【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、顎関節の脱臼を防止できる顎関節保護具であって、頭部に被着される頭部被着部と、オトガイ部から下顎底部の所定部位を介して下顎骨に牽引力を作用させる開口規制部を備え、
上記開口規制部は、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されるとともに、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨の下顎頭を側頭部の下顎窩に向かって所定の弾性力を作用させつつ所定の開口変位を許容する保持部材と、上記下顎骨の開口変位に対応した上記保持部材の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成されている。
【0012】
本願発明では、上記開口規制部は、
上記保持部材によって、上記下顎骨の所定の開口範囲内において、上記下顎骨の下顎頭を側頭骨の下顎窩に向かって弾力付勢できるように構成されている。このため、下顎骨に顎関節脱臼を生じさせる方向と反対方向の力を作用させた状態で下顎骨の回転変位が許容され、この範囲での開口動作が許容される。したがって、顎関節脱臼を効果的に防止しつつ、食事等をとることが可能となる。
【0013】
上記下顎頭を上記下顎窩から離脱させないように作用すれば、上記弾力付勢する方向は特に限定されることはない。たとえば、前方脱臼を防止するため、オトガイ部から斜め後方に牽引力が作用するように構成することができる。また、顎関節の直下近傍から上方に作用する牽引力を作用させることもできる。さらに、上記頭部被着部を、後頭部から首部まで覆うように形成し、上記開口規制部を首部から延びるように構成することにより、水平方向に作用する牽引力を作用させることも可能となる。
【0014】
また、下顎骨を弾力付勢された状態で変位させることができるため、筋力が衰えた高齢者化等の咀嚼筋等を補完することができ。このため、食事等を容易に行えるという効果も期待できる。上記弾力の大きさは特に限定されることはない。たとえば、閉口状態で維持するのに必要な弾力を作用させるように構成するように調整することもできる。さらに、一般成人の能動的開口力は、男性10Kg、女性8kgとされており、開口力を高めることにより、嚥下能力が高まるという報告がなされている。したがって、本願発明に係る顎関節保護具を、開口力を維持し、あるいは高めるために用いることもできる。
【0015】
また、上記開口規制部は、
上記規制部材によって、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制するように構成されている。顎関節の脱臼を防止するには、医師あるいは歯科医師が顎関節の状態を勘案して、開口が許容される安全域を設定し、これに対応して変位量を規制するのが好ましい。たとえば、20mmの開口量(閉口状態からの変位量)で脱臼しないことが確認された場合、20mm以上開口しないように設定することができる。上記開口量の設定値は、患者の顎関節を再脱臼させて求めることもできる。これにより、顎関節脱臼が頻繁に生じる患者であっても、顎関節脱臼を確実に防止しつつ、食事等の日常生活をおこなうことが可能となる。また、開口が許容された状態で顎関節脱臼を防止できるため、嘔吐した場合にも嘔吐物を容易に取り出すことが可能となり。窒息する危険もなくなる。嘔吐物を排泄するための開口変位量は、顎関節脱臼が生じない範囲で10mm以上確保するのが好ましい。これにより、本願発明に係る顎関節保護具を、顎関節周りの種々の治療に用いることも可能となる。
【0016】
また、上記開口規制部は、上記下顎頭が、上記側頭骨の関節結節を乗り越えない範囲に、上記下顎骨の変位を規制できるように構成することができる。これにより、上記下顎頭の上記下顎窩内での回転変位のみが許容され、顎関節脱臼を効果的に防止しつつ、ある程度大きな開口をさせることが可能となり、歯科治療等を行う際に必要な開口量を確保することも可能となる。
【0017】
なお、顎関節脱臼を防止できる開口変位の規制値は、顎関節の骨格や状態によって患者ごとに、また、開口が必要な場面ごとに設定することができる。たとえば、歯磨きや食事を行う場合や、歯科治療を行う場面に応じて、患者ごとに設定することができる。これにより、上記各場面において、患者のみならず、医師や歯科医師の安心感も得ることができる。
【0018】
上記頭部被着部の形態は特に限定されることはなく、上記開口規制部から作用する牽引力をバックアップできるように構成されていればよい。たとえば、帽子状の頭部被着部を採用することができる。また、硬質の材料を用いてヘルメット状の頭部被着部を採用することもできる。また、頭部から首部を覆うように形成して、上記開口規制部が延出する方向を変更し、作用する力の方向を調整するように構成することもできる。
【0019】
上記顎関節保護具を、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に装着されて上記下顎骨に牽引力を作用させる保持部を備えて構成するとともに、上記開口規制部を、上記頭部被着部と上記保持部とを連結して牽引力を作用させるように構成することができる。
【0020】
上記保持部は、所要の方向へ牽引力を作用させることができれば、装着位置及び形態は特に限定されない。たとえば、オトガイ部に被着するような椀状の保持部を採用することができる。また、必要に応じて左右の下顎骨の基端部に掛け渡すように上記保持部を構成し、下顎骨を上方に牽引する力を作用させるように構成することもできる。さらに、下顎骨の底面全体を覆うように保持できる保持部を採用することもできる。
【0021】
上記開口規制部を、上記下顎骨の変位を許容しつつ弾力を作用させる
保持部材と、上記下顎骨の変位が所定範囲を越えないように規制する
開口規制部材とを備えて構成することができる。
【0022】
上記
保持部材の形態やこれを構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、紐状や帯状のゴム材料
等の弾性部材を備えて形成することができる。
【0023】
上記
開口規制部材の形状やこれを構成する材料も特に限定されることもない。上記
開口規制部材は、弾性伸縮しない材料あるいは変形しにくい材料から形成され、上記下顎骨が所定の変位を越えないように構成される。たとえば、伸縮しない金属製あるいは樹脂製の紐状あるいは帯状の部材を採用できる。また、上記弾性部材に対する伸縮率が非常に小さい帯状の織物等から形成することもできる。上記
開口規制部材によって、下顎骨の変位を確実に規制できるため、顎関節脱臼を確実に防止できる。
【0024】
上記
保持部材と上記
開口規制部材とは、一体的に形成した帯状あるいは紐状に形成することもできる。たとえば、
上記保持部材を構成する細紐状の弾性部材と
開口規制部材とを一体的に編成することにより、所定量の弾性伸縮が許容され、それ以上の伸びが規制される編成体を構成できる。
【0025】
また、上記開口規制部を、帯状の上記
保持部材と、帯状の上記
開口規制部材とを備えて構成することもできる。上記
保持部材と上記
開口規制部材とを帯状に形成し、これらを独立して変形できるように重ねて配置することにより、スペースをとることなく上記開口規制部を構成できる。開口が許容される場面においては、上記
保持部材が所定量弾性伸長するとともに、上記
開口規制部材が弛んだ状態で、上記頭部被着部と上記保持部との間でそれぞれ掛け渡し状に保持される。一方、所定の開口変位が生じた場合、上記
開口規制部材が緊張させられて、下顎骨にそれ以上の変位が生じないように規制する。これにより、顎関節が脱臼しない範囲での開口が可能となる。
【0026】
本願発明では、上記開口規制部を、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されるとともに、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨に所定の弾性力を作用させつつ所定の開口変位を許容する保持部材と、上記下顎骨の開口変位に対応した上記保持部材の変位を規制して、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制する開口規制部材とを備えて構成
している。
【0027】
上記保持部材は、上記オトガイ部から下顎底部の所定部位に添着されて、上記下顎骨の所定の開口範囲において、上記下顎骨に所定の弾性力を作用させつつ所定の変位を許容するように構成される。すなわち、上記保持部材は、自体が弾性力を作用させることができるように構成される。
【0028】
上記保持部材として、たとえば、上記頭部被着部と一体的に形成された弾性部材を採用することができる。上記保持部材は、たとえば、頭部に掛け回されて上記下顎骨に対して弾力を作用させつつ、その変位を許容するように構成することができる。
【0029】
一方、上記開口規制部材は、上記保持部材の上記変位を許容する凹部を備えて構成することができる。すなわち、上記保持部材によって、上記下顎骨が閉口位置にあるとき、上記凹部の底部と上記保持部材との間に所定の隙間が形成される一方、下顎骨の開口に伴う変位に応じて、上記隙間に上記保持部材が進入することにより、上記下顎骨の所定の変位が許容される。
【0030】
上記開口規制部材を、全体が弾性伸縮しない材料、あるいは変形しにくい材料から形成することにより、上記保持部材の上記凹部内における変形が許容される。なお、弾性伸縮の程度、変形しにくさの程度は、上記下顎骨の変位を規制できるものであれば足りる。また、上記開口規制部材として、上記保持部材に比べて変形抵抗が大きい材料を採用すれば所要の効果を期待できる。上記開口規制部材によって、上記下顎骨の開口変位が所定の範囲を越えないように規制できる。
【0031】
上記保持部材及び上記
開口規制部材を、各々帯状の部材を備えて形成することができる。また、上記保持部材と上記
開口規制部材に上記頭部被着部をそれぞれ形成し、これら部材を面方向に相対移動可能に重ね合わせて装着するように構成することができる。
【0032】
本願発明に係る顎関節保護具を装着する者によって、頭部被着部と下顎骨のとの間の間隔は異なる。また、食事や歯科治療を行う場面では、所定の開口を確保する必要がある。一方、閉口状態で下顎骨を完全に固定する必要がある場合もある。これら種々の場面において、上記開口規制部材を、閉口状態及び所要の開口変位が許容される範囲で調節できるように構成するのが好ましい。
【0033】
また、下顎骨を自然状態に保持するのに必要な牽引力も、各人によって異なる。このため、上記開口規制部の、上記下顎骨に作用する弾力を調節できるように構成するのが好ましい。たとえば、上記保持部と上記頭部被着部間における上記弾性部材の長さを調節して、作用する弾力を変化させることができるように構成することができる。
【0034】
さらに、下顎頭と下顎窩との間に存在する関節円板等が損傷している場合や、下顎骨骨折の場合等においては、上記弾力を常時作用させるのが好ましくない場合がある。このような場合、上記
開口規制部材のみによって下顎骨の変位を阻止する一方、上記弾性部材からの弾力が作用しないように、上記弾性部材を調節できるように構成するのが好ましい。