(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン電池は、充電式電池の市場において優位を占め続けている。手の平サイズの充電式の電話、音楽プレーヤー、および他の多くの機器のほとんどすべての種類において見られるように、正極組成物としてリチウム金属酸化物に頼っている二次電池は、結局は、容量が減少および損失することになる。容量損失は、電池の使用期間にわたって増加するため、電池の再充電をより頻繁にする必要が生じる。
【0002】
正極材料の分解の原因となる良く知られたメカニズムのひとつは、電解質材料と水とが反応してフッ化水素酸を生成することに起因する。例えば、LiPF
6などの電解質は水と反応して、下記反応式に従ってフッ化水素酸を生成する。
2LiPF
6 + 6H
2O → Li
2O + P
2O
5 + 12HF
得られたHFが正極の金属酸化物を攻撃する。例えば、LiMn
2O
4(LiMn
3+Mn
4+O
4とも表される)などのスピネル型材料を正極材料として用いる場合には、このスピネル型材料は、下記反応式に表されるように、HFと反応する。
4H
++ 2LiMn
3+Mn
4+O
4→3λMnO
2+ Mn
2++ 2Li
++ 2H
2O
この反応では時間の経過と共に、水を生成し、それがまた更なるHFを生成するため、この反応は正極材料を完全に分解することになる。反応が進行するにしたがって、マンガンイオンはセパレータを通過し、負極において固体電解質界面(SEI層)の一部となる。マンガンイオンをSEI層に添加することにより、電池の容量の損失の一因となるイオンの流れを阻害することができる。
【0003】
LiAsF
6、およびLiBF
4、およびLiTFSI(リチウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド)を含む他の一般的な電解質もまた、HFを生成する。また、例えばCo、Mn、Ni、Fe、およびVなどの第一遷移金属(他の元素によりドープされる可能性もある)を用いる代替的な正極材料は、HFによる分解を同程度に受けやすい。したがって、電池の性能を不利に低下させることなくHFによる攻撃から正極材料を保護する能力は、商業的に有利となるものである。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態において、本発明は、正極組成物を提供する。正極組成物は、リチウムイオン電池に用いるのに適するリチウム金属酸化物を含む。リチウム金属酸化物は、リチウム金属酸化物の酸による分解を実質的に防止するのに充分な、フッ化リチウム表面処理が施される。
【0005】
別の実施形態において、本発明は、一般式Li
1+xM
yMn
2-x-yO
4(式中、0<x
<0.25、0<y
<0.5、およびMはAl、Cr、Ga、In、およびScからなる群より選択される1以上の3価金属である)を有するリチウム金属酸化物(LMO) スピネル型材料から製造される正極組成物を提供する。あるいは、正極組成物は、層材料Li[Li
(1-2x)/3M
yMn
(2-x)/3Ni
x-y]O
2(式中、0<x<0.5、0<y
<0.25、x>y、およびMはCa、Cu、Mg、およびZnから選択される1以上の金属である)から製造される。正極活性材料として用いられる場合、双方の材料は、リチウム金属酸化物の酸による分解を実質的に防止するのに充分な、フッ化リチウム表面処理が施される。得られる正極活性材料は、所望の容量を保持しながら、多数のサイクルに亘って容量損失(fade)が改善される。
【0006】
さらに、本発明は、正極材料を製造するための方法を提供する。この方法は、リチウム金属酸化物とフッ化リチウム(LiF)粒子とを乾式混合するステップと、得られる乾式混合物をその後、リチウム金属酸化物の表面処理剤としてLiFを活性化させるために(すなわち、LiFが所望の保護を提供するようにリチウム金属酸化物に施されるために)充分な温度および時間で加熱するステップとを含む。
【0007】
また、本発明は、リチウムイオン電池に用いるのに適する正極材料を製造するための方法を提供する。この方法は、一般式Li
1+xM
yMn
2-x-yO
4(式中、0<x
<0.25、0<y
<0.5、およびMはAl、Cr、Ga、In、およびScからなる群より選択される1以上の3価金属である)または一般式Li[Li
(1-2x)/3M
yMn
(2-x)/3Ni
x-y]O
2(式中、0<x<0.5、0<y
<0.25、x>y、およびMはCa、Cu、Mg、およびZnから選択される1以上の金属である)を有する正極活性材料と、フッ化リチウム(LiF)粒子とを乾式混合するステップと、得られる乾式混合物をその後、リチウム金属酸化物の表面処理剤としてLiFを活性化させるために充分な温度および時間で加熱するステップとを含む。乾式混合するステップでは、得られる混合物が約0.25〜約2.5重量%のLiFを有するのに充分な量のLiFを用いる。一般的には、乾式混合するステップは、約10°C〜30°Cの温度で行う。得られる乾式混合材料は、約700°C〜約850°Cの温度に加熱されて、LiFによる表面処理を施された正極活性材料の形態で最終組成物を生成する。得られる正極活性材料を用いることにより、200サイクルの後、少なくとも100mAh/g (ミリアンペアアワー/グラム)、より好ましくは100mAh/g (ミリアンペアアワー/グラム)超の容量を有する正極が提供される。
【0008】
さらにまた、本発明は、正極材料として用いるのに適するリチウムマンガン酸化物化合物を製造するための方法を提供する。この方法は下記のステップを含む。
・一般式Li
1+xM
yMn
2-x-yO
4(式中、0<x
<0.25、0<y
<0.5、およびMはAl、Cr、Ga、In、およびScからなる群より選択される1以上の3価金属である)または一般式Li[Li
(1-2x)/3M
yMn
(2-x)/3Ni
x-y]O
2(式中、0<x<0.5、0<y
<0.25、x>y、およびMはCa、Cu、Mg、およびZnから選択される1以上の金属である)を有する正極活性材料を選択するステップ;
・水中にLiF粒子を含むスラリーを作製するステップ;
・スラリーを約40°C〜60°Cの温度に加熱するステップ;
・選択された正極活性材料をスラリー中に混合するステップ;
・スラリーが均一な分散物になるまで、LiFと正極活性材料とを含むスラリーを撹拌するステップ;
・乾燥工程により、スラリーから水分を取り除くステップ;
・LiFを活性化させるのに充分な時間にわたって約450°C〜850°Cの温度で、得られた固形物を加熱するステップ;
・LiFによる表面処理を施された正極活性材料の形態で最終組成物を得るステップ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1a】
図1aは、フッ化リチウムによる表面処理が施されていないLiMn
2O
4のX線回折スキャンである。
【
図1b】
図1bは、フッ化リチウムによる表面処理が施されているLiMn
2O
4のX線回折スキャンである。
【0010】
【
図2】
図2は、回転か焼炉において850°Cにて滞留時間4〜5時間の条件下で熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLi
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4(ラインC)と、未処理Li
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4(ラインA)、およびLiF非含有であるが850°Cにて滞留時間4〜5時間の条件下で熱処理されたLi
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4(ラインB)とを比較した、60°Cにおけるサイクリング容量についてのグラフである。各データポイントは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで正極の放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電したことを示す。
【0011】
【
図3】
図3は、ボックスオーブンにおいて850°Cにて2回熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインF)と、未処理Li
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインD)、およびLiF処理を施されているが熱処理されていないLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインE)とを比較した、60°Cにおけるサイクリング容量についてのグラフである。各データポイントは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで正極の放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電したことを示す。
【0012】
【
図4】
図4は、ボックスオーブンにおいて850°Cにて熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインH)と、未処理Li
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインD)、およびLiF非含有であるがボックスオーブンにおいて850°Cにて熱処理されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインG)とを比較した、60°Cにおけるサイクリング容量についてのグラフである。各データポイントは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで正極の放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電したことを示す。
【0013】
【
図5】
図5は、未処理Li
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインD)と、LiF非含有であるがボックスオーブンにおいて850°Cにて熱処理されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインG)、LiF非含有であるがボックスオーブンにおいて850°Cにて2回熱処理されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインJ)、ボックスオーブンにおいて850°Cにて熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインH)、およびボックスオーブンにおいて850°Cにて2回熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4(ラインF)とを比較した、60°Cにおけるサイクリング容量についてのグラフである。各データポイントは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで正極の放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電したことを示す。
【0014】
【
図6】
図6は、もともとの正極活性材料の構造を保持し、かつ、正極材料のLiF処理と熱処理とにより正極材料の容量を向上させながら、ドープ金属(Cr)の濃度を減少させる能力を実証するグラフである。各データポイントは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで正極の放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、リチウムイオン電池の正極材料として用いるのに特に適するリチウム金属酸化物組成物を提供する。リチウム金属酸化物(LMO)の粒子には、フッ化リチウム表面処理が施される。フッ化リチウムは電池の活性材料ではないが、LMO粒子の表面上にLiFが存在することにより、金属成分が酸消化から保護されると考えられる。LiFは容量には貢献しないので、好ましい実施形態では、容量に不利な影響を及ぼすことなくLMOを酸消化から保護するのに必要な量のみが用いられることになる。
【0016】
一般的に、LiFによる表面処理は、LMO粒子を完全には封入しないものである。むしろ、理論に拘泥されることを意図するものではないが、本発明者らは、LiFはLMO表面上に曝露されたマンガン部分のうち充分な割合部分を電解質から隔離し、それにより、電解質の反応を妨げることなく、LMOを分解することが知られている酸化反応を制限する、と考えている。重量%で表すと、最終LMO粒子のLiF成分は、ドープ金属を含むLMO材料も併せてLMO/LiF粒子が約0.25重量%〜約2.0重量%である。
【0017】
当業者に知られているように、ドープ金属をLMOに添加することは、正極活性材料構造内のマンガンイオンの一部分を置き換えることにより、充電/放電サイクルの間において正極活性構造を安定化する。よって、ドープ金属の添加は、一般的に、LMO粒子の大きさを変化させない。また、ドープ金属は、通常は、一般的なリチウムイオン電池使用条件下では、正極材料の容量には寄与しない。通常、LMOは、約0.1重量%〜約15重量%のドープ金属を含有し得る。より一般的には、LMOは、約0.5重量%〜約5重量%のドープ金属を含有するものである。したがって、ドープ金属の濃度を減少させることにより、電池容量を増加させ、製造コストを減少させることになる。
【0018】
ベース粒子として使用するのに適するLMOには、一般式:
Li
1+xM
yMn
2-x-yO
4
(式中、0<x
<0.25、0<y
<0.5、およびMはAl、Cr、Ga、In、およびScからなる群より選択される1以上の3価金属である))
を有するスピネル型材料、または一般式:
Li[Li
(1-2x)/3M
yMn
(2-x)/3Ni
x-y]O
2
(式中、0<x<0.5、0<y
<0.25、x>y、およびMはCa、Cu、Mg、およびZnから選択される1以上の金属である)
を有する層状LMO材料が含まれるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。
【0019】
下記の議論について、粒子サイズはすべて、レーザー粒度分析により測定されるメジアン粒径を指す。一般的には、LiFと混合する前に、ドープ金属含有/非含有のLMOは、約10ミクロン以下の粒径を有するものである。より一般的には、LiFと混合する前に、ドープ金属含有/非含有のLMOは、3〜約10ミクロンの粒径を有するものである。LiFによる表面処理を施されたLMO粒子は、立方体結晶構造を有する。このように、LiFによる表面処理によっても、正極活性材料にLiF表面処理剤を添加する方法によっても、LMOの結晶構造は変化しない。また、LiFによる表面処理によっては、その用語が当業者によって使用されているように「層状」であるLMOは形成されない。
図1bに示されているように、表面処理を施されているLMOは、文字P、S、およびTで特定されるX線回折ピークをそれぞれ38.6°、44.84°、および65.46°(2Θ)に有するが、未処理LMOについて
図1aに示されるX線回折スキャンでは、対応するピークを有しない。
【0020】
LiF表面処理を施すのに適する、好ましいLMO正極活性材料組成物には、Li
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4;Li
1.06Mn
1.94O
4;Li
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4;Li
1.05Al
0.12Mn
1.83O
4;Li
1.07Mn
1.93O
4;および
LiNi
0.5Mn
1.5O
4が含まれる。説明されているように、それぞれの化合物は、下記の群、すなわちMg、Al、Cr、Fe、Ni、Co、Ga、In、Sc、In、Cu、またはZnから選択される金属によってドープされ得る。ドープ金属の使用は、放電/再充電サイクルの間において正極活性材料の構造を安定化するのを助ける。ドープ金属は、一般的に、電池の活性材料ではない。したがって、ドープ金属の使用は、全体的な正極材料のグラム当たりの容量を減少させる。LiF表面処理を組み込むことは、ドープ金属の必要性を減らすことになり、それにより、最終正極材料の容量を向上させることになる。一般的に、LiF表面処理を施している正極材料は、LiF表面処理なしの正極材料よりも約50%少ない量のドープ材料しか必要としない。通常、LiF表面処理ありの正極材料は、約0.5重量%〜約2.0重量%のドープ材料を含有するものである。一般的には、正極材料の容量は、105 mAH/g〜120 mAH/gとなる。
【0021】
下記により詳細に説明されるように、LiF表面処理ありのLMOは、リチウムイオン電池における正極材料として使用するのに特に適する。
【0022】
LiFによる表面処理を施されているLMOの製造では、2つの新規の方法のうちの1つが用いられ得る。両方法は、中性塩を都合よく用いることにより、フッ化水素酸に関連する操作上の問題を回避する。好ましい方法では、成分を乾式混合し、その後加熱して、LiF表面処理剤を活性化する。両方法は、下記に詳細に説明される。ベース材料LMOの製造方法は、当業者によく知られており、本明細書においては説明されない。
【0023】
乾式混合方法において、粒径が約3ミクロン〜約10ミクロンである乾燥粉末状のLMOは、粒径が約1ミクロン〜約5ミクロンであるフッ化リチウムと混合される。乾燥LMO粉末に添加されるLiFの量は、混合ユニットに最初に装填されたLMO粉末の重量に対して約0.25 %〜約2.5 %の範囲であり得る。混合ユニットの種類は、本方法にとっては重要ではない。適切な混合ユニットには、ボールミル、振動ミル、およびスコット(Scott)ミル、ならびに任意の他の使い易い乾燥粉末混合ミルが含まれるが、これらに限定されない。混合は、一般的に、均一な混合物が得られるのに充分な期間にわたって継続される。混合プロセスが加熱プロセスの間に実施されることもあり得るが、好ましくは、粉末は、その後の加熱ステップの前に均一に混合される。混合ユニットによって、典型的な混合時間は、材料の量や混合条件に依存する総時間で約15分間〜約2時間の範囲であり得る。当業者であれば、乾燥材料の所望の均一混合物を得るための混合条件を容易に調整することができるものである。
【0024】
混合プロセスの後、乾燥粉末は加熱される。そのように装置を組めば、加熱プロセスは混合ユニット中で行われ得るが、一般的には、乾燥粉末は回転か焼炉に移される。回転か焼炉中では、加熱プロセスは、粉末の混合を継続しながら実施される。一般的には、加熱プロセス中で実施される混合は、凝集を防止し、粒子の均一な分散の維持を助ける。乾燥粉末は、LMOの表面にLiFを付着させるのに充分な温度に加熱される。一般的には、加熱ステップは、LiFを軟化させる(soften)のに十分な温度で実施される。上述したように、LiFは電池の活性材料ではない。よって、LMOに過量のLiFを加えると、得られる正極材料に不利な影響を与えることになる。したがって、混合された粉末の加熱を適切に制御することにより、所望のLiF表面処理を施したLMOが製造されることになる。このようにして、操作条件下において、加熱温度範囲はLiFの融点と同程度になる。したがって、加熱プロセスは、一般的に、840°C〜855°Cで実施される。より一般的には、加熱プロセスは約850°Cで実施される。
【0025】
加熱ステップは、約2〜5時間の時間に亘って実施される。上述したように、加熱ステップは、LMOの表面へのLiFの付着を制限し、かつ、加熱ステップ中における正極活性材料構造からのリチウムの損失を防止するように、制御される。好ましくは、加熱ステップは、酸分解に対して最大限の保護と共に最大限の容量を有する、LiF表面処理を施したLMOの製造を確実にするように制御される。このように、加熱ステップは、湿度、混合された粉末の水分含量、並びに粉末の量などの操作条件によって変化し得る。一般的に、混合された粉末を加熱するステップは、好ましくは、約2〜約4時間の時間に亘って実施される。
【0026】
理論に拘泥されるわけではないが、加熱ステップは、LMOにLiFを結合させると考えられる。結合メカニズムにかかわらず、得られるLiF表面処理は、必要なイオン輸送を実質的に妨げることなく、酸分解(すなわち、酸攻撃)からLMOを保護するのに充分な障壁を提供する。LMOの表面にLiFが存在することにより、HFすなわちF
-とLMOとの反応を防ぎ、それにより、LMOのマンガン成分の損失を防ぐ。理論に拘泥されることを意図するものではないが、本発明者らは、LiFはLMO表面上に曝露されたマンガン部分のうち充分な割合部分を電解質から隔離し、それにより、電解質の反応を妨げることなく、LMOを分解することが知られている酸化反応を制限する、と考えている。したがって、得られるLiF表面処理ありのLMOから製造される正極は、LiF表面処理なしのLMOの実質的にすべての初期容量を保持しながら、複数のサイクルに亘って容量の損失を減少させる。
【0027】
代替的な実施形態において、LiF表面処理を施されたLMOは、溶液法によって製造され得る。溶液法において、LiFのスラリーは、水中で調製され、約40°C〜60°Cの温度に加熱される。最終スラリーは、約0.1重量%〜約1.0重量%のLiFを含有する。この方法ではその後、LMOをスラリー中に混合する。混合されたスラリーは、スラリーがLiFとLMOとの均一な分散物になるまで、撹拌し続ける。固形物は、乾燥または他の簡便な方法によりスラリーから分離され、その後、約600°C〜850°Cの温度に加熱される。加熱ステップは、LMO上にLiF表面処理を施すのに充分な期間、継続される。
【0028】
処理されたLMOを製造する方法は両方とも、一般的に、最終生成物をふるいにかけて(sifting or sieving)所望の粒径を有する粒子を分離するステップをさらに含むものである。最終的な粒径は、3μm〜約30μmの範囲であり得る。一般的には、約3μm〜約10μmの範囲にある最終粒子が、リチウムイオン電池において用いられる正極の製造には望ましい。
【0029】
本発明はまた、上述のようなLiF表面処理を施したLMOを用いる改善された正極材料を提供する。LMO/LiF組成物を用いる正極材料は、容量損失特性が改善され、LiF表面処理が施されていない同様のLMOに匹敵する初期容量を有する。
図2〜5に示されているように、LMO/LiF組成物は実際に、改善された容量損失特性と改善された容量の両方をもたらす。
図3〜5に示されているように、LiF表面処理を施されているLMOから製造される正極は、250回の放電/充電サイクルの後、著しく良好な容量を有し、それにより、改善された容量損失特性をもたらす。さらに、LMO/LiFの各サンプルは、未処理のLMOに対して10%以内の初期容量を有する。
【0030】
LiF処理LMOは、正極の容量および容量損失率を測定することを目的として、コイン型電池内に組み込んだ正極を製造するのに用いられた。
図2〜6および下記表1に報告されているように、LiF処理されたLMOは、1重量%のLiFを施された。下記実施例6および7に指示されたものを除いて、それぞれの指示された熱処理は、ボックスオーブン中で120分間850°Cにて実施された。(注:ボックスオーブンとの関連で説明されているが、LiFを活性化するのに充分な期間の間LiF処理LMOを加熱するのに適する任意の従来の加熱装置で足りる。)各サンプルは、LiF表面処理が施されているかまたは施されていないが、上述の乾式混合方法を用いて調製された。
図面は、活性な正極材料(すなわち、LiF処理LMO)の初期容量と、充電/放電のサイクルを繰り返した後の正極の容量とをmAh/gで表している。コイン型電池はすべて、60°Cにて放電率1Cおよび充電率C/3でサイクルが実施され、各セルは、60分間にわたって指示電圧3ボルトまで放電を行った後、180分間にわたって指示電圧4.3ボルトまで再充電した。
図2は、未処理LMO(ラインA)、下記実施例6において説明される、LiF非含有であるが850°Cにて1回熱処理されたLMO(ラインB)、下記実施例7において説明される、850°Cにて熱処理されLiFによる表面処理を施されたLMO(ラインC)から製造される正極についての容量試験の結果を示す。
図3において、ラインDは、LiF非含有LMOから製造される正極についての容量を示す。ラインEは、LiF処理を施されているが熱処理されていないLMOを用いて製造される正極の容量を示す。ラインFは、850°Cにて2回熱処理されたLiF/LMOから製造される正極の容量を示す。
図4において、ラインDは、
図3のラインDに対応する。ラインGは、LiF非含有であるが850°Cにて1回熱処理されたLMOから製造される正極の容量を示す。ラインHは、850°Cにて1回熱処理された、LiFによる表面処理を施されたLMOから製造される正極の容量を示す。
図5において、ラインDは
図3および4のラインDに対応し、ラインFは
図3のラインFに対応する。ラインGおよびHは、
図4のラインGおよびHに対応する。ラインJは、LiF非含有であるが850°Cにて2回熱処理されたLMOから製造される正極の容量を示す。
図5に示されているように、ラインJはラインFおよびHよりも大きい初期容量を有するが、ラインJはラインFおよびHよりも容量損失率が高い。理論に拘泥されることを望むのではないが、本発明者らは、LMOを2回熱処理することにより、LMOの欠陥の数が減少し、これが容量の増加につながった、と考えている。
図6に関して、ラインKは、1.4重量%のCrでドープされたがLiFを含有しないLMOであって、それにより式(Li
1.05Cr
0.05Mn
1.9O
4)で表される最終LMOをもたらすLMOを示す。ラインKの材料は、初期容量が118.2 mAh/gであり、300サイクルの後の容量が78.0 mAh/gであった。ラインLは、2倍量のCr (2.9重量%)でドープされたがLiFを含有しないLMOであって、それにより式(Li
1.05Cr
0.1Mn
1.85O
4)で表される最終LMOをもたらすLMOを示す。ラインLのLMOは、初期容量が115.9 mAh/gであり、300サイクルの後の容量が83.2 mAh/gであった。ラインMは、わずか1.4重量%のCrでドープされたが、ラインMのLMOは、LiF処理を施され850°Cにて熱処理された。ラインMのLMOは、式(Li
1.05Cr
0.05Mn
1.9O
4)で表される。ラインMの材料は、初期容量が118.2 mAh/gであり、300サイクルの後の容量が99.5 mAh/gであった。
図6に示されているように、LiF処理は、構造内にドーパントを追加するよりも、LMOの容量の安定化に対してさらに一層効果的である。表1は、
図2〜5に示される各サンプルについての個々のサイクル値(mAh/g)を示す。
【表1】
【0031】
図2および表1に関して、実施例7に説明されるようにLiF処理を施され850°Cで熱処理されたLMO(ラインC)は、初期容量が112.9 mAh/gであった。246サイクルの後、ラインCのサンプルは、最終容量が104.9 mAh/gであった。これに対し、未処理LMO(ラインA)は、初期容量が114.1 mAh/gであった。246サイクルの後、ラインAのサンプルは、容量が95.6 mAh/gであった。実施例6に説明されるようにLiF非含有であるが850°Cにて1回熱処理されたLMO(ラインB)は、初期容量が116.4 mAh/gであり、246サイクルの後の容量が99.4 mAh/gであった。
【0032】
図3〜6に関して、850°Cにて1回熱処理されLiFによる表面処理を施されたLMO(ラインH)は、初期容量が110.7 mAh/gであり、250サイクル後の容量が104.5 mAh/gであった。ラインHで表されるサンプルは、300サイクル後の容量が103.9 mAh/gであった。850°Cにて2回熱処理されLiF処理を施されたLMO(ラインF)は、初期容量が 106.1 mAh/gであり、300サイクル後の容量が102.0 mAh/gであった。未処理LMOを示すラインDは、初期容量が108.0 mAh/gであり、250サイクル後の容量が93.1 mAh/gであった。LiF処理を施されているが熱処理されていないLMOを示すラインEは、初期容量が106.2 mAh/gであり、250サイクル後の容量が91.7 mAh/g、300サイクル後の容量が89.8 mAh/gであった。LiF非含有であるが850°Cにて1回熱処理されたLMOを示すラインGは、初期容量が111.4 mAh/gであり、250サイクル後の容量が103.9 mAh/g、300サイクル後の容量が102.6 mAh/gであった。LiF非含有であるが850°Cにて2回熱処理されたLMOを示すラインJは、初期容量が113.9 mAh/gであり、250サイクル後の容量が104.3 mAh/g、300サイクル後の容量が102.9 mAh/gであった。
図2〜6における各ラインは、下記の実施例において説明されるように製造されるコイン型電池において用いられる正極材料についての容量値を示す。コイン型電池は、60°Cにて放電率1Cおよび充電率C/3でサイクルが実施された。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
組成式Li
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4を有するスピネル型材料は、下記の通り製造された。216.0gのMn
2O
3、59.62gのLi
2CO
3、および14.036gのAl
2O
3を一緒に混合し、混合物をその後、(材料を充分に混合するのに充分であるが、粒径を減少させない)2時間にわたってボールミルにかけた。この混合物をその後、850°Cにて10時間にわたってボックス型炉中のセラミック皿において加熱した。(この10時間の熱処理によって、初期のLMO材料が形成される。LiF表面処理剤の適用は一般的に、更なる加熱処理ステップを含む。)10時間熱処理してLMOを製造した後、温度は、2°C/分の速度で850°Cから室温へと降下させた。得られる従来のLMO生成物はその後、-325メッシュスクリーンに通した。
【0034】
[実施例2]
コイン型リチウム電池は、導電助剤として30重量%のカーボンブラック、バインダーとして5重量%のフッ化ポリビニリデン(PVDF)、および65重量%の実施例1の正極活性材料を含む正極ディスク、Liフォイル負極、ならびに等重量部のエチレンカーボネーとジメチルカーボネートとの混合物中に溶解された1M LiPF
6から構成される電解質を用いて作製された。コイン型電池は、60°Cにて放電率1Cおよび充電率C/3でサイクルが実施された。
図3中のラインDは、実施例1において製造された従来の熱処理されていないLMO材料から作製され、実施例2において作製されたコイン型電池の正極に組み込まれた、正極材料の容量値を示す。
【0035】
[実施例3]
従来のLMOに熱処理をさらに施すことによる効果を証明するために、約50gの実施例1で得られたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4が、850°Cにて2時間にわたってボックス型炉中のセラミック皿において加熱した。温度は、2°C/分の速度で850°Cから室温へと降下させた。この材料を-325メッシュスクリーンに通した後、実施例2において作製されるコイン型リチウム電池において試験された。
図4中のラインGは、熱処理された従来のLMOから製造される正極材料についての容量値を示す。
【0036】
[実施例4]
2回の加熱処理ステップと組み合わせたLiF処理の効果を証明するために、201.4 gの実施例1で得られたLi
1.06Al
0.18Mn
1.76O
4と2.0 gのLiF(1重量%)とを混合し、ボールミルに2時間かけた。この混合物20gを850°Cで2時間ボックス型炉中に置いたセラミックるつぼ中にて加熱した。一旦冷却し、乳鉢と乳棒を用いて粉末を手動で混合して確実に均一にし、850°Cで更に2時間再加熱した。ボックス型炉の温度は、2°C/分の速度で室温へと降下させた。この材料を-325メッシュスクリーンに通した後、実施例2において作製されるコイン型リチウム電池において試験された。
図3中のラインFは、LiF処理LMOから製造される正極材料の容量値を示す。
図3は、熱処理された従来のLMOおよび熱処理されていない従来のLMOより優れた、LiF表面処理を施され2回の加熱処理を用いて製造されたLMOを組み込んだ正極を用いることによりコイン型電池にもたらされる改善を明確に実証している。
【0037】
[実施例5]
組成式Li
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4を有するスピネル型材料を用いて、従来のLMOが、下記の通り製造された。37.784kgのMn
2O
3、2.017kgのCr
2O
3、および10.185kgのLi
2CO
3を振動ミルに入れ、セラミック粉砕媒体を用いて45分間混合した。このステップは、約700kgのスピネル型プレミックスが得られるまで繰り返した。このプレミックスはその後、すべての加熱ゾーンにおいて温度を850°Cに設定した回転か焼炉内で反応させた。1回目の通過の間は、か焼炉に酸素高含有雰囲気が流された。その後の通過は、か焼炉に通常の空気流を通すことにより達成された。材料は、850°Cでの総滞留時間が10時間となるまで、か焼炉を繰り返し通過させた。材料はその後、加熱ゾーンの温度を低下させながら、か焼炉をさらにもう1回通過させた。これにより、約1.5°C/分の速度で600°Cまでゆっくり冷却することができた。冷却された生成物は、-325メッシュスクリーンに通した後、実施例2において作製されるコイン型リチウム電池において試験された。
図2中のラインAは、加熱処理されないLiF非含有LMOから製造される正極材料についての容量値を示す。
【0038】
[実施例6]
実施例5のLMOに対する加熱処理の効果を実証するために、約25kgの実施例5において製造されたLi
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4は、滞留時間4〜5時間を達成するのに充分な速度で850°Cの回転か焼炉を通過させた。材料はその後、加熱ゾーンの温度を約1.5°C/分の速度で600°Cまでゆっくり冷却しながら、回転か焼炉の2回目の通過を実施した。冷却された生成物は、-325メッシュスクリーンに通した後、実施例2において作製されるコイン型リチウム電池において試験された。
図2中のラインBは、熱処理された従来のLMOから製造される正極材料についての容量値を示す。
【0039】
[実施例7]
LiF処理および1回の加熱処理ステップの効果を実証するために、4.4kgの実施例5で製造されたLi
1.06Cr
0.1Mn
1.84O
4と44gのLiFとを混合した。この混合物は、振動ミルに入れ、セラミック粉砕媒体を用いて45分間混合した。このステップは、約70kgのLiF処理スピネル型プレミックスが得られるまで繰り返した。このプレミックスはその後、滞留時間4〜5時間を達成するのに充分な速度で850°Cの回転か焼炉を通過させた。材料はその後、加熱ゾーンの温度を約1.5°C/分の速度で600°Cまでゆっくり冷却しながら、回転か焼炉の2回目の通過を実施した。冷却された生成物は、-325メッシュスクリーンに通した後、実施例2において作製されるコイン型リチウム電池において試験された。
図2中のラインCは、加熱処理されたLiF処理LMOから製造される正極材料についての容量値を示す。
図2は、熱処理された従来のLMOおよび熱処理されていない従来のLMOより優れた、LiF表面処理を施され1回の加熱処理を用いて製造されたLMOを組み込んだ正極を用いることによりコイン型電池にもたらされる改善を明確に実証している。
【0040】
表1の材料E、H、J、K、L、およびMに対応するLMOを組み込んだ正極を用いたコイン型電池もまた、表1において特定される加熱処理とLiF表面処理とを含む上述の方法に従って製造された。各コイン型電池についての正極材料容量値は、
図3~6中の対応するラインE、H、J、K、L、およびMとして報告される。このように、
図2~6は、LiF表面処理を施したLMOから製造される正極材料の使用によって、改善された二次電池が提供されることを実証する。
【0041】
本発明の他の実施形態が、当業者には明らかとなるであろう。このように、上記の説明は単に、本発明の一般的な用途および方法を実現し説明するのみである。したがって、下記の特許請求の範囲が、本発明の真の範囲を規定する。