(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。
【0015】
図1は本発明の本実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2a付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、自動変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、差動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0016】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ、およびモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eから排出される油によって発生する油圧(以下、「ライン圧」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0017】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0018】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板21a、22aと、この固定円錐板21a、22aに対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板21a、22aとの間にV溝を形成する可動円錐板21b、22bと、この可動円錐板21b、22bの背面に設けられて可動円錐板21b、22bを軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比Ivaが無段階に変化する。
【0019】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更され、変速比Iauが変更される。
【0020】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比Iauが小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0021】
なお、副変速機構30の1速から2速への変更は、準備フェーズ、トルクフェーズ、イナーシャフェーズ、終了フェーズの順に進行する。
【0022】
準備フェーズでは、Highクラッチ33への油圧のプリチャージを行い、Highクラッチ33を締結直前の状態で待機させる。
【0023】
トルクフェーズでは、Lowブレーキ32への供給油圧を低下させるとともにHighクラッチ33への供給油圧を上昇させ、トルクの伝達を受け持つ摩擦締結要素をLowブレーキ32からHighクラッチ33へと移行させる。
【0024】
イナーシャフェーズでは、変速比が変速前変速段である1速の変速比から変速後変速段である2速の変速比まで変化する。
【0025】
終了フェーズでは、Lowブレーキ32への供給油圧をゼロとしてLowブレーキ32を完全解放させるとともにHighクラッチ33への供給油圧を上昇させてHighクラッチ33を完全締結させる。
【0026】
コントローラ12は、エンジン1、および変速機4を統合的に制御するコントローラであり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0027】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(プライマリプーリ21の回転速度)を検出する回転速度センサ42の出力信号、変速機4の出力回転速度(セカンダリプーリ22の回転速度)を検出する回転速度センサ48の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、油温Toを検出する油温センサ46の出力信号、エンジン1のクランクシャフトの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ47の出力信号等が入力される。
【0028】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0029】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出された油から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比Iva、副変速機構30の変速比Iauが変更され、変速機4の変速が行われる。
【0030】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(例えば、車速VSP、プライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、アクセル開度APOなど)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0031】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比Ivaに副変速機構30の変速比Iauを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ith」という。)に対応する。この変速マップには、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0032】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比Ivaを最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比Ivaを最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比Ivaを最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比Ivaを最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0033】
副変速機構30の各変速段の変速比Iauは、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ithの範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ithの範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0034】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速段が切り換えられるモード切換変速線が設定されている。モード切換変速線は、油温Toに応じて第1モード切換変速線、または第2モード切換変速線に設定される。具体的には、油温Toが第1所定油温Tp1よりも低い場合には第2モード切換変速線がモード切換変速線として設定され、油温Toが第1所定油温Tp1以上である場合には第1モード切換変速線がモード切換変速線として設定される。
【0035】
第1モード切換変速線は、低速モード最High線上に重なるように設定されている。第1モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比Ivaが小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30の変速段を変更する際の変速ショックを抑えられるからである。
【0036】
第2モード切換変速線は、第1モード切換変速線よりもLow側のB領域に設定されている。第2モード切換変速線は、油温Toが第1所定油温(所定油温)Tp1よりも低い低油温状態において、後述する協調変速を行う場合に、締結側の摩擦締結要素のクラッチ容量よりもバリエータ20のベルト容量が大きくなるように設定されている。具体的には、第2モード切換変速線は、低油温状態で協調変速を行う場合にクラッチ容量よりもベルト容量が大きくなるバリエータ20の変速比Ivaの中で、低速モード最High線(第1モード切換変速線)側に設定される。なお、望ましくは、第2モード切換変速線は、クラッチ容量よりもベルト容量が大きくなるバリエータ20の変速比Ivaの中で、最も低速モード最High線側に設定される。低油温状態で協調変速を行う場合のクラッチ容量は、予め実験などによって求めることができ、その値に応じて第2モード切換変速線を設定することができる。第2モード切換変速線を低速モード最High線側に設けることで、副変速機構30の変速段を変更する際の変速ショックを抑えられることができる。
【0037】
第1所定油温Tp1は、予め設定されており、第1所定油温Tp1よりも低くなると油の粘性が高くなり、副変速機構30における変速段の変更時に油膜切れが悪くなる油温であり、例えば0℃である。第1所定油温Tp1は、油の特性などに応じて設定される。低油温状態で副変速機構30の変速段を変更する場合には、油温が高い場合と比較して、油圧応答性が悪く、意図したタイミングでイナーシャフェーズが開始されない。そのため、イナーシャフェーズを開始すべくフィードバック制御により締結側の摩擦締結要素の指示油圧が高くなり、イナーシャフェーズにおける締結側の摩擦締結要素のクラッチ容量が大きくなる。なお、指示油圧を高くすることにより、副変速機構30の摩擦締結要素の締結完了タイミングが遅くなることは抑制される。
【0038】
バリエータ20では、セカンダリプーリ圧によってベルト滑りが発生しない挟持力を発生させており、バリエータ20のベルト容量は、セカンダリプーリ圧によって決まる。そのため、バリエータ20のベルト容量は、セカンダリプーリ圧が高くなると大きくなる。また、セカンダリプーリ圧は、バリエータ20の変速比IvaがLow側の場合に高くなり、Low側では上限圧である強度限界油圧に設定されている。つまり、バリエータ20の変速比IvaがLow側になると、バリエータ20のベルト容量は大きくなる。従って、或るクラッチ容量に対して、バリエータ20の変速比Ivaを制御することで、クラッチ容量とベルト容量との大小関係を変更することができる。
【0039】
目標スルー変速比Itthがモード切換変速線を跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切り換えを行う。
【0040】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比Ivaを副変速機構30の変速比Iauが変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比Iauが実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比Ivaが変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比Ivaを副変速機構30の変速比Iauが変化する方向とは逆の方向に変化させるのは、実際のスルー変速比Ithに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0041】
例えば、変速機4の目標スルー変速比Itthがモード切換変速線をLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比IvaをLow側に変更する。
【0042】
ところで、油温Toが第1所定油温Tp1よりも低い低油温状態である場合に協調変速を行い、例えば副変速機構30の1−2変速を行うと、油の粘度が高く、意図したタイミングでイナーシャフェーズが開始されないため、イナーシャフェーズを開始すべく、フィードバック制御により、Highクラッチ33への指示油圧が高くなる。これにより、イナーシャフェーズにおいて、油温Toが第1所定油温Tp1以上の場合と比較してHighクラッチ33の実油圧が高くなり、Highクラッチ33のクラッチ容量が大きくなる。
【0043】
クラッチ容量が大きくなると、副変速機構30からバリエータ20に入力するトルクが増加し、クラッチ容量がバリエータ20のベルト容量よりも大きくなると、バリエータ20でベルト滑りが発生するおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態では、以下に説明する変速制御を行い、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制している。
【0045】
次に、本実施形態の変速制御について
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0046】
ステップS100では、コントローラ12は、油温センサ46からの信号に基づいて、油温Toが第2所定油温Tp2よりも低いかどうか判定する。油温Toが第2所定油温Tp2よりも低い場合には、極低油温状態であると判定され、処理はステップS101に進む。一方、油温Toが第2所定油温Tp2以上の場合には、極低油温状態ではないと判定され、今回の処理は終了する。第2所定油温Tp2は、予め設定されており、第1所定油温Tp1よりも低い油温であり、例えばマイナス20℃である。
【0047】
ステップS101では、コントローラ12は、極低油温制御を実行する。極低油温制御は、副変速機構30の変速段を1速に固定し、バリエータ20の変速比Ivaの最小値を規制変速比Iva_limに規制する制御である。規制変速比Iva_limは、予め設定された固定値である。つまり、バリエータ20では、規制変速比Iva_limよりもHigh側への変速が禁止される。極低油温制御が実行されることで、スルー変速比Ithは、副変速機構30の変速段が1速であり、バリエータ20の変速比Ivaが規制変速比Iva_limとなるスルー規制変速比Itth_limよりもHigh側への変更が禁止される。スルー規制変速比Itth_limは、第2モード切換変速線よりもLow側のB領域に設定される。油温Toが第2所定油温Tp2よりも低い極低油温状態の場合、油圧の応答性が特に悪い。そのため、極低油温状態の場合には、変速機保護の観点から変速可能な範囲を限定し、極低油温制御を実行することで、エンジン回転速度を上昇させて、エンジン1における発熱量を増加させて油温Toの上昇を促進させている。
【0048】
ステップS102では、コントローラ12は、モード切換変速線を第1モード切換変速線から第2モード切換変速線に変更する。なお、モード切換変速線が第2モード切換変速線に設定されている場合には、この処理は省略される。
【0049】
ステップS103では、コントローラ12は、油温センサ46からの信号に基づいて、油温Toが第2所定油温Tp2以上となったかどうか判定する。油温Toが第2所定油温Tp2以上となると、極低油温状態ではなくなったと判定され、処理はステップS103に進む。油温Toが第2所定油温Tp2以上となるまでは、処理はステップS101に戻り、極低油温制御が継続される。
【0050】
ステップS104では、コントローラ12は、極低油温制御を解除する。これにより、副変速機構30における変速段の変更、及びバリエータ20における規制変速比Iva_limよりもHigh側への変速が可能となり、スルー変速比Ithをスルー規制変速比Itth_limよりもHigh側へ変更することが可能となる。
【0051】
ステップS105では、コントローラ12は、バリエータ20のHigh側への変速を油温Toに基づいて制限する変速制限制御を実行する。つまり、ステップS103において極低油温制御が解除されるが、変速制限制御が実行されることで、バリエータ20のHigh側への変速が制限される。変速制限制御では、バリエータ20の変速比Ivaの最小値が油温Toに基づいて制限され、油温Toが高くなるにつれてバリエータ20の変速比Ivaの最小値がHigh側に徐々に変更される。従って、油温Toが高くなるにつれて、バリエータ20をHigh側へ変速可能となる。油温Toが第1所定油温Tp1以上となると、最High変速比までの変速が可能となる。なお、変速制限制御においては、副変速機構30における変速段の変更は制限されない。
【0052】
ステップS106では、コントローラ12は、目標スルー変速比Itthがモード切換変速線をLow側からHigh側に跨いだかどうか判定する。目標スルー変速比Itthがモード切換変速線をLow側からHigh側に跨いだ場合には処理はステップS107に進み、目標スルー変速比Itthがモード切換変速線をLow側からHigh側に跨いでいない場合には処理はステップS110に進む。
【0053】
ステップS107では、コントローラ12は、協調変速を開始する。本実施形態では、低油温状態(第2所定油温Tp2≦油温To<第1所定油温Tp1)で協調変速が行われる。副変速機構30では1−2変速が開始され、バリエータ20では副変速機構30の変速比Iauが変化する方向とは逆の方向の変速、つまりLow側への変速が行われる。ステップS102においてモード切換変速線が第1モード切換変速線よりもLow側となる第2モード切換変速線に設定され、変速制限制御によりバリエータ20のHigh側への変速が制限されているので、通常の協調変速よりもバリエータ20の変速比IvaがLow側となった状態で、協調変速が開始される。
【0054】
ステップS108では、コントローラ12は、イナーシャフェーズが終了したかどうか判定する。コントローラ12は、例えば、準備フェーズを開始してからの時間がイナーシャフェーズを終了する所定時間となると、イナーシャフェーズが終了したと判定する。イナーシャフェーズが終了すると、処理はステップS109に進む。
【0055】
油温Toが第2所定油温Tp2以上となった直後など、油温Toが十分に高くなっておらず、低油温状態の場合には、油温Toが高い場合(第1所定油温Tp1≦油温To)と比較してイナーシャフェーズにおけるHighクラッチ33への指示油圧、及び実油圧が高くなり、クラッチ容量が大きくなる。
【0056】
本実施形態では、第2モード切換変速線をモード切換変速線として設定し、変速制限制御によりバリエータ20のHigh側への変速を制限している。そのため、イナーシャフェーズ中のバリエータ20の変速比Ivaは、油温Toが高い場合と比較してLow側となっており、セカンダリプーリ圧が高く、ベルト容量はクラッチ容量よりも大きい。従って、低油温状態の協調変速時にクラッチ容量がベルト容量よりも大きくならず、バリエータ20でベルト滑りは発生しない。
【0057】
このように、変速制限制御によって制限されるバリエータ20の変速比Ivaは、油温Toが低いほどLow側に制限される変速比であるとともに、協調変速においてバリエータ20に入力されるトルクを伝達可能なベルト容量が得られる変速比である。すなわち、変速制限制御によって制限されるバリエータ20の変速比Ivaを、油温Toが低いほどLow側に制限される変速比(第2変速比)と、協調変速においてバリエータ20に入力されるトルクを伝達可能なベルト容量が得られる変速比(第1変速比)とのうちLow側の変速比以上の変速比に設定することで、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を防止することができる。
【0058】
なお、低油温状態である場合、バリエータ20の変速比Ivaを、バリエータ20に入力されるトルクをベルト滑りを発生させずに伝達するベルト容量が得られる変速比(第1変速比)と、油温が低くなるほどLow側に設定される変速比(第2変速比)とのうちLow側の変速比以上の変速比とするとは、低油温状態である場合、バリエータ20の変速比Ivaをこれら2つの変速比(第1変速比及び第2変速比)のうちLow側の変速比よりHigh側とならない変速比とすることを意味する。
【0059】
なお、バリエータ20にはエンジン1からトルクが入力されており、ベルト容量はエンジン1から入力されるトルク、及び副変速機構30から入力されるトルクに対してベルト滑りが発生しないように設定されている。つまり、本実施形態では、バリエータ20の変速比Ivaは、エンジン1、及び副変速機構30から入力されるトルクに対してベルト滑りが発生しないように設定され、バリエータ20に入力されるトルクが大きくなるほど、Low側となる。エンジン1から入力されるトルクは、例えばアクセル開度APOに基づいて検知される。
【0060】
ステップS109では、コントローラ12は、変速制限制御を解除する。これにより、油温Toに関係なく、バリエータ20の変速比Ivaを最High変速比まで変更することができ、目標スルー変速比Itthを高速モード最High比まで変更することができる。
【0061】
ステップS110では、コントローラ12は、油温センサ46からの信号に基づいて、油温Toが第1所定油温Tp1以上であるかどうか判定する。油温Toが第1所定油温Tp1以上となると、低油温状態ではなくなったと判定され、処理はステップS109に進む。つまり、スルー変速比Ithが第2モード切換変速線をLow側からHigh側に跨ぐ前に油温Toが第1所定油温Tp1以上となると、処理はステップS109に進む。一方、油温Toが第1所定油温Tp1よりも低い場合には、低油温状態であると判定され、処理はステップS106に戻り、上記処理が繰り返される。
【0062】
次に変速制御について
図5、
図6のタイムチャートを用いて説明する。
図5は本実施形態を用いない場合のタイムチャートであり、
図6は本実施形態を用いた場合のタイムチャートである。
【0063】
まず、
図7を用いて、目標スルー変速比Itthの変化について簡単に説明する。
図7では目標スルー変速比Itthを実線で示す。ここでは、アクセル開度APOが或る開度であり、極低油温制御が実行され、バリエータ20の変速比Ivaが規制変速比Iva_limとなり、目標スルー変速比Itthがスルー規制変速比Itth_limに規制される。そして、その後極低油温制御が解除される。
【0064】
図7では、或る開度に対応する変速線を破線で示す。本実施形態を用いた場合の目標スルー変速比Itthの変化を太線で示し、本実施形態を用いない場合の極低油温制御解除後における目標スルー変速比Itthの変化を細線で示す。
【0065】
本実施形態を用いない場合には、極低油温制御解除と同時に目標スルー変速比Itthがアクセル開度APOに基づいた変速比に変更され、モード切換変速線である第1モード切換変速線をLow側からHigh側に跨ぐ。一方、本実施形態を用いた場合には、極低油温制御が解除され、変速制限制御が実行されるので目標スルー変速比Itthはアクセル開度APOに基づいた変速比とはならず、しばらく時間が経った後に目標スルー変速比Itthがモード切換変速線である第2モード切換変速線をLow側からHigh側に跨ぐ。
【0066】
本実施形態を用いない場合について
図5を用いて説明する。
【0067】
時間t0において、油温Toが第2所定油温Tp2になると、極低油温制御が解除される。本実施形態を用いない場合には、極低油温制御が解除されると、目標スルー変速比Itthがアクセル開度APOに応じた変速比にステップ的に変更される。また、モード切換変速線が第1モード切換変速線となっており、極低油温制御が解除されるとすぐに目標スルー変速比Itthがモード切換変速線をLow側からHigh側に跨ぐ。これにより、協調変速が開始され、副変速機構30では1−2変速が開始され、準備フェーズ、トルクフェーズと進行し、各フェーズに応じてLowブレーキ32の指示油圧、及びHighクラッチ33の指示油圧が制御される。バリエータ20の変速比Ivaは、目標スルー変速比Itthに応じて、High側に変速する。目標スルー変速比Itthがステップ的に変更されるので、バリエータ20の変速比Ivaの変化量が大きくなる。
【0068】
時間t1において、イナーシャフェーズを開始すべくHighクラッチ33の指示油圧が高くなり、副変速機構30の変速比Iauが変更される。また、副変速機構30の変速比Iauが変化する方向とは逆の方向にバリエータ20の変速比Ivaが変更される。油温Toは第1所定油温Tp1よりも低いためイナーシャフェーズを開始すべくHighクラッチ33の指示油圧は、油温Toが第1所定油温Tp1以上の場合よりも高くなる。これにより、副変速機構30の変速比Iauの変化、及びバリエータ20の変速比Ivaの変化開始タイミングは、油温Toが第1所定油温Tp1以上の場合よりも遅くなるが、イナーシャフェーズの終了タイミングは同じになる。
図5では比較のため、油温Toが第1所定油温Tp1以上の場合のHighクラッチ33の指示油圧を破線で示す。また、油温Toが第1所定油温Tp1以上の場合における、バリエータ2の変速比Iva、及び副変速機構30の変速比Iauを破線で示す。Highクラッチ33の指示油圧が高くなることで、Highクラッチ33の実油圧も高くなり、Highクラッチ33のクラッチ容量が大きくなる。クラッチ容量が大きくなることで、副変速機構30からバリエータ20へ入力されるトルクが大きくなり、クラッチ容量がベルト容量よりも大きくなり、バリエータ20でベルト滑りが発生する。
【0069】
次に本実施形態を用いた場合について
図6を用いて説明する。
【0070】
時間t0において、油温Toが第2所定油温Tp2になると、極低油温制御が解除される。本実施形態を用いた場合には、変速制限制御が開始されるので、油温Toが高くなるにつれて目標スルー変速比Itthが徐々にHigh側に変更される。バリエータ20の変速比Ivaは目標スルー変速比Itthに応じて徐々にHigh側に変更される。なお、
図6には比較のため本実施形態を用いない場合のバリエータ20の変速比Ivaを破線で示す。本実施形態を用いた場合には、本実施形態を用いない場合よりもバリエータ20の変速比IvaがLow側となる。
【0071】
時間t1において、目標スルー変速比Itthが第2モード切換変速線に設定されているモード切換変速線をLow側からHigh側に跨ぐ。これにより、協調変速が開始され、副変速機構30では1−2変速が開始され、準備フェーズ、トルクフェーズと進行し、各フェーズに応じてLowブレーキ32の指示油圧、及びHighクラッチ33の指示油圧が制御される。本実施形態を用いた場合には、変速制限制御が実行されているので、本実施形態を用いない場合よりもイナーシャフェーズ中のバリエータ20の変速比IvaがLow側となる。
【0072】
時間t2において、イナーシャフェーズを開始すべくHighクラッチ33の指示油圧が高くなり、副変速機構30の変速比Iauが変更される。また、副変速機構30の変速比Iauが変化する方向とは逆の方向にバリエータ20の変速比Ivaが変更される。本実施形態では、バリエータ20の変速比IvaがLow側となっており、バリエータ20のベルト容量はクラッチ容量よりも大きい。従って、バリエータ20においてベルト滑りが発生しない。
【0073】
なお、油温Toが第1所定油温Tp1よりも低い低油温状態である場合、低油温状態ではない場合よりも協調変速時のバリエータ20の変速比IvaをLow側の変速比にて協調変速を行うとは、
図6の時間t2におけるバリエータ20の変速比Ivaが、
図5の時間t1におけるバリエータ20の変速比IvaよりもLow側であることを意味している。
【0074】
時間t3において、イナーシャフェーズが終了すると、変速制限制御が解除される。これにより、目標スルー変速比Itthは、ステップ的にアクセル開度APOに応じた変速比に変更される。そのため、エンジン1の回転速度の過回転、及び車速VSPの増加抑制を素早く解除することができる。なお、目標スルー変速比Itthを所定の勾配(所定の変化率)でアクセル開度APOに応じた変速比に変更してもよい。これにより、スルー変速比Ithの急変を抑制し、エンジン回転速度、及び車速VSPの急変を抑制することができる。
【0075】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0076】
低油温状態である場合、低油温状態よりも油温Toが高い場合に比べて協調変速時のバリエータ20の変速比IvaをLow側の変速比にて協調変速を行う。バリエータ20の変速比IvaをLow側にすることで、セカンダリプーリ圧が高くなり、バリエータ20におけるベルト挟持力が大きくなる。そのため、低油温状態の協調変速時にバリエータ20のベルト容量がクラッチ容量よりも小さくなることを抑制し、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項1、7に対応する効果)。
【0077】
変速制限制御によって制限されるバリエータ20の変速比Ivaを、油温Toが低いほどLow側に制限される変速比と、協調変速においてバリエータ20に入力するトルクを伝達可能なベルト容量が得られる変速比とのうちLow側の変速比以上の変速比に設定する。これにより、バリエータ20がHigh側に変更されることを抑制し、バリエータ20の変速比IvaをLow側にすることができ、低油温状態での協調変速においてバリエータ20に入力されるトルクに対してベルト滑りが発生することを防止することができる(請求項2に対応する効果)。
【0078】
変速制限制御によって制限されるバリエータ20の変速比Ivaを、バリエータ20に入力するトルクが大きくなるほど、Low側にする。これにより、バリエータ20におけるベルト挟持力を大きくし、バリエータ20に入力されるトルクが大きくなっても、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項3に対応する効果)。
【0079】
変速制限制御を、少なくとも協調変速を開始してからイナーシャフェーズが終了するまで実行する。これにより、低油温状態での協調変速中にベルト容量がクラッチ容量よりも大きくなることを抑制し、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制することができる。また、イナーシャフェーズが終了すると、副変速機構30の変速比Iauは2速に対応した変速比となっており、フィードバック制御によるHighクラッチ33の指示油圧上昇が終了する。従って、Highクラッチ33のクラッチ容量は大きくならないので、変速制限制御によってバリエータ20の変速比IvaをLow側に制限する必要がない。本実施形態では、イナーシャフェーズが終了すると変速制限制御を解除する。これにより、エンジン1の回転速度の過回転、及び車速VSPの増加抑制を素早く解除することができる(請求項4に対応する効果)。
【0080】
低油温状態において、モード切換変速線を第1モード切換変速線よりもLow側の第2モード切換変速線にする。これにより、低油温状態における協調変速をLow側で開始させることができ、低油温状態の協調変速時にバリエータ20のベルト容量がクラッチ容量よりも小さくなることを抑制し、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項5に対応する効果)。
【0081】
第2モード切換変速線を、低油温状態の協調変速時に、Highクラッチ33のクラッチ容量よりもバリエータ20のベルト容量が大きくなるように設定する。これにより、低油温状態の協調変速時にバリエータ20のベルト容量がクラッチ容量よりも小さくなることを抑制し、バリエータ20におけるベルト滑りの発生を抑制することができる(請求項6に対応する効果)。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0083】
上記実施形態では、走行用駆動源としてエンジン1を用いたが、モータジェネレータを用いてもよく、また、エンジン1とモータジェネレータとを組み合わせて用いてもよい。
【0084】
また、油温Toを油圧の増加速度に基づいて算出してもよい。油温Toが低い場合には、油圧の増加速度が低くなる。これに基づいて油温Toを算出してもよい。
【0085】
また、極低油温制御を行わずに、変速制限制御のみを行ってもよい。
【0086】
上記実施形態では、副変速機構30が1−2変速する場合を一例として説明したが、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更する場合(2−1変速)にも上記変速制御を適用してもよい。
【0087】
副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構であるが、さらに複数の段を実現可能な変速機構であってもよい。