特許第6533970号(P6533970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533970
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】架空線保持装置
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/12 20060101AFI20190617BHJP
【FI】
   H02G7/12
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-83787(P2015-83787)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-208572(P2016-208572A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 光弘
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭43−005242(JP,Y1)
【文献】 特開昭53−063592(JP,A)
【文献】 実公昭39−019124(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取り付け対象となる部材を挟持する掌握金具が設けられたスペーサ本体と、
前記スペーサ本体に設けられて当該スペーサ本体からそれぞれ異なる方向に突出する複数のアーム部と、
前記アーム部のそれぞれに設けられて、取り付け対象となる部材を挟持する第1のクランプ部材および第2のクランプ部材と、前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材との位置関係を固定する固定部材と、前記第1のクランプ部材および前記第2のクランプ部材にそれぞれ設けられて、前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材とが互いに対向する位置を覆う弾性部材と、を備えたクランプ部と、
を備え、
前記第1のクランプ部材は、前記アーム部に連結されており、
前記第2のクランプ部材は、前記第1のクランプ部材に対して回動可能に連結されており、
前記固定部材は、前記第1のクランプ部材に設けられたネジ穴に対して締め込まれることによって前記第1のクランプ部材に対する前記第2のクランプ部材の位置を固定するボルトであって、自装置の取付状態において作業者による操作を受け付ける部分が鉛直方向下方に位置するように設けられていることを特徴とする架空線保持装置。
【請求項2】
前記固定部材は、前記第1のクランプ部材に設けられたネジ穴に対して締め込まれる操作を受け付ける部分が環形状をなすことを特徴とする請求項1に記載の架空線保持装置。
【請求項3】
前記クランプ部は、
前記第1のクランプ部材に対して前記第2のクランプ部材を回動させることにより形成される前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材との間の空間に取り付け対象となる部材を導入する開口部を形成し、
前記開口部が前記空間における水平位置より上方に開口するように前記アーム部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の架空線保持装置。
【請求項4】
前記アーム部と前記クランプ部とは、加えられた外力に応じて変形する可撓性または弾性を備えた連結機構を介して連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の架空線保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧架空配電線どうしの間隔を保持する架空線保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧架空配電線路においては、相間スペーサを設けることにより、高圧架空配電線路において平行に架設された複数の電線どうしの間隔を所定の間隔に保持するようにしている。たとえば、従来、各々が三角形の頂点をなすように設けられた3つのフック部と、メッセンジャーワイヤに固定される金具と、を備えた相間スペーサがあった。
【0003】
このような従来の相間スペーサの取り付けに際しては、まず、各フック部の内側に、弾性材料を用いて形成されたブッシュを取り付ける。そして、それぞれブッシュが取り付けられた各フック部の内側に各電線がそれぞれ収まるように、相間スペーサを電線に固定するとともに、金具をメッセンジャーワイヤに固定する。その後、相間スペーサの近傍において当該相間スペーサおよび周囲の電線にバインドを巻き付けることによって相間スペーサと電線とを固定していた。
【0004】
従来、相間スペーサに取り付けられるブッシュは、断面がC字形状をなす、略円筒形状をなす部材であって、C字形状をなすことによる切れ目をフック部における湾曲部分とは反対側(フックが開放されている側)に向けた状態でフック部に取り付けていた。
【0005】
このように、従来の相間スペーサの取り付け作業は、フック部の大きさや相間スペーサの取り付け対象とする電線の径などに応じてブッシュを選択し、選択したブッシュをフック部に取り付け、相間スペーサおよび周囲の電線にバインドを巻き付けることによって相間スペーサと電線とを固定していた。このため、従来の相間スペーサの取り付け作業は、直接活線工法による作業によっておこなっていた。直接活線工法による作業に際して、作業者は、絶縁性の高い高圧ゴム手袋を着用することによって感電事故の回避に努めている。
【0006】
また、従来、具体的には、たとえば、ブッシュを架空線に装着した後に、当該ブッシュをフック部に設けられた収容凹部に収容させた後、当該ブッシュをフック部に装着するようにすることで、各フック部にそれぞれブッシュを取り付けなくてはならないことによる作業の煩わしさを回避するようにした相間スペーサに関する技術があった(たとえば、下記特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−175728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術による相間スペーサは、間接活線工法による作業によって取り付けることが難しく、作業者は高圧ゴム手袋を着用した状態で、直接活線工法による作業によって取り付けをおこなわざるを得ないという問題があった。
【0009】
高圧ゴム手袋は、ゴムなどの絶縁性の高い素材を用いて或る程度の厚みをもって形成されているため、剛性が強い。このため、従来の技術による相間スペーサは、保護手袋を着用した状態で各フック部にブッシュを取り付けなくてはならず、保護手袋を着用しない状態で同じ作業をおこなう場合よりも作業性に劣り、作業者にかかる負担が大きいという問題があった。
【0010】
また、上述した従来の技術による相間スペーサは、各フック部にブッシュを嵌め込んだ状態で、電線に対して取り付けがおこなわれるものであり、相間スペーサの取り付けをおこなう高所に運搬する間に脱落する可能性があるため、地上においてあらかじめ各フック部にブッシュを取り付けておくことは難しい。このため、各フック部にブッシュを取り付ける作業は、相間スペーサの取り付けをおこなう高所において、高圧ゴム手袋を着用した状態でおこなわなくてはならず、作業性に劣り、作業者にかかる負担が大きいという問題があった。
【0011】
また、従来の技術による相間スペーサは、フック部にブッシュを取り付ける作業の他、相間スペーサおよび周囲の電線にバインドを巻き付けて相間スペーサと電線とを固定する作業などを保護手袋を着用した状態でおこなわなくてはならず、作業者にかかる負担が大きく、作業に長い時間がかかってしまうという問題があった。
【0012】
また、上述した特許文献1に記載された従来の技術による相間スペーサも、間接活線工法による作業によって取り付けることが難しく、作業者は高圧ゴム手袋を着用した状態で、直接活線工法による作業によって取り付けをおこなわざるを得ないという問題があった。
【0013】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、取り付け対象とする電線の径に左右されることなく、間接活線工法によって安全かつ確実に取り付けることができる架空線保持装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、取り付け対象とする電線の径に左右されることなく、取り付け作業を間接活線工法によって容易におこなうことができ、取り付け作業にかかる時間を短縮することができる架空線保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる架空線保持装置は、取り付け対象となる部材を挟持する掌握金具が設けられたスペーサ本体と、前記スペーサ本体に設けられて当該スペーサ本体からそれぞれ異なる方向に突出する複数のアーム部と、前記アーム部のそれぞれに設けられて、取り付け対象となる部材を挟持する第1のクランプ部材および第2のクランプ部材と、前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材との位置関係を固定する固定部材と、前記第1のクランプ部材および前記第2のクランプ部材にそれぞれ設けられて、前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材とが互いに対向する位置を覆う弾性部材と、を備えたクランプ部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる架空線保持装置は、上記の発明において、前記第1のクランプ部材が、前記アーム部に連結されており、前記第2のクランプ部材が、前記第1のクランプ部材に対して回動可能に連結されており、前記固定部材が、前記第1のクランプ部材に設けられたネジ穴に対して締め込まれることによって前記第1のクランプ部材に対する前記第2のクランプ部材の位置を固定するボルトであって、前記架空線保持装置の取付状態において作業者による操作を受け付ける部分が鉛直方向下方に位置するように設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる架空線保持装置は、上記の発明において、前記固定部材が、前記第1のクランプ部材に設けられたネジ穴に対して締め込まれる操作を受け付ける部分が環形状をなすことを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる架空線保持装置は、上記の発明において、前記クランプ部が、前記第1のクランプ部材に対して前記第2のクランプ部材を回動させることにより形成される前記第1のクランプ部材と前記第2のクランプ部材との間の空間に取り付け対象となる部材を導入する開口部を形成し、前記開口部が前記空間における水平位置より上方に開口するように前記アーム部に設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる架空線保持装置は、上記の発明において、前記アーム部と前記クランプ部とは、加えられた外力に応じて変形する可撓性または弾性を備えた連結機構を介して連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明にかかる架空線保持装置によれば、取り付け対象とする電線の径に左右されることなく、間接活線工法によって取り付けることができるという効果を奏する。
【0021】
また、この発明にかかる架空線保持装置によれば、取り付け対象とする電線の径に左右されることなく、取り付け作業を間接活線工法によって容易におこなうことができ、取り付け作業にかかる時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明にかかる実施の形態の相間スペーサの構成を示す説明図(その1)である。
図2】この発明にかかる実施の形態の相間スペーサの構成を示す説明図(その2)である。
図3】この発明にかかる実施の形態の相間スペーサの構成を示す説明図(その3)である。
図4】この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置の取り付け作業を示す説明図(その1)である。
図5】この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置の取り付け作業を示す説明図(その2)である。
図6】この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置の取り付け作業を示す説明図(その3)である。
図7】この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置の取り付け作業を示す説明図(その4)である。
図8】この発明にかかる別の実施の形態の架空線保持装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる架空線保持装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
まず、この発明にかかる架空線保持装置の実施の形態の相間スペーサの構成について説明する。図1図2および図3は、この発明にかかる実施の形態の相間スペーサの構成を示す説明図である。この実施の形態においては、平行に架設された3本の電線どうしの間隔を所定の間隔に保持する相間スペーサへの適用例について説明する。
【0025】
図1図2および図3において、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置(相間スペーサ)100は、スペーサ本体101を備えている。スペーサ本体101は、略十字形状をなし、4本のアーム部101a、101b、101c、101dを備える。スペーサ本体101は、たとえば、磁気材料を用いて形成することができる。
【0026】
スペーサ本体101は、掌握金具102を備えている。掌握金具102は、略十字形状をなすことによる4本のアーム部101a、101b、101c、101dのうちの1本のアーム部101aに設けられている。掌握金具102は、たとえば、断面が円形の電線を保持する丸線掌握金具によって実現することができる。
【0027】
掌握金具102は、直角クレビス103を介してアーム部101aに連結されている。掌握金具102は、直角クレビス103により、アーム部101aの軸心方向に平行な軸心周りに回転可能に連結されている。直角クレビス103は、たとえば、軟鋼を用いて形成することができる。掌握金具102は、一対の金属板104、105と、当該一対の金属板104、105を連結する2本のボルト106(106a、106b)および各ボルト106(106a、106b)に螺合するナット107(107a、107b)と、によって構成されている。一方の金属板104には、溝104aが設けられている。
【0028】
掌握金具102は、一対の金属板104、105の間であって2本のボルト106の間にメッセンジャーワイヤを通した状態で、ボルト106およびナット107を締め込むことによって、一対の金属板104、105によりメッセンジャーワイヤを挟持する。これにより、メッセンジャーワイヤに掌握金具102を取り付けることができる。メッセンジャーワイヤは、間隔を所定の間隔に維持する対象となる3本の電線よりも、鉛直方向において上側に架設される。架空線保持装置100は、掌握金具102が鉛直方向における上側に位置する姿勢で取り付けられる。
【0029】
一対の金属板104、105のうち一方の金属板は、直角クレビス103に固定されている。一対の金属板104、105のうち他方の金属板は、直角クレビス103には固定されておらず、2本のボルトおよび各ボルトに螺合するナットによって一方の金属板に取り付けられる。他方の金属板においては、2本のボルトのうちの1本のボルトが貫通する穴と、別の1本のボルトの挿入を許容するスリットと、が設けられている。スリットは、別の1本のボルトを一方の金属板に挿入した状態で、1本のボルトを中心として他方の金属板の回動を許容するように、1本のボルトを中心とし、2本のボルト間の距離を半径寸法とする円の円周に沿って開口するように設けられている。
【0030】
また、スペーサ本体101は、アーム部101b、101c、101dに、それぞれ設けられたクランプ部108(108b、108c、108d)を備えている。クランプ部108は、それぞれ、連結機構109を介して各アーム部101b、101c、101dの先端に取り付けられている。連結機構109は、アーム部101b、101c、101dの先端部に対してクランプ部108(108b、108c、108d)を回動可能に連結するボールジョイント構造をなす自在継手を備えている。
【0031】
図2においては、便宜的にクランプ部108cの連結機構109を示しているが、その他のクランプ部108b、108dの連結機構109も同様の構造をなす。ボールジョイント構造をなす自在継手は、金属製の球状あるいは半球状の部材201と当該球状あるいは半球状の部材201の頂部に設けられた丸棒202とによって構成されるボールスタッドと、ボールスタッドにおける球状あるいは半球状の部材201の外表面と球面接触するソケット203と、からなる。
【0032】
球状あるいは半球状の部材201は、ソケット203内において3次元で回転可能とされている。これにより、自在継手においては、アーム部101b、101c、101dの軸心方向に対する丸棒202の軸心方向を任意の角度に変えることができる。各アーム部101b、101c、101dに設けられた連結機構109は、それぞれ、加えられた外力に応じて、アーム部101b、101c、101dに対するクランプ部108b、108c、108dの取付角度を変化させる可撓性を備えている。ボールジョイント構造をなす自在継手の構成や自在継手の構造および自在継手を構成する各部の動作については公知の技術であるため説明を省略する。
【0033】
クランプ部108が挟持する電線の架線方向に応じて、アーム部101b、101c、101dの軸心方向に対する丸棒202の軸心方向を任意の角度に変えることにより、スペーサ本体101の姿勢に左右されることなく、電線を挟持することができ、架空線保持装置100の取り付け作業に際しての自由度を確保することができる。
【0034】
また、連結機構109は、ボールジョイント機構における丸棒202を内周部に収容するように設けられたバネ110を備えている。バネ110は、たとえば、金属材料などを用いて形成することができる。バネ110は、コイル状をなし、圧縮される力に対して元の形状に復帰する反発力を利用する圧縮バネによって実現することができる。
【0035】
連結機構109において、バネ110は、加えられた外力に応じてアーム部101b、101c、101dに対するクランプ部108b、108c、108dの取付角度を変化させた場合にも、当該外力から解放されると、元の形状(アーム部101b、101c、101dの長さ方向に沿って平行な位置関係で、クランプ部108b、108c、108dがアーム部101b、101c、101dの先端に取り付けられた状態)に復帰させる弾性を備えている。これにより、クランプ部108b、108c、108dのアーム部101b、101c、101dに対する位置関係(姿勢)が一定に保たれ、クランプ部108b、108c、108dどうしの好ましい位置関係を容易かつ確実に確保することができる。
【0036】
クランプ部108は、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113とによって構成される一対のクランプ部材を備えている。クランプ部108は、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間に電線を挟持することによって、当該電線を保持する。上記の連結機構109は、連結機構109における丸棒202の一端を第1のクランプ部材112に固定することによって、クランプ部108に連結されている。
【0037】
第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113は、それぞれ、長手方向における中央部分が相反する方向に湾曲した弓形の形状をなす。これにより、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間には、電線を収容する収容空間114が形成される。
【0038】
第1のクランプ部材112の先端部および第2のクランプ部材113の先端部は、先端部ほど開くように傾斜するテーパー112a、113aが設けられている。第1のクランプ部材112の先端部および第2のクランプ部材113の先端部にテーパー112a、113aを設けることにより、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間(収容空間114)に電線を誘導し易くすることができる。
【0039】
第1のクランプ部材112は、連結機構109における丸棒202の一端に連結されているため、連結機構109に対する位置が固定されている。第2のクランプ部材113は、第1のクランプ部材112に対して回動可能に連結されている。第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113とは、ボルト301およびナット302によって連結されている。第2のクランプ部材113は、第1のクランプ部材112に対して、ボルト301を中心として回動可能に連結されている。
【0040】
第2のクランプ部材113は、第1のクランプ部材112に連結された連結位置(ボルト301)を中心として回動することにより、第1のクランプ部材112の先端部に対して、自身の先端部を近づけたり離間させたりする。第2のクランプ部材113の先端部を第1のクランプ部材112の先端部から離間させることにより、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との先端どうしの間に、取り付け対象となる電線を導入する開口部120を形成することができる。第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間には、電線を収容する収容空間114が形成されている。開口部120により収容空間114が開放され、収容空間114内に電線を収容することができる。
【0041】
クランプ部108は、メッセンジャーワイヤに掌握金具102を取り付けた状態において、水平方向よりも上方に向けて開口するように、各アーム部101b、101c、101dに連結されている。これにより、クランプ部108は、当該クランプ部108の下側から電線を支えるようにして当該電線に取り付けられる。
【0042】
クランプ部108は、それぞれ、第1のクランプ部材112に対する第2のクランプ部材113の位置を固定する、固定部材としての締付ボルト115を備えている。締付ボルト115は、第1のクランプ部材112に設けられたネジ穴に螺合しており、先端が第2のクランプ部材113の一端部に設けられた押圧片116に当接している。締付ボルト115は、締める方向に回転することにともない、第2のクランプ部材113の先端部が第1のクランプ部材112の先端部に接近する方向に、押圧片116を付勢する。
【0043】
締付ボルト115の頭部115aは、環形状(略「O」字型形状)をなす。締付ボルト115の頭部115aを環形状とすることにより、先端がフック状の間接活線工具を取り付けて締付ボルト115を締めたり緩めたりすることができる。これにより、間接活線工法によって架空線保持装置100を取り付ける場合にも、締付ボルト115に対する良好な操作性を確保することができる。締付ボルト115は、たとえば、金属材料を用いて形成することができる。
【0044】
クランプ部108において、締付ボルト115は、メッセンジャーワイヤに掌握金具102を取り付けた状態において、頭部115aが鉛直方向における下側に位置するように、第1のクランプ部材112に螺合されている。メッセンジャーワイヤに掌握金具102を取り付けた状態において、締付ボルト115の頭部115aが下側に位置することにより、架空線保持装置100の下方から取り付け作業をおこなう作業者が、締付ボルト115を視認し易くなり、また、間接活線工具による締付ボルト115の操作がし易くなる。
【0045】
クランプ部108において、第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113が互いに対向する位置(面)には、それぞれ弾性部材112b、113bが設けられている。弾性部材112b、113bは、たとえば、ゴムなどを用いて形成することができる。弾性部材112b、113bは、従来の架空線保持装置におけるブッシュと同様の機能を実現する。弾性部材112b、113bを設けることにより、従来の架空線保持装置のように取り付け作業に際して別途ブッシュを電線に取り付けることなく各クランプ部108が保持する電線と、第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113との間隙をなくすことができる。そして、これによって、電線に対するクランプ部108のすべりを防止するとともに、第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113によって電線を安定かつ確実に保持することができる。
【0046】
(架空線保持装置100の取り付け作業)
つぎに、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100の取り付け作業について説明する。図4図5図6および図7は、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100の取り付け作業を示す説明図である。
【0047】
この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100の取り付け作業は、以下に示すように、間接活線工法によっておこなうことができる。この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100の取り付け作業に際しては、まず、メッセンジャーワイヤ601に掌握金具102を取り付ける。
【0048】
図4および図5に示すように、掌握金具102の取り付けに際しては、まず、2本のボルト106a、106bのうち、直角クレビス103側の一方のボルト106bとナット107bとの螺合を緩め、他方の金属板105がボルト106aを中心として揺動可能な状態にする。直角クレビス103側の一方のボルト106bとナット107bとの螺合を緩める作業は、間接活線工法による作業に用いる共用操作棒の先端にラチェットを取り付けた間接活線工具を用いておこなうことができる。あるいは、事前にボルト106bを緩めておいてもよい。
【0049】
この状態で、一方の金属板104に設けられた溝104aにメッセンジャーワイヤ601を嵌め込んだ後、ボルト106aを中心として他方の金属板105を揺動させ、他方の金属板105を一方の金属板104に重ねあわせる。そして、一方の金属板104と他方の金属板105とを重ねあわせた状態で、他方のボルト106bを締め込む。これにより、一対の金属板104、105の間にメッセンジャーワイヤ601が挟持され、架空線保持装置100がメッセンジャーワイヤ601に固定される。
【0050】
つぎに、クランプ部108における締付ボルト115を緩める。クランプ部108におけるボルト締付ボルト115は、環形状とされた頭部115aを備えているため、たとえば、先端がフック状の間接活線工具を取り付けて締付ボルト115を緩めることができる。
【0051】
架空線保持装置100の取り付け作業に際しては、上記のように、先端がフック状の間接活線工具を用いることができる。先端がフック状の間接活線工具としては、たとえば、締付工具のバインド打器を用いることができる。締付工具のバインド打器は、先端が略「C」字形状をなしており、金属を用いて形成される。
【0052】
締付工具のバインド打器は、締付ボルト115と同じく金属製であるため、締付ボルト115に対してすべりやすい。締付工具のバインド打器が締付ボルト115に対してすべりやすいため、締付工具のバインド打器が締付ボルト115から外れやすくなることが懸念されるが、この実施の形態の架空線保持装置100においては、締付ボルト115の頭部115aを環形状とすることにより、間接活線工具(締付工具のバインド打器)を締付ボルト115の頭部からはずれにくくすることができる。これにより、間接活線工法によって架空線保持装置100を取り付ける場合にも、締付ボルト115に対する良好な操作性を確保することができる。
【0053】
そして、第1のクランプ部材112に対して第2のクランプ部材113を回動させ、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間に形成される収容空間114を開放する。この状態で、各クランプ部108における第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間(収容空間114)に電線602を収容する。第1のクランプ部材112の先端部および第2のクランプ部材113の先端部にテーパー112a、113aが設けられているため、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間(収容空間114)にスムーズに電線602を誘導することができる。
【0054】
その後、締付ボルト115を締め付ける。これにより、各クランプ部108において、収容空間114に収容された電線602が、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113とによって挟持された状態で固定される(図6を参照)。最後に、架空線保持装置100および当該架空線保持装置100が取り付けられた各電線602に、巻き付けバインドを巻き付ける(図7を参照)。
【0055】
上述した実施の形態においては、アーム部101b、101c、101dの先端部と、クランプ部108(108b、108c、108d)とを、ボールジョイント構造をなす連結機構109を介して連結するようにしたが、アーム部101b、101c、101dの先端部と、クランプ部108とを連結する構造はこれに限るものではない。
【0056】
図8は、この発明にかかる別の実施の形態の架空線保持装置の構成を示す説明図である。図8において、この発明にかかる別の実施の形態の架空線保持装置800は、上記の図1などにおいて示した架空線保持装置100におけるボールジョイント構造をなす連結機構109に代えて、連結機構801を備えている。
【0057】
連結機構801は、アーム部101b、101c、101dの先端部と、クランプ部108(108b、108c、108d)とを連結するバネを備えている。バネ110は、たとえば、金属材料などを用いて形成することができる。連結機構801におけるバネは、コイル状をなし、引っ張られる力に対して元の形状に復帰する復元力を利用する引っ張りバネによって実現することができる。連結機構801におけるバネは、圧縮される力に対しても変形し、元の形状に復帰する反発力を発揮する弾性を備えていてもよい。
【0058】
連結機構801におけるバネの復元力(反発力)は、クランプ部108(108b、108c、108d)の重量などに応じて適宜選択することができる。具体的には、連結機構801においては、たとえば、径が太い電線を保持対象とするために、クランプ部108(108b、108c、108d)の重量が重い場合、復元力(反発力)の大きなバネを用いる。
【0059】
また、比較的径が細い電線を保持対象とし、クランプ部108(108b、108c、108d)の重量が上記よりも軽い場合、当該クランプ部108(108b、108c、108d)の重量に応じた復元力(反発力)のバネを用いることができる。バネの復元力(反発力)は、バネを形成する金属製の線材の径や巻き径によって調整することができる。クランプ部108(108b、108c、108d)の重量に応じた復元力(反発力)のバネを選択することにより、架空線保持装置800の重量が不必要に増大することを抑え、たとえば、運搬時などにおける良好な取扱性を確保することができる。
【0060】
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100は、取り付け対象となる部材を挟持する掌握金具102が設けられたスペーサ本体101と、スペーサ本体101に設けられて当該スペーサ本体101からそれぞれ異なる方向に突出する複数のアーム部101a、101b、101c、101dと、アーム部101b、101c、101dのそれぞれに設けられたクランプ部108と、を備えたことを特徴としている。
【0061】
そして、クランプ部108が、取り付け対象となる部材を挟持する第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113と、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との位置関係を固定する固定部材としての締付ボルト115と、第1のクランプ部材112および第2のクランプ部材113にそれぞれ設けられて、第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113とが互いに対向する位置を覆う弾性部材112b、113bと、を備えたクランプ部108と、を備えたことを特徴としている。
【0062】
この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、各クランプ部108における第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間隔を調整するだけで、取り付け対象とする電線602の径に左右されることなく、架空線保持装置100の取り付けをおこなうことができる。また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、クランプ部材112、113の内周側に、それぞれ弾性部材112b、113bが設けられているため、弾性部材112b、113bの落下や電線602の損傷を発生させることなく、架空線保持装置100の取り付けを安全かつ確実におこなうことができる。
【0063】
このように、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、取り付け対象とする電線602の径に左右されることなく、間接活線工法によって安全かつ確実に架空線保持装置100を取り付けることができる。また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、取り付け対象とする電線602の径に左右されることなく、取り付け作業を間接活線工法によって容易におこなうことができるので、取り付け作業にかかる時間を短縮することができる。
【0064】
また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100は、第1のクランプ部材112が、アーム部101b、101c、101dに連結されており、第2のクランプ部材113が、第1のクランプ部材112に対して回動可能に連結されており、固定部材が、第1のクランプ部材112に設けられたネジ穴に対して締め込まれることによって第1のクランプ部材112に対する第2のクランプ部材の位置を固定するボルトであって、架空線保持装置100の取付状態において作業者による操作を受け付ける部分が鉛直方向下方に位置するように設けられていることを特徴としている。
【0065】
この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100は、間接活線工法による取り付け作業の実現を目的の1つとしている。間接活線工法による作業は、作業者が作業対象箇所から離間した位置において作業をおこなうことができる。これにより、充電部などに近づくことなく安全に作業をおこなうことができる。作業対象箇所が高所である状況において、間接活線工法による作業をおこなう場合、作業者は、作業対象箇所よりも下方に位置する。
【0066】
この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、クランプ部108における締付ボルト115の頭部115aが鉛直方向における下側に位置しているため、作業者は締付ボルト115の位置、すなわち、作業対象箇所を架空線保持装置100の下方から容易に視認することができる。これにより、締付ボルト115を容易かつ確実に締めることができ、作業精度を確保するとともに作業の容易化を図ることができる。
【0067】
また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100は、クランプ部108が、第1のクランプ部材112に対して第2のクランプ部材113を回動させることにより形成される第1のクランプ部材112と第2のクランプ部材113との間の空間に取り付け対象となる部材を導入する開口部120を形成し、開口部120が空間における水平位置より上方に開口するようにアーム部101b、101c、101dに設けられていることを特徴としている。
【0068】
この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、開口部120が空間における水平位置より上方に開口しているため、作業の途中で、各クランプ部108に保持させた電線602が、当該電線602の自重によってクランプから飛び出して落下してしまうことがない。これにより、取り付け作業を間接活線工法によって容易におこなうことができるので、取り付け作業にかかる時間を短縮することができる。
【0069】
また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100によれば、クランプ部108における締付ボルト115の頭部115aが環形状をなしているため、先端がフック状の間接活線工具を取り付けた場合に、当該間接活線工具を締付ボルト115の頭部115aからはずれにくくすることができる。これにより、締付ボルト115を締めたり緩めたりする作業を確実におこなうことができる。
【0070】
締付ボルト115の頭部115aを環形状とすることにより、頭部が六角形状の従来のボルトを用いる場合と比較して、締付ボルト115を締め付けたり緩めたりする作業を容易におこなうことができる。これにより、間接活線工法による作業においても、作業の容易化を図ることができ、取り付け作業にかかる時間を短縮することができる。
【0071】
なお、この発明にかかる架空線保持装置100においては、締付ボルト115に代えて、頭部が略「C」字形状をなす締付ボルト(図示を省略する)を用いてもよい。頭部が略「C」字形状をなす締付ボルトを用いた場合、頭部が六角形状の従来のボルトを用いる場合と比較して、良好な操作性を確保することができ、締付ボルトを締め付けたり緩めたりする作業を容易におこなうことができる。これにより、間接活線工法による作業においても、作業の容易化を図ることができ、取り付け作業にかかる時間を短縮することができる。
【0072】
また、この発明にかかる実施の形態の架空線保持装置100は、アーム部101b、101c、101dとクランプ部108b、108c、108dとは、加えられた外力に応じて変形する可撓性あるいは弾性を備えた連結機構109(バネ110)を介して連結されていることを特徴としている。これにより、クランプ部108b、108c、108dのアーム部101b、101c、101dに対する位置関係(姿勢)が一定に保たれ、クランプ部108b、108c、108dどうしの好ましい位置関係を容易かつ確実に確保することができる。そして、これによって、クランプ部108b、108c、108dが指示する電線どうしの間隔を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、この発明にかかる架空線保持装置は、平行に架設された複数の高圧架空配電線どうしの間隔を保持する架空線保持装置に有用であり、特に、3本の高圧架空配電線どうしの間隔を保持する架空線保持装置に適している。
【符号の説明】
【0074】
100 架空線保持装置
101a、101b、101c、101d アーム部
102 掌握金具
108、108b、108c、108d クランプ部
109 連結機構
112 第1のクランプ部材
112a、113a テーパー
112b、113b 弾性部材
113 第2のクランプ部材
115 締付ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8