特許第6535334号(P6535334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535334
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】ナノミスト発生装置の回転体構造
(51)【国際特許分類】
   B05B 3/02 20060101AFI20190617BHJP
   F24F 6/16 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   B05B3/02 J
   B05B3/02 B
   F24F6/16
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-547777(P2016-547777)
(86)(22)【出願日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2015072313
(87)【国際公開番号】WO2016039050
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-184765(P2014-184765)
(32)【優先日】2014年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000538
【氏名又は名称】株式会社コロナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸我 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】菅原 優輝
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−261609(JP,A)
【文献】 特開昭60−143854(JP,A)
【文献】 特開2010−12167(JP,A)
【文献】 特開2011−252692(JP,A)
【文献】 特開2001−304636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00− 3/18
7/00− 9/08
B05B17/00−17/08
F24F 6/00− 6/18
B01F 1/00− 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部よりも上部が拡径された擂り鉢状をなした回転体を回転させてナノミストを発生させるナノミスト発生装置の回転体構造であって、
前記回転体は、前記下部が貯水槽の水に浸漬され、前記上部にミスト飛散口が配設され、
前記ナノミスト発生装置は、前記回転体を回転させて当該回転体の内壁に沿って前記水を汲みあげて前記ミスト飛散口から飛散してナノミストを発生させ、
前記ミスト飛散口の上端高さにおける内壁半径を上部半径R1とし、
前記貯水槽の水に浸漬された喫水線の高さから前記ミスト飛散口の上端高さまでの高さを汲み上げ高さHとし、
この汲み上げ高さHの範囲内において前記内壁が水平線とのなす平均角度を側面平均角度θ1として、
−R1sinθ+2Hcosθsinθ+Hcosθ=0
である基本構造方程式を満たすθに対して、
前記側面平均角度θ1がθ±5%以内に設定されていることを特徴とするナノミスト発生装置の回転体構造。
【請求項2】
前記側面平均角度θ1は、前記喫水線と前記内壁との交点を下部内壁点とし、前記上端高さにおける内壁点を上部内壁点とし、
前記下部内壁点と前記上部内壁点とを結ぶ直線が水平線とのなす角度とすること、
を特徴とする請求項1に記載のナノミスト発生装置の回転体構造。
【請求項3】
前記側面平均角度θ1が50度≦θ<80度の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナノミスト発生装置の回転体構造。
【請求項4】
前記内壁は、正面断面視で直線状に延びるテーパ形状からなることを特徴とする請求項1に記載のナノミスト発生装置の回転体構造。
【請求項5】
前記内壁は、正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載のナノミスト発生装置の回転体構造。
【請求項6】
前記喫水線の高さが予め設定された下限値と上限値の間で変動するように制御されている場合には、前記下限値以上で前記上限値以下の数値を前記喫水線の高さとすること、
を特徴とする請求項1に記載のナノミスト発生装置の回転体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノミスト発生装置の回転体構造に係り、特に、ナノミスト発生装置の回転体構造における側面平均角度の設定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貯水槽の水を回転体の遠心力を利用して汲みあげて、ナノミスト(微細水滴)や負イオンを発生させるナノミスト発生装置が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1と特許文献2に記載されたナノミスト発生装置は、擂り鉢状の回転体の下部を貯水部に水没させた状態で回転させることで、貯水部の水をくみ上げて複数の細孔から水を飛散させて水の粒子を微細化したナノミストを発生させる。
【0004】
また、特許文献2に記載されたナノミスト発生装置では、貯水部に貯められた水の水位を検出して低水位から高水位の間で制御できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−12167号公報(請求項1、段落0011〜0018、図2図3参照)
【特許文献2】特開2011−252692号公報(請求項1、段落0009〜0014、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、貯水槽の水の汲み上げ量について回転体の内壁の傾斜角度が最適化されているかどうかを判断する基準がないので、ナノミストと負イオンの発生量が最大となるように試作と試験を繰り返して設計を行っていた。そのためナノミスト発生装置の用途や仕様が異なる製品ごとに回転体の内壁の傾斜角度を最適化するための試作と試験を繰り返さなければならないという問題があった。
【0007】
一方、近時、ナノミスト発生装置を搭載する製品が多様化し、個性を表現するためにデザイン性も重視されるため、回転体のサイズやスペース性も考慮しなければならないことから、設計の自由度が制約される中で、効率よく回転体の内壁の傾斜角度を最適化することが望まれる。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、回転体の側面平均角度を適正に設定して、ナノミストと負イオンの発生量を極大化することができるナノミスト発生装置の回転体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求範囲第1項に係る発明は、下部よりも上部が拡径された擂り鉢状をなした回転体を回転させてナノミストを発生させるナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記回転体は、前記下部が貯水槽の水に浸漬され、前記上部にミスト飛散口が配設され、前記ナノミスト発生装置は、前記回転体を回転させて当該回転体の内壁に沿って前記水を汲みあげて前記ミスト飛散口から飛散してナノミストを発生させ、前記ミスト飛散口の上端高さにおける内壁半径を上部半径R1とし、前記貯水槽の水に浸漬された喫水線の高さから前記ミスト飛散口の上端高さまでの高さを汲み上げ高さHとし、この汲み上げ高さHの範囲内において前記内壁が水平線とのなす平均角度を側面平均角度θ1として、−R1sinθ+2Hcosθsinθ+Hcosθ=0である基本構造方程式を満たすθに対して、前記側面平均角度θ1がθ±5%以内に設定されていることを特徴とする。
【0010】
〈基本構造方程式の導出〉
本発明におけるナノミスト発生装置は、図5に示すように、回転体の回転による遠心力加速度αに起因する水の壁面上昇加速度α1(回転体の内壁面を上昇する水の加速度)を判断基準として側面平均角度θ1を設定する。本発明におけるナノミスト発生装置は、回転体の遠心力加速度αを利用して水を汲み上げるため、壁面上昇加速度α1を極大にすることで、水の汲み上げ量を極大にしてナノミストおよび負イオンの発生量を極大にすることができる。壁面上昇加速度α1は、回転体の内壁半径Rと壁面角度θ、および角速度ωから求めることができる。
壁面上昇加速度α1=Rωcosθ
【0011】
この式において、回転体の形状に起因する因子は、回転体の内壁半径Rと壁面角度θであるから、Rcosθ(「壁面上昇加速度単位」という。)の値に着目する。つまり、水の汲み上げ量を極大(最大)にするには、壁面上昇加速度を極大にすればよく、そのためには壁面上昇加速度単位を極大にすればよい。
【0012】
本発明において、前記ミスト飛散口の上端高さにおける前記内壁半径を上部半径R1とし、前記貯水槽の水に浸漬された喫水線の高さから前記ミスト飛散口の上端高さまでの高さを汲み上げ高さHとし、前記内壁が水平線とのなす平均角度を側面平均角度θ1とすると、喫水線の高さにおける前記内壁半径を下部半径R2は、
下部半径R2=R1−H/tanθ と表すことができる。
【0013】
喫水線の高さにおける壁面上昇加速度単位は、以下のように表すことができる。
R2cosθ=R1cosθ−Hcosθ/sinθ
f(θ)=R1cosθ−Hcosθ/sinθ と置く。
この式は、上部半径R1と汲み上げ高さHをデザイン性や設計仕様等の別の考え方により既知とすると、θに関する1変数関数とみなすことができる。
【0014】
なお、概念を平易にするため便宜上、喫水線の高さにおける下部半径R2を使用して壁面上昇加速度単位を導出したが、喫水線の高さではなく所定の高さにおける内壁半径を使用しても同様に壁面上昇加速度単位を導出することができる。
【0015】
θの極大値を求めるために、f′(θ)=0とおくと、
f′(θ)=−R1sinθ−H(−2cosθsinθ+cosθ)/sinθより、
−R1sinθ+2Hcosθsinθ+Hcosθ=0
この式を側面角度に関する基本構造方程式という。
【0016】
このようにして、本発明に係るナノミスト発生装置の回転体構造は、側面平均角度θの基準値を設定する基本構造方程式を求めたことで、水の汲み上げ量を極大にする側面平均角度を適正に設定して、確実にナノミストと負イオンの発生量を極大化することができる。
【0017】
本発明の請求範囲第2項に係る発明は、請求範囲第1項に記載のナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記側面平均角度θ1は、前記喫水線と前記内壁との交点を下部内壁点とし、前記上端高さにおける内壁点を上部内壁点とし、前記下部内壁点と前記上部内壁点とを結ぶ直線が水平線とのなす角度とすること、を特徴とする。
【0018】
本発明において、側面平均角度θ1は、前記下部内壁点と前記上部内壁点とを結ぶ直線が水平線とのなす角度とすることができる。
【0019】
本発明の請求範囲第3項に係る発明は、請求範囲第1項または請求範囲第2項に記載のナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記側面平均角度θ1が50度≦θ<80度の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0020】
本発明において、前記上部半径R1(例えば、33mm)および前記汲み上げ高さH(例えば、61mm)について、最適な側面平均角度θ1を基本構造方程式から求めると75.7度であり、実験結果とも合致するため、側面平均角度θ1の適正範囲の基準を設定したものである。
【0021】
本発明の請求範囲第4項に係る発明は、請求範囲第1項に記載のナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記内壁は、正面断面視で直線状に延びるテーパ形状からなることを特徴とする。
【0022】
本発明は、回転体を正面断面視で直線状に延びるテーパ形状とすることで、汲み上げ高さの範囲内において壁面上昇加速度を極大値付近で保持することができるため、水の汲み上げ量を極大値付近で安定して保持することができる。
【0023】
本発明の請求範囲第5項に係る発明は、請求範囲第1項に記載のナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記内壁は、正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状をなしていることを特徴とする。
【0024】
本発明は、回転体を正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状とすることで、汲み上げ高さの範囲内において下部では内壁の側面角度を小さくして、上部に向かうにつれて徐々に大きくなる。本発明は、実験の結果、回転体を正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状とすることで、テーパ形状とした場合よりも負イオンの発生量をより増大させることを確認することができた。
【0025】
本発明の請求範囲第6項に係る発明は、請求範囲第1項に記載のナノミスト発生装置の回転体構造であって、前記喫水線の高さが予め設定された下限値と上限値の間で変動するように制御されている場合には、前記下限値以上で前記上限値以下の数値を前記喫水線の高さとすること、を特徴とする。
【0026】
本発明は、喫水線の高さが変動するタイプのナノミスト発生装置の回転体構造にも適用でき、そのような場合には前記下限値以上で前記上限値以下の数値を前記喫水線の高さとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るナノミスト発生装置の回転体構造は、回転体の側面平均角度を適正に設定して、ナノミストと負イオンの発生量を極大化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態に係る回転体の外観を示す斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るナノミスト発生装置の回転体構造を示す正面断面図である。
図3】本発明の回転体構造における側面平均角度および喫水線を説明するための模式的な正面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係るナノミスト発生装置の回転体構造を示す正面断面図である。
図5】本発明の回転体構造における基本構造方程式を導出する過程を示す。
図6】本発明の実施形態に係る回転体構造における加湿量と側面平均角度との関係を示すグラフであり、(a)はテーパ形状にした場合、(b)は曲面形状にした場合である。
図7】本発明の実施形態に係る回転体構造における負イオン量と側面平均角度との関係を示すグラフであり、(a)はミスト飛散口(穴)の総面積を90mmにした場合、(b)は曲ミスト飛散口の総面積を130mmにした場合である。
図8】本発明の回転体構造における喫水線の概念を示す模式的正面図であり、(a)は水位固定タイプの喫水線の概念を示し、(b)は水位変動タイプの喫水線の概念を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の実施形態に係るナノミスト発生装置10Aの回転体構造1Aについて適宜図1図2を参照しながら詳細に説明する。
ナノミスト発生装置10Aは、図1に示すように、下部よりも上部が拡径された擂り鉢状をなした回転体2Aと、回転体2Aを回転させるモータ3と、回転体2Aで汲みあげる水Wを貯めた貯水槽4(図2参照)と、を備え、回転体2Aを回転させてナノミストと負イオンを発生させる。ナノミスト発生装置10Aは、極めて微小なミストを生成することで爽やかさを保ちながら保湿し、負イオンによって除菌効果やリラックス効果があるので、健康増進のために愛用される。
【0030】
回転体2Aは、図2に示すように、下部よりも上部が拡径された擂り鉢状をなし、内壁21Aが正面断面視で直線状に延びるテーパ形状をなしている。回転体2Aは、下部が貯水槽4の水Wに浸漬され、上部にミスト飛散口22が配設されている。ミスト飛散口22の周囲には、ミスト飛散口22から飛散されたミストをさらに微細化して負イオンを発生させるスリットや金網等からなる多孔体23が配設されている。
【0031】
かかる構成により、ナノミスト発生装置10Aは、回転体2Aを回転させて回転体2Aの内壁21Aに沿って貯水槽4に貯えられた水Wを汲みあげてミスト飛散口22から飛散するとともに、多孔体23に衝突させて破砕することでナノミストと負イオンを効果的に発生させる。
【0032】
本発明の実施形態に係るナノミスト発生装置10Aの回転体構造1Aは、ミスト飛散口22の上端高さにおける内壁半径Rを上部半径R1とし、貯水槽4の水Wに浸漬された喫水線Lの高さからミスト飛散口22の上端高さまでの高さを汲み上げ高さHとし、この汲み上げ高さHの範囲内において内壁21が水平線とのなす角度を側面平均角度θ1として、
−R1sinθ+2Hcosθsinθ+Hcosθ=0
である基本構造方程式を満たすθに対して、側面平均角度θ1をθ±5%以内に設定すれば、水の汲み上げ量を極大にする側面平均角度θ1を適正に設定することができるため、ナノミストと負イオンの発生量を極大化することができる。
【0033】
例えば、設計仕様であるナノミスト発生装置10の大きさや既知である回転体2の形状等から設定される回転体2の形状により上部半径R1が定められ、回転体2の下端からミスト飛散口22の上端までの高さから貯水槽4の水を汲み上げるために必要な回転体2下端の水没部分の所定高さを差し引いた設計汲み上げ高さH′が定められ、この設計汲み上げ高さH′の位置と喫水線Lとが一致するよう回転体2を貯水槽4内に配置されている場合には、側面平均角度θ1は以下のように設定することができる。なお、設計汲み上げ高さH′は喫水線Lからミスト飛散口22までの高さである汲み上げ高さHと一致するので、以後では汲み上げ高さHに統一して説明する。
【0034】
すなわち、ナノミスト発生装置10の大きさや既知である回転体2の形状等からナノミスト発生装置10における回転体2の形状に係る数値として、上部半径R1が33mmに設定され、汲み上げ高さHが61mmに設定されている場合には、基本構造方程式を満たす側面平均角度θは、75.7度である。
【0035】
したがって、θ=75.7度は、側面上昇加速度が極大値となり、水の汲み上げ量を極大にする側面平均角度であるから、側面平均角度θ1の基準値としてθを約71.9度〜約79.5度の範囲内で設定することができる。
【0036】
〈側面平均角度〉
ここで、側面平均角度とは、図3に示すように、喫水線Lと内壁21(図2を併せて参照)との交点を下部内壁点51とし、汲み上げ高さHにおける内壁21との交点を上部内壁点と52したときに、下部内壁点51と上部内壁点52とを結ぶ直線5が水平線(例えば、喫水線L)とのなす角度をいう。
【0037】
したがって、正面断面視で直線状に延びるテーパ形状からなる内壁21の場合には、下部内壁点51と上部内壁点52とを結ぶ直線5が水平線(喫水線L)とのなす角度θが側面平均角度θ=θ1である。
【0038】
同様に、正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状をなしている内壁21Aの場合であっても、下部内壁点51と上部内壁点52とを結ぶ直線5が水平線(喫水線L)とのなす角度θが側面平均角度θ=θ1である。下部内壁点51と上部内壁点52とが同じであれば、テーパ形状からなる内壁21でも曲面形状からなる内壁21Aであっても、側面平均角度θは同じである。
【0039】
〈喫水線〉
基本構造方程式において、喫水線Lの高さとは、貯水槽4に貯えられた水Wの高さをいう。喫水線Lの高さは、回転体2によって水Wが汲み上げられると水位も変化するが、ナノミスト発生装置10の用途や仕様によって略一定の高さに制御される水位固定タイプ(図8(a)参照)と、上限水位と下限水位の間で水位が変動しながら制御される水位変動タイプ(図8(b)参照)と、に分類される。
【0040】
水位固定タイプは、図8(a)に示すように、回転体2によって水Wが汲み上げられて水位L(喫水線の高さL)が下がると水タンク41内の水Wがタンクキャップ42の供給穴42aから供給され、水位Lが上がりタンクキャップ42の端面まで来て供給穴42aがふさがれると水の供給が止まり、水位(喫水線の高さL)を略一定に制御する。
水位固定タイプでは、ナノミスト発生装置10の大きさや既知である回転体2の形状等から設定される汲み上げ高さHと喫水線Lの高さとが一致するよう回転体2を貯水槽4内に配置する。
【0041】
水位変動タイプは、図8(b)に示すように、回転体2によって水Wが汲み上げられて水位Lが下がると、フロートセンサ42bで下限水位L1を検知して図示しない給水管から貯水槽4内に給水を開始し、上限水位L2まで給水されたと判断したら上限水位設定手段42cで給水を停止させることで下限水位L1と上限水位L2との範囲L1〜L2で水位(喫水線の高さL)を制御する。
【0042】
水位変動タイプでは、前記設計汲み上げ高さH′における回転体2の最適な側面平均角度θに対して、変動する喫水線Lの高さに対応する側面平均角度θがθ±5%以内に収まるように下限水位L1と上限水位L2とを設定し、下限水位L1と上限水位L2の中間位置である喫水線Lと設計汲み上げ高さH′とが一致するよう回転体2を貯水槽4内に配置する。
ここで、下限水位L1と上限水位L2との差は小さく設定されていることが好ましい。
【0043】
続いて、本発明の第2の実施形態に係るナノミスト発生装置10Bにおける回転体構造1Bについて主として図4を参照しながら説明する。
第2の実施形態に係る回転体2Bは、内壁21Bが正面断面視で外側に膨らんだ曲面形状をなしている点で、内壁21Aが直線状に延びるテーパ形状からなる第1の実施形態に係る回転体2Aと相違するが、その他の構成は第1の実施形態に係るナノミスト供給装置10Aと同様であるので、同様である構成は同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
第2の実施形態に係る回転体2Bは、上部半径R1、汲み上げ高さH、側面平均角度θ1を第1の実施形態に係る回転体2Aと同じに構成している。
【0044】
第2の実施形態に係る回転体2Bは、喫水線Lにおける下部内壁点51では内壁21Bの側面角度はθ11であり、上端高さにおける上部内壁点52では内壁21Bの側面角度はθ12であり、下部内壁点51から上部内壁点52に向かうにつれて側面角度が徐々に大きくなっている(θ11<θ12)。
【0045】
以上のように構成された本発明の実施形態に係るナノミスト発生装置10A,10Bの回転体構造1A,1B(上部半径R1=33mm、汲み上げ高さH=61mm)における動作について主として図6図7の実験結果を参照しながら説明する。
参照する図6は、ナノミストの発生量と正の相関関係がある加湿量(ml/h)について、回転体の形状(テーパ形状の回転体2A、曲面形状の回転体2B)や側面平均角度θ1(68度、75度)がどのように影響を及ぼすかを実験して確認したものであり、(a)はテーパ形状の回転体2Aにした場合、(b)は曲面形状の回転体2Bにした場合である。
また、この場合において、ミスト飛散口22の全体の総開口面積(穴総面積mm)の影響を確認するため、穴総面積が90mmの場合と130mmの場合の2種類を対比した。
【0046】
なお、側面平均角度θ1が80度の場合についても実験を行ったが、水Wの汲み上げ力が不足してナノミストの発生を計測できなかったので、側面平均角度θ1が68度と75度のデータのみを示す。
【0047】
図6に示すように、加湿量(ml/h)は、側面平均角度θ1が68度よりも75度の方が回転体2の形状によらずに発生量が多い。
また、側面平均角度θ1が75度において、図6(a)に示すように、テーパ形状の回転体2A(図2参照)では66〜70ml/hであるのに対し、図6(b)に示すように、曲面形状の回転体2B(図4参照)では61ml/hであるから、テーパ形状の回転体2A(図2参照)の方が曲面形状の回転体2B(図4参照)よりも優れている。
【0048】
一方、側面平均角度θ1が68度において、図6(a)に示すように、テーパ形状の回転体2A(図2参照)では50〜54ml/hであるのに対し、図6(b)に示すように、曲面形状の回転体2B(図4参照)では54ml/hであるから、テーパ形状の回転体2A(図2参照)の方が曲面形状の回転体2B(図4参照)よりも、側面平均角度や穴総面積の影響を大きく受けることがわかる。
【0049】
なお、側面平均角度θ1が80度の場合には、水Wの汲み上げ力が不足してナノミストの発生を計測できなかったが、回転体2(2A,2B)の回転速度や回転半径を大きくすれば、側面平均角度θ1が68度、80度よりも75度付近(極値を示す75.7度)が加湿量(ml/h)の極大値であることが推認される。これは、前記基本構造方程式から予測した側面平均角度が最適値であることを裏付けるものである。
【0050】
また、側面平均角度θ1が過度に小さくなると、回転体2自体の大きさが増大することでナノミスト発生装置10全体の大きさが増大するため、器具の製造が困難になる。よって前記実験結果も踏まえて側面平均角度θ1の範囲を50度≦θ<80度、より好ましくは68度≦θ<80度となるよう回転体2の形状を決定する。
【0051】
図7は、負イオン発生量(固/cc)について、回転体2の形状(テーパ形状の回転体2A、曲面形状の回転体2B)や側面平均角度θ1(68度、75度、80度)がどのように影響を及ぼすかを実験して確認したものであり、(a)は穴総面積が90mmの場合、(b)は穴総面積が130mmの場合である。
【0052】
図7に示すように、負イオン発生量(固/cc)は、側面平均角度θ1が68度よりも75度の方が穴総面積によらずに発生量が多い。また、側面平均角度θ1が68〜75度において、曲面形状の回転体2B(図4参照)の方がテーパ形状の回転体2A(図2参照)よりも優れている。これは、回転体2を曲面形状にすることで、回転体2の内壁面を垂直に押す圧縮加速度が有利に働き、ミスト飛散口22から飛び出すミストの速度が増大し、ミスト飛散口22の外周に配設された多孔体23への衝突、さらに多孔体23の外周側に配設された器体壁(図示しない)への衝突により、水微細力が増大したことが原因だと推認される。
【0053】
また、テーパ形状の回転体2A(図2参照)では、図7(a)に示すように、側面平均角度θ1が75度において、穴総面積が90mmの場合には、9500(固/cc)であるのに対し、図7(b)に示すように、穴総面積が130mmの場合には、約8300(固/cc)であるから、テーパ形状の回転体2A(図2参照)の方が曲面形状の回転体2B(図4参照)よりも穴総面積の影響をより大きく受ける。
【0054】
なお、図6に示す加湿量(ml/h)と同様に、回転体2(2A,2B)の回転速度や回転半径を大きくすれば、側面平均角度θ1が68度、80度よりも75度付近(極値を示す75.7度)が負イオン発生量(固/cc)の極大値であることが推認される。
【0055】
これは、前記基本構造方程式から予測した側面平均角度が最適値であることを裏付けるものである。また、側面平均角度θ1が過度に小さくなると、回転体2自体の大きさが増大することでナノミスト発生装置10全体の大きさが増大するため、器具の製造が困難になる。よって前記実験結果も踏まえて側面平均角度θ1の範囲を50度≦θ<80度、より好ましくは68度≦θ<80度となるよう回転体2の形状を決定する。
【0056】
以上より、本発明の実施形態に係るナノミスト発生装置10(10A,10B)における回転体構造1(1A,1B)は、デザイン上の要請等から上部半径R1と汲み上げ高さHが設定されている場合には、基本構造方程式を満たす側面平均角度θを求めることで、側面上昇加速度が極値となる側面平均角度θを導出して、水の汲み上げ量を極大にすることができる。
【0057】
このため、側面平均角度θ1をθの±5%以内に設定すれば、水Wの汲み上げ量を極大にする側面平均角度θ1を適正に設定することができるため、ナノミストの発生量と正の相関関係がある加湿量と負イオンの発生量を極大化することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されず、適宜変形して実施することが可能である。例えば、本実施形態においては、側面上昇加速度が極値となる側面平均角度θ(75.7度)に対して、側面平均角度θ1を75.7度の±5%以内(約71.9度〜約79.5度)に設定したが、より好適な±3%以内に設定したり、内壁面の摩擦抵抗、回転半径、汲み上げ高さ等の影響を考慮して、適宜−5%から+3%の範囲内に設定したりすることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B 回転体構造
2,2A,2B 回転体
3 モータ
4 貯水槽
10,10A,10Bナノミスト発生装置
21,21A,21B 内壁
22 ミスト飛散口
23 多孔体
41 水タンク
42 タンクキャップ
42a 供給穴
42b フロートセンサ
42c 上限水位設定手段
51 下部内壁点
52 上部内壁点
L 喫水線
L1 下限水位
L2 上限水位
R 内壁半径
R1 上部半径
R2 下部半径
W 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8