(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施の形態に係るギヤドモータについて図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るギヤドモータは、
図1に示すように、モータ2とモータ2に連結された減速装置1とを備える。このギヤドモータは、減速装置1によりモータ2で発生したトルクを変換して外部へ伝達するものである。
【0024】
モータ2は、コアードモータ等から構成される。モータ2は、回転子(図示せず)と、回転子の回転軸J1に沿う形で回転子に固定されたシャフト22と、回転子を外側から包囲する固定子(図示せず)と、シャフト22を支持する軸受(図示せず)と、モータケース21と、を備える。回転子は、鉄心(図示せず)と、鉄心の一部に巻回されたコイル(図示せず)とから構成される。固定子は、永久磁石から構成される。回転子およびシャフト22はコイルに電流が供給されると回転する。
【0025】
モータケース21は、有底円筒状の本体部211と、本体部211におけるその筒軸方向の減速装置1側の一端部から筒軸から離れる方向に張り出したフランジ部212と、を備える。本体部211の内側壁には、固定子が配置されている。フランジ部212における本体部211の筒軸を挟んで対向する位置には、切欠部212aが形成されている。また、モータケース21は、
図3に示すように、フランジ部212から突出した突出部213を有する。この突出部213は、その中心軸がシャフト22の回転軸J1に一致する円柱状の外形を有する。
【0026】
シャフト22は、その一部が本体部211のフランジ部212側からモータケース21の外側に延出している。
【0027】
減速装置1は、太陽歯車11と複数(
図1および
図2では3つ)の遊星歯車14とプラネタリキャリア13と固定内歯車12と可動内歯車16とハウジング17とリングバネ(回転規制部)15とを備える。
【0028】
太陽歯車11は、モータ2のシャフト22におけるモータケース21の外側に延出した部分に取り付けられている。この太陽歯車11の回転軸は、シャフト22の回転軸J1と一致する。以下、適宜回転軸J1を太陽歯車11の回転軸として説明する。
【0029】
3つの遊星歯車14は、
図2に示すように、それぞれ太陽歯車11に噛合している。3つの遊星歯車14は、太陽歯車11の周りに等間隔に配列している。各遊星歯車14は、金属又は樹脂等で形成されている。
【0030】
図1に戻って、プラネタリキャリア13は、モータ2側に配置された第1保持部材131と、第1保持部材131に対してモータ2側とは反対側に配置され第1保持部材131に固定された第2保持部材132と、から構成される。第1保持部材131と第2保持部材132とは、金属又は樹脂等から形成されている。第1保持部材131は、
図1に示すように、円環板状の主部131aと、主部131aの厚さ方向における一面側に突出し主部131aの周方向に等間隔に配設された3つの円柱状の柱部131bと、を有する。主部131aにおける周方向で隣接する柱部131bの間には、
図1に示すように、厚さ方向に貫通する貫通孔131cが形成されている。
【0031】
第2保持部材132は、円環板状の主部132aを有する。また、
図2および
図3に示すように、第2保持部材132は、主部132aの厚さ方向における一面側に突出し主部132aの周方向に等間隔に配設された3つの円柱状の軸部132bを有する。主部132aにおける周方向で隣接する軸部132bの間には、厚さ方向に貫通する貫通孔132cが形成されている。3つの貫通孔132cそれぞれには、第1保持部材131の柱部131bの先端部が圧入固定されている。3つの軸部132bには、それぞれ遊星歯車14が回転自在に取り付けられた状態でその先端部が第1保持部材131の主部131aに形成された貫通孔131cに圧入固定されている。
【0032】
図1に戻って、固定内歯車12は、略有底円筒状に形成され、内側に配置される3つの遊星歯車14を太陽歯車11の周りに転動自在に保持する。また、固定内歯車12は、固定内歯車12の外周面全体に亘って固定内歯車12の周方向に沿って等間隔に配列する複数の凹部12bを有する。複数の凹部12bは、固定内歯車12の外周面における底壁12a側の端部に設けられている。底壁12aには、モータ2のシャフト22を挿通させるための平面視円形の開口部12cが形成されている。この開口部12cの内径は、モータケース21の突出部213の外径よりも大きくなるように設定されている。また、固定内歯車12は、
図2に示すように、3つの遊星歯車14に噛合し、その中心軸が太陽歯車11の回転軸J1に一致するように配置されている。固定内歯車12は、
図3に示すように、モータケース21の突出部213が底壁12aの開口部12cに嵌合し、プラネタリキャリア13とモータケース21のフランジ部212との間に底壁12aが介在する形でハウジング17内に配置される。固定内歯車12は、リングバネ15が存在しなければ太陽歯車11の回転軸J1周りに回転可能となっている。
【0033】
可動内歯車16は、3つの遊星歯車14に噛合し、その中心軸が太陽歯車11の回転軸J1に一致するように配置されている。可動内歯車16には、
図3に示すように、可動内歯車16に発生するトルクを外部へ伝達するための出力部162が連続一体に設けられている。図示の例では、出力部162がダブルDカットに加工されているが、歯車であってもよい。この可動内歯車16の歯数は、固定内歯車12の歯数と相違している。この可動内歯車16と固定内歯車12との歯数差により、減速装置1の減速比が決定される。
【0034】
図1に戻って、ハウジング17は、有底円筒状の本体部171と、本体部171の筒軸方向における底壁171a側とは反対側の周縁部の本体部171の筒軸を挟んで対向する2箇所から本体部171の筒軸方向に沿って延出した2つの延出部172と、を有する。ハウジング17は、延出部172がモータケース21のフランジ部212に形成された切欠部212aに嵌合した状態でモータケース21に固定されている。また、本体部171の側壁において筒軸周りに等間隔に並ぶ3箇所には、本体部171の内側に向かって突出した突起部171cが設けられている。本体部171の底壁171aには、
図3に示すように、可動内歯車16に設けられた出力部162が挿通される開口部171bが形成されている。
【0035】
図1に戻って、リングバネ15は、固定内歯車12の凹部12bに係合する係合部151aと、固定内歯車12の径方向において固定内歯車12の中心軸に向かう方向へ係合部151aを付勢する円筒状の付勢部151と、を有する。また、リングバネ15は、ハウジング17の内側に固定される円筒状の固定部152と、付勢部151と固定部152とを接続する接続部153と、を有する。固定部152は、その外径が付勢部151の外径に比べて大きくその内径も付勢部151の内径に比べて大きい。また、付勢部151の側壁において付勢部151の筒軸周りに等間隔に並ぶ3箇所には、付勢部151の内側に向かって突出した係合部151aが設けられている。固定部152の側壁の接続部153側とは反対側の端縁において固定部152の筒軸周りに等間隔に並ぶ3箇所には、切欠部152aが形成されている。
【0036】
リングバネ15はハウジング17に収納され、固定部152の外側壁がハウジング17の本体部171の内側壁に当接し、
図3の破線で囲んだ部分A1で示すように、切欠部152aにハウジング17の本体部171の突起部171cが嵌合した状態でハウジング17内に配置される。また、付勢部151の係合部151aは、リングバネ15の内側に配置された固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bに係合する。この係合部151aは、3つ存在している。3つの係合部151aは、固定内歯車12の外周面における固定内歯車12の周方向において等間隔に並んだ3つの部位に対向して配置されている。係合部151aは、
図3の破線で囲んだ部分A2で示すように固定内歯車12の凹部12bに係合された状態で、固定内歯車12の径方向において固定内歯車12の中心軸に向かう方向へ付勢されている。これにより、固定内歯車12は、その外周面が各係合部151aにより押圧された状態でリングバネ15の内側に保持されている。
【0037】
次に、可動内歯車16に設けられた出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わった場合における減速装置1の動作について説明する。ここでは、出力部162に対して、減速装置1を太陽歯車11の回転軸J1に沿ったモータ2側とは反対側から見たときにおける時計回りに回転させる方向へ外力が加わった場合を例に説明する。
【0038】
出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わると、固定内歯車12に対しても、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向への力が加わる。この固定内歯車12に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値以下の場合、係合部151aが固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bに嵌合された状態が維持され、固定内歯車12の回転軸J1周りの回転が規制される。この固定内歯車12に対して加わる力の大きさについての閾値は、例えば、リングバネ15の各係合部151aにより固定内歯車12の外周面が押圧される力の大きさと凹部12bおよび係合部151aそれぞれの形状とにより決定される。この場合、外力が加わらない状態と同様に、固定内歯車12が固定された状態で、遊星歯車14がシャフト22の周りを転動し、出力部162が、シャフト22が回転する方向と同じ向きに回転する。
【0039】
一方、固定内歯車12に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値を超える場合、
図4に示すように、リングバネ15の係合部151aが回転軸J1から離れる方向に撓み(矢印AR12参照)、リングバネ15の付勢部151におけるリングバネ15の周方向で隣り合う2つの係合部151aの間の部位が回転軸J1に近づく方向に撓む(矢印AR13参照)。そして、各係合部151aが固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bの固定内歯車12の周方向における外縁部に乗り上げることにより、固定内歯車12が太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する(矢印AR11参照)。
【0040】
ここにおいて、モータ2のシャフト22の回転方向と固定内歯車12に対して加わる力の方向とが逆である場合、固定内歯車12に対して加わる力の方向と遊星歯車14の自転方向とが同じになる。これにより、遊星歯車14が自転しつつ固定内歯車12も回転する。一方、モータ2のシャフト22の回転方向と固定内歯車12に対して加わる力の方向とが同じ向きの場合、固定内歯車12に対して加わる力の方向と遊星歯車14の自転方向とが逆になる。これにより、遊星歯車14が自転しない状態で固定内歯車12が回転する。
【0041】
このようにして、出力部162に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ過度の外力が加わった場合、その外力の加わる方向に関わらず、太陽歯車11、遊星歯車14、固定内歯車12および可動内歯車16の噛合部分に作用する力を低減することができる。従って、出力部162に対して過度の外力が加わった場合における太陽歯車11等の破損を抑制できる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係る減速装置1では、ハウジング17に収納されたリングバネ15が、出力部162に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ過度の外力が加わった場合、固定内歯車12を回転軸J1周りに回転させて太陽歯車等の破損を抑制する。これにより、別途トルクリミッタを設ける必要がなく、減速装置1を小型化できる。
【0043】
また、本実施の形態に係る減速装置1では、リングバネ15の付勢部151が固定内歯車12の径方向において固定内歯車12の中心軸に向かう方向へ係合部151aを付勢する。そして、例えば、この付勢部151が係合部151aを付勢する付勢力の大きさと凹部12bおよび係合部151aそれぞれの形状とにより、固定内歯車12に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ加わる力の大きさに対する閾値が定まる。これにより、リングバネ15の付勢部151の剛性を適宜設定することより、出力部162に対して加わる外力の大きさに対する閾値を設定することができる。
【0044】
更に、本実施の形態に係る減速装置1では、3つの係合部151aが固定内歯車12の外周面における固定内歯車12の周方向において等間隔に並んだ3つの部位に対向して配置されている。これにより、固定内歯車12を堅固に保持することができ、例えば固定内歯車12が回転軸J1に対して傾いてしまうことを抑制できる。従って、例えば固定内歯車12が回転軸J1に対して傾くことに起因して固定内歯車12および遊星歯車14に負荷が加わってしまうことを抑制できるので、固定内歯車12および遊星歯車14の破損を抑制できる。
【0045】
また、本実施の形態に係るリングバネ15はハウジング17の内側に固定される固定部152を有し、付勢部151が固定部152に接続部153を介して接続されている。これにより、リングバネ15がハウジング17に対して回転することに起因した減速装置1の動作不良の発生を防止できる。
【0046】
更に、本実施の形態に係るハウジング17は、底壁171aに開口部171bを有し、側壁にハウジング17の内側に突出する突起部171cを有する。また、リングバネ15の固定部152は、円筒状であり側壁における付勢部151側とは反対側の端部に、ハウジング17の突起部171cに嵌合する切欠部152aを有する。そして、リングバネ15は、突起部171cが切欠部152aに嵌合した状態でハウジング17の内側に固定される。これにより、リングバネ15をハウジング17に固定するために別途固定部材を設ける必要がないので、減速装置1の部品点数の削減を図ることができる。
【0047】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るギヤドモータは、
図5に示すように、減速装置2001のハウジング2017の形状が実施の形態1に係るギヤドモータと相違する。また、減速装置2001は、リングバネを備えていない。この減速装置2001では、ハウジング2017と一体に設けられている可撓部(付勢部)2171bが固定内歯車12の太陽歯車11の回転軸J1周りの回転を規制する回転規制部として機能する。なお、
図5において実施の形態1と同様の構成については同一の符号を付している。
【0048】
減速装置2001は、太陽歯車11と複数(
図5および
図6では3つ)の遊星歯車14とプラネタリキャリア13と固定内歯車12と可動内歯車16とハウジング2017と可撓部2171bとを備える。
【0049】
ハウジング2017は、有底円筒状の本体部2171と、本体部2171の筒軸方向における底壁2171a側とは反対側の周縁部の本体部2171の筒軸を挟んで対向する2箇所から本体部2171の筒軸方向に沿って延出した2つの延出部172と、を有する。ハウジング2017は、延出部172がモータケース21のフランジ部212に形成された切欠部212aに嵌合した状態でモータケース21に固定されている。本体部2171の底壁2171aには、
図7に示すように、可動内歯車16に設けられた出力部162が挿通される開口部2171dが形成されている。
【0050】
可撓部2171bは、2つ存在し、各可撓部2171bは、固定内歯車12とハウジング2017との間に位置し、ハウジング2017と一体に設けられている。2つの可撓部2171bは、本体部2171の側壁において筒軸を挟んで対向する2箇所に連続している。各可撓部2171bは、本体部2171の内側に向かって突出した係合部2171cを有する。係合部2171cは、
図7および
図8の破線で囲んだ部分A3に示すように、ハウジング2017の内側に配置された固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bに嵌合する。各係合部2171cは、固定内歯車12の径方向において固定内歯車12の中心軸に向かう方向へ付勢されている。これにより、固定内歯車12は、その外周面が各係合部2171cにより押圧された状態でハウジング2017の内側に保持されている。
【0051】
次に、可動内歯車16に設けられた出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わった場合における減速装置2001の動作について説明する。ここでは、出力部162に対して、減速装置2001を太陽歯車11の回転軸J1に沿ったモータ2側とは反対側から見たときにおける時計回りに回転させる方向へ外力が加わった場合を例に説明する。
【0052】
出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わると、固定内歯車12に対しても、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向への力が加わる。この固定内歯車12に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値以下の場合、係合部2171cが固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bに嵌合された状態が維持され、固定内歯車12の回転軸J1周りの回転が規制される。この固定内歯車12に対して加わる力の大きさについての閾値は、可撓部2171bの各係合部2171cにより固定内歯車12の外周面が押圧される力の大きさと凹部12bおよび係合部2171cの形状とにより決定される。
【0053】
一方、固定内歯車12に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値を超える場合、
図9に示すように、可撓部2171bの係合部2171cが回転軸J1から離れる方向に撓む(矢印AR22参照)。そして、各係合部2171cが固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bの固定内歯車12の周方向における外縁部に乗り上げることにより、固定内歯車12が太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する(矢印AR21参照)。これにより、実施の形態1と同様に、出力部162に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ過度の外力が加わった場合に太陽歯車11、遊星歯車14、固定内歯車12および可動内歯車16の噛合部分に作用する力を低減することができる。従って、出力部162に対して過度の外力が加わった場合における太陽歯車11等の破損を抑制できる。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態に係る減速装置2001では、リングバネを備えない構成としつつ実施の形態1と同様の効果を奏する。従って、部品点数の削減による減速装置2001の軽量化を図ることができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る減速装置2001では、ハウジング2017に設けられた可撓部2171bが固定内歯車12の径方向において固定内歯車12の中心軸に向かう方向へ係合部2171cを付勢する。そして、この可撓部2171bが係合部2171cを付勢する付勢力の大きさと凹部12bおよび係合部2171cそれぞれの形状とにより、固定内歯車12に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ加わる外力の大きさに対する閾値が定まる。この可撓部2171bが係合部2171cを付勢する付勢力の大きさは、可撓部2171bの剛性により決定される。従って、可撓部2171bの剛性が係合部2171cを付勢する付勢力が所望の大きさとなるように、可撓部2171bの材料等を適宜選択することよって、出力部162に対して加わる外力の大きさに対する閾値を適当な大きさに設定することができる。
【0056】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るギヤドモータは、
図10に示すように、減速装置7001の固定内歯車7012およびハウジング7017の形状が実施の形態1に係るギヤドモータと相違する。また、減速装置7001は、実施の形態1で説明したリングバネ15の代わりに、バネ(回転規制部)7015を備えている。この減速装置7001では、固定内歯車7012に固定されたバネ7015が固定内歯車7012の太陽歯車11の回転軸J1周りの回転を規制する回転規制部として機能する。なお、
図10において実施の形態1と同様の構成については同一の符号を付している。
【0057】
減速装置7001は、太陽歯車11と複数(
図10では3つ)の遊星歯車14とプラネタリキャリア13と固定内歯車7012と可動内歯車16とハウジング7017とバネ7015とを備える。
【0058】
ハウジング7017は、有底円筒状の本体部7171と、本体部7171の筒軸方向における底壁7171a側とは反対側の周縁部の本体部7171の筒軸を挟んで対向する2箇所から本体部7171の筒軸方向に沿って延出した2つの延出部7172と、を有する。ハウジング7017は、延出部7172がモータケース21のフランジ部212に形成された切欠部212aに嵌合した状態でモータケース21に固定されている。本体部7171の底壁7171aには、
図11に示すように、可動内歯車16に設けられた出力部162が挿通される開口部7171dが形成されている。
【0059】
図10に戻って、固定内歯車7012は、略有底円筒状に形成され、内側に配置される3つの遊星歯車14を太陽歯車11の周りに転動自在に保持する。また、固定内歯車7012は、固定内歯車7012の外周面全体に亘って固定内歯車7012の周方向に沿って等間隔に配列する複数(
図10では6つ)の突起部7012eを有する。複数の突起部7012eは、固定内歯車7012の外周面における底壁7012a側の端部に設けられている。そして、固定内歯車7012の周方向において隣り合う2つの突起部7012eの間に溝部7012bが形成されている。この溝部7012bは、外周面における後述のバネ7015の突出部7151aに対応する位置に形成され、突出部7151aに係合する。底壁7012aには、モータ2のシャフト22を挿通させるための平面視円形の開口部7012cが形成されている。固定内歯車7012は、樹脂等から形成されている。
【0060】
バネ7015は、円筒状の筒状部7152と、筒状部7152の筒軸方向における一端部から延出し先端部に突出部7151aが設けられた複数(
図10では6つ)の脚片(押圧部)7151と、を有する。筒状部7152は、その筒軸が太陽歯車11の回転軸J1と一致するように配置されている。複数の脚片7151は、筒状部7152の周方向において略等間隔に配置されている。そして、バネ7015は、突出部7151aが固定内歯車7012の溝部7012bに係合した状態で固定内歯車7012に固定されている。また、複数の脚片7151は、筒状部7152の周方向において隣り合う2つの脚片7151が離間した状態で配置されている。
【0061】
バネ7015は、
図12(A)に示すように、通常状態において、各脚片7151の先端部が筒状部7152の筒軸から離れる方向に開いた形状を有する。そして、バネ7015は、
図12(B)に示すように、各脚片7151の先端部が筒状部7152の筒軸に近づく方向に撓んだ状態で、
図13に示すように、ハウジング7017の内側に配置される。ここで、
図11に示すように、各脚片7151は、ハウジング7017の側壁7171bの内面に略面接触した状態でハウジング7017の内側に配置される。
【0062】
また、バネ7015がハウジング7017の内側に配置された状態において、各脚片7151が撓んでいることにより、各脚片7151には、
図12(B)の矢印AR71で示すように、筒状部7152の筒軸から離れる方向への復元力が生じる。これにより、
図11の矢印AR71で示すように、バネ7015の各脚片7151は、その少なくとも一部がハウジング7017の側壁7171bの内面に接触して側壁7171bの内面を外方に向かって押圧する。そして、前述のようにバネ7015が固定内歯車7012に固定されているので、このバネ7015からハウジング7017の側壁7171bへ作用する押圧力により、バネ7015と固定内歯車7012のハウジング7017に対する回転が規制されている。
【0063】
減速装置7001の製造工程において、バネ7015は、まず、筒状部7152の筒軸とハウジング7017の本体部7171の筒軸とが略一致するようにして、ハウジング7017の内側に圧入される。その後、このバネ7015が圧入されたハウジング7017が、固定内歯車7012および可動内歯車16に被せられる。このとき、ハウジング7017の延出部7172が、モータケース21のフランジ部212に形成された切欠部212aに嵌合するとともに、バネ7015の突出部7151aが、固定内歯車7012の溝部7012bに係合する。
【0064】
また、ハウジング7017と固定内歯車7012と可動内歯車16とバネ7015の筒状部7152の周方向で隣り合う2つの脚片7151とにより囲まれた領域A7には、グリス等の潤滑剤(図示せず)が注入されている。そして、バネ7015が固定内歯車7012とともに太陽歯車11の回転軸J1周りに回転した場合、各領域A7に注入された潤滑剤が、バネ7015とハウジング7017の内壁との間に供給される。
【0065】
次に、可動内歯車16に設けられた出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わった場合における減速装置7001の動作について説明する。
【0066】
出力部162に対して、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ外力が加わると、固定内歯車7012に対しても、太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向への力が加わる。この固定内歯車7012に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値以下の場合、バネ7015からハウジング7017の側壁7171bへ作用する押圧力により、固定内歯車7012およびバネ7015の回転軸J1周りの回転が規制される。この固定内歯車7012に対して加わる力の大きさについての閾値は、バネ7015からハウジング7017の側壁7171bへ作用する押圧力の大きさとバネ7015とハウジング7017の内壁との間での摩擦係数の大きさとにより決定される。
【0067】
一方、固定内歯車7012に対して加わる力の大きさが、予め設定された閾値を超える場合、バネ7015の脚片7151がハウジング7017の側壁7171bの内面を摺動し、固定内歯車7012が太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する。また、このとき、ハウジング7017と固定内歯車7012と可動内歯車16と2つの脚片7151とにより囲まれた各領域A7に注入された潤滑剤が、バネ7015とハウジング7017の内壁との間に供給される。このようにして、実施の形態1と同様に、出力部162に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ過度の外力が加わった場合に太陽歯車11、遊星歯車14、固定内歯車7012および可動内歯車16の噛合部分に作用する力を低減することができる。従って、出力部162に対して過度の外力が加わった場合における太陽歯車11等の破損を抑制できる。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態に係る減速装置7001でも実施の形態1と同様に、別途トルクリミッタを設ける必要がなく、減速装置7001を小型化できる。
【0069】
ところで、本実施の形態に係る減速装置7001では、ハウジング7017またはバネ7015に寸法上の製造バラツキが生じる場合がある。例えば、
図14に示すように、ハウジング7017の本体部7171の内径がバネ7015の筒状部7152の外径に比べて大きく形成される場合がある。
【0070】
これに対して、本実施の形態に係る減速装置7001では、バネ7015は通常状態において、各脚片7151の先端部が筒状部7152の筒軸から離れる方向に開いた形状を有する。これにより、バネ7015がハウジング7017の内側に配置された状態において、
図14の破線で囲んだ部分A71に示すように、各脚片7151の一部がハウジング7017の側壁7171bの内面に沿って湾曲する。そして、
図14の破線で囲んだ部分A72に示すように、各脚片7151の一部がハウジング7017の側壁7171bの内面に略面接触した状態となる。そして、バネ7015および固定内歯車7012は、矢印AR72に示すように脚片7151からハウジング7017の側壁7171bに作用する押圧力により、ハウジング7017の内側に固定された状態となる。なお、バネ7015の各脚片7151は、その脚片7151がハウジング7017の側壁7171bを押圧する力で撓む程度の可撓性を有するような長さ、材料および厚さであることが好ましい。
【0071】
このように、減速装置7001では、ハウジング7017またはバネ7015に寸法上の製造バラツキがある程度存在してもバネ7015および固定内歯車7012をハウジング7017の内側に固定することができる。従って、ハウジング7017およびバネ7015に高い製造上の寸法精度が要求されないので、ハウジング7017およびバネ7015の製造が容易になるという利点がある。
【0072】
また、実施の形態1では、固定内歯車12の外周面がリングバネ15の各係合部151aにより押圧された状態で固定内歯車12がリングバネ15の内側に保持されている。従って、固定内歯車12にはリングバネ15から作用する押圧力への耐性が要求される。これに対して、本実施の形態に係る減速装置7001では、バネ7015の突出部7151aが固定内歯車7012の溝部7012bに係合した状態で、バネ7015と固定内歯車7012がハウジング7017の内側に配置される。これにより、固定内歯車7012には、実施の形態1に係る固定内歯車12のようなリングバネ15から作用する押圧力への耐性が要求されないので、その分、固定内歯車7012を形成する材料のバリエーションが増えるという利点がある。
【0073】
更に、本実施の形態に係る減速装置7001では、前述のように、ハウジング7017と固定内歯車7012と可動内歯車16と2つの脚片7151とにより囲まれた各領域A7に潤滑剤が注入されている。そして、バネ7015が固定内歯車7012とともに太陽歯車11の回転軸J1周りに回転した場合、各領域A7に注入された潤滑剤が、バネ7015とハウジング7017の内壁との間に供給される。これにより、バネ7015が固定内歯車7012とともに太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する際のバネ7015とハウジング7017の内壁との間での摩擦に起因したハウジング7017の損耗を抑制することができる。
【0074】
(実施の形態4)
本実施の形態に係るスタンド付きのタブレット型端末は、
図15に示すように、端末本体5010と、端末本体5010にヒンジ部5030を介して連結されたスタンド5020と、スタンド5020に連結された減速装置1およびモータ2と、を備える。このタブレット型端末では、減速装置1およびモータ2の駆動力によりスタンド5020がヒンジ部5030を旋回軸として旋回可能となっている。スタンド5020の端末本体5010に対する傾きを変更することにより端末本体5010の表示画面5010aの傾きを変更できる。
【0075】
本実施の形態に係るタブレット型端末は、実施の形態1で説明した減速装置1およびモータ2を備えることにより、端末本体5010の表示画面5010aの傾きを自動で変更する機能を有しつつ端末本体5010の小型化または薄肉化を図ることができる。
【0076】
(変形例)
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、
図16に示すように、一端がハウジング17の内側面に固定されたコイルバネ3151と、コイルバネ3151の他端に連結され固定内歯車12の凹部12bに係合する係合部3152と、を備える減速装置3001であってもよい。なお、
図16において、実施の形態1と同様の構成については例えば
図2に示す符号と同一の符号を付している。
【0077】
実施の形態1で説明した減速装置1においてリングバネ15の代わりに本変形例に係るコイルバネ3151と係合部3152とを備えた減速装置について説明する。この減速装置3001では、固定内歯車12に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ加わる力の大きさが、予め設定された閾値を超える場合、コイルバネ3151が圧縮され係合部3152が回転軸から離れる方向に押圧される。そして、各係合部3151が固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bの固定内歯車12の周方向における外縁部に乗り上げることにより、固定内歯車12が太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する。
【0078】
本構成によれば、リングバネ15に比べてバネ定数をコントロールし易く軽量化し易い小型のコイルバネ3151と係合部3152とが用いられているので、前述の閾値のバラツキを抑え易く、また減速装置の軽量化を図り易いという利点がある。
【0079】
前述の実施の形態1では、リングバネ15の付勢部151が円筒状である例について説明したが、リングバネ15の付勢部151の形状はこれに限定されない。例えば、
図17に示すように、リングバネ4015の付勢部4151が、可撓部4151bと、可撓部4151bからリングバネ4015の内側に突出した係合部4151cと、を有するものであってもよい。なお、
図17において、実施の形態1と同様の構成については例えば
図1に示す符号と同一の符号を付している。
【0080】
実施の形態1で説明した減速装置1においてリングバネ15の代わりに本変形例に係るリングバネ4015を備えた減速装置について説明する。この減速装置では、固定内歯車12に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ加わる力の大きさが、予め設定された閾値を超える場合、可撓部4151bの係合部4151cが回転軸J1から離れる方向に撓む。そして、各係合部4151cが固定内歯車12の外周面に形成された凹部12bの固定内歯車12の周方向における外縁部に乗り上げることにより、固定内歯車12が太陽歯車11の回転軸J1周りに回転する。このとき、付勢部4151における可撓部4151b以外の部位は撓まない。
【0081】
リングバネ4015の形状は、固定内歯車12に対して太陽歯車11の回転軸J1周りに回転させる方向へ加わる力の大きさに対する閾値が所望の大きさとなるように設計される。実施の形態1に係るリングバネ15の場合、その形状の設計において、付勢部151における係合部151aが設けられた部位が筒軸から離れる方向に撓んだ場合におけるその他の部位の筒軸に向かう方向への撓みの付勢力への影響を考慮する必要がある。
【0082】
これに対して、本構成によれば、リングバネ4015の形状の設計において、可撓部4151bで生ずる付勢力のみを考慮すればよく、付勢部4151における可撓部4151b以外の部位の撓みを考慮する必要がない。従って、リングバネ4015の形状設計が容易になるという利点がある。
【0083】
前述の実施の形態1では、係合部151aが3つ存在する例について説明し、前述の実施の形態2では、係合部2171cが2つ存在する例について説明した。但し、係合部の数は、2つまたは3つに限定されるものではない。例えば係合部が4つ以上存在してもよい。この場合、4つ以上の係合部が、固定内歯車12の外周面における固定内歯車12の周方向において等間隔に並んだ4つ以上の部位に対向して配置されればよい。
【0084】
本構成によれば、実施の形態1に比べて固定内歯車12をより堅固に保持することができる。
【0085】
前述の実施の形態1および実施の形態2では、凹部12bと係合部151a、2171cがそれぞれ複数存在する例について説明したが、例えば凹部、係合部がそれぞれ1つずつ存在する構成であってもよい。
【0086】
前述の実施の形態1および実施の形態2では、固定内歯車12の凹部12bに係合部151a、2171cが係合する例について説明した。但し、これに限らず、例えば実施の形態1の構成において、固定内歯車12の周面が平坦でありリングバネ15が係合部151aを有しておらず、固定内歯車の周面とリングバネの内側面とが面接触している構成であってもよい。この構成では、固定内歯車の周面とリングバネの内側面との間の摩擦力により固定内歯車のリングバネに対する回転が規制される。つまり、固定内歯車とリングバネとが摩擦係合している構成であってもよい。ここで、固定内歯車の周面とリングバネの内側面との間の摩擦係数を高めるために、固定内歯車の周面またはリングバネの内側面に粗面加工処理が施されていてもよい。
【0087】
或いは、実施の形態2の構成において、固定内歯車12の周面が平坦であり可撓部2017bが係合部2171cを有しておらず、固定内歯車の周面と可撓部の内側面とが面接触している構成であってもよい。この構成では、固定内歯車の周面と可撓部の内側面との間の摩擦力により固定内歯車のハウジング2017に対する回転が規制される。つまり、固定内歯車と可撓部とが摩擦係合している構成であってもよい。ここで、固定内歯車の周面と可撓部の内側面との間の摩擦係数を高めるために、固定内歯車の周面または可撓部の内側面に粗面加工処理が施されていてもよい。
【0088】
前述の実施の形態1では、リングバネ15の固定部152が、その側壁における付勢部151側とは反対側の端部に、ハウジング17の突起部171cに嵌合する切欠部152aを有する例について説明した。これに限らず、リングバネの固定部が、その側壁におけるハウジング17の突起部171cに対応する位置に突起部171cに嵌合する貫通孔(図示せず)を有する構成であってもよい。この場合、ハウジング17の突起部171cは、可撓性を有するものとし、リングバネをハウジング17の内側に挿入する際、ハウジング17の外側に撓むようにすればよい。
【0089】
前述の実施の形態1では、リングバネ15がハウジング17に固定される例について説明したが、リングバネ15を固定する部材はハウジング17に限定されるものではない。例えば、リングバネ15がモータケース21の一部に固定されるものであってもよい。
【0090】
前述の実施の形態1から3では、遊星歯車14の個数が3つの場合について説明したが、遊星歯車14の個数は3つに限定されるものではなく、2個以下であってもよい4個以上であってもよい。
【0091】
前述の実施の形態1および実施の形態2では、複数の凹部12bが、固定内歯車12の周方向に沿って等間隔に配列する例について説明したが、複数の凹部12bは必ずしも等間隔に配列されたものに限定されるものではない。
【0092】
前述の実施の形態4では、実施の形態1で説明した減速装置1が組み込まれたタブレット端末の例について説明したが、この減速装置1の代わりに実施の形態2または実施の形態3で説明した減速装置2001、7001を採用してもよい。
【0093】
また、減速装置1は、
図18に示すような、タブレット型端末6000を支持するスタンド6010に組み込まれていてもよい。スタンド6010は、基台部6010aと、基台部6010aに対して回転自在でありタブレット型端末6000を支持する支持部材6010bと、支持部材6010bを回転させるためのモータ2および減速装置1と、を備える。減速装置1は、実施の形態1で説明した減速装置1と同様である。このスタンド6010は、モータ2および減速装置1が支持部材6010bを回転させることによりタブレット型端末6000の表示画面6000aの向きを変更する。
【0094】
本実施の形態に係るスタンド6010は、実施の形態1で説明した減速装置1およびモータ2を備えることにより、その基台部6010aの小型化または薄肉化を図ることができる。
【0095】
また、実施の形態1から3および変形例で説明した減速装置1、2001、3001、7001が組み込まれる電子機器は、タブレット端末やスタンドに限定されるものではなく、例えばカメラ部を回転させる機構が搭載されたスマートフォンであってもよい。この場合、カメラ部の回転機構に減速装置1、2001、3001、7001が組み込まれる。或いは、本体にヒンジ部を介して連結された表示画面カバーを備えるラップトップ型パソコン、ノート型パソコンやスマートフォンであってもよい。この場合、表示画面カバーが、減速装置1、2001、3001、7001およびモータ2により自動で開閉されるようにすればよい。更に、ロボットの駆動機構の一部に組み込まれていてもよい。
【0096】
前述の各実施の形態では、モータ2がコア−ドモータから構成される例について説明したが、モータ2の種類はこれに限定されるものではない。例えばブラシレスモータ、ステッピングモータ等他の種類のモータを採用してもよい。