(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0027】
本発明の負極活物質層は、第一粉末と第二粉末を含み、板状黒鉛粒子を有する第二粉末の平均粒径D
50は、Si、Si化合物、Sn及びSn化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を有する第一粉末の平均粒径D
50よりも小さい。
【0028】
<第一粉末>
第一粉末はSi、Si化合物、Sn及びSn化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を有する。第一粉末はLi等の電荷担体を吸蔵及び放出可能であり、負極活物質として機能する。
【0029】
第一粉末の平均粒径D
50は0.1μmより大きく20μm以下であることが好ましい。第一粉末の平均粒径D
50は0.3μm以上15μm以下であることがより好ましく、第一粉末の平均粒径D
50は1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
第一粉末の平均粒径D
50が小さすぎると、第一粉末の比表面積が大きくなり、第一粉末と電解液との接触面積が大きくなって、電解液の分解が進んでしまい、蓄電装置のサイクル特性が悪くなる可能性がある。また平均粒径D
50が小さすぎると凝集により第一粉末の二次粒径が過剰に大きくなるおそれがある。
【0031】
第一粉末の平均粒径D
50が大きすぎると、負極活物質層に第一粉末が均一分散し難く、電極全体の導電性が不均一になり、充放電特性が低下する場合がある。
【0032】
またSi、Si化合物、Sn及びSn化合物は充放電時に膨張収縮する。Si、Si化合物、Sn及びSn化合物の結晶子サイズが大きすぎると、膨張、収縮時の応力集中によって第一粉末が崩壊するおそれがある。そのため、第一粉末中のSi、Si化合物、Sn及びSn化合物の結晶子サイズは、例えば、1nm〜300nmであることが好ましい。
【0033】
結晶子サイズはX線回折(XRD)測定で得られる回折ピークの半値幅からシェラーの式より算出される。
【0034】
Si、Si化合物、Sn、Sn化合物としては、負極活物質として用いられる公知のものを採用できる。
【0035】
Si化合物としては、例えば、SiO
x(0.3≦x≦1.6)、SiB
4、SiB
6Mg
2Si、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4Si
2N
2O、SnSiO
3、LiSiOなどが挙げられる。
【0036】
Sn化合物としては、例えば、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSnO、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が挙げられる。
【0037】
またシリコン系材料として、国際公開2014/080608号に開示される、CaSi
2から脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料を用いることもできる。上記シリコン材料は、例えば、CaSi
2を、例えば、塩酸やフッ化水素などの酸で処理して得られる生成物を、例えば、300℃〜1000℃での加熱処理(焼成とも称す。)して得られる。
【0038】
なお、第一粉末として、SiやSi化合物と炭素とを複合化した複合体(以下Si/C複合体と称す。)を用いてもよい。
【0039】
(Si/C複合体)
Si/C複合体において炭素層が少なくともSi又はSi化合物の表面を覆っている。なお炭素層を構成する炭素は、非晶質の炭素のみであってもよいし、結晶質の炭素のみであってもよいし、非晶質の炭素と結晶質の炭素とが混在していてもよい。
【0040】
炭素化の工程は特に限定するものではないが、炭素化工程としては、炭素粉末とSi又はSi化合物粉末を混合(例えばメカニカルミリング)する工程、樹脂とSi又はSi化合物の複合化から得られる混合物を加熱処理する工程、Si又はSi化合物を非酸化性雰囲気下にて有機物ガスと接触させ加熱して有機物ガスを炭素化する工程などが挙げられる。
【0041】
<第二粉末>
本発明の第二粉末は負極活物質及び/又は導電助剤として機能する。
【0042】
第二粉末は、厚みが0.3nm〜100nm、長軸方向の長さが0.1μm〜100μmの板状黒鉛粒子を有する。板状黒鉛粒子はグラフェン単層が複数枚積層された層構造をなし、導電性及び強度に優れている。またアスペクト比が大きいために柔軟性にも優れ、体積変化による周辺の構造変化に追従する特徴を有する。
【0043】
板状黒鉛粒子は、天然黒鉛である鱗片状黒鉛と比べても厚みが大幅に小さいものである。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さ/厚みで求めるアスペクト比は10〜1000であり、さらに望ましくは50〜100である。
【0044】
板状黒鉛粒子の厚みは、0.3nm〜100nmであり、さらに1nm〜100nmであることがより好ましく、30nm〜80nmであることがさらに好ましい。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さは、0.1μm〜100μmであり、0.2μm〜50μmであることがより好ましく、0.3μm〜10μmであることがさらに好ましい。板状黒鉛粒子の短軸方向の長さは、0.1μm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜50μmであることがより好ましく、0.1μm〜8μmであることがさらに好ましい。
【0045】
第二粉末の平均粒径D
50は、第一粉末の平均粒径D
50よりも小さい。そのため、第一粉末同士の間に第二粉末を構成する板状黒鉛粒子が配列しやすく、板状黒鉛粒子は第一粉末同士の間及び第一粉末と集電体との間に良好な導電パスを形成できる。
【0046】
第二粉末の平均粒径D
50は、第一粉末の平均粒径D
50よりも小さければ、特に粒径の範囲を限定しないが、第一粉末の平均粒径D
50は0.1μmより大きく20μm以下であることが好ましいため、第二粉末の平均粒径D
50は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。第二粉末の平均粒径D
50は、0.1μm以上8μm以下であることがより好ましく、第二粉末の平均粒径D
50は、0.1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
この板状黒鉛粒子は、例えば、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、具体的には人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などをグラファイト構造が破壊されないように粉砕することによって得られる。また板状黒鉛粒子として市販のグラフェンを用いることができる。
【0048】
粉砕処理としては、例えば、超音波処理、ボールミルによる処理、湿式粉砕、爆砕、機械式粉砕、湿式高圧粉砕等が挙げられる。超音波処理は、発振周波数としては15kHz〜400kHzが好ましく、出力としては500W以下が好ましい。粉砕処理としては、超音波処理又は湿式粉砕処理が好ましい。また、粉砕処理時の温度としては、例えば、−20℃〜100℃とすることができる。また、粉砕処理時間としては、例えば、0.01時間〜50時間とすることができる。湿式高圧粉砕等であれば、粉砕処理時の圧力は50MPa〜400MPaであるのが好ましい。
【0049】
板状黒鉛粒子の表面には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基が結合していることが好ましい。板状黒鉛粒子の表面に官能基が結合することにより、板状黒鉛粒子と溶媒やポリマーなどの他の有機物との親和性が増す。
【0050】
このことは、後述する芳香族ビニル共重合体と板状黒鉛粒子との親和性を高めるために特に有用である。つまり、これらの官能基の存在によって芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が増大する傾向にある。
【0051】
このような官能基は、板状黒鉛粒子の表面近傍、好ましくは表面から深さ10nmまでの領域にある全炭素原子を100原子%としたときに、0.01原子%以上50原子%以下、より好ましくは20原子%以下、特に好ましくは10原子%以下の炭素原子に結合していることが好ましい。官能基が結合している炭素原子の割合が50原子%を超えると、板状黒鉛粒子の親水性が増大し、有機物との親和性が低下する傾向がある。なお板状黒鉛粒子の表面近傍の官能基はX線光電子分光法(XPS)により定量することができる。
【0052】
また板状黒鉛粒子の表面には、下記式(1):
−(CH
2−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基又はピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体が吸着していることが好ましい。
【0053】
芳香族ビニル共重合体が吸着した板状黒鉛粒子(以下、黒鉛−ポリマー複合体と称す。)は、有機溶剤やバインダーとの好適な親和性を示す。そのためバインダーを含む液体中において黒鉛−ポリマー複合体の分散性が好適になる。
【0054】
なお、本明細書においては、板状黒鉛粒子の集合体及び/又は黒鉛−ポリマー複合体の集合体を第二粉末と呼ぶ。つまり、第二粉末を構成する板状黒鉛粒子は、芳香族ビニル共重合体が吸着してなるものであってもよい。
【0055】
上記ビニル芳香族モノマー単位は、板状黒鉛粒子の表面の六員環構造に吸着すると考えられる。そして、当該ビニル芳香族モノマー単位が板状黒鉛粒子に吸着することで、ビニル芳香族モノマー単位を有する芳香族ビニル共重合体が板状黒鉛粒子に吸着する。
【0056】
芳香族ビニル共重合体はビニル芳香族モノマー単位とビニル芳香族モノマー単位以外のモノマー単位(以下、第2のモノマー単位と称す。)を含有することが好ましい。芳香族ビニル共重合体において、ビニル芳香族モノマー単位は板状黒鉛粒子に吸着しやすく、第2のモノマー単位は溶媒や樹脂及び板状黒鉛粒子の表面の官能基と親和しやすい。つまり、芳香族ビニル共重合体のビニル芳香族モノマー単位は芳香族ビニル共重合体を板状黒鉛粒子に吸着させる機能を担い、第2のモノマー単位は、主として黒鉛−ポリマー複合体と溶媒やバインダー等の樹脂との親和性を向上させる機能を担う。
【0057】
ビニル芳香族モノマー単位の含有率が高い芳香族ビニル共重合体ほど、板状黒鉛粒子への吸着量が増大する。ビニル芳香族モノマー単位の含有率は、芳香族ビニル共重合体全体に対して10質量%〜98質量%が好ましく、30質量%〜98質量%がより好ましく、50質量%〜95質量%が特に好ましい。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が10質量%より低くなると、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が低下するおそれがある。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が98質量%より高くなると、黒鉛−ポリマー複合体と溶媒や樹脂との親和性が低くなって、黒鉛−ポリマー複合体の溶媒中や樹脂中への分散性が低下するおそれがある。
【0058】
式(1)の置換基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基、アルコキシ基、カルボニル基、イミド基、リン酸エステル基が挙げられる。黒鉛−ポリマー複合体の溶媒中や樹脂中への分散性を高くするには、置換基は、アルコキシ基が好ましく、アルコキシ基は、メトキシ基が好ましい。
【0059】
ビニル芳香族モノマー単位としては、例えば、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアントラセンモノマー単位、ビニルピレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位、ビニル安息香酸エステルモノマー単位、アセチルスチレンモノマー単位が挙げられる。中でも黒鉛−ポリマー複合体の溶媒中や樹脂中への分散性が向上するという観点からは、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位が好ましい。
【0060】
第2のモノマー単位は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類、ビニルピリジン類、無水マレイン酸、ビニルリン酸類及びマレイミド類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーから誘導されるモノマー単位が好ましい。なお本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の双方を意味する。
【0061】
このような第2のモノマー単位を含む芳香族ビニル共重合体が板状黒鉛粒子の表面に吸着していることによって、黒鉛−ポリマー複合体と溶媒や樹脂との親和性が向上し、溶媒中や樹脂中に黒鉛−ポリマー複合体を良好に分散させることができる。
【0062】
(メタ)アクリレート類としては、アルキル(メタ)アクリレート、置換アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。置換アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、イソシアネートアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0064】
ビニルイミダゾール類としては、1−ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0065】
ビニルピリジン類としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが挙げられる。
【0066】
マレイミド類としては、マレイミド、アルキルマレイミド、アリールマレイミド、N−フェニルマレイミドが挙げられる。
【0067】
黒鉛−ポリマー複合体の分散性が向上するという観点から、第2のモノマー単位は、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、アリールマレイミドが好ましく、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、アリールマレイミドがより好ましく、フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0068】
また本発明の蓄電装置の初期容量及び初期効率が向上するという観点から、第2のモノマー単位は、アクリル酸、ビニルリン酸、イソシアネートアルキル(メタ)アクリレート、フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0069】
第2のモノマー単位における有機基の炭素数は2〜100程度であるのが好ましく、2〜50程度であるのがより好ましい。2〜20程度であるのがなお好ましい。炭素数が過大であれば有機基が嵩張り、黒鉛−ポリマー複合体が嵩張るため、充分な量の負極活物質を負極活物質層に配合し難くなる場合がある。
【0070】
上記芳香族ビニル共重合体の例としては、例えば、スチレン(以下、STと称す。)とN,N−ジメチルメタクリルアミド(以下、DMMAAと称す。)との共重合体、1−ビニルナフタレン(以下、VNと称す。)とDMMAAとの共重合体、4−ビニルアニソール(以下、VAと称す。)とDMMAAとの共重合体、STとN−フェニルマレイミド(以下、PMと称す。)との共重合体、STと1−ビニルイミダゾール(以下、VIと称す。)との共重合体、STと4−ビニルピリジン(以下、4VPと称す。)との共重合体、STとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、DMAEMAと称す。)との共重合体、STとメチルメタクリレート(以下、MMAと称す。)との共重合体、STとヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAと称す。)との共重合体、STと2−ビニルピリジン(以下、2VPと称す。)との共重合体、STと2VPとの共重合体、STとMMAとの共重合体、STとポリエチレンオキシド(以下、PEOと称す。)との共重合体、STとアクリル酸との共重合体、STとビニルリン酸との共重合体、STと2−イソシアネートエチルメタクリレートとの共重合体が挙げられる。
【0071】
芳香族ビニル共重合体において、共重合体としては、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0072】
なお、芳香族ビニル共重合体におけるビニル芳香族モノマー単位に対する第2のモノマー単位の含有量は、ビニル芳香族モノマー単位1モルに対して、0.1モル〜10モルであるのが好ましく、0.3モル〜3モルであるのがより好ましく、0.5モル〜2モルであるのがより好ましい。なお、ビニル芳香族モノマー単位と第2のモノマー単位とはモル比1:1で存在するのが特に好ましい。第2のモノマー単位の含有割合が過小であれば、黒鉛−ポリマー複合体とバインダーとの親和性を高め難くなるおそれがある。また、ビニル芳香族モノマー単位の含有割合が過小であれば、板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の吸着性を高め難い場合がある。
【0073】
芳香族ビニル共重合体の数平均分子量としては、1,000〜1,000,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の数平均分子量が1,000未満になると、板状黒鉛粒子に対する吸着能が低下する傾向にあり、他方、数平均分子量が1,000,000より大きくなると、黒鉛−ポリマー複合体の溶媒中や樹脂中への分散性が低下したり、粘度が著しく上昇して取り扱いが困難になる傾向にある。なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(カラム:Shodex GPC K−805L及びShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)、溶離液:クロロホルム)により測定し、標準ポリスチレンで換算した値を用いる。
【0074】
黒鉛−ポリマー複合体における芳香族ビニル共重合体の含有量としては、板状黒鉛粒子100質量部に対して芳香族ビニル共重合体10
−7〜10
−1質量部であるのが好ましく、10
−5〜10
−2質量部であるのがより好ましい。板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の量が10
−7質量部に満たないと、板状黒鉛粒子への芳香族ビニル共重合体の吸着量が不十分なため、溶媒や樹脂に対する黒鉛−ポリマー複合体の分散性が低下する傾向にある。他方、板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の量が10
−1質量部を超えると、板状黒鉛粒子に直接吸着していない遊離の芳香族ビニル共重合体が存在する場合がある。
【0075】
黒鉛−ポリマー複合体の製造方法は、原料黒鉛粒子、式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体、過酸化水素化物、及び溶媒を混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施す粉砕工程とを含み得る。
【0076】
原料黒鉛粒子としては、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、例えば人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛が挙げられる。原料黒鉛粒子の大きさには特に制限はないが、原料黒鉛粒子の粒子径が0.01mm〜5mmの範囲であるのが好ましく、0.1mm〜1mmの範囲であるのがより好ましい。ここでいう粒子径は、例えば、JIS Z 8815のふるい分け試験方法通則に基づく乾式篩法で測定できる。
【0077】
芳香族ビニル共重合体は上記で説明したものが使用できる。
【0078】
過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体、四級アンモニウム塩、フッ化カリウム、炭酸ルビジウム、リン酸、尿酸などの化合物に過酸化水素が配位したものが挙げられる。カルボニル基を有する化合物は、例えば、ウレア、カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カルボン酸エステル(安息香酸メチル、サリチル酸エチルなど)が挙げられる。過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体が好ましい。
【0079】
このような過酸化水素化物は、酸化剤として作用し、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊せずに、炭素層間の剥離を容易にするものである。すなわち、過酸化水素化物が炭素層間に侵入して層表面を酸化しながら劈開を進行させ、同時に芳香族ビニル共重合体が劈開した炭素層間に侵入して劈開面を安定化させ、層間剥離が促進される。その結果、板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着する。
【0080】
溶媒は、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称す。)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(以下、NMPと称す。)、ヘキサン、トルエン、ジオキサン、プロパノール、γ−ピコリン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す。)、ジメチルアセトアミド(以下、DMAと称す。)が好ましく、DMF、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、NMP、ヘキサン、トルエンがより好ましい。
【0081】
混合工程において、原料黒鉛粒子と芳香族ビニル共重合体と過酸化水素化物と溶媒とを混合する。原料黒鉛粒子の混合量としては、溶媒1L当たり0.1g/L〜500g/Lが好ましく、10g/L〜200g/Lがより好ましい。原料黒鉛粒子の混合量が溶媒1L当たり0.1g/L未満になると、溶媒の消費量が増大し、経済的に不利となり、他方、溶媒1L当たり500g/Lを超えると、液の粘度が上昇して取り扱いが困難になるおそれがある。
【0082】
また、芳香族ビニル共重合体の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部〜1000質量部が好ましく、0.1質量部〜200質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる板状黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して1000質量部を超えると、芳香族ビニル共重合体が溶媒に溶解しなくなるとともに、液の粘度が上昇して取り扱いが困難となるおそれがある。
【0083】
過酸化水素化物の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。過酸化水素化物の混合量が原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる黒鉛−ポリマー複合体の分散性が低下する傾向にあり、他方、原料黒鉛粒子100質量部に対して500質量部を超えると、原料黒鉛粒子が過剰に酸化され、得られる黒鉛−ポリマー複合体の導電性が低下する傾向にある。
【0084】
粉砕工程において、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施して原料黒鉛粒子を板状黒鉛粒子に粉砕する。これにより黒鉛−ポリマー複合体が生成される。粉砕処理としては、例えば、超音波処理、ボールミルによる処理、湿式粉砕、爆砕、機械式粉砕、湿式高圧粉砕等が挙げられる。超音波処理は、発振周波数としては15kHz〜400kHzが好ましく、出力としては500W以下が好ましい。粉砕処理としては、超音波処理又は湿式粉砕処理が好ましい。粉砕工程では、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊させずに原料黒鉛粒子を粉砕して板状黒鉛粒子を得ることができる。また、粉砕処理時の温度としては、例えば、−20℃〜100℃とすることができる。また、粉砕処理時間としては、例えば、0.01時間〜50時間とすることができる。湿式高圧粉砕等であれば、粉砕処理時の圧力は50MPa〜400MPaであるのが好ましい。
【0085】
板状黒鉛粒子及び黒鉛−ポリマー複合体は、負極活物質層において少なくとも一部の板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行になるように配向していてもよいが、板状黒鉛粒子の配向は第一粉末の存在によって崩れていてもよい。配向が崩れることで、板状黒鉛粒子における炭素層どうしの隙間が集電体表面と交差する方向に向く。このため、当該隙間がリチウムイオンの進行方向に対して交差する方向に向き、当該隙間へのリチウムイオンの接触頻度が高まる。このため、リチウムイオンが板状黒鉛粒子内部にも出入し易くなり、板状黒鉛粒子の負極活物質としての機能を充分に利用し得るため、蓄電装置の充放電容量を向上させ得る。
【0086】
負極活物質層には、第一粉末と第二粉末に加えて黒鉛を添加することもできる。黒鉛としては、天然黒鉛、造粒黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが例示される。
【0087】
黒鉛の添加量は、第一粉末と第二粉末と黒鉛の合計量を100質量%としたときに80質量%以下の範囲が好ましく、50質量%以下の範囲がより好ましく、20質量%以下の範囲が更に好ましい。黒鉛の含有量が多すぎると容量の低下や第二粉末の効果が低下する不具合が生じる場合がある。
【0088】
黒鉛の平均粒径D
50は、第一粉末の平均粒径D
50よりも小さいことが好ましい。黒鉛の平均粒径D
50は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上15μm以下であることがより好ましく、黒鉛の平均粒径D
50は、0.1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
【0089】
<第一粉末と第二粉末の混合比>
第一粉末と第二粉末の合計を100質量%としたときに、第二粉末が5質量%〜30質量%含まれていることが好ましく、第二粉末が10質量%〜20質量%含まれていることがさらに好ましい。
【0090】
<負極>
本発明の負極活物質層は、蓄電装置の負極に用いられる。負極は、集電体と、集電体表面に配置された負極活物質層とを有する。集電体は蓄電装置の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体に用いることのできる材料として、例えば銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種ならびにステンレス鋼等の金属材料、さらには導電性樹脂を挙げることができる。集電体は公知の保護層で被覆してもよい。また、集電体の表面を公知の方法で処理してもよい。集電体は、箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュ状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム等の薄肉形状である場合、集電体の厚みは1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0091】
本発明の負極活物質層を用いて、例えば非水系二次電池の負極の負極活物質層を形成するには、負極活物質を含む負極合材を集電体上に塗布し、負極合材に含まれるバインダーを乾燥あるいは硬化させればよい。負極合材としては、負極活物質、導電助剤、バインダー、及び必要であればその他の添加剤に、適量の有機溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを用いればよい。スラリー状の負極合材を集電体に塗布する方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法、グラビアコート法などの方法を採用できる。
【0092】
上述の黒鉛−ポリマー複合体は、板状黒鉛粒子の表面に上記した芳香族ビニル共重合体が吸着しているため、溶媒中で凝集しにくく好適に分散する。このため黒鉛−ポリマー複合体を含む負極合材は、均一な負極活物質層を形成し易い。
【0093】
バインダーは、負極活物質、導電助剤及びその他の添加剤を直接的又は間接的に集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。バインダーには、上述した活物質等をなるべく少ない量で集電体に結着させることが求められるが、その添加量は負極活物質、導電助剤、及びバインダーを合計したものの0.5質量%〜50質量%が望ましい。バインダーの添加量が0.5質量%未満では電極の成形性が低下するおそれがあり、50質量%を超えると電極のエネルギー密度が低くなるおそれがある。
【0094】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:以下、PVDFと称す。)、ポリ四フッ化エチレン(以下、PTFEと称す。)、スチレン−ブタジエンゴム(以下、SBRと称す。)、ポリイミド(以下、PIと称す。)、ポリアミドイミド(以下、PAIと称す。)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称す。)、ポリ塩化ビニル(以下、PVCと称す。)、メタクリル樹脂(以下、PMAと称す。)、ポリアクリロニトリル(以下、PANと称す。)、変性ポリフェニレンオキシド(以下、PPOと称す。)、ポリエチレンオキシド(以下、PEOと称す。)、ポリエチレン(以下、PEと称す。)、ポリプロピレン(以下、PPと称す。)、ポリアクリル酸(以下、PAAと称す。)等が例示される。
【0095】
バインダーとしてPAIやPIといった高強度で高抵抗のものを用いる場合、初期効率と初期容量が効果的に改善されるという本発明の効果が顕著となる。
【0096】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(以下、ABと称す。)、ケッチェンブラック(登録商標)(以下、KBと称す。)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:以下、VGCFと称す。)等及び各種の金属粒子等が例示される。これらを単独で又は二種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質100質量部に対して、20質量部〜100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が20質量部未満では効率のよい導電パスを形成できないおそれがあり、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなるおそれがある。なお炭素材料が複合化されたケイ素酸化物を活物質として用いる場合は、導電助剤の添加量を低減あるいは無しとすることができる。
【0097】
有機溶剤には特に制限はなく、複数の溶剤の混合物でも構わない。N−メチル−2−ピロリドン及びN−メチル−2−ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒が特に好ましい。
【0098】
ここで
図1に本発明の負極活物質層を用いた負極の好ましい一態様を模式的に表す断面図を示す。
図1に示すように、この負極は、集電体1と、集電体1の表面に形成された負極活物質層5とからなる。負極活物質層5は、第一粉末2と、第二粉末3とバインダー4とからなる。
【0099】
第二粉末3は、第一粉末2の平均粒径D
50よりも小さい平均粒径D
50を有し、厚みが0.3nm〜100nm、長軸方向の長さが0.1μm〜500μmの板状黒鉛粒子である。第二粉末3は第一粉末2の平均粒径D
50よりも小さい平均粒径D
50を有するため、第二粉末3は、第一粉末2同士の形成する隙間、集電体1と第一粉末2とで形成する隙間などに良好に配置される。
【0100】
第二粉末3を構成する板状黒鉛粒子はグラフェン単層が複数枚積層された層構造をなし、強度に優れている。したがって板状黒鉛粒子が負極活物質層5内に良好に分散して配置されることで、充放電時に負極活物質層5に作用する応力が均一に緩和される。また板状黒鉛粒子は導電性が高いため、板状黒鉛粒子が負極活物質層5内に良好に分散して配置されることで、負極活物質層5内に良好な導電パスが形成される。
【0101】
<蓄電装置>
本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池の場合、特に限定されない公知の正極、電解液、セパレータを用いることができる。正極は、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。正極は、集電体と、集電体上に結着された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質と、バインダーとを含み、さらには導電助剤及びその他の添加剤を含んでもよい。正極活物質、導電助剤及びバインダーは、特に限定はなく、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。
【0102】
正極活物質としては、Li等の電荷担体を吸蔵及び放出可能なものを使用すればよい。正極活物質としては、層状化合物のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li
2MnO
3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO
4FなどのLiMPO
4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO
3などのLiMBO
3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS
2などの金属硫化物、V
2O
5、MnO
2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属又は当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0103】
正極用の集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであればよく、それ以外は負極用の集電体と同様である。導電助剤もまた上記の負極で記載したものと同様のものが使用できる。
【0104】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質(支持電解質、支持塩とも言う)とを含んでいる。本発明の蓄電装置においては、電解液は特に限定されない。例えば、非水溶媒として、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用可能である。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用してもよい。
【0105】
より好ましくは、非水溶媒は非プロトン性有機溶媒であるのがよく、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いるのがよい。
【0106】
これらの非水溶媒に溶解させる電解質としては、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiI、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0107】
電解液としては、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3等のリチウム金属塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0108】
蓄電装置には、必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、電荷担体の通過を許容するものである。必要に応じて、電解液を保持可能なセパレータを選択することもできる。
【0109】
セパレータの種類は特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックス等の電気絶縁性材料を一種又は複数種用いた微多孔体、多孔体、不織布、織布等を挙げることができる。これらはシート状、フィルム状、箔状等の薄肉形状であるのが好ましく、単層構造であってもよいし多層構造であってもよい。
【0110】
本発明の蓄電装置は以下のように製造できる。上記した正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体の形状に特に限定はなく、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしてもよい。例えば本発明の蓄電装置が電池であれば、正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉すればよい。また、本発明の蓄電装置は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0111】
本発明の蓄電装置の形状は特に限定されない。例えば本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池である場合、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0112】
本発明の蓄電装置は、例えば車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池等の蓄電装置による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。
【0113】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0115】
(第一粉末)
(製造例A)
<Si/C複合体粉末の調製>
濃度46質量%のHF水溶液7mlと、濃度36質量%のHCl水溶液56mlとの混合溶液を氷浴中で0℃とし、アルゴンガス気流中にてそこへ3.3gのCaSi
2を加えて撹拌した。発泡が完了したのを確認した後に混合溶液を室温まで昇温し、室温でさらに2時間撹拌した後、蒸留水20mlを加えてさらに10分間撹拌した。このとき黄色粉末が浮遊した。
【0116】
得られた混合溶液を濾過し、得られた残渣を10mlの蒸留水で洗浄した後、10mlのエタノールで洗浄した。洗浄後の残渣を真空乾燥して2.5gの層状ポリシランを得た。
【0117】
この層状ポリシランを1g秤量し、O
2を1体積%以下の量で含むアルゴンガス中にて500℃で1時間保持する熱処理を行い、シリコン凝集粒子を得た。
【0118】
得られたシリコン凝集粒子をロータリーキルン型の反応器に入れ、プロパンガス通気下にて850℃、滞留時間5分間の条件で熱CVDによる炭素化工程を行った。反応器の炉芯管は水平方向に配設されており、炉心管の回転速度は1rpmとした。炉心管の内周壁には邪魔板が配設されており、炉心管の回転に伴って邪魔板上に堆積した内容物が所定の高さで邪魔板から落下するように構成されているため、反応中に内容物が撹拌される。この炭素化工程で得られたSi/C複合体粉末を製造例Aの第一粉末とする。
【0119】
この製造例Aの第一粉末の平均粒径D
50をレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって計測した。製造例Aの第一粉末の平均粒径D
50は5μmであった。なお、平均粒径D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を意味する。つまり、平均粒径D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を意味する。
【0120】
この製造例Aの第一粉末は、本発明における第一粉末に相当する。
【0121】
(第二粉末)
<黒鉛−ポリマー複合体の作製>
(製造例1の黒鉛−ポリマー複合体)
スチレン(以下、STと称す。)1モル当量に対し、N,N−ジメチルメタクリルアミド(以下、DMMAAと称す。)1モル当量、アゾビスイソブチロニトリル(略称、AIBN)触媒量およびトルエンを溶媒として混合し、窒素雰囲気下、60℃で6時間重合反応を行なった。放冷後、クロロホルムとヘキサンを用いて再沈殿により精製し、ST−DMMAA(50:50)共重合体を得た。このST−DMMAA(50:50)共重合体の数平均分子量(Mn)は、55,000であった。
【0122】
ここで、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(昭和電工(株)製「Shodex GPC101」)を用いて以下の条件で測定した。
・カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)
・溶離液:クロロホルム
・測定温度:25℃
・サンプル濃度:0.1mg/ml
・検出手段:RI
なお、数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレンで換算した値を示した。
【0123】
黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100μm〜600μm)12.5g、ウレア−過酸化水素包接錯体1.25g、上記ST−DMMAA(50:50)共重合体400mg及びDMF500mlを混合し、湿式高圧粉砕機であるスギノマシン社製、スターバーストシステム、ラボ機を用いて、200MPaで粉砕し、板状黒鉛粒子及びST−DMMAA共重合体を含む分散液を得た。この分散液を再び200MPaで粉砕し、分散液を回収する工程を40回繰り返し、40回粉砕後の分散液を得た。この40回粉砕後の分散液を減圧濾過し、濾過物を約500mlのNMPで洗浄した後、減圧濾過し、濾過物をペースト状態で回収した。濾過物を真空乾燥して、板状黒鉛粒子と芳香族ビニル共重合体とを含む製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の集合体を得た。得られた製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の集合体をNMP中で超音波分散させ、固形分が17質量%のペーストとした。この工程で得られた製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の集合体は、本発明における第二粉末に相当する。
【0124】
この第二粉末を構成する製造例1の黒鉛−ポリマー複合体をSEM観察したところ、板状形状で
長軸方向の長さが0.8μm〜5μm、厚みが20nm〜80nmであった。また製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の粒度分布を測定した。粒度分布の測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて測定した。
図2に製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の粒度分布図を示す。
図2にみられるように、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の粒径は4μm以下の粒径になったことがわかった。また平均粒径D
50を測定したところ、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は1μmであった。
【0125】
(比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体)
200MPaでの粉砕を10回繰り返した以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の製造方法と同様にして比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を得た。
【0126】
比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体をSEM観察したところ、板状形状で
長軸方向の長さが2μm〜50μm、厚みが30nm〜800nmであった。
図2に比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の粒度分布図を示す。
図2にみられるように、比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の粒径が90μm以下の粒径であることがわかった。また平均粒径D
50を測定したところ、比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は10μmであった。
【0127】
(製造例2の黒鉛−ポリマー複合体)
DMMAAにかえて2−イソシアネートエチルメタクリレートを用いた以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体と同様のポリマー製造方法、および混合比を用いて、ST−2−イソシアネートエチルメタクリレート(50:50)共重合体を得た。このST−2−イソシアネートエチルメタクリレート(50:50)共重合体の数平均分子量(Mn)は25,000であった。
【0128】
このST−2−イソシアネートエチルメタクリレート共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の製造方法と同様にして、製造例2の黒鉛−ポリマー複合体を作製した。製造例2の黒鉛−ポリマー複合体は、NMP中で超音波分散させ、固形分が24質量%のペーストとして調製した。
【0129】
製造例2の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50を測定したところ、製造例2の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は1μmであった。
【0130】
(製造例3の黒鉛−ポリマー複合体)
DMMAAにかえてN−フェニルマレイミド(以下、PMと称す。)を用いた以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体と同様のポリマー製造方法、および混合比を用いて、ST−PM(91:9)共重合体を得た。このST−PM(91:9)共重合体の数平均分子量(Mn)は45,000であった。
【0131】
このST−PM共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の製造方法と同様にして、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体を作製した。製造例3の黒鉛−ポリマー複合体は、NMP中で超音波分散させ、固形分が24質量%のペーストとして調製した。
【0132】
製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50を測定したところ、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は1μmであった。
【0133】
(製造例4の黒鉛−ポリマー複合体)
DMMAAにかえてビニルリン酸を用いた以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体と同様のポリマー製造方法、および混合比を用いて、ST−ビニルリン酸(91:9)共重合体を得た。このST−ビニルリン酸(91:9)共重合体の数平均分子量(Mn)は61,000であった。
【0134】
このST−ビニルリン酸共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の製造方法と同様にして、製造例4の黒鉛−ポリマー複合体を作製した。製造例4の黒鉛−ポリマー複合体は、NMP中で超音波分散させ、固形分が19質量%のペーストとして調製した。
【0135】
製造例4の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50を測定したところ、製造例4の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は2μmであった。
【0136】
(製造例5の黒鉛−ポリマー複合体)
DMMAAにかえてアクリル酸メチルを用いた以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体と同様のポリマー製造方法、および混合比を用いて、ST−アクリル酸メチル(91:9)共重合体を得た。このST−アクリル酸メチル(91:9)共重合体の数平均分子量(Mn)は40,000であった。
【0137】
このST−アクリル酸メチル(91:9)共重合体をトルエンに溶解し、1Nの水酸化カリウム水溶液を加え、室温で3日間攪拌した。反応終了後、水相を分取し、硝酸水溶液でpH3以下とした後、凍結乾燥することによって、ST−アクリル酸(91:9)共重合体を得た。
【0138】
このST−アクリル酸共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の製造方法と同様にして、製造例5の黒鉛−ポリマー複合体を作製した。製造例5の黒鉛−ポリマー複合体は、NMP中で超音波分散させ、固形分が24質量%のペーストとして調製した。
【0139】
製造例5の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50を測定したところ、製造例5の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は1μmであった。
【0140】
上記した製造例1〜5の黒鉛−ポリマー複合体が本発明の第二粉末に相当する。
【0141】
<黒鉛−ポリマー複合体の表面分析>
上記した製造例3の黒鉛−ポリマー複合体のペーストをインジウム箔上に塗布して乾燥させ、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜を作製した。製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜について飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS、正イオン:m/z 0−250)を行い、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜の表面に存在する分子を分析した。その結果、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜の表面にはST−PM(91:9)共重合体が吸着していることがわかった。またST−PM(91:9)共重合体のフラグメントパターンから、ST−PM(91:9)共重合体成分のうち、ビニル芳香族モノマー単位を多く含有する共重合体成分が板状黒鉛粒子の表面に吸着しやすいことがわかった。
【0142】
また、得られた製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜についてX線光電子分光(XPS)測定を行なったところ、塗膜表面近傍(表面から深さ10nmの領域)の炭素原子に水酸基が結合していることが確認された。さらに、塗膜表面近傍の炭素量および酸素量を測定し、炭素と酸素との原子比を求めた。その結果、炭素原子100に対し酸素原子は1.13であった。また原料である黒鉛粒子においては炭素原子100に対して酸素原子が約2であった。
【0143】
つまり、炭素に対する酸素の原子比は、製造例3の黒鉛−ポリマー複合体の塗膜の表面において、原料黒鉛粒子の表面よりも小さかった。このことから、芳香族ビニル共重合体は板状黒鉛粒子表面に吸着して被覆していることがわかった。
【0144】
(実施例1)
<負極の形成>
上記製造例Aの第一粉末75質量部と、上記製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として10質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、集電体である厚さ20μmの電解銅箔の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0145】
その後、集電体と負極合材層とからなる複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去し、負極活物質層を得た。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。負極活物質層の密度を1.1mg/cm
3とした。これを200℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが16μm程度の負極を形成した。この負極活物質層を実施例1の負極活物質層とする。
【0146】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は、金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0147】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターおよびcelgard2400)を両者の間に挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0148】
(実施例2)
上記製造例Aの第一粉末75質量部と、上記製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として5質量部と、平均粒径D
50が20μmの天然黒鉛粉末5質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の負極活物質層を得て、さらに実施例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0149】
(実施例3)
上記製造例Aの第一粉末70質量部と、上記製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として15質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の負極活物質層を得て、さらに実施例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【0150】
(実施例4)
上記製造例Aの第一粉末70質量部と、上記製造例2の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として15質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の負極活物質層を得て、さらに実施例4のリチウムイオン二次電池を得た。
【0151】
(実施例5)
上記製造例Aの第一粉末70質量部と、上記製造例3の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として15質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の負極活物質層を得て、さらに実施例5のリチウムイオン二次電池を得た。
【0152】
(実施例6)
上記製造例Aの第一粉末70質量部と、上記製造例4の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として15質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の負極活物質層を得て、さらに実施例6のリチウムイオン二次電池を得た。
【0153】
(実施例7)
上記製造例Aの第一粉末70質量部と、上記製造例5の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として15質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の負極活物質層を得て、さらに実施例7のリチウムイオン二次電池を得た。
【0154】
(比較例1)
上記製造例Aの第一粉末75質量部と、上記比較製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を固形分として10質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の負極活物質層を得て、さらに比較例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0155】
(比較例2)
上記製造例Aの第一粉末75質量部と、平均粒径D
50が20μmの天然黒鉛粉末10質量部と、AB粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部と、NMPとを混合し、スラリー状の負極合材を調製して負極活物質層を作製した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の負極活物質層を得て、さらに比較例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0156】
<負極活物質層のSEM観察>
実施例1の負極活物質層の断面をSEMで観察した。
図3に実施例1の負極活物質層の断面のSEM観察結果を示す。
【0157】
図3に符号で示したように、Si/C複合体粉末である製造例Aの第一粉末2同士が形成する空間に、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体である第二粉末3が良好に配置されていた。ここで、製造例AのSi/C複合体粉末の平均粒径D
50は5μmであり、製造例1の黒鉛−ポリマー複合体の平均粒径D
50は1μmである。第二粉末3の平均粒径D
50は、第一粉末2の平均粒径D
50よりも小さい。
【0158】
製造例1の黒鉛−ポリマー複合体を構成する板状黒鉛粒子はグラフェン単層が複数枚積層された層構造をなし、強度に優れている。したがって板状黒鉛粒子が負極活物質層内に良好に分散して配置されることで、充放電時に負極活物質層に作用する応力が均一に緩和される。また板状黒鉛粒子は導電性が高いため、板状黒鉛粒子が負極活物質層内に良好に分散して配置されることで、負極活物質層内に良好な導電パスが形成される。
【0159】
<評価試験1>
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池の初期容量を測定した。具体的には、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池を25℃の恒温槽に1時間保持した後に充放電を行った。充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で充放電を行い、初期充電容量と初期放電容量とを測定した。
【0160】
上記初期充電容量と初期放電容量とから初期効率(%)を下記計算式で計算した。
初期効率(%)=(初期充電容量÷初期放電容量)×100
【0161】
それぞれの結果を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
比較例2のリチウムイオン二次電池の初期効率に比べて、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期効率は1.5%向上した。これは球状の黒鉛に代えて板状黒鉛粒子で構成される黒鉛−ポリマー複合体を加えることによる効果と考えられる。それに対して実施例1及び実施例2のリチウムイオン二次電池の初期効率は、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期効率に比べてさらに1.4%、1.0%とそれぞれ大幅に向上した。この結果から第一粉末の平均粒径D
50よりも小さい平均粒径D
50を有する第二粉末を用いることで、初期効率が大幅に向上することが確認できた。また第二粉末と黒鉛とを含む実施例2のリチウムイオン二次電池の初期効率よりも、黒鉛を含まず、第二粉末を含む実施例1のリチウムイオン二次電池の初期効率のほうが高くなった。これは黒鉛の平均粒径D
50が第一粉末及び第二粉末の平均粒径D
50よりも大きいため、黒鉛が活物質間に有効に配置されなかった結果と推測される。
【0164】
<評価試験2>
実施例3〜7のリチウムイオン二次電池を用い、以下の条件で充放電を繰り返すサイクル試験を行い各サイクルの充放電容量を測定した。充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で行う充放電を1サイクルとし、30サイクルまでサイクル試験を行った。初回サイクルと各サイクル数における充放電容量を測定した。初期充電容量、初期放電容量、初期効率は評価試験1と同様にして求めた。30サイクル後の容量維持率は次に示す式にて求めた。
30サイクル後の容量維持率(%)=(30サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100
【0165】
実施例3〜7のリチウムイオン二次電池の初期放電容量、初期充電容量、初期効率、30サイクル後の容量維持率を表2に示す。
【0166】
【表2】
【0167】
実施例3のリチウムイオン二次電池に比べて、実施例4〜7のリチウムイオン二次電池はいずれも初期効率及び30サイクル後容量維持率が高かった。この結果は実施例3〜7のリチウムイオン二次電池に用いられた各黒鉛−ポリマー複合体のポリマーの種類によるものと推測される。
【0168】
実施例4のリチウムイオン二次電池に使用された黒鉛−ポリマー複合体のポリマーはイソシアネート基を有する。イソシアネート基は、非常に反応性が高く、水酸基を有する化合物とウレタン結合を生成する。実施例4の負極活物質層においてバインダーはPAIを用いている。PAIの末端は、OHや酸無水物である。そのため黒鉛−ポリマー複合体のイソシアネート基と、PAIの末端とがウレタン結合を生成し、黒鉛−ポリマー複合体とPAIとの結合が強化され、それにより実施例4のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率が実施例3のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率よりも向上したと推測される。
【0169】
実施例5のリチウムイオン二次電池に使用された黒鉛−ポリマー複合体のポリマーは、アミド部分が閉環構造をとっており、耐薬品性が高い。そのため、電解液などによる黒鉛−ポリマー複合体の劣化が抑制されて実施例5のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率が実施例3のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率よりも向上したと推測される。
【0170】
実施例6のリチウムイオン二次電池に使用された黒鉛−ポリマー複合体のポリマーには、リン酸基が含まれる。このリン酸基が含まれることによって活物質表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)皮膜が形成されやすくなることが推測される。SEI皮膜が存在すると、電解液の継続的な分解が抑制され、サイクル特性を向上させ得ると考えられている。そのため、実施例6のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率が実施例3のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率よりも向上したと推測される。
【0171】
実施例7のリチウムイオン二次電池に使用された黒鉛−ポリマー複合体のポリマーは、カルボキシル基を有する。カルボキシル基は極性構造であるため、他の電極部材や集電体などとの密着性が強くなると推測される。密着性が向上することにより負極内の導電パスが効果的に構築されたことも推測できる。そのため、実施例7のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率が実施例3のリチウムイオン二次電池の初期効率及び30サイクル後容量維持率よりも向上したと推測される。