(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
帰還クロック信号に同期してデジタルの正弦波である基準クロック信号の瞬時値を取り込み、取り込んだ前記瞬時値に基づいて前記基準クロック信号及び前記帰還クロック信号の位相差を検出する位相差検出部と、
前記位相差に応じた制御電圧を生成する制御電圧生成部と、
前記制御電圧に応じた周波数の出力クロック信号を生成する電圧制御発振器と、
前記出力クロック信号を分周して前記帰還クロック信号を生成する分周器と、
前記位相差が小さくなるほど大きな増幅率で前記位相差検出部に供給する前記基準クロック信号を増幅させる制御部と、
を備えたPLL回路。
前記制御部は、前記位相差が前記第1所定値よりも小さい第2所定値以下の場合、前記位相差が前記第2所定値よりも大きく前記第1所定値以下の場合よりも大きな増幅率で前記基準クロック信号を増幅させる、
請求項2に記載のPLL回路。
前記制御部は、前記位相差が第1所定値以下の場合、前記位相差が前記第1所定値より大きい場合よりも、大きな増幅率で前記基準クロック信号を増幅させるとともに、前記チャージポンプから出力される前記所定電流を小さくする、
請求項4に記載のPLL回路。
前記制御部は、前記位相差が前記第1所定値よりも小さい第2所定値以下の場合、前記位相差が前記第2所定値よりも大きく前記第1所定値以下の場合よりも、大きな増幅率で前記基準クロック信号を増幅させるとともに、前記チャージポンプから出力される前記所定電流を小さくする、
請求項5に記載のPLL回路。
帰還クロック信号に同期してデジタルの正弦波である基準クロック信号の瞬時値を取り込み、取り込んだ前記瞬時値に基づいて前記基準クロック信号及び前記帰還クロック信号の位相差を検出し、
前記位相差に応じた制御電圧を生成し、
前記制御電圧に応じた周波数の出力クロック信号を生成し、
前記出力クロック信号を分周して前記帰還クロック信号を生成し、
前記位相差が小さくなるほど大きな増幅率で前記基準クロック信号を増幅させる、
PLL回路の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として実施の形態の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0014】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(動作ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0015】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1にかかる電子制御システムSYS1の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、電子制御システムSYS1は、例えば自動車に搭載され、角速度センサS1と、加速度センサS2と、電子制御ユニットE1と、を備える。また、電子制御ユニットE1は、センサ用LSI(半導体装置)1と、マイクロコンピュータ(演算処理装置、以下、単にマイコンと称す)2と、を備える。
【0016】
角速度センサS1は、共振素子により構成され、自動車の角速度を検知するセンサである。加速度センサS2は、自動車の加速度を検知するセンサである。電子制御ユニットE1は、角速度センサS1及び加速度センサS2のそれぞれの検知結果に基づいて所定の演算処理を施すユニットである。
【0017】
例えば、電子制御ユニットE1は、角速度センサS1の検知結果により自動車の角速度(回転速度)が速すぎると判断した場合、自動車の横滑りを防ぐためのブレーキ制御やエンジン制御を自動で行う。また、電子制御ユニットE1は、加速度センサS2の検知結果により自動車の加速度が急激に低下した場合(即ち、障害物に衝突した可能性がある場合)、エアバックの作動を自動で制御する。
【0018】
(電子制御ユニットE1の詳細)
電子制御ユニットE1について
図2を用いてさらに詳細に説明する。
図2は、電子制御ユニットE1に設けられたセンサ用LSI1の角速度センサ制御についての具体的な構成例を示すブロック図である。なお、
図2には、角速度センサS1も示されている。
【0019】
図2に示すように、センサ用LSI1は、PLL回路10と、増幅器11と、ADコンバータ12と、デジタルフィルタ13と、ゲイン調整回路14と、DAコンバータ15と、駆動回路16と、クロック生成器18と、増幅器19と、検波回路20と、ADコンバータ21と、デジタルフィルタ22と、補正部23と、を備える。
【0020】
角速度センサS1は、共振素子により構成されているため、所定の周波数の共振信号と、角速度が検知された場合には共振信号を感度信号で変調した信号(被変調信号)と、を出力する。
【0021】
センサ用LSI1において、増幅器11は、角速度センサS1からの共振信号を増幅する。ADコンバータ12は、増幅器11により増幅された共振信号をAD変換して出力する。デジタルフィルタ13は、ADコンバータ12の出力信号に含まれるノイズ成分を除去する。デジタルフィルタ13の出力は、デジタルの正弦波であって、基準クロック信号RCLKとして用いられる。
【0022】
ゲイン調整回路14は、基準クロック信号RCLKの振幅に応じて出力信号のゲインを調整する。例えば、ゲイン調整回路14は、基準クロック信号RCLKの振幅が大きい場合には出力信号のゲインを低くし、基準クロック信号RCLKの振幅が小さい場合には出力信号のゲインを高くする。それにより、ゲイン調整回路14の出力信号の振幅値が安定する。DAコンバータ15は、ゲイン調整回路14の出力信号をDA変換して出力する。駆動回路16は、DAコンバータ15の出力信号に基づいて角速度センサS1を駆動する。
【0023】
上記の回路により構成される帰還回路により、基準クロック信号RCLKの周波数は、角速度センサS1を構成する共振素子の共振周波数に収束する。
【0024】
基準クロック信号RCLKは、PLL回路10の入力端子INに供給される。PLL回路10は、基準クロック信号RCLKを逓倍した出力クロック信号VCLKを生成し、出力端子OUTから出力する。PLL回路10の詳細については後述する。
【0025】
クロック生成器18は、出力クロック信号VCLKに基づいて所定の周波数のクロック信号CLK1を生成する。本例では、クロック生成器18は、出力クロック信号VCLKに基づいて、基準クロック信号RCLKに直交するクロック信号CLK1を生成している。
【0026】
増幅器19は、角速度センサS1からの被変調信号を増幅する。検波回路20は、増幅器19により増幅された被変調信号と、基準クロック信号RCLKに直交するクロック信号CLK1と、を掛け合わせることにより、被変調信号から感度信号成分(角速度成分)を検波して出力する。
【0027】
検波回路20から出力された感度信号成分は、ADコンバータ21によりAD変換され、デジタルフィルタ22によりノイズ成分が除去され、さらに、補正部23により温度補正や0点補正等が行われた後、マイコン2に入力される。マイコン2は、センサ用LSI1により取得された角速度の情報及び加速度の情報(加速度の検波方法については省略)に基づいて、所定の演算処理を実行する。
【0028】
具体的には、例えば、マイコン2は、角速度センサS1の検知結果により自動車の角速度(回転速度)が速すぎると判断した場合には、自動車の横滑りを防ぐためのブレーキ制御やエンジン制御を自動で行う。また、マイコン2は、加速度センサS2の検知結果により自動車の加速度が急激に低下した場合(即ち、障害物に衝突した可能性がある場合)には、エアバックの作動を自動で制御する。
【0029】
ここで、感度信号成分を精度よく検波するため、PLL回路10には、基準クロック信号RCLK及び出力クロック信号VCLK間の位相のずれをできるだけ小さくすることが求められている。換言すると、PLL回路10には、出力クロック信号VCLKの位相を精度よく調整することが求められている。基準クロック信号RCLK及び出力クロック信号VCLK間の位相のずれを小さくすることにより、検波回路20による感度信号成分の検波精度を向上させることができるため、例えば、自動車の横滑りを防ぐためのエンジン制御や、エアバックの作動の制御を、精度よく行うことが可能となる。
【0030】
(発明者による事前検討)
上述した自動車等に搭載された電子制御ユニットE1内のPLL回路10の詳細について説明する前に、本発明者が事前検討したPLL回路50について
図7及び
図8を用いて説明する。
【0031】
図7は、実施の形態に至る前の構想に係るPLL回路50の構成例を示すブロック図である。また、
図8は、実施の形態に至る前の構想に係るPLL回路50の動作を示すタイミングチャートである。
【0032】
PLL回路50は、デジタル位相比較器(位相差検出部)502と、パルス生成器503と、チャージポンプ(CP)504と、ループフィルタ(LPF)505と、電圧制御発振器(VCO)506と、分周器(DIV)507と、を備える。
【0033】
デジタル位相比較器502は、外部から入力端子INに供給された基準クロック信号RCLKと、帰還クロック信号FCLKと、のそれぞれの位相を比較し、比較結果を位相差情報DPとして出力する。
【0034】
より具体的には、デジタル位相比較器502は、帰還クロック信号FCLKの立ち上がりに同期してデジタルの正弦波である基準クロック信号RCLKの瞬時値を取り込む。そして、デジタル位相比較器502は、取り込んだ基準クロック信号RCLKの瞬時値に基づいて、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号RCLKの位相からどの程度ずれているか(即ち、位相差)を検出する。この検出結果は、位相差情報DPとして出力される。
【0035】
なお、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号RCLKの位相より遅れている場合(
図8の時刻t51、t53、t55、t57、t59)、瞬時値は正の値を示す。そのため、位相差情報DPは正の値を示す。他方、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号RCLKの位相より進んでいる場合(
図8の時刻t52、t54、t56、t58)、瞬時値は負の値を示す。そのため、位相差情報DPは負の値を示す。
【0036】
パルス生成器503は、位相差情報DPに応じたパルス幅のパルス信号UP,DNを出力する。例えば、パルス生成器503は、取り込んだ基準クロック信号RCLKの瞬時値が正の値を示す場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号UPを出力する(
図8の時刻t51、t53、t55、t57、t59)。また、パルス生成器503は、取り込んだ基準クロック信号RCLKの瞬時値が負の値を示す場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号DNを出力する(
図8の時刻t52、t54、t56、t58)。
【0037】
なお、パルス生成器503は、出力クロック信号VCLKの立ち上がり及び立ち下がりに同期してパルス信号UP,DNの立ち上がり及び立ち下がりを制御している。そのため、パルス信号UP,DNのパルス幅は、出力クロック信号VCLKの半周期単位で制御される。
【0038】
チャージポンプ504は、パルス信号UP,DNのそれぞれのパルス幅に相当する期間、電流Icpを生成する。
【0039】
より具体的には、パルス信号UPのパルス幅に相当する期間、チャージポンプ504からループフィルタ505に向けて電流Icpを流すことにより、ループフィルタ505に電荷を蓄積する。また、パルス信号DNのパルス幅に相当する期間、ループフィルタ505からチャージポンプ504に向けて電流Icpを流すことにより、ループフィルタ505に蓄積された電荷を引き抜く。
【0040】
ループフィルタ505は、チャージポンプ504により生成された電流Icpに基づき発生した電圧の高周波成分を除去して、制御電圧VCを生成する。
【0041】
電圧制御発振器506は、制御電圧VCに応じた周波数の出力クロック信号VCLKを生成する。例えば、電圧制御発振器506は、制御電圧VCが大きいほど周波数の大きい出力クロック信号VCLKを生成し、制御電圧VCが小さいほど周波数の小さな出力クロック信号VCLKを生成する。出力クロック信号VCLKは、出力端子OUTを介して外部に出力される。
【0042】
分周器507は、出力クロック信号VCLKを分周して帰還クロック信号FCLKとして出力する。
【0043】
PLL回路50では、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号RCLKの位相より遅れている場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号UPが生成される。それにより、制御電圧VCが上昇するため、出力クロック信号VCLKの周波数は上昇する。他方、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号RCLKの位相より進んでいる場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号DNが生成される。それにより、制御電圧VCが低下するため、出力クロック信号VCLKの周波数は低下する。このような動作が繰り返されることで、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は0に近づく。
【0044】
例えば、基準クロック信号RCLKの周波数が40KHz(周期が25us)、分周器507の分周比が2048の場合、出力クロック信号VCLKの周波数は81.92MHz(周期が12.2ns)となる。ここで、上述したように、パルス信号UP,DNのパルス幅は、出力クロック信号VCLKの半周期単位(6.1ns単位)で制御される。したがって、帰還クロック信号FCLKの位相は、0.088deg(=360deg×6.1ns/25us)の分解能で調整可能である。
【0045】
しかしながら、PLL回路50の構成でも、出力クロック信号VCLKの位相調整精度が依然として低いという問題があった。出力クロック信号VCLKの位相調整精度が低いと、基準クロック信号RCLK及び出力クロック信号VCLK間の位相のずれが大きくなるため、センサ用LSI1において検波回路20による感度信号成分の検波精度が低下してしまう。その結果、例えば、自動車の横滑りを防ぐためのエンジン制御や、エアバックの作動の制御を、精度よく行うことができなくなってしまう。
【0046】
なお、出力クロック信号VCLKの周波数を大きくし、パルス信号UP,DNのパルス幅の調整単位を小さくすることで、出力クロック信号VCLKの位相調整精度を向上させることはできる。しかしながら、この場合、消費電力が増大したり、高逓倍によりジッタノイズが発生したりしてしまう。また、演算精度の高いデジタル位相比較器502を用いることで、出力クロック信号VCLKの位相調整精度を向上させることはできる。しかしながら、この場合、回路規模が増大したり、消費電力が増大したりしてしまう。
【0047】
そこで、出力クロック信号VCLKの周波数を大きくしたり、演算精度の高いデジタル位相比較器を用いたりすることなく、出力クロック信号VCLKの位相を精度よく調整することができるように、本実施の形態に係るPLL回路10が見出された。
【0048】
(本実施の形態に係るPLL回路10)
図3は、PLL回路10の構成例を示すブロック図である。また、
図4は、PLL回路10の動作を示すタイミングチャートである。
【0049】
PLL回路10は、制御部101と、デジタル位相比較器(位相差検出部)102と、パルス生成器(パルス信号生成部)103と、チャージポンプ(CP)104と、ループフィルタ(LPF)105と、電圧制御発振器(VCO)106と、分周器(DIV)107と、を備える。なお、パルス生成器103、チャージポンプ104及びループフィルタ105により、制御電圧生成部108が構成される。
【0050】
制御部101は、外部から入力端子INに供給されたデジタルの正弦波である基準クロック信号RCLKを、位相差情報DPに応じた増幅率で増幅させて、基準クロック信号CRCLKとして出力する。例えば、制御部101は、位相差情報DPが所定値以下の場合に、位相差情報DPが所定値を超える場合よりも大きな増幅率で基準クロック信号RCLKを増幅させる。ここで、基準クロック信号RCLKを増幅させるとは、基準クロック信号RCLKのデジタル正弦波の振幅を増幅させるように、基準クロック信号RCLKのデジタル値を変換することである。
【0051】
本実施の形態では、制御部101が増幅率を1倍又は4倍に切り替え可能である場合を例に説明する。例えば、初期状態では、増幅率は1倍に設定されている。つまり、初期状態では、制御部101は、基準クロック信号RCLKをそのまま基準クロック信号CRCLKとして出力している。制御部101の詳細については後述する。
【0052】
デジタル位相比較器102は、基準クロック信号CRCLKと帰還クロック信号FCLKとのそれぞれの位相を比較し、比較結果を位相差情報DPとして出力する。
【0053】
より具体的には、デジタル位相比較器102は、帰還クロック信号FCLKの立ち上がりに同期してデジタルの正弦波である基準クロック信号CRCLKの瞬時値を取り込む。そして、デジタル位相比較器102は、取り込んだ基準クロック信号CRCLKの瞬時値に基づいて、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号CRCLKの位相からどの程度ずれているか(即ち、位相差)を検出する。この検出結果は、位相差情報DPとして出力される。
【0054】
なお、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号CRCLKの位相より遅れている場合(
図4の時刻t1、t3、t5、t7、t9)、瞬時値は正の値を示す。そのため、位相差情報DPは正の値を示す。他方、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号CRCLKの位相より進んでいる場合(
図4の時刻t2、t4、t6、t8)、瞬時値は負の値を示す。そのため、位相差情報DPは負の値を示す。
【0055】
パルス生成器103は、位相差情報DPに応じたパルス幅のパルス信号UP,DNを出力する。例えば、パルス生成器103は、取り込んだ基準クロック信号CRCLKの瞬時値が正の値を示す場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号UPを出力する(
図4の時刻t1、t3、t5、t7、t9)。また、パルス生成器103は、取り込んだ基準クロック信号CRCLKの瞬時値が負の値を示す場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号DNを出力する(
図4の時刻t2、t4、t6、t8)。
【0056】
なお、パルス生成器103は、出力クロック信号VCLKの立ち上がり及び立ち下がりに同期してパルス信号UP,DNの立ち上がり及び立ち下がりを制御している。そのため、パルス信号UP,DNのパルス幅は、出力クロック信号VCLKの半周期単位で制御される。
【0057】
したがって、例えば、位相差情報DPが“+3”を示す場合(
図4の時刻t1)、パルス生成器103は、出力クロック信号VCLKの半周期の3倍のパルス幅のパルス信号UPを出力する。また、位相差情報DPが“−2”を示す場合(
図4の時刻t2)、パルス生成器103は、出力クロック信号VCLKの半周期の2倍のパルス幅のパルス信号DNを出力する。
【0058】
チャージポンプ104は、パルス信号UP,DNのそれぞれのパルス幅に相当する期間、電流Icpを出力する。
【0059】
より具体的には、パルス信号UPのパルス幅に相当する期間、チャージポンプ104からループフィルタ105に向けて電流Icpを流すことにより、ループフィルタ105に電荷を蓄積する。また、パルス信号DNのパルス幅に相当する期間、ループフィルタ105からチャージポンプ104に向けて電流Icpを流すことにより、ループフィルタ105に蓄積された電荷を引き抜く。
【0060】
ループフィルタ105は、チャージポンプ104により生成された電流Icpに基づき発生した電圧の高周波成分を除去して、制御電圧VCを生成する。
【0061】
電圧制御発振器106は、制御電圧VCに応じた周波数の出力クロック信号VCLKを生成する。例えば、電圧制御発振器106は、制御電圧VCが大きいほど周波数の大きい出力クロック信号VCLKを生成し、制御電圧VCが小さいほど周波数の小さな出力クロック信号VCLKを生成する。出力クロック信号VCLKは、出力端子OUTを介して外部に出力される。
【0062】
分周器107は、出力クロック信号VCLKを分周して帰還クロック信号FCLKとして出力する。なお、要求仕様によっては、出力クロック信号VCLKに代えて帰還クロック信号FCLKが、出力端子OUTを介して外部に出力される構成であってもよい。
【0063】
PLL回路10では、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号CRCLKの位相より遅れている場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号UPが生成される。それにより、制御電圧VCが上昇するため、出力クロック信号VCLKの周波数は上昇する。他方、帰還クロック信号FCLKの位相が基準クロック信号CRCLKの位相より進んでいる場合、位相差情報DPに比例したパルス幅のパルス信号DNが生成される。それにより、制御電圧VCが低下するため、出力クロック信号VCLKの周波数は低下する。このような動作が繰り返されることで、基準クロック信号CRCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は0に近づく。
【0064】
例えば、基準クロック信号RCLK,CRCLKの周波数が40KHz(周期が25us)、分周器107の分周比が2048の場合、出力クロック信号VCLKの周波数は81.92MHz(周期が12.2ns)となる。ここで、上述したように、パルス信号UP,DNのパルス幅は、出力クロック信号VCLKの半周期単位(6.1ns単位)で制御される。したがって、帰還クロック信号FCLKの位相は、基準クロック信号CRCLKの位相に対して、0.088deg(=360deg×6.1ns/25us)の分解能で調整可能である。換言すると、基準クロック信号CRCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は、0.088degの分解能で調整可能である。
【0065】
ここで、制御部101は、増幅率が1倍のときに位相差情報DPが所定値以下になった場合、増幅率を1倍から4倍に切り替える。それにより、増幅後の基準クロック信号CRCLKの振幅は、増幅前の基準クロック信号RCLKの振幅の4倍になる。即ち、デジタル位相比較器102における基準クロック信号CRCLKの入力感度は、基準クロック信号RCLKが入力された場合の入力感度の4倍になる。その結果、増幅前の基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は、0.022deg(=0.088deg/4)の高い分解能で調整可能になる。換言すると、出力クロック信号VCLKの位相調整精度が4倍になる。
【0066】
さらに、制御部101は、位相差情報DPが所定値以下になることで増幅率を1倍から4倍に切り替えた場合、その切替情報MDをチャージポンプ104及びループフィルタ105に出力する。それにより、チャージポンプ104により生成される電流Icpが制限される。また、電流Icpの制限に伴って変化するノイズ成分が除去されるように、ループフィルタ105の特性も変化する。例えば、制御部101は、増幅率を1倍から4倍に切り替えた場合、電流Icpの値を1/4倍に制限する。それにより、パルス信号UP,DNのパルス幅が4倍に拡大した場合でも、パルスの高さ(即ち電流量)が1/4倍に縮小されるため、ループフィルタ105に蓄積される電荷量、及び、ループフィルタ105から引き抜かれる電荷量の増大を抑制することができる。それにより、制御電圧VCの変動の増大が抑制されるため、出力クロック信号VCLKを安定させることができる。
【0067】
図4の例では、時刻t1〜t5において、増幅率が1倍に設定されている。したがって、デジタル位相比較器102における基準クロック信号CRCLKの入力感度は、基準クロック信号RCLKが入力された場合の入力感度と同じである。そのため、補正前の基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は、0.088degの分解能で調整される。
【0068】
その後、位相差情報DPが所定値以下になると、増幅率は1倍から4倍に切り替わる。
図4の例では、位相差情報DPの絶対値が1以下になると、増幅率が1倍から4倍に切り替わる(時刻t5)。また、このとき、電流Icpの値が1/4倍に制限される。
【0069】
その後、時刻t5〜t9において、増幅率は4倍に設定されている。したがって、増幅後の基準クロック信号CRCLKの振幅は、増幅前の基準クロック信号RCLKの振幅の4倍になる。それにより、デジタル位相比較器102における基準クロック信号CRCLKの入力感度は、基準クロック信号RCLKが入力された場合の入力感度の4倍になる。そのため、増幅前の基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差は、0.022deg(=0.088deg/4)の高い分解能で調整可能になる。また、電流Icpの値が1/4倍に制限されているため、制御電圧VCの変動の増大が抑制される。そのため、出力クロック信号VCLKを安定させることができる。
【0070】
なお、その後、位相差情報DPが所定値(例えば、位相差情報DPの絶対値が4)より大きくなると、増幅率は4倍から1倍に再び切り替わる。それにより、位相調整分解能は低くなるが、位相調整範囲は広くなる。
【0071】
このように、PLL回路10は、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差が所定値以下になった場合、基準クロック信号RCLKを高い増幅率で増幅させてデジタル位相比較器102における入力感度を大きくする。それにより、PLL回路10は、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差を高い分解能で調整することが可能になる。換言すると、PLL回路10は、出力クロック信号VCLKの周波数を大きくしたり、演算精度の高いデジタル位相比較器102を用いたりすることなく、出力クロック信号VCLKの位相を精度よく調整することができる。
【0072】
さらに、PLL回路10は、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差が所定値以下になることにより増幅率を高くした場合、チャージポンプ104により生成される電流Icpを制限する。それにより、PLL回路10は、制御電圧VCの変動の増大を抑制することができるため、出力クロック信号VCLKを安定させることができる。
【0073】
なお、本実施の形態では、制御部101が、基準クロック信号RCLKの増幅率を制御するだけでなく、チャージポンプ104の電流Icpを制御する場合を例に説明したが、これに限られない。制御部101は、少なくとも基準クロック信号RCLKの増幅率を制御することができればよい。
【0074】
また、本実施の形態では、制御部101が増幅率を1倍又は4倍に切り替え可能である場合を例に説明したが、これに限られない。増幅率は任意の倍率に変更可能である。なお、増幅率がN(Nは任意の数値)倍に変更された場合、電流Icpの値は1/N倍に制御できることが好ましい。
【0075】
さらに、本実施の形態では、位相差情報DPの絶対値が1以下になった場合に増幅率を1倍から4倍に切り替え、かつ、位相差情報DPの絶対値が4より大きくなった場合に増幅率を4倍から1倍に切り替える場合を例に説明したが、これに限られない。増幅率切り替えの判断基準となる位相差情報DPの閾値は、任意に設定可能である。
【0076】
(基準クロック信号RCLKの具体的な増幅方法)
続いて、制御部101による基準クロック信号RCLKの具体的な増幅方法の一例について、
図5を用いて説明する。
図5は、基準クロック信号RCLKの具体的な増幅方法の一例を説明するための図である。
【0077】
図5に示すように、基準クロック信号RCLKは、例えば、正弦波を表す16ビット幅のデジタル値により構成されている。なお、第15ビットは符号ビットであって、第14〜第0ビットはデータビットである。
【0078】
図5の例では、第15ビットのデジタル値は“0”を示しており、第14〜第0ビットのデジタル値は“000000000001011”を示している。つまり、基準クロック信号RCLKの値は10進数表記で+11を示している。
【0079】
ここで、位相調整精度は、パルス信号UP,DNのパルス幅の調整精度に律速する。そのため、デジタル位相比較器102に入力される基準クロック信号CRCLKには、16ビットの精度は必要なく、例えば13ビット程度の精度があれば十分である。なお、当然ながら、パルス信号UP,DNのパルス幅の調整精度によって、基準クロック信号CRCLKに求められるビット精度は変わってくる。
【0080】
そこで、増幅率が1倍の場合には、基準クロック信号RCLKの16ビットのうち、第15ビットの符号ビットと、15ビット幅のデータビットのうちの上位12ビット(第14〜第3ビット)とが、帰還クロック信号FCLKとの位相比較に用いられる。即ち、増幅率が1倍の場合には、基準クロック信号RCLK[15]及び[14:3]が、増幅後の基準クロック信号CRCLK[12:0]として用いられる。なお、このとき、基準クロック信号RCLKの下位3ビットは使用されないため、増幅後の基準クロック信号CRCLKの値は10進数表記で+8を示している。
【0081】
次に、増幅率が4倍の場合には、基準クロック信号RCLKの16ビットのうち、第15ビットの符号ビットと、15ビット幅のデータビットのうちの第12〜第1ビットとが、帰還クロック信号FCLKとの位相比較に用いられる。即ち、増幅率が4倍の場合には、基準クロックRCLK[15]及び[12:1]が、増幅後の基準クロック信号CRCLK[12:0]として用いられる。それにより、基準クロック信号RCLKのデジタル正弦波が4倍に増幅され、基準クロック信号CRCLKとして用いられる。なお、このとき、基準クロック信号RCLKの第3及び第2ビットが新たに使用されることもあり、増幅後の基準クロック信号CRCLKの値は10進数表記で+40(=+8×4倍+2×4倍)を示している。
【0082】
このように、増幅率を1倍から4倍に切り替える場合には、増幅後の基準クロック信号CRCLK[11:0]として使用されるデータビットを、基準クロック信号RCLK[14:3]から[12:1]に切り替えるだけで良い。
【0083】
なお、増幅率を1倍から8倍に切り替える場合には、増幅後の基準クロック信号CRCLK[11:0]として使用されるデータビットを、基準クロック信号RCLK[14:3]から[11:0]に切り替えれば良い。つまり、
図5に示す増幅方法の場合、増幅率の倍率Nは、2
M(Mは1以上の整数)となる。
【0084】
<実施の形態2>
実施の形態1では、制御部101が増幅率を1倍又は4倍に切り替え可能であった。それに対し、実施の形態2では、制御部101が増幅率を3つ以上の倍率に切り替え可能である。
【0085】
以下では、制御部101が増幅率を1倍、16倍又は512倍に切り替え可能である場合について説明する。
【0086】
例えば、増幅率が1倍の場合には、基準クロック信号RCLKの16ビットのうち、第15ビットの符号ビットと、15ビット幅のデータビットのうちの第14〜第9ビットとが、帰還クロック信号FCLKとの位相比較に用いられる。即ち、増幅率が1倍の場合には、基準クロックRCLK[15]及び[14:9]が、増幅後の基準クロックCRCLK[6:0]として用いられる。この場合、位相調整精度は低くなり、位相調整範囲は広くなる。
【0087】
次に、増幅率が16倍の場合には、基準クロック信号RCLKの16ビットのうち、第15ビットの符号ビットと、15ビット幅のデータビットのうちの第10〜第5ビットとが、帰還クロック信号FCLKとの位相比較に用いられる。即ち、増幅率が16倍の場合には、基準クロックRCLK[15]及び[10:5]が、増幅後の基準クロックCRCLK[6:0]として用いられる。この場合、位相調整精度は中程度、位相調整範囲は中程度になる。
【0088】
次に、増幅率が512倍の場合には、基準クロック信号RCLKの16ビットのうち、第15ビットの符号ビットと、15ビット幅のデータビットのうちの第6〜第1ビットとが、帰還クロック信号FCLKとの位相比較に用いられる。即ち、増幅率が512倍の場合には、基準クロックRCLK[15]及び[6:1]が、増幅後の基準クロックCRCLK[6:0]として用いられる。この場合、位相調整精度は高くなり、位相調整範囲は狭くなる。
【0089】
このように、増幅率を1倍から16倍、16倍から512倍に段階的に切り替える場合には、増幅後の基準クロック信号CRCLK[5:0]として使用されるデータビットを、基準クロック信号RCLK[14:9]から[10:5]に切り替え、その後、基準クロック信号RCLK[10:5]から[6:1]に切り替えるだけで良い。また、それにより、デジタル位相比較器102の演算ビット数が低減されるため、回路規模の増大や消費電力の増大を抑制することができる。
【0090】
なお、本実施の形態では、制御部101が増幅率を1倍、16倍又は512倍に切り替え可能である場合を例に説明したが、これに限られない。増幅率は任意の倍率に変更可能である。
【0091】
また、本実施の形態では、制御部101が増幅率を3つの倍率に切り替え可能である場合を例に説明したが、これに限られない。制御部101は、増幅率を3つ以上の倍率に切り替え可能な構成に適宜変更可能である。
【0092】
<実施の形態3>
図6は、実施の形態3に係るPLL回路10aの構成を示すブロック図である。PLL回路10aは、PLL回路10と比較して、位相シフタ109をさらに備える。PLL回路10aのその他の構成については、PLL回路10と同様であるため、その説明を省略する。
【0093】
位相シフタ109は、デジタル位相比較器102とパルス生成器103との間に設けられ、デジタル位相比較器102からの位相差情報DPに対して定数Pを加算又は減算する。
【0094】
それにより、PLL回路10aは、帰還クロック信号FCLKの位相を、基準クロック信号CRCLKの位相に対して、定数P相当分(例えば、位相調整分解能×定数P)だけ進めた位相又は遅らせた位相に収束させることが可能となる。これは、基準クロック信号CRCLKの位相を基準にして、帰還クロック信号FCLKの位相を位相調整分解能単位で自由に位相調整可能であることを意味する。なお、増幅率の倍率を大きくすると、位相シフタ109による位相シフトの分解能も高くなる。
【0095】
なお、本実施の形態では、制御部101が、基準クロック信号RCLKの増幅率を制御するだけでなく、チャージポンプ104の電流Icpを制御する場合を例に説明しているが、これに限られない。制御部101は、少なくとも基準クロック信号RCLKの増幅率を制御することができればよい。
【0096】
以上のように、上記実施の形態1〜3にかかるPLL回路10,10aは、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差が所定値以下になった場合、基準クロック信号RCLKを高い増幅率で増幅させてデジタル位相比較器102における入力感度を大きくする。それにより、上記実施の形態1〜3にかかるPLL回路10,10aは、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差を高い分解能で調整することができる。換言すると、上記実施の形態1〜3にかかるPLL回路10は、出力クロック信号VCLKの周波数を大きくしたり、演算精度の高いデジタル位相比較器102を用いたりすることなく、出力クロック信号VCLKの位相を精度よく調整することができる。
【0097】
さらに、上記実施の形態1〜3にかかるPLL回路10,10aは、基準クロック信号RCLK及び帰還クロック信号FCLKの位相差が所定値以下になったことにより増幅率を高くした場合、チャージポンプ104により生成される電流Icpの値を制限する。それにより、上記実施の形態1〜3にかかるPLL回路10,10aは、制御電圧VCの変動の増大を抑制することができるため、出力クロック信号VCLKを安定させることができる。
【0098】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0099】
例えば、上記の実施の形態に係る半導体装置では、半導体基板、半導体層、拡散層(拡散領域)などの導電型(p型もしくはn型)を反転させた構成としてもよい。そのため、n型、及びp型の一方の導電型を第1の導電型とし、他方の導電型を第2の導電型とした場合、第1の導電型をp型、第2の導電型をn型とすることもできるし、反対に第1の導電型をn型、第2の導電型をp型とすることもできる。