特許第6535236号(P6535236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535236
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】可逆熱変色性マイクロカプセル顔料
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/08 20060101AFI20190617BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   C09B67/08 A
   C09K9/02 C
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-129618(P2015-129618)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-14328(P2017-14328A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 敏博
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−231138(JP,A)
【文献】 特開2007−118197(JP,A)
【文献】 特開2008−280523(JP,A)
【文献】 特開2012−229294(JP,A)
【文献】 特開2001−105732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/08
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物として下記一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)による電子授受反応を可逆的に生起させる反応媒体として鎖式炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類から選ばれる化合物と、(ニ)軟化点が5℃以上、且つ、重量平均分子量が200乃至10万のスチレン系化合物と、(ホ)下記一般式(2)又は(3)から選ばれる化合物とからなる消色状態からの加熱により発色状態となる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料。
【化1】
(式中、Rは炭素数10〜22の直鎖又は側鎖アルキル基を示し、X、Y、Zは1つ又は2つが水酸基であり、残りは水素である)
【化2】
【化3】
(式中、R、Rはそれぞれ水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物のアルキル基が、炭素数10乃至20の直鎖アルキル基である請求項1記載の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料。
【請求項3】
前記(ロ)電子受容性化合物として一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物と、下記一般式(4)で示されるヒドロキシフェニル酢酸エステル化合物を用いてなる請求項1又は2記載の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料。
【化4】
(式中、Rは炭素数10〜20の直鎖又は側鎖アルキル基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可逆熱変色性マイクロカプセル顔料に関する。更に詳細には、消色状態からの加熱により発色する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)による電子授受反応を可逆的に生起させる反応媒体からなる可逆熱変色性組成物のうち、(ロ)成分としてヒドロキシ安息香酸エステルを用いることによって、消色状態からの加熱により発色状態を示し、降温により消色状態に復帰する変色挙動を示す可逆熱変色性組成物及びそれを内包したマイクロカプセル顔料が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
前記可逆熱変色性組成物は、加熱により発色状態を示すものの、発色する温度が高く、日常生活温度や日常生活温度近傍の温度で容易に発色させることは困難であった。また、日常生活温度や日常生活温度近傍の温度で発色させる可逆熱変色性組成物が得られたとしても、発色状態における色濃度が低く、実用性を満足させていなかった。
そこで、(イ)、(ロ)、(ハ)成分と共に(ニ)成分として特定のスチレン系化合物を添加することにより、生活環境温度域や日常生活温度近傍の温度で容易に消色状態からの加熱により発色状態を呈し、再び消色状態に復帰する変色挙動を呈すると共に、発色時の色濃度が高い可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−105732号公報
【特許文献2】特開2013−231138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、この種の可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料について鋭意検討した結果、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)成分と共に(ホ)成分として特定の化合物を添加することによって、生活環境温度域や日常生活温度近傍の温度で容易に消色状態からの加熱により発色状態を呈し、再び消色状態に復帰する変色挙動を呈すると共に、消色時の色消えを向上させた可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物として下記一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)による電子授受反応を可逆的に生起させる反応媒体として鎖式炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類から選ばれる化合物と、(ニ)軟化点が5℃以上、且つ、重量平均分子量が200乃至10万のスチレン系化合物と、(ホ)下記一般式(2)又は(3)から選ばれる化合物とからなる消色状態からの加熱により発色状態となる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を要件とする。
【化1】
(式中、Rは炭素数10〜22の直鎖又は側鎖アルキル基を示し、X、Y、Zは1つ又は2つが水酸基であり、残りは水素である)
【化2】
【化3】
(式中、R、Rはそれぞれ水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基を示す。)
更には、前記一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物のアルキル基が、炭素数10乃至20の直鎖アルキル基であること、前記(ロ)電子受容性化合物として一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル化合物と、下記一般式(4)で示されるヒドロキシフェニル酢酸エステル化合物を用いてなること等を要件とする。
【化4】
(式中、Rは炭素数10〜20の直鎖又は側鎖アルキル基を示す)
【発明の効果】
【0006】
本発明は、生活環境温度域や日常生活温度近傍の温度で容易に消色状態からの加熱により発色状態を呈し、再び消色状態に復帰する可逆的変色挙動を呈すると共に、消色時の色消えを向上させた、教習要素、玩具、装飾等、多様な分野に適用可能な可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
前記(イ)電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類等が挙げられる。
以下にこれらの化合物を例示する。
3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、
3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、
3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、
3,6−ジフェニルアミノフルオラン、
3,6−ジメトキシフルオラン、
3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、
2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−(2−クロロアミノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、
2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メトキシ−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メトキシ−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、
2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、
スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン、
2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン、
3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジメチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン、
3′,6′−ビス〔フェニル(2−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3′,6′−ビス〔フェニル(3−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3′,6′−ビス〔フェニル(3−エチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
4−[2,6−ビス(2−エトキシフェニル)−4−ピリジニル]−N,N−ジメチルベンゼンアミン、
2−(4′−ジメチルアミノフェニル)−4−メトキシ−キナゾリン、
4,4′−(エチレンジオキシ)−ビス〔2−(4−ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕等を挙げることができる。
なお、フルオラン類としては、キサンテン環を形成するフェニル基に置換基を有する前記化合物の他、キサンテン環を形成するフェニル基に置換基を有すると共にラクトン環を形成するフェニル基にも置換基(例えば、メチル基等のアルキル基、クロロ基等のハロゲン原子)を有する青色や黒色を呈する化合物であってもよい。
【0008】
前記(ロ)電子受容性化合物としては、一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステルが用いられる。
前記ヒドロキシ安息香酸エステルのアルキル基は、炭素数が10〜22の直鎖又は側鎖アルキル基である。炭素数が10未満或いは22を越えるアルキル基を有する系では結晶性が低いため実用性を満足させない。変色特性、発色濃度等、より実用性能を考慮した場合、該化合物のアルキル基は、炭素数12〜20の直鎖アルキル基であることが更に好ましい。
以下にヒドロキシ安息香酸エステルを例示する。
3−ヒドロキシ安息香酸デシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ウンデシルエステル、
3−ヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸トリデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸テトラデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ペンタデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸オクタデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ノナデシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸エイコシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシルエステル、3−ヒドロキシ安息香酸ドコシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸デシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ウンデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸トリデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸テトラデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ペンタデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸オクタデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ノナデシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸エイコシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸ドコシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸デシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ウンデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸トリデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸テトラデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ペンタデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ヘプタデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸オクタデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ノナデシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸エイコシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシルエステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ドコシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸デシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ウンデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸テトラデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ペンタデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ヘプタデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸オクタデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ノナデシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸エイコシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシルエステル、3,5−ジヒドロキシ安息香酸ドコシルエステル。
また、前記一般式(1)で示されるヒドロキシ安息香酸エステルと、一般式(4)で示されるヒドロキシフェニル酢酸エステル化合物を併用することもできる。
前記ヒドロキシフェニル酢酸エステル化合物のアルキル基は、炭素数が10〜20の直鎖又は側鎖アルキル基である。炭素数が10未満或いは20を越えるアルキル基を有する系では結晶性が低いため実用性を満足させない。また、変色特性や発色濃度に優れる等、実用性能を考慮すると炭素数12〜20の直鎖アルキル基であることが好ましい。
前記ヒドロキシフェニル酢酸エステル化合物としては、4−ヒドロキシフェニル酢酸デシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ウンデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ドデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸トリデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸テトラデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ペンタデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ヘキサデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ヘプタデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸オクタデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ノナデシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸エイコシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ヘンエイコシル、4−ヒドロキシフェニル酢酸ドコシルが挙げられる。
【0009】
(ハ)前記(イ)、(ロ)による電子授受反応を可逆的に生起させる反応媒体としては、鎖式炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類から選ばれる化合物が用いられる。
前記化合物を用いることにより、(イ)成分と(ロ)成分の反応による発色性に対する減感性が小さく、加熱発色の変色挙動と色濃度の向上に効果的に機能する。
なお、前記(ロ)成分のヒドロキシ安息香酸エステルはアルキル基の炭素数が大きい程、結晶性が高い傾向にあり、(ハ)成分の添加により結晶性の高いヒドロキシ安息香酸エステルを低温領域の変色温度で使用可能となる。
前記炭化水素類としては、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンエイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン等の飽和炭化水素類、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ヘンエイコセン、1−ドコセン、1−トリコセン、1−テトラコセン、1−ペンタコセン、1−ヘキサコセン、1−ヘプタコセン、1−オクタコセン、1−ノナコセン、1−トリアコンテン等の不飽和鎖式炭化水素類を例示できる。
脂環式炭化水素類としては、シクロオクタン、シクロドデカン、n−ペンタデシルシクロヘキサン、n−オクタデシルシクロヘキサン、n−ノナデシルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等を例示できる。
芳香族炭化水素類としては、ドデシルベンゼン、ビフェニル、エチルビフェニル、4−ベンジルベンゼン、フェニルトリルメタン、ジフェニルエタン、1,3−ジフェニルベンゼン、ジベンジルトルエン、メチルナフタレン、2,7−ジイソプロピルナフタレン、メチルテトラリン、ナフチルフェニルメタン等を例示できる。
ハロゲン化炭化水素類としては、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−クロロテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘキサデカン、1−クロロヘキサデカン、1−ヨードヘキサデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモオクタデカン、1−クロロオクタデカン、1−ヨードオクタデカン、1−ブロモエイコサン、1−クロロエイコサン、1−ブロモドコサン、1−クロロドコサン等を例示できる。
【0010】
前記(ニ)軟化点が5℃以上、且つ、重量平均分子量が200乃至10万のスチレン系化合物を以下に例示する。
前記スチレン系化合物は重量平均分子量が200乃至6000ものが好適に用いられる。
なお、重量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法)により測定する。
前記スチレン系化合物としては、低分子量ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン系共重合体、α−メチルスチレン重合体、α−メチルスチレンとビニルトルエンの共重合体等が挙げられる。
低分子量ポリスチレンとしては、三洋化成工業(株)製、商品名:ハイマーSB−75(重量平均分子量2000)、ハイマーST−95(重量平均分子量4000)等が用いられる。
スチレン−α−メチルスチレン系共重合体としては、理化ハーキュレス(株)製、商品名:ピコラスチックA5(重量平均分子量317)、ピコラスチックA75(重量平均分子量917)等が用いられる。
α−メチルスチレン重合体としては、理化ハーキュレス(株)製、商品名:クリスタレックス3085(重量平均分子量664)、クリスタレックス3100(重量平均分子量1020)、クリスタレックス1120(重量平均分子量2420)等が用いられる。
α−メチルスチレンとビニルトルエンの共重合体としては、理化ハーキュレス(株)製、商品名:ピコテックスLC(重量平均分子量950)、ピコテックス100(重量平均分子量1740)等が用いられる。
前記スチレン系化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0011】
前記(ホ)成分として一般式(2)又は(3)から選ばれる化合物を添加することにより、消色時の色消えを向上させることができる。
前記一般式(3)で示される化合物としては、下記構造の化合物が挙げられる。
【化5】
【0012】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1〜50、好ましくは0.5〜20、(ハ)成分1〜200、好ましくは5〜100、(ニ)成分0.1〜10.0、好ましくは0.5〜5.0、(ホ)成分0.1〜5.0、好ましくは0.5〜2.0の範囲である(前記割合はいずれも重量部である)。
【0013】
前記可逆熱変色性組成物はマイクロカプセルに内包して使用される。それは、酸性物質、塩基性物質、過酸化物等の化学的に活性な物質又は他の溶剤成分と接触しても、その機能を低下させることがないことは勿論、耐熱安定性が保持できるためであり、種々の使用条件において可逆熱変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
なお、マイクロカプセル化は、公知の界面重合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径0.1〜100μm、好ましくは3〜30μmの範囲が実用性を満たす。
なお、粒子径の測定はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製;LA−300〕を用いて測定し、その数値を基に平均粒子径(メジアン径)を体積基準で算出する。
【0014】
前記各(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)成分は各々二種以上の化合物の混合であってもよく、更には機能に支障のない範囲で光安定剤を添加することができる。
前記光安定剤としては、(イ)成分の光反応による励起状態によって生ずる光劣化を防止する紫外線吸収剤、可視光線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、カロチン類、色素類、アミン類、フェノール類、ニッケル錯体類、スルフィド類等の一重項酸素消光剤、オキシドジスムスターゼとコバルト、及びニッケルの錯体等のスーパーオキシドアニオン消光剤、オゾン消光剤等、酸化反応を抑制する化合物が挙げられ、0.3〜24重量%、好ましくは0.8〜16重量%の割合で系中に配合される。なかでも、前記紫外線吸収剤と、酸化防止剤及び/又は一重項酸素消光剤を併用した系にあっては、耐光性の向上に特に効果的である。
又、老化防止剤、帯電防止剤、極性付与剤、揺変性付与剤、消泡剤等を必要に応じて添加して機能を向上させることもできる。
更には、非熱変色性の一般染料や顔料を配合することもできる。
【0015】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)成分よりなる可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の変色特性を説明する。
消色状態を呈する可逆熱変色性組成物は、加熱過程において発色開始温度(T)の温度より発色し始め、完全発色温度(T)に達すると完全発色状態となり、降温する過程で消色誘発温度迄冷却した可逆熱変色性組成物は放置すると消色する。
【0016】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、膜形成材料であるバインダーを含む媒体中に分散されて、インキ、塗料などの可逆熱変色性材料として適用され、従来より公知の方法、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装、等の手段により、紙、合成紙、布帛、植毛或いは起毛布、不織布、合成皮革、レザー、プラスチック、ガラス、陶磁器、木材、石材等の支持体上に可逆熱変色層を形成したり、或いは支持体中に分散することができる。
更には、溶融状態の熱可塑性プラスチック中に混練して一体化された材料として適用できる。
【実施例】
【0017】
本発明の可逆熱変色性組成物に用いられる組成を以下の表に示す。
なお、表中の( )内の数字は質量部を示し、以下の配合量を示す数字はいずれも質量部である。
【0018】
【表1】
【0019】
表中の(ニ)成分について、ピコラスチックA−75は、低分子量ポリスチレン樹脂、軟化点75℃であり、ピコラスチックD−125は、低分子量ポリスチレン樹脂、軟化点125℃である。
表中の(ホ)成分について、化合物Aは一般式(2)で示される化合物であり、化合物1、5、7、9は表に示される一般式(3)で示される化合物である。
【0020】
各可逆熱変色性組成物を加温溶融して相溶体とした後、エポキシ樹脂及びアミン硬化剤による界面重合反応によりエポキシ樹脂皮膜で内包されたマイクロカプセル形態の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料について、以下の測定試料を作成した後、以下の測定方法により変色温度を測定した。
【0021】
測定試料
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料40部をエチレン−酢酸ビニルエマルジョン中に分散してなる可逆熱変色性インキを用いて、スクリーン印刷により上質紙に印刷した印刷物を測定試料とした。
【0022】
測定方法
実施例1乃至8の測定試料を色差計〔TC−3600型色差計、(株)東京電色製〕の所定箇所にセットし、0℃から60℃の温度幅で速度10℃/分にて加熱する。
60℃迄加熱した後、消色誘発温度(−10℃)迄冷却し、放置して消色させた
実施例9及び10の測定試料を色差計〔TC−3600型色差計、(株)東京電色製〕の所定箇所にセットし、0℃から60℃の温度幅で速度10℃/分にて加熱する。
60℃迄加熱した後、消色誘発温度(5℃)迄冷却し、放置して消色させた。
各実施例の色変化、発色開始温度(T)、完全発色温度(T)、消色誘発温度、消色誘発温度迄冷却して消色するのに要した時間を以下の表に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
応用例1
実施例1で作製した可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料30.0部、蛍光顔料(ピンク色)2.0部、アクリル樹脂エマルジョン50.0部、消泡剤3.0部、ターペンエマルジョン15.0部からなる可逆熱変色性スクリーンインキを調製した。
ポリエステルタフタに前記可逆熱変色性スクリーンインキを用いてスクリーン印刷により印刷し、可逆熱変色層を形成して可逆熱変色性シートを得た。
前記可逆熱変色性シートは43℃以上に加温すると紫色を呈する。
前記可逆熱変色性シートを0℃の冷凍庫に30分以上冷却する。その後冷凍庫から取り出すと前記可逆熱変色性シートはピンク色を呈する。
【0025】
応用例2
実施例10で作製した可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料50.0部を、アマニ油系オフセットインキビヒクル50.0部中に均一に分散混合して、可逆熱変色性オフセットインキを調製した。
上質紙に前記オフセットインキを用いてオフセット印刷を行ない、可逆熱変色層を形成して可逆熱変色性シートを得た。
前記シートは54℃以上に加温すると桃色を呈する。
前記可逆熱変色性シートを5℃の冷蔵庫で30分以上冷却する。その後冷蔵庫から取り出して放置すると前記可逆熱変色性シートは無色を呈する。
【0026】
応用例3
実施例7で作製した可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料10.0部、一般顔料(青色)1.0部、50%アクリル樹脂/キシレン溶液45.0部、キシレン15.0部、メチルイソブチルケトン23.0部、ポリイソシアネート系硬化剤6.0部からなるビヒクル中に攪拌混合して可逆熱変色性スプレー塗料を調製した。
ミニチュア電車全体に前記可逆熱変色性スプレー塗料をスプレー塗装して可逆熱変色層を形成して可逆熱変色性ミニチュア電車を得た。
前記可逆熱変色性ミニチュア電車は42℃以上に加温すると紫色を呈する。
前記可逆熱変色性ミニチュア電車を0℃の冷凍庫で30分以上冷却する。その後冷凍庫から取り出して放置すると前記可逆熱変色性ミニチュア電車は青色を呈する。
【0027】
応用例4
実施例9で作製した可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料33.3部、硬質タイプの液状エポキシ樹脂66.4部、消泡剤0.3部を均一に分散練合させて得られた可逆熱変色性エポキシインキ中に常温硬化型の脂肪族ポリアミド20.0部を添加し、攪拌混合して可逆熱変色性エポキシインキを調製した。
陶磁器製カップ表面に前記可逆熱変色性エポキシインキを用いてステンレススチール製100メッシュスクリーン版にて曲面スクリーン印刷を行ない、70℃で60分間、加熱硬化して可逆熱変色層を形成して可逆熱変色性カップを得た。
前記可逆熱変色性カップは49℃以上に加温すると青色を呈する。
前記可逆熱変色性カップを5℃の冷凍庫で30分以上冷却する。その後冷凍庫から取りて放置すると前記可逆熱変色性カップは無色を呈する。