特許第6534650号(P6534650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534650
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】ロイコトリエンA4加水分解酵素の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20190617BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190617BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   C07D487/04 142
   C07D487/04CSP
   A61K31/519
   A61P43/00 111
   A61P29/00
   A61P37/02
   A61P11/00
   A61P37/08
   A61P17/00
   A61P11/02
   A61P17/04
   A61P17/06
   A61P1/04
   A61P31/04
   A61P9/10
   A61P13/12
   A61P37/06
   A61P9/10 101
   A61P9/00
   A61P3/10
   A61P27/02
   A61P25/00
   A61P19/02
   A61P25/04
   A61P1/02
   A61P27/16
   A61P25/06
   A61P13/08
   A61P35/00
   A61P11/06
【請求項の数】27
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2016-502433(P2016-502433)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-513696(P2016-513696A)
(43)【公表日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】US2014027428
(87)【国際公開番号】WO2014152518
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/781,193
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515246029
【氏名又は名称】セルタクシス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギルフォード,ウィリアム
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/016131(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/033795(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/067822(WO,A1)
【文献】 特表2007−513099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
A61K 31/519
A61P 1/02〜04
A61P 3/10
A61P 9/00〜10
A61P 11/00〜06
A61P 13/08〜12
A61P 17/00〜06
A61P 19/02
A61P 25/00〜06
A61P 27/02〜16
A61P 29/00
A61P 31/04
A61P 35/00
A61P 37/02〜08
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
を有し、式中、
Rが、
【化2】
であり、
rが0〜4であり;
1a、R1b、R1c、R1dおよびR1eがそれぞれ独立して、水素、OR10、C(O)OR10、C(O)R10、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールまたは任意選択で置換されたヘテロシクリルであり;
が、−O−、であり;
が、直接結合、任意選択で置換されたメチレン、または任意選択で置換されたエチレンであり、
が、水素、OR10、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよび任意選択で置換されたヘテロシクリルからなる群より選択され;
がそれぞれ独立して、−OR10、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、ハロ、アリールまたはテロアリールであり;
10およびR11がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよび任意選択で置換されたヘテロシクリルからなる群より選択され;
10およびR11が、それと結合している窒素とともに任意選択で置換されたN−ヘテロシクリルまたは任意選択で置換されたN−ヘテロアリールを形成し;
13がそれぞれ独立して、直接結合、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
16が、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
17がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
wが、1〜3の整数であり;
jが0、1または2である、
式の、単一の立体異性体または立体異性体の混合物としての化合物あるいはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
16がシアノである、請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
wが1であり、R17が、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよびC(O)R20からなる群より選択され、R20が、任意選択で置換されたアリールおよび任意選択で置換されたヘテロアリールからなる群より選択される、請求項1または2に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
式(Ia)
【化3】
を有し、式中、
19がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011;C(O)R10、C(O)OR10、C(O)−R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
zが、1〜5の整数である、
請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
19がそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、ハロ、任意選択で置換されたC〜Cアルキル、C(O)R10、C(O)OR10、NO、S(O)10およびS(O)NR1011からなる群より選択される、請求項4に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
16がシアノである、請求項4〜5のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
式(Ib)
【化4】
を有し、式中、
21がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011;C(O)R10、C(O)OR10、C(O)−R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
zが、1〜5の整数である、
請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
21がそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、ハロ、任意選択で置換されたC〜Cアルキル、C(O)R10、C(O)OR10、NO、S(O)10およびS(O)NR1011からなる群より選択される請求項7に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
17が、任意選択で置換されたヘテロアリールである、請求項3に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
17が、1つまたは複数の環窒素原子を含む任意選択で置換されたヘテロアリールである、請求項9に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項11】
17が、任意選択で置換されたピリジルである、請求項10に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
16がシアノである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項13】
1aが、ハロ、任意選択で置換されたオキサゾリル、および任意選択で置換されたチアゾリルからなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項14】
が直接結合である、請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項15】
が、水素または任意選択で置換されたC〜Cアルキルである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項16】
が、水素、任意選択でOR10で置換されたアルキルまたは任意選択でNR1011で置換されたアルキルである、請求項15に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
以下のもの:
【表1】
から選択される、請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項18】
薬学的に許容される賦形剤と、請求項1〜17のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩とを含む、医薬組成物。
【請求項19】
ロイコトリエンA加水分解酵素活性の阻害によって改善される哺乳動物の疾患または障害を治療する方法での使用のための請求項18に記載の医薬組成物であって、前記方法は治療を必要とする哺乳動物に前記組成物を投与することを含む、組成物。
【請求項20】
前記哺乳動物がヒトである、請求項19に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記疾患または障害が、炎症性障害または自己免疫障害である、請求項19に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記疾患または障害が、肺炎症または気道炎症である、請求項21に記載の使用のための組成物
【請求項23】
前記疾患または障害が、急性または慢性炎症、アナフィラキシー反応、アレルギー反応、アレルギー性接触皮膚炎、アレルギー性鼻炎、化学物質による非特異的な刺激性接触皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、嚢胞性線維症、クローン病による瘻孔、回腸嚢炎、敗血症性または内毒素性ショック、出血性ショック、ショック様症候群、癌免疫療法による毛細血管漏出症候群、急性呼吸窮迫症候群、外傷性ショック、免疫による肺炎、病原体による肺炎、免疫複合体による肺損傷および慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、胃腸管潰瘍、虚血−再灌流傷害による疾患、免疫複合体による糸球体腎炎、自己免疫疾患、急性および慢性臓器移植拒絶反応、移植動脈硬化症および線維症、心血管障害、糖尿病の合併症、眼障害、神経変性障害、関節痛を含めた炎症性および神経因性疼痛、歯肉炎を含めた歯周病、耳感染症、片頭痛、良性前立腺過形成ならびに癌からなる群より選択される、請求項19に記載の使用のための組成物
【請求項24】
前記肺炎症性障害および呼吸器炎症性障害が、喘息、慢性気管支炎、細気管支炎、閉塞性細気管支炎、気道のアレルギー性炎症、好酸球性肉芽腫、肺炎、肺線維症、結合組織疾患の肺症状、急性または慢性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、成人呼吸窮迫症候群およびその他の好酸球浸潤を特徴とする肺の非感染性炎症性障害からなる群より選択される、請求項22に記載の使用のための組成物
【請求項25】
前記疾患または障害が嚢胞性線維症である、請求項23に記載の使用のための組成物
【請求項26】
前記疾患または障害が炎症性の皮膚病態である、請求項21に記載の使用のための組成物
【請求項27】
前記炎症性の皮膚病態が、アトピー性皮膚炎、挫瘡、乾癬および湿疹からなる群より選択される、請求項26に記載の使用のための組成物
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願)
本願は、2013年3月14日に出願された米国仮特許出願第61/781,193号の利益を主張するものである。上記出願の全教示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
ロイコトリエンB(LTB)は、好中球(J.Palmblad,J.Rheumatol.1984,13(2):163−172)、好酸球(A.M.Tagerら,J.Exp.Med.2000,192(3):439−446)、単球(N.Dugasら,Immunol.1996,88(3):384−388)、マクロファージ(L.Gagnonら,Agents Actions 1989,34(1−2):172−174)、T細胞(H.Moritaら,Biochem.Biophys.Res.Commun.1999,264(2):321−326)およびB細胞(B.Dugasら,J.Immunol.1990,145(10):3405−3411)を含めた炎症細胞の強力な炎症誘発性活性化因子である。LTBによって免疫細胞が刺激され活性化されると、走化性、接着、フリーラジカル放出、脱顆粒およびサイトカイン放出が促進され得る。LTBは、IL−2、コンカナバリンAおよびCD3の連結に応答してT細胞増殖およびサイトカイン放出を刺激する(H.Moritaら,Biochem.Biophys.Res.Commun.1999,264(2):321−326)。LTBは、炎症に対する初期の免疫応答と後期の適応免疫応答とを機能的に結び付けるT細胞の化学誘引物質である(K.Goodarziら,Nat.Immunol.2003,4:965−973;V.L.Ottら,Nat.Immunol.2003,4:974−981;A.M.Tagerら,Nat.Immunol.2003,4:982−990)。LTBが、喘息(D.A.Munafoら,J.Clin.Invest.1994,93(3):1042−1050)、炎症性腸疾患(IBD)(P.SharonおよびW.F.Stenson,Gastroenterology 1984,86(3):453−460)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(P.J.Barnes,Respiration 2001,68(5):441−448)、関節炎(R.J.Griffithsら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1995,92(2):517−521;F.Tsujiら,Life Sci.1998 64(3):L51−L56)、乾癬(K.Ikai,J.Dermatol.Sci.1999,21(3):135−146;Y.I.ZhuおよびM.J.Stiller,Skin Pharmacol.Appl.Skin Physiol.2000,13(5):235−245)およびアテローム性動脈硬化症(E.B.Friedrichら,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.2003,23:1761−1767;K.Subbaraoら,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.2004,24:369−375;A.Helgadottirら,Nat.Genet.2004,36:233−239;V.R.Jalaら,Trends in Immun.2004,25:315−322)を含めた多くの炎症性疾患状態の増幅に重要な役割を演じていることを示す強固な証拠がある(R.A.Lewisら,N.Engl.J.Med.1990,323:645;W.R.Henderson,Ann.Intern.Med.1994,121:684)。LTBはこのほか、各種サイトカインの産生を刺激し、また免疫調節に何らかの役割を果たしている可能性がある(A.W.Ford−Hutchinson,Immunology 1990,10:1)。さらに、強皮症肺疾患患者の気管支肺胞洗浄液にLTBレベルの上昇がみられることがわかっている(Kowal−Bielecka,O.ら,Arthritis Rheum.(November 30,2005),Vol.52,No.12,pp.3783−3791を参照されたい)。したがって、このような炎症性病態の治療には、LTBの生合成またはLTBに対する細胞の応答を阻害する治療剤が有用であると思われる。
【0003】
アラキドン酸(AA)からLTBが生合成される過程では3種類の酵素、すなわち、膜脂質からAAを遊離させるホスホリパーゼA(PLA)、不安定なエポキシドのロイコトリエンA(LTA)を生成する5−リポキシゲナーゼ(5−LO)およびLTBを生成するロイコトリエンA加水分解酵素(LTA−h)が作用する(A.W.Ford−Hutchinsonら,Annu.Rev.Biochem.1994,63:383−347)。LTC合成酵素の作用によってLTAにグルタチオンが付加されるとシステイニルロイコトリエンが生成し(Aharony,D.,Am.J.Respir.Crit.Care Med.1998,157(6,Pt2),S214−S218)、炎症誘発性システイニルロイコトリエンのLTC、LTDおよびLTEとなる。LTAの代替経路には、細胞間生合成およびリポキシゲナーゼの作用によるリポキシンA(LXA)およびリポキシンB(LXB)への変換がある(C.N.Serhan,Prostaglandins 1997,53:107−137)。
【0004】
LTA−hは単量体、可溶性、69kDの亜鉛金属酵素である。阻害剤が結合した組換えLTA−hの高解像度結晶構造が得られている(M.M.Thunissenら,Nat Struct.Biol.2001,8(2):131−135)。LTA−hはメタロヒドロラーゼのM1クラスに属する二機能性の亜鉛依存性金属酵素である。同酵素は2つの反応、すなわち、LTAをLTBに変換する立体特異的エポキシド加水分解酵素反応および発色基質のペプチダーゼ切断を触媒する。Zn中心はこの2つの活性に極めて重要である。LTA−hは、LTA−加水分解酵素活性のないアミノペプチダーゼMおよびBと関係がある。LTA−hは基質特異性が高く、脂肪酸のC−1に遊離カルボン酸を有する5,6−トランス−エポキシドのみを受容する。触媒作用には基質の二重結合による幾何学的構造が不可欠である。これに対して、LTA−hペプチダーゼ活性は受容に制限がないと思われ、様々なアミノ酸、例えば特にアラニンおよびアルギニンのニトロアニリドおよび2−ナフチルアミド誘導体を切断する。Arg−Gly−Asp、Arg−Gly−GlyおよびArg−His−Pheトリペプチドはエポキシド加水分解酵素反応と同程度の特異性定数(kcat/K)で加水分解される。LTA−hの生理学的ペプチド基質は知られていない。
【0005】
LTA−hは、可溶性の細胞内酵素として腸、脾臓、肺および腎臓に広く発現する。好中球、単球、リンパ球および赤血球に高レベルの活性がみられる。組織マクロファージでLTA−hレベルが高くなることがある。興味深い特徴として、LTA−hと5−LOの細胞分布が異なっており、効率的なLTBの細胞間合成には好中球および上皮細胞などの細胞が近接して並置される必要があるという点がある。LTA−h−/−マウスと5−LO−/−マウスに由来する骨髄キメラから得られたデータを含め、多くの研究がこの概念を裏付けている(J.E.Fabreら,J.Clin.Invest.2002,109(10):1373−1380)。
【0006】
複数の研究により、外因性LTBを正常組織に導入すると炎症症状が誘発され得ることが示されている(R.D.R.Campら,Br.J.Pharmacol.1983,80(3):497−502;R.Campら,J.Invest.Dermatol.1984,82(2):202−204)。炎症性腸疾患(IBD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、関節リウマチ(RA)、嚢胞性線維症、多発性硬化症(MS)および喘息を含めた多数の炎症性疾患でLTBレベルの上昇が観察されている(S.W.CrooksおよびR.S.Stockley,Int.J.Biochem.Cell Biol.1998,30(2):173−178)。したがって、LTA−h活性の阻害剤によってLTB産生を減少させれば、様々な疾患に治療効果が得られると予想される。この考えは、アラキドン酸誘発性耳炎モデルおよびザイモサン誘発性腹膜炎モデルでは健常マウスとは対照的に好中球流入が著明に減少していることを示したLTA−h欠損マウスの研究によって裏付けられる(R.S.Byrumら,J.Immunol.1999,163(12):6810−68129)。前臨床試験ではLTA−h阻害剤が有効な抗炎症剤であることが示されている。例えば、LTA−h阻害剤、SC57461の経口投与により、ex vivoのマウス血液およびin vivoのラット腹膜でイオノフォア誘導性のLTB産生が抑制された(J.K.Kachurら,J.Pharm,.Exp.Thr.2002,300(2):583−587)。ワタボウシタマリンを同阻害剤で8週間治療したところ、大腸炎の症状が有意に改善した(T.D.Penning,Curr.Pharm.Des.2001,7(3):163−179)。このような動物に自然に発症する大腸炎はヒトIBDと極めて類似している。したがって、上に挙げた結果は、LTA−h阻害剤がヒトIBDをはじめとするヒト炎症性疾患に治療的有用性を有し得ることを示している。
【0007】
炎症性応答を誘発する事象には炎症誘発性メディエーター、LTBの生成が含まれており、このLTBの生成をLTA−h阻害剤で遮断して炎症などのロイコトリエン仲介性の病態を予防および/または治療できる可能性がある。LTA−h阻害剤については、例えば米国特許第7,737,145号および米国特許出願公開第20100210630A1号に記載されおり、その内容はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
さらなるLTA−h阻害剤を開発することが有利であると考えられる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、式(I)に包含される化合物、その医薬組成物、LTA加水分解酵素を阻害する方法ならびにLTA−h活性の阻害によって改善される疾患および障害を治療する方法に関する。このような疾患および障害の非限定的な例としては、炎症性疾患および障害、自己免疫疾患および障害ならびに癌が挙げられる。
【0010】
一実施形態では、本発明は、式(I):
【化1】
を有し、式中、
Rが、i)基;
【化2】
または
ii)基;
【化3】
または
iii)任意選択で置換されたヘテロアリール
であり;
、nおよびnがそれぞれ独立して0〜2であり;
rが0〜4であり;
1a、R1b、R1c、R1dおよびR1eがそれぞれ独立して、水素、OR10、C(O)OR10、C(O)R10、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールまたは任意選択で置換されたヘテロシクリルであり;
1v、R1w、R1x、R1yおよびR1zがそれぞれ独立して、水素またはフルオロであり;
が、直接結合、−O−,−R12−O−、−O−R12−、−O−R12−O−、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
が、直接結合、−O−R12a、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
が、水素、OR10、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよび任意選択で置換されたヘテロシクリルであり;
がそれぞれ独立して、−OR10、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、ハロ、アリールまたはヘテロアリールであり;
10およびR11がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよび任意選択で置換されたヘテロシクリルであるか;
10およびR11が、それと結合している窒素とともに任意選択で置換されたN−ヘテロシクリルまたは任意選択で置換されたN−ヘテロアリールを形成し;
12が、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
12aが、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
13がそれぞれ独立して、直接結合、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキレン鎖、任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルケニレン鎖または任意選択で置換された直鎖もしくは分岐C〜C12アルキニレン鎖であり;
16が、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
17がそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011、C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;
wが、1〜3の整数であり;
jが0、1または2である、
単一の立体異性体または立体異性体の混合物としての化合物あるいはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドまたはプロドラッグに関する。
【0011】
本発明はほかにも、薬学的に許容される賦形剤と、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグとを含む、医薬組成物に関する。
【0012】
このほか、ロイコトリエンA(LTA)加水分解酵素活性の阻害によって改善される哺乳動物の疾患または障害を治療する方法が包含され、この方法は、治療を必要とする哺乳動物に治療有効量の単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグを投与することを含む。いくつかの態様では、疾患または障害は炎症性障害または自己免疫障害である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施形態を以下に記載する。
【0014】
本明細書で使用される語「a」および「an」は特に明記されない限り、1つまたは複数のものを含むものとする。例えば、「細胞(a cell)」という用語は、単一の細胞および2個以上の細胞の組合せをともに包含する。
【0015】
上述の通り、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグ、そのいずれかの医薬組成物ならびにLTA−hの阻害によって改善され得る障害および疾患の治療のために本発明の化合物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグに関するものであり、式中、R16は、シアノ、OR10、C(O)R10、C(O)OR10およびC(O)R13−N(R10)R11からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、R16はシアノである。
【0017】
さらなる実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、wは1であり、R17は、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよびC(O)R20からなる群より選択され、R20は、任意選択で置換されたアリールおよび任意選択で置換されたヘテロアリールである。
【0018】
またさらなる態様では、化合物は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(Ia):
【化4】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグを有し、式中、R19はそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011;C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;zは、1〜5の整数である。いくつかの実施形態では、R19は独立して、水素、ヒドロキシル、ハロ、任意選択で置換されたC〜Cアルキル、C(O)R10、C(O)OR10、NO、S(O)10およびS(O)NR1011からなる群より選択される。ある特定の態様では、R16はシアノである。
【0019】
本発明のまたさらなる態様では、化合物は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(Ib):
【化5】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグを有し、式中、R21はそれぞれ独立して、水素、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたヘテロシクリル、OR10、NO、S(O)10、S(O)NR1011;C(O)R10、C(O)OR10、C(O)R13−N(R10)R11、N(R10)C(O)N(R10)R11、NR1011およびN(R10)C(O)R10からなる群より選択され;zは、1〜5の整数である。いくつかの態様では、R21はそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、ハロ、任意選択で置換されたC〜Cアルキル、C(O)R10、C(O)OR10、NO、S(O)10およびS(O)NR1011からなる群より選択される。本発明のまたさらなる態様では、R21はそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシルおよびハロからなる群より選択される。
【0020】
また別の実施形態では、化合物は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての式(I)またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグを有し、式中、R17は、任意選択で置換されたヘテロアリールである。本発明のいくつかの態様では、R17は、1つまたは複数の環窒素原子を含む任意選択で置換されたヘテロアリールである。またさらなる実施形態では、R17は、任意選択で置換されたピリジルである。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物として本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、Rは基:
【化6】
である。
【0022】
ある特定の実施形態では、R1aは、水素、C(O)OR10、C(O)R10、C(O)NR1011、任意選択で置換されたC〜C12アルキル、任意選択で置換されたC〜C12アルケニル、任意選択で置換されたC〜C12アルキニル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルキル、任意選択で置換されたC〜C15シクロアルケニル、ハロ、シアノ、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリールおよび任意選択で置換されたヘテロシクリルである。さらなる態様では、R1aは、水素、C(O)OR10、C(O)R10、C(O)NR1011、任意選択で置換されたアルキル、ハロ、任意選択で置換されたフェニル、フラニル、チエニル、チアゾリルまたは任意選択で置換されたオキサゾリルであり;R1b、R1c、R1dおよびR1eはそれぞれ水素である。またさらなる実施形態では、R1aはハロである。さらなる態様では、R1aはオキサゾリルまたはチアゾリルである。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物として本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、Rは基:
【化7】
である。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載される単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物としての化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、Rは、任意選択で置換されたヘテロアリールである。ある特定の態様では、Rは、それぞれが任意選択で置換されたフラニル、オキサゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、トリアゾリル、チアゾリルまたはベンゾチアゾリルである。いくつかの実施形態では、Rは、任意選択で置換されたヘテロアリールである。またさらなる実施形態では、Rは、それぞれが任意選択で置換されたフラニル、オキサゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、トリアゾリル、チアゾリルまたはベンゾチアゾリルである。
【0025】
ある特定の態様では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物として本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、RはOである。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物として本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、Rは、直接結合、任意選択で置換されたメチレンまたは任意選択で置換されたエチレンである。ある特定の実施形態では、Rはメチレンである。
【0027】
ある特定の実施形態では、本発明は、単一の立体異性体もしくは立体異性体の混合物として本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、クラスレート、アンモニウムイオン、N−オキシドもしくはプロドラッグであり、式中、Rは、水素または任意選択で置換されたC〜Cアルキルである。さらなる態様では、Rは、任意選択でOR10で置換された水素もしくはアルキルまたは任意選択でNR1011で置換されたアルキルである。また別の実施形態では、Rは水素またはメチルである。
【0028】
本発明に包含される化合物の非限定的な例を下の表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
上の表1で、「Ph」がフェニルの略記であることが理解される。
【0031】
本明細書に記載される具体的な実施形態は、本明細書に記載される他の具体的な実施形態と組み合わせて用いることが可能であることを理解するべきである。本明細書の本発明に関する記述は、化学結合の法則および原理に適合させて解釈するべきであることが理解されよう。
【0032】
「アルキル」は、炭素原子と水素原子のみからなり、不飽和を含まず、分子の残りの部分と単結合によって結合している、直鎖もしくは分岐炭化水素鎖ラジカルを指す。いくつかの実施形態では、アルキル基は、1〜12個の炭素原子、1〜8個の炭素原子または1〜6個の炭素原子を有する。アルキル基の非限定的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソ−プロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル)、3−メチルヘキシル、2−メチルヘキシルなどが挙げられる。任意選択で置換されたアルキル基は、以下に詳細に記載される1つまたは複数の置換基で置換されたアルキル基であり得る。任意選択で置換されたアルキルの非限定的な例としては、ハロアルキル、シアノで置換されたアルキル、任意選択で置換されたアラルキル、任意選択で置換されたヘテロアリールアルキル、任意選択で置換されたシコアルクリルアルキル(cycoalklylalkyl)、任意選択で置換されたヘテロシクロアルキル、アミノ基で置換されたアルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシで置換されたアルキルなどが挙げられる。
【0033】
「アルケニル」は、炭素原子と水素原子のみからなり、二重結合を少なくとも1つ含む直鎖もしくは分岐炭化水素鎖ラジカル基を指す。いくつかの場合には、アルケニルは、2〜12個の炭素原子または2〜8個の炭素原子を有し得る。アルケニルは分子の残りの部分と単結合によって結合しており、例えば、エテニル、プロパ−1−エニル、ブタ−1−エニル、ペンタ−1−エニル、ペンタ−1,4−ジエニルなどがある。任意選択で置換されたアルケニル基は、のちに詳細に記載される1つまたは複数の置換基で置換されたアルキル基であり得る。
【0034】
「アルキニル」は、炭素原子と水素原子のみからなり、三重結合を少なくとも1つ含み、任意選択で二重結合を少なくとも1つ含む、直鎖もしくは分岐炭化水素鎖ラジカル基を指す。いくつかの実施形態では、アルキニルは、2〜12個の炭素原子または2〜8個の炭素原子を有し得る。アルキニルは分子の残りの部分と単結合によって結合しており、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどがある。任意選択で置換されたアルキニル基は、のちに詳細に記載される1つまたは複数の置換基で置換されたアルキル基であり得る。
【0035】
「アルキレン」または「アルキレン鎖」は、炭素と水素のみからなり、不飽和を含まず、1〜12個の炭素原子を有し、分子の残りの部分とラジカル基とを連結する、直鎖もしくは分岐二価炭化水素鎖を指し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、n−ブチレンなどがある。アルキレン鎖は、単結合を介して分子の残りの部分と結合し、かつ単結合を介してラジカル基と結合している。アルキレン鎖と分子の残りの部分およびラジカル基との結合点は、アルキレン鎖内の1個の炭素を介するものであっても、アルキレン鎖内の任意の2個の炭素を介するものであってもよい。アルキレン鎖は置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0036】
「アルケニレン」または「アルケニレン鎖」は、炭素と水素のみからなり、二重結合を少なくとも1つ有し、2〜12個の炭素原子を有し、分子の残りの部分とラジカル基とを連結する、直鎖もしくは分岐二価炭化水素鎖を指し、例えば、エテニレン、プロペニレン、n−ブテニレンなどがある。アルケニレン鎖は、二重結合または単結合を介して分子の残りの部分と結合し、かつ二重結合または単結合を介してラジカル基と結合している。アルケニレン鎖と分子の残りの部分およびラジカル基との結合点は、鎖内の1個の炭素または任意の2個の炭素を介するものであり得る。
【0037】
「アルキニレン」または「アルキニレン鎖」は、炭素と水素のみからなり、三重結合を少なくとも1つ含み、2〜12個の炭素原子を有し、分子の残りの部分とラジカル基とを連結する、直鎖もしくは分岐二価炭化水素鎖を指し、例えば、プロピニレン、n−ブチニレンなどがある。アルキニレン鎖は、単結合を介して分子の残りの部分と結合し、かつ二重結合または単結合を介してラジカル基と結合している。アルキニレン鎖と分子の残りの部分およびラジカル基との結合点は、鎖内の1個の炭素または任意の2個の炭素を介するものであり得る。
【0038】
「アルコキシ」は、式−ORのラジカルであって、Rが、1〜12個の炭素原子を含む上で定義される任意選択で置換されたアルキルラジカルであるラジカルを指す。
【0039】
「アルコキシアルキル」は、式−R−O−Rのラジカルであって、Rがそれぞれ独立して、上で定義される任意選択で置換されたアルキルラジカルであるラジカルを指す。酸素原子は、両アルキルラジカルの任意の炭素と結合していてよい。
【0040】
「アリール」は、水素と炭素のみからなり、6〜19個の炭素原子を含む、芳香族単環式または多環式炭化水素環系を指し、この環系は部分飽和であっても完全飽和であってもよい。アリール基としては、特に限定されないが、フルオレニル、フェニルおよびナフチルなどの基が挙げられる。
【0041】
「アラルキル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが任意選択で置換されたアルキルラジカルであり、Rが1つまたは複数の任意選択で置換されたアリールラジカルであるラジカルを指し、例えば、ベンジル、ジフェニルメチルなどがある。「アラルケニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが任意選択で置換されたアルケニルラジカルであり、Rが1つまたは複数の任意選択で置換されたアリールラジカルであるラジカルを指す。「アラルキニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが任意選択で置換されたアルキニルラジカルであり、Rが1つまたは複数の任意選択で置換されたアリールラジカルであるラジカルを指す。
【0042】
「アリールオキシ」は、Rが任意選択で置換されたアリール基である式−ORのラジカルを指す。「アラルキルオキシ」は、Rがアラルキル基である式−ORのラジカルを指す。アラルキルオキシラジカルのアラルキル部分は、任意選択で置換されていてもよい。
【0043】
「アンモニウムイオン」は本発明の化合物内にある窒素を指し、窒素が上で定義される任意選択で置換されたアルキル基で置換されているため正電荷を含んでいる。
【0044】
「アミノ」は−NHラジカルを指す。
【0045】
「シアノ」は−CNラジカルを指す。
【0046】
「ヒドロキシ」は−OHラジカルを指す。
【0047】
「ニトロ」は−NOラジカルを指す。
【0048】
「オキソ」はC(O)ラジカルを指す。
【0049】
本明細書で使用される「クラスレート」は、錯体を固体形態で取り扱うことができ、含まれる構成要素(または「ゲスト」分子)がのちに溶媒の作用または溶解によって放出されるように、気体、液体または化合物が包接錯体として固定された物質を指す。「クラスレート」という用語は、本明細書では「包接分子」または「包接錯体」という語句と互換的に使用される。本発明で使用されるクラスレートはシクロデキストリンから調製される。シクロデキストリンは様々な分子とクラスレート(すなわち、包接化合物)を形成することができる物質として広く知られている。例えば、Inclusion Compounds,J.L.Atwood,J.E.D.DaviesおよびD.D.MacNicol編,London,Orlando,Academic Press,1984;Goldberg,I.,”The Significance of Molecular Type,Shape and Complementarity in Clathrate Inclusion”,Topics in Current Chemistry(1988),Vol.149,pp.2−44;Weber,E.ら,”Functional Group Assisted Clathrate Formation−−Scissor−Like and Roof−Shaped Host Molecules”,Topics in Current Chemistry(1988),Vol.149,pp.45−135;ならびにMacNicol,D.D.ら,”Clathrates and Molecular Inclusion Phenomena”,Chemical Society Reviews(1978),Vol.7,No.1,pp.65−87を参照されたい。シクロデキストリンクラスレートに変換すると、特定の化合物の安定性および溶解性が増大することによって、それを医薬品として使用することが容易になることが知られている。例えば、Saenger,W.,”Cyclodextrin Inclusion Compounds in Research and Industry”,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.(1980),Vol.19,pp.344−362;米国特許第4,886,788(Schering AG)号;米国特許第6,355,627号(Takasago);米国特許第6,288,119号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,110,969号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,235,780号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,262,293号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,225,347号(Ono Pharmaceuticals);および米国特許第4,935,446号(Ono Pharmaceuticals)を参照されたい。
【0050】
「シクロデキストリン」は、アルファ(1−4)結合によって連結された少なくとも6つのグルコピラノース単位からなる環状オリゴ糖を指す。オリゴ糖環は、環状体の狭い方の末端にあるグルコースの第一級ヒドロキシル基と輪を形成する。広い方の末端には第二級グルコピラノースヒドロキシル基がある。シクロデキストリンは、水溶液中では疎水性分子を空洞内に結合させることによって、その分子と包接錯体を形成することが明らかにされている。このような錯体の形成によって、「ゲスト」分子が蒸発による消失、酵素、可視光および紫外光による攻撃ならびに分子内および分子間反応から保護される。このような錯体はほかにも、複合体が温暖な湿潤環境に遭遇するまで揮発性物質を「固定する」役割を果たし、このような環境に遭遇した時点で複合体が溶解し、ゲスト分子とシクロデキストリンに解離する。本発明の目的のために、グルコースを6単位含むシクロデキストリンをα−シクロデキストリンと明記し、グルコース残基が7個および8個のシクロデキストリンをそれぞれβ−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンと命名する。このシクロデキストリン命名法の代わりに最もよく用いられるのが、このような化合物をシクロアミロースと命名する方法である。
【0051】
「シクロアルキル」は、炭素原子と水素原子のみからなり、融合環系または架橋環系を含み得、飽和または不飽和であり、単結合によって分子の残りの部分と結合している、安定な非芳香族単環式または多環式炭化水素ラジカルを指す。いくつかの態様では、シクロアルキルは3〜10個の炭素原子を有する。単環式ラジカルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが挙げられる。多環式ラジカルとしては、例えば、アダマンチン、ノルボルナン、7,7−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタニルなどが挙げられる。
【0052】
「シクロアルケニル」は、3〜15個の炭素原子を有する単環式または多環式炭化水素アルケニル部分を指す。
【0053】
「シクロアルキニル」という用語は、5〜15個以上の炭素原子を有する単環式または多環式アルキニル部分を指す。
【0054】
「シクロアルキルアルキル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたシクロアルキルラジカルであるラジカルを指す。「シクロアルキルアルケニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルケニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたシクロアルキルラジカルであるラジカルを指す。「シクロアルキルアルキニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたシクロアルキルラジカルであるラジカルを指す。
【0055】
「ハロ」は、ブロモ,クロロ,フルオロまたはヨードを指す。
【0056】
「ハロアルキル」は、上で定義される1つまたは複数のハロラジカルによって置換された、上で定義されるアルキルラジカル、例えば、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリクロロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、1−フルオロメチル−2−フルオロエチル、3−ブロモ−2−フルオロプロピル、1−ブロモメチル−2−ブロモエチルなどを指す。ハロアルキルラジカルのアルキルは、任意選択で置換されていてもよい。
【0057】
「ハロアルケニル」は、上で定義される1つまたは複数のハロラジカルによって置換された、上で定義されるアルケニルラジカルを指す。ハロアルキルラジカルのアルケニル部分は、任意選択で置換されていてもよい。「ハロアルキニル」は、上で定義される1つまたは複数のハロラジカルによって置換された、上で定義されるアルキニルラジカルを指す。ハロアルキルラジカルのアルキニル部分は、任意選択で置換されていてもよい。
【0058】
「ヘテロシクリル」および「複素環」は、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択される1〜6個のヘテロ原子を含む安定な3〜18員芳香環ラジカルを指す。本明細書で特に明記されない限り、ヘテロシクリルラジカルは、融合環系または架橋環系を含み得る単環系、二環系、三環系または四環系であってよく;ヘテロシクリルラジカル内の窒素原子、炭素原子または硫黄原子は、任意選択で酸化されていてよく;窒素原子は、任意選択で四級化されていてよく;ヘテロシクリルラジカルは、部分飽和または完全飽和であってよい。このようなヘテロシクリルラジカルの例としては、特に限定されないが、アゼピニル、2,5−ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−イル、ヘキサヒドロ−1H−1,4−ジアゼピニル、ジオキソラニル、チエニル[1,3]ジチアニル、デカヒドロイソキノリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、2−オキソピペラジニル、2−オキソピペリジニル、2−オキソピロリジニル、オキシラニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、4−ピペリドニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、キヌクリジニル、チアゾリジニル、テトラヒドロフリル、トリチアニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、チアモルホリニル、1−オキソ−チオモルホリニルおよび1,1−ジオキソ−チオモルホリニルが挙げられる。
【0059】
「N−ヘテロシクリル」は、少なくとも1つの窒素を含み、ヘテロシクリルラジカルと分子の残りの部分との結合点がヘテロシクリルラジカル内の窒素原子を介するものである、上で定義されるヘテロシクリルラジカルを指す。N−ヘテロシクリルラジカルは、任意選択で置換されていてもよい。
【0060】
「ヘテロシクリルアルキル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロシクリルラジカルであるラジカルを指し、ヘテロシクリルが窒素を含むヘテロシクリルである場合、ヘテロシクリルは窒素原子または炭素原子の位置でアルキルラジカルと結合していてよい。「ヘテロシクリルアルケニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルケニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロシクリルラジカルであるラジカルを指し、ヘテロシクリルが窒素を含むヘテロシクリルである場合、ヘテロシクリルは窒素原子または炭素原子の位置でアルケニルラジカルと結合していてよい。「ヘテロシクリルアルキニル」は、式−−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロシクリルラジカルであり、ヘテロシクリルが窒素を含むヘテロシクリルである場合、ヘテロシクリルは窒素原子または炭素原子の位置でアルキニルラジカルと結合していてよい。
【0061】
「ヘテロアリール」は、1〜13個の炭素原子と、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択される1〜6個のヘテロ原子とからなる、3〜18員の完全または部分芳香環ラジカルを指す。本発明の目的には、ヘテロアリールラジカルは、融合環系または架橋環系を含み得る単環系、二環系、三環系または四環系であってよく;ヘテロアリールラジカル内の窒素原子、炭素原子または硫黄原子は、任意選択で酸化されていてよく;窒素原子は、任意選択で四級化されていてよい。例としては、特に限定されないが、アクリジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾインドリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾ[b][1,4]ジオキセピニル、1,4−ベンゾジオキサニル、ベンゾナフトフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキシニル、ベンゾピラニル、ベンゾピラノニル、ベンゾフラニル、ベンゾフラノニル、ベンゾチエニル(ベンゾチオフェニル)、ベンゾトリアゾリル、ベンゾ[4,6]イミダゾ[1,2−a]ピリジニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フラニル、フラノニル、イソチアゾリル、イミダゾリル、インダゾリル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、インドリジニル、イソオキサゾリル、ナフチリジニル、オキサジアゾリル、2−オキソアゼピニル、オキサゾリル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、トリアジニルおよびチオフェニル(すなわち、チエニル)が挙げられる。
【0062】
「N−ヘテロアリール」は、少なくとも1つの窒素を含み、ヘテロアリールラジカルと分子の残りの部分との結合点がヘテロアリールラジカル内の窒素原子を介するものである、上で定義される任意選択で置換されたヘテロアリールラジカルである。
【0063】
「ヘテロアリールアルキル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロアリールラジカルであるラジカルを指す。「ヘテロアリールアルケニル」は、式−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルケニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロアリールラジカルであるラジカルを指す。「ヘテロアリールアルキニル」は、−R−Rのラジカルであって、Rが、上で定義される任意選択で置換されたアルキニルラジカルであり、Rが、上で定義される任意選択で置換されたヘテロアリールラジカルであるラジカルを指す。
【0064】
「置換された(ている)」という用語は、1個、2個もしくは3個またはそれ以上の水素原子が独立して置換基に置き換わることによって置換されていることを指し、このような置換基としては、特に限定されないが、−C〜C12アルキル、−C〜C12アルケニル、−C〜C12アルキニル、−C〜C15シクロアルキル、−C〜C15シクロアルケニル、C〜C15シクロアルキニル、−複素環、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−NO、−N、−CN、−NH、オキソ、チオキソ、−NHR、−NR、ジアルキルアミノ、−ジアリールアミノ、−ジヘテロアリールアミノ、−OR、−C(O)OR、−C(O)R、−C(O)C(O)R、−OCO、−OC(O)R、OC(O)C(O)R、−NHC(O)R、−NHCO、−NHC(O)C(O)R、−NHC(S)NH、−NHC(S)NHR、−NHC(NH)NH、−NHC(NH)NHR、−NHC(NH)R、−C(NH)NHR、−NRC(O)R、−NRCO、−NRC(O)C(O)R、−NRC(S)NH、−NRC(O)NR、−NRS(O)NR、−NRC(S)NHR、−NRC(NH)NH、−NRC(NH)NHR、−NRC(NH)R、−C(NR)NHR−S(O)、−NHSO、−CHNH、−CHSOCH、−(C=NR)R;−アリール、−アリールアルキル、−ヘテロアリール、−ヘテロアリールアルキル、−ヘテロシクロアルキル、−C〜C15−シクロアルキル、−ポリアルコキシアルキル、−ポリアルコキシ、−メトキシメトキシ、−メトキシエトキシ、−SH、−S−Rまたは−メチルチオメチルが挙げられ、式中、Rは、水素、−C〜C12アルキル、−C〜C12アルケニル、−C〜C12アルキニル、−C〜C15シクロアルキル、−アリール、−ヘテロアリールおよび−複素環からなる群より選択され;−Rは、水素、−C〜C12アルキル、−C〜C12アルケニル、−C〜C12アルキニル、−C〜C15シクロアルキル、−アリール、−ヘテロアリール、−複素環、−NH、−NH−C〜C12アルキル、−NH−C〜C12アルケニル、−NH−C〜C12−アルキニル、−NH−C〜C15シクロアルキル、−NH−アリール、−NH−ヘテロアリールおよび−NH−複素環からなる群より選択され、nは0、1または2である。アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、複素環などはさらに置換されていてもよいことが理解される。
【0065】
「多形」は、本発明の化合物の多形体を指す。固体は非晶質形態または結晶形態のいずれかで存在する。結晶形態の場合、分子が3次元格子部位に配置されている。化合物が溶液またはスラリーから再結晶化するとき、様々な空間的格子配置で結晶化し得るが、これを「多形性」と呼び、その様々な結晶形をそれぞれ「多形」と呼ぶ。所与の物質の様々な多形体は、溶解度と解離、真密度、結晶の形状、圧密挙動、流動性および/または固体状態の安定性などの1つまたは複数の物理学的特性が互いに異なり得る。2種類(またはそれ以上)の多形体で存在する化学物質の場合、不安定な形態は一般に、十分な時間が経過した後、所与の温度でより熱力学的に安定な形態に転換する。この転移が急速なものでない場合、熱力学的に不安定な形態は「準安定」な形態と呼ばれる。一般に、安定な形態は最も高い融点、最も低い溶解度および最大の化学的安定性を示す。しかし、準安定な形態でも通常の保管条件下であれば、市販形態で使用できる程度の化学的および物理学的安定性を示し得る。この場合、準安定な形態は安定な形態よりも不安定ではあるが、溶解度の増大または優れた経口バイオアベイラビリティなど安定な形態よりも望ましい特性を示し得る。
【0066】
「プロドラッグ」は、生理的条件下で、または加溶媒分解によって本発明の生物学的に活性な化合物に変換され得る化合物を表すものとする。したがって、「プロドラッグ」という用語は、薬学的に許容される本発明の化合物の代謝前駆体を指す。プロドラッグはそれを必要とする患者に投与する時点では不活性であり得るが、in vivoで本発明の活性化合物に変換される。プロドラッグは通常、例えば血液中での加水分解によって、in vivoで変換されて本発明の親化合物を生じる。プロドラッグ化合物は多くの場合、哺乳動物における溶解性、組織適合性または遅延放出という利点をもたらす(Bundgard,H.,Design of Prodrugs(1985),pp.7−9,21−24(Elsevier,Amsterdam)を参照されたい)。プロドラッグに関する考察がHiguchi,T.らの「Pro−drugs as Novel Delivery Systems」,A.C.S.Symposium Series,Vol.14およびBioreversible Carriers in Drug Design,Edward B.Roche編,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に記載されており、これらはともにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。「プロドラッグ」という用語はほかにも、このようなプロドラッグを哺乳動物対象に投与したときに本発明の活性化合物をin vivoで放出する、任意の共有結合した担体を包含するものとする。本発明の化合物のプロドラッグは、ルーチンの操作またはin vivoで修飾が切断されて本発明の親化合物を生じるように、本発明の化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製され得る。プロドラッグは、ヒドロキシ基、アミノ基またはメルカプト基が任意の基と結合しており、本発明の化合物のプロドラッグを哺乳動物対象に投与したときに切断されて、それぞれ遊離ヒドロキシ基、遊離アミノ基または遊離メルカプト基を生成する、本発明の化合物を含む。プロドラッグの例としては、特に限定されないが、本発明の化合物中のアルコールまたはアミン官能基の酢酸エステル、ギ酸エステルおよび安息香酸エステル誘導体などが挙げられる。
【0067】
「安定な化合物」および「安定な構造」は、反応混合物から有用な純度になるまで単離し、有効な治療剤に製剤化するのに耐え得る程度に堅固な化合物を表すものとする。
【0068】
「哺乳動物」には、ヒトおよび家畜、例えばネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギなどが含まれる。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0069】
「任意選択の」または「任意選択で」は、その後に記載される状況の事象が起こっても起こらなくてもよく、その記載には上記事象または状況が起こる場合と起こらない場合とが含まれることを意味する。例えば、「任意選択で置換されたアリール」は、アリールラジカルが置換されていても置換されていなくてもよく、その記載には置換されたアリールラジカルと置換を有さないアリールラジカルの両方が含まれることを意味する。
【0070】
「薬学的に許容される賦形剤」としては、特に限定されないが、例えばヒトまたは家畜での使用が許容されるものとして米国食品医薬品局による承認を受けている、任意の補助剤、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、色素/着色剤、調味剤、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、等張剤、溶媒または乳化剤が挙げられる。
【0071】
「薬学的に許容される塩」には酸付加塩および塩基付加塩がともに含まれる。
【0072】
「薬学的に許容される酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的効果および特性を保持し、生物学的にまたはその他の点で不適切ではない酸付加塩を指し、このような塩は、特に限定されないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸および特に限定されないが、酢酸、2,2−ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4−アセトアセトアミド安息香酸、樟脳酸、カンファー−10−スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン−1,2−ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、2−オキソ−グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸、ピルビン酸、サリチル酸、4−アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、チオシアン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ウンデシレン酸などの有機酸を用いて生成される。
【0073】
「薬学的に許容される塩基付加塩」は、遊離酸の生物学的効果および特性を保持し、生物学的にまたはその他の点で不適切ではない塩基付加塩を指す。このような塩は、遊離酸に無機塩基または有機塩基を付加することにより調製される。無機塩基に由来する塩としては、特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、アルミニウム塩などが挙げられる。好ましい無機塩は、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩である。有機塩基に由来する塩としては、特に限定されないが、第一級、第二級および第三級アミンの塩、天然の置換アミン、環状アミンおよび塩基性イオン交換樹脂を含めた置換アミン、例えばアンモニア、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、デアノール、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、ベネタミン、ベンザチン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などが挙げられる。特に好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリンおよびカフェインである。
【0074】
「医薬組成物」は、本発明の化合物と、生物学的に活性な化合物を哺乳動物、例えばヒトに送達するのに当該技術分野で一般に認められている媒体との製剤を指す。このような媒体としては、あらゆる薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤が挙げられる。
【0075】
「溶媒和物」は、本発明の化合物の1つまたは複数の分子を溶媒の1つまたは複数の分子とともに含む集合体を指す。溶媒は水であってよく、この場合、溶媒和物は水和物となり得る。あるいは、溶媒は有機溶媒であってもよい。したがって、本発明の化合物は、一水和物、二水和物、半水和物、セスキ水和物、三水和物、四水和物などを含めた水和物のほか、対応する溶媒和形態として存在し得る。本発明の化合物は純粋な溶媒和物であってよいが、他の場合には、本発明の化合物は、単に付随的に水を保持しているものであっても、水に一部の溶媒が付随的に加わった混合物であってもよい。
【0076】
「治療有効量」は、哺乳動物、好ましくはヒトに投与したとき、のちに定義されるように哺乳動物、好ましくはヒトの目的とする疾患または障害の治療をもたらすのに十分な本発明の化合物の量を指す。「治療有効量」を構成する本発明の化合物の量は、例えば、用いる具体的な化合物の活性;化合物の代謝安定性および作用時間の長さ;患者の体重、全般的健康状態、性別および食事;投与の様式および時間;排泄速度;薬物の組合せ;具体的な障害または病態の重症度;ならびに治療を受ける対象によって異なるが、当業者が自身の知識および本開示を考慮することによって日常的に決定され得る。
【0077】
本明細書で使用される「治療すること」または「治療」は、目的とする疾患または病態を有する哺乳動物、好ましくはヒトの目的とする疾患または病態の治療を包含し、例えば:(i)哺乳動物に病態の素因があるが、未だ罹患していると診断されていない場合に、そのような哺乳動物に疾患もしくは病態が発現するのを予防すること;(ii)疾患もしくは病態を抑制すること、すなわち、その発現を阻止すること;(iii)疾患もしくは病態を軽減すること、すなわち、疾患もしくは病態を消退させること;および/または(iv)疾患もしくは病態を安定化することがこれに含まれる。
【0078】
本明細書で使用される「疾患」および「病態」という用語は、互換的に使用される場合もあれば、特定の疾病または病態の原因物質が明らかにされていない(したがって、未だ病因が解明されていない)ため、疾患としてではなく、望ましくない病態または症候群としてのみ認められており、臨床医によって多かれ少なかれ具体的な症状が確認されているという点で異なる場合もある。
【0079】
本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩は、1つまたは複数の不斉中心を含み得るものであり、したがって、絶対立体化学の観点から(R)−もしくは(S)−として、またはアミノ酸では(D)−もしくは(L)−として定義され得る鏡像異性体、ジアステレオ異性体をはじめとする立体異性体を生じ得る。本発明には、このような考え得る異性体ならびにそのラセミ体および光学的に純粋な形態をすべて含まれるものとする。光学的に活性な(+)と(−)、(R)−と(S)−または(D)−と(L)−の異性体は、キラルシントンまたはキラル試薬を用いて調製され得る、あるいは、例えば特に限定されないが、キラルカラムを用いるHPLCなどの従来の技術を用いて分割され得る。本明細書に記載される化合物がオレフィン二重結合をはじめとする幾何学的非対称の中心を含み、特に明記されない場合、その化合物にはE幾何異性体とZ幾何異性体がともに含まれるものとする。同様に、あらゆる互変異性型も含まれるものとする。
【0080】
「立体異性体」は、同じ化学結合によって結合した同じ原子で構成されているが、三次元構造が異なっており、互換性のない化合物を指す。本発明では各種の立体異性体およびその混合物が企図され、分子が互いに重ね合わせることができない鏡像になっている2つの立体異性体を指す「鏡像異性体」がこれに含まれる。
【0081】
「互変異性体」は、分子内のある原子から同じ分子内の別の分子へのプロトン移動を指す。本発明にはあらゆる前記化合物の互変異性体が含まれる。
【0082】
本発明の化合物は、文献、例えば、米国特許第7,737,145号および米国特許出願公開第20100210630A1号に記載されている方法を用いて調製され得るものであり、上記文献はそれぞれ、その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。関連する方法がほかにも、例えば、Baraldiら(2003),J Med Chem 46:1229−1241に記載されており、その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。当業者に理解される通り、ジアステレオ異性体はカラムクロマトグラフィーを用いて反応混合物から分離することができる。
【0083】
このほか、のちの実施例の節には本発明の化合物の調製方法が示されている。
【0084】
当業者には、本明細書に記載される方法では中間体化合物の官能基を適切な保護基で保護する必要があり得ることが理解されよう。このような官能基としては、ヒドロキシ、アミノ、メルカプトおよびカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシに適した保護基としては、トリアルキルシリルまたはジアリールアルキルシリル(例えば、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、テトラヒドロピラニル、ベンジルなどが挙げられる。アミノ、アミジノおよびグアニジノに適した保護基としては、t−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。メルカプトに適した保護基としては、−C(O)R’’(式中、R’’は、アルキル、アリールまたはアリールアルキルである)、p−メトキシベンジル、トリチルなどが挙げられる。カルボン酸に適した保護基としては、アルキルエステル、アリールエステルまたはアリールアルキルエステルが挙げられる。
【0085】
保護基は、当業者に公知の標準的な技術および本明細書に記載される標準的な技術によって付加または除去することができる。保護基の使用については、Greene,T.W.およびP.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis(1999),第3版,Wileyに詳細に記載されている。当業者には理解される通り、保護基はこのほか、Wang樹脂、Rink樹脂または2−クロロトリチル−クロリド樹脂などのポリマー樹脂であってもよい。
【0086】
当業者にはこのほか、本発明の化合物のこのような保護誘導体自体は薬理活性をもたないが、哺乳動物に投与された後に体内で代謝されて薬理学的に活性な本発明の化合物を生成し得ることが理解されよう。したがって、このような誘導体を「プロドラッグ」と言うことがある。本発明の化合物のあらゆるプロドラッグが本発明の範囲内に含まれる。
【0087】
当業者であれば、本明細書に記載される方法と同様の方法または当業者に公知の方法によって本発明の化合物を作製することが可能であることが理解される。一般に、本発明の化合物の合成で最初の出発物質として用いる化合物は、よく知られ市販されているものである。最初の出発物質として用いる化合物が市販されていない場合に限り、記載される特定の参考文献を用いて、あるいは当業者によく用いられる標準的な方法および/または一般的な参考テキストにみられる標準的な方法によって、その化合物を容易に合成し得る(例えば,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers Inc.,1989;Compendium of Organic Synthetic Methods,第1−10巻,1974−2002,Wiley Interscience;Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure,第5版,Wiley Interscience,2001;Advanced Organic Chemistry,第4版,Part B,Reactions and Synthesis,Kluwer Academic/Plenum Publishers,2000などおよび本明細書に引用される参考文献を参照されたい)。
【0088】
以下の共通の略記を使用する:
N,N−ジメチルホルムアミドにはDMF
テトラヒドロフランにはTHF
トリフルオロ酢酸にはTFA
酢酸エチルにはEtOAc
トリメチルシリルにはTMS
薄層クロマトグラフィーにはTLC
メタノールにはMeOH
水酸化ナトリウムにはNaOH
t−ブトキシカルボニルにはBoc。
【0089】
様々な既知のアッセイおよび本明細書に記載されるアッセイによって、本発明の化合物がLTA−hを阻害する能力を試験することができる。例えば、化合物を加水分解酵素均一時間分解蛍光測定法でアッセイすることによって、化合物がLTA−h活性を阻害する能力を試験することができる。このアッセイは2段階のアッセイであり、生成したLTBの量を分析することによってLTA−hからLTBへの加水分解を測定するものである。第一段階では、酵素によりLTA−hをLTBに変換し、第二段階では、生成したLTA−hを均一時間分解蛍光測定法で定量化する。
【0090】
LTA−h加水分解酵素は亜鉛メタロプロテアーゼのM1ファミリーと同じグループに属するため(Rudberg,P.C.ら,J.Biol.Chem.2002,Vol.277,1398−1404ページを参照されたい)、本発明の化合物を標準的な加水分解酵素およびペプチダーゼアッセイで試験して、化合物のLTA−h加水分解酵素と結合する速度定数およびLTB合成を阻害する速度定数を求めることができる(Askonas,L.J.ら,The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 2002,300(2):577−582;Penning,T.D.,J.Med.Chem.2000,43(4):721−735;Kull,F.ら,The Journal of Biological Chemistry 1999,274(49):34683−34690(その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる)を参照されたい)。
【0091】
このほか、ヒト、マウス、ラットまたはイヌ全血を用いた全血アッセイにより、本発明の化合物をLTA−h加水分解酵素の阻害剤としての能力について試験することができる(ヒト全血アッセイおよびマウス全血アッセイに関する説明については、Penning,T.D.ら,J.Med.Chem.(2000),43(4):721−735(その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる)を参照されたい)。
【0092】
炎症の顕著な特徴には、好中球、好酸球をはじめとする炎症細胞の血管内皮への付着およびそこからの遊出がある。これと同様の過程が、肺、消化管をはじめとする器官に生じる極性上皮細胞からの細胞の移動にみられる。このような過程の細胞培養モデルが入手可能であり、これを用いて、本発明の化合物にヒト好中球がヒト腸上皮細胞系列T84を含めたヒト血管内皮細胞および上皮細胞から遊出するのを阻害する能力があることを示すことができる。したがって、当業者は、Colgan,S.P.ら,J.Clin.Invest 1993,Vol.92,No.1,pp.75−82およびSerhan,C.N.ら,Biochemistry 1995,Vol.34,No.44,pp.14609−14615に記載されているアッセイと同様のアッセイを実施することによって、本発明の化合物がヒト好中球および好酸球のヒト血管内皮細胞および上皮細胞からの遊出を阻害する能力を試験することができる。
【0093】
空気嚢モデルおよび/またはマウスザイモサン誘発腹膜炎モデルを用いて、炎症性応答の治療における本発明の化合物のin vivo効果を評価することができる。ここに挙げたモデルは、局所への炎症細胞の浸潤を特徴とする炎症の急性実験モデルである。例えば、Ajuebor,M.N.ら,Immunology 1998,Vol.95,pp.625−630;Gronert,K.ら,Am.J.Pathol.2001,Vol.158,pp.3−9;Pouliot,M.ら,Biochemistry 2000,Vol.39.pp.4761−4768;Clish,C.B.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1999,Vol.96,pp.8247−8252;Hachicha,M.ら,J.Exp.Med.1999,Vol.189,pp.1923−30に記載されているin vivoアッセイを参照されたい。
【0094】
動物モデル(すなわち、in vivoアッセイ)を用いてほかにも、特に限定されないが喘息を含めた喘息ならびにこれに関連する肺および気道の障害の治療における本発明の化合物の効果を明らかにすることができる。例えば、De Sanctis,G.T.ら,Journal of Clinical Investigation 1999,Vol.103,pp.507−515およびCampbell,E.M.ら,J.Immunol.1998,Vol.161,No.12,pp.7047−7053に記載されているアッセイを参照されたい。
【0095】
純粋な形態またはしかるべき医薬組成物での本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩の投与は、同様の有用性を得るために認められているいずれの薬剤の投与様式でも実施することができる。本発明の医薬組成物は、本発明の化合物と、しかるべき薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とを組み合わせることによって調製することができ、固体、半固体、液体または気体形態の製剤、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェアおよび噴霧剤などの製剤に製剤化し得る。このような医薬組成物の典型的な投与経路としては、特に限定されないが、経口、局所、経皮、吸入、非経口、舌下、経直腸、経膣および鼻腔内が挙げられる。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射または注入技術を包含する。本発明の医薬組成物を患者に投与したときに、組成物中に含まれる有効成分が生物学的に利用可能な状態になるよう本発明の医薬組成物を製剤化する。対象または患者に投与する組成物は1つまたは複数の投与単位の形態をとり、例えば、錠剤は単回投与単位であり得、エアゾール形態の本発明の化合物の容器には複数の投与単位が収納され得る。このような剤形を調製する実際の方法は当業者に公知であるか、明らかなものであり;例えば、The Science and Practice of Pharmacy,第23版(Philadelphia College of Pharmacy and Science,2000)を参照されたい。投与する組成物は、本発明の教示による目的とする疾患または病態の治療にはいずれの場合も、治療有効量の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を含有する。
【0096】
本発明の医薬組成物は固体または液体の形態であり得る。一態様では、担体(1つまたは複数)が微粒子状物質であるため、組成物が例えば錠剤または粉末形態になる。担体(1つまたは複数)は液体であってもよく、組成物は例えば、経口シロップ、注射用液または例えば吸入投与に有用なエアゾールになる。経口投与を目的とする場合、医薬組成物は固体形態であっても液体形態であってもよく、この場合、本明細書で固体または液体と見なされる形態には半固体、半液体、懸濁液およびゲル形態が含まれる。
【0097】
医薬組成物を経口投与のための固体組成物として、粉末、顆粒、圧縮錠剤、丸剤、カプセル、チューインガム、カシェをはじめとする形態に製剤化し得る。このような固体組成物は通常、1つまたは複数の不活性希釈剤または食用担体を含有する。さらに、以下に挙げるものが1つまたは複数存在してもよい:カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、トラガントゴムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプン、ラクトースまたはデキストリンなどの賦形剤、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、Primogel、コーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotexなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味剤;ハッカ、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料などの香味剤;および着色剤。
【0098】
医薬組成物がカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態である場合、上記のタイプの材料に加えて、ポリエチレングリコールまたは油などの液体担体を含有し得る。
【0099】
医薬組成物は液体、例えば、エリキシル、シロップ、溶液、乳濁液または懸濁液の形態であり得る。液体は、2つの例として経口投与または注射による送達のためのものであり得る。経口投与を目的とする場合、組成物は、本発明の化合物に加えて、甘味剤、保存剤、色素/着色剤および香味促進剤のうちの1つまたは複数を含有し得る。注射による投与を目的とする組成物の場合、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤および等張剤のうちの1つまたは複数が含まれ得る。
【0100】
本発明の液体医薬組成物は、溶液、懸濁液をはじめとする形態を問わず、以下に挙げる補助剤を1つまたは複数を含み得る:滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、好ましくは生理的食塩水、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒としての役割を果たし得る合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールをはじめとする溶媒など;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤および塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの浸透圧を調節する薬剤。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回用量バイアルに封入することができる。生理的食塩水が好ましい補助剤である。注射用医薬組成物は無菌であるのが好ましい。
【0101】
非経口または経口投与を目的とする本発明の医薬組成物は、適切な用量が得られる量の本発明の化合物を含有するべきである。この量は通常、組成物中少なくとも0.01%の本発明の化合物である。経口投与を目的とする場合、この量を組成物の重量の0.1%〜約70%になるよう変化させ得る。好ましい経口医薬組成物は、本発明の化合物を約4%〜約50%含有する。好ましい本発明による医薬組成物および製剤は、本発明の希釈前に非経口投与単位が化合物を0.01〜10重量%含有するように調製される。
【0102】
本発明の医薬組成物は局所投与を目的とするものであってもよく、この場合、担体は、液剤、乳剤、軟膏またはゲル剤基剤を適切に含み得る。基剤は、例えば、以下に挙げるものを1つまたは複数含み得る:ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、ミツロウ、鉱油、希釈剤(水およびアルコールなど)、乳化剤および安定剤。局所投与のための医薬組成物中に増粘剤が存在してもよい。経皮投与を目的とする場合、組成物は、経皮パッチまたはイオン導入装置を含み得る。局所製剤は、約0.1〜約10%w/v(単位体積当たりの重量)の濃度の本発明の化合物を含有し得る。
【0103】
本発明の医薬組成物は、例えば、直腸内で融解して薬物を放出する坐剤の形態で経直腸投与を目的とするものであってもよい。経直腸投与のための組成物は、適切な無刺激性の賦形剤として油脂性基剤を含有し得る。このような基剤としては、特に限定されないが、ラノリン、カカオ脂およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0104】
本発明の医薬組成物は、固体または液体投与単位の物理的形態を改変する様々な材料を含み得る。例えば、組成物は、有効成分の周囲にコーティング殻を形成する材料を含み得る。被覆殻を形成する材料は通常、不活性であり、例えば、糖、セラックをはじめとする腸溶性コーティング剤から選択され得る。あるいは、有効成分をゼラチンカプセルに入れてもよい。
【0105】
固体または液体形態の本発明の医薬組成物は、本発明の化合物と結合することによって化合物の送達を補助する薬剤を含み得る。このような性能で作用し得る適切な薬剤としては、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、タンパク質またはリポソームが挙げられる。
【0106】
本発明の医薬組成物は、エアゾールとして投与することができる投与単位からなるものであり得る。エアゾールという用語は、コロイド的性質のシステムから加圧充填物からなるシステムに及ぶ様々なシステムを表すのに用いられる。送達は、液化ガスまたは圧縮ガスによるものであっても、有効成分を投与する適切なポンプシステムによるものであってもよい。本発明の化合物のエアゾールは、有効成分(1つまたは複数)を送達するために単相性、二相性または三相性のシステムで送達され得る。エアゾールの送達には、必要な容器、アクチベーター、弁、サブ容器などが含まれ、これらが一緒になってキットを形成し得る。当業者は、過度の実験を実施することなく好ましいエアゾールを決定し得る。
【0107】
本発明の医薬組成物は、製薬分野で周知の方法論によって調製することができる。例えば、本発明の化合物と無菌蒸留水とを組み合わせて溶液を形成することによって、注射による投与を目的とする医薬組成物を調製することができる。界面活性剤を添加して均質な溶液または懸濁液の形成を促進してもよい。界面活性剤は、本発明の化合物と非共有結合的に相互作用して、水性送達システム中の化合物の溶解または均質な懸濁を促進する化合物である。
【0108】
本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩は治療有効量で投与し、その量は様々な因子によって異なり、当業者によって日常的に決定され得る。一般に、治療有効1日量は(70kgの哺乳動物の場合)、約0.001mg/kg(すなわち、0.7mg)〜約100mg/kg(すなわち、7.0g);好ましくは治療有効量は(70kgの哺乳動物の場合)、約0.01mg/kg(すなわち、7g)〜約50mg/kg(すなわち、3.5g);より好ましくは治療有効量は(70kgの哺乳動物の場合)、約1mg/kg(すなわち、70mg)〜約25mg/kg(すなわち、1.75g)である。
【0109】
本発明の本発明またはその薬学的に許容される誘導体はこのほか、1つまたは複数の他の治療剤の投与と同時に、投与前に、または投与後に投与し得る。このような併用療法には、本発明の化合物と1つまたは複数の追加の活性薬剤とを含有する単一の医薬製剤の投与のほか、本発明の化合物および各活性薬剤をそれぞれ別個の医薬製剤として投与することが含まれる。例えば、本発明の化合物と他の活性薬剤を錠剤またはカプセルなどの単一の経口投与組成物として一緒に患者に投与してもよく、また各薬剤を別個の経口投与製剤として投与してもよい。別個の投与製剤を用いる場合、本発明の化合物と1つまたは複数の追加の活性薬剤を実質的に同じ時間に、すなわち同時に、または時間をずらして別個に、すなわち逐次的に投与することが可能であり、併用療法には、このようなレジメンがすべて含まれることが理解される。
【0110】
本発明の化合物はLTA加水分解酵素活性の阻害剤であり、したがって、LTA加水分解酵素活性の阻害によって改善される疾患および障害の治療に有用である。このような疾患および病態としては、炎症性障害、自己免疫障害、肺炎症および気道炎症が挙げられる。
【0111】
したがって、化合物は、哺乳動物、特にヒトの以下に挙げるような疾患または障害の治療に有用である:急性または慢性炎症、アナフィラキシー反応、アレルギー反応、アレルギー性接触皮膚炎、アレルギー性鼻炎、化学物質による非特異的な刺激性接触皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、クローン病による瘻孔、回腸嚢炎、敗血症性または内毒素性ショック、出血性ショック、ショック様症候群、癌免疫療法による毛細血管漏出症候群、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性線維症、外傷性ショック、免疫による肺炎、病原体による肺炎、免疫複合体による肺損傷および慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病および術後の外傷を含む)、胃腸管潰瘍、虚血−再灌流傷害による疾患(急性心筋虚血および心筋梗塞、急性腎不全、虚血性腸疾患および急性出血性または虚血性脳卒中を含む)、免疫複合体による糸球体腎炎、自己免疫疾患(インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症および全身性エリテマトーデスを含む)、急性および慢性臓器移植拒絶反応、移植動脈硬化症および線維症、心血管障害(高血圧症、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、重症下肢虚血、末梢動脈閉塞性疾患およびレイノー症候群を含む)、糖尿病の合併症(糖尿病性腎症、ニューロパチーおよび網膜症を含む)、眼障害(黄斑変性症および緑内障を含む)、神経変性障害(脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳炎およびHIV認知症の遅発性神経変性を含む)、関節痛を含めた炎症性および神経因性疼痛、歯肉炎を含めた歯周病、耳感染症、片頭痛、良性前立腺過形成ならびに癌(特に限定されないが、白血病およびリンパ腫、前立腺癌、乳癌、肺癌、悪性黒色腫、腎癌、頭頸部腫瘍ならびに結腸直腸癌を含む)。
【0112】
化合物はこのほか、固形腫瘍の治療に用いられる上皮成長因子(EGF)または上皮成長因子受容体(EGFR)キナーゼの阻害剤によって誘発される毛包炎の治療に有用である。臨床試験により、毛包炎(顔面、胸部および上背部に重度の挫瘡様皮膚発疹により発症する毛包の炎症)がこのような治療の主要な用量制限副作用であることが明らかにされている。このような毛包炎は好中球の浸潤によって引き起こされることから、活性化した好中球によって分泌される産物が炎症の原因であることが示唆される。本発明の化合物は好中球または好酸球による炎症を阻害することから、このような毛包炎の治療に有用であり、これにより、治療を受けた癌患者の生活の質が改善することに加えて、EGF阻害剤もしくはEGFRキナーゼ阻害剤の用量の増大または治療期間の延長が可能になり、その結果、所望の阻害剤の効果が改善する。
【0113】
化合物はほかにも、特に限定されないが、喘息、慢性気管支炎、細気管支炎、閉塞性細気管支炎(器質化肺炎を伴うものを含む)、気道のアレルギー性炎症(鼻炎および副鼻腔炎を含む)、好酸球性肉芽腫、肺炎、肺線維症、結合組織疾患の肺症状、急性または慢性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、成人呼吸窮迫症候群およびその他の好酸球浸潤を特徴とする肺の非感染性炎症性障害を含めた哺乳動物、特にヒトの肺および呼吸器の炎症性障害の治療に有用である。
【0114】
例えば、本発明の化合物は、好酸球による肺または組織の炎症;好中球による肺の炎症;リンパ球による肺の炎症;気道反応亢進;ならびに気道および血管炎症の抑制に有用である。
【0115】
化合物はほかにも、哺乳動物、特にヒトの心筋梗塞または心筋梗塞に対する易罹患性、一過性脳虚血発作、一過性単眼盲、脳卒中または脳卒中に対する易罹患性、跛行、末梢動脈閉塞性疾患または末梢動脈閉塞性疾患に対する易罹患性および急性冠動脈症候群(不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞またはST上昇型心筋梗塞など)の治療に有用である。化合物はこのほか、哺乳動物の心筋梗塞、脳卒中または末梢動脈閉塞性疾患のリスクを低下させる方法および二次心筋梗塞または脳卒中のリスクを低下させる方法に有用である。
【0116】
化合物はほかにも、動脈(冠動脈など)の血流を回復させるために治療(血管形成術、ステント、冠動脈バイパス移植)を必要とする哺乳動物、特にヒトのアテローム性動脈硬化症の治療に有用である。
【0117】
本明細書に記載される化合物はほかにも、神経変性疾患の治療に使用することができる。本発明の方法に従って治療し得る神経変性疾患の非限定的な例には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病およびハンチントン病がある。
【0118】
本発明の化合物を癌の治療に使用してもよい。いくつかの実施形態では、癌は白血病である。本発明の化合物を投与することによって治療し得る白血病の具体例には、慢性顆粒球性白血病、慢性B細胞白血病および慢性骨髄性白血病がある。本発明はこのほか、治療を必要とする対象の固形腫瘍を治療する方法を包含する。本明細書に記載される方法に従って治療し得る固形腫瘍の非限定的な例には、卵巣腫瘍、食道腫瘍および肝細胞腫瘍がある。
【0119】
ある特定の実施形態では、本発明は、治療を必要とする対象の呼吸器炎症を治療する方法であって、前記対象に本明細書に記載される化合物を投与することを含む方法である。一実施形態では、呼吸器炎症は嚢胞性線維症である。
【0120】
またさらなる態様では、本発明は、炎症性の皮膚病態を治療する方法を包含する。炎症性の皮膚病態の非限定的な例には、アトピー性皮膚炎、挫瘡、乾癬および湿疹がある。
【0121】
いくつかの実施形態では、本発明は、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、全身性硬化症による間質性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、アルツハイマー病、骨粗鬆症およびII型糖尿病、アレルギー性鼻炎、挫瘡および歯肉炎からなる群より選択される病態を治療する方法に関する。
【0122】
このほか、好酸球性障害を治療する方法が包含される。例示的な好酸球性障害には、好酸球性食道炎、好酸球性胃腸炎、好酸球性大腸炎、好酸球性筋膜炎、慢性好酸球性肺炎、好酸球性膀胱炎、好酸球増多症候群およびチャーグ・ストラウス症候群がある。いくつかの実施形態では、好酸球性障害は好酸球性食道炎である。
【0123】
化合物はほかにも、in vitroおよびin vivo両方のアッセイにおけるロイコトリエンBの合成阻害に有用である。
【0124】
以下の非限定的な例によって本発明を説明する。
【実施例】
【0125】
(例示)
実施例1:置換アニリンの調製
【化8】
A.4−(2−オキサゾリル)フェノール(10.8g、11.2mmol)をDMSO(9mL)に溶かした溶液を攪拌しながらカリウムtert−ブトキシド(1.5g、13.4mmol)および4−フルオロ−ニトロベンゼン(1.3mL,12.3mmol)を順次加えた。反応物を周囲温度で17時間攪拌した。反応物を冷水酸化ナトリウム水溶液(1N)に注加した。ろ過により固体を単離して、2.6gの2−[4−(4−ニトロフェノキシ)フェニル]オキサゾールを得た。
【0126】
B.2−[4−(4−ニトロフェノキシ)フェニル]オキサゾール(2.6g、9.2mmol)を酢酸エチル(20mL)とメタノール(100mL)の混合物に溶かしたスラリーを窒素雰囲気下に置いた後、触媒パラジウム(C上10%、0.65g)を加えた。反応混合物を大気圧で水素雰囲気下に置いた。3時間後、反応混合物をセライトのパッドでろ過し、メタノールで洗浄した。ろ液を濃縮して、2.4gの4−[4−(2−オキサゾリル)フェノキシ]ベンゼンアミンを得た。
【0127】
以下に記載される置換アニリンは、Sigma−Aldrich社から購入するか、上記の通りに調製したものである。
【0128】
実施例2:4−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)フェニルアミンの調製
【化9】
水素化ナトリウム(1g、24mmol)をDMF(75mL)に溶かしたスラリーを攪拌しながら2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール(2mL、20mmol)を50分かけて加えた。反応混合物を4−フルオロ−1−ニトロベンゼン(2.1mL、20mmol)で処理し、16時間攪拌した。水で反応を停止させ、エーテルで抽出した。フラッシュクロマトグラフィーに酢酸エチル/ヘキサンの勾配を用いた精製により、3.7gの1−ニトロ−4−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)ベンゼンを得た:H NMR(CDCl,400MHz)δ8.21(d,2H),6.94(d,2H),4.43(t,2H)。
【0129】
1−ニトロ−4−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)ベンゼン(3.7g、13.7mmol)をメタノール(50mL)に溶かした溶液に窒素を吹き込んで酸素を除去した後、10%Pd/C(0.37g)を加えた。反応混合物を攪拌し、水素雰囲気下に16時間置いた。反応物をセライトのパッドでろ過し、メタノールで洗浄した。ろ液を濃縮して3.4gを得た。フラッシュクロマトグラフィーに塩化メチレン/ヘキサンを用いた精製により、2.5gの4−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)フェニルアミンを得た:H NMR(CDCl,400MHz)δ6.71(d,2H),6.64(d,2H),4.33(t,2H),3.48(s,2H)。
【0130】
実施例3:化合物9の調製
【化10】
2−[ビス−(メチルスルファニル)メチレン]マロノニトリルを無水エタノールに溶かした溶液を4−フェノキシアニリンで処理し、出発物質がすべて消費されるまで混合物を加熱還流した。減圧下で溶媒を除去して、所望の2−[(4−フェノキシフェニルアミノ)−2−メチルスルファニルメチレン]マロノニトリルを得た
【0131】
所望の2−[(4−フェノキシフェニルアミノ)−2−メチルスルファニルメチレン]マロノニトリルを無水エタノールに溶かした溶液をヒドラジンで処理し、出発物質がすべて消費されるまで混合物を加熱還流した。反応物を冷却させ、減圧下で溶媒を除去して、所望の1H−3−アミノ−4−シアノ−5−(4−フェノキシフェニルアミノ)ピラゾールを得た。
【0132】
1H−3−アミノ−4−シアノ−5−(4−フェノキシフェニルアミノ)ピラゾールおよび2−(2−ニトロ−3−ヒドロキシカルボキシフェニル)−マロンジアルデヒドをアルコール溶媒に溶かして混合物とし、出発物質が消費されるまで加熱した。溶媒を除去して、所望の2−(4−フェノキシフェニルアミノ)−3−シアノ−6−(2−ニトロ−3−ヒドロキシカルボキシフェニル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンを単離した。
【0133】
実施例4:生物活性
本発明に包含される例示的な化合物のペプチダーゼアッセイ、加水分解酵素アッセイおよび全血アッセイ(WBA)の活性のIC50値を下の表2に示す。全血アッセイおよびアミノペプチダーゼアッセイは、Penningら,J.Med.Chem.2000,43,721−735およびRudbergら,J.Biol.Chem.Vol.279,No.26,Issue of June 25,pp.27376−27382,2004(それぞれ、その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる)に記載されている通りに実施した。加水分解酵素アッセイは米国特許第7,737,145号(その内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる)に記載されている通りに実施した。
【0134】
【表2】
【0135】
ここまで本発明をその好ましい実施形態と関連させて具体的に図示および説明してきたが、当業者には、添付の「特許請求の範囲」に包含される本発明の範囲から逸脱することなく形態および詳細に様々な変更を施し得ることが理解されよう。