(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るテープ状プリプレグを示す模式的平面図である。
【
図2】
図1のX1−X1線における模式的断面拡大図である。
【
図3A】複数の繊維の分散度の算出方法の説明に用いる模式図である。
【
図3B】複数の繊維の分散度の算出方法の説明に用いる模式図である。
【
図3C】複数の繊維の分散度の算出方法の説明に用いる模式図である。
【
図4A】テープ状プリプレグの配向度Pの算出に用いる断面画像の一例である。
【
図4C】
図4Bの画像に対するフーリエ変換により得た二次元パワースペクトル画像である。
【
図4D】
図4Cの二次元パワースペクトル画像から描いた近似楕円を示す画像である。
【
図5A】実施例1のテープ状プリプレグの算術平均粗さ(Ra)の測定データである。
【
図5B】比較例1のテープ状プリプレグの算術平均粗さ(Ra)の測定データである。
【
図6A】実施例1のテープ状プリプレグの断面画像である。
【
図6B】比較例1のテープ状プリプレグの断面画像である。
【
図7A】実施例1のテープ状プリプレグの平面写真である。
【
図7B】比較例1のテープ状プリプレグの平面写真である。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<第1実施形態>
[テープ状プリプレグ]
図1及び2の当該テープ状プリプレグ1は、一方向に配向する複数の繊維2と、これらの複数の繊維2に含浸するバインダー3とを備える。当該テープ状プリプレグ1は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分をさらに備えてもよい。
【0019】
当該テープ状プリプレグ1の平均厚さの下限としては、50μmであり、55μmが好ましく、62μmがより好ましい。一方、当該テープ状プリプレグ1の平均厚さの上限としては、150μmであり、130μmが好ましく、90μmがより好ましく、70がさらに好ましい。当該テープ状プリプレグ1の平均厚さが上記下限より小さい場合、加工時等に破断し易くなるおそれがある。逆に、当該テープ状プリプレグ1の平均厚さが上記上限を超える場合、柔軟性が不十分となることで加工性が低下するおそれがある。
【0020】
当該テープ状プリプレグ1の平均幅は、特に限定されず、用途に合わせて適宜変更可能である。当該テープ状プリプレグ1の平均幅の下限としては、例えば1cmである。一方、当該テープ状プリプレグ1の平均幅の上限としては、例えば50cmである。ここで「平均幅」とは、任意の十点において測定した幅の平均値をいい、幅とは複数の繊維2の配向方向と垂直方向の長さをいう。
【0021】
当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)の下限としては、2μmが好ましく、3.5μmがより好ましく、4μmがさらに好ましい。一方、上記算術平均粗さ(Ra)の上限としては、8μmが好ましく、6μmがより好ましく、4.5μmがさらに好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)が上記下限より小さい場合、積層プレスやフィラメントワインディングの際に層間から空気が抜け難くなるため、加工性の低下のおそれがある。また、繊維強化成形体に気泡が発生することにより、機械的特性の低下、外観の悪化等のおそれがある。一方、上記算術平均粗さ(Ra)が上記上限を超える場合、積層プレスやフィラメントワインディングの際に層間に隙間が生じ易くなるため、加工性の低下のおそれがある。また、繊維強化成形体に気泡が発生することによる機械的特性の低下、外観の悪化等のおそれがある。さらに、製造及び保存の際に当該テープ状プリプレグ1をボビン等に巻回したときに巻回物が不要に大きくなるおそれがある。
【0022】
(繊維)
複数の繊維2は、一方向に配向し、繊維強化成形体の機械的特性を向上する。複数の繊維2の配向方向は、当該テープ状プリプレグ1の長手方向と同一であるとよい。複数の繊維2としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、有機繊維、金属繊維、セラミック繊維、天然食物繊維等を主成分とするものが挙げられる。複数の繊維2としては、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維、金属繊維及びこれらの組み合わせを主成分とするものが好ましい。
【0023】
上記炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油ピッチ系炭素繊維、石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維等が挙げられる。
【0024】
上記有機繊維としては、例えばポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール等の複素環含有ポリマーにより形成される繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などが挙げられる。
【0025】
上記金属繊維の主成分としては、例えば銅、鉄、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、銀、これらの合金等が挙げられる。
【0026】
複数の繊維2は、表面処理を受けたものであってもよい。上記表面処理としては、例えばカップリング処理、酸化処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、ブラスト処理等が挙げられる。
【0027】
複数の繊維2の分散度の下限としては、0.4であり、0.5が好ましく、0.6がより好ましく、0.75がさらに好ましい。一方、複数の繊維2の分散度の上限としては、1.5であり、1.3が好ましく、1.0が好ましく、0.85がより好ましい。複数の繊維2の分散度が上記下限より小さい場合、繊維強化成形体の機械的特性及び品質の均一性が不十分となるおそれがある。逆に、複数の繊維2の分散度が上記上限を超える場合、コストの増加と、繊維強化成形体の機械的特性及び品質の均一性の向上とのバランスが悪化するおそれがある。
【0028】
ここで、複数の繊維2の分散度は、以下の手順により算出される値をいう。上記手順について、模式図として
図3A〜
図3Cを参照しつつ説明する。まず、複数の繊維2の配向方向と垂直方向に当該テープ状プリプレグ1を切断し、顕微鏡(例えばオリンパス社の光学顕微鏡「BX51」)により断面画像を撮影する(
図3A)。この断面画像は、必要に応じ複数の繊維2が白色、バインダー3が黒色となるように画像処理ソフト(例えばヒューリンクス社の「SigmaScan Pro」)で二値化処理してもよい。次に、上記断面画像の正方形領域(例えば75μm四方、
図3Aにおける領域Z)を縦横にn(nは2以上の整数)等分し(
図3B、n=7)、n
2個の各領域で複数の繊維2の面積率aを測定する。この各領域の面積率aの平均値a
AVGを標準偏差σ
aで除すことにより変動係数C
v(n)を算出する。そして、X軸に1/n、Y軸に変動係数C
v(n)を両対数プロットし、最小二乗法により近似直線の傾きを求める(
図3C)。上記傾きに−1を乗じた値であるフラクタル次元Dを複数の繊維2の分散度とする。上記プロットにおけるプロット数の下限としては、例えば5である。一方、上記プロットにおけるプロット数の上限としては、例えば10である。また、nの下限としては、例えば5である。一方、nの上限としては、例えば100である。
【0029】
複数の繊維2の配向度Pの下限としては、0.8であり、0.85が好ましく、0.9がより好ましい。一方、複数の繊維2の配向度Pは、1.0未満である。複数の繊維2の配向度Pの上限としては、0.99が好ましく、0.096がより好ましく、0.95がさらに好ましい。複数の繊維2の配向度Pが上記下限より小さい場合、繊維強化成形体の機械的特性及び品質の均一性が不十分となるおそれがある。逆に、複数の繊維2の配向度Pが上記上限を超える場合、コストの増加と、繊維強化成形体の機械的特性及び品質の均一性の向上とのバランスが悪化するおそれがある。
【0030】
ここで、複数の繊維2の配向度Pは、以下の手順により算出される値をいう。上記手順について、
図4A〜
図4Dを参照しつつ説明する。まず、X線透視装置(例えば島津製作所社の「SMX−1000Plus」)を用いたX線CT(コンピュータ断層撮影)などにより、当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の配向方向の断面画像(スライス画像)を撮影する(
図4A)。撮影方法としては、当該テープ状プリプレグ1の面方向と直交する方向から撮影する方法が好ましい。また、この断面画像は、必要に応じ密度の低い部分が白色、密度の高い部分が黒色となるように画像処理で二値化処理してもよい(
図4B)。次に、上記断面画像の正方形領域(例えば1.0mm四方)に対するフーリエ変換により二次元パワースペクトル画像を得る(
図4C)。このパワースペクトル画像より平均振幅の角度分布図を得てその近似楕円を描き(
図4D)、その近似楕円の長径(
図4Dのd1)及び短径(
図4Dのd2)を測定し、以下の式(1)により配向度Pを算出する。
配向度P=1−(近似楕円の短径/長径)・・・・(1)
【0031】
なお、配向度Pは、複数(例えば3)の断面画像を用いて測定した値の平均値であるとよい。上記複数の断面画像は、当該テープ状プリプレグ1の一方の面からの距離がそれぞれ異なるとよい。上記距離は、一定(例えばテープ状プリプレグの一方の面からの距離がそれぞれ平均厚さの5%、50%及び95%)であるとよい。
【0032】
複数の繊維2の平均繊維長は、特に限定されず、用途に応じて適宜変更可能である。但し、複数の繊維2の平均繊維長は、入手可能な複数の繊維2の1ボビンの連続繊維長が上限となる。なお、当該テープ状プリプレグ1の平均長さは、複数の繊維2の平均繊維長と略同一である。
【0033】
複数の繊維2の平均繊度としては、特に限定されず、市販され入手可能な複数の繊維の繊度やテープ状プリプレグの平均厚さ及び幅に応じて適宜変更可能である。複数の繊維2が炭素繊維である場合の具体的な平均繊度としては、例えば800g/1,000m以上3,200g/1,000m以下である。また、複数の繊維2がガラス繊維である場合の具体的な平均繊度としては、例えば1,000g/1,000m以上5,000g/m以下であり、より具体的には1,200g/1,000m、2,400g/1,000m、4,800g/1,000m等である。ここで「平均繊度」とは、JIS−L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」に記載のB法(簡便法)に準拠して測定した正量繊度の平均値をいう。なお、1g/1,000mは、1texに相当する。
【0034】
複数の繊維2の含有率の下限としては、30体積%であり、35体積%が好ましく、40体積%がより好ましい。一方、複数の繊維2の含有率の上限としては、60体積%であり、55体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。複数の繊維2の含有率が上記下限より小さい場合、繊維強化成形体の機械的特性の低下のおそれがある。逆に、複数の繊維2の含有率が上記上限を超える場合、複数の繊維2の分散度及び配向度の上記範囲への調整が困難となるおそれがある。
【0035】
(バインダー)
バインダー3は、複数の繊維2に含浸し、複数の繊維2を接着する。バインダー3は、複数の繊維2を分散させるマトリックスとして機能してもよい。バインダー3は、通常熱可塑性樹脂を主成分とし、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有してもよい。上記他の任意成分としては、例えば熱硬化性樹脂、その硬化剤等が挙げられる。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0037】
バインダー3における熱可塑性樹脂の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、75質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、99質量%が特に好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が上記下限より小さい場合、当該テープ状プリプレグ1の加工性の低下のおそれがある。
【0038】
熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂及びポリイミド等が挙げられる。なお、これらの熱硬化性樹脂は、通常硬化処理による三次元架橋構造の形成を行っていない未硬化の熱硬化性樹脂である。また、バインダー3が熱硬化性樹脂を含有する場合、この熱硬化性樹脂に対応する硬化剤をさらに含有するとよい。
【0039】
バインダー3の含有率の下限としては、40体積%が好ましく、45体積%がより好ましく、50体積%がさらに好ましい。一方、バインダー3の含有率の上限としては、70体積%が好ましく、65体積%がより好ましく、60体積%がさらに好ましい。バインダー3の含有率が上記下限より小さい場合、当該テープ状プリプレグ1の製造が困難となるおそれがある。逆に、バインダー3の含有率が上記上限を超える場合、複数の繊維2の含有量が不十分となるおそれがある。
【0040】
当該テープ状プリプレグ1が含んでもよい任意成分としては、例えばシリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、酸化アンチモン等の無機フィラー、アクリルゴム微粒子、シリコンパウダー、ナイロンパウダー等の有機フィラーなどが挙げられる。
【0041】
[テープ状プリプレグの製造方法]
当該テープ状プリプレグ1の製造方法としては、例えば溶融したバインダー3を複数の繊維2に含浸させる工程(含浸工程)と、バインダー3を含浸させた複数の繊維2をノズルに通過させる工程(ノズル通過工程)と、ノズルを通過した複数の繊維2を冷却する工程(冷却工程)とを備える方法(引抜き法)等が挙げられる。当該テープ状プリプレグ1の製造方法は、繊維束を開繊する工程(開繊工程)をさらに備えることが好ましい。
【0042】
(開繊工程)
本工程は、繊維束を開繊する。開繊した繊維束は、後述する含浸工程で複数の繊維2として用いる。繊維束を開繊する方法としては、例えば中心を軸に回転する断面円形の開繊ローラの回転面と、モータによる巻き取り等により、張力が付加されつつ走行する繊維束とを接触させる方法等が挙げられる。上記方法では、開繊ローラの回転面との接触により繊維束が複数の繊維2に開繊する。なお、上記開繊ローラの代わりに、中心を軸に回転しない断面円形のガイドバーを用いてもよい。
【0043】
繊維束は、
図1及び2の複数の繊維2を束ねたものである。繊維束に含まれる繊維数は、繊維束の種類等によって適宜変更可能である。繊維束が炭素繊維の繊維束である場合、繊維束に含まれる繊維数としては、例えば10,000本以上50,0000本以下であり、具体的には、例えば12,000本(12K)、24,000本(24K)、48,000本(48K)等である。なお、当該テープ状プリプレグ1の製造方法では、繊維束を1のみ用いてもよく、2以上用いてもよい。
【0044】
本工程は、事前に繊維束を予熱してもよい。これにより、繊維束に付着している収束剤を軟化でき、その結果、開繊工程及び後述する含浸工程の効率を向上できる。なお、収束剤とは、複数の繊維2を収束させて扱いやすくするために繊維束に付着させるものである。繊維束を予熱する方法としては、特に限定されず、従来公知の予熱機等を用いる方法などが挙げられる。上記予熱温度の下限としては、例えば80℃である。一方、上記予熱温度の上限としては、例えば200℃である。
【0045】
繊維束が接触する上記開繊ローラ及びガイドバーの合計数の下限としては、3が好ましく、4がより好ましい。一方、上記開繊ローラ及びガイドバーの合計数の上限としては、8が好ましく、6がより好ましい。上記開繊ローラ及びガイドバーの合計数が上記下限より小さい場合、繊維束の開繊が不十分となり、複数の繊維2が当該テープ状プリプレグ1の幅方向中央に偏ることで分散度及び配向度が低下するおそれがある。逆に、上記開繊ローラ及びガイドバーの合計数が上記上限を超える場合、繊維束が過度に開繊し、成形時に複数の繊維2が当該テープ状プリプレグ1の幅方向両端に偏ることで分散度及び配向度が低下するおそれがある。また、繊維束に付加される張力が増加することによる繊維束の破断のおそれがある。
【0046】
繊維束に付加される張力の下限としては、例えば250gである。一方、繊維束に付加される張力の上限としては、例えば350gである。繊維束に付加される張力が上記下限より小さい場合、当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の分散度及び配向度が低下するおそれがある。逆に、繊維束に付加される張力が上記上限を超える場合、繊維束の破断等のおそれがある。
【0047】
繊維束に付加される張力は、略一定に保たれることが好ましい。繊維束に付加される張力を略一定に保つ方法としては、例えばダンサーロールにより繊維束に付与する張力を調整する方法等が挙げられる。繊維束に付加される張力を略一定に保つことで、当該テープ状プリプレグ1の分散度及び配向度を高めることができる。
【0048】
繊維束の走行速度の下限としては、例えば2.5m/分である。一方、繊維束の走行速度の上限としては、例えば5.0m/分である。繊維束の走行速度が上記下限より小さい場合、当該テープ状プリプレグ1の生産性低下のおそれがある。逆に、繊維束の走行速度が上記上限を超える場合、当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の分散度及び配向度が低下するおそれがある。
【0049】
(含浸工程)
本工程は、溶融したバインダー3を複数の繊維2に含浸させる。複数の繊維2としては、例えば繊維束を開繊したもの等が挙げられる。複数の繊維2に溶融したバインダー3を含浸させる方法としては、例えばモータによる巻き取り等により、張力を付加しつつ複数の繊維2を走行させ、溶融したバインダー3の貯留容器内を通過させる方法などが挙げられる。これにより、複数の繊維2の間には溶融したバインダー3が含浸される。本工程は、開繊工程と同時に行うとよい。すなわち、溶融したバインダー3の貯留容器内に上記開繊ローラ及びガイドバーを配設し、繊維束を開繊させつつ溶融したバインダー3を含浸させるとよい。
【0050】
溶融したバインダー3の貯留容器内の温度の下限としては、例えば200℃である。一方、溶融したバインダー3の貯留容器内の温度の上限としては、例えば300℃である。
【0051】
溶融したバインダー3のMFR(メルトフローレート)の下限としては、25g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましい。一方、溶融したバインダー3のMFRの上限としては、150g/10分が好ましく、120g/10分がより好ましい。溶融したバインダー3のMFRが上記下限より小さい場合、後述するノズル通過工程が困難となるおそれがある。一方、溶融したバインダー3のMFRが上記上限を超える場合、後述するノズル通過工程でバインダー3の成形が困難となるおそれがある。ここで「溶融したバインダー3のMFR」は、JIS−K7210−1:2014「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方−第1部:標準的試験方法」に準拠して測定した値をいう。
【0052】
(ノズル通過工程)
本工程は、バインダー3を含浸させた複数の繊維2をノズルに通過させる。バインダー3を含浸させた複数の繊維2をノズルに通過させる方法としては、モータによる巻き取り等により、バインダー3を含浸させた複数の繊維2を張力を付加しつつ走行させ、ノズルに通過させる方法などが挙げられる。上記走行速度及び付加される張力は、通常開繊工程と同様である。複数の繊維2と、この複数の繊維2に含浸するバインダー3とは、本工程でテープ状に成形される。上記ノズルの温度の下限としては、例えば200℃である。一方、上記ノズルの温度の上限としては、例えば300℃である。
【0053】
上記ノズルは、開口が矩形スリットであるとよい。上記矩形スリットの長手方向の平均長さは、上述の当該テープ状プリプレグ1の平均幅と略同一とすることができる。また、上記矩形スリットの短手方向の平均長さは、上述の当該テープ状プリプレグ1の平均厚さと略同一とすることができる。上記矩形スリットの長手方向及び短手方向の平均長さの調整により、当該テープ状プリプレグ1の平均幅及び平均厚さを調整できる。
【0054】
(冷却工程)
本工程は、ノズルを通過した複数の繊維2を冷却する。本工程は、開繊された複数の繊維2が凝集する前にバインダー3を急冷して固化させることを目的とする。本工程により、当該テープ状プリプレグ1が完成する。ノズルを通過した複数の繊維2を冷却する方法としては、例えば表面を冷却した冷却ローラと、モータによる巻き取り等により、張力が付加されつつ走行する、ノズルを通過させた複数の繊維2とを接触させる方法などが挙げられる。上記走行速度及び付加される張力は、通常開繊工程と同様である。上記冷却ローラの表面を冷却する方法としては、例えば冷却水を供給する方法等が挙げられる。
【0055】
本工程は、当該テープ状プリプレグ1の反り等を防止する観点から、2つの冷却ローラを用い、一方の冷却ローラはノズルを通過した繊維束の表面に接触させ、他方の冷却ローラはノズルを通過した繊維束の裏面に接触させることが好ましい。また、本工程は、3以上の冷却ローラを用いてもよい。なお、本工程は、水冷又は空冷により、上記冷却ローラの下流でノズルを通過した繊維束をさらに冷却してもよい。
【0056】
上記冷却ローラの表面温度の下限としては、例えば15℃である。一方、上記冷却ローラの表面温度の上限としては、例えば30℃である。
【0057】
バインダー3が含浸した複数の繊維2は、ノズルを通過した直後は表面が比較的滑らかであるが、時間の経過と伴に溶融したバインダー3の流動等により徐々に表面が粗くなる。そのため、ノズルを通過した複数の繊維2が冷却ローラに接触するまでの時間、冷却ローラの表面温度、冷却ローラの数及びノズルを通過した複数の繊維2と冷却ローラとの接触面積の調整により、当該テープ状プリプレグ1の算術平均表面粗さ(Ra)を所望の範囲に調整できる。
【0058】
上述のノズルを通過した複数の繊維2が冷却ローラに接触するまでの時間は、ノズルの先端と、バインダー3が含浸した複数の繊維が冷却ローラに接触する位置との間の距離(以下、「ノズルの先端と冷却ローラとの間の距離」ともいう)で調整できる。上記距離の下限としては、5mmが好ましく、8mmがより好ましい。一方、上記距離の上限としては、20mmが好ましく、12mmがより好ましい。上記距離が上記下限未満である場合、又は上記上限を超える場合、当該テープ状プリプレグ1の算術平均表面粗さ(Ra)を所望の範囲に調整することが困難となるおそれがある。
【0059】
[利点]
当該テープ状プリプレグ1は、平均厚さが適度に薄く、複数の繊維2の含有率が適度に多く、かつ複数の繊維2の分散度及び配向度が適度に高いことで、加工性並びに繊維強化成形体の機械的特性及び品質の均一性の全てがバランスよく優れる。
【0060】
<第2実施形態>
[繊維強化成形体]
当該繊維強化成形体は、当該テープ状プリプレグ1を複合化したものである。当該繊維強化成形体の形状は、特に限定されないが、例えば板状、筒状等が挙げられる。板状の当該繊維強化成形体は、例えば自動車、航空機等の外装などに好適に用いることができる。また、筒状の当該繊維強化成形体は、例えばゴルフシャフト、釣竿等のスポーツ用品、タンク、配管等の構造体の補強材などに好適に用いることができる。
【0061】
[板状の繊維強化成形体の製造方法]
板状の当該繊維強化成形体の製造方法としては、例えば当該テープ状プリプレグ1を所望のサイズに切断する工程(切断工程)と、切断した当該テープ状プリプレグ1同士の積層により積層体を形成する工程(積層体形成工程)と、上記積層体を加熱加圧する工程(加熱加圧工程)とを備える方法(積層プレス法)等が挙げられる。
【0062】
(切断工程)
本工程は、当該テープ状プリプレグ1を所望のサイズに切断する。当該テープ状プリプレグ1を所望のサイズに切断する方法としては、例えばカッター、鋏等を用い、複数の繊維2の配向方向と垂直方向及び/又は平行方向に切断する方法などが挙げられる。
【0063】
(積層体形成工程)
本工程は、切断した当該テープ状プリプレグ1同士の積層により積層体を形成する。この積層体を形成する方法としては、例えば切断した当該テープ状プリプレグ1を基材の上側に順次積層する方法等が挙げられる。上記積層体の層数の下限としては、例えば4である。一方、上記積層体の層数の上限としては、例えば100である。なお、上記積層体は、少なくとも一部の層が当該テープ状プリプレグ1以外の他の層であってもよい。上記他の層としては、例えば金属、樹脂等を主成分とする層などが挙げられる。
【0064】
本工程では、当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の配向方向が擬似等方となるように積層するとよい。すなわち、ある層の複数の繊維2の配向方向を0°としたとき、このある層に隣接して積層される層の複数の繊維2の配向方向が180°/m(mは全層数)ずつ傾くように積層するとよい。このように、当該テープ状プリプレグ1の複数の繊維2の配向方向が擬似等方となるように積層することで、当該繊維強化成形体における複数の繊維2の配向方向に擬似等方性を付与でき、あらゆる方向からの負荷に対する強度を向上できる。
【0065】
(加熱加圧工程)
本工程は、上記積層体を加熱加圧する。上記積層体を加熱加圧する方法としては、特に限定されず、例えばプレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等の従来公知の方法などが挙げられる。上記加熱温度としては、例えば150℃以上250℃以下である。また、上記加圧圧力としては、例えば3MPa以上8MPa以下である。上記加熱加圧の時間としては、例えば1分以上15分以下である。
【0066】
[筒状の繊維強化成形体の製造方法]
筒状の当該繊維強化成形体の製造方法としては、例えば当該テープ状プリプレグ1を支持体に巻回する工程(巻回工程)と、巻回した当該テープ状プリプレグ1を加熱加圧する工程(加熱加圧工程)とを備える方法(フィラメントワインディング法)等が挙げられる。上記加熱加圧工程は、板状の当該繊維強化成形体の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
(巻回工程)
本工程は、当該テープ状プリプレグ1を支持体に巻回する。当該テープ状プリプレグ1の支持体への巻回方法としては、例えばらせん巻き、パラレル巻き等が挙げられる。上記支持体としては、特に限定されず、例えば金属、樹脂等を主成分とする円柱状又は筒状の支持体などが挙げられる。
【0068】
筒状の当該繊維強化成形体の製造方法は、加熱加圧工程後、上記支持体から当該繊維強化成形体を分離させてもよい。また、上記支持体がタンク、配管等の構造体である場合、上記支持体から当該繊維強化成形体を分離させず、上記構造体の内圧に対する強度を向上する補強材として用いてもよい。
【0069】
<利点>
当該繊維強化成形体は、当該テープ状プリプレグ1の複合化により製造されるため、機械的特性及び品質の均一性に優れる。
【0070】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0071】
当該テープ状プリプレグは、一方の面に接着剤層等の他の層が積層されていてもよい。また、複数の繊維の主成分が炭素繊維、金属繊維等の導電性を有する繊維である場合、当該テープ状プリプレグは、複数の繊維の配向方向には導電性を有するが、それ以外の方向には導電性を有さないため、異方性導電層の形成に用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
まず、本実施例で使用した複数の繊維(繊維束)とバインダーに用いる樹脂とを以下に示す。
炭素繊維(CF):東レ社のトレカ糸「T−700SC」(12K)
ガラス繊維(GF):日東紡社のダイレクトロービング「RS240 QR483」(2,400tex)
ポリプロピレン(PP):プライムポリマー社の「プライムポリプロ」(MFR=30)と繊維/樹脂界面接着剤として三洋化成社の無水マレイン酸変性ポリプロピレン「ユーメックス1010」とを重量比95:5でドライブレンドしたもの
【0074】
<テープ状プリプレグの製造>
以下の条件で引抜き法を行い、使用する繊維束の種類及び数、ノズルの矩形スリットの寸法(短手方向)、並びにノズルの先端と冷却ローラとの間の距離を調整することにより、表1に示す実施例1〜5及び比較例1〜4のテープ状プリプレグを製造した。
ノズルの矩形スリットの寸法:長手方向15mm、短手方向60μm以上180μm以下
繊維余熱温度/樹脂含浸槽温度/ノズル温度:180℃/250℃/250℃
冷却ローラ温度:20℃
テープ状プリプレグ引取速度(繊維束の走行速度):3.5m/分
ノズルの先端と冷却ローラとの間の距離:実施例10mm、比較例40mm
【0075】
<テープ状プリプレグの特性の測定方法>
[算術平均粗さ(Ra)]
テープ状プリプレグの算術平均粗さ(Ra)は、JIS−B0651:2001に準拠し、評価長さを2.5mm、カットオフ値を0.8mmとして算出した。なお、実施例1の測定データを
図5Aに、比較例1の測定データを
図5Bにそれぞれ示す。
【0076】
[分散度(フラクタル次元D)]
テープ状プリプレグのフラクタル次元Dは、本発明の実施形態で説明した方法によって測定した。実施例1及び比較例2のテープ状プリプレグを複数の繊維の配向方向と垂直方向に切断し、顕微鏡により撮影した断面画像を
図6A及び
図6Bにそれぞれ示す。この断面画像の正方形領域(75μm四方)からフラクタル次元Dを求めた。
【0077】
[配向度P]
テープ状プリプレグの配向度Pは、以下の方法で測定した。すなわち、まず当該テープ状プリプレグ1の面方向と直交する方向から、テープ状プリプレグの複数の繊維の配向方向の断面画像を撮影した。次に、この断面画像を密度の低い部分が白色、密度の高い部分が黒色となるように画像処理で二値化処理した。その後、上記断面画像の正方形領域(75μm四方)に対するフーリエ変換により二次元パワースペクトル画像を得た。このパワースペクトル画像より平均振幅の角度分布図を得てその近似楕円を描き、その近似楕円の長径及び短径を測定し、以下の式(1)により配向度Pを算出した。
配向度P=1−(近似楕円の短径/長径)・・・・(1)
【0078】
[テープ状プリプレグの外観]
実施例1及び比較例1のテープ状プリプレグの平面写真を
図7A及び
図7Bに示す。実施例1のテープ状プリプレグは、フラクタル次元Dが0.4以上1.5以下であり、かつ配向度Pが0.8以上1.0未満であるため、外観が均一であった。一方、比較例1のテープ状プリプレグは、フラクタル次元Dが上記範囲外であるため、表面にスジが確認された。
【0079】
<評価>
[曲げ試験]
各テープ状プリプレグを所定の長さに切断し、表1に示す枚数を積層し、キャビティの平均幅が15mmの金型に装填した。この金型をホットプレス上で無圧にて220℃に加熱し、10分保持することで樹脂を溶融させた。樹脂溶融後、テープ状プリプレグに押圧治具を載せ、この押圧治具を介して220℃、5MPa、2分間加圧した状態を保持した。その後、金型を常温まで冷却し、表1に示す平均厚さの繊維強化樹脂成形体を得た。この繊維強化樹脂成形体を試験片としてJIS−K7074:1988年「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して3点曲げ試験を行い、各試験片の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。3点曲げ試験の条件を以下に示す。
試験片寸法:長さ100mm、幅15mm
温度:常温
圧子半径:5mm
支点半径:2mm
支点間距離:80mm
試験速度:1.0mm/min
【0080】
3点曲げ試験は、各試験片あたり5点ずつ行い、その平均値及び標準偏差を算出した。曲げ強度[MPa]及び曲げ弾性率[GPa]は、その数値が大きいほど機械的特性に優れることを示し、またその標準偏差が小さいほど品質の均一性に優れることを示す。曲げ強度は、平均値が330MPa以上であり、かつ標準偏差が20.0以下である場合を「A(良好)」、それ以外の場合を「B(良好ではない)」と判断される。また、曲げ弾性率[GPa]は、平均値が25MPa以上であり、かつ標準偏差が4.0以下である場合を「A(良好)」、それ以外の場合を「B(良好ではない)」と判断される。評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1から明らかなように、フラクタル次元Dが0.4以上1.5以下であり、かつ配向度Pが0.8以上1.0未満である実施例1〜5のテープ状プリプレグにより作製した試験片は、曲げ強度及び曲げ弾性率が良好であった。一方、フラクタル次元D及び配向度Pのいずれかが上記範囲外である比較例1〜4のテープ状プリプレグにより作製した試験片は、曲げ強度及び曲げ弾性率のいずれかが良好ではなかった。このことから、当該テープ状プリプレグは、フラクタル次元D及び配向度Pを上記範囲とすることで、機械的特性及び品質の均一性に優れる繊維強化成形体を形成できると判断される。また、当該テープ状プリプレグは、平均厚さが50μm以上150μm以下であるため、加工性にも優れると判断される。
【0083】
また、実施例のテープ状プリプレグは、算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下であるため、積層プレスやフィラメントワインディングの際に層間から空気が抜け易くなるため、加工性に優れると判断される。また、繊維強化成形体の気泡の発生を抑制できるため、機械的特性及び品質均質性により優れると判断される。