特許第6534197号(P6534197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6534197
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】ヘッドレストスティおよびヘッドレスト
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/80 20180101AFI20190617BHJP
【FI】
   B60N2/80
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-558792(P2018-558792)
(86)(22)【出願日】2018年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2018015766
【審査請求日】2018年11月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396008934
【氏名又は名称】松本工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸介
【審査官】 須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−055941(JP,U)
【文献】 特開平09−028503(JP,A)
【文献】 特開2016−215929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/80 − 2/897
A47C 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物の座席のシートバックのヘッドレストに使用されるヘッドレストスティにおいて、
金属製の直管から形成されて、前記シートバックに支持される左右一対の脚部と、
金属製の管により形成され、その両端部がこれら一対の脚部の上端部にそれぞれ連結された略逆U字形状のブリッジ部とを備え、
これらのブリッジ部および一対の脚部にあって、一対の脚部のみは、少なくとも表面にメッキ処理が施されるとともに、
該ブリッジ部と該一対の脚部との2箇所の連結部分には、前記金属製の管同士が嵌合されて、この嵌合された管部分について管の周方向に複数箇所、かつその管の軸方向に複数箇所についてスポット的にカシメ加工が施されたヘッドレストスティ。
【請求項2】
前記一対の脚部と上記ブリッジ部との連結部分および前記ブリッジ部の屈曲部分のうちの少なくともいずれか一方は、その断面が長円形でその長軸が前記座席の前後方向に延びるように設けられた請求項1に記載のヘッドレストスティ。
【請求項3】
乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストにおいて、
請求項1または請求項2に記載のヘッドレストスティを用い、
前記ブリッジ部はクッション体に埋設され、該クッション体は表皮により被覆されるとともに、
前記一対の脚部は、この表皮から突出したヘッドレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はヘッドレストスティおよびヘッドレスト、詳しくは乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストスティおよびこれを使用したヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(乗り物)の座席のシートバックの上部には、着座乗員の頭部を保護するため、ヘッドレスト(頭部後傾抑止装置)が設けられている。このヘッドレストは、着座乗員の頭部が当たる枕部の外装材である袋状の表皮と、表皮の内部空間にブリッジ部が配される略逆U字形のヘッドレストスティと、このブリッジ部を収納した状態で表皮の内部空間に充填された発泡ウレタン(クッション体)とから形成されている。枕部の下面からは、ヘッドレストスティのブリッジ部の両端から下方へ延びた左右一対の脚部が突出する。
【0003】
従来のヘッドレストスティは、例えば、特許文献1のように、1本の金属製のパイプを略逆U字形状に屈曲して表面全体にメッキ塗装を施したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のヘッドレストスティは、このように1本の金属製のパイプを略逆U字形状に屈曲した大型のものであった。そのため、ヘッドレストスティをメッキ槽の溶液にドブ漬けして表面全体に亜鉛などを電気メッキする際、メッキ槽の陰極バーに掛止される“メッキラック(ひっかけ)”に吊り下げられるヘッドレストスティの本数が少なかった。その結果、1回の電気メッキで処理できるヘッドレストスティの本数が少なく、メッキ費用が高騰していた。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、枕部の発泡ウレタン(発泡体)に埋設されたヘッドレストスティのブリッジ部には、必ずしもメッキ処理をせずとも問題ないことに気付いた。そこで、ヘッドレストスティをブリッジ部と左右一対の脚部とに3分割し、このうちの各脚部のみにメッキ処理すれば、メッキラックに吊下可能な部材の本数が多くなり、メッキ費用の削減が図れて、メッキ処理の作業性が高まることを知見した。また、脚部とブリッジ部とに対して、それぞれ要求される機能や強度に適合した部材を任意に選択することが可能となり、ヘッドレストスティの品質やコストに優位性を与えることができるとともに、3分割によって、枕部の作製後に各脚部をブリッジ部の両端部に連結可能となり、ヘッドレスト作製中の各脚部のメッキ面へのキズの発生を抑制でき、さらにはヘッドレストをコンパクトに箱詰めできるため、輸送コストの低減が図れることを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
すなわち、この発明は、ヘッドレストスティのメッキ処理について、コスト低下を図り、その作業性を高められるとともに、脚部とブリッジ部とに対して、要求される機能や強度に適合した部材を任意に選択可能で、これにより、ヘッドレストスティの品質やコストに優位性を付与でき、さらにはヘッドレスト作製中の各脚部のメッキ面へのキズの発生を抑制できて、輸送コストも低減可能なヘッドレストスティ、ヘッドレストおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、乗り物の座席のシートバックのヘッドレストに使用されるヘッドレストスティにおいて、金属製の直管から形成されて、前記シートバックに支持される左右一対の脚部と、金属製の管により形成され、その両端部がこれら一対の脚部の上端部にそれぞれ連結された略逆U字形状のブリッジ部とを備え、これらのブリッジ部および一対の脚部にあって、一対の脚部のみは、少なくとも表面にメッキ処理が施されるとともに、該ブリッジ部と該一対の脚部との2箇所の連結部分には、前記金属製の管同士が嵌合されて、この嵌合された管部分について管の周方向に複数箇所、かつその管の軸方向に複数箇所についてスポット的にカシメ加工が施されたヘッドレストスティである。
【0009】
乗り物の種類は限定されない。例えば、自動車、電車、汽車、飛行機、船舶などを採用することができる。
座席の種類、形状およびサイズも、シートバックにヘッドレストを有するものであれば任意である。
ヘッドレストスティの構造は、枕部に埋設されるブリッジ部と、ブリッジ部の両端にそれぞれ連結された左右一対の脚部とを有している。
ヘッドレストスティの形状は略逆U字形状である。
【0010】
ブリッジ部の素材は、金属とする。
ブリッジ部は、パイプ材である。
このうち、パイプ材からなるブリッジ部の形状としては、略逆U字形状である。
また、パイプ材からなるブリッジ部の場合、各脚部とブリッジ部との連結部分と、ブリッジ部の屈曲部分とのうち、少なくとも何れか一方は、各断面がそれぞれ長円形で、各長軸が座席の前後方向に延びるように設けてもよい。このように構成すれば、断面円形の丸パイプから形成されたブリッジ部や、この長円形の長軸方向を(座席の)左右方向に向けたブリッジ部とした場合に比べて、断面係数が大きく高剛性となるため、例えば急停車時、着座乗員の頭部が枕部にぶつかって、ブリッジ部の上述した部分に大きな曲げモーメントが作用しても、ブリッジ部は変形しにくい。
【0011】
各脚部を構成する直管の素材は、ヘッドレストスティの脚部としての強度を有する金属であれば任意である。例えば、各種の鋼などを採用することができる。
【0012】
各脚部の太さ(外径)は任意である。例えば、10mm〜20mmでもよい。
2本の脚部のうちの少なくとも1本には、複数のノッチを長さ方向に所定ピッチで形成してもよい。これらのノッチには、シートバックからのヘッドレストの高さを調節する調節機構の掛止爪が掛止される。
各脚部の厚さは任意である。また、左右の脚部の厚さを異ならせてもよい。例えば、強度が必要な複数のノッチが形成された側の脚部を厚肉とし、ノッチが無い側の脚部を薄肉としてもよい。
【0013】
メッキ処理の方法は任意である。例えば、電気メッキでもよい。
メッキの溶液に含まれる金属は限定されない。例えば、亜鉛、ニッケル、クロムなどを採用することができる。
メッキ処理されるのは脚部のみで、ブリッジ部はメッキ処理されない。
各脚部のうち、メッキ処理される領域は、その表面のみでも、その他の部分を含めてもよい。
【0014】
ブリッジ部と各脚部との連結構造は、例えば、対応する端部を縮径または拡径して行うパイプ同士の嵌合構造(圧入構造)を採用することができる。その他、各連結部分に連結用のスリーブを内篏して行うスリーブ嵌合構造(別の圧入構造)でもよい。
連結強度をさらに高めるため、各連結部分(スリーブ付きの場合にはスリーブごと)に、カシメを行う。
【0015】
ブリッジ部と各脚部との連結(組立)時期は、製品出荷の直前とした方が、メッキ処理した脚部が傷つきにくいので好ましい。なお、この連結作業は、例えば海外を含めた出荷先の組立工場で行ってもよい。その際には、3分割したことで、ヘッドレストをコンパクトに箱詰めでき、輸送コストの低減を図ることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記一対の脚部と上記ブリッジ部との連結部分および前記ブリッジ部の屈曲部分のうちの少なくともいずれか一方は、その断面が長円形でその長軸が前記座席の前後方向に延びるように設けられた請求項1に記載のヘッドレストスティである。
【0017】
ブリッジ部の素材としては、各種の金属パイプを採用することができる。
ブリッジ部用のパイプの太さ(外径)は任意であるものの、脚部の直径より小径にすれば、ヘッドレストスティの軽量化が図れる。
その場合、ブリッジ部のパイプ径と脚部のパイプ径との比率は任意である。例えば、脚部のパイプ径の50〜90%でもよい。
ブリッジ部は、各脚部より薄肉な金属パイプから設けてもよい。この場合には、屈曲部分にスリーブを内篏して補強した方が好ましい。
【0018】
また、各脚部とブリッジ部との連結部分や、ブリッジ部に設けられた屈曲部分は、(乗り物の座席の)左右方向より、(座席の)前後方向を幅広にした方が高剛性化が図れて好ましい。このことは、直管の状態のまま、または、左右方向を幅広に加工したときより断面係数が大きくなるように、連結部分の前後方向の長さを、その左右方向の長さより長くすることを意味する。これは、例えば薄肉化したブリッジ部の連結部分の剛性を、スリーブを使用せずに高めるためる方法として有効となる。
このような形状に脚部とブリッジ部との連結部分を付形する方法としては、カシメを採用する。
また、ブリッジ部のうち、脚部との連結側の端部は、例えば、縮径化または拡径化することで、脚部との連結が可能な直径としなければならない。
【0019】
請求項3に記載の発明は、乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストにおいて、請求項1または請求項2に記載のヘッドレストスティを用い、前記ブリッジ部はクッション体に埋設され、該クッション体は表皮により被覆されるとともに、前記一対の脚部は、この表皮から突出したヘッドレストである。
【0020】
表皮の素材は任意である。例えば、各種の布帛(織布、不織布、編布)、各種の皮革(天然皮革、合成皮革)などでもよい。
【0021】
クッション体(弾性体、緩衝体)の素材は限定されない。例えば、各種の発泡合成樹脂などを採用することができる。
クッション体は、例えば、ブリッジ部が配された表皮の内部空間に射出材料を射出して設けることができる。その他、あらかじめ設けたクッション体を、ブリッジ部が収納された表皮の中に詰め込んでもよい。また、ブリッジ部の外周面へのクッション体の接着、または紐などによるブリッジ部への締結でもよい。
【0022】
カシメ用空間のサイズは、カシメ具を用いて、各脚部とブリッジ部との連結部分をそれぞれカシメることができる大きさ(広さ)であれば任意である。
カシメ用空間の形成方法は任意である。例えば、表皮内への射出成型材料の注入量を調整する方法などを採用することができる。その他、例えば、表皮の素材に対して低接着力の材料を選択的に使用し、表皮の各挿通孔に各脚部の上端部を差し込んだとき、各挿通孔の形成部の裏面からその周辺のクッション体の一部分が剥がして内方へ押し込むことにより、各カシメ用空間を現出するようにしてもよい。
カシメ具としては、例えば、ペンチ、ヤットコなどの手動式のものを採用することができる。その他、アクチュエータによりカシメ力を作用させる自動カシメ装置でもよい。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載のヘッドレストスティによれば、ヘッドレストスティをブリッジ部と左右一対の脚部とに3分割し、このうちの各脚部のみにメッキ処理を施した。そのため、メッキ処理時、メッキラックに吊下可能な部材の本数が増加し、メッキ処理のコスト低下およびメッキ処理の作業性を高めることができる。よって、ヘッドレストスティの脚部とブリッジ部とにおいて、それぞれの機能や要求強度に適合した部材を任意に選択することが可能となり、ヘッドレストスティ、ひいてはヘッドレストの品質やコストに優位性を付与できる。
また、このようにヘッドレストスティを3分割したことで、枕部の作製後に各脚部をブリッジ部の両端部に連結することが可能となり、ヘッドレスト(特に枕部の)作製中の各脚部のメッキ面へのキズの発生を抑制することができる。さらには、このブリッジ部と各脚部との連結作業を、例えば海外を含めた出荷先(現地)の組立工場で行うことも可能となり、その際には、ヘッドレストをコンパクトに箱詰めでき、輸送コストの低減を図ることができる。
【0024】
特に、メッキされていないブリッジ部が配された表皮の内部空間にクッション体を充填することで枕部を作製する。このとき、各カシメ用空間にはブリッジ部の連結部分が露出している。
その後、例えば出荷直前に表皮の各挿通孔に、少なくとも表面がメッキ処理された各脚部の上端部を挿通して、各脚部とブリッジ部とをそれぞれ連結してから、各挿通孔を介して、対応するカシメ用空間にカシメ具を挿入し、各脚部とブリッジ部との連結部分をそれぞれカシメる。
このように、枕部の内部に各カシメ用空間を形成し、これらのカシメ用空間内で各脚部とブリッジ部とを連結してカシメるように構成したため、メッキ剥がれを伴うカシメ痕は表皮により隠される。その結果、ヘッドレストスティが3分割されたものでありながら、製造されたヘッドレストは、デザイン的および強度的にも従来品とそん色がない。
【0025】
また、ヘッドレストの製造方法によれば、ヘッドレストスティを、メッキ処理された金属製の直管からなる左右一対の脚部と、メッキ処理されていない所定の素材からなるブリッジ部とに3分割して設ける。その後、このブリッジ部を埋設したクッション体を表皮により被覆して、枕部を作製する。
枕部の作製後、少なくとも表面がメッキ処理された各脚部の上端部を各挿通孔に挿入し、これらをクッション体に埋設したブリッジ部に連結する。
その結果、従来は枕部の作製中、ブリッジ部と一体化した各脚部のメッキ面にキズが発生していたが、それを無くすことができる。こうして、請求項1に記載のヘッドレストスティを有したヘッドレストを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の参考例1に係るヘッドレストスティを示す斜視図である。
図2】この発明の参考例1に係るヘッドレストの使用状態を示す縦断面図である。
図3】この発明の参考例1に係るヘッドレストの使用状態を示す要部拡大縦断面図である。
図4】この発明の参考例1に係るヘッドレストの製造方法を示すフローチャートである。
図5】この発明の参考例1に係るヘッドレストスティのスリーブを使用した脚部とブリッジ部との連結構造を示す要部拡大斜視図である。
図6】この発明の参考例1に係る別のヘッドレストスティのスリーブを使用した脚部とブリッジ部との連結構造を示す要部拡大縦断面図である。
図7】この発明の参考例2に係るヘッドレストスティの薄肉なブリッジ部の屈曲部分を示す拡大斜視図である。
図8】この発明の参考例2に係るヘッドレストスティを示す斜視図である。
図9】この発明の参考例2に係るヘッドレストスティのブリッジ部の屈曲部分を示す拡大斜視図である。
図10】この発明の参考例3に係るヘッドレストスティを示す斜視図である。
図11】この発明の参考例4に係るヘッドレストスティを示す斜視図である。
図12】この発明の参考例4に係るヘッドレストスティの別の態様を示す斜視図である。
図13】この発明の実施例5に係るヘッドレストスティの要部拡大斜視図である。
図14】この発明の実施例5に係るヘッドレストスティの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施例を、図面を参照して具体的に説明する。ここでは、説明の都合上、左右方向を乗り物の座席の幅方向、前後方向を座席の前後方向とする。
【実施例】
【0028】
図1図3において、10はこの発明の参考例1に係るヘッドレストスティ10で、このヘッドレストスティ10は、自動車(乗り物)11の座席12のシートバック13のヘッドレスト14に使用される略逆U字形状の部材で、金属製の直管から形成された左右一対の脚部15と、各脚部15の上端部同士を連結するステンレス製のパイプからなるブリッジ部16とを備えている。
【0029】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。まず、ヘッドレスト14を説明する。
ヘッドレスト14は、着座乗員の頭部が当たる枕部17を本体とする。この枕部17は、その外装材である袋状の表皮18と、表皮18の内部空間に配された前記ブリッジ部16と、このブリッジ部16を埋設した状態で表皮18の内部空間に一体的に充填されるクッション体19とを有している。
【0030】
表皮18は、薄肉な合成皮革を袋状に縫製したものである。表皮18の下部(底布の部分)には、ブリッジ部16の一部がそれぞれ突出する左右一対の挿通孔18aが形成されている。
ブリッジ部16は、直径(外径)12.7mm、厚さ2mmのステンレス製の直管を、所定形状に屈曲したものである。具体的には、ブリッジ部16は下向きコの字形に屈曲した中央杆20Aを有し、この中央杆20Aの両下端部に、斜め後方へ向けて外広がりした左右一対の側部杆20Bがそれぞれ一体的に連結されたものである。これらの側部杆20Bの下端部は、直下に向かってそれぞれ屈曲している。これらの直下部分の下端部には、対応する脚部15の上端部に嵌入される左右一対の縮径部(連結部分)21がそれぞれ形成されている。各縮径部21の下端部分は、対応する挿通孔18aから下方へ突出される。
【0031】
各脚部15は、座席12のシートバック13に内蔵されたフレーム22に、2本のスティ保持具23を介して、上下方向にスライド自在に支持されるものである。
各脚部15は、直径(外径)12.7mm、厚さ2mmのステンレス製の直管である。各脚部15の長さは同一である。このうち、図1中の右側の脚部15の内側面(左側面)には、長さ方向に所定ピッチで複数のノッチ15aが形成されている。これらのノッチ15aには、スティ保持具23が有する図示しない掛止爪が掛止される。
クッション体19は、発泡ウレタンフォーム製の枕状をした緩衝ブロックである。
図3に示すように、枕部17の下部内には、各挿通孔18aと連通する一対のカシメ用空間24がそれぞれ形成されている。各カシメ用空間24には、前記各縮径部21がそれぞれ露出している。
【0032】
次に、図4のフローシートに基づき、この発明の参考例1に係るヘッドレストスティ10を使用したヘッドレスト14の製造方法を説明する。
まず、ヘッドレストスティ10のブリッジ部16用の長尺な1本の直管と、各脚部15用の短尺で同一長さの2本の直管とをそれぞれ準備する(直管の準備工程)。
その後、長尺な直管を所定形状に屈曲してブリッジ部16を形成し(ブリッジ部形成工程)、また各短尺な直管を加工して、一対の脚部15をそれぞれ形成する(脚部形成工程)。
次いで、数10本の脚部15をまとめて吊下可能なメッキラック(ひっかけ)に、各脚部15をそれぞれ吊下し、これらをニッケルクロム溶液が貯液された電気メッキ槽の陰極バーに掛止する。これにより、各脚部15がニッケルクロム溶液にドブ漬けされる。この状態で通電することで、表面全体にニッケルクロムが電気メッキされる(脚部のメッキ工程)。
【0033】
次に、枕部17の本体となるクッション体19を射出成型する(発泡成形工程)。以下、この工程を具体的に説明する。
クッション体19の射出成形時には、まず表皮18の内部空間にヘッドレストスティ10のブリッジ部16を収納する。この状態で、表皮18の内部空間に発泡ウレタンの射出成形材料を注入し、これを発泡させて、枕形状のクッション体19を射出成形する。このとき、各挿通孔18aの内側に各カシメ用空間24が配設されるとともに、各挿通孔18aからはブリッジ部16の対応する縮径部21の先部がそれぞれ突出するように、表皮18への射出成型材料の注入量を調整する。こうして、表面が表皮18により被われて、ブリッジ部16が埋設された枕部17が作製される。なお、これらのカシメ用空間24は、必ずしも形成する必要はない。
メッキ処理された各脚部15とメッキ処理されていないブリッジ部16とは、所定の品質検査を施した後にそれぞれ保管される。
【0034】
次に、出荷直前において、各脚部15とブリッジ部16とのカシメ連結が行われる(直管のカシメ連結工程)。具体的には、表皮18の各挿通孔18aから突出した各縮径部21の下端部をガイドにして、メッキ処理された各脚部15の上端部を各縮径部21にそれぞれ外嵌する。
次いで、各挿通孔18aを介して、対応するカシメ用空間24にカシメ具25の先端部を挿入し、各脚部15とブリッジ部16との連結部分をそれぞれカシメる(図3参照)。その結果、従来は枕部17の作製中、ブリッジ部16と一体化した各脚部15のメッキ面にキズが発生していたものの、それを無くすことができる。
【0035】
なお、ここでは、表皮18への射出成型材料の注入量を調整することで、各カシメ用空間24を現出させるように構成したが、各カシメ用空間24の現出方法はこれに限定されない。例えば、クッション体19の射出成形材料として、表皮18の素材に対して低接着力の材料を選択的に使用し、各挿通孔18aに各脚部15の上端部を差し込んだ際に、各挿通孔18aの形成部の裏面からその周辺のクッション体19の一部分を剥がして内方へ押し込むことにより、各カシメ用空間24を現出するようにしてもよい。
こうして製造されたヘッドレスト14は、その後、梱包されて所定の出荷先へ輸送される(出荷工程)。
【0036】
このように、ヘッドレストスティ10をブリッジ部16と左右一対の脚部15とに3分割し、このうちの各脚部15のみにメッキ処理を施したため、メッキ処理時、メッキラックに吊下可能な部材の本数が増加し、メッキ処理のコスト低下およびメッキ処理の作業性を高めることができる。よって、ヘッドレストスティ10のブリッジ部16と脚部15とにおいて、それぞれの機能や要求強度に適合した部材を任意に選択することが可能となり、ヘッドレストスティ10、ひいてはヘッドレスト14の品質やコストに優位性を付与できる。
【0037】
例えば、図5および図6に示すように、ヘッドレストスティ10Aのブリッジ部16Aの各両端部と各脚部15の上端部とを、突き合わせによる連結構造としてもよい。具体的には、ブリッジ部16Aの各側部杆20Bの下端部と、各脚部15の上端部とに、それぞれ連結スリーブSの一部を内嵌し、この状態を維持して、これらの連結部分を別のカシメ具により左右方向からスポット的にカシメるものである。また、カシメに代えてスポット溶接でもよい。
さらに、図7に示すように、ヘッドレストスティ10Bの軽量化を図るため、ブリッジ部16Bを、各脚部15より薄肉なステンレスパイプ(例えば1.2mm)から設けてもよい。その際には、ブリッジ部16Bの屈曲部分に補強スリーブS1を内篏して補強した方が好ましい。
さらにまた、図示しないものの、ヘッドレストスティ10の軽量化対策として、ブリッジ部16のステンレスパイプの直径を、各脚部15のものの直径より小径にしてもよい。ただし、各脚部15の連結部分には、本来のサイズが必要である。
【0038】
このように、ヘッドレストスティ10を3分割したことで、枕部17の作製後に各脚部15をブリッジ部16の両端部に連結することが可能となり、ヘッドレスト14、特に枕部17の作製中において、各脚部15のメッキ面へのキズの発生を抑制することができる。さらには、このブリッジ部16と各脚部15との連結作業を、例えば海外を含めた出荷先(現地)の組立工場で行うことも可能となり、その際には、ヘッドレスト14をコンパクトに箱詰めでき、輸送コストの低減を図ることができる。
【0039】
また、枕部17の内部に各カシメ用空間24を形成し、これらのカシメ用空間24で各脚部15とブリッジ部16とを連結した後、カシメ具25を用いてこれらの連結部分をカシメるようにしたため、メッキ剥がれを伴うカシメ痕は、表皮18によって隠される。その結果、ヘッドレストスティ10が3分割されたものでありながら、製造されたヘッドレスト14は、デザイン的および強度的にも従来品とそん色がない。
【0040】
次に、図8および図9を参照して、この発明の参考例2に係るヘッドレストスティについて説明する。
図8および図9に示すように、参考例2のヘッドレストスティ10Cの特徴は、各脚部15とブリッジ部16Cとの連結部分と、ブリッジ部16Cの各屈曲部分との各水平な断面がそれぞれ長円形で、各長軸が座席12の前後方向に延びるように設けられた点である(図8の部分拡大断面図を参照)。
ここでいう“断面”とは、ステンレスパイプ製のブリッジ部16の管軸に直交する断面(水平な断面)をいう。
【0041】
このように構成することで、断面円形の丸パイプから形成された参考例1のブリッジ部16や、この長円形の長軸方向を左右方向に向けたブリッジ部とした場合に比べて、断面係数が大きく高剛性となる。その結果、例えば急停車時、着座乗員の頭部が枕部17にぶつかって、ブリッジ部16Cの各脚部15との連結部分およびブリッジ部16Cの屈曲部分に、それぞれ大きな曲げモーメントが作用しても、このブリッジ部16Cは変形しにくい。
その他の構成、作用および効果は、参考例1と略同じであるため、説明を省略する。
【0042】
次に、図10を参照して、この発明の参考例3に係るヘッドレストスティについて説明する。
図10に示すように、この発明の参考例3のヘッドレストスティ10Dの特徴は、ブリッジ部16Dのうち、各脚部15との連結部分16aを除いた部分を、多数の長孔26付きのステンレス製の枠板から構成し、この枠板の水平配置される中間枠部(実施例1の中央杆20Aに該当)27においては、板幅方向を上下方向に向ける一方、その他の部分、すなわち斜め後方へ向けて外広がりした左右一対の側枠部(参考例1の側部杆20Bに該当)28にあっては、その板幅方向を前後方向に向けた点である。
【0043】
このように構成することで、断面円形の丸パイプ製のブリッジ部16に比べて、ヘッドレストスティ10Dの軽量化が図れるとともに、この丸パイプ製のブリッジ部16や、この枠板の板幅方向を左右方向に向けたブリッジ部とした場合に比べて、ブリッジ部16Dの各側枠部28は、断面係数が大きく高剛性となる。
その結果、例えば急停車時、着座乗員の頭部が枕部17にぶつかって、ブリッジ部16Dの各脚部15との連結部分およびブリッジ部16Dの各側枠部28にそれぞれ大きな曲げモーメントが作用しても、このブリッジ部16は変形しにくい。
また、ブリッジ部16Dの各脚部15との連結部分16aは、各脚部15の上端部を外嵌できるように、参考例1のブリッジ部16の該当部分により大径に形成されている。
その他の構成、作用および効果は、参考例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。
【0044】
次に、図11を参照して、この発明の参考例4に係るヘッドレストスティについて説明する。
図11に示すように、この発明の参考例4のヘッドレストスティ10Eの特徴は、ブリッジ部16Eの素材として他の合成樹脂に比べて高強度なポリアミド樹脂を採用することにより、ヘッドレストスティ10Eのさらなる軽量化を図った点である。
【0045】
このブリッジ部16Eは、山形状の中央杆20Aと、これに連結された左右一対の側枠部20Bとの各裏側半分が、それぞれ全長にわたって切除された基枠29と、基枠29の内側に一体的に展張された湾曲板30とを有している。湾曲板30には、ブリッジ部16のさらなる軽量化を図るため、表裏面を貫通した大小4つの孔部30aが四つ葉状に形成されている。ブリッジ部16Eは、クッション体19に埋設されることから、ステンレスパイプほどの強度は必要とされない。また、ブリッジ部16Eの各脚部15との連結部分16bは、各脚部15の上端部の前側半分を外嵌するように構成されている。
なお、これらの連結部分は、例えば接着剤によって互いの連結強度を高めてもよい。
また、図12に示すように、湾曲板30を省略した基枠29のみのブリッジ部16Fとしてもよい。
その他の構成、作用および効果は、参考例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。
【0046】
次に、図13および図14を参照して、この発明の実施例5に係るヘッドレストスティについて説明する。
図13および図14に示すように、この発明の実施例5のヘッドレストスティ10Fの特徴は、左右一対の脚部15Aとして、対応する側部杆20Bとの連結部分(基端部)15bが拡径化されたものを採用し、各連結部分15bとブリッジ部16の連結では、各連結部分15bの管内に、対応する側部杆20Bの下端部を嵌入して、周方向に30°ピッチで前後2列の各箇所をスポット的にカシメることによって、合計12個のカシメ部15cを形成した点である。
これにより、ブリッジ部16と各脚部15Aとの連結強度(カシメ強度)が高まり、各脚部15Aが対応する側部杆20Bからさらに抜けにくくなる。
その他の構成、作用および効果は、参考例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストスティ、これを利用したヘッドレストおよびその製造方法についての技術として有用である。
【符号の説明】
【0048】
10,10A〜10F ヘッドレストスティ、
11 自動車(乗り物)、
12 座席、
13 シートバック、
14 ヘッドレスト、
15,15A 脚部、
16、16A〜16E ブリッジ部、
16a、16b 連結部分、
18 表皮、
18a 挿通孔、
19 クッション体、
21 縮径部(連結部分)、
24 カシメ用空間、
25 カシメ具。
【要約】
ヘッドレストスティを左右一対の脚部とブリッジ部とに3分割し、各脚部のみをメッキ処理した。これにより、メッキ時のメッキラックに吊下可能な部材の本数が増え、メッキの低コスト化が図れ、メッキの作業性も高められる。さらには、ヘッドレストスティの各脚部とブリッジ部とにおいて、それぞれの機能や要求強度に適合した部材を任意に選択することが可能となり、ヘッドレストスティの品質やコストに優位性を付与でき、輸送コストも低減できる。
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