特許第6534013号(P6534013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534013
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】顎関節保護具及び歯科治療器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/01 20060101AFI20190617BHJP
   A61C 19/00 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   A61F5/01 Z
   A61C19/00 L
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-97903(P2015-97903)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-231520(P2015-231520A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-99420(P2014-99420)
(32)【優先日】2014年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514119340
【氏名又は名称】玉垣 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100101605
【弁理士】
【氏名又は名称】盛田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】玉垣 剛志
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06016807(US,A)
【文献】 特開2006−325670(JP,A)
【文献】 特開2001−299791(JP,A)
【文献】 特開2004−275654(JP,A)
【文献】 特開2009−100807(JP,A)
【文献】 実開平03−083513(JP,U)
【文献】 米国特許第07775938(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01
A61C 19/00
A61F 5/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎関節の脱臼を防止できる顎関節保護具であって、
頭部に被着される頭部被着部と、
オトガイ部から下顎底部の所定部位を介して下顎骨に牽引力を作用させる開口規制部を備え、
上記開口規制部は、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されるとともに、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨の下顎頭を側頭部の下顎窩に向かって所定の弾性力を作用させつつ所定の開口変位を許容する保持部材と、
上記下顎骨の開口変位に対応した上記保持部材の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成される、顎関節保護具。
【請求項2】
上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に装着されて上記下顎骨に牽引力を作用させる保持部を備え、
上記開口規制部は、上記頭部被着部と上記保持部とを連結して牽引力を作用させるように構成されている、請求項1に記載の顎関節保護具。
【請求項3】
上記開口規制部は、帯状の上記保持部材と、帯状の上記開口規制部材とを備えて構成されている、請求項1又は請求項2に記載の顎関節保護具。
【請求項4】
上記開口規制部材は、上記保持部材の上記変位を許容する凹部を備えて構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の顎関節保護具。
【請求項5】
上記保持部材は、上記下顎骨の変位を許容しつつ弾力を作用させる弾性部材を備えて構成されるとともに、
上記開口規制部材は、弾性伸縮しない材料又は変形しにくい材料から形成されている、請求項1から請求項4に記載の顎関節保護具。
【請求項6】
上記開口規制部は、上記下顎骨の変位可能な範囲を調節できるように構成されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の顎関節保護具。
【請求項7】
上記開口規制部は、上記下顎頭が、上記側頭骨の関節結節を乗り越えない範囲に、上記下顎骨の変位を規制できるように構成されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の顎関節保護具。
【請求項8】
上記開口規制部は、歯科治療を行うために必要な開口量を確保できる範囲で、上記下顎骨の変位を規制できるように構成されている、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の顎関節保護具。
【請求項9】
上記開口規制部は、上記下顎骨に作用する弾力を調節できるように構成されている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の顎関節保護具。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載された顎関節保護具を備える、歯科治療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、顎関節保護具及び歯科治療器具に関する。詳しくは、顎関節の脱臼を防止できるとともに、歯科治療時や食事をするのに必要な開口量(下顎骨の変位)を確保できる、顎関節保護具及び歯科治療器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顎関節は、下顎骨と側頭骨の間にある関節である。上記下顎骨の後上方は二股状になっており、後方の突起先端の下顎頭が、上記側頭骨にある凹状の下顎窩に嵌まり込んで構成されている。上記下顎窩の前方には、関節結節が下方に盛り上がった状態で存在している。食事をとる場合や、会話をしている場合、下顎骨は、上記下顎頭が上記下顎窩に嵌まった状態で回転変位(運動)させられる。
【0003】
一方、意識して大きく口を開けた状態では、下顎頭は、上記回転変位を行うとともに、上記関節結節の下方まで変位する。すなわち、顎関節は正常な開口運動においても一種の脱臼状態(不全脱臼)となることができる。
【0004】
上記下顎頭が上記下顎窩から外れて、上記関節結節を前方に乗り越えると脱臼状態(前方脱臼)となる。咀嚼筋が疲労したり、加齢によって顎関節の靱帯等が衰えると、大きく口を開口した際等に顎関節脱臼が生じやすくなり、また、自力で整復することも困難になる。また、顎関節脱臼が生じると、関節包等の軟部組織が損傷を受けることもある。さらに、顎関節脱臼が習慣的に繰り返し再発するようになる場合も多い。
【0005】
顎関節脱臼の治療及び再発を防止するには、下顎骨が開口変位しないように顎関節を固定するのが効果的である。顎関節を固定する手法として、包帯等を用いて下顎骨を側頭骨から離れないように固定することが多い。また、特許文献1に記載されているような顎外れ防止具も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3091155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記下顎骨が上記側頭骨に沿う位置から変位しないように、包帯等を用いて顎関節を固定することにより、顎関節脱臼を確実に防止できる。ところが、顎関節を閉口状態で固定すると、開口することが不可能となるため食事や歯磨きをすることもできなくなるばかりか、嘔吐した場合には嘔吐物を排出することができないため、窒息する危険もある。したがって、長期間顎関節を固定しておくことは実際上困難であり、顎関節脱臼が習慣的に再発する一因となっている。
【0008】
また、歯科治療を行う場合、食事を取る場合よりも大きな開口が必要である。このため、歯科治療の際に顎関節脱臼が発生しやすい。また、顎関節脱臼治療中の患者に対して治療を行う場合、上記包帯等を取り外す必要があるが、顎関節脱臼を再発させる恐れも大きくなる。
【0009】
さらに、顎関節脱臼の急性期には顎関節を固定するのが良いが、固定期間が長くなると咀嚼筋等の顎関節周りの筋肉の力が衰えて、食事等を行うのが困難になる。また、顎関節脱臼が再発する恐れも高まる。
【0010】
本願発明は、上記課題を解決するために案出されたものであって、必要に応じて所要の開口を許容できるとともに顎関節脱臼を効果的に防止し、種々の顎関節症の治療のみならず、食事をとったり歯科治療を行うことも可能となる、顎関節保護具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、顎関節の脱臼を防止できる顎関節保護具であって、頭部に被着される頭部被着部と、オトガイ部から下顎底部の所定部位を介して下顎骨に牽引力を作用させる開口規制部を備え、上記開口規制部は、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されるとともに、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨の下顎頭を側頭部の下顎窩に向かって所定の弾性力を作用させつつ所定の開口変位を許容する保持部材と、上記下顎骨の開口変位に対応した上記保持部材の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成されている。
【0012】
本願発明では、上記開口規制部は、上記保持部材によって、上記下顎骨の所定の開口範囲内において、上記下顎骨の下顎頭を側頭骨の下顎窩に向かって弾力付勢できるように構成されている。このため、下顎骨に顎関節脱臼を生じさせる方向と反対方向の力を作用させた状態で下顎骨の回転変位が許容され、この範囲での開口動作が許容される。したがって、顎関節脱臼を効果的に防止しつつ、食事等をとることが可能となる。
【0013】
上記下顎頭を上記下顎窩から離脱させないように作用すれば、上記弾力付勢する方向は特に限定されることはない。たとえば、前方脱臼を防止するため、オトガイ部から斜め後方に牽引力が作用するように構成することができる。また、顎関節の直下近傍から上方に作用する牽引力を作用させることもできる。さらに、上記頭部被着部を、後頭部から首部まで覆うように形成し、上記開口規制部を首部から延びるように構成することにより、水平方向に作用する牽引力を作用させることも可能となる。
【0014】
また、下顎骨を弾力付勢された状態で変位させることができるため、筋力が衰えた高齢者化等の咀嚼筋等を補完することができ。このため、食事等を容易に行えるという効果も期待できる。上記弾力の大きさは特に限定されることはない。たとえば、閉口状態で維持するのに必要な弾力を作用させるように構成するように調整することもできる。さらに、一般成人の能動的開口力は、男性10Kg、女性8kgとされており、開口力を高めることにより、嚥下能力が高まるという報告がなされている。したがって、本願発明に係る顎関節保護具を、開口力を維持し、あるいは高めるために用いることもできる。
【0015】
また、上記開口規制部は、上記規制部材によって、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制するように構成されている。顎関節の脱臼を防止するには、医師あるいは歯科医師が顎関節の状態を勘案して、開口が許容される安全域を設定し、これに対応して変位量を規制するのが好ましい。たとえば、20mmの開口量(閉口状態からの変位量)で脱臼しないことが確認された場合、20mm以上開口しないように設定することができる。上記開口量の設定値は、患者の顎関節を再脱臼させて求めることもできる。これにより、顎関節脱臼が頻繁に生じる患者であっても、顎関節脱臼を確実に防止しつつ、食事等の日常生活をおこなうことが可能となる。また、開口が許容された状態で顎関節脱臼を防止できるため、嘔吐した場合にも嘔吐物を容易に取り出すことが可能となり。窒息する危険もなくなる。嘔吐物を排泄するための開口変位量は、顎関節脱臼が生じない範囲で10mm以上確保するのが好ましい。これにより、本願発明に係る顎関節保護具を、顎関節周りの種々の治療に用いることも可能となる。
【0016】
また、上記開口規制部は、上記下顎頭が、上記側頭骨の関節結節を乗り越えない範囲に、上記下顎骨の変位を規制できるように構成することができる。これにより、上記下顎頭の上記下顎窩内での回転変位のみが許容され、顎関節脱臼を効果的に防止しつつ、ある程度大きな開口をさせることが可能となり、歯科治療等を行う際に必要な開口量を確保することも可能となる。
【0017】
なお、顎関節脱臼を防止できる開口変位の規制値は、顎関節の骨格や状態によって患者ごとに、また、開口が必要な場面ごとに設定することができる。たとえば、歯磨きや食事を行う場合や、歯科治療を行う場面に応じて、患者ごとに設定することができる。これにより、上記各場面において、患者のみならず、医師や歯科医師の安心感も得ることができる。
【0018】
上記頭部被着部の形態は特に限定されることはなく、上記開口規制部から作用する牽引力をバックアップできるように構成されていればよい。たとえば、帽子状の頭部被着部を採用することができる。また、硬質の材料を用いてヘルメット状の頭部被着部を採用することもできる。また、頭部から首部を覆うように形成して、上記開口規制部が延出する方向を変更し、作用する力の方向を調整するように構成することもできる。
【0019】
上記顎関節保護具を、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に装着されて上記下顎骨に牽引力を作用させる保持部を備えて構成するとともに、上記開口規制部を、上記頭部被着部と上記保持部とを連結して牽引力を作用させるように構成することができる。
【0020】
上記保持部は、所要の方向へ牽引力を作用させることができれば、装着位置及び形態は特に限定されない。たとえば、オトガイ部に被着するような椀状の保持部を採用することができる。また、必要に応じて左右の下顎骨の基端部に掛け渡すように上記保持部を構成し、下顎骨を上方に牽引する力を作用させるように構成することもできる。さらに、下顎骨の底面全体を覆うように保持できる保持部を採用することもできる。
【0021】
記開口規制部を、上記下顎骨の変位を許容しつつ弾力を作用させる保持部材と、上記下顎骨の変位が所定範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成することができる。
【0022】
上記保持部材の形態やこれを構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、紐状や帯状のゴム材料等の弾性部材を備えて形成することができる。
【0023】
上記開口規制部材の形状やこれを構成する材料も特に限定されることもない。上記開口規制部材は、弾性伸縮しない材料あるいは変形しにくい材料から形成され、上記下顎骨が所定の変位を越えないように構成される。たとえば、伸縮しない金属製あるいは樹脂製の紐状あるいは帯状の部材を採用できる。また、上記弾性部材に対する伸縮率が非常に小さい帯状の織物等から形成することもできる。上記開口規制部材によって、下顎骨の変位を確実に規制できるため、顎関節脱臼を確実に防止できる。
【0024】
上記保持部材と上記開口規制部材とは、一体的に形成した帯状あるいは紐状に形成することもできる。たとえば、上記保持部材を構成する細紐状の弾性部材と開口規制部材とを一体的に編成することにより、所定量の弾性伸縮が許容され、それ以上の伸びが規制される編成体を構成できる。
【0025】
また、上記開口規制部を、帯状の上記保持部材と、帯状の上記開口規制部材とを備えて構成することもできる。上記保持部材と上記開口規制部材とを帯状に形成し、これらを独立して変形できるように重ねて配置することにより、スペースをとることなく上記開口規制部を構成できる。開口が許容される場面においては、上記保持部材が所定量弾性伸長するとともに、上記開口規制部材が弛んだ状態で、上記頭部被着部と上記保持部との間でそれぞれ掛け渡し状に保持される。一方、所定の開口変位が生じた場合、上記開口規制部材が緊張させられて、下顎骨にそれ以上の変位が生じないように規制する。これにより、顎関節が脱臼しない範囲での開口が可能となる。
【0026】
本願発明では、上記開口規制部を、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されるとともに、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨に所定の弾性力を作用させつつ所定の開口変位を許容する保持部材と、上記下顎骨の開口変位に対応した上記保持部材の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成している。
【0027】
上記保持部材は、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されて、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨に所定の弾性力を作用させつつ所定の変位を許容するように構成される。すなわち、上記保持部材は、自体が弾性力を作用させることができるように構成される。
【0028】
上記保持部材として、たとえば、上記頭部被着部と一体的に形成された弾性部材を採用することができる。上記保持部材は、たとえば、頭部に掛け回されて上記下顎骨に対して弾力を作用させつつ、その変位を許容するように構成することができる。
【0029】
一方、上記開口規制部材は、上記保持部材の上記変位を許容する凹部を備えて構成することができる。すなわち、上記保持部材によって、上記下顎骨が閉口位置にあるとき、上記凹部の底部と上記保持部材との間に所定の隙間が形成される一方、下顎骨の開口に伴う変位に応じて、上記隙間に上記保持部材が進入することにより、上記下顎骨の所定の変位が許容される。
【0030】
上記開口規制部材を、全体が弾性伸縮しない材料、あるいは変形しにくい材料から形成することにより、上記保持部材の上記凹部内における変形が許容される。なお、弾性伸縮の程度、変形しにくさの程度は、上記下顎骨の変位を規制できるものであれば足りる。また、上記開口規制部材として、上記保持部材に比べて変形抵抗が大きい材料を採用すれば所要の効果を期待できる。上記開口規制部材によって、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制できる。
【0031】
上記保持部材及び上記開口規制部材を、各々帯状の部材を備えて形成することができる。また、上記保持部材と上記開口規制部材に上記頭部被着部をそれぞれ形成し、これら部材を面方向に相対移動可能に重ね合わせて装着するように構成することができる。
【0032】
本願発明に係る顎関節保護具を装着する者によって、頭部被着部と下顎骨のとの間の間隔は異なる。また、食事や歯科治療を行う場面では、所定の開口を確保する必要がある。一方、閉口状態で下顎骨を完全に固定する必要がある場合もある。これら種々の場面において、上記開口規制部材を、閉口状態及び所要の開口変位が許容される範囲で調節できるように構成するのが好ましい。
【0033】
また、下顎骨を自然状態に保持するのに必要な牽引力も、各人によって異なる。このため、上記開口規制部の、上記下顎骨に作用する弾力を調節できるように構成するのが好ましい。たとえば、上記保持部と上記頭部被着部間における上記弾性部材の長さを調節して、作用する弾力を変化させることができるように構成することができる。
【0034】
さらに、下顎頭と下顎窩との間に存在する関節円板等が損傷している場合や、下顎骨骨折の場合等においては、上記弾力を常時作用させるのが好ましくない場合がある。このような場合、上記開口規制部材のみによって下顎骨の変位を阻止する一方、上記弾性部材からの弾力が作用しないように、上記弾性部材を調節できるように構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
顎関節脱臼を防止できるとともに、食事や歯科治療を行うことができる範囲の開口が許容される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本願発明に係る顎関節保護具の使用状態を示す側面図である。
図2図1に示す顎関節保護具の開口が許容されない状態で装着した場合の断面図 である。
図3図2における要部の拡大断面図である。
図4図2における要部の拡大断面図である。
図5】開口可能な設定で閉口した状態を示す断面図である。
図6図5に示す設定で開口した状態を示す断面図である。
図7】閉口状態を示す顎関節の側面図である。
図8】下顎頭が下顎窩に収容された状態で開口させた場合の顎関節の側面図である。
図9】下顎頭が下顎窩から離脱して、関節結節の下方まで変位した不全脱臼の状態 を示す顎関節の側面図である。
図10】下顎骨が前方脱臼した状態を示す断面図である。
図11】開口規制部材の第2の実施形態を示す図であり、開口が許容された状態を 示す図であり、図5に対応する断面図である。
図12図11に示した状態から、下顎骨を変位させてそれ以上の変位が規制され た状態を示す断面図である。
図13図11における要部の拡大断面図である。
図14】本願発明の第3の実施形態に係る顎関節保護具の側面図である。
図15】本願発明の第4の実施形態に係る顎関節保護具の正面である。
図16図15に示す顎関節保護具において、閉口状態を示す要部正面図である。
図17図15に示す顎関節保護具において、開口状態を示す要部正面図である。
図18図16におけるXVIII線に沿う断面図である。
図19図17におけるXI・線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。
【0038】
図1から図6に、本願発明に係る顎関節保護具の第1の実施形態を示す。また、図7から図10に、顎関節の状態を模式的に示す。
【0039】
図1に示すように、本実施形態に係る顎関節保護具1は、患者の頭部2に被着される頭部被着部3と、患者のオトガイ部25を覆うように装着される保持部4と、上記頭部被着部3と上記保持部4とを連結する左右一対の開口規制部5とを備えて構成されている。
【0040】
図1及び図2に示すように、上記頭部被着部3は、患者の頭部2を覆う帯状部材を組み合わせて形成されている。上記頭部被着部3の構成は、図に示す構成に限定されることはなく、患者の頭部2に被着されて、上記開口規制部5から作用する牽引力を支持できるものであれば、種々の形態のものを採用できる。たとえば、網状の部材から帽子状に構成された頭部被着部を採用できる。
【0041】
上記保持部4は、樹脂材料を用いてオトガイ部25に添着できる椀状に形成されており、図7に示すオトガイ部25の先端を覆うように装着される。上記保持部4の両側から帯状部材6,6が延出されており、その先端部に上記開口規制部5が設けられる。なお、上記保持部4の形態も、上記形態に限定されることはない。たとえば、オトガイ部を含む下顎骨20の下方全域を覆うように形成することもできる。
【0042】
図2に示すように、本実施形態における上記開口規制部5,5は、上記頭部被着部3の下端部に設けられる第1の連結部材7,7と、上記帯状部材6,6の先端部に設けられる第2の連結部材8,8と、これら連結部材を連結する帯状の弾性部材9,9及び帯状の開口規制部材10,10とを備えて構成されている。これら部材は、上記左右の開口規制部5,5にそれぞれ設けられている。
【0043】
上記弾性部材9は、帯状のゴム紐から形成されており、上端部が上記第1の連結部材7に止着される一方、下端部が、上記第2の連結部材8に対して連結位置を調節できるように連結されている。なお、上記弾性部材9は、予定される開口範囲で、作用する力に比例して変形する材料から形成するのが好ましい。
【0044】
上記開口規制部材10は、伸縮しないか、あるいは上記弾性部材9に比べて伸縮量が極めて小さい織物やシート状樹脂材料から形成することができる。上記開口規制部材10は、下端部が上記第2の連結部材8に止着される一方、上端部が、上記第1の連結部材7に連結位置を調節できるように連結されている。
【0045】
図3に示すように、上記第1の連結部材7は、矩形板状の基部7aと、この基部7aの外方面から側方へ突出する掛止突起12とを備えて構成されている。上記基部7aの内方面に上記頭部被着部3の下端部が止着されている。一方、上記基部7aの下方側外方面に、上記弾性部材9の上端部が止着されている。上記開口規制部材10の上端部近傍には、掛止穴11が所定間隔で設けられている。上記第1の連結部材7の掛止突起12に、上記開口規制部材10の所定の掛止穴11を係合させることにより、上記保持部4が所定位置から下方へ変位しないように規制して、上記頭部被着部3と上記保持部4とを連結することができる。
【0046】
図4に示すように、上記第2の連結部材8は、矩形状の基部8aと、上記弾性部材9を通挿できる通挿穴8bと、上記基部8aの下方外方面から側方へ突出する掛止突起13とを備えて構成されている。上記基部8aの内方面には、上記保持部4から延出する帯状部材6の上端部が止着されている。一方、上記通挿穴8bを設けた部分の外方面には、上記開口規制部材10の下端部が止着されている。上記弾性部材9の下端部近傍には、掛止穴14が所定間隔で設けられている。上記第2の連結部材8の掛止突起13と、上記通挿穴8bから延出する上記弾性部材9の所定の掛止穴14とを係合させることにより、上記弾性部材9に所定の弾性牽引力が作用した状態で、上記頭部被着部3と上記保持部4とを連結することができる。
【0047】
図2は、上述した顎関節保護具1を、閉口した状態の下顎骨を固定的に保持した状態で用いた場合を示す図である。
【0048】
図2に示す状態では、上記弾性部材9と上記開口規制部材10が共に緊張した状態で保持されている。これにより、図7に示すように、口を閉じて下顎骨20を側頭骨21に沿わせた位置で固定的に保持することができる。また、この状態では、開口規制部材10が緊張させられているため、口を開くことができない。これにより、顎関節脱臼の急性期や、口を閉じた状態で保持しなければならない場合に対応できる。なお、上記弾性部材9には、必要に応じて、弾性牽引力が発生するように設定することもできるし、弾性牽引力が発生しないように設定することもできる。
【0049】
図5に示すように、上記開口規制部材10に所定の弛みが生じるように、上記規制部材10における上記掛止穴11を選択して上記掛止突起12に係合させると、上記弛みがなくなるまでの上記下顎骨20の下方への変位が許容される。上記弛み量を、たとえば、図8に示すように、上記下顎骨20の下顎頭22が、側頭骨21の下顎窩23に収容された状態で回転変位できる範囲に設定することにより、上記下顎頭22が上記側頭骨21の関節結節24を乗り越えて変位することはなく、顎関節脱臼が生じない範囲で下顎骨を変位させることが可能となる。なお、上記下顎骨の変位量は、医師あるいは歯科医師が、顎関節の状態や開口が必要な場面に応じて、顎関節脱臼が生じない上記範内で設定するのが好ましい。これにより、食事をとったり、会話を行うことが可能となる。また、上記状態では、上記弾性部材9の弾力が作用した状態で開口することができるため、咀嚼筋等を補完して食事等を行うことも可能となる。
【0050】
歯科治療を行う場合等には、図8に示す状態よりさらに大きな開口が必要な場合がある。このような場合、上記開口規制部材10の弛み量をさらに大きく設定する。上述したように、上記下顎頭22が下顎窩23から離脱した不全脱臼が許容される位置まで開口可能なように、上記開口規制部材10の弛み量を設定することにより、顎関節の完全な脱臼を防止しつつ所要の開口を確保することが可能となる。また、上記下顎頭22が、上記関節結節24を完全に乗り越えることができないように設定することにより、図10に示す完全な脱臼状態となるのを確実に防止することが可能となる。これにより、大きな開口が要求される場合であっても顎関節脱臼が生じることを効果的に予防できる。このため、歯科治療を確実に行えるばかりでなく、治療中の患者や歯科医師の安心感が格段に高まる。
【0051】
図11から図13に、本願発明に係る顎関節保護具の第2の実施形態を示す。なお、本実施形態に係る図11図13は、開口規制部205近傍の断面図のみ示している。
【0052】
本実施形態に係る開口規制部205は、頭部被着部203の下端部に連結された第1の連結部材207と、図示しない保持部から延出する帯状部材206の上端部に連結される第2の連結部材208と、上記第1の連結部材207と上記第2の連結部材208を連結する弾性部材209及び開口規制部材210とを備えて構成される。
【0053】
上記第1の連結部材207は、矩形板状の基部207aと、上記弾性部材209を通挿できる通挿穴207bと、上記通挿穴207bの出口近傍に設けられる面ファスナー212とを備えて構成されている。
【0054】
上記基部207aの内面側に上記頭部被着部203の下端部が止着されるとともに、上記通挿穴207bを設けた部位の外面側に、上記開口規制部材210の上端部が止着されている。
【0055】
上記第2の連結部材208は、矩形板状の基部208aと、上記開口規制部材210を通挿できる通挿穴208bと、上記通挿穴208bの出口近傍に設けられる面ファスナー213とを備えて構成されている。
【0056】
上記基部208aの内面側に、上記帯状部材206の上端部及び上記弾性部材209の下端部が止着されている。
【0057】
上記弾性部材209の上端部内面には、上記面ファスナー212に係合する面ファスナー211が所定範囲に積層されている。上記面ファスナー212と上記面ファスナー211とを所定位置で係合させることにより、上記弾性部材209の第1の連結部材207と上記第2の連結部材208の間の長さを調節することができる。
【0058】
また、上記開口規制部材210の下端部内面には、上記基部208aに設けた面ファスナー213に係合する面ファスナー214が所定範囲に積層されている。上記面ファスナー213と上記面ファスナー214とを所定位置で係合させることにより、第1の連結部材207と上記第2の連結部材208の間の長さを調節することができる。
【0059】
図12及び図13に示すように、上記面ファスナー212と上記面ファスナー211、及び上記面ファスナー213と上記面ファスナー214は、上記弾性部材209と上記開口規制部材210の通挿穴207b,208bから延出する部分を側方に離間させることにより容易に係合を解除できる。また、係合を解除した状態で牽引することにより、上記面ファスナーの係合位置を無段階に調節することができる。これにより、上記弾性部材209と上記開口規制部材210の長さを無段階に調節して、作用する弾力及び下顎骨の開口規制位置を容易に調節することが可能となる。
【0060】
図14に、本願発明の第3の実施形態を示す。第3の実施形態は、下顎骨20の前後方向の変位を規制できるように構成したものである。下顎骨20の前後方向の変位を規制するため、両端部が、上記第2の連結部材に連結されるとともに、患者の首の周りに掛けまわされる前後規制部材30を設けている。
【0061】
上記前後規制部材30は、伸縮しない材料から形成されており、下顎骨20の前方への変位を規制することができる。これにより、下顎骨20が前方脱臼するのを確実に防止することが可能となる。
【0062】
また、図示はしないが、上記首周りに環状の補助部材を設けて、圧縮力及び牽引力を作用させることができる材料から形成された前後規制部材を上記補助部材に連結することにより、上記下顎骨の前後変位(水平方向変位)を阻止することも可能となる。これにより、顎関節の後方脱臼も防止することが可能となり、顎関節に係る種々の症状に対応することが可能となる。
【0063】
図15から図19に、本願発明の第4の実施形態を示す。
【0064】
第4の実施形態に係る顎関節保護具401では、オトガイ部25から下顎底部の所定部位に装着されて、下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨に所定の弾性力牽引を作用させつつ所定の変位を許容する保持部材409と、上記保持部材409の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材410とを備える開口規制部405が設けられる。
【0065】
上記保持部材409は、全体が弾性伸縮する帯状の部材から形成されており、上記オトガイ部25から下顎底部の所定部位、頭頂部2a及び側頭部2c,2cを囲むように掛け回されて、頭頂部2aに設けた面ファスナー411によって、上記オトガイ部25から下顎底部を上方に牽引する弾力を調整できるように構成されている。また、上記保持部材409における上記オトガイ部25から下顎底部の所定部位に掛け回される部分には、上記オトガイ部25に対するフィット性を高めるとともに、弾性を調節する補助部材404が添着されている。上記補助部材404も弾性伸縮できる材料から形成されている。
【0066】
一方、上記開口規制部材410は、頭頂部2a及び頭側部2c,2cに掛け回される帯状部材407と、上記保持部材410における上記オトガイ部25から下顎底部に対応する部分に重ねて装着される舟状部材406とを備えて構成される。上記舟状部材406は、上記オトガイ部25から下顎底部に対応する部分を収容できる凹部406aが形成されている。上記帯状部材407及び上記舟状部材406は、弾性伸縮変形しない材料か、あるいは変形しにくい材料から形成されている。
【0067】
上記開口規制部材410は、上記保持部材409の側部に設けた環状部材408によって、上記保持部材409と面方向に相対移動可能に重ね合わせて保持されている。また、上記開口規制部材410の頭頂部に対応する部位には、開口規制部材の長さを調整できるバックル部材421が設けられており、患者の頭部の形態に応じて上記開口規制部材410の長さを調節できるように構成されている。
【0068】
図18及び図19に示すように、上記保持部材410には、後頭部に掛け回される前後規制部430が一体的に延出形成されており、図示しない面ファスナーによって、上記開口規制部405を位置決めできるとともに、上記オトガイ部25から下顎底部に、後方に向かう弾力を作用させることができるように構成されている。
【0069】
上記構成の顎関節保護401において、閉口した状態では、図16及び図18に示すように、上記補助部材404の下方に、上記舟状部材406の凹部406aに対応した隙間406bが形成されている。
【0070】
一方、開口した状態では、図17及び部19に示すように、上記オトガイ部25から下顎底部が下方に変位させられる。これに伴い、これら部位に添着された上記補助部材404及び上記保持部材409が弾性変形させられて、上記舟状部材406の凹部406aに進入させられ、上記隙間406bが消失する。これにより、上記下顎骨に閉口方向に作用する弾力を作用させつつ所定の変位が許容される。
【0071】
また、上記開口規制部材405を構成する上記帯状部材407及び上記舟状部材406は、弾性伸縮変形しない材料か、あるいは変形しにくい材料から形成されている。このため、上記保持部材409及び補助部材404は、上記舟状部材406の底面を越えて変形することができない。これによって、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制される。したがって、上記第1の実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0072】
第4の実施形態では、上記凹部406aを有する上記舟状部材406を設けているため、顎関節保護具401装着する際に上記帯状部材407に弛みを設定する必要がない。このため、顎関節保護具401を容易に装着することができる。なお、上記バックル部材421によって、上記帯状部材407に所要の弛みを設定し、上記下顎骨の変位を調整することもできる。
【0073】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
顎関節脱臼を効果的に防止しつつ、所要の開口を確保できる顎関節保護具を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 顎関節保護具
2 頭部(患者)
2a 頭頂部
2c 側頭部
3 頭部被着部
4 保持部
5 開口規制部
6 帯状部材
7 第1の連結部材
7a 基部
8 第2の連結部材
8a 基部
8b 通挿穴
9 弾性部材
10 開口規制部材
11 掛止穴
12 掛止突起
13 掛止突起
14 掛止穴
20 下顎骨
21 側頭骨
22 下顎頭
23 下顎窩
24 関節結節
25 オトガイ部
203 頭部被着部
205 開口規制部
206 帯状部材
207 第1の連結部材
207a基部
207b通挿穴
208 第2の連結部材
208a基部
208b通挿穴
209 弾性部材
210 規制部材
211 面ファスナー
212 面ファスナー
213 面ファスナー
214 面ファスナー
401 顎関節保護具
404 補助部材
405 開口規制部405
406 舟状部材
406a 凹部
406b 隙間
407 帯状部材
408 環状部材
409 保持部材
410 開口規制部材
411 面ファスナー
430 前後規制部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19