(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535263
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】内装用漆黒水系塗材組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20190617BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20190617BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20190617BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/61
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-190104(P2015-190104)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-66196(P2017-66196A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由英
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−030749(JP,A)
【文献】
特開2015−078288(JP,A)
【文献】
米国特許第06204319(US,B1)
【文献】
特表2005−517074(JP,A)
【文献】
特表2005−534735(JP,A)
【文献】
特開2008−285632(JP,A)
【文献】
特開平10−296068(JP,A)
【文献】
特開2017−066195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系エマルジョン(A)と、平均粒径100μm以上の骨材(B)と、平均粒径100μm未満の充填剤(C)と、C13〜C15の分枝及び直鎖アルコールのエチレンオキシド付加物である非イオン性表面活性添加剤12〜14重量部と、カーボンブラック75〜85重量部と、スルホネート、スルフェート、ホスホネートまたはホスフェートをベースとする少なくとも1種のアニオン性表面活性添加剤と、を含有する顆粒状顔料組成物(D)と、酸化チタン(E)と、から成り、顆粒状顔料組成物(D)は組成物全体100重量部中の1.0〜3.0重量部であり、有機質分が6.5〜8.5重量部であることを特徴とする内装用漆黒水系塗材組成物。
【請求項2】
前記骨材(B)は重質炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の内装用漆黒水系塗材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内装仕上材として意匠性を付与する一液型の水性塗材組成物であって、深い黒色と成り、また内装材として不燃性能を有する内装用漆黒水系塗材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築分野で使用する塗材、特に内外壁面に意匠性を付与する用途として施工され、コンクリート、モルタル、ケイカル、合板、プラスターボード下地への密着性、耐久性を付与し、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロルベンゼン、エチルベンゼン、スチレンの揮発性有機化合物を使用しない環境に配慮した塗材組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23194号公報
【0004】
しかしながら該特許文献1に係る塗材組成物は、具体的には、合成樹脂エマルジョン、充填剤、顔料、増粘剤、分散剤、防カビ剤、防藻剤を少なくとも含む水系塗材であって、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンの揮発性有機化合物を含まない有機溶媒を含むことを特徴とする塗材組成物であるが、所定の塗付作業性を維持した上で顔料としてカーボンブラックを配合しても深い黒色とはならないという課題があり、深い黒色を得るためにカーボンブラックを多量に配合すると、塗材の塗付作業性が不十分となる課題がある。
【0005】
また,特許文献1の塗材組成物の樹脂固形分は、明細書段落0026 表1に示される実施例及び比較例においては、13.75重量%であるため有機質分が多く、内装用塗材として要求されることのある不燃性能を有しないという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、所定の塗付作業性を維持した上で、深い黒色となると共に、内装用としての不燃性能を有する内装用漆黒水系塗材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、アクリル樹脂系エマルジョン(A)と、平均粒径100μm以上の骨材(B)と、平均粒径100μm未満の充填剤(C)と、C13〜C15の分枝及び直鎖アルコールのエチレンオキシド付加物である非イオン性表面活性添加剤12〜14重量部と、カーボンブラック75〜85重量部と、スルホネート、スルフェート、ホスホネートまたはホスフェートをベースとする少なくとも1種のアニオン性表面活性添加剤と、を含有する顆粒状顔料組成物(D)と、酸化チタン(E)と、から成り、顆粒状顔料組成物(D)は組成物全体100重量部中の1.0〜3.0重量部であり、有機質分が6.5〜8.5重量部であることを特徴とする内装用漆黒水系塗材組成物を提供する。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、前記骨材(B)は重質炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の内装用漆黒水系塗材組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内装用漆黒水系塗材組成物は、従来の塗材組成物と同様の塗付作業性を維持しながら、深い黒色となる効果がある。
【0010】
また深い黒色を保持しながら、組成物全体としての有機質分を6.5〜8.5重量%とすることができ,結果として内装用仕上塗材として要求される不燃性能を有するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の内装用漆黒水系塗材組成物は、アクリル樹脂系エマルジョン(A)と、平均粒径100μm以上の骨材(B)と、平均粒径100μm未満の充填剤(C)と、C13〜C15の分枝及び直鎖アルコールのエチレンオキシド付加物である非イオン性表面活性添加剤12〜14重量部と、カーボンブラック75〜85重量部と、スルホネート、スルフェート、ホスホネートまたはホスフェートをベースとする少なくとも1種のアニオン性表面活性添加剤と、を含有する顆粒状顔料組成物(D)と、酸化チタン(E)と、から成り、顆粒状顔料組成物(D)は組成物全体100重量部中の1.0〜3.0重量部であり、有機質分が6.5〜8.5重量部であることを特徴とする内装用漆黒水系塗材組成物であり、必要に応じて消泡剤や増粘剤が配合されるが,これらが有する有機質分を加算した本水系塗材組成物の有機質分の総量はあくまで6.5〜8.5重量%である。
【0012】
[アクリル樹脂系エマルジョン(A)]
本発明に使用するアクリル樹脂系エマルジョン(A)は、アクリレートモノマーを含む、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、及びこれらのモノエステルや、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等のスチレン類、酢酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類などの不飽和基含有重合性単量体の重合によって合成され、アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル系樹脂等の水性アクリル樹脂系エマルジョンが使用できる。またそのガラス転移温度は−30〜20℃が好ましい。ガラス転移温度が−30℃未満の場合は仕上がり表面にタックが生じて汚れやすくなり、20℃超の場合は成膜不良となる。市販のガラス転移温度が−30〜20℃のアクリル樹脂系エマルジョンとしては、アクロナールYJ−2810Dap(商品名,固形分48.5重量%,ガラス転移温度−14℃,BASFジャパン株式会社製)がある。アクリル樹脂系エマルジョン(A)の配合量は、内装用漆黒塗材組成物全体に対して、固形分で5.5重量%〜8.5重量%以下であり、5.5重量%未満では骨材(B)及び充填剤(C)のバインド力が不足し、8.5重量%超では不燃性能が不足する。
【0013】
[平均粒径100μm以上の骨材(B)]
本発明に使用する平均粒径100μm以上の骨材(B)は、本内装用漆黒水系塗材組成物の仕上がり表面に凹凸を付与することを目的として配合されるが、平均粒径が100μm以上であればその粒子径は任意に選択することができ、例えば硅砂、ガラス、シリカ、タルク、重質炭酸カルシウムなどが使用可能である。なお本願で言う平均粒径とは重量による積算分率50%の粒子径を言う。市販の平均粒径が200μmの重質炭酸カルシウムとしてはK−250(商品名、旭鉱末(株)製)がある。骨材(B)の配合量は塗材組成物全体に対して40〜65重量%であり40重量%未満では意匠性(塗材の凹凸感)が不足し、65重量%超では作業性が低下する。
【0014】
[平均粒径100μm未満の充填剤(C)]
本発明に使用する平均粒径100μm未満の充填剤(C)は、塗材粘度や塗付性の調整を目的として配合し、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、硅砂粉等が使用できるが、重質炭酸カルシウムが安価でコスト的負担を軽減させることが出来る。充填材(C)の配合量は塗材組成物全体に対して3〜20重量%、好ましくは5〜12重量%であり、3重量%未満では下地の色が透けるなどの隠蔽性が不足し、20重量%超では塗材粘度が高くなって塗付作業性が不良となる。3重量%未満では色調によっては隠蔽性が低下する場合があり、12重量%超では冬季等の低温度下では塗付作業性が低下する傾向にある。
【0015】
[顆粒状顔料組成物(D)]
本発明に使用する顆粒状顔料組成物(D)は、C13〜C15の分枝及び直鎖アルコールのエチレンオキシド付加物である非イオン性表面活性添加剤12〜14重量部と、カーボンブラック75〜85重量部と、スルホネート、スルフェート、ホスホネートまたはホスフェートをベースとする少なくとも1種のアニオン性表面活性添加剤と、を含有して成り、具体的には特許第4800578号に示される顔料調整物である。
【0016】
該顆粒状顔料組成物(D)は、該顆粒状顔料組成物(D)が配合されていない本発明の漆黒水系塗材組成物に、直接固体のまま配合することができ、カーボンブラックの色の濃さ及び隠ぺい力が発現され、また極めてわずかなエネルギーで簡単に分散することが出来る。市販の顆粒状顔料組成物(D)としては、XfastBlack 0066(商品名、BASFジャパン株式会社製)がある。
【0017】
顆粒状顔料組成物(D)の配合量は、本発明の漆黒水系塗材組成物全体の100重量部中1.0〜3.0重量部が配合され、1.0重量部未満では深い黒色と成らず、3.0重量部超では組成物の粘度が上昇して塗付作業性が不十分となる。
【0018】
[酸化チタン(E)]
酸化チタン(E)は内装用漆黒水系塗材組成物の下地隠ぺい力が保持するために顔料として配合する。配合量は内装用漆黒水系塗材組成物全体100重量部に対して0.5〜5.0重量%が好ましく、0.5重量%未満では下地隠ぺい力が不足し、5.0重量%超では塗付作業性が不十分と成る。市販の酸化チタン(E)としては、R−820(商品名、平均粒径D50;0.26μm、石原産業株式会社製)がある。
【0019】
本発明の漆黒水系塗材組成物は骨材を含んでいるが、施工にあたっては、パターンローラー、金鏝、吹き付けガン等を使用して、目的とする意匠となるように適切に施工器具を選択し、その意匠に適した塗付量で仕上げる。配合された水系塗材組成物の適正粘度としては、500〜640Pa・sが好ましい。
【0020】
以下、実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0021】
[実施例及び比較例の調製]
表1の配合に従って、実施例1、実施例2、及び比較例1乃至比較例5の内装用漆黒水系塗材組成物を調製した。表1において、アクリル樹脂系エマルジョン(A)はアクロナールYJ−2810Dapを、平均粒径100μm以上の骨材(B)は重質炭酸カルシウムK−250(商品名、旭鉱末(株)製)を、平均粒径100μm未満の充填材(C)は重質炭酸カルシウムBF−200(商品名、平均粒径10μm、備北粉化工業(株)社製)を、カーボンブラックトナーはAMI 9700(商品名、ガーボンブラック含有量:17重量%、大日精化工業株式会社製)を、顆粒状顔料組成物(D)はXfastBlack 0066を、酸化チタン(E)はR−820を使用し、その他の添加剤には消泡剤と分散剤と増粘剤、防腐剤、防カビ剤と成膜助剤を使用した。実施例1、実施例2、及び比較例1乃至比較例5の内装用漆黒水系塗材組成物の有機質分(重量%)は表2に記載した。
【0022】
【表1】
【0023】
[評価項目及び評価方法]
【0024】
[Lab値]
下地としてJIS A5430規定のフレキシブルボード(70×70mm厚さ8mm)を使用し、シーラーJS−410(商品名、アイカ工業株式会社製、溶剤型塩化ゴム系シーラー)を0.8kg/m
2塗付して23℃にて4時間乾燥させたのち、実施例、比較例の内装用漆黒水系塗材組成物を0.9kg/m
2で金鏝で塗付し、23℃50RH%で12時間乾燥後、さらに同一の内装用漆黒水系塗材組成物を2.0kg/m
2で金鏝で平滑に塗付し、同様に23℃50Rh%にて14日間乾燥させ試験体とする。該試験体の表面のL値、a値、及びb値を色彩色差計 CR−410(商品名、コニカミノルタ社製)にて測定した。L値が26.0以下を漆黒と判断した。
【0025】
[粘度及びT.I値]
実施例及び比較例の内装用漆黒水系塗材組成物について、23℃にてBH型粘度計TVB−10(商品名、東機産業社製)にてNo7ローターを用い2回転/分 時の粘度を測定した。また同様に同ローターで20回転/分 時の粘度を測定し、2回転時の粘度を20回転時の粘度で除して、T.I値とした。粘度は500〜650Pa・sである場合を適正(塗付作業性良好)と判断し、T.I値は4.5〜8.0を適正(垂直面に塗付した際に2mm凹凸を付けてもダレが生じない)と判断した。
【0026】
[不燃性]
不燃材料認定番号NM−8619に該当するせっこうボード(厚さ12.5mm×縦100mm×横100mm)に下塗材として固形分40重量%の水系アクリル樹脂シーラーJS−500(商品名,アイカ工業(株)製)を0.075kg/m
2塗布し,温度23℃湿度50%RHで12時間養生する。乾燥後表1の内装用漆黒水系塗材組成物を1.7kg/m
2塗布して厚さ13.5mmの試験板とする。該試験板についてISO5660 Part1に準拠したコーンカロリーメーターを使用した発熱性試験を行った。試験時間は20分,輻射強度は50kW/m
2,排気流量速度は24L/secとし,20分間の総発熱量(MJ/m
2)を測定し,8MJ/m
2以下を○と評価した。
【0027】
評価結果を表2に記載する。
【0028】
【表2】