【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜5〕
以下に示す射出成形物を用いてイオンビーム照射を行い、本発明の成形体としての医療用成形体を得た。
得られた医療用成形体におけるイオンビーム照射により改質した部分における表面状態の変化を、イオンビーム照射後におけるイオンビーム照射部分の表面の面粗さ、接触角の測定を行うことにより調べた。
(射出成形物の製造方法)
重量平均分子量95000のPLAペレットを使用した。このペレット単体を下記に示す条件で日精樹脂工業製の超精密小型成形機(NP7 Real Mini)を用いて評価部長さ約30mm、幅約5mm、厚さ約2mmのダンベル型に射出成形し、射出成形物(ボルトとナットとの締結物の疑似成形体または固定プレートの疑似成形体)を得た。
条件:
Injection Pressure[MPa]:82
Fusion Temperature[℃]:200
Clamping Temperature[℃]:50
Cooling Time[s]:30
【0030】
(イオンビーム照射)
得られた前記生分解性材料の射出成形物の表面の一部にイオンビーム照射を行った。
前記イオンビーム照射は、イオンビーム照射装置を用いて行った。用いたイオンビーム照射装置は、目的とする元素のイオンを発生させるイオン源、必要なイオンだけを取り出す質量分析器、イオンを電気的に必要なエネルギーに加速する加速器、対象物であるターゲットを装着する高真空チャンバー等から成り、照射するイオン種・イオン注入量・イオンの加速電圧等の条件を制御することが可能な装置である。
また、イオンビーム照射を行った部分は、
図3(a)に示すように、前記射出成形物の表面の一部をマスク(材料(アルミニウム箔や板など)、大きさ約100×100×1mm)により被覆してマスクした部分にはイオンビーム照射がされないようにして行い、
図3(b)に示す本発明の成形体としての医療用成形体としてのイオンビーム照射物を得た。(図中の点線の部分は、イオンビーム照射した部分を示している。)
なお、イオンビーム照射は表1に示す条件にて行った。
【表1】
【0031】
〔試験例1〕
(表面の面粗さ・接触角の測定)
医療用成形体におけるイオンビーム照射により改質した部分における表面状態の変化を、イオンビーム照射部分の表面の面粗さ、接触角の測定を行うことにより調べた。
また、試験は、イオンビーム照射条件におけるイオン注入量及びイオンの加速電圧の違いによる効果の差を調べるため、
イオン注入量:10
13イオン/cm
2で、イオンの加速電圧:50、100、150keVの各条件におけるイオンビーム照射部分の表面の面粗さ(実施例1〜3)、
イオン注入量:10
13イオン/cm
2で、イオンの加速電圧:50、100、150keVの各条件における表面のイオンビーム照射部分の表面の接触角(実施例1〜3)、
イオンの加速電圧:100keVで、イオン注入量:10
13イオン、10
14イオン、10
15イオン/cm
2の各条件における表面のイオンビーム照射部分の表面の接触角(実施例2、4及び5)、
において試験を行った。また、対照試験として、イオンビーム照射を行っていない部分における表面の面粗さ及び接触角の測定を行った。
なお、表面の面粗さ及び、接触角は、下記方法により測定した。
面粗さ測定:
面粗さ測定は、原子間力顕微鏡(AFM)(装置名:ICON、ビーコ社製)を用いて、タッピング法により行った。
接触角測定:
接触角測定は、蒸留水を20μL滴下し、接触角計(装置名:DM−301、協和界面科学株式会社製)を用いて、滴下法により行った。
得られた表面の面粗さの結果を、
図4(実施例1〜3:イオンの加速電圧の比較)に、接触角の結果を
図5(実施例1〜3:イオンの加速電圧の比較)及び
図6(実施例2,4及び5:注入イオン量の比較)に示す。
なお、図中の、0keVにおける実験結果は、対照実験としてのイオンビーム照射を行っていない部分(
図3(a)のマスクの下の部分)における実験結果を意味する。
なお、すべての試験は、試行回数5回で行った。
【0032】
〔試験例2〕
医療用成形体の生体分解性を調べるため自然分解試験を行った。
(自然分解試験)
生体内におけるポリ乳酸の分解速度と、リン酸緩衝液中での分解速度は同等であることが知られており、リン酸緩衝液中における本発明の医療用成形体の分解速度は生体内での分解速度と同等であると考えられる。そこで、自然分解実験は、
図7に示すように本発明の医療用成形体を濃度0.067Mのリン酸緩衝液(pH7.4)、200mLに浸漬させることにより行った。
医療用成形体は、リン酸緩衝液浸漬後、1、2、4、6週間後に緩衝液から取り出し、イオンビーム照射した部分と、イオンビーム照射していない部分との厚みの差(
図7の図中の「段差」)を測定することにより行った。なお、前記リン酸緩衝液は1週間ごとに交換を行った。
前記厚みの測定は、原子間力顕微鏡(AFM)装置(商品名:ICON、ビーコ社製)を用いて行った。
試験は、イオンビーム照射条件の違いによる効果の差を調べるため、
イオン注入量:10
13イオン/cm
2で、イオンの加速電圧:50、100、150keVの各条件で製造した医療用成形体(実施例1〜3)、イオンの加速電圧:100keVで、イオン注入量:10
13イオン、10
14イオン、10
15イオン/cm
2の各条件で製造した医療用成形体(実施例2、4及び5)、において行った。
その結果を
図8(実施例1〜3:イオンの加速電圧の比較)、及び
図9(実施例2、4及び5:注入イオン量の比較)に示す。
【0033】
〔実施例6〜9〕
(本発明の成形体としての医療用成形体の製造)
実施例1と同様にしてPLAペレットから射出成形物を製造し、該射出成形物にイオンビーム照射を、下記表2の条件で、成形物の一面全体に行い、本発明の医療用成形体(実施例6〜9)を得た。
各実施例(実施例6〜9)おけるイオンビーム照射条件を表2に示す。
【表2】
(シミュレーションによるイオン注入深さ)
また、前記イオンビーム照射によるイオン注入深さを、SRIM2006(J.F. Zieglerら、http://www.srim.org/)でシミュレーションしたところ、以下の通りであった。
実施例6:約80(±20nm)nm、実施例7:約160(±30nm)nm、
実施例8:約80(±20nm)nm、実施例9:約160(±30nm)nm。
【0034】
〔比較例1〕
イオンビーム照射を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてPLAペレットから射出成形物を製造し、得られた射出成形物を比較例1とした。
【0035】
〔試験例3〕
医療用成形体の強度を、引張強度を測定することにより調べた。
引張強度の測定は、実施例6〜9で得られた医療用成形体、並びに比較例1で得られた圧縮成形体において行った。
(引張強度測定)
引張強度の測定は、下記方法により行った。
方法:JIS K7162(プラスチック−引張特性の試験方法、第2部:型成形、押出成形及び注型プラスチックの試験条件)に従い行った。
試験装置:装置名:万能試験機、型名:AGS1000−A、島津製作所社製
引張強度は、引張試験中に加わった最大引張応力とした。
得られた結果を
図10に示す。
なお、試験は試行回数3回で行った。
【0036】
〔実験例1〕ねじり延伸における種々押出延伸比における分子配向状態の解析
ねじり延伸における分子配向の最適化を行うため、ねじり延伸における押出延伸時の押出比による分子配向状態を調べた。
(圧縮成形物の製造)
圧縮成形物は、実施例1のPLAペレットを用い、円筒状の成形物用の金型(直径:6mm、長さ40mm)で圧縮成形を行い、円筒状の圧縮成形物(直径:6mm、長さ40mm)を得た。
【0037】
(押出処理物の製造)
得られた圧縮成形物を押出法により、種々延伸比(延伸比:1.0、1.3、2.0、4.0、8.0)で押出延伸した。なお、押出延伸は全ての延伸比において直径6mmになるように行った。
押出延伸の概要を
図11に示す。押出成形は、本体、バルク体のガイド、圧子、テーパー部の四つのパーツから構成される金型を用い、金型は自作したホットプレスを用いて105℃に加熱し、金型に前記圧縮成形物をセットした状態で10分間加熱し、加熱後にホットプレスの油圧ジャッキを手で操作して負荷を加え、圧子を押込むことにより行った。
押出延伸後、金型ごとホットプレスから取出し、金型を吸熱用の金属板を用いて50℃になるまで冷却した後に金型から取出し、押出処理物(直径6mm、長さ40mm)を得た。なお、延伸比1.0のものは、熱処理のみを行い、押出延伸を行わなかったものである。
【0038】
(分子配向の解析)
得られた前記押出処理物の分子配向は、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)の全反射法(ATR法)により解析した。
以下、解析の詳細を示す。
FTIRでは赤外光源部より出た光が干渉計に入り、干渉波(インターフェログラム)となり、試料を通過する。その際、試料を構成する分子中の原子または原子団の振動エネルギーに対応した固有の振動数の光が吸収される。検出器で得られた信号は、コンピュータ部にてフーリエ変換され、試料固有の赤外スペクトルが得られる。それによって試料物質の同定を行うことができ、さらに偏光赤外線を用いることによって分子配向の解析を行うことができる。ATR法はFTIRの測定方法の一つで、赤外線を試料表面で全反射させることによって試料表面1〜2μm程度の情報を得る方法である。
PLAのα結晶からなる配向したフィルムでは分子鎖軸に垂直な遷移モーメントを示すCH
3振動モードに割り当てられる923cm
−1の吸収バンドが観察されること(S.Kangら、Macromolecues、34、4542(2001))、非常に配向したβ結晶からなるフィルムではβ結晶のCH
3振動モードに割りあてられた912cm
−1の吸収バンドが観察されること(Daisuke Sawaiら、Macromolecules、36、3601−3605(2003))が報告されている。従って、α結晶とβ結晶それぞれの配向関数は赤外線二色比を用いることによって決定することができる。
二色比Rは下式(数1)の様に定義される。
【数1】
式中、A
pとA
sは試料表面に対して垂直方向と平行方向に偏光した赤外線を用いて決定された吸光度である。
下式(数2)を用いて二色比Rから配向関数f
cを求めることができる。
【数2】
式中、θは分子鎖軸と延伸方向との間の角度、R
0=2cot
2αであり、αは赤外線吸収バンドの遷移モーメントが分子鎖となす角度で、α=90°である。
【0039】
(測定・解析)
測定を行うために測定試料を作製した。測定試料は、得られた前記押出処理物を、エピコート(登録商標)828(三菱化学社製)とトリエチレンテトラミンとを重量比100:11で混合した樹脂に
図12(a)に示すように包埋した後、長手方向の断面を出すために
図12(b)に示すようにラボカッターを用いて一部を切り出し、さらに
図12(c)に示すように前記押出処理物が長手方向に対しほぼ半分になるように切出しを行い、切り出しにより露出した前記押出処理物の一部の表面を、耐水研磨紙を用いて#800、#1000、#2000の順に研磨を行い、最終的にバフ研磨を行うことによって平滑にしたものである。
赤外スペクトルの測定は、前記測定試料を、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)の全反射法(ATR法)により行った。具体的には、水平型全反射測定装置(ATR−8200HA、島津製作所社製)及び赤外偏光子(GPR−8000、島津製作所社製)を装着したフーリエ変換赤外分光光度計(商品名:IR Prestige−21、島津製作所社製)を用いて下記条件で前記測定試料の測定を行った。
条件:
Measurement Mode:Transmittance
Cumulated Number:20
Resolution:4.0cm
−1
Measuring Range:700〜4000cm
−1
得られた赤外スペクトルから上述の二色比を用いて配向関数を算出した。その結果を
図13に示す。
【0040】
〔実施例10〕ねじり延伸による本発明の成形体としての医療用成形体の製造
ねじり延伸処理物における、ねじり延伸方向による強度を調べた。
(ねじり延伸処理物の製造)
(原料〜押出延伸)
押出成形における延伸比を8にした以外は、実験例1と同様にして、PLAペレットから圧縮成形物を得、該圧縮成形物の押出成形を行い押出処理物を得た。
(ねじり加工)
得られた押出処理物にねじり加工を行った。
ねじり加工は、まず、得られた押出処理物の両端に
図14に示すように六角柱状の金属性タブを加工部が25mmとなるように接着した。なお、加工部とは、得られた押出処理物のタブがついていない部分を言う。
タブを接着した押出処理物を、
図14に示す自作のトルク負荷機の試料装着部に装着し、ヒーターで20分間加熱し、モーターでトルクを加えることによってねじり加工を行い、ねじり延伸処理物(仮成形体)を得た。
なお、ねじり加工は、成形温度100℃、回転数0.2rpm、回転方向は右回りとし、上述のねじり角が192度となるようにトルクを加えることで行った。なお、ねじり加工における平均らせん角は23度であった。
【0041】
(鍛造)
鍛造により、ねじり延伸処理物にネジ山の形成を行った。
鍛造によるネジ山の形成は、まず、M6の並目ネジのネジ山が刻んであり2つに分割された金型に、一方のタブを切り取ったねじり延伸処理物を上下から挟んで装着し10分間加熱を行った。その後、島津製作所製のUH−1000kNIRを用いて200kNの押切荷重、室温下でコールドプレスすることにより金型に彫られたネジ山をねじり延伸処理物に転写することで、ねじり延伸処理物の表面にネジ山を形成した。その後、金型温度が40℃以下になったところで荷重をはずして金型から取り出し、ネジ山が形成された鍛造物を得た。
【0042】
(イオンビーム照射)
得られた前記成形物にイオンビーム照射を行い
図1に示す本発明の医療用成形体を得た。なお、イオンビーム照射は実施例1のイオンビーム照射装置に前記成形物をセットしイオン注入量:10
13イオン/cm
2で、イオンの加速電圧:50keVの条件で行った後、さらに、1度目のイオンビーム照射がなされなかった部位にイオンビームの照射を行うために、前記成形物を180度回転させて装置にセットし、同条件で再度イオンビームの照射を行った。
【0043】
〔実験例2〕ねじり延伸処理物における直径方向による強度
ねじり延伸処理物の直径方向のせん断強度を測定するために、実施例10で得られたねじり延伸処理物におけるせん断試験を行った。その概要を
図15に示す。
せん断試験は、まず、
図15に示すように専用の治具を使用してねじり延伸処理物を試験機の試料装着部に装着した。装着したねじり延伸処理物に、圧縮負荷用にチャックを外し、上部に圧子をセットした状態の試験機を使用して圧縮負荷を加えることで、ねじり延伸処理物にせん断荷重を加えた。試験機には島津製作所製AGS−1000Aを使用し、クロスヘッド速度は0.5mm/minで行った。荷重の測定には10kNのLoad Cellを使用し、100msの測定間隔で測定を行った。得られた最大荷重から以下の式(数3)によってせん断強度S
sを算出した。
なお、対照試験は、実施例10で得られたねじり延伸を行わなかった押出成形物を同様に試験することで行った。得られた結果を
図16に示す。
【数3】
式中、Fは最大荷重を意味し、Aはねじり延伸処理物の有効断面積(22.5mm
2)である。
【0044】
〔実験例3〕ねじり延伸処理物におけるねじり延伸方向による強度
ねじり延伸処理の効果を調べるために、実施例10で得られたねじり延伸処理物のねじり試験を行った。その概要を
図17に示す。
ねじり試験は、タブとしての六角ナットを接着剤(商品名:アラルダイト(登録商標)、ハンツマン・ジャパン社製)で評価部の長さが15mmとなるように両端に接着し、専用の治具を用いて試験機にセットした。次に、試験機で、ねじり延伸処理物に接着した片側のタブは固定し、他方のタブにモーターでトルクを負荷した。負荷用モーターにはオリエンタルモーター社製M206−401、ギアヘッド2GN180Sを使用し、トルクの測定にはトルク変換機(型番:TP20kCE、共和電業社製)を使用し、0.2rpmの回転数、100msの測定間隔で試験を行い、最大トルクを測定した。得られた最大トルクから下記式(数4)で軸方向のせん断強度S
τを算出した。
【数4】
式中、Tは最大トルク(N・m)を意味し、Z
pはねじり延伸処理物の有効径に対する極断面係数(30.07mm
3)である。
なお、ねじり延伸を行ったねじり延伸処理物における、ねじり方向別の強度を調べるために、延伸方向と反延伸方向の両方向においてねじり試験を行った。また、ねじり加工を行わなかった押出処理物における延伸方向のねじり試験を比較試験とした。
その結果を
図18に示す。
【0045】
以下、結果及び考察を詳述する。
(イオンビーム照射による表面状態の変化)
イオンビーム照射により改質した部分における表面状態の変化を、イオンビーム照射直後におけるイオン注入部分の表面の面粗さ、接触角の測定することにより調べた。
その結果、表面の面粗さについては、
図4に示すように、イオンビーム照射におけるイオンの加速電圧の条件による、すなわち注入加速量による、おおきな変化はみられなかった。
表面の接触角については、
図5及び6に示す、すべてのイオンビーム照射条件において、イオンビーム照射した部分における接触角は、イオンビーム照射していない部分に比して、低下していた。さらに、表面の接触角は、
図5に示すようにイオンの加速電圧(注入加速量)依存的に低下し、
図6に示すように注入イオン量にも依存して低下していた。
これらの結果における接触角の低下は、表面の親水性が高く改質されたことを示しており、生体親和性が高くなったことを意味している。
また、表面の親水性が高いということは、水分が表面に浸透しやすくなることを意味しており、ポリ乳酸が水分により分解することとあわせて考えると、水分が浸透しやすくなるということは生体分解性が向上していることを示している。
そして、その接触角は、イオンビーム照射時における、イオンの加速電圧(注入加速量)や注入イオン量に依存した低下がみられることから、イオン注入時のそれらの条件を変えることで接触角、すなわち、生体親和性及び生体分解性の制御が可能であることがわかる。
【0046】
(本発明の医療用成形体の生体分解性)
本発明の医療用成形体の生体分解性を調べた。
その結果、
図8(実施例1〜3)及び
図9(実施例2、4及び5)から、試験したすべてのイオンビーム照射条件において、イオン注入した部分はイオン注入していない部分と比較して分解速度が速い(段差が生じている)ことがわかる。また、分解速度は、イオンの加速電圧(注入加速量)や注入イオン量に依存して大きくなることがわかる。特に実験開始から1〜3週間における分解速度が向上していることがわかる。
前記イオンビーム照射におけるすべての条件において、イオン注入した部分はイオン注入していない部分と比較して分解速度が速いという結果から、本発明の医療用成形体は分解速度が速く生体分解性に優れることがわかる。また、分解速度は、イオンの加速電圧(注入加速量)や注入イオン量に依存して大きくなることから、分解速度はイオン注入におけるイオンの加速電圧条件や注入イオン量により制御可能なことがわかる。
【0047】
(本発明の成形体としての医療用成形体の強度)
本発明の成形体としての医療用成形体の引張強度を調べた。
図10に種々条件で、イオンビーム照射した場合と、イオンビーム照射していない場合における本発明の医療用成形体の引張強度を示す。この結果から、本発明の医療用成形体は、イオンビーム照射しても強度が低下していないことが判る。
【0048】
(押出延伸における分子配向)
本発明で用いられる押出延伸における分子配向の状態を調べた。
図13に示すように、押出延伸における押出比が1.3以上というわずかな延伸比においても、配向関数が高いことがわかる。この結果から、本発明で用いられる押出延伸により押出処理物の分子が配向されていることがわかる。
【0049】
(ねじり延伸処理物におけるせん断強度)
ねじり延伸処理物における、せん断強度を調べた。
図16に示すように、ねじり延伸処理物は、ねじり延伸しないものと比較して、せん断強度にはほとんど差がないことが確認された。このことからねじり延伸処理物は、押出延伸によって向上したせん断強度を維持していることが判る。
【0050】
(ねじり延伸処理物におけるねじり強度)
ねじり延伸処理物における、ねじり延伸方向による強度を調べた。
図18に示すように、ねじり延伸処理物は、ねじり延伸しないものより、ねじり回転方向による強度が2割ほど向上することが認められる。また、ねじり延伸処理物の逆方向回転に対してのねじり強度は、通常方向のものより減少することが判る。このことは、ねじり回転方向の制御により、強度の制御も可能であることを意味する。
【0051】
以上により、本発明の成形体としての医療用成形体は、生分解性材料からなる生体親和性、生体分解性、及び強度に優れるものであることが判る。
また、本発明の成形体としての医療用成形体は、イオンビーム照射により表面改質を行い、そのイオンビーム照射の条件(イオン種、注入イオン量、イオン加速量(注入深度)など)を変える事によって、強度を保ちつつその生体親和性と生体分解速度等に優れるものであることが判る。また、前記生体親和性と生体分解速度は、イオンビーム照射の条件により制御可能であることが判る。
また、本発明の成形体としての医療用成形体は、ねじり延伸により、せん断強度及びねじり強度が高いものであることが判り、特にねじり方向に対して強度が高いものであることが判る。
【0052】
〔実施例11〕(ねじりのらせん角と強度との関係)
また、ねじりのらせん角の角度を
図19に示すように0°、15°、30°、45°、50°とした以外は実施例10と同様にしてそれぞれ成形体を得た。
得られた成形体について、ねじり強度と最大らせん角の関係及び最大らせん角とせん断強度との関係を測定した。その結果を
図19及び20に示す。
なお、ねじり強度と最大らせん角の関係は実験例3におけるねじり試験と同様のねじり試験を行うことにより、また最大らせん角とせん断強度との関係は実験例2におけるせん断試験と同様のせん断試験を行うことにより測定を行った。
各図に示す結果から明らかなようにねじり強度は最大らせん角40〜50°で最も高い値を示し、せん断強度は最大らせん角15〜45°で最も高い値を示すことが判る。