特許第6534908号(P6534908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534908
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】鍛造用ピーリング棒材
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/00 20060101AFI20190617BHJP
   B23D 79/12 20060101ALI20190617BHJP
   B21J 3/00 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   B21J5/00 D
   B23D79/12 A
   B21J3/00
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-208991(P2015-208991)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-80751(P2017-80751A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔史
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084698(JP,A)
【文献】 特開昭56−009126(JP,A)
【文献】 特開平11−221646(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0279714(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/00
B21J 3/00
B23D 79/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面がピーリング加工された状態のアルミニウム棒材によって構成された鍛造用ピーリング棒材であって、
外周面が、軸心方向に沿って谷底と山頂とが交互に配置されるように複数の山型部が連なった表面プロフィールを有し、
各山型部の輪郭を構成する2つの斜面のうち、軸心方向の一方側の斜面を第1斜面とし、他方側の斜面を第2斜面としたとき、
前記第1斜面の軸心に対する傾斜角度と前記第2斜面の軸心に対する傾斜角度とが異なっていることを特徴とする鍛造用ピーリング棒材。
【請求項2】
前記第1斜面の傾斜角度が1°〜30°であり、第2斜面の傾斜角度が50°〜100°である請求項1に記載の鍛造用ピーリング棒材。
【請求項3】
前記第1斜面の谷底から山頂までの長さが1mm〜20mm、第2斜面の山頂から谷底までの長さが0.1μm〜50μmである請求項1または2に記載の鍛造用ピーリング棒材。
【請求項4】
鍛造加工に用いられる鍛造素材であって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材によって構成されていることを特徴とする鍛造素材。
【請求項5】
鋳造加工によって得られた連続鋳造棒に対しピーリング工程によって外周面を切削除去することによって請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を得るようにしたことを特徴とする鍛造用ピーリング棒材の製造方法。
【請求項6】
ピーリング工程に用いられる切削具のバイトとして、ダイヤモンドバイトが用いられる請求項5に記載の鍛造用ピーリング棒材の製造方法。
【請求項7】
鍛造加工に用いられる鍛造素材の製造方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を切断して鍛造素材を得るようにしたことを特徴とする鍛造素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を鍛造素材として鍛造加工を行って鍛造製品を得るようにしたことを特徴とする鍛造方法。
【請求項9】
鍛造加工時における鍛造素材の軸心方向が加圧パンチの加圧方向に設定されている請求項8に記載の鍛造方法。
【請求項10】
加圧パンチによる加圧方向が下向きであり、
鍛造素材における各山型部の第1および第2斜面のうち傾斜角度が大きい方の斜面が傾斜角度が小さい方の斜面に対し上側に配置されている請求項8または9に記載の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鍛造素材として好適に用いることができる鍛造用ピーリング棒材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用コンプレッサー部品やサスペンション部品として、アルミニウム合金の鍛造製品によって構成されたものが周知である。鍛造加工に用いられる鍛造素材としては例えば、鋳造によって得られた連続鋳造棒に対し特許文献1等に示すピーリング加工によって外周面を切削除去して得られるピーリング棒材が用いられる。そしてこのピーリング棒材によって構成された鍛造素材に対しその表面に潤滑剤(潤滑油)を付着させて、または鍛造装置の金型内周面に潤滑剤を付着させて鍛造加工が施されて上記の自動車部品等としての鍛造製品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−178618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鍛造素材として用いられるピーリング棒材はその表面状態が安定していないと、ピーリング棒材としての鍛造素材外周面全域に均等な潤滑被膜が形成されず、潤滑被膜が偏って形成されてしまい潤滑被膜による効果が十分に得られなくなってしまう。例えば鍛造素材の部位毎に成形性が異なってしまい、鍛造製品の寸法精度にバラツキが生じてしまうという課題が発生する。さらに部分的に潤滑不足が発生してしまい、鍛造素材の金型への焼き付きが発生し、その焼き付きを修復するために生産が滞って生産性が低下するとともに、焼き付き等により金型が早期に劣化してしまい、金型寿命が短くなってしまうという課題も発生する。
【0005】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高い寸法精度の鍛造製品を得ることができ、鍛造製品を製造するに際して生産性の向上および金型の長寿命化を図ることができる鍛造用ピーリング棒材およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0007】
[1]外周面がピーリング加工された状態のアルミニウム棒材によって構成された鍛造用ピーリング棒材であって、
外周面が、軸心方向に沿って谷底と山頂とが交互に配置されるように複数の山型部が連なった表面プロフィールを有し、
各山型部の輪郭を構成する2つの斜面のうち、軸心方向の一方側の斜面を第1斜面とし、他方側の斜面を第2斜面としたとき、
前記第1斜面の軸心に対する傾斜角度と前記第2斜面の軸心に対する傾斜角度とが異なっていることを特徴とする鍛造用ピーリング棒材。
【0008】
[2]前記第1斜面の傾斜角度が1°〜30°であり、第2斜面の傾斜角度が50°〜100°である前項1に記載の鍛造用ピーリング棒材。
【0009】
[3]前記第1斜面の谷底から山頂までの長さが1mm〜20mm、第2斜面の山頂から谷底までの長さが0.1μm〜50μmである前項1または2に記載の鍛造用ピーリング棒材。
【0010】
[4]鍛造加工に用いられる鍛造素材であって、
前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材によって構成されていることを特徴とする鍛造素材。
【0011】
[5]鋳造加工によって得られた連続鋳造棒に対しピーリング工程によって外周面を切削除去することによって前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を得るようにしたことを特徴とする鍛造用ピーリング棒材の製造方法。
【0012】
[6]ピーリング工程に用いられる切削具のバイトとして、ダイヤモンドバイトが用いられる前項5に記載の鍛造用ピーリング棒材の製造方法。
【0013】
[7]鍛造加工に用いられる鍛造素材の製造方法であって、
前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を切断して鍛造素材を得るようにしたことを特徴とする鍛造素材の製造方法。
【0014】
[8]前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造用ピーリング棒材を鍛造素材として鍛造加工を行って鍛造製品を得るようにしたことを特徴とする鍛造方法。
【0015】
[9]鍛造加工時における鍛造素材の軸心方向が加圧パンチの加圧方向に設定されている前項8に記載の鍛造方法。
【0016】
[10]加圧パンチによる加圧方向が下向きであり、
鍛造素材における各山型部の第1および第2斜面のうち傾斜角度が大きい方の斜面が傾斜角度が小さい方の斜面に対し上側に配置されている前項8または9に記載の鍛造方法。
【発明の効果】
【0017】
発明[1]の鍛造用ピーリング棒材によれば、外周面の表面プロフィールにおける各山型部の第1および第2斜面の傾斜角度が異なっているため、山型部の高さが低く、かつ山型部のピッチが長い場合であってもいずれか一方の斜面の傾斜角度を大きくでき、その傾斜角度が大きい方の斜面を例えば上側にして鍛造加工を行うことにより、外周面全域に均一かつ十分に潤滑被膜を形成することができる。このため偏りがない安定した成形性を確保することができ、寸法精度に優れた鍛造製品を得ることができる。さらに潤滑不足による金型への焼き付きを防止できるため、焼き付きによる生産中断や金型の早期劣化を防止でき、生産性の向上および金型の長寿命化を図ることができる。
【0018】
発明[2][3]の鍛造用ピーリング棒材によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0019】
発明[4]の鍛造素材によれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【0020】
発明[5][6]の製造方法によれば、上記と同様の効果を奏する鍛造用ピーリング棒材を得ることができる。
【0021】
発明[7]の製造方法によれば、上記と同様の効果を奏する鍛造素材を得ることができる。
【0022】
発明[8]〜[10]の鍛造方法によれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1はこの発明の実施形態であるアルミニウム棒材のピーリング工程を説明するための概略斜視図である。
図2図2は実施形態のピーリング工程を説明するための概略側面図である。
図3図3は実施形態の鍛造用ピーリング棒材の表面プロフィールを説明するための模式図である。
図4図4図3の部分拡大断面図である。
図5図5は実施形態の鍛造用ピーリング棒材によって構成された鍛造素材における鍛造加工時の配置状態を模式的に示す要部拡大断面図である。
図6図6は実施形態の鍛造素材における熱間鍛造金型内の配置状態を模式的に示す要部拡大断面図である。
図7図7は従来の鍛造素材の表面プロフィールを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態における鍛造用ピーリング棒材は、外周面がピーリング加工された状態のアルミニウム棒材、または外周面がピーリング加工されている状態のアルミニウム棒材によって構成されるものである。このピーリング棒材は例えば、ホットトップ鋳造等の鋳造工程によって得られたアルミニウム合金製の鋳塊(連続鋳造棒)を、切断工程で切断してその連続鋳造棒に対し熱処理や曲がり矯正処理等を適宜行った後、その連続鋳造棒に対しピーリング工程(切削工程)を行って外周面を切削することによって得られるものである。さらにこのピーリング棒材に対し例えば切断工程を行って所定長さに切断することによって鍛造素材が得られるものである。
【0025】
なお本発明において、アルミニウム(Al)の語は純アルミニウムまたはアルミニウム合金のいずれをも含む意味で用いられる。
【0026】
図1および図2はピーリング工程を説明するための概略図である。両図に示すようにアルミニウム棒材Wの搬送ラインには切削機5が設けられている。切削機5は、搬送ラインに沿って搬送されるアルミニウム棒材Wの外周面に沿って、周方向に等間隔おきに(90°間隔おきに)4つの切削具51を備えている。本実施形態においては、各箇所の切削具51は、4枚重ねの粗加工用バイトと、4枚重ねの仕上げ加工用バイトとの一対のバイト群を有する、いわゆるコンビネーションバイトが用いられている。
【0027】
また図示は省略するが、切削機5の搬送ラインに対し上流側および下流側には、アルミニウム棒材Wを搬送ラインに沿って搬送するための搬送ローラ、支持ローラ、キャリッジ等のワーク搬送手段が設けられている。
【0028】
なお本発明において、コンビネーションバイトを構成する粗加工用バイトおよび仕上げ加工用バイトの刃先の素材は特に限定されるものではないが、超硬質合金やダイヤモンド等を好適に用いることができ、中でも特に仕上げ加工用バイトとしては、刃先がダイヤモンドのダイヤモンドバイトを好適に用いることができる。また本発明においては、切削具51のバイトの枚数等は限定されるものではなく、さらにコンビネーションバイト以外の切削具を用いるようにしても良い。
【0029】
そして本実施形態においては、切削具51を搬送ライン回りに回転させつつ、アルミニウム棒材Wを搬送ラインに沿って搬送することによって、アルミニウム棒材Wの外周面の全域が切削具51によって切削除去されるようになっている。
【0030】
ここで本実施形態において、アルミニウム棒材Wとは、ピーリング前の連続鋳造棒W1と、ピーリング後のピーリング棒材(鍛造用ピーリング棒材)W2と、ピーリング棒材W2を切断して得られる鍛造素材とを総称したものである。
【0031】
本実施形態ではピーリング加工時において、切削バイトの種類、切削バイト1の刃先形状、切削バイトの回転数、アルミニウム棒材Wの送り速度等の切削条件を適宜調整することによって、以下に説明するように特有の構成の表面プロフィールを有するピーリング棒材W2を得るものである。
【0032】
図3は本実施形態におけるピーリング棒材W2の表面プロフィールを示す模式図であって、図2の一点鎖線で囲まれた部分を拡大した断面に相当する模式図である。図4図3の山型部周辺をさらに拡大して示す模式図である。両図に示すようにピーリング棒材W2の外周面には断面状態において軸心方向に沿って多数の山型部3が連なった略鋸刃状ないし略カミナリ形状に形成されている。また隣り合う山型部3間の最低位点が谷底31として構成され、各山型部3の最高位点が山頂32として構成されている。
【0033】
ここで本実施形態においては各山型部3の輪郭を構成している2つの斜面(斜線)のうち、軸心方向の一方側の斜面、つまり図3の左側から右側に向かって上り傾斜している斜面を第1斜面1とし、軸心方向の他方側の斜面、つまり図3の左側から右側に向かって下り傾斜している斜面を第2斜線2としている。
【0034】
そして本実施形態においては、ピーリング棒材W2の軸心Xに対する第1斜面1の傾斜角度(一方の底角)θ1と、軸心Xに対する第2斜面2の傾斜角度(他方の底角)θ2とが異なる大きさに形成されている。
【0035】
本実施形態においては第1斜面1の傾斜角度θ1が1°〜30°であるのが好ましく、第2斜面2の傾斜角度θ2が50°〜100°であるのが好ましい。すなわち傾斜角度θ1,θ2が上記の好適範囲に含まれる場合には、後述する潤滑被膜による効果を確実に得ることができる。逆に傾斜角度θ1,θ2が上記の好適範囲を逸脱するような場合には、潤滑被膜による効果を十分に得ることができないおそれがある。
【0036】
さらに本実施形態では図4において、第1斜面1における谷底31から山頂32までの直線距離(第1斜面1の長さ)L1が1mm〜20mmであるのが好ましく、第2斜面2における山頂32から谷底31までの直線距離(第2斜面2の長さ)L2が0.1μm〜50μmであるのが好ましい。すなわち斜面長さL1,L2が上記の好適範囲に含まれる場合には、後述する潤滑被膜による効果を確実に得ることができる。逆に斜面長さL1,L2が上記の好適範囲を逸脱するような場合には、潤滑被膜による効果を十分に得ることができないおそれがある。
【0037】
このように特有の表面プロフィールを備えたピーリング棒材W2が適宜切断されて鍛造素材が形成される。言うまでもなくこの鍛造素材においてもピーリング棒材W2と同様の表面プロフィールを備えている。
【0038】
次に上記鍛造素材を用いた鍛造加工について説明するが、本実施形態においては発明の理解を容易にするため、ピーリング棒材と鍛造素材とに同一の符号「W2」を付して説明する。
【0039】
鍛造加工に用いられる装置(金型)は通常、上側に加圧パンチ(上金型)が配置され、下側にダイス(下金型)が配置されて、パンチをダイスに向けて垂直方向の下向きに打ち込むように構成されている。
【0040】
このような鍛造装置に対しては図5に示すように鍛造素材W2の軸心方向を垂直方向に一致させる。さらに表面プロフィールの各山型部3において第1および第2斜面1,2のうち傾斜角度θ2が大きい方の第2斜面2を、傾斜角度θ1が小さい方の第1斜面1に対し上側に配置させるように設定する。または表面プロフィールの各山型部3において第1および第2斜面1,2のうち斜面長さL2が短い方の第2斜面2を、斜面長さL1が長い方の第1斜面1に対し上側に配置させるように設定する。これにより鍛造素材W2の第2斜面2が水平に近い状態に配置されるため、各第2斜面2上に潤滑剤(潤滑油)4が確実に保持されて鍛造素材W2の外周面全域にわたって均等かつ十分な潤滑被膜が形成される。このため鍛造素材W2の外周面全域にわたって成形性に偏りがなく均一となり、鍛造素材Wの各部位毎に寸法精度にバラツキが生じるような不具合を確実に防止でき、寸法精度に優れた鍛造製品を得ることができる。
【0041】
さらに鍛造素材W2の全域に均等かつ十分な潤滑被膜が形成されるため、潤滑不足による金型への焼き付きを防止することができる。従って焼き付きを修復するために生産を中断したり、焼き付きによる金型の早期劣化を防止でき、生産性の向上および金型の長寿命化を確実に図ることができる。
【0042】
特に鍛造加工時に主として鍛造素材W2側に潤滑剤4を付着させる冷間鍛造においては、鍛造素材W2の外周面に潤滑剤4をより確実に保持でき、均等かつ十分な潤滑被膜をより確実に形成することができ、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0043】
なお本実施形態においては、第1および第2斜面1,2の傾斜角度θ1,θ2を異ならせているため、いずれか一方の斜面の傾斜角度を確実に大きく形成でき、その傾斜角度の大きい斜面によって潤滑剤4を確実に保持できて、潤滑被膜による効果をより確実に得ることができる。
【0044】
すなわちピーリング加工による切削量(切削厚み)は薄い方が好ましいため、ピーリング棒材W2の表面に形成される山型部3の高さは低くなってしまう。このような状況下にあっては、図7に示す従来の鍛造素材W5の表面プロフィールのように、各山型部3の両斜面1,2の傾斜角度が共に同じ場合には、隣り合う山型部3,3間のピッチが長いと、両斜面1,2の傾斜角度が小さくなってしまう。つまり斜面1,2の傾斜角度を大きくするためには、山型部3の高さを高くする必要があるが、既述した通り山型部3の高さを高くすることができず、斜面1,2の傾斜角度が小さくなってしまう。さらに山型部3のピッチを短くすれば、斜面1,2の傾斜角度を大きくすることは可能であるが、切削加工の技術面から山型部3のピッチを短くすることは困難であり、斜面1,2の傾斜角度が小さくなってしまう。このため実際には従来の鍛造素材W5においては、各山型部3の両斜面1,2の傾斜角度(底角)が25°程度と小さくなってしまい、いずれの斜面1,2においても潤滑剤4を十分に保持できず、均等かつ十分な潤滑被膜を形成することが困難になってしまう。
【0045】
そこで図5に示す本実施形態の鍛造素材W2のように、山型部3の両斜面1,2の傾斜角度θ1,θ2が異なる場合には、山型部3の高さが低く、かつ山型部3のピッチが長くとも、いずれか一方の斜面(例えば第2斜面2)の傾斜角度θ2を大きく形成することができる。このため既述した通りその傾斜角度が大きい斜面によって潤滑剤4を十分に保持でき、均等かつ十分な潤滑被膜を確実に形成することができる。
【0046】
一方本実施形態では、鍛造加工時に主として鍛造金型側に潤滑剤4を付着させる熱間鍛造において、鍛造素材W2を上記とは上下逆向きに設置するようにしても良い。すなわち図6に示すように鍛造素材W2を各山型部3において傾斜角度θ1が小さい方の第1斜面1を、傾斜角度θ2が大きい第2斜面2に対し上側に配置させるように設定する。または斜面長さL1が長い方の第1斜面1を、斜面長さL2が短い方の第2斜面2に対し上側に設定する。これによりパンチによって鍛造素材W2が下向きに打ち込まれた際に、下金型(ダイス)6の成形孔61の内周面に付着した潤滑剤4が鍛造素材W2の各第2斜面2によってそぎ落とされて、成形孔61の内周面全域および鍛造素材W2の外周面全域に行き渡り鍛造素材Wの全域に均等かつ十分な潤滑被膜が形成された状態で鍛造加工が施されることになる。このため上記と同様に寸法精度に優れた鍛造製品を効率良く製造できるとともに、金型寿命を向上させることができる。
【0047】
以上のように本実施形態のピーリング棒材(鍛造素材)W2によれば、特有の表面プロフィールを備えているため、寸法精度に優れた鍛造製品を製造できるとともに、生産性および金型の耐久性を向上させることができる。
【0048】
なお上記実施形態においては、表面プロフィールにおける山型部の第1および第2斜面のうち傾斜角度が小さい方の斜面を第1斜面、傾斜角度が大きい方の斜面を第2斜面としているがそれだけに限られず、本発明においては、傾斜角度が大きい方の斜面を第1斜面、傾斜角度が小さい方の斜面を第2斜面としても良い。
【0049】
また上記実施形態においては、第1および第2斜面のうち斜面長さが長い方の斜面を第1斜面、斜面長さが短い方の斜面を第2斜面としているがそれだけに限られず、本発明においては、斜面長さが短い方の斜面を第1斜面、斜面長さが長い方の斜面を第2斜面としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明の鍛造用ピーリング棒材は、鍛造加工用として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1:第1傾斜面
2:第2傾斜面
3:山型部
31:谷底
32:山頂
L1:第1斜面の長さ
L2:第2斜面の長さ
W1:連続鋳造棒
W2:鍛造用ピーリング棒材、鍛造素材
X:軸心
θ1:第1斜面の傾斜角度
θ2:第2斜面の傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7