【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例と比較例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔調製例〕銀化合物の調製と水溶解度の測定
1.銀化合物の調製
以下の銀化合物を用意した。硝酸銀(AgNO
3)、酢酸銀(AgC
2H
3O
2)、及び酸化銀は、和光純薬工業株式会社製の試薬級製品を入手した。硫酸銀(Ag
2SO
4)は、関東化学株式会社製の試薬級製品を入手した。
【0040】
・安息香酸銀
イオン交換水120mLに、安息香酸(C
6H
5COOH 和光純薬工業製)2.442g、1mol/L水酸化ナトリウム溶液20mLを加え、室温で撹拌しながら溶解させた。次に、硝酸銀(AgNO
3 和光純薬工業製)3.567gをイオン交換水10mLに溶解させたものをゆっくりと前記溶液に注ぎ、室温で90分間撹拌し、安息香酸銀を析出させた。撹拌後、孔径0.45μmフィルター(オムニポア メルク株式会社製)にてろ過し、ろ過残渣を25mLのイオン交換水で洗浄する操作を6回繰り返した。ろ過残渣を30℃、減圧下恒量になるまで乾燥させ、得られた固形分を粉砕して使用した。
【0041】
クレアチニン銀錯体(1)〜(4)を以下の方法で作製した。
・クレアチニン銀錯体(1)
クレアチニン(和光純薬工業株式会社製)10.487g、フマル酸(和光純薬工業株式会社製)1.332g、及び酸化銀2.685gをイオン交換水85.496gに添加し、30℃で1時間撹拌した。この混合液を、60℃の温度でさらに1時間撹拌した後、0.1μmフィルターでろ過し、透明なろ液を得た。このろ液を30℃、減圧下、恒量になるまで乾燥させ、得られた固形物を粉砕した。得られた粉砕物は、複数種のクレアチニン銀錯体とクレアチニンとの混合物であると推定された。
【0042】
・クレアチニン銀錯体(2)
クレアチニン10.487g、フマル酸1.332g、及び酸化銀2.685gを、イオン交換水85.496gに添加し、30℃で1時間撹拌した。この混合液を、60℃でさらに1時間撹拌した後、0.1μmフィルターでろ過した。ろ液を5℃まで冷却し、内容物を析出させた。析出物をろ紙(有限会社桐山製作所製、No.5C)でろ過した。得られた固形物を30℃の温度で2時間、減圧乾燥し、粉砕した。
【0043】
得られた化合物を熱重量分析、元素分析、及び単結晶X線構造解析をした結果、銀イオンに対してクレアチニンが2当量配位し、対イオンとしてフマル酸0.5当量を含む化合物の6水和物であると確認された。
【0044】
・クレアチニン銀錯体(3)
クレアチニン銀錯体(2)を、100℃の温度の熱風循環乾燥機内で、2時間、加熱して無水物を得た。
【0045】
・クレアチニン銀錯体(4)
クレアチニン10.487g、フマル酸8.070g、及び酸化銀2.685gをイオン交換水78.758gに添加し、30℃で1時間撹拌した。この混合液を、60℃の温度でさらに1時間撹拌した後、0.1μmフィルターでろ過した。ろ液を5℃まで冷却して内容物を析出させた。ろ紙(有限会社桐山製作所製、No.5C)にてろ過し、得られた析出物を10倍量のイオン交換水で洗浄し、30℃の温度で減圧下、恒量になるまで乾燥させた。
【0046】
得られた化合物を熱重量分析、及び単結晶X線構造解析をした結果、銀イオンに対してクレアチニンが2当量配位し、対イオンとしてフマル酸1当量を含む化合物の2水和物と確認された。
【0047】
2.銀化合物の25℃における水溶解度の測定
予め5℃に調整した恒温水槽に浸したビーカーにイオン交換水50mLを入れ、マグネチックスターラーで撹拌しながらビーカー内のイオン交換水の温度を5℃に保持した。試料(銀化合物)を少しずつ過飽和になり溶解しきれなくなるまで加え、加えた試料の質量を記録した。恒温水槽の温度を1℃ずつ上げ、その温度を1分間維持することを繰り返し、試料が完全に溶解して液が透明になったときの温度を記録した。
【0048】
ビーカー内の液の温度を10℃に保持した後、同様に、過飽和になり溶解しきれなくなるまで加え、加えた試料の質量を記録した。恒温水槽の温度を1℃ずつ上げ、その温度を1分間維持することを繰り返し、試料が完全に溶解して液が透明になった際の温度を記録した。同様の操作を5℃間隔で恒温水槽の温度が35℃になるまで繰り返した。
【0049】
各試料が完全に溶解した温度とそれまで加えた試料の積算質量との関係から、近似指数関数式を得た。得られた関数から25℃における試料の水溶解度を算出した。さらに、算出した試料の水溶解度と試料中の銀含有率から、銀原子換算の水溶解度(25℃)を求めた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
〔実施例1〜10〕ポリウレタンフォームの作製と評価(1)
1.ポリウレタンフォームの製造
(1)銀化合物含有ポリオールの調製
表2〜5に示す銀化合物を同表に示す割合にて、ポリオール(製品名:サンニックスGP−3000、三洋化成工業株式会社製)に添加して均一に混合することにより、銀化合物含有ポリオールを調製した。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
(2)ポリウレタンフォームの作製
ポリオール96gへ整泡剤(製品名:F−242TL、信越化学工業株式会社製)1.5g、及び発泡剤としてイオン交換水5.0gを添加して撹拌し、温度を25℃に調整した。その後、アミン触媒(製品名:DABCO33LV、エアープロダクツジャパン株式会社製)0.3g、スズ系触媒(製品名:ネオスタンU−28、日東化成株式会社製、2価のスズ塩であるスタナスオクトエートを主成分とする。)0.3gを加え、約500rpmで20秒間撹拌することによりポリオール混合液を調製した。このポリオール混合液を、5分間、静置した。
【0057】
上記ポリオール混合液に、上記銀化合物含有ポリオール4.0g又はブランク(銀化合物無し)のポリオール4.0gを加え、約500rpmで10秒間撹拌し、1分間、静置した。
【0058】
上記混合液にトルエンジイソシアネート(製品名:コロネートT−80(2,4−トルエンジイソシアネート:2,6−トルエンジイソシアネート=80:20)、日本ポリウレタン工業株式会社製)59.92gを添加し、直ちに撹拌機を用いて2,000〜3,000rpmにて10秒間、撹拌した。その後、攪拌物を型枠へ流し込み、撹拌開始から発泡終了までの時間を測定した。以下、撹拌開始から発泡終了までの時間を発泡終了時間と称する。
【0059】
得られたポリウレタンフォームを、65℃の温度の乾燥機内で、10分間のキュアを行った。こうして得られたフォーム製品の発泡状態(反応遅延の有無と色調)を調べた。結果を表6及び7に示す。
【0060】
2.抗菌性試験
得られたポリウレタンフォームの抗菌力をSIAA(一般社団法人 抗菌製品技術協議会)シェーク法に従って、下記方法により調べた。
【0061】
各ポリウレタンフォームを17×17×3mmの大きさに切断して試験片を得た。SIAA耐水性試験区分2(50℃±5℃、16時間浸漬)の前処理を行い、40℃で乾燥した試験片と、無処理の試験片の二種類を調製した。なお、耐水性試験区分2は、水に接触することが多い(水中で使用する等の)製品に適用する区分である。水と接触することで製品から抗菌成分が失われ、抗菌力が低下することを想定した加速試験として行った。
【0062】
エタノールを染み込ませた脱脂綿で試験片表面を拭き、乾燥させた。乾燥したポリウレタンフォーム試験片(4片)を容量60mLの滅菌コップ(栄研化学株式会社製)に入れた。1検体につき、3個用意した。
【0063】
普通ブイヨン(NB)培地(栄研化学株式会社製)をイオン交換水で500倍に希釈したものに非イオン界面活性剤(Tween80 花王株式会社製)を0.05%となるように添加し、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)にてpHを7.0±0.2に調整し、500倍希釈NB培地を作製した。500倍希釈NB培地は、オートクレーブにて滅菌した。
【0064】
ポリウレタンフォームの抗菌性評価用の菌として、以下の2種類の菌:
大腸菌 Escherichia coli IFO 3972(ATCC 8739)、及び、
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus IFO 12732(ATCC 6538P)
を採用し、以下の手順で菌を培養した。
【0065】
NB培地に寒天(和光純薬工業株式会社製)1.5%添加して固めることにより得た普通ブイヨン寒天(NA)培地へ上記菌を移植し、35℃〜37℃の温度で16〜24時間、培養した。この菌を別のNA培地へ移植し、35℃〜37℃の温度で、さらに16〜20時間、培養した。
【0066】
上記菌を、菌数1.0×10
4〜5.0×10
4個/mLとなるように、上記の滅菌した500倍希釈NB培地に懸濁した。この菌液10mLを、上記試験片の入った60mL滅菌コップへ接種した。これを35℃±1℃の温度に保持して、24時間±1時間、振とうした。
【0067】
上記滅菌コップから菌液を採取し、リン酸緩衝化生理食塩水で10倍希釈系列の希釈液を調製した。これらについて、標準寒天(SA)培地を使用した寒天平板培養法にて菌数を測定した。SA培地は、酵母エキス0.025g、トリプトン0.05g、グルコース0.01g、寒天0.15g(いずれも和光純薬工業株式会社製)をイオン交換水10mLに添加し、オートクレーブにて滅菌した後、滅菌済みシックシャーレ(アズワン株式会社製)に固めた物を使用した。
【0068】
抗菌活性値Rは、ブランク(銀化合物無し)の検体の生菌数の平均値をA、そして各検体の生菌数の平均値をBとし、以下の式(1)にて計算した。
【数1】
【0069】
抗菌性を、以下の基準:
○:抗菌活性値が2.0以上
△:抗菌活性値が1.0以上2.0未満
×:抗菌活性値が1.0未満
で評価した。結果を表6及び7に示す。
【0070】
発泡状態(反応遅延)を、以下の基準:
○:ブランクと比較して、発泡終了時間の遅延が5%以下
△:発泡終了時間がブランクより5%を超え20%以下の遅延
×:発泡終了時間がブランクより20%を超えての遅延
で評価した。結果を表6及び7に示す。
【0071】
発泡状態(着色)を、以下の基準:
○:ブランクと同等
△:やや黄変〜あずき色に着色
×:濃赤褐色に着色
で評価した。結果を表6及び7に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
〔比較例5〜7〕ポリウレタンフォームの作製と評価(2)
実施例4の銀化合物の代わりに銀及び亜鉛を担持した市販のゼオライト系抗菌剤(銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤)を用いてポリウレタンフォームを作製し、その評価を行なった。
【0075】
1.ポリウレタンフォームの製造
市販の銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤を用意した。この抗菌剤は、銀及び亜鉛の含有率が不明であったので、抗菌剤単体での最少発育阻止濃度(MIC)を、SIAA最少発育阻止濃度測定法に準じて調べ、実施例4で使用した銀化合物(クレアチン銀錯体(2))のMIC値と比較した(表8)。ポリウレタンフォーム中の抗菌剤濃度のMICに対する添加倍数は、比較例5は実施例7(添加率60ppm)に相当し、比較例6は実施例4(添加率30ppm)に相当するものである。
【0076】
【表8】
【0077】
銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤を表9に示す配合にてポリオール(GP−3000)に添加して、均一に混合し、銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤含有ポリオールを得た。
【0078】
【表9】
【0079】
ポリオール(サンニックスGP−3000)96gへ、整泡剤(F−242TL)1.5g及びイオン交換水5.0gを添加し、撹拌混合後、25℃に温調した。その後、アミン触媒(DABCO33LV)0.3gと、有機スズ系触媒(ネオスタンU−28)0.3gを加え、約500rpmで20秒撹拌しポリオール混合液を調製し、5分間静置した。
【0080】
表9に示す銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤含有ポリオール4.0g又はブランク(前記抗菌剤無添加)のポリオール4.0gを、ポリオール混合液に加え、約500rpmで10秒間撹拌し、1分間、静置した。
【0081】
上記混合物へ、トルエンジイソシアネート(コロネートT−80)59.92gを添加し、直ちに撹拌機で2,000〜3,000rpmにて10秒間、撹拌した。その後、攪拌物を型枠へ流し込み、発泡終了時間を測定した。
【0082】
得られたポリウレタンフォームを、65℃の乾燥機内にて10分キュアを行った。こうして得られたフォーム製品の発泡状態(反応遅延の有無と色調)を調べた。結果を表10に示す。
【0083】
2.抗菌性試験
得られたポリウレタンフォームの抗菌試験を実施例1と同様の方法で行った。結果を表10に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
表10からわかるように、比較例6で、ポリウレタンフォームの原料に銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤を1.2質量%と高濃度で含有させると、発泡状態が悪化し、抗菌性も低い。発泡状態を改善するために、比較例7及び8のように銀・亜鉛担持ゼオライト系抗菌剤の添加率を下げると、抗菌性がさらに低下する。
【0086】
〔実施例11〜14〕ポリウレタンフォームの作製と評価(3)
フォーム製造時の配合手順を変えた試験を行った。実施例に用いたポリウレタンフォームの原料組成(単位:g)を表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
実施例11では、原料(ポリオール99.9g、整泡剤1.5g、イオン交換水5.0g、アミン触媒0.3g、スズ系触媒0.3g、並びにクレアチニン銀錯体(1)0.05g)を配合し、25℃の温調下で1分間撹拌した。次に、トルエンジイソシアネート59.8gを投入して、撹拌機で2000〜3000rpmにて10秒間、撹拌した。その後、型枠へ流し込み、発泡終了時間を測定した。発泡終了後、65℃の乾燥機内で10分キュアを行い、フォームの色調を確認した。実施例3と同様に抗菌性試験を実施した。これらの結果を表12に示す。
【0089】
実施例12では、原料(ポリオール99.9g、整泡剤1.5g、イオン交換水(1)4.5g、アミン触媒0.3g、スズ系触媒0.3g)を配合し、25℃の温調下10分間、撹拌した。次に、予めクレアチニン銀錯体(1)0.05gをイオン交換水(2)0.5gに溶解しておいたもの、及びトルエンジイソシアネート59.8gを投入し、撹拌機で2,000〜3,000rpmにて10秒間撹拌した。その後、型枠へ流し込み、発泡終了時間を測定した。発泡終了後、65℃の乾燥機内で、10分キュアを行い、フォームの色調を確認した。実施例3と同様に抗菌性試験を実施した。これらの結果を表12に示す。
【0090】
実施例13では、予め、イオン交換水(2)0.5gに溶解しておいたクレアチニン銀錯体(1)0.05gを、ポリオール99.9gに加えて、5分間、撹拌した後、25℃に温調した。次に、整泡剤1.5g、イオン交換水(1)4.5g、及びアミン触媒0.3g、スズ系触媒0.3gを加えて、10秒間、撹拌した後、直ちに、トルエンジイソシアネート59.8gを投入して、撹拌機で2,000〜3,000rpmにて10秒間、撹拌した。その後、型枠へ流し込み、発泡終了時間を測定した。発泡終了後、65℃の乾燥機内にて10分キュアを行い、フォームの色調を確認した。実施例3と同様に抗菌性試験を実施した。これらの結果を表12に示す。
【0091】
実施例14では、予めイオン交換水(2)0.5gに溶解しておいたクレアチニン銀錯体(1)0.05gを、ポリオール(2)3.9gに加えて10分間、撹拌した後、25℃に温調した。また、整泡剤1.5g、イオン交換水(1)4.5g、及びアミン触媒0.3g、スズ系触媒0.3gをポリオール(1)96.0gに配合し、25℃の温調下で5分間、撹拌した後、25℃に温調した。上記の2液を10秒間、混合した後、50秒間、静置した。次にトルエンジイソシアネート59.8gを投入し、撹拌機で2,000〜3,000rpmにて10秒間、撹拌した。その後、型枠へ流し込み、発泡終了時間を測定した。発泡終了後、65℃の乾燥機内にて10分キュアを行い、フォームの色調を確認した。実施例3と同様に抗菌性試験を実施した。これらの結果を表12に示す。
【0092】
【表12】
【0093】
実施例11〜14の結果から、いずれの条件であっても抗菌性ポリウレタンフォームを作ることができた。特に、予め抗菌剤をポリオール及び/又は発泡剤に添加混合した抗菌剤含有液を調製し、前記抗菌剤含有液とそれ以外の原料とを反応させることで反応遅延のない抗菌性ポリウレタンフォームを製造することができた。