特許第6534669号(P6534669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウーペーエム−キュンメネ コーポレイションの特許一覧

特許6534669セルロースの触媒酸化のための方法、およびセルロース製品を製造するための方法
<>
  • 特許6534669-セルロースの触媒酸化のための方法、およびセルロース製品を製造するための方法 図000009
  • 特許6534669-セルロースの触媒酸化のための方法、およびセルロース製品を製造するための方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534669
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】セルロースの触媒酸化のための方法、およびセルロース製品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20190617BHJP
【FI】
   C08B15/04
【請求項の数】32
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-539601(P2016-539601)
(86)(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公表番号】特表2016-529377(P2016-529377A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】FI2014050669
(87)【国際公開番号】WO2015028719
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年8月21日
(31)【優先権主張番号】20135886
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム−キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM−Kymmene Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】パーッコネン,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ポンニ,ライリ
(72)【発明者】
【氏名】ブオリネン,タパニ
【審査官】 吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−040530(JP,A)
【文献】 特開2012−207135(JP,A)
【文献】 特開2009−068014(JP,A)
【文献】 特開平10−251302(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137140(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/047218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒として複素環ニトロキシルラジカル、および酸素源として作用する主酸化剤を用いる、繊維性のセルロース性材料におけるセルロースの触媒酸化のための方法において、
セルロースの触媒酸化の前に、前処理である、
− 繊維性のセルロース性材料が0.6〜1.2Mの水酸化物濃度を有するアルカリ溶液中で1〜15分間処理されるアルカリ前処理工程、および
− アルカリ溶液中で処理された繊維性のセルロース材料がpHを低下するように洗浄される洗浄工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記繊維性のセルロース性材料は、植物材料から得られる繊維であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液は、アルカリ金属水酸化物溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄工程において、pHは、アルカリ範囲まで、最大12または12以下まで低下されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
pHは、8〜12の範囲まで低下されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
pHは、9〜11の範囲まで低下されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
pHは、9〜10の範囲まで低下されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記前処理において、セルロースの結晶領域は、セルロースIとして残っていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記前処理において、セルロースのDPは、初期値と比較して最大で20%減少することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記前処理において、セルロースのDPは、初期値と比較して最大で10%減少することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理において、セルロースのDPは、初期値と比較して同じままであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
繊維性のセルロース性材料は、ヘミセルロースを含み、ヘミセルロース含有量は、前記前処理において減少することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記前処理において使用される前記アルカリ溶液は、循環され、必要であれば、ヘミセルロースは、当該アルカリ溶液から除去されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記前処理されたセルロースの前記触媒酸化における前記反応時間は、1時間以下であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記前処理されたセルロースの触媒酸化前に、セルロースの不存在下において、複素環ニトロキシル触媒の予備活性化工程を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
次亜塩素酸塩は、前記前処理されたセルロースの触媒酸化において主酸化剤として使用されることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記前処理されたセルロースの前記触媒酸化において、pHは、7〜10であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記前処理されたセルロースの前記触媒酸化において、pHは、8〜9.5であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記前処理されたセルロースの触媒酸化におけるパルプ初期濃度は、6%を超えることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記前処理されたセルロースの触媒酸化におけるパルプ初期濃度は、6%を超えて最大12%であることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記前処理されたセルロースの触媒酸化におけるパルプ初期濃度は、8〜12%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記前処理されたセルロースは、臭素またはヨウ素の不存在下において酸化されることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記前処理されたセルロースの触媒酸化後、当該セルロースにおけるアルデヒド基は、第2補充酸化工程においてカルボキシル基に酸化されることを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記前処理されたセルロースは、0.5〜1.6mmol COOH/g パルプのレベルまで酸化されることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記前処理されたセルロースは、0.5〜1.1mmol COOH/g パルプのレベルまで酸化されることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記前処理されたセルロースは、0.6〜0.95mmol COOH/g パルプのレベルまで酸化されることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記触媒酸化後、酸化された繊維性原材料は、分解されることを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記酸化された繊維性原材料は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)であって、水性媒体における0.5wt%濃度で回転式レオメータによって測定された、1,000〜100,00Pa.sの範囲のゼロせん断粘度と、1〜50Paの範囲の降伏応力とを有するナノフィブリル化セルロースに分解されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記酸化された繊維性原材料は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)であって、水性媒体における0.5wt%濃度で回転式レオメータによって測定された、5,000〜50,000の範囲のゼロせん断粘度と、3〜15Paの範囲の降伏応力とを有するナノフィブリル化セルロースに分解されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ナノフィブリル化セルロースは、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶であることを特徴とする請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記ナノフィブリル化セルロースは、植物材料から作製されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素環ニトロキシルラジカルを触媒として用いる、セルロースの触媒酸化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、多くの化学誘導体に変換することができる再生可能な天然ポリマーである。誘導体化は、重合体のβ−D−グルコピラノース単位におけるヒドロキシル基の化学反応によって主に行われる。セルロースの特性は、化学的誘導体化によって、重合体構造を保持しながら本来の化学的形態に比べて改変させることができる。所望の化学構造の誘導体を得ることを可能にするためには、反応選択性が重要である。
【0003】
複素環ニトロキシル化合物は、セルロース分子におけるC−6ヒドロキシル基の、アルデヒドおよびカルボン酸への選択的酸化に関与する触媒として知られており、対応するオキソアンモニウム塩は、反応系における活性な直接酸化剤として知られている。長い間知られているこれらの化学酸化触媒の1つは、「TEMPO」、すなわち2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシフリーラジカルである。したがって、ニトロキシルラジカルの酸化型、N−オキソアンモニウムイオンは、標的セルロース分子の酸化において直接的な酸化剤として作用するが、一方、反応系に酸素をもたらし、ニトロキシル化合物を酸化型に変換するために、主酸化剤が使用される。
【0004】
次亜塩素酸ナトリウムを主酸化剤として使用することによって、第1級アルコールを「TEMPO」を介してアルデヒドおよびカルボン酸に酸化することが知られている(たとえば、Anelli, P. L.; Biffi, C.; Montanari, F.; Quici, S.; J. Org. Chem. 1987, 52, 2559)。カルボン酸へのアルコールの酸化の収率を向上させるために、次亜塩素酸ナトリウムと塩素酸ナトリウムとの混合物も使用された(Zhao, M. M.; Li, J.; Mano, E.; Song, Z. J.; Tschaen, D. M.; Org. Synth. 2005, 81, 195)。
【0005】
次亜塩素酸ナトリウムを主酸化剤(酸素源)として、臭化ナトリウムを活性化剤として使用することによって、天然セルロース繊維中のセルロースを「TEMPO」を介して触媒的に酸化する方法も知られている(Saito, T. et al.; Cellulose Nanofibers Prepared by TEMPO-Mediated Oxidation of Native Cellulose, Biomacromolecules 2007, 8, 2485-2491)。セルロースのβ−D−グルコピラノース単位の第1ヒドロキシル基(C6−ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。いくつかのアルデヒド基も、第1ヒドロキシル基から形成される。このようにして得られた酸化セルロースの繊維が水中で分解されるとき、それらは、幅が3〜5nmの個別化されたセルロース小繊維として、すなわち、いわゆるナノフィブリル化セルロースとして安定して透明に分散される。
【0006】
酸化の選択性は、使用される化学物質が所望でない副反応に消費されないために重要である。選択性は、消費された主酸化剤に対して形成されたカルボキシル基の割合として定義することができる。
【0007】
触媒酸化の反応速度は、主に、複素環ニトロキシル触媒の濃度、主酸化剤の濃度、pH、反応温度、およびパルプ濃度(反応媒体におけるパルプ濃度)に依存する。パルプの特性も重要であり、たとえば反応物質への酸化されていないセルロースの有効性は、重要な因子である。非結晶セルロースは通常、結晶性セルロースよりも容易に酸化される。なぜなら、非結晶セルロースは、水により容易に接近可能であるからである。
【0008】
セルロースを、たとえばmmol COOH/g パルプによって表わされるような所望の酸化レベルに酸化することは可能であるが、問題が、酸化の選択性において生じ得る。低い酸化選択性は、主酸化剤の消費を増加させる。低い酸化選択性は、酸化処理の間における、NaClOの分解と、セルロースを分離し、DPを低下させる傾向を有するNaClOとパルプとの間の直接反応とを原因とする遅い酸化速度にも関連する。セルロースの最も選択的な酸化は、反応性パルプを用いて実施することができる。非乾燥パルプは、反応性パルプのよい例である。乾燥パルプと比較して非乾燥パルプの高い反応性は、水がセルロース性材料から除去されるときに生じ、パルプにおけるセルロースの接近可能なヒドロキシル基の量を減少させるセルロースミクロフィブリル凝集体が原因である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、セルロースのC−6水酸基を効果的および選択的に酸化する方法を提供することである。
【0010】
他の目的は、より早い反応速度を可能にする反応性セルロースを製造するための方法を提供することである。特に、反応性セルロースを製造し、結晶構造および重合体鎖長(DP)を、セルロースの強度が低下しないように維持することを目的とする。
【0011】
さらなる目的は、ナノフィブリル化セルロースを製造するための方法を提供することである。
【0012】
本発明の方法において、触媒酸化の前に、セルロースは、0.3Mを超える水酸化物濃度を有するアルカリ溶液におけるアルカリ前処理にさらされ、その後セルロースは、洗浄されpHを低下させられる。pHは、洗浄後でもアルカリ範囲にある。pHは、12、好ましくは11、より好ましくは10以下の値に下げられる。pHがこれらの値未満または以下であるとき、pHは、好ましくは8〜12の範囲、より好ましくは9〜11の範囲、最も好ましくは9〜10の範囲に下げられる。好ましくは、アルカリ性前処理溶液の水酸化物濃度は、少なくとも0.5Mである。0.3Mを超える、好ましくは少なくとも0.5Mの水酸化物濃度の溶液は、アルカリ性前処理溶液として使用されてもよい。これらは、それぞれ少なくとも13.5および少なくとも13.7のpH値におおよそ相当する。アルカリ性前処理溶液の水酸化物濃度は、0.3〜2.4M、好ましくは0.5〜1.5M、最も好ましくは0.6〜1.2Mの範囲内にある。1.0Mの溶液(pH14)は、処理されるパルプのpHに関して可逆的であり、セルロースの構造を変化させない効果的な処理を可能にする最適条件に近いと考えられる。上述の濃度で使用される溶液は、好ましくはアルカリ金属水酸化物溶液である。NaOHおよびKOH溶液が好適である。なぜなら、それらは化学産業において通常使用される塩基であるからである。NaOHがアルカリ金属水酸化物として使用される場合、ナトリウムは、回収することができ、化学パルプミルにおいて、前記処理がそこで使用されるときは、化学物質の循環において使用することができる。
【0013】
前処理溶液とセルロースとの接触は、セルロースの反応性を増加するためにほんの数分である必要がある。前処理時間が数分から1時間に増加された場合、結果における顕著な相違はなかった。実際には、アルカリ溶液による5〜15分の前処理時間で十分である。
【0014】
処理は可逆的であり、つまり、pHは、前処理されたセルロースを洗浄することによって中性に戻すことが可能である。セルロースのpHは、5%のパルプ濃度において洗浄されたセルロースの懸濁液から測定される。
【0015】
前処理されるべきセルロースは、通常パルプと称される植物由来の繊維性原材料に存在する。繊維におけるセルロースは、結晶および非結晶領域を有し、当該結晶性セルロースは、セルロースIである。原材料は、最も好ましくは化学パルプである。このパルプは、酸化剤を消費するヘミセルロースをさらに含んでもよい。アルカリ前処理は、セルロースの結晶構造が変化せず、セルロースの鎖長を特徴付けるDP(重合度)が好ましく保持されるために十分に穏やかであり、それが減少する場合、最大で20%(最初の少なくとも80%)、好ましくは最大で10%(最初の90%)減少する。しかしながら、アルカリ溶液の濃度の好適な選択によって、ヘミセルロースの一部は、処理において除去することもできる。1Mのアルカリ溶液は、パルプからヘミセルロースの一部を除去するために十分に強いが、依然としてセルロースの構造に影響を与えない。たとえば、パルプに存在する約20〜75%、より具体的には25〜50%のヘミセルロースは、アルカリ溶液を用いて除去することができる。
【0016】
重合度(DP)は、セルロース重合体におけるグルコース単位の平均数を表す粘度法平均重合度である。
【0017】
前処理において使用された消費されたアルカリ溶液は、補給アルカリの可能な添加後、目標の水酸化物濃度をもたらし、新たな前処理に循環させることができる。ヘミセルロースは、循環溶液から除去することができるので、それらは溶液中に蓄積されない。アルカリ溶液からヘミセルロースを除去するための方法は、公知である。
【0018】
前処理にさらされるパルプ原材料は、非乾燥パルプまたは乾燥パルプであってもよい。本発明の方法は、乾燥パルプを触媒酸化に反応性にするために使用することができる。
【0019】
セルロースが前処理された後、セルロースは触媒酸化にさらされる。任意の方法は、触媒を活性化し、主酸化剤を用いる触媒酸化を実施するために使用することができる。2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジニル−1−オキシラジカル(TEMPO)などの複素環ニトロキシルラジカルは、国際公開公報WO2012/168562号によって知られているように、たとえば三級アミンまたは二酸化塩素によって活性化することができる。
【0020】
また、2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジニル−1−オキシラジカル(TEMPO)などの複素環ニトロキシルラジカルは、予備工程において、次亜塩素酸塩によって好適なラジカル形態から活性酸化形態に活性化することができ、その後、セルロースの触媒酸化は、触媒および主酸化剤によって所望の酸化度に進行させることができることが見出された。この活性化は、セルロースの不存在下において単独の予備工程において実施される。
【0021】
セルロース酸化工程において、前処理されたセルロースは、セルロース、触媒、および主酸化剤、好ましくは次亜塩素酸塩を含む反応媒体中で酸化される。反応媒体のpHは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性のpH調節試薬を添加することによって酸化処理に好ましい範囲内に保たれる。セルロース酸化工程の間において、次亜塩素酸塩は、セルロースの所望の酸化レベルをもたらすために徐々に添加される。
【0022】
セルロース酸化工程は、好ましくは臭素またはヨウ素の不存在下において実施される。
【0023】
セルロース酸化工程は、好ましくは、7〜10、好ましくは8〜9.5のpH値において実施される。セルロース酸化工程において、pHは、臭素が触媒の活性化剤として使用されるときにセルロースの触媒酸化に一般的に推奨されるよりも低い。触媒および主酸化剤によるセルロースの触媒酸化は、セルロースの構造的完全性(DP値)に関する好適な条件で実施することができる。
【0024】
セルロース酸化工程の間における酸化処理において、セルロースは、主酸化剤を用いる触媒活性によってC−6炭素においてカルボキシル基に酸化され、当該主酸化剤は、反応に酸素を提供し、セルロースの量に関連するその量は、セルロースの変換度を調節するために使用することができる。次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩は、主酸化剤として使用することができる。残余のアルデヒド基は、第2工程においてカルボキシル基に酸化することができ、酸化処理を終了し、カルボキシレート含有量(mmol COOH/g パルプ)として表わされる所望の酸化度に達する。第2セルロース酸化工程は、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などの塩素を酸化剤として用いる酸性条件において実施される。
【0025】
酸化が実施される反応媒体におけるパルプの濃度は、好ましくは3%を超える。
【0026】
事実、好ましい実施形態によれば、反応は、選択性を増加させるために中程度のパルプ濃度で実施される。中程度のパルプ濃度が使用されるとき、セルロース酸化の選択性を向上することができる。なぜなら、所望の反応は、繊維中で起こるが、不要の副反応は、溶液相で起こるからである。
【0027】
中程度の濃度は、通常使用されるよりも高いセルロース性原材料の初期濃度である。パルプの濃度は、6%を超え、特に6%を超えて最大12%であり、より好ましくは8%以上であり、最も好ましくは8〜12重量%の範囲内である。最後に述べられた範囲内において、好適な濃度は、9〜11%の範囲内であると考えられる。濃度の値は、酸化の開始時の初期濃度である。
【0028】
しかしながら、セルロース酸化工程は、たとえば2〜4%の範囲内の濃度である3%以下のパルプ初期濃度においてさえも実施することが可能である。
【0029】
セルロース酸化工程の後、セルロースは、最終セルロース製品に加工することができる。出発材料が植物、特に木に由来するパルプであるとき、セルロースは、繊維形態で存在する。酸化処理の結果として酸化形態にあるセルロースを含む繊維は、機械的方法によって小さい寸法の断片であるナノフィブリル化セルロース(NFC)に容易に分解しやすい。したがって、セルロース製品を形成する方法は、パルプ原材料のアルカリ前処理工程と、酸化のための原材料として前処理されたパルプを用いるセルロース酸化工程と、パルプがナノフィブリル化セルロースに分解される分解工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明は、添付図面を参照して以下に説明される。
図1】異なる酸化方法の結果としての、パルプのカルボキシレート含有量を示す。
図2】アルカリ金属水酸化物の異なる濃度で処理されたパルプにおけるセルロースの結晶化度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の開示において、特に示されない場合、全てのパーセント値は重量によるものである。さらに、全ての所与の数値範囲は、特に示されない場合、範囲の上限値と下限値とを含む。
【0032】
本願において、示される全ての結果と、なされた計算とは、それらがパルプの量に関する限り、乾燥パルプに基づいてなされる。
【0033】
本発明の方法において、セルロースの第1水酸基は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシ遊離ラジカル「TEMPO」などの複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化される。セルロースのグルコースユニットのC−6炭素の水酸基の酸化において選択性を有することが知られている他の複素環ニトロキシル化合物も使用することができ、これらの化合物は、広く文献に引用されている。これ以後、セルロースの酸化は、これらの水酸基をアルデヒドおよびカルボキシル基に酸化することを表す。酸化にさらされる水酸基の一部は、酸化されたセルロースにおいてアルデヒド基として存在することができ、またはカルボキシル基への酸化を終えることができる。酸化レベルは、次に、セルロースに対する主酸化剤の割合によって決定される。
【0034】
触媒「TEMPO」が本明細書に記載されていれば、「TEMPO」が関与するすべての措置および動作は、TEMPOの任意の誘導体、またはセルロース中のC−6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することができる任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく同様に適用されることが明らかである。
【0035】
以下の説明では、触媒酸化は、ヒドロキシル基のニトロキシル媒介性(たとえば、「TEMPO」媒介性)酸化を意味する。同様に、繊維または繊維性材料の触媒酸化は、セルロースのヒドロキシル基のニトロキシル媒介性(たとえば、「TEMPO」媒介性)酸化によって酸化されたセルロースを含む材料を意味する。
【0036】
セルロースの前処理
酸化工程前のセルロースの前処理は、
− アルカリ前処理工程であって、セルロース(パルプなど)が、0.3Mを超える水酸化物濃度(モル濃度)、または少なくとも13.5のpH値、好ましくは少なくとも0.5M、または少なくとも13.7のpH値を有する水性アルカリ溶液と接触させられるアルカリ前処理工程と、
− 後続の洗浄工程であって、前処理されたセルロースが水で洗浄され、そのpHをアルカリ前処理溶液のものから好ましくは12以下に低下するが、好ましくは8〜12、より好ましくは9〜11のアルカリ性範囲内に保持する洗浄工程とを含む。しかしながら、洗浄が十分に長い間継続される場合、セルロースのpHは、7以下に低下させることができる。
【0037】
アルカリ性前処理工程の継続時間は、所望の効果をもたらすために比較的短くてもよい。1〜15分間の処理時間は、セルロースを活性化するために十分である。また、処理時間は、前処理されるべきセルロースの量に依存する。産業規模の処理において、たった5分間の処理時間が期待され得る。
【0038】
セルロースの触媒酸化
前処理されたセルロースは、次に任意の公知の方法を用いて触媒的に酸化されてもよい。前処理によって、反応時間は、前処理されていないセルロースが同一の条件において同一の変換度(酸化レベル)まで酸化されるときの時間よりも顕著に短く、半分(1/2)未満、好ましくは3分の1(1/3)未満である。反応時間は、1時間未満であってもよく、30分未満であってもよいのに対して、同一の変換度への反応時間は、前処理なしでは2時間を超える。
【0039】
複素環ニトロキシル媒介性セルロース酸化(例として「TEMPO」を用いる)のスキームは、以下に示される。
【化1】
【0040】
酸化処理における触媒として使用される複素環ニトロキシル化合物(たとえば「TEMPO」)は、その中性ラジカル形態で安定であり、その形態で保存することができる。触媒は、触媒として一度に反応に加えることができる酸化形態に活性化され、セルロースの酸化処理が迅速に開始する。
【0041】
「TEMPO」のラジカル形態の構造式は、以下に示される。
【化2】
【0042】
任意の公知の活性化剤は、安定なラジカル形態の触媒を活性化するために使用することができる。これらの活性化剤は、WO2012/16852に開示されたように二酸化塩素および塩素ガスを含む。二酸化塩素または塩素ガスを用いる触媒の活性化は、活性化された触媒が、前処理されたセルロース性原材料を含む実際の反応媒体に導入される前に単独操作として実施される。
【0043】
また、触媒の活性化は、好ましくはヘキサメチレンテトラミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、およびキヌクリジンから選択された三級アミン、特に環状三級アミンを用いて実施することが可能であり、WO2012/168562に開示されている。アミンは、酸化の開始時点で反応媒体に1用量で添加されてもよく、または前処理されたセルロース性原材料の酸化の間における反応媒体に継続的に添加されてもよい。
【0044】
上述の活性化法は、以下のように酸化において臭素またはヨウ素の使用を回避し、選択性およびセルロース強度についてより好ましい酸化条件を可能にすることを補助するよう導入される。
【0045】
複素環ニトロキシルラジカルは、セルロースの酸化における触媒として効果的であるように、予備活性化工程において次亜塩素酸塩によって活性化される。活性化工程は、好ましくは、触媒に関して過剰量の次亜塩素酸塩を用いて水媒体において実施される。活性化は、9未満、好ましくは6〜8のpHで実施される。次亜塩素酸ナトリウムが使用される場合、反応媒体のpHは、硫酸などの酸を用いて好適な範囲に調節される。有機酸または次亜塩素酸もpH調節のために使用することができる。ラジカルは、好ましくは溶解形態で、pH調節後に媒体に添加することができる。また、好ましくは融解形態のラジカルは、最初に水または次亜塩素酸塩に溶解可能であり、pHはその後に調節される。
【0046】
次亜塩素酸塩は、好ましくは複素環ニトロキシルラジカルに対して1:1〜3:1の理論混合比で活性化工程において使用される。次亜塩素酸塩は、好ましくは過剰に、つまり1:1を超える割合で使用される。
【0047】
セルロース性原材料を前処理するために使用される酸化方法は、触媒を活性化する上述の方法に限定されない。
【0048】
セルロースの酸化のための反応媒体は、活性化された複素環ニトロキシル触媒、セルロース、および主酸化剤であり、主酸化剤は、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムである。酸化処理は、反応媒体を混合する手段と反応条件の制御装置とを備える反応容器において実施される。触媒と主酸化剤とは、好ましくはセルロース繊維の繊維性懸濁液に添加され、反応媒体の所望の出発濃度をもたらす。濃度は、上述されたような中程度の濃度範囲であってもよいが、より低い濃度も同様に使用することができる。主酸化剤は、反応の間に一部滴下されてもよい。次亜塩素酸塩のような主酸化剤を継続的に添加することが有利である。なぜなら、セルロースの酸化が、不要の副反応を生じ得る過剰の濃度を回避するように進行するからである。
【0049】
前処理されたセルロース性原材料は、繊維性原材料、特に植物起源の繊維であり、反応媒体に懸濁され、水性反応媒体に懸濁されたとき、所与濃度のパルプを形成する。繊維は、特に木に由来するものであってもよい。軟材または硬材パルプなどの化学パルプ、たとえば漂白されたカバノキパルプを使用することができる。
【0050】
酸化反応は、必要な変換度(酸化レベル)が達成されるまで進行させられる。酸化の結果として生成されるカルボキシレート基に表わされるように、これは通常、乾燥パルプとして計算して0.5〜1.6mmol COOH/g パルプである。
【0051】
NFCを作製する目的にとって、0.5〜1.1、好ましくは0.6〜0.95、最も好ましくは0.7〜0.9mmol COOH/g パルプの酸化レベル(変換度)が、セルロース繊維を機械的エネルギーによって小繊維に容易に分解するために既に十分であることが見出された。
【0052】
セルロースに対する次亜塩素酸塩の用量は、上述の変換度に達するために、1.7〜5mmol/g パルプ、好ましくは2.2〜2.7mmol/g パルプであってもよい。
【0053】
酸化が実施される反応媒体におけるパルプの濃度は、好ましくは3%を超える。
【0054】
事実、好ましい実施形態によれば、反応は、選択性を増加するために中程度のパルプ濃度において実施される。中程度のパルプ濃度が使用されるとき、セルロース酸化の選択性を向上することができる。なぜなら、所望の反応は繊維内で生じるが、不要な副反応は、溶液相において生じるからである。
【0055】
中程度の濃度は、通常使用されるよりも高い、セルロース性原材料の初期濃度である。パルプの濃度は、6%を超え、特に6%を超えて最大12%、より好ましくは8%以上、最も好ましくは8〜12重量%である。後者の範囲内において、好適な濃度は、9〜11%であると考えられる。濃度値は、酸化の開始時における初期濃度である。
【0056】
上述の実施形態の全てにおいて、触媒酸化は、臭素の使用なしに実施することができる。臭化ナトリウムは、速い反応速度と高い程度の酸化とによって活性化剤および共触媒として従来使用され、さらなる一実施形態に係る触媒酸化処理において回避されてもよい。従来、臭化ナトリウムが使用されるとき、好適なpHは、10である。しかしながら、このpHにおいて副反応が起こり、比較的速い反応速度でさえも回避することができない。DP値(重合度)は、顕著に減少し、NFCの強度特性およびゲル形成能を減少させる。
【0057】
したがって、さらなる一実施形態によれば、前処理されたセルロース性原材料の、複素環ニトロキシル触媒を用いる触媒的非臭素酸化であって、好ましくは上述されたセルロース性原材料の中程度濃度で実施される触媒的非臭素酸化は、pHおよび温度に関して注意深く規定された条件を用いて実施することができる。反応は、中性またはややアルカリ性pH、7〜10、より好ましくは8〜9.5の範囲内で、および室温またはやや高い温度、15〜50℃、好ましくは20〜40℃、最も好ましくは26〜35℃において、添加されるアルカリ金属ハロゲン化物(臭素またはヨウ素)の非存在下で実施される。選択性(C3に対して少ないC2反応)が向上され、臭素化合物は回避される。低いpHによって低下した酸化反応速度は、温度によって補償され、より高いpHと同様に副反応を増加させない。
【0058】
温度制御は、反応の間に上述の範囲内に温度を保つために使用されてもよい。酸化は発熱反応であるので、反応媒体の温度は、冷却されなければ上昇する。前記上昇は、開始点と終点との間で約10℃である。したがって、15〜50℃の範囲内において、反応は、30℃以下で開始し、40℃以下で終了してもよく、たとえば24〜26℃で開始し、34〜36℃で終了する。
【0059】
複素環ニトロキシル触媒を用いるセルロース酸化工程が進行し、所望の変換度に達したとき、酸化工程は、停止される。酸化されたセルロースは、反応媒体から分離され、洗浄される。反応媒体に残った触媒は再利用することができ、たとえばそれは新規のセルロース酸化工程のために次亜塩素酸塩を用いて再活性化することができる。
【0060】
触媒酸化の間において、C−6炭素におけるセルロースのヒドロキシル基の一部は、アルデヒドに不完全に酸化される。アルデヒドが酸化製品において望まれない場合、酸化は、第2の補充的なセルロース酸化工程にて、異なる反応条件を用いてアルデヒド基をカルボキシレート基に酸化することによって終了してもよい。
【0061】
残余のアルデヒドをカルボキシレートに変換し、最終的なカルボキシレート含有量に達するための第2の補充酸化工程は、pHが明らかに酸性側、約1.5〜4、好ましくは2〜3である反応媒体中において実施される。好ましくは、第2工程は、pH3以下で実施される。セルロース酸化工程の反応媒体から分離された酸化セルロースは、新たな反応媒体に混合される。また、セルロース酸化工程の反応媒体のpHは、先行するセルロース酸化工程の停止点において第2の補充酸化工程のpH範囲に直接低下させることができる。
【0062】
第2の補充酸化において、亜塩素酸塩、たとえば亜塩素酸ナトリウムは、以下に示されるスキームに従って酸化剤として使用される。亜塩素酸塩は、酸性条件下において亜塩素酸(HClO、pKa1.96)の形態である。亜塩素酸は、セルロースのアルデヒド基をカルボン酸基に酸化する。
【化3】
【0063】
ジメチルスルホキシド(DMSO)は、亜塩素酸塩から次亜塩素酸塩の形成を除くために第2の補充酸化工程における反応媒体に使用することができる。
【0064】
したがって、第2工程において酸化を完了させて、目標の酸化レベル(COOH/g パルプ)を有するセルロースを得ることが可能である。
【0065】
第2の酸化工程に代えて、NaBHなどの好適な還元剤を用いることによってアルデヒド基がヒドロキシル基に戻る還元工程を実施することも可能である。
【0066】
セルロース酸化工程から得られる酸化セルロースは、さらに処理することができる。有利な実施形態によれば、酸化されたセルロースは、酸化セルロース繊維を小繊維に分解することに関する公知の方法によってナノフィブリル化セルロース(NFC)にされる。
【0067】
用語「ナノフィブリル化セルロース」は、セルロース原材料に由来する、単離されたセルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリル束の集合物に関する。ミクロフィブリルは、通常高いアスペクト比を有する。長さは1マイクロメートルを超えるが、数平均直径は通常200nm以下である。ミクロフィブリル束の直径は、より大きくてもよいが、一般的に1μm未満であってもよい。最も小さいマイクロフィブリルは、いわゆる基本小繊維と同様であり、通常2〜12nmの直径である。小繊維または小繊維束の直径は、原材料と分解方法とに依存する。ナノフィブリル化セルロースは、いくらかのヘミセルロースを含んでもよく、その量は植物源に依存する。酸化されたセルロース原材料の機械的分解は、リファイナー、粉砕機、ホモジナイザ、衝突器、摩擦粉砕器、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザまたは流動型ホモジナイザなどのフルイダイザなどの好適な装置を用いて実施される。
【0068】
本願明細書に記載されたように、セルロース酸化工程において触媒的に酸化されたセルロース原材料から作製されたNFCは、非常に優れたゲル化能を有し、このことはそれが水性媒体において低濃度でゲルを形成することを意味する。たとえば、酸化されたパルプが水性媒体において約1〜4%濃度で粉砕されるとき、水中にナノフィブリルからなる透明なゲル(NFCゲル)が得られる。
【0069】
フィブリルセルロースは、好ましくは植物材料で作製され、当該植物材料は、酸化にさらされ、上述のように材料のナノフィブリル化セルロースへの分解を促進する変換度でセルロースのヒドロキシル基をカルボキシル基に変換されたものである。1つの好ましい代替案は、小繊維が二次細胞壁から得られる非実質性植物材料からマイクロフィブリルを得ることである。セルロース小繊維の豊富な源は、木質繊維である。ナノフィブリル化セルロースは、したがって、木に由来する酸化された繊維性原材料をホモジナイズすることによって製造することができ、当該材料は、化学パルプであってもよい。パルプは、たとえば軟材パルプまたは硬材パルプまたはこれらの混合物であってもよい。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は、限定的であると考えられるべきではなく、セルロースの前処理方法とその後続の処理工程とをさらに説明するものである。
【0071】
反応時間は、セルロース酸化工程における次亜塩素酸塩の消費時間(つまり、セルロースの酸化時間)として表わされる。
【0072】
カバノキパルプを用いるアルカリ処理は、異なるアルカリ濃度と、TEMPO媒介パルプ酸化前の反応時間に行われた。パルプが0.3Mを超えるNaOH濃度で短時間(分)処理されたとき、反応速度は顕著に上昇した。反応時間は、2.5時間から0.5時間まで減少した。また、NaOCl消費の効率は、最も高い次亜塩素酸塩容量が使用されたとき、少なくとも10%、80%を超え、または85%を超える。予備試験によれば、1M NaOH(pH14)によるアルカリ処理は、さらに希釈されたNaOHによって行われるものよりもさらに効果的であった。0.1M NaOH(pH13)における処理は、TEMPO媒介パルプ酸化の選択性を向上しない。さらに、アルカリ処理後のパルプ洗浄は、セルロースIのNa−セルロース−Iへの可逆性が原因で重要であった。TEMPO媒介酸化の最も高い反応速度は、1M NaOHを用いるアルカリ処理(反応時間は重要ではなかった)と、pH9までのパルプの洗浄によってもたらされた。したがって、洗浄後、繊維において利用可能であり得るいくつかのNaOH残基が存在する。TEMPO媒介パルプ酸化の反応速度の向上は、アルカリ残基および/またはNa−セルロース−I格子が原因で十分なものであった。TEMPO媒介パルプ酸化の理想的なpH範囲は、8〜9である。NaClOは、pHが低い(<8)場合、より早く分解し、セルロースのC2およびC3における第2水酸基のケトンへの不要の酸化は、pHがより高い(>9)場合に起こる。
【0073】
様々なアルカリ濃度とアルカリ処理の反応時間とは、表1において比較されている。最も効果的なアルカリ処理は、1M NaOH(pH14)によって行われた。TEMPO媒介酸化の反応時間は、2.5時間から0.5時間まで減少した。パルプ番号2の選択性(mmol COOH/mmol NaClO)は、全ての測定されたパルプで最も高いものであった。様々なアルカリ処理時間とNaClO/TEMPO用量とは、表2において比較されている。TEMPO媒介酸化の反応速度は、アルカリ処理時間が1分から240分まで増加するとき、増加しなかった。0.05から0.028mmol /g パルプまでのTEMPO添加の減少は、27から65分間まで反応時間を増加させ、参照値よりも非常に低いものであった(パルプ番号1、155分)。選択性のわずかな減少(パルプ番号6、低いTEMPO用量)は、NaClO用量のわずかな増加によって補償することができる。0.25Mにおけるアルカリ処理はまだ反応速度に影響を与えないが、0.5M NaOHでの処理では、反応時間を減少させ、選択性を増加させる(表3)。注目すべきことに、アルカリ処理後、反応の効率性が、より高いNaClO用量が使用されたときでさえ保持された(表4)。このことは、処理されていない参照試料と全く反対である。図1
【0074】
実施例1 参照酸化(パルプ番号1)、アルカリ処理なし
ラジカルTEMPOの活性化
0.375gのラジカルTEMPOは、計量され、密閉されたガラス容器に移された。50mlの水は、容器に添加された。4mlのNaClO(12.9%)溶液は、TEMPO溶液に添加された。TEMPO溶液のpHは、pHメータを用いて1M HSOによって7.5に調節された。溶液は、全てのラジカルTEMPOが溶解するまで強く混合された。
【0075】
HOCl活性化TEMPO酸化
243g(乾燥物として48g)の非乾燥カバノキパルプは、密閉容器中で計量された。活性化TEMPO溶液は、パルプと混合された。パルプは、ビュッヒ反応容器に移され、819mlの水がパルプと混合された。パルプの温度は、18℃に設定された。63mlのNaClO(12.9%)は、パルプが強く混合されている間にポンプによって反応容器に添加された。NaClO添加は、13分後に終了した。pHは、NaClOの添加の間、ポンプ速度を制御することによって9未満に保たれた。パルプの温度は、NaClO添加後に25℃に上げられ、pHは、全てのNaClOが消費されるまで(152分後)滴定装置によって調節された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClO消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後にイオン交換水を用いて洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導度滴定)は、パルプ濃度測定後に測定された。
【0076】
酸性相酸化による残余のアルデヒドのカルボキシレートへの変換
10g(乾燥物として計算される)のTEMPO酸化されたパルプは、計量され、ビュッヒ反応容器に移された。パルプは、1000mlの水によって希釈された。0.6gのNaClOと2mlのDMSOとがパルプ溶液に混合された。溶液のpHは、pHメータを用いて1M HSOによって3に調節された。パルプ溶液の温度は50℃に調節され、溶液は、酸化が準備されるまで2時間混合された。パルプは、酸化後、イオン交換水で洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導度滴定)は、パルプ濃度測定後に測定された。
【0077】
実施例2 1M NaOH中におけるカバノキパルプのアルカリ処理とその後の洗浄
アルカリ処理
155mlの8M NaOH溶液と、635mlの追加の水と共に700gの非乾燥パルプ(乾燥物として65.66g)とは、ラージビーカに添加され、5%濃度と1M NaOH濃度とを得た。混合は、NaOHの添加直後に混合機器を用いて開始した。スラリーの温度は、混合の初期段階の間に測定された。
【0078】
pH9まで洗浄
処理時間(15分間)後、パルプスラリーは、ワイヤバッグに移され、脱イオン水を用いて直ちに洗浄された。パルプスラリーのpHは、約5%濃度において測定された。洗浄は、パルプスラリーのpHが約9になるまで継続された。次に、過剰の水が手動で除去され、より高い濃度のパルプを得た。パルプは、以下の酸化段階に先立って機械的に分解された。
【0079】
実施例3 アルカリ処理および洗浄後の酸化/中程度のカルボキシレート含有量(パルプ番号2)
ラジカルTEMPOの活性化
0.375gのラジカルTEMPOは計量され、密閉されたガラス容器に移された。50mlの水は、容器に添加された。4mlのNaClO(13.1%)溶液は、TEMPO溶液に添加された。TEMPO溶液のpHは、pHメータを用いて1M HSOによって7.5に調節された。溶液は、全てのラジカルTEMPOが溶解するまで強く混合された。
【0080】
HOCl活性化TEMPO酸化
226g(乾燥物として46g)のアルカリ処理された非乾燥カバノキパルプは、密閉容器で計量された。活性化TEMPO溶液は、パルプと混合された。パルプは、ビュッヒ反応容器に移され、839mlの水がパルプと混合された。パルプの温度は、18℃に設定された。60mlのNaClO(13.1%)は、パルプが強く混合されている間にポンプによって反応容器に添加された。NaClO添加は、14分後に終了した。pHは、ポンプ速度を制御することによってNaClOの添加の間に9以下に保持された。パルプの温度はNaClO添加後25℃に上げられ、pHは、全てのNaClOが消費される(31分後)まで滴定装置によって制御された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClO消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後にイオン交換水を用いて洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導度滴定)は、パルプ濃度測定後に測定された。
【0081】
実施例1に記載されるような、酸性相酸化による残余のアルデヒドのカルボキシレートへの変換
【0082】
実施例4 アルカリ処理および洗浄後の酸化/高いカルボキシレート含有量(パルプ番号14)
ラジカルTEMPOの活性化
0.375gのラジカルTEMPOは、計量され、密閉されたガラス容器に移された。50mlの水が容器に添加された。4mlのNaClO(13.3%)溶液は、TEMPO溶液に添加された。TEMPO溶液のpHは、pHメータを用いて1M HSOによって7.5に調節された。溶液は、全てのTEMPOが溶解するまで強く混合された。
【0083】
HOCl活性化TEMPO酸化
269g(乾燥物として48g)のアルカリ処理された非乾燥カバノキパルプは、密閉容器内で計量された。活性化TEMPO溶液は、パルプと混合された。パルプは、ビュッヒ反応容器に移され、839mlの水がパルプに混合された。パルプの温度は、18℃に設定された。100mlのNaClO(13.3%)は、パルプが強く混合されている間にポンプによって反応容器に添加された。NaClOの添加は、19分後に終了した。pHは、ポンプ速度を制御することによってNaClOの添加の間、9以下に保持された。パルプの温度は、NaClO添加後に25℃に上げられ、pHは、全てのNaClOが消費される(124分後)まで滴定装置によって制御された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClOの消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後にイオン交換水で洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導度滴定)は、パルプ濃度測定後に測定された。
【0084】
実施例1に記載されたような、酸性相酸化による残余のアルデヒドのカルボキシレートへの変換
【0085】
実施例5 様々な酸化パルプの流動化
マイクロフルイディクス M110P
パルプ試料のパルプ濃度は、水によって約1.5%に調節された。試料は、Turrexによって10分間混合された。pHは、NaOHおよびpHメータによって9に調節された。パルプ溶液は、2000bar圧力によって200μmチャンバと100μmチャンバとを通された(=1回通過)。パルプ分散液は、流動化においてゲルを形成した。
【0086】
キッチンブレンダ フィリップス HR2084 (650W)
1〜3gの酸化パルプは、キッチンブレンダに添加された。パルプは、最大速度によって混合され、水は、混合パルス間のわずかな間に混合チャンバに添加された。pHが8未満である場合、1M NaOHの数滴がパルプ混合物に添加された。いくつかの混合パルス後、パルプは、ゲル化した(高いカルボキシレートパルプ)。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0087】
アルカリ処理は、TEMPO媒介パルプ酸化の反応時間を顕著に減少させる。さらに、パルプ酸化の選択性は、わずかに増加する。2段階酸化の間にカルボキシレートに変換された残余のアルデヒドのより多い量は、アルカリ処理されたパルプが高いカルボキシレート含有量に容易に酸化することができることを示す。アルカリ処理は、触媒消費量を低下させるために使用することができ、パルプ酸化の間における非常に高額な出費である。なぜなら、短い反応時間は、NaClO分解を減少させるからである。
【0088】
記載されたアルカリ処理は、非常に穏やかな処理であり、セルロース構造を不可逆的に変換しない。この処理は、マーセライズ加工、または他の強いアルカリ処理と混同されるべきではない。したがって、処理は、たとえば重合度を減少させるなど、酸化されたセルロースパルプの実質的な特性に影響を与えるものではない。
【0089】
実施例6 アルカリ処理および洗浄後の酸化/1M NaOHを用いてアルカリ処理され、中性pHに洗浄されたパルプ
アルカリ処理
700g(乾燥物として65.66g)の非乾燥パルプと共に155mlの8M NaOH溶液と635mlの追加の水とは、5%濃度および1M NaOH濃度を得るためにラージビーカに添加された。混合は、機械的ミキサを用いてNaOHの添加直後に開始された。スラリーの温度は、混合の初期状態の間に測定された。
【0090】
pH7まで洗浄
処理時間(15分)後、パルプスラリーは、ワイヤバッグに移され、脱イオン水を用いて直ちに洗浄された。パルプスラリーのpHは、約5%濃度において測定された。洗浄は、パルプスラリーのpHが約8になるまで継続された。8〜7の最終pH調節は、希釈された硫酸によって行われた。続いて、過剰の水が手作業で除かれ、より高い濃度のパルプを得た。パルプは、以下の酸化段階に先立って機械的に分解された。
【0091】
HOCl活性化されたTEMPO酸化
222g(乾燥物質として48g)のアルカリ処理された非乾燥カバノキパルプは、密閉容器で計量された。活性化されたTEMPO溶液(実施例3と同様)は、パルプと混合された。パルプはビュッヒ反応容器に移され、839mlの水はパルプと混合された。水槽の温度(反応容器を制御する)は、18℃に設定された。64mlのNaClO(13.1%)は、パルプが強く混合されている間に反応容器に添加された。NaClOの添加は、13分後に終了した。pHは、ポンプ速度を制御することによってNaClO添加の間において9以下に保持された。水槽の温度は、NaClO添加後25℃に設定され、pHは、全てのNaClOが消費されるまで(33分後)滴定装置によって制御された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClO消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後に脱イオン水によって洗浄された。CED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導滴定)は、パルプ濃度の測定後に測定された。酸化後のパルプのカルボキシレート含有量は、0.92mmol COOH/g パルプであった。
【0092】
実施例1に記載されたような酸性相酸化による残余のアルデヒドのカルボキシレートへの変換。2段階酸化後におけるパルプのカルボキシレート含有量は、1.17mmol COOH/g パルプであった。
【0093】
実施例7 アルカリ洗浄処理後の酸化/1M NaOHを用いてアルカリ処理され、pH8に洗浄されたパルプ
155mlの8M NaOH溶液および635mlの追加の水と共に700gの非乾燥パルプ(乾燥物として65.66g)をラージビーカに添加し、5%濃度および1M NaOH濃度を得た。混合は、混合機器を用いてNaOHを添加した直後に開始した。スラリーの温度は、混合の初期状態の間に測定された。
【0094】
pH8まで洗浄
処理時間(15分)後、パルプスラリーは、ワイヤバッグに移され、脱イオン水で直ちに洗浄された。パルプスラリーのpHは、約5%濃度で測定された。洗浄は、脱イオン水によって25回洗浄することによって中性になるまで継続された。次に、過剰の水は、手作業で除去され、高濃度のパルプを得た。パルプは、以下の酸化段階に先立って機械的に分解された。
【0095】
HOCl活性化TEMPO酸化
210g(乾燥物として48g)のアルカリ処理された非乾燥カバノキパルプは、密閉容器内で計量された。活性化TEMPO溶液(実施例3と同様)は、パルプに混合された。パルプは、ビュッヒ反応容器に移され、852mlの水がパルプと混合された。水槽の温度(反応容器を制御する)は、18℃に設定された。63ml(13.1%)のNaClOは、パルプが強く混合されている間にポンプによって反応容器に添加された。NaClO添加は、9分後に終了した。pHは、ポンプ速度を制御することによってNaClO添加の間に9以下に保持された。水槽の温度は、NaClO添加後に25℃に設定され、pHは、滴定装置によって全てのNaClOが消費される(27分後)まで制御された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClO消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後脱イオン水を用いて洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導滴定)は、パルプ濃度の測定後に測定された。酸化後におけるパルプのカルボキシレート含有量は、0.91mmol COOH/g パルプであった。
【0096】
実施例1に記載されたような酸性相酸化による残余のアルデヒドのカルボキシレートへの変換。2段階酸化後のカルボキシレート含有量は、1.16mmol COOH/g パルプであった。
【0097】
実施例8 アルカリ洗浄処理後の酸化/3M NaOHを用いてアルカリ処理されたパルプ
アルカリ処理
465mlの8M NaOH溶液および325mlの追加の水と共に700g(乾燥物として65.66g)の非乾燥パルプは、ラージビーカに添加され、5%濃度および1M NaOH濃度を得た。混合は、混合機器を用いたNaOH添加の直後に開始した。スラリーの温度は、混合の初期段階の間に測定された。
【0098】
pH9まで洗浄
処理時間(15分)後、パルプスラリーは、ワイヤバッグに移され、脱イオン水を用いて直ちに洗浄された。パルプスラリーのpHは、約5%濃度において測定された。洗浄は、パルプスラリーのpHが約9になるまで継続された。次に、過剰の水は、手作業で除去され、高濃度のパルプを得た。パルプは、以下の酸化段階に先立って機械的に分解された。
【0099】
HOCl活性化TEMPO酸化
244g(乾燥物として48g)のアルカリ処理された非乾燥カバノキパルプは、密閉容器で計量された。活性されたTEMPO溶液(実施例3と同様)は、パルプと混合された。パルプは、ビュッヒ反応容器に移され、821mlの水はパルプと混合された。水槽の温度(反応容器を制御する)は、18℃に設定された。61ml(13.1%)のNaClOは、パルプが強く混合されている間にポンプによって反応容器に添加された。NaClOの添加は、7分後に終了した。pHは、ポンプ速度を制御することによってNaClO添加の間に9以下に保持された。水槽の温度は、NaClO添加後に25℃に設定され、pHは、全てのNaClOが消費される(18分後)まで滴定装置によって制御された(pH9、1M NaOH)。活性塩素滴定は、酸化処理の間にNaClO消費をチェックするために使用された。強い混合は、全てのNaClOが消費されるまで継続された。パルプは、酸化後に脱イオン水を用いて洗浄された。パルプのCED粘度およびカルボキシレート含有量(伝導滴定)は、パルプ濃度測定後に測定された。酸化後におけるパルプのカルボキシレート含有量は、0.86mmol COOH/g パルプであった。
【0100】
実施例1に記載されたような酸性相酸化によるアルデヒドのカルボキシレートへの変換。2段階酸化後におけるパルプのカルボキシレート含有量は、1.20mmol COOH/g パルプであった。
【0101】
アルカリ前処理における水酸化物濃度の効果は、図2に示される。様々な前処理パルプの結晶化度は、X線回折を用いて測定された。参照パルプの結晶化度(最も高いピークを有する曲線、実施例1)、1.0M NaOHを用いて処理されたパルプ(2番目に高いピークを有する曲線、実施例2)、および3.0M NaOHを用いて処理されたパルプ(低い2重のピークを有する曲線、実施例8)が比較された。参照パルプと1.0M NaOHを用いて処理されたパルプとの曲線は、ほとんど一致するが、3.0M NaOHを用いて処理されたパルプの曲線は、それらから外れ、セルロースIIの存在を示すことがX線回析曲線から分かる。NFCゲルを特徴付けるために、濁度およびブルックフィールド粘度が測定された。
【0102】
濁度は、光学濁度測定装置を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能ないくつかの市販の濁度計が存在する。本発明において、濁度計に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計からの濁度の単位は、比濁計濁度単位(NTU)と称される。測定装置(濁度計)は、調整され、標準調整試料を用いて制御され、希釈されたNFC試料の粘度の測定に続く。
【0103】
本発明の方法において、ナノフィブリル化セルロース試料は、前記ナノフィブリル化セルロースのゲル化点以下の濃度まで水に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリル化セルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えるHACH P2100濁度計が濁度測定に使用される。ナノフィブリル化セルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算される0.5gの試料が測定容器に入れられ、水道水で500gまで満たされ、約30秒間にわたって振とうによって強く混合される。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計にはめ込まれる。各容器について3回の測定が実施される。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果はNTU単位としてもたらされる。
【0104】
ブルックフィールド粘度
NFCの見掛け粘度は、ブルックフィールド粘度計または他の同様の装置を用いて測定される(ブルックフィールド粘度)。好ましくはベーンスピンドル(番号73)が使用される。見掛け粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づくものである。好ましくはRVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV−III)が前記装置において使用される。ナノフィブリル化セルロースの試料は、水中で0.8重量%の濃度に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調節され、必要に応じて加熱され、混合される。低い回転速度10rpmが使用される。
【0105】
レオメータ粘度
NFCは、脱イオン水で0.5w%の濃度に希釈され、200gの混合物は、ビュッヒミキサ(B−400、最大2100W、ビュッヒラボテクニック社、スイス)を用いて3×10秒間ホモジナイズされた。
【0106】
NFC分散液の粘度は、30mmの直径を有する円筒状試料カップ中にナローギャップベーン(直径28m、長さ42mm)を備える応力制御回転レオメータ(AR−G2、ティー・エイ・インスツルメント社、イギリス)を用いて22℃で測定される。試料をレオメータに入れた後、それらは測定が開始される前に5分間保持された。安定状態の粘度は、せん断応力(加えられる回転力に比例する)を徐々に増加させて測定され、せん断速度(角速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力における報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に到達後、または最大2分後に記録される。測定は、1000s−1のせん断速度を超えると停止される。本発明の方法は、ゼロせん断粘度を測定するために使用される。
【0107】
実施例3に係る酸化されたセルロース(パルプ番号2)は、実施例5に従ってフルイダイザを用いてナノフィブリル化セルロースに分解された。レオメータを用いて測定された、試料の濁度は32NTUであり、ブルックフィールド粘度は19600mPasであり、試料のゼロせん断粘度は15000Pasであり、降伏応力は11Paであった。
【0108】
表2の酸化されたセルロース(パルプ番号6)は、実施例5に従ってフルイダイザを用いてナノフィブリル化セルロースに分解された。試料の濁度は27NTUであり、ブルックフィールド粘度は9370mPasであった。
【0109】
酸化パルプから作製されたNFCの目標特性
典型的には、本発明の方法において、最終製品として、0.8%の濃度と10rpmの回転速度とで測定されたブルックフィールド粘度が少なくとも5,000mPa・s、有利には少なくとも15,000であるナノフィブリル化セルロースを得ることが目的である。粘度は、有利には5,000〜40,000mPa・sの範囲内にある。得られた水性ナノフィブリル化セルロース分散液は、いわゆるずり流動化挙動によって特徴付けられる。つまり、粘度が減少すると、せん断速度が上昇する。
【0110】
さらに、目的は、ナノフィブリル化セルロースであって、その濁度が、0.1wt%の濃度(水性媒体)で測定され、濁度計によって測定され、典型的には90NTU未満、たとえば3〜90NTU、好ましくは5〜60、より好ましくは8〜40であるナノフィブリル化セルロースを得ることである。
【0111】
さらに、目的は、ナノフィブリル化セルロースであって、0.5wt%の濃度(水性媒体)において回転レオメータによって測定された、1,000〜100,000Pa・s、好ましくは5,000〜50,000の範囲内のゼロせん断粘度(小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」)と、1〜50Pa、有利には3〜15Paの範囲内の降伏応力(ずり流動化が始まるせん断応力)とを有するナノフィブリル化セルロースを得ることである。
図1
図2