより、人が接触することで、怪我をすることがない。なお、引き手本体部1の前面から突出するカバー部材2の出っ歯の長さは、2mm程度で十分である。また、カバー部材2のクッション部25の下端は、くり抜き状の溝14の溝底に当接している。これにより、出っ歯部に物体が当たっても、クッション部25が変形してクッション性を発揮する。また、カバー部材2の両脚部である係止部221には螺子が通る螺子孔が形成されている。
【0026】
クッション部25は、単孔体26が多数横並びで連続する多孔体であり、単孔体26は、カバー部材本体部24から斜め内側下方に延びる左右帯部261、261と、左右帯部261、261の先端を連結し反先端側にアーチ状に突の底帯部262からなる可撓性薄肉である。すなわち、単孔体26の平面視形状は、略W字形状であり、W字の中央の逆さV字が、略逆さU字となったものである。略逆さU字の「略」としたのは、U字形状より高さが低いからである。すなわち、中央のアーチの高さは概ね1mm前後でよい。すなわち、単孔体26の「孔」は貫通孔であり、単孔体26は扁平形状とするのが好ましい。また、クッション部25の多孔体は1層であればよく、更に、クッション部25は、2個以上、18個以下の単孔体が多数横並びで連続するものが好ましい。すなわち、多孔体は、扁平状の貫通孔が横並びで連続するものである。これにより、強度を保持しつつクッション性を高めることができる。クッション部25は後述の軟質樹脂とすることが好ましい。また、左右帯部261、261及び底帯部262の帯幅は、カバー部材本体部24の幅と同じであり、くり抜き状の溝14の溝幅とほとんど同じである。また、左右帯部261、261及び底帯部262の厚み(薄肉)は、1mm前後でよい。可撓性とは、カバー部材本体部24とクッション部25を指で摘んだ際、クッション部25が変形するようなものを言う。
【0027】
クッション部25のクッション作用を図14を参照して説明する。図14(A)は外力が作用する前のカバー部材であり、(B)は外力が作用しクッション部25が潰れた後のカバー部材である。引き手10において、カバー部材本体部24の把持部の出っ歯に一様に外力Pが作用すると、クッション部25はカバー部材本体部24と引き手本体部1の溝底の双方から押されて、図14の(B)のように変形する。この際、クッション部25の単孔体26は、左右帯部261、261が、カバー部材本体部24から下方斜め内側に延びているため、外力Pがカバー部材2に対して直角又は斜め方向に作用しても、単孔体26形状が潰れるように変形する。すなわち、左右帯部261、261が、更に内側に撓んで、底帯部262をカバー部材2側に押し上げる。元々、底帯部262はカバー部材2側に突であり、外力に対して必ず先端側(図14中、上方側)に変形する。そして、更に強く押し込まれると、底帯部262は、カバー部材2の裏面に当接する。この際、単孔体26は、溝底面の2箇所で接する接地点263、264及びカバー部材2の裏面で接する接地点265は、いずれもその角部が丸み形状となるため、鋭角な折り曲げ箇所が生じない。このように、引き手10に対して前方から力が繰り返し作用しても、単孔体26及びこれの連続体である多孔体25は、一定の箇所に折り曲げ力が集中しないような変形をする。このため、長期間の使用に際し、クッション部のヘタリや損傷が起きず、長期間安全に使用できる。
【0028】
これに対して、例えば、図19に示す従来例のカバー部材のクッション作用について説明する。図19のカバー部材200は、四角形の貫通孔201が長手方向に連続するものである。すなわち、カバー部材200に外力が作用すると、貫通孔201が潰れて変形しクッション性を示す。カバー部材200において、隣接する貫通孔201を区画するのは、カバー部材本体部の長手方向に直交する方向に延びる板状の壁202である。このため、カバー部材200に外力Pが作用すると、板状の壁202は必ず、どちらか一方に倒れるように撓み、貫通孔201は潰れる。この場合、カバー部材200の変形が長手方向に大きく動き、脚部の係止が外れることがある。
【0029】
カバー部材2の樹脂としては、曲げ弾性率が1.8GPa以上、好適には2.0GPa以上であることが、バネ力が強く、十分な嵌合強度が得られる点で好ましい。樹脂としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリアセタール及びナイロンなどが挙げられ、具体例としては、ジュラコン「M90-44」;曲げ弾性率2.6GPa(ポリプラスチックス社製)、ユピタール「F20」;曲げ弾性率2.6GPa(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)、タナジン「TN500」;曲げ弾性率2.5GPa(高安社製)、タナジン「TN710」;曲げ弾性率2.9GPa(高安社製)が挙げられる。
【0030】
カバー部材2は、図11及び図12に示すように、全体が引き手本体部1の形状と類似の形状をしており、両端部が、内側に延びる係止部221となっている。これにより引き手本体部1の係止部142に係止すると共に、螺子40で固定される。また、なお、カバー部材2は、弾性体であり、バネ力に抗して両側を広げることで、両端の係止部221間が広がる。すなわち、引き手本体部1のくり抜き状の溝14にカバー部材2を手で強く押し込むことで、当初の係止部221間距離が広がり、嵌った後は、復元することで、両者は一体化することになる。すなわち、カバー部材2の弾性度は、手の強い力でやっと変形するような弾性である。これにより、嵌合後、容易には外れない。
【0031】
カバー部材本体部24とクッション部材25は、一体成型されたものでも、両者が別部材であって、カバー部材本体部24とクッション部材を接着材又は両面テープで貼付したものであってもよい。この中、カバー部材本体部24とクッション部材25が一体成型されたものが好ましい。
【0032】
次に、引き手10の組み付け方法を図12及び図13を参照して説明する。なお、図12及び図13においては、引き手本体部1とカバー部材2の係合状態を判り易くするため、引き手本体部1は図10に示すような断面で示した。先ず、引き手本体部1の前側から一対の係止部221側を引き手本体部1側に向けたカバー部材2を、くり抜き状の溝14に嵌め込む。この際、一対の係止部221間の距離は、くり抜き状の溝14の最大長さより小であるため、カバー部材2を、くり抜き状の溝14に嵌め込み途中では、図13のように、一対の係止部221の先端が、くり抜き状の溝14の両端近傍の溝底面141に当接することになる。この状態から、カバー部材2をバネ力に抗して、引き手本体部1側へ強く、押しつけて嵌合させる。これにより、当初の係止部221間距離が広がり、カバー部材2がくり抜き状の溝14に嵌った後は、復元することで、両者は強く嵌合し一体化することになる(図13)。また、カバー部材2のクッション部25の下端は、くり抜き状の溝14の溝底に当接している。これにより、出っ歯のカバー部本体部24に物体が当たっても、クッション部25が変形してクッション性を発揮する。
【0033】
カバー部本体部24は、図15に示すように、内層22と樹脂製の外層21の2層構造のものであってもよい。2層構造における内層22及び外層21の嵌合形態としては、例えば、図16に示すような形態が挙げられる。すなわち、内層22は、基部223と基部223の中央から上方に茸状に突出する突起部224からなり、外層21は、内層22の突起部224の形状がくり抜かれた凹状となっている。これにより、内層22と外層21の嵌合強度が向上する。
【0034】
カバー部材2bは、内層22が硬質樹脂又は金属、外層21が硬質樹脂より柔らかい樹脂(以下、「軟質樹脂」とも言う。)が好ましく、特に好ましくは、内層22が硬質樹脂、外層21が軟質樹脂である。これにより、固定側で強く嵌めることができ、突出する側でクッション性が高まることになる。また、クッション部25は、把持部における内層の内側に形成されるが、外層21と連続した一体物であってもよい。クッション部25は軟質樹脂が使用されるからである。硬質樹脂としては、上記カバー部材2の樹脂と同様のものが使用できる。また、軟質樹脂としては、シリコーン樹脂(SI)、ポリウレタン樹脂(PUR)、塩化ビニル樹脂(PVC)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、EEA樹脂(EEA)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性エラストマー(TPE)が挙げられる。軟質樹脂の硬度は、ショア硬度で40〜90、好ましくは50〜80である。硬質樹脂22と軟質樹脂21の接着は、樹脂同士の成型により一体化することができる。硬質樹脂としてABS樹脂を、軟質樹脂として軟質エラストマーを使用すれば、樹脂同士の成型による接着性が向上する点で好ましい。内層22の厚みは硬質樹脂を使用するため、外層21より薄くできる。すなわち、内層22の厚みは、外層21の1/6〜1/2であればよい。
【0035】
カバー部材2bは、カバー部材2と同様に、全体が引き手本体部1の形状と類似の形状をしており、両端部が、内側に延びる係止部221となっている(図15)。そして、内層である硬質樹脂は、把持部から屈曲して脚部の途中まで延びて係止爪219となっている。これにより引き手本体部1の先端側の係止部143に強く係止することができる。一方、軟質樹脂21は、硬質樹脂22の外周に積層されている。これにより、硬質樹脂22と軟質樹脂21の端面は面一となり、外側は軟質樹脂となる。なお、カバー部材2bは、カバー部材2と同様の取り付けの作用効果を奏する(図15)。
【0036】
本発明において、クッション部25は種々の変形を採ることができる。すなわち、単孔体を構成する左右帯部は、図13に示すような斜め直線状に延びるものに限定されず、図17に示すような円弧状であってもよい。また、単孔体を構成する底帯部は、図13に示すような反先端側にアーチ状に突に限定されず、図18に示すように、反先端側に逆さV字状に突であってもよい。また、単孔体を構成する左右帯部は、図13に示すように、カバー部材本体部から直接、延びるようなものに限定されず、カバー部材本体部から先端側に僅かに(1mm以内)垂下する部材を介するものであってもよい。この場合、左右帯部は垂下部材の先端から斜め方向に延びることになる。このような形態は、図15において、2層を構成する内層22が無い場合の単孔体と同じ形状となる。また、引き手本体部1の前面から突出するのは、外層の一部に限らず、外層の全部が突出していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の引き手10によれば、例えば回転扉の引き手を手前に引いた際、勢い余って、隣接の他の建て具に衝突したとしても、引き手10のカバー部材2が当たるため、衝突を緩和する作用により、他の建て具を傷つけることがない。また、お年寄りの手や足に引き手10が触れたとしても、カバー部材が当たるため、お年寄りを傷つけることがない。また、引き手に対して前方から力が繰り返し作用しても、単孔体の変形が特定方向にならず、潰れる部分も丸く変形して、一定の箇所に折り曲げ力が集中しない。このため、長期間の使用に際し、クッション部のヘタリや損傷が起きず、長期間安全に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 引き手本体部
2、2a〜2d カバー部材
3 指が入る隙間
10 引き手
11a 上壁部
11b 下壁部
14 くり抜き状の溝
15 取付端面
24 カバー部材本体部
25 クッション部
50 固定部
図1
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