特許第6535243号(P6535243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535243
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】レール削溝機
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/12 20060101AFI20190617BHJP
【FI】
   E01B31/12
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-142090(P2015-142090)
(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2017-25492(P2017-25492A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】若原 健
(72)【発明者】
【氏名】大橋 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晃範
(72)【発明者】
【氏名】森山 康彦
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−008787(JP,Y1)
【文献】 特開2000−064208(JP,A)
【文献】 特開2015−112697(JP,A)
【文献】 実開平02−120503(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0019205(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のレール上に設置される車台に、レールの頭頂面に支持される走行輪と、レールの左右両側面に係合する案内輪と、レールの頭頂面に溝を切削する溝切り工具と、溝切り工具をレール幅方向の所定位置に保持する保持機構とを設け、前記案内輪が、レールを左右から挟む作用位置と、レールの頭頂面よりも上方に離れた非作用位置とに配置転換可能に設けられていることを特徴とするレール削溝機。
【請求項2】
前記車台が手押しハンドルを備えた請求項1記載のレール削溝機。
【請求項3】
前記走行輪が、車台の前端部に設けられた前側走行輪と、車台の後端部に設けられた後側走行輪とを含み、前記案内輪が、前側走行輪よりも前方に配置された前側案内輪と、後側走行輪よりも後方に配置された後側案内輪とを含む請求項1又は2記載のレール削溝機。
【請求項4】
前記車台に、溝切り工具の切削圧を調節するための切削圧調節機構を設けた請求項1〜の何れか一項に記載のレール削溝機。
【請求項5】
前記切削圧調節機構が、溝切り工具に切込み方向の荷重を印加するおもり部材を含む請求項記載のレール削溝機。
【請求項6】
前記保持機構が、溝切り工具の振動をレール幅方向から抑止する制振部材を含む請求項1〜の何れか一項に記載のレール削溝機。
【請求項7】
前記保持機構が、溝切り工具を固定的に保持するホルダーと、ホルダーを車台に対してレール幅方向へ位置調整するための調整部材とを含む請求項1〜の何れか一項に記載のレール削溝機。
【請求項8】
前記保持機構が、ホルダーを車台に対して上下方向へ傾動可能に支持するヒンジ部材を含む請求項記載のレール削溝機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道レールの頭頂面を切削して軌道回路用の溝を形成するレール削溝機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道レールでは、車両の有無を感知するために、レール頭頂面に形成された軌道回路を常時通電可能な状態に維持することが求められる。しかし、閑散線区などでは、レール頭頂面の錆によって軌道回路が通電不能となる場合がある。この場合、頭頂面をレール長手方向へ連続的に切削して溝を形成し、この溝にステンレス溶接を行って、軌道回路を通電可能な状態に修復する必要がある。
【0003】
この種の削溝作業は、従来、保線作業員による手作業で行われていた。作業員はグラインダーを携帯し、レールに沿って歩行しつつ頭頂面に溝を切削していた。なお、特許文献1には、レールの切損や亀裂の拡大を防止するための溝をレール頭頂面に自動切削する「溝穿設装置」が記載されている。この装置は、2本のレール上を走行可能な車台上に溝切りカッター、レール面研磨機、これらの動力源を装備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−120503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の削溝作業は、手作業で行われていたので、作業員に多大な労力と負担がかかるうえ、作業速度が遅く、溝の加工精度も低いという問題点があった。また、特許文献1の装置をステンレス溶接用の溝加工に転用することも考えられるが、従来装置は2本のレールを跨ぐほどの大型機械であるため、機械の搬入出作業を含めて工事が大掛かりとなり、閑散線区での使用に不向きであった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、1本のレール上で簡便に使用でき、レール頭頂面に溝を迅速かつ高精度に切削できるレール削溝機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次のようなレール削溝機を提供する。
(1) 1本のレール上に設置される車台に、レールの頭頂面に支持される走行輪と、レールの左右両側面に係合する案内輪と、レールの頭頂面に溝を切削する溝切り工具と、溝切り工具をレール幅方向の所定位置に保持する保持機構とを設けたことを特徴とするレール削溝機。
【0008】
(2) 車台が手押しハンドルを備えたことを特徴とするレール削溝機。
【0009】
(3) 走行輪が、車台の前部に設けられた前側走行輪と、車台の後部に設けられた後側走行輪とを含み、案内輪が、前側走行輪よりも前方に配置された前側案内輪と、後側走行輪よりも後方に配置された後側案内輪とを含むことを特徴とするレール削溝機。
【0010】
(4) 案内輪が、レールを左右から挟む作用位置と、レールの頭頂面よりも上方に離れた非作用位置とに配置転換可能に設けられていることを特徴とするレール削溝機。
【0011】
(5)車台に、溝切り工具の切削圧を調節するための切削圧調節機構を設けたことを特徴とするレール削溝機。
【0012】
(6) 切削圧調節機構が、溝切り工具の切削刃体に切込み方向の荷重を印加するおもり部材を含むことを特徴とするレール削溝機。
【0013】
(7) 保持機構が、溝切り工具の振動をレール幅方向から抑止する制振部材を含むことを特徴とするレール削溝機。
【0014】
(8) 保持機構が、溝切り工具を固定的に保持するホルダーと、ホルダーを車台に対してレール幅方向へ位置調整するための調整部材とを含むことを特徴とするレール削溝機。
【0015】
(9) 保持機構が、ホルダーを車台に対して上下方向へ傾動可能に支持するヒンジ部材を含むことを特徴とするレール削溝機。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレール削溝機によれば、走行輪に加えて左右一対の案内輪が車台に設けられているので、この車台を1本のレール上で安定的に移動することができる。このため、削溝機全体を小型・軽量化し、これを少数の作業員で現場に容易に搬入・搬出することができる。また、保持機構によって溝切り工具がレール幅方向の所定位置に保持されているので、車台の移動に伴ってレール頭頂面に溝を精度よく自動切削でき、もって、作業員の労力と負担を軽減でき、作業時間を大幅に短縮できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示すレール削溝機の全体斜視図である。
図2図1の右側から見たレール削溝機の立面図である。
図3図2のIII−III線から見たレール削溝機の立面図である。
図4】溝切り工具の保持機構を示す削溝機の部分平面図である。
図5】保持機構の動作を示す削溝機の部分立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態のレール削溝機は、鉄道レールの頭頂面にステンレス溶接用の溝を切削するように構成されている。ただし、本発明のレール削溝機は、ステンレス溶接用の溝切りに限定されず、例えば、黄銅ロウ溶接用の溝切り、亀裂や切損の拡大を防止するための溝切りなどに使用することもできる。
【0019】
図1図2に示すように、このレール削溝機11は1本のレール1の上に設置される車台12を備えている。車台12の進行方向(図1の矢印方向)前端部には前側走行輪13が設けられ、車台12の後端部に後側走行輪14と手押しハンドル15とが設けられている。前後の走行輪13,14はレール1の頭頂面2に支持され(図2参照)、作業員が手押しハンドル15を押して車台12を1本のレール1に沿って前方へ移動できるようになっている。
【0020】
前側走行輪13の車軸16には補助枠17が上下に傾動可能に支持され、補助枠17に左右一対の前側案内輪18がレール1の幅に相当する所定の間隔をあけて下向きに取り付けられている。左右の前側案内輪18は、前側走行輪13よりも前方に配置され、補助枠17の傾動に伴って、レール1を左右から挟む作用位置と、レール頭頂面2よりも上方に離れた非作用位置(図3の鎖線位置)とに配置転換可能となっている。
【0021】
後側走行輪14の車軸19には補助枠20が上下に傾動可能に支持され、補助枠20に左右一対の後側案内輪21が所定の間隔をあけて取り付けられている。そして、後側案内輪21は、後側走行輪14よりも後方に配置され、前側案内輪18と同様に、補助枠20の傾動に伴って作用位置(図3の破線位置)と非作用位置(図3の鎖線位置)に配置転換される。なお、図2において、3はレール1を支持する枕木である。
【0022】
図1図3に示すように、車台12の上には、レール頭頂面2に溝を切削する電動溝切り工具23と、電動溝切り工具23をレール幅方向の所定位置に保持する保持機構24と、電動溝切り工具23の切削圧を調節するための切削圧調節機構25と、電動溝切り工具23に電力を供給する発電機26とが設置されている。発電機26に替え、電力を商用電源から給電ケーブルを介して電動溝切り工具23に供給することも可能である。
【0023】
電動溝切り工具23は、ボディ27の一端に切削刃体としてのディスク28を装備し、ボディ27に内蔵されたモータ(図示略)によりディスク28を回転して、レール頭頂面2に溝4(図4参照)を連続的に切削できるように構成されている。保持機構24は、電動溝切り工具23を固定的に保持するホルダー29と、ホルダー29を車台12に対して上下方向へ傾動可能に支持するヒンジ部材30とを備えている。
【0024】
ヒンジ部材30は垂直調整部材31を介して水平調整部材32に取り付けられ、水平調整部材32が長穴33を貫通するボルト34によりホルダー29と共に車台12に対してレール幅方向へ位置調整可能に取り付けられている。一方、垂直調整部材31は、図5に示すように、長穴35を貫通するボルト36によりホルダー29と共に車台12に対して上下方向へ位置調整可能に取り付けられている。
【0025】
図3図4に示すように、電動溝切り工具23の側方において、車台12にはブラケット39が基端にて固定されている。ブラケット39の先端には、制振部材としてのローラ38が水平軸線周りで回転可能に支持されている。制振ローラ38と対向するようにホルダー29には当接板40が立設され、制振ローラ38が当接板40に接触した状態で、切削時における電動溝切り工具23の振動をレール幅方向から抑止するようになっている。
【0026】
図1図5に示すように、切削圧調節機構25は、電動溝切り工具23のディスク28に切込み方向の荷重を印加するおもり部材42と、おもり部材42を着脱可能に支持するネジ付きロッド43を備えている。ネジ付きロッド43の下端はジョイント44を介してディスク28近傍の工具ボディ27に結合され、ネジ付きロッド43の上部におもり部材42を支承する支承部45が設けられている。
【0027】
ネジ付きロッド43の中間部は、車台12の上方に架設された水平杆46に挿通され、水平杆46よりも上位のロッド43に、ディスク28の下限位置を調節可能に設定するための蝶ネジ47が螺合されている。そして、切削時には、蝶ネジ47を水平杆46の上方に配置し(図3参照)、おもり部材42の個数または総質量に応じた大きさの荷重によりディスク28をレール頭頂面2に押し付けるようになっている。
【0028】
次に、鉄道レール1の頭頂面2に溝4を切削する方法について説明する。まず、上記のように構成されたレール削溝機1を作業現場に搬入する。このとき、図3に鎖線で示すように、予め前後の案内輪18,21と電動溝切り工具23をそれぞれレール頭頂面2よりも上方の非作用位置に配置しておく。こうすれば、案内輪18,21やディスク28に妨げられることなく、車台12をレール1上に容易に設置することができる。
【0029】
続いて、図3に実線で示すように、案内輪18,21をレール1の左右両側に配置するとともに、ディスク28をレール頭頂面2の上に降下させる。そして、この状態で作業員は電動溝切り工具23を起動し、ディスク28を回転させ、手押しハンドル15を押し、車台12をレール12上で前進させ、図4に示すように、ディスク28によってレール頭頂面2に溝4を連続的に切削する。
【0030】
この切削時には、ホルダー29がディスク28をレール幅方向の所定位置に保持するとともに、制振ローラ38が電動溝切り工具23の水平振動を抑止するので、レール頭頂面2に溝4を高精度に加工することができる。また、おもり部材42による切削圧を加減することで、溝4の切込み深さを容易に調節することができるうえ、図4に鎖線で示すように、水平調整部材32の位置調整によって溝4の切削位置をレール幅方向に調整することもできる。
【0031】
図5に示すように、溝切り作業に伴いディスク28が摩耗した場合は、ディスク28の径方向寸法の変化に追従してホルダー29が下方へ傾動するので、ディスク28を常時最適な切削圧でレール頭頂面2に切り込ませることができる。また、ホルダー29が傾動したときには、制振ローラ38が当接板40と接触を保って回転するので、ディスク28の摩耗に関わりなく制振機能を継続的に発揮することができる。
【0032】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、車台12の上に走行輪13,14を駆動するモータを設置したり、レール頭頂面2の錆を落とす研磨機を搭載したりするなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の形状や構成を適宜変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 レール
2 頭頂面
4 溝
11 レール削溝機
12 車台
13 前側走行輪
14 後側走行輪
15 手押しハンドル
18 前側案内輪
21 後側案内輪
23 電動溝切り工具
24 保持機構
25 切削圧調節機構
28 ディスク
29 ホルダー
30 ヒンジ部材
32 水平調整部材
38 制振ローラ
42 おもり部材
図1
図2
図3
図4
図5