(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535286
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】リチウム遷移金属リン酸塩二次凝集体及びその製造のための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20190617BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20190617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/36 C
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-562237(P2015-562237)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-517383(P2016-517383A)
(43)【公表日】2016年6月16日
(86)【国際出願番号】EP2014055180
(87)【国際公開番号】WO2014140323
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】13159638.9
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】フォーバート, ライナルト
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506362(JP,A)
【文献】
特開2011−216272(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/052533(WO,A1)
【文献】
特開2013−032257(JP,A)
【文献】
特開2010−251302(JP,A)
【文献】
特開2011−132095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00−25/46
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
x≦0.3、0≦y≦1であり、一次粒子の凝集体から作られる二次粒子の形態で、Mが金属又は半金属又はこれらの混合物である式Li0.9+xFe1−yMy(PO4)のリチウム遷移金属リン酸塩化合物であって、800−1200g/lのバルク密度を有し、一次粒子が0.02−2μmの範囲の粒径を有し、二次粒子が10−40μmの平均粒径及び6−15m2/gのBET表面を有し、一次粒子が、一次粒子表面上の少なくとも一部に導電性炭素の堆積物を有する、リチウム遷移金属リン酸塩化合物。
【請求項2】
バルク空隙率が65−80%である、請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩。
【請求項3】
タップ空隙率が55−65%である、請求項1又は2に記載のリチウム遷移金属リン酸塩。
【請求項4】
タップ密度が1250−1600g/lである、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム遷移金属リン酸塩。
【請求項5】
プレス密度が2000−2800g/lである、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム遷移金属リン酸塩。
【請求項6】
LiFePO4、LiMnPO4又はLi0.9+xFe1−yMnyPO4である、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム遷移金属リン酸塩。
【請求項7】
(a)Li0.9+xFe1−yMy(PO4)を粒子の形態で提供する工程、
(b)水性懸濁液を調製し、炭素前駆体化合物を加える工程、
(c)水性懸濁液を湿式ミリング処理に供し、懸濁液に導入されるミリングエネルギーが100−600kWh/tの値に設定される工程、
(d)ミリングされた懸濁液をスプレー乾燥させ、Li0.9+xFe1−yMy(PO4)の凝集体を得る工程、
(e)500℃−850℃の温度において実施される、凝集体を熱処理する工程
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項8】
炭素前駆体化合物が、デンプン、マルトデキストリン、ゼラチン、ポリオール、糖質、部分的に水溶性のポリマー又はこれらの混合物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
糖質が、マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース、グルコース又はガラクトースから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)において、さらなる水溶性バインダー及び/又は追加の分散剤が添加される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)の懸濁液が、6から8のpH値に設定される、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)の前に、事前ミリング処理又は分散処理を含む、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)におけるミリングが、段階的又は連続的に実施される、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ミリングが、研磨ビーズを有するボールミルにより実施され、研磨ビーズの直径が、200−500μmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ミリング工程(c)中に分散剤が加えられる、請求項7から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ミリング工程(c)の後、さらなる分散処理が実施される、請求項7から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(d)におけるスプレー乾燥が、120−500℃の入口乾燥ガス温度で実施される、請求項7から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(e)における熱処理が、500−850℃の温度で実施される熱分解である、請求項7から17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次粒子で作られる二次粒子の形態で、式Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)のリチウム遷移金属リン酸塩化合物、その製造方法及び二次リチウムイオン電池のための電極の活物質としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なリチウムイオン電池は、例えば、携帯電話、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、電気自動車及び家庭器具のような広範囲の用途の電源として、過去から現在にかけて広く使用されてきている。再充電可能なリチウムイオン電池において、カソード材料は、重要な成分の1つであり、主に、電池の性能を担っている。Goodenoughら(Padhi, Goodenoughら, J.Electrochem. Soc. 1997, 144, 1188)の先駆的な研究から、規則的なオリビン型構造を有するLiMPO
4(M=Fe、Mn、Ni及びCo)化合物は、約170mAhg
−1の理論比容量に起因して、広範囲の注目を集めている。
【0003】
LiMPO
4化合物は、八面体側面の半分のところにLi
+及びM
2+カチオンが位置しており、P
5+カチオンが四面体の1/8のところにある、酸素原子の六方最密構造からなるオリビン関連構造をとる。この構造は、三次元網目構造を形成するPO
4基によって架橋したMO
6八面体を共有する縁のc方向に沿った鎖として記述されてもよい。[010]及び[001]方向に垂直のトンネルは、これらの空洞を移動可能なb軸に沿って八面体配位したLi
+カチオンを含む。これらのリン酸塩の中で、LiFePO
4は、その高い安定性、低い費用、環境との高い適合性のため、最も魅力的である。
【0004】
しかし、導電性が非常に低く、その固有の特徴に起因して、初期容量が低下し、速度能力が悪く、LiFePO
4/FePO
4を超えるLi
+イオンの拡散が遅いため、全容量を得るのは困難である。LiFePO
4カソード材料の純粋な電気性能も、多くの研究者の中で魅力的である。
【0005】
LiFePO
4及び関連する化合物について、小さな粒径及び十分に成形された結晶が、電気化学特性を高めるのに重要であることがわかった。小さな直径の粒子の場合、Liイオンは、Li−インターカレーション及び脱インターカレーションの間に、表面と中心の間の小さな距離を拡散してもよく、粒子表面上のLiMPO
4は、ほとんどが帯電/放電反応に寄与する。
【0006】
Li
+又はFe
2+をカチオンで置換することは、例えば、MnドープされたLiMn
0.6Fe
0.4PO
4の調製を報告しているYamadaら, J.Electrochem. Soc. 2001, 148, A960, A1153, A747によって記載されるような全容量を与えるさらなる様式である。さらに、ドープされたLiZn
0.01Fe
0.99PO
4も提案された。コバルト、チタン、バナジウム及びモリブデン、クロム及びマグネシウムでドープされたものも知られている。Herleら、Nature Materials, Vol.3, pp.147-151(2004)は、ジルコニウムでドープされたリチウム−鉄及びリチウム−ニッケルリン酸塩を記載する。Morganらは、Electrochem. Solid State Lett. 7(2), A30-A32(2004)に、Li
xMPO
4(M=Mn、Fe、Co、Ni)オリビンの固有のリチウムイオン導電性を記載する。Yamadaらは、Chem. Mater. 18, pp. 804-813, 2004において、Li
x(Mn
yFe
1−y)PO
4の電気化学特徴、磁気特徴及び構造特徴を取り扱っており、例えば、国際公開第2009/009758号にも開示されている。Li
x(Mn
yFe
1−y)PO
4(すなわち、リチオフィライト−トリフィライトシリーズ)の構造的変動は、Loseyら、The Canadian Mineeralogist, Vol.42, pp.1105-1115(2004)に記載されていた。
【0007】
Ravetら(Proceedings of 196th ECS meeting 1999, 99-102)は、1重量%の炭素内容物を含む炭素コーティングされたLiFePO
4は、多電解質を用い、C/10の放電速度で、80℃で放電容量160mAh/g
−1を引き渡すことができる。
【0008】
炭素コンポジット及び炭素コーティングされたLiMPO
4材料を調製するための種々の手法が今までに公開されている。
【0009】
上に記載されたように、LiMPO
4化合物の粒子の形態は、高い充電放電能力及び完全な理論容量を得るための必須の鍵となる因子の1つである。しかし、特に、湿式化学法又は水熱法によるこれらの化合物の合成は、大きな一次粒子を含む材料が得られ、関連するリチウムセルの比較的低い容量のような負の影響を引き起こす。
【0010】
小さな粒子を含む粉末の主な欠点は、大きな粒子を含む化合物と比較して、非常に小さなバルク密度とタップ密度、及び異なる処理である。
【0011】
EP2413402A1号は、リン酸鉄リチウムを調製するための方法を開示し、水熱によって調製したLiFePO
4とポリエチレングリコール混合物を、湿式粉砕し、次いで、スプレー乾燥し、焼かれる。二次凝集体の平均粒径は、約6μmである。従って、EP2413402A1号の生成物は、小さなバルク密度及びタップ密度を有するため、低い容積エネルギー密度を有する。
【0012】
US2010/0233540A1号は、オリビン型構造を有し、二次凝集体の平均粒子直径が5−100μmであり、空隙率が50−40%であり、式Li
1+AFe
1−xM
x(PO
4−b)X
bによって表される50−550nmの一次粒子からなる、リン酸鉄リチウムの一次粒子の二次凝集体を記載する。一次粒子は、超臨界水熱条件で合成される。US2010/0233540A1号の二次凝集体は、スプレードライによって得られ、球状形態を有し、二次凝集体のBET表面は、5−15m
2/gである。
【0013】
US2010/0233540A1号に記載されるような方法の欠点は、わずか5−20%の固形分含有量を有するスラリーの乾燥中におけるエネルギー消費である。スプレードライ後における二次凝集体の熱分解の期間は、10時間であり、さらに長いと、エネルギー費用も高くなる。
【発明の概要】
【0014】
従って、本発明の目的は、一次粒子及び二次粒子を含む粒子の形態でのリチウム遷移金属リン酸塩を提供することであり、一方、二次粒子は、炭素コーティングを含むか、又は含まない凝集した一次粒子からなり、粉末形態のリチウム遷移金属リン酸塩よりも電気特性が良好ではない場合には、類似であるが、高いバルク密度及びタップ密度を与え、従って、高い電極密度を与え、従って、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩を活性な電極材料として使用するとき、電池の高いエネルギー密度を与える。さらに、このようなリチウム遷移金属リン酸塩凝集体の調製中に、高い特殊な粉砕エネルギーを用いた高エネルギー粉砕の使用及び直径が約100μmの非常の小さい研磨球の使用の必要性が避けられるべきである(このような粉砕球を用いるミルの費用が過剰であるため)。
【0015】
この目的は、一次粒子の凝集体から作られる二次粒子の形態であり、一次粒子は、粒径が0.02−2μm、好ましくは、1−2μm、さらに好ましくは、1−1.5μmであり、二次粒子は、平均粒径が10−40μmであり、BET表面が6−15m
2/gである、式Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)のリチウム遷移金属リン酸塩によって達成される。xは、≦0.3の数であり、0≦y≦1である。さらに、リチウム遷移金属リン酸塩二次凝集体は、バルク密度が800−1200g/lである。
【0016】
驚くべきことに、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、従来の活物質を含む電極を用いた電池と比較したとき、二次リチウムイオン電池のための電極の活物質として使用される場合、高い導電性及び改良された電気容量を示し、改良された速度特性も示すことがわかった。
【0017】
本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、ドープされていてもよく、又はドープされていなくてもよい。
【0018】
従って、用語「リチウム遷移金属リン酸塩」は、本発明の範囲内で、化学量論的な化学式Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)によっても表されるようなドープされたリチウム遷移金属リン酸塩又はドープされていないリチウム遷移金属リン酸塩の両方を意味する。リチウムは、化学量論量よりわずかに少ない量(x<0.1)で、実際に化学量論量(x=0.1)で、又は化学量論量より過剰な量(化学量論量より0.1<x≦0.3多い)で存在していてもよい。
【0019】
「ドープされていない」は、純粋な、特に、式Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)を有する相が純粋なリチウム遷移金属リン酸塩を意味し、xは、上と同じ意味を有し、yは0である。本発明のこのような化合物の非限定的な代表例は、LiFePO
4、LiMnPO
4、LiCoPO
4、LiNiPO
4、LiRuPO
4など、具体的には、LiFePO
4及びLiMnPO
4及びLiCoPO
4である。
【0020】
「ドープされた」リチウム遷移金属リン酸塩は、式Li
0.9+xFe
1−yM
yPO
4の化合物を意味し、xは、上と同じ意味を有し、yは>0であり、すなわち、さらなる金属(遷移金属を含む)又は半金属Mが存在する。
【0021】
本発明のさらなる具体的な実施態様で上に引用されるように、Mは、金属及び半金属、例えば、Co、Ni、Al、Mg、Sn、Pb、Nb、B、Cu、Cr、Mo、Ru、V、Ga、Si、Sb、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Cd、Mn及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。好ましくは、Mは、Co、Mn、Mg、Nb、Ni、Al、Zn、Ca、Sb及びこれらの混合物を表し、yは、≦0.5及び≧0.001である。
【0022】
本発明の例示的な非限定的な化合物は、Li
0.9+xFe
1−yMg
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yNb
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yCo
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yZn
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yAl
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−y(Zn,Mg)
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yMn
y(PO
4)であり、x及びyは、上に引用したのと同じ意味を有し、yの値は、上の章に定義されたとおりである。
【0023】
本発明の他の実施態様では、Mは、Mn、Co、Zn、Mg、Ca、Al又はこれらの組み合わせ、特に、Mn、Mg及び/又はZnである。驚くべきことに、電気化学的に不活性なドーパントであるMg、Zn、Al、Ca、特に、Mg及びZnは、電極材料として使用される場合、特に高エネルギー密度及び容量を有する材料を与える。
【0024】
それ自身が電気化学的に不活性なこれらの金属カチオンによる置換(又はドーピング)は、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩のエネルギー密度及び容量の観点で、y=0.03−0.15、好ましくは、0.05−0.10、特に、0.05±0.02の値で、非常に良好な結果を与えると思われる。
【0025】
本発明の化合物、例えば、Li
0.9Fe
0.90Zn
0.10(PO
4)、Li
0.95Fe
0.90Zn
0.10(PO
4)及びLi
0.95Fe
0.93Zn
0.07(PO
4)及びLiFe
0.90Zn
0.10(PO
4)について、3.5Vの平坦な状態がLi
0.95FePO
4、LiFePO
4又はLi
0.90FePO
4より長く、比容量が大きいことがわかり、これは、エネルギー密度の増加を意味する。
【0026】
本発明では、BET表面は、6−15m
2/g、好ましくは、10−15m
2/gである。
【0027】
本発明の一実施態様では、二次凝集体は、空隙率を有する。具体的には、そのバルク空隙率は、65−80%の範囲である。
【0028】
あるさらなる実施態様では、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、55−65%の優れたタップ空隙率を有する。
【0029】
本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、優れたバルク密度、タップ密度及びプレス密度も示す(後者は、特に、カソード内で単一の活物質又は活物質の1つとして使用される場合である)。そのバルク密度は、800−1200g/lの範囲である。そのタップ密度は、1250−1600g/lの範囲である。さらに、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、2000−2800g/lの優れたプレス密度を有する。これらは、予想できないことに、電極を製造するために使用される機械を、かなり高いスループットが可能となるようにかなり多い程度まで、処理される材料で充填してもよいため、本発明の材料の良好な特性が、電極製造プロセスにおいてこれらの材料の処理をかなり向上させる。
【0030】
具体的な実施態様では、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、LiFePO
4である。さらに別の具体的な実施態様では、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩は、LiFe
1−yMn
yPO
4である。
【0031】
なおさらなる実施態様では、リチウム遷移金属リン酸塩は、炭素を含む。
【0032】
炭素は、特に好ましくは、リチウム遷移金属リン酸塩全体に均一に分布する。言い換えると、炭素は、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩が埋め込まれたマトリックスの一種を形成する。例えば、炭素粒子が、本発明のLi
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)粒子について「核形成部位」として役立つかどうか、すなわち、炭素上のこれらの核、又は、本発明の特に好ましい開発において、リチウム鉄金属リン酸塩Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)の個々の粒子が、炭素に覆われているかどうか、すなわち、鞘状になっているか、又は言い換えると、少なくとも部分的にコーティングされているかによって、本明細書で使用される用語「マトリックス」の意味に差はない。さらに具体的には、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩の一次粒子は、一次粒子の表面の少なくとも一部に堆積した導電性炭素を含む。両方の変形例は、均等物であるとして、本発明に入ると考えられ、「炭素を含む」という定義の下で本発明に入ると考えられる。
【0033】
本発明の目的のために重要なことは、単に、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)の(一次及び二次)粒子の全体に炭素が均一に分布し、ある種の(三次元)マトリックスを形成することである。本発明のいくつかの実施態様では、本発明のLi
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)を電極材料として用いたとき、炭素又は炭素マトリックスの存在により、導電性添加剤、例えば、導電性カーボンブラック、グラファイトなどのさらなる添加をしなくてもよい。
【0034】
本発明のさらなる実施態様では、リチウム遷移金属リン酸塩に対する炭素の割合は、≦4重量%であり、さらなる実施態様では、≦2.5重量%であり、なおさらなる実施態様では、≦2.2重量%、なおさらなる実施態様では、≦2.0重量%又は≦1.5重量%である。従って、本発明にかかる材料の最良のエネルギー密度が得られる。
【0035】
本発明の目的は、電極によって、さらに具体的には、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩を活物質として含むリチウム二次電池のためのカソードによってさらに達成される。
【0036】
本発明の電極(又はいわゆる電極組成物)の典型的なさらなる構成成分には、活物質に加え、導電性カーボンブラック及びバインダーもある。しかし、本発明によれば、導電剤(すなわち、例えば、導電性カーボンブラック)をさらに添加することなく、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩を含有するか、これらからなる活物質と共に使用可能な電極を得ることも可能である。
【0037】
当業者がそれ自体知っている任意のバインダー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリビニリデンジフルオリドヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF−HFP)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリルメタクリレート(PMMA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び誘導体及びこれらの混合物をバインダーとして使用してもよい。
【0038】
電極材料の個々の典型的な特性を有する構成成分は、好ましくは、90重量部の活物質、例えば、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩、5重量部の導電性炭素及び5重量部のバインダーである。本発明の範囲内にある同様に利点のある異なる配合物は、90−96重量部の活物質及び4−10重量部の導電性炭素及びバインダーからなる。
【0039】
その目的は、本発明のカソードを含む二次リチウム二次電池によってさらに達成される。
【0040】
本発明のさらなる実施態様では、本発明の二次リチウムイオン電池は、例示的には(限定されないが)、単電池電圧が約2.0Vであり、鉛酸セルの代替として十分に適しているカソード/アノード対LiFePO
4//Li
4Ti
5O
12、又はセル電圧が大きく、エネルギー密度が改良されたLiCo
zMn
yFe
xPO
4//Li
4Ti
5O
12を含む。
【0041】
本発明のなおさらなる目的は、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩を合成するための方法を提供することであった。
【0042】
従って、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩を合成するための方法は、以下の工程を含む。
(a)Li
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)を粒子の形態で提供する工程と、
(b)水性懸濁物を調製し、任意選択的に、炭素前駆化合物を加える工程と、
(c)水性懸濁物に湿式粉砕処理を行い、懸濁物に導入された粉砕エネルギーは、100−600kWh/tの値に設定される工程と、
(d)粉砕した懸濁物をスプレー乾燥し、Li
1+xFe
1−yM
y(PO
4)の二次凝集体を得る工程と、
(e)二次凝集体を熱処理する工程。
【0043】
任意選択的に、1又は2の粒子分級処理工程を、スプレー乾燥、例えば、スクリーニング(screening)、シフティング(sifting)又はシービング(sieving)でのふるい分けの後に加えてもよい。特に、シービング及び/又はシフティングでふるい分ける工程は、公称メッシュ径33μmから40μmで行われてもよい。
図1a及び1bは、本発明の方法で得られる材料のSEM写真を示す。
【0044】
従って、本発明の方法は、一実施態様で、二次凝集体の形態で、上述の特性を有するLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4、及び別の具体的な実施態様では、さらに、上に記載したような観点で炭素を含むLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4を提供する。このようにして得られた生成物の二次粒子の粒度分布は、d
50(「平均粒径(mean size)」又は「平均粒径(average size)」に対応する)が10−40μm、好ましくは、10−20μm、さらに好ましくは、15−20μmである。
【0045】
懸濁物にスプレー乾燥を行う前の工程(c)の湿式粉砕処理によって、驚くべきことに、二次凝集体の形態であり、従来技術の二次凝集体の形態でのLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4の欠点を有しないLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4が得られる。粉砕によって、驚くべきことに、二次粒子のBET表面に実質的に影響を与えることなく、さらに密に詰まった粒子が得られる。二次粒子は、BET表面が6−15m
2/gである。スプレー乾燥の後、本発明の生成物、すなわち、二次凝集体の形態でのLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4(炭素を含むか、又は含まない)は、二次凝集体の高い充填密度を有し、ひいては、高いバルク密度及びタップ密度を与える。
【0046】
理論によって束縛されないが、湿式粉砕工程によって、二次リチウムイオン電池に電極活物質として使用されるとき、容量及び速度特徴が大きい材料が得られるようである。
【0047】
粒子の形態でのLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4(すなわち、一次粒子)は、例えば、固相反応、共沈殿、水熱合成法を介して、又はいわゆる超臨界水熱合成法によって、種々の合成経路によって合成することができ、本発明の目的のために、特定の合成経路に限定されない。
【0048】
本発明の方法のこの具体的な実施態様では、炭素前駆化合物、言い換えると、炭素含有材料を工程bの間に加える。炭素前駆化合物は、純粋な炭素、例えば、グラファイト、アセチレンブラック又はKetjenブラック、又は炭素を含有する前駆体化合物であってもよく、これらは、次いで、工程(e)において、炭素系残渣に熱処理を行ったときに分解する。このような炭素含有化合物の代表的で非限定的な例は、例えば、デンプン、マルトデキストリン、ゼラチン、ポリオール、糖質、例えば、マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、部分的に水溶性のポリマー、例えば、ポリアクリレートなど、及びこれらの混合物である。
【0049】
本発明の方法のさらなる実施態様では、さらなる水溶性バインダーが工程(b)で加えられる。本発明の方法のなおさらなる実施態様では、さらなる分散剤も工程(b)で加えられる。
【0050】
バインダーとして、水素と酸素のみをさらに含み、熱処理によって原子状炭素に熱分解する炭素含有化合物が好ましい。ラクトース、グルコース、スクロース又はこれらの混合物が好ましい。これらの糖質類の使用は、さらなる処理工程、特に、スプレー乾燥中の懸濁物の流動性を上げる(従って、可能な最大固形分含有量を上げる)からである。具体的な実施態様では、中空凝集体のような得られる凝集体に対し望ましくない影響がなく、最も高い乾燥速度を可能にするため、スクロースが使用される。本発明の目的に有用なさらなるバインダーは、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリレートなどである。1種類より多いバインダーを使用することも本発明の一部である。
【0051】
分散剤は、水溶性であり、炭素、水素及び酸素のみを含むべきでもあり、すなわち、加熱処理計画で炭化されるべきである。特に好ましい分散剤として、本発明の方法に固体有機酸を使用してもよい。これらの酸は、限定されないが、クエン酸、酒石酸などを含む。本発明の目的に有用なさらなる分散剤は、例えば、マレイン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、1,2,3,4 ブタンテトラカルボン酸など、及びこれらの混合物である。
【0052】
本発明の一部は、異なる分散剤の組み合わせ、例えば、クエン酸とグリコール酸の使用である。
【0053】
0.05質量%(リチウム遷移金属リン酸塩の質量を基準とする)の少量の分散剤(又は分散剤混合物)であっても、本発明の望ましい生成物を得るのに十分であることがわかった。分散剤の量は、通常は、0.05−2質量%(リチウム遷移金属リン酸塩の質量を基準とする)の範囲である。
【0054】
工程(b)の懸濁物は、好ましくは、酸分散剤を加えることによって、6から8のpH値、好ましくは7に設定される。本発明の方法は、工程(c)の前に、任意選択的に、予備粉砕処理又は分散処理を含む。
【0055】
工程(c)の粉砕は、段階的に、又は連続して行われる。好ましくは、粉砕は、ボールミルで行われる。
【0056】
研磨ビーズの好ましい直径は、200−500μm、最も好ましくは、300μmである。研磨ビーズは、本発明の望ましいLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4が混入しない材料、すなわち、摩耗及び/又は化学反応性を示さない材料からなる。好ましくは、例えば、安定化されているか、又は安定化されていないジルコニア又は酸化アルミニウムのような非金属材料が使用される(任意のステンレスを使用してもよい)。粉砕コンパートメント及び粉砕ユニットも、摩耗及び/又は化学反応によって生成物の混入を避けるために、保護層によってコーティングされているか、及び/又は保護される。好ましくは、コーティング/保護層は、ポリウレタン又はセラミック材料(ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素のような)から作られるか、又はこれらを含み、後者が特に好ましい。
【0057】
本発明の方法のさらなる実施態様では、上述のような分散剤を粉砕工程(c)の間に加えられる。
【0058】
懸濁物に導入される粉砕エネルギーは、好ましくは、100−600kWh/t、さらに好ましくは、120−300kWh/t、特に、好ましくは150−200kWh/tに設定されるが、参照質量(t)は、懸濁物中の固体の質量を指す。このエネルギーは、懸濁物が適切な冷却デバイスによって冷却されなければならないような熱を生じる。この低い粉砕エネルギーは、もっと高い粉砕エネルギーを用いる方法と比較して、上述のような有利な特性を有するリチウム遷移金属リン酸塩を製造する際に、顕著なエネルギーの節約をもたらす。
また、粉砕工程中に、さらなる分散剤を段階的に、又は連続して加えてもよい。驚くべきことに、主に2つの因子(すなわち、研磨球の直径及び粉砕中に導入される粉砕エネルギー)が、一次粒径及びその後の構造及び二次凝集体の特性に影響を与えることがわかった。
【0059】
驚くべきことに、BET表面は、粉砕していない材料と比較して、本発明の粉砕工程によって実質的に変化しないが、生成物のBET表面が、本発明の方法の工程(c)で懸濁物に導入される粉砕エネルギーに依存することがわかった。本発明では、BET表面は、典型的には、6−15m
2/gの範囲である。粉砕していない(すなわち、従来技術に従って得られる生成物)は、BET 10m
2/gが得られた。粉砕エネルギーが100kWh/tであり、研磨ビーズが直径で300μmである場合、BET表面 10.5m
2/gが得られた。粉砕エネルギーが150kWh/tであり、研磨ビーズが直径で300μmである場合、BET表面 11m
2/gが得られた。粉砕エネルギーが300kWh/tであり、研磨ビーズが直径で300μmである場合、BET表面 12m
2/gが得られた。粉砕エネルギーが600kWh/tであり、研磨ビーズが直径で300μmである場合、BET表面 14m
2/gが得られた。本発明とは対照的に、粉砕エネルギーが1200kWh/tであり、研磨ビーズが直径で100μmである場合、BET表面 28m
2/gが得られた。
【0060】
バルク空隙率及びスタップ空隙率について、同様の現象を観察することができ、従って、懸濁物/スラリーに導入される粉砕エネルギーにも依存する。
【0061】
C−LiFePO
4の場合、スプレー乾燥前に粉砕工程がないUS2010/0233540号に従って合成される従来技術のC−LiFePO
4と比較して、表1に示されるように、以下の値を見いだすことができる。
【0062】
表1:C−LiFePO
4の粉砕エネルギーに対するバルク空隙率及びタップ空隙率
【0063】
すでに低い粉砕エネルギーで、低い空隙率の生成物が観察され、従って、高いバルク密度及びタップ密度が得られる。この効果は、従来の材料及び方法と比較して、本発明の方法によって得られる材料によって、もっと高い電極密度及び容量を得ることができることも意味する。
【0064】
図2a及び2bは、本発明の(一次粒子)の充填(
図2b)及び従来技術(
図2a)の差を示す。本発明の粉砕工程を用いた二次凝集体中の一次粒子の充填(
図2b)は、従来技術の対応する凝集体(
図2a)よりもかなり密度が高い。
【0065】
バルク密度及びタップ密度に対する影響を表2、
図3及び3bに示し、従来技術の材料が最も低い密度を有し、本発明の材料は、最も高い密度を有する。
【0066】
表2:C−LiFePO
4の粉砕エネルギーに対するバルク密度及びタップ密度
【0067】
電極中の活物質としてのC−LiFePO
4の容量(実験の章で記載されるように調製される)を表3に示す。本発明の材料が、電極の放電容量に与える影響は、表3及び
図4からわかるだろう。従来技術の材料は、粉砕されておらず、本発明の材料は、粉砕エネルギーを変えつつ列挙される。
図4から明らかにわかるだろうが、本発明の材料は、従来技術の材料よりも高いサイクリング速度で最良の容量を示し、粉末又は凝集体のいずれかの形態で測定され、後者は、US2010/0233540A1号に従って調製される。粉末従来技術1型は、Hanwha Chemicalから得られ(グレード:LFP−1000)、従来技術2型は、VSPC Co.Ltd.から得られる(C−LFP、グレード:generation 3)。
【0068】
表3:粉砕エネルギーに対する異なるC速度におけるC−LiFePO
4の放電容量
【0069】
粉砕工程(c)の後、さらなる分散処理を行ってもよい。市販の分散装置(例えば、ローター/ステーターディスペンサ又はコロイドミル)で行われるこの処理は、アトマイザが詰まるのを防ぎ、アトマイザによる噴霧化の前に懸濁物の粘度を下げるために、スプレー乾燥の前に懸濁物を再凝集するために有用であろう。
【0070】
本発明の方法のさらなる実施態様では、工程(d)のスプレー乾燥は、120−500℃の温度で行われる。スプレー乾燥は、スプレー乾燥のための任意の市販のデバイス(例えば、従来の並流スプレードライヤ)によって行われ得る。スラリーのアトマイザによる噴霧化は、スラリー/懸濁物及び気体状噴霧媒体に対して圧力を与えるロータリーアトマイザ、油圧ノズル、空気式ノズル、油圧と空気圧を組み合わせたノズル、又は超音波アトマイザで行われる。特に好ましいのは、ロータリーアトマイザ又は空気式ノズルである。
【0071】
本発明の方法の別の驚くべき特徴は、例えば、US2010/0233540A1号のような従来技術の方法と比較して、スプレー乾燥に使用される懸濁物/スラリー中の高い固形分含有量である。本発明では、非常に高い固形分含有量、すなわち、20−70%、好ましくは、40−65%、他の実施態様では、45−55%を使用することができる。
【0072】
懸濁物/スラリーの乾燥を、スプレー乾燥装置の気体投入温度120−500℃、通常は200−370℃の温度で行われる。出口温度は、70−120℃の範囲である。気体からの固体生成物の分離は、任意の市販の気体−固体分離システム、例えば、サイクロン、静電プレシピテータ又はフィルタ、好ましくは、パルスジェット式除塵システムを備えるフィルタを用いて行うことができる。
【0073】
次いで、Li
0.9+xFe
1−yM
yPO
4の乾燥した二次凝集体を熱処理する。
【0074】
本発明の方法の熱処理(工程e)は、本発明の一実施態様では、500℃から850℃、好ましくは600−800℃、特に好ましくは700−750℃の温度で、連続的に操作されるロータリーキルン中で行われる熱分解である。本発明の目的のために、同様に、任意の適切なデバイスを使用してもよいことが理解される。この温度で、本発明の方法の一実施態様で存在する炭素前駆化合物を炭素に熱分解し、次いで、完全に、又は少なくとも部分的にLi
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)一次粒子を層(コーティング)として覆う。熱分解は、典型的には、約1時間行われる。
【0075】
熱分解中、製造工学的な理由で窒素を保護気体として使用するが、あらゆる他の公知の保護気体、例えば、アルゴンなど、及びこれらの混合物を使用することもできる。酸素含有量が低い工業グレードの窒素も等しく使用することができる。
【0076】
任意選択的に、1又は2の粒子分級処理工程を加え、二次凝集体の粗いフラクション又は細かいフラクションのいずれか、又は両方とも除去してもよい。この工程は、粒子の分級のために、任意の市販の装置、例えば、サイクロン、空気式分級機、スクリーン、シーブ、シフター又はこれらの組み合わせによって行うことができる。本発明の一実施態様では、Li
0.9+xFe
1−yM
yPO
4の熱処理された二次凝集体は、公称メッシュ径が33μmから40μm、好ましくは40μmの超音波及びエアブラシ洗浄と組み合わせたタンブラー式のふるい分け機で分けられる。細かいフラクションが生成物として採取され、次いで、粗いフラクションが拒絶される。
【0077】
図及び例示的な実施態様によって、本発明をさらに説明し、これらは絶対に本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】
図1a及び1bにおいて、本発明のC−LiFePO
4の二次凝集体のSEM画像を示す。
【
図2】本発明のC−LiFePO
4の二次凝集体の一次粒子(2b)及び従来技術(
米国特許出願公開第2010/0233540号)の方法で得られる材料の一次粒子(2a)のSEM画像を示す。
【
図3】従来技術の材料と、本発明の材料とのバルク密度(3a)及びタップ密度(3b)の比較を示す。
【
図4】サイクリングにおける本発明の材料及び従来技術の材料における電極の容量の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
1.概要
粒度分布の決定
市販デバイスを用いた光散乱方法を用い、二次凝集体の粒度分布を決定する。この方法は、それ自体が当業者に公知であり、特に、特開2002−151082号及び国際公開第02/083555号の開示も参照される。この場合に、Malvern乾燥粉末フィーダScirocco ADA 2000を備えるレーザ回折測定装置(Mastersizer 2000 APA 5005、Malvern Instruments GmbH、Herrenberg、DE)及び製造業者のソフトウエア(バージョン5.40)によって粒度分布を決定した。Fraunhoferデータ分析方法を使用したため、材料の屈折率の設定は、0.00であった。製造業者の指示に従って、サンプルの調製及び測定を行った。空気の分散圧0.2barを使用した。
【0080】
D
90値は、測定サンプル中の粒子の90%がこれより小さいか、又は測定方法に従って同じ粒径である値を与える。同様に、D
50値及びD
10値は、それぞれ測定サンプル中の粒子の50%及び10%がこれより小さいか、又は測定方法に従って同じ粒径である値を与える。
【0081】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、本記載に述べられている値は、D
10値、D
50値、D
90値、合計体積中の各粒子の体積比率に対するD
90値とD
10値の差について妥当である。従って、本明細書に述べられているD
10値、D
50値及びD
90値は、それぞれ、測定サンプルの粒子の10体積%及び50体積%及び90体積%が、これより小さいか、又は測定方法に従って同じ粒径である値を与える。これらの値が得られる場合、特に有利な材料が本発明で与えられ、比較的粗い粒子(比較的大きな体積比率を有する)が処理可能性及び生成物の電気化学特性に与える負の影響が避けられる。好ましくは、本記載で述べられる値は、D
10値、D
50値、D
90値、合計体積中の各粒子の体積比率に対するD
90値とD
10値の差について妥当である。
【0082】
組成物(例えば、電極材料)のために、本発明のリチウム遷移金属リン酸塩に加え、さらなる成分を含み、特に、炭素含有組成物及び電極組成物のために、リチウム遷移金属リン酸塩の二次凝集体が、さらに、分散物中でもっと大きな凝集体を生成することがあるため、上の光散乱方法によって誤った判断がなされる場合がある。しかし、本発明の材料における二次粒子の粒度分布を、このような組成物について、SEM写真を用いて以下のように直接的に決定され得る。
【0083】
少量の粉末サンプルを3mlのアセトンに懸濁させ、超音波で30秒間分散させる。直後に、数滴の懸濁物を、走査型電子顕微鏡(SEM)のサンプルプレートに落とす。粉末粒子が互いに不明確になるのを防ぐために、粉末粒子の大きな単一層が支持材の上に生成するように、懸濁物の固形分濃度及び液滴の数を測定する。この液滴は、沈降の結果として粒子が粒径によって分離し得る前に迅速に加えなければならない。空気中で乾燥させた後、サンプルをSEMの測定チャンバに入れる。本実施例では、これは、LEO1530装置であり、励起電極1.5kV、開口部30μm、SE2検出器及び作業距離3−4mmで、発光電極場を用いて操作される。拡大率20000を用い、サンプルの部分的な拡大を少なくとも20回ランダムに撮影する。それぞれ、拡大スケールを挿入しつつ、DIN A4シートに印刷する。少なくとも20枚のシートそれぞれに、可能な場合、炭素含有材料を用いて粉末粒子が一緒になって作られる本発明の材料の少なくとも10の離れて見える粒子をランダムに選択し、本発明の材料における粒子の境界は、固定された直接的に接続する架橋が存在しないことによって定義される。一方、炭素材料によって作られる架橋は、粒子の境界に含まれる。これらの選択された粒子それぞれの中で、突出部の最長軸と最短軸を、それぞれの場合にルーラーを用いて測定し、縮尺比を用いて実際の粒子寸法に変換した。それぞれの測定されたLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4粒子について、最長軸と最短軸からの算術平均が、粒子の直径と定義される。次いで、測定されたLi
0.9+xFe
1−yM
yPO
4粒子を、光散乱方法に類似した方法で粒径分類に分ける。
【0084】
粒子の体積に対する異なる粒度分布は、それぞれの場合に、それぞれの粒径分類に対して関連する粒子の体積をプロットすることによって得られる。関連する粒子Vの体積は、対応する粒径d
iから計算されたV
iのこれらn個の粒子それぞれの球の体積の合計によって概算される。
【0085】
D
10、D
50及びD
90をサイズ軸に対して直接的に読み取ることができる累積的な粒度分布は、小さな粒径分類から大きな粒径分類までを連続して合計することによって得られる。
【0086】
記載される方法を、本発明の材料を含む電池の電極にも適用した。しかし、この場合には、粉末サンプルの代わりに、電極の新しく切断した表面又は割れた表面を、サンプルホルダに固定し、SEMで試験する。
【0087】
DIN−ISO9277に従ってBET測定を行った。
【0088】
バルク密度をISO697(以前はDIN53912)に従って決定した。
【0089】
タップ密度をISO787(以前はDIN53194)に従って測定した。
【0090】
Lorenta−CP MCP−T610及びMitsubishi MCP−PD 51デバイスを組み合わせ、プレス密度及び粉末の抵抗率を同時に測定した。粉末の抵抗率を以下の式に従って計算する。
粉末の抵抗率[Ωcm]=抵抗[Ω]×厚み[cm]×RCF
(RCF=デバイスに依存する抵抗率補正因子)
【0091】
プレス密度を以下の式に従って計算した。
【0092】
空隙率は、以下の式に従って、対応する測定された密度から得られた。
(真の材料密度をISO 1183−1に従って決定した)。純粋なLiFePO
4について、この値は3.56kg/lである。
【0093】
LEO 1530装置を用いて撮影されたSEM画像を、tifフォーマットで、1024×768の解像度で記録した。FE−SEM画像について、EP2413402A1号に記載されたように平均一次粒子径を測定した。
【0094】
直径1.25m、円筒形の高さ2.5m及び合計高さ3.8mのNubilosaスプレードライヤで、スプレー乾燥試験を行った。スプレードライヤに、開口直径が1.2mmの970型空気式ノズル0 S3型と、開口直径が1.8mmの940−43型の0 S2型を取り付けた(両方ともDusen−Schlick GmbH、HutstraBe 4、D−96253 Untersiemau、ドイツ)。制御された吸引ファンによって乾燥用気体を供給し、スプレードライヤに入る前に電気的に加熱した。バッグフィルタによって、乾燥した粒子を気体流から分離し、パルスジェット式除塵機によって回収した。乾燥用気体の量、気体の投入温度及び出口温度をプロセス制御システムによって制御した。出口温度の制御は、スラリー供給ポンプの速度を決定づけた。アトマイザによる霧化気体を、プラントの圧縮空気の分配によって供給され、その圧力は、局所的な加圧コントローラによって制御された。
【0095】
HTM Reetz GmbH、Kopenicker Str.325、D−12555 Berlin、Germanyのロータリーキルン型LK 900−200−1500−3を用いて熱分解試験を行った。その加熱したロータリー管は、直径が150mmであり、長さが2.5mであった。この管は、予備加熱領域、3つの加熱された別個に制御された温度の領域、冷却領域を与えた。この管の傾斜を調節することができ、その回転速度をさまざまに制御した。制御されたスクリューフィーダによって生成物を供給した。生成物供給部、キルン自体及び生成物の出口を窒素で覆ってもよい。熱分解した生成物の量を、秤によって連続して監視することができた。
【0096】
SSiCセラミッククラッディングを有するBiihler AG、CH−9240 Uzwil、Switzerland製の攪拌されるボールミルMicroMedia
TMP2を用いて粉砕を行った。名目上の直径が300μmのイットリウムで安定化された酸化ジルコニウムビーズを充填した。その周囲の速度を6.5−14.0m/sに制御した。粉砕コンパートメントは、容積が6.3リットルであった。電力定格30kWで動かした。水で冷却することによって、粉砕コンパートメントの壁面から熱を除去した。制御された空気式ポンプによって、粉砕するスラリーを攪拌容器からミルを通って容器に戻した。望ましい特定の粉砕エネルギーに達するまで、この閉じられたループを操作した。
【0097】
2.リチウム遷移金属リン酸塩の一次粒子の合成
国際公開第2005/051840号の水熱合成によって、リチウム遷移金属リン酸塩、例えば、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO4が得られた。この合成方法を、Li
0.9+xFe
1−yMg
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yFe
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yCo
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yZn
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yAl
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−y(Zn,Mg)
y(PO
4)、Li
0.9+xFe
1−yMn
y(PO
4)のようなすべてのリチウム遷移金属リン酸塩に同様に適用され得る。
【0098】
用語「水熱合成又は条件」は、本発明の目的のために、100℃から200℃、好ましくは、100℃から170℃、特にきわめて好ましくは、120℃から170℃の温度、1barから40barの蒸気圧を意味する。特に、驚くべきことに、特にきわめて好ましくは、120−170℃、特に、160±5℃の温度で合成すると、160℃±5℃より高い温度で反応したときと比較して、このようにして得られた本発明のLi
0.9+xFe
1−yM
y(PO
4)の比容量が増加する。
【0099】
中間体生成物は、典型的には、処理工程(b)に従って水性懸濁物を調製する前に、濡れた濾過ケーキの形態で得られる。
【0100】
3.二次凝集体の形態でのリチウム遷移金属リン酸塩の合成
3.1 炭素コーティングされたLiFePO4(C−LiFePO4又はC−LFP)二次凝集体の調製
LiFePO
4の一次粒子から本質的になる湿った濾過ケーキは、典型的には、針状物及び平板状の形態であり、これを10質量%のラクトース(固体リチウム鉄リン酸塩を基準とする)と混合する。以下の粉砕工程の効率を最大限にするために、固形分含有量が52.5%の懸濁物を、蒸留水を用いて調製した。
【0101】
次いで、直径が300μmの研磨ビーズを含むボールミルを用い、懸濁物を連続的に粉砕する。研磨ビーズは、安定化された酸化ジルコニウムセラミックからなる。生成物の混入を避け、効果的な冷却を可能にするために、粉砕反応器を炭化ケイ素で被覆した。
【0102】
懸濁物に導入されるエネルギーは、懸濁物を冷却することによって除去され、主な熱量は、ミルによって直接的に除去される。
【0103】
懸濁物に加えられる機械的なエネルギーは、150kWh/tであった。
【0104】
粉砕した後、懸濁物を空気式ノズルによってスプレー乾燥した。懸濁物の固形分含有量は、52.5%であった。
【0105】
スプレー乾燥中、気体の投入温度が300℃であり、出口温度が105℃であった。
【0106】
気体からの固体生成物の分離をバッグフィルタで行った。不活性気体雰囲気下、750℃で、ロータリーキルン中、乾燥した凝集体をさらに熱分解した。得られた生成物は、バルク密度が1000g/lであり、タップ密度が1390g/lであり、プレス密度が2150g/lであった。
【0107】
そのようにして得られた生成物のSEM画像を記録した(
図1を参照)。
【0108】
生成物C−LFPの特徴は、以下のとおりであった。
【0109】
3.2 炭素コーティングされたLiMnPO4(C−LiMnPO4)二次凝集体の調製
実施例3.1のように合成を行った。LiFePO
4の代わりにLiMnPO
4を使用した。
【0110】
得られた生成物は、バルク密度が1010g/lであり、タップ密度が1380g/lであり、プレス密度が2100g/lであった。BET表面は、15m
2/gであった。この生成物の特徴は、以下のとおりであった。
【0111】
3.3 炭素コーティングされたLiCoPO4(C−LiCoPO4)二次凝集体の調製
実施例3.1のように合成を行った。LiFePO
4の代わりにLiCoPO
4を使用した。
【0112】
得られた生成物は、バルク密度が1000g/lであり、タップ密度が1400g/lであり、プレス密度が2120g/lであった。BET表面は、10m
2/gであった。この生成物の特徴は、以下のとおりであった。
【0113】
3.4 炭素コーティングされたLiMn0.67Fe0.33PO4(C−LiMn0.67Fe0.33PO4)二次凝集体の調製
実施例3.1のように合成を行った。LiFePO
4の代わりにLiMn
0.67Fe
0.33PO
4を使用した。
【0114】
得られた生成物は、バルク密度が1010g/lであり、タップ密度が1410g/lであり、プレス密度が2110g/lであった。BET表面は、15m
2/gであった。この生成物の特徴は、以下のとおりであった。
【0115】
3.5 比較例:もっと微細な炭素コーティングされたLiFePO4二次凝集体の調製
実施例3.1のように合成を行った。スプレー乾燥中、300℃の代わりに、気体の投入口温度を180℃に設定した。アトマイザによる霧化ノズル、及びアトマイザによる霧化圧力、出口温度及び乾燥用気体の量のような他の自由なスプレー乾燥パラメータは、実施例3.1と比較して変わらないままであり、低い気体投入口温度に合わせなかった。従って、かなり低い気体投入口温度によって、スラリー供給がかなり少なくなり、スラリー供給は、スプレードライヤの出口温度制御によって決定されるパラメータである。結果として、かなり少ないスラリー供給によって、アトマイザによる霧化後にかなり小さいスラリー液滴が得られ、最終的に、かなり微細な凝集生成物を生じる。
【0116】
得られた生成物は、平均凝集体の粒径(d
50)が約6μmであり、バルク密度が780g/lであり、タップ密度が1100g/lであった。この生成物の特徴は以下のとおりであった。
【0117】
この低い密度値(バルク、タップ及びプレス密度)を実施例3.1と比較し、 show that with 凝集体のこの低い平均粒径が約6μmである品質が悪い生成物が生成し、実施例3.1の生成物と比較して、低い体積エネルギー密度を示す。
【0118】
4.電極の調製
90重量部の本発明のリチウム遷移金属リン酸塩又は炭素コーティングされたリチウム遷移金属リン酸塩を、5部の炭素と混合することによって、電極を調製した。5部のバインダーをN−メチル−2−ピロリドン溶液で希釈し、混合物に加えた。この混合物を混練してスラリーを得た。スラリーを、ドクターブレードによって、集電体として働く集電体用アルミニウム箔に塗布した。この膜を500mbarの減圧下、60℃で2時間乾燥させた。
【0119】
高密度化のために圧板による加圧を使用した。しかし、例えば、カレンダープレスのような任意の他のプレスが同様に適している。加圧力は、500−10000N/cm
2、好ましくは、5000−8000N/cm
2の範囲であった。コーティング(活物質)充填密度のための目標値は、>1.5g/cm
3以上、さらに好ましくは、>1.9g/cm
3であった。
【0120】
減圧下で電極を2時間以上、好ましくは、約100℃の高温で乾燥させた。セルを「コーヒーバッグ」セル(電池)として整列させ、これは、アルミニウムコーティングされたポリエチレンバッグからなる。リチウム金属を対電極として使用した。エチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)の1:1混合物中の電解質として1M LiPF
6を使用した。それぞれの電池において、リチウムイオン透過性を有する微孔性ポリプロピレン箔(Celgard 2500;Celgard 2500は商標である)の1つの層をセパレーターとして使用した。減圧密封機を用い、バッグを密封した。
【0121】
Basytecセル試験システム(CTS)を用い、20℃で温度制御されたキャビネットで測定を行った。純粋なC−LiFePO
4又はLiFePO
4について、サイクリングのための電圧範囲は、2.0Vから4.0Vであった。他のカソード材料について、電圧は、このシステムの電圧プロファイルに従って調節されなければならない。例えば、C−LiFe
0.33Mn
0.67PO
4又はLiFe
0.33Mn
0.67PO
4は、4.3Vから2.0V。