特許第6534812号(P6534812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6534812エマルションの重合のための伸長された界面活性剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534812
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】エマルションの重合のための伸長された界面活性剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/26 20060101AFI20190617BHJP
   B01F 17/02 20060101ALI20190617BHJP
   B01F 17/42 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   C08F2/26 A
   B01F17/02
   B01F17/42
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-527320(P2014-527320)
(86)(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公表番号】特表2014-529657(P2014-529657A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】US2012052212
(87)【国際公開番号】WO2013028950
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年8月21日
【審判番号】不服2018-4274(P2018-4274/J1)
【審判請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】61/526,958
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514045980
【氏名又は名称】サソール・パーフオーマンス・ケミカルズ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sasol Performance Chemicals GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シヤープ,メラニー・アン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツオーク,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ジヨルダーノ,セバステイアーノ・ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】マリノ,テレサ・リンビル
(72)【発明者】
【氏名】シヤープ,キップ・ダグラス
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 近野 光知
【審判官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−534669(JP,A)
【文献】 特開昭57−78936(JP,A)
【文献】 特開2003−342304(JP,A)
【文献】 特開2000−256548(JP,A)
【文献】 高分子学会高分子辞典編集委員会、「新版高分子辞典」、朝倉出版、1988年11月25日、p.330
【文献】 佐伯康治、「新ポリマー製造プロセス」、工業調査会、1994年6月10日、p.48〜49、p.205〜206
【文献】 藤本武彦、「全訂版 新・界面活性剤入門」、三洋化成工業、1981年10月、p.205〜206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAPlus/REG(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤および界面活性剤組成物の存在下でビニル単量体を反応させる工程を含んでなる重合体エマルションの生成方法であって、前記界面活性剤組成物が次の式:
RO−(PO)n−YZ
[式中、
Rは、C6〜C15の範囲にあり1以上の分枝を有する分枝アルキル鎖、または、C6〜C15の範囲にある上記分枝アルキル鎖とC6〜C15の範囲にある直線状アルキル鎖の混合物であり、ここでRのアルキル分枝はC2位にあり;
POはプロピレンオキシ基であり;
Yは−SO3であり;
Zはカチオンであり、そして
nは1〜50である]
の構造を含んでなる、方法。
【請求項2】
Rが9〜15個の原子よりなる直線状および分枝アルキル鎖の混合物である、請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願に対する相互参照】
【0001】
本出願は、その開示がすべての目的のための参照により本明細書に引用されたこととされる、2011年8月24日出願の米国出願第61/526,958号に対する優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明はエマルションの重合に関連し、そしてより具体的には、このような重合法における使用のための界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0003】
エマルションの重合は単量体の液滴を安定化し、その中で単量体の重合が起ると考えられるミセルを形成するために界面活性剤を必要とする。適切な界面活性剤の添加を伴わない場合には、単量体が凝固して、溶液から分離して有用でない物質をもたらすと考えられる。
【0004】
エマルションの重合には、一般に2種の界面活性剤:アニオンおよび非イオンタイプの界面活性剤が使用される。当業者に周知のように、アニオン界面活性剤は非イオン界面活性剤より頻繁に使用される。エマルションの重合のためにこれまで使用されてきたアニオン界面活性剤の例は、ポリオキシエチレン・アルキルフェニルエーテルスルフェート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルスルフェートおよびアルキルスルフェートを含む。ポリオキシエチレン・アルキルフェニルエーテルスルフェートはエマルションの重合に頻繁に使用されるが、環境問題のために、これらの物質は次第に使用されなくなっている。とりわけ、エマルション重合に携わる会社は、とりわけ、最も広範に使用される界面活性剤の一つであるポリオキシエチレン・アルキルフェニルエーテルスルフェートに代るアニオン界面活性剤である代替アニオン界面活性剤を期待している。
【0005】
ポリオキシエチレン・アルキルフェニルエーテルスルフェートの使用の理由の一つは、それらの費用対効果および、広範な熱、機械的および電解質条件に対して改善された粒子安定性を提供するそれらの能力であった。しかし、これらの利点にも拘わらず、それらの使用は低下し始めた。これらのタイプの界面活性剤の低下している使用は政府の圧力のみならずまた、大量の商品が今日、環境に、より優しい商品を要求している事実による。
【発明の概要】
【0006】
一つの態様において、本発明は、エマルションの重合における使用のための界面活性剤を提供する。
【0007】
他の態様においては、本発明は、エマルションの重合に使用される典型的なアニオン界面活性剤に比べて、ミセルの安定性を維持しながら、低い発泡を示し、低い用量を必要とするエマルションの重合法における使用のための界面活性剤を提供する。
【0008】
更なる態様においては、本発明は、本発明の界面活性剤の存在下で、単量体の重合による重合体のエマルションの製法を提供する。
【0009】
本発明のこれらのおよび更なる特徴物および利点は、以下の詳細な説明から容易に明白になると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に使用されるような用語「直線状アルキル鎖」は、分枝をもたないアルキル鎖を表す。用語「分枝アルキル鎖」は、直線状部分および分枝部分を伴うアルキル鎖を含む、一つ以上の分枝をもつアルキル鎖を表す。
【0011】
本発明に従うと、一般式:
RO−(PO)n−YZ
[式中、
RはC6〜C36の範囲にある直線状アルキル鎖、C6〜C36の範囲にある分枝アルキル鎖、またはそれらの混合物であり;
POはプロピレンオキシ基であり;
Yは−SO3、−CH2CH2CH2−SO3、−CH2CH(CH3)−SO3または−CH2COOであり;
Zはカチオンであり、そして
nは1〜50である]
をもつ、伸長された鎖をもつアニオン界面活性剤が提供される。
【0012】
好適な実施形態においては、Rは9〜17個の炭素原子よりなる直線状および分枝アルキル鎖の混合物である。Rの分枝はC2〜C(X−1)位(ここでXはアルキル鎖中の炭素原子数である)のいずれかに起ることができる。Xは好適には9〜17である。分枝は最も好適にはC2位にある。Rのアルキル分枝数は0〜7の範囲にあることができるが、好適には0〜4であり、そしてより好適には0〜3である。分枝の長さは好適には1〜8個の炭素原子である。nの値は好適には2〜10、そしてより好適には4〜8である。カチオンはアニオン基に対する対イオンである。カチオンは、限定はされないがナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンまたはマグネシウムであることができると考えられる。
【0013】
エマルションの重合は典型的には、水、単量体および界面活性剤を取り入れるエマルションを使用して開始するラジカル重合の一つのタイプである。最も一般的なタイプのエマルション重合は、そこで単量体(油)の液滴が、界面活性剤により水の連続相中に乳化される水中油エマルションである。特定のポリビニルアルコールまたはヒドロエチルセルロースのような水溶性重合体もまた、乳化剤/安定剤として働くために使用されることができる。
【0014】
エマルションの重合において、重合開始が第1の工程である。重合開始期間中、そこから重合体の鎖が形成される活性中心が創成される。周知のように、すべての単量体がすべてのタイプの重合開始剤に感受性であるわけではない。ラジカル重合開始は、ビニル単量体の炭素−炭素二重結合並びにアルデヒドおよびケトン中の炭素−酸素二重結合上で最も有効に作用する。
【0015】
広範な重合開始剤がエマルション重合において使用されることができる。限定されない例は、有機過酸化物またはアゾ−化合物、金属ヨウ化物、金属アルキル、過硫酸化物、並びに電離放射線、電気化学または電気分解、ストリフィケーション(stolification)、等のような様々な方法を含む。エマルションの重合においては、更に、典型的には、当業者に周知のような重合停止混合物および仕上げ混合物(finishing
mixture)が使用される。
【0016】
典型的なエマルション重合反応における本発明の界面活性剤の有用性を示すために、以下の限定されない実施例が提示される。
【実施例1】
【0017】
本実施例はブチルアクリレート(BA)およびビニルアセテート(VA)のエマルション重合を示す。混合物および溶液は以下の表1に示される。水性混合物(A)を反応器中に充填した。これを撹拌しながら72〜80℃に加熱した。次に重合開始剤溶液(B)を添加した。温度を約75℃に維持しながら、4時間にわたり単量体(C)の混合物を反応器に滴加した。試験された界面活性剤および単量体は表2に示す。更に15分間、温度を70〜80℃に維持した。次に重合停止混合物(D)を30分間にわたり添加した。混合物を放置して40℃に冷却し、次に仕上げ混合物(E)を添加した。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
生成された重合物の外観、pHおよび動的粘度を測定した。その結果は表3に示す。
【0021】
【表3】
【実施例2】
【0022】
本実施例は接着性のすべてアクリルのエマルション重合を示す。エマルション重合は1リットル用反応器および5口付き蓋を使用して構成される。システムは、窒素パージの制御装置、温度表示器および制御装置を含むコンピュータープログラム、バランスおよび収縮ポンプ供給物およびシリンジポンプ供給物のための添加口と連結される。それはまた、モーター駆動撹拌装置の使用を許す。換気される前のあらゆる蒸気をコンデンサーが冷却する。ケトルは絶縁体および加熱マントルで包まれている。
【0023】
アニオン界面活性剤以外のすべての物質はAldrichから得られ、「そのまま」使
用された。試験された界面活性剤は表4に見ることができる。DISPONIL(登録商標) FES 27AおよびDOWFAX(登録商標) 2A1は競合的サンプル1として混合された。「界面活性剤1」はサンプル1として使用された。各界面活性剤の固形物は、使用されるDI水の量を調整することにより報告された。
【0024】
【表4】
【0025】
開始の前に、高純度DI水、ポリスチレン種およびナトリウムペルオキソジスルフェートを含む重合開始溶液(ケトル充填物)を容器に添加した。次に、重合出発物質を前以て乳化させるために、界面活性剤、酸および単量体を含む残りの物質を30秒間、頭上ミキサーを使用して混合した。次に(前以て決められた容量の)空の供給ラインを差し引いたこのプレ−エマルションを供給ボトルの入り口に入れた。更にプレ−エマルションと同時の送達時間中に、送達の準備ができたポンプ上のシリンジ中に7%活性のナトリウムペルオキソジスルフェート溶液の第2の供給溶液を準備した。シリンジはまた、「チェイサー」として使用するための更なる5mLを含んだ。これは、プレ−エマルションの添加後に、単量体の完全な反応を確保すると考えられる。接着性アクリル配合物は表5に示す。
【0026】
【表5】
【0027】
反応器は300rpmに設定された撹拌装置を使用して毎分2度の速度で75℃まで加熱するように設定された。添加段階および蒸煮中を通して窒素が連続して反応器をパージした。温度が安定した後に、撹拌装置の速度を500rpmに加速し、プレ−エマルションおよび重合開始供給物を3時間のスパンにわたり徐々に添加した。次に「チェイサー」を、10分間にわたり、シリンジポンプにより導入した。エマルションはその温度で更に1時間(「蒸煮」期間)撹拌された。次に容器を35℃に冷却し、撹拌装置の速度を200rpmに減速した。
【0028】
次に冷却期間後、容器の中身を190メッシュのGardnerフィルターに注入通過させ、真空オーブン中で乾燥して水分を除去した。これから、凝塊のパーセントを重量分析により計算した。次に、凝塊を含まないラテックスを、真空オーブン内で1晩乾燥し、Malvern Zetasizer粒度分析装置上の粒度分析により固形分パーセントを分析した。各界面活性剤につき、数回の実験を実施した。凝塊パーセント、固形分パーセント、および粒度の結果は表6に報告される。
【0029】
【表6】
【実施例3】
【0030】
本実施例はラテックスアクリルのエマルションの重合を示す。エマルションの重合は1リットル用反応容器および5口付き蓋を使用して構成される。システムは窒素パージの制御装置、温度表示器および制御装置を含むコンピュータープログラム、バランスおよび収縮ポンプ供給物およびシリンジポンプ供給のための添加口と連結される。それはまた、モーター駆動撹拌装置の使用を許す。換気される前のあらゆる蒸気をコンデンサーが冷却する。ケトルは絶縁体および加熱マントルで包まれている。
【0031】
アニオン界面活性剤以外のすべての物質はAldrichから得られ、「そのまま」使用された。試験された界面活性剤は表7に見ることができる。ABEX(登録商標) EP−100は競合的サンプル1である。「界面活性剤1」はサンプル1として使用され、「界面活性剤1」の50%のみがサンプル2として使用された。次に「界面活性剤2」はサンプル3として使用された。RHODAPEX(登録商標) EST30/SBLは競合的サンプル2である。各界面活性剤の固形物は使用されるDI水の量を調整することにより報告された(accounted)。
【0032】
【表7】
【0033】
開始の前に、高純度DI水および過硫酸アンモニウムを含む重合開始溶液(ケトル充填物)を容器に添加した。次に界面活性剤、重合開始剤、酸および単量体を含む残りの物質を、出発物質を前以て乳化させるために30秒間、頭上ミキサーを使用して混合した。次に、(前以て決められた容量の)空の供給ラインを差し引いた、このプレ−エマルションを供給ボトルの入り口に入れた。「チェイサー」として送達準備ができたポンプ上のシリンジ中に、硫酸アンモニウムおよび水の後添加用溶液も準備した。これはプレ−エマルションの添加後の単量体の完全な反応を確保すると考えられる。すべてアクリルラテックスの配合物を表8に示す。
【0034】
【表8】
【0035】
反応器は300rpmに設定された撹拌装置を使用して毎分2度の速度で80℃に加熱するように設定された。プレ−エマルションの添加段階まで連続して反応器を窒素でパージした。温度が安定した後に、撹拌装置の速度を500rpmに加速し、プレ−エマルションを4時間のスパンにわたり徐々に添加した。次に「チェイサー」を、10分間にわたり、シリンジポンプにより導入した。エマルションはその温度で更に1時間(「蒸煮(cook down)」期間)、撹拌維持された。次に容器を35℃に冷却し、撹拌装置の速度は300rpmに減速した。
【0036】
次に冷却期間後、容器の中身を190メッシュのGardnerフィルターに注入通過させ、真空オーブン内で乾燥して水分を除去した。これから凝塊のパーセントを重量分析により計算した。次に、凝塊を含まないラテックスを、Brookhaven Zeta
Plus粒度分析装置上で粒度分析を実施した。各界面活性剤につき、数回の実験を実施した。凝塊パーセントおよび粒度の結果は表9に示す。
【0037】
【表9】
【0038】
本発明のアニオンの延長された界面活性剤は、エマルション重合に使用される典型的なアニオン界面活性剤に比較して、低い発泡、低い必要量のような優れた特性および優れた粒子安定度を示すことが認められた。エマルション重合の欠点の一つは,界面活性剤が重合体中に留まる傾向をもつ、または除去することが困難であることである。従って、本発明の界面活性剤に対して、低い必要量の前記の特性は、それが最終生成物の汚染をずっと低くするために、重要である。
【0039】
本発明の界面活性剤は、広範なエマルション重合反応に使用することができる。いずれにしても、エマルション重合および/または使用される単量体のタイプを限定することを望まずに、本発明の界面活性剤は、広範な用途のなかでも、塗料、塗膜、レオロジー修飾剤、接着剤および合成ゴムのためのラテックスの製造に使用することができる。
【0040】
更に、エマルション重合に使用される実質的にあらゆる単量体が本発明の方法に使用されることができることが認められると考えられる。
【0041】
本明細書において、本発明の特定の実施形態が幾らか詳細に説明されてきたが、これは単に、本発明の様々な態様を説明する目的のために実施されてきたものであり、以下の請求の範囲内に規定されるように本発明の範囲を限定することは意図されない。当業者は、示され、記載された実施形態が説明的なものであり、本発明の実施において、本明細書で具体的に考察されたこれらのデザインの交替物を含むが、それらに限定はされない、様々なその他の置き換え、変更および修飾を、その範囲から逸脱せずに実行することができることを理解すると考えられる。