(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535345
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】スーパーキャパシタ電極用のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物、エアロゲル及び多孔質炭素、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 61/12 20060101AFI20190617BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20190617BHJP
C08J 3/075 20060101ALI20190617BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20190617BHJP
C08L 39/00 20060101ALI20190617BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20190617BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20190617BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20190617BHJP
H01G 11/44 20130101ALI20190617BHJP
【FI】
C08L61/12
C01B32/05
C08J3/075
C08L101/14
C08L39/00
C08L79/02
C08L33/00
C08G8/00 C
H01G11/44
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-560914(P2016-560914)
(86)(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公表番号】特表2017-519053(P2017-519053A)
(43)【公表日】2017年7月13日
(86)【国際出願番号】FR2014050827
(87)【国際公開番号】WO2015155419
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャックモン ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ドリー ユーゴ
(72)【発明者】
【氏名】ビューロー ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ フィリップ
【審査官】
大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−534935(JP,A)
【文献】
特表2015−513570(JP,A)
【文献】
Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engneering Aspects,2010年 3月27日,362,28-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L61
C08G4−16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥によって非モノリス有機エアロゲルを形成することができるゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物であって、
該水性高分子組成物が、水性溶媒Wに溶解された、ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rとホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fと少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pとの重縮合から少なくとも部分的に得られ、
前記水性高分子組成物が、水性媒体中で架橋する剪断減粘性物理ゲルを形成する沈降プレポリマーのミクロ粒子の前記水性媒体中における分散液から形成されており、
前記水性高分子組成物が、以下を含む方法により得られることを特徴とする、水性高分子組成物:
前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質P、及び酸触媒又は塩基性触媒Cの存在下で、前記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rとホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとを水性溶媒Wに溶解させ、該水性溶媒W中において、前記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rと、前記ホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fと、前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pと、酸触媒又は塩基性触媒Cとを含む、水溶液を得ることと、
前記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rと前記ホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fと前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pとのプレポリマーが沈降するまで、前記水溶液をプレポリマー重合させ、前記沈降プレポリマーを得ることと、
前記沈降プレポリマーを前記水性溶媒Wで希釈し、前記水性媒体中で前記沈降プレポリマーのミクロ粒子の分散液を得ることと、
前記水性媒体を加熱することによって、該水性媒体中において希釈された前記沈降プレポリマーを架橋させること。
【請求項2】
前記ミクロ粒子が、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、1μm〜100μmの体積中位粒径を有することを特徴とする、請求項1に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物。
【請求項3】
前記水性媒体中の前記ミクロ粒子の分散液における前記剪断減粘性物理ゲルの重量分率が、10%〜40%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物。
【請求項4】
P/R重量比が、0.5未満であり、好ましくは0.01〜0.1であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物。
【請求項5】
前記水性高分子組成物が有機溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pが、第四級アンモニウム塩、ポリ(ビニルピリジニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートクロライド)、ポリ(アクリルアミド−co−ジメチルアンモニウムクロライド)、及びそれらの混合物で構成される群から選ばれる有機ポリマーであり、好ましくは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ハライドから選ばれる第四級アンモニウムに由来の単位を含む塩であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を乾燥させることにより得られる非モノリス有機エアロゲルであって、該非モノリス有機エアロゲルが、炉内の加熱によって乾燥した前記ミクロ粒子の粉末から形成され、前記乾燥したミクロ粒子が、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、10μm〜80μmの体積中位粒径を有することを特徴とする、非モノリス有機エアロゲル。
【請求項8】
前記非モノリス有機エアロゲルの比表面積及び細孔容積がともに、主にミクロ多孔性、好ましくは60%より大きいミクロ多孔性を示すことを特徴とする、請求項7に記載の非モノリス有機エアロゲル。
【請求項9】
40mW/(m・K)以下の熱伝導率を有することを特徴とする、請求項7又は8に記載の非モノリス有機エアロゲル。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の非モノリス有機エアロゲルの熱分解から得られる非モノリス多孔質炭素であって、該非モノリス多孔質炭素が、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、10μm〜80μm、好ましくは10μm〜20μmの体積中位粒径を有するミクロスフェアの粉末から形成されることを特徴とする、非モノリス多孔質炭素。
【請求項11】
400m2/gより大きいミクロ多孔性比表面積及び200m2/g未満のメソ多孔性比表面積を含む、500m2/g以上の総比表面積、及び/又は、
0.15cm3/gより大きいミクロ孔容積を含む0.25cm3/g以上の細孔容積を有することを特徴とする、請求項10に記載の非モノリス多孔質炭素。
【請求項12】
スーパーキャパシタセルに搭載するのに、水性イオン性電解質に浸漬させることによって使用することができる電極であって、該電極が金属製集電体を被覆しており、該電極が、活物質として、請求項10又は11に記載の非モノリス多孔質炭素を含み、かつ200μm未満の厚さを有すること、及び好ましくは、該電極が、軸に巻きつけた幾何学的形状、例えば略円柱状を有することを特徴とする、電極。
【請求項13】
連続的に、
a)前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質P、及び前記酸触媒又は塩基性触媒Cの存在下で、前記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rとホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとを前記水性溶媒Wに溶解させ、水溶液を得ることと、
b)a)で得られた前記水溶液を、プレポリマーが沈降するまで、好ましくは40℃を超える温度、例えば45℃〜70℃の油浴内でプレポリマー重合させ、前記剪断減粘性物理ゲルを形成する沈降プレポリマーを得ることと、
c)任意に、前記沈降プレポリマーを、好ましくは20℃未満の温度まで冷却させることと、
d)前記沈降プレポリマーを前記水性溶媒Wで希釈し、水性媒体中の前記プレポリマーの前記ミクロ粒子の前記分散液を形成することと、
e)前記水性媒体を加熱することによって、該水性媒体中において希釈された前記沈降プレポリマーを架橋させることと、
を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項14】
工程a)では、前記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質P及び前記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rを、0.5未満、好ましくは0.01〜0.1のP/R重量比により使用することを特徴とする、請求項13に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項15】
工程d)を、10℃〜30℃の温度で、10%〜40%、好ましくは15%〜30%の前記ミクロ粒子を含む前記水性媒体中における前記沈降プレポリマーの重量分率により行うことを特徴とする、請求項13又は14に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項16】
工程e)の加熱を、還流させた状態で少なくとも1時間、撹拌しながら80℃〜110℃の温度で行い、前記剪断減粘性物理ゲルを完全に重合させることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項17】
前記方法は、工程e)後に、前記架橋された沈降プレポリマーの前記分散液に適用される分離工程f)を含み、該分離工程f)が、該水性分散液の上澄水の沈殿及び除去、そうでなければ、前記水性分散液の濾過を含むことを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項18】
有機溶媒を使用せず、モノリスゲルを得る工程及びモノリスゲルを粉砕する工程も用いないことを特徴とする、請求項13〜17のいずれか一項に記載のゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法。
【請求項19】
前記ゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を、溶媒交換も、超臨界流体による乾燥も伴うことなく炉内で加熱することによって乾燥させることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の非モノリス有機エアロゲルを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥によって非モノリス有機エアロゲルを形成することができるゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物、該エアロゲル、該エアロゲルの熱分解により得られる非モノリス多孔質炭素、該多孔質炭素をベースとする電極、並びに該組成物及び該エアロゲルの製造方法に関する。本発明は、例えば電気自動車に搭載するのに好適なスーパーキャパシタに特に適用される。
【背景技術】
【0002】
有機エアロゲルは、わずか0.012W/(m・K)、すなわち、シリカエアロゲルにより得られる熱伝導率(0.010W/(m・K))に近いとされ得る熱伝導率を有することから、断熱材としての使用に極めて有望である。事実、有機エアロゲルは、高度に多孔性であり(ミクロ多孔性であるとともにメソ多孔性でもある)、大きい比表面積及び大きい細孔容積を有する。
【0003】
大きい比表面積を有する有機エアロゲルは通例、レゾルシノール−ホルムアルデヒド(RFと略される)樹脂から製造される。これらの樹脂は、安価で、水中で使用することができ、かつ製造条件(試薬間の比率、触媒の選択等)に応じて様々な多孔度及び密度を得ることを可能とすることから、これらのエアロゲルを得るのに特に有利とされる。他方、このような樹脂によって形成されるゲルは通常、前駆体の重縮合によって得られ、かつもはや加工することができない不可逆的な化学ゲルである。さらに、変換率が高いと、このゲルは疎水性となって沈降し、それにより材料内に機械的応力を引き起こすため、脆弱性が増大する。そのため、材料の密度を小さくするために、ゲル構造の破壊又は収縮、及び比表面積の損失が起こらないように十分に穏やかに水を乾燥させる方法を使用する必要がある。これは通例、特許文献1に記載されているような、アルコールによる溶媒の交換及びそれに次ぐCO
2等の超臨界流体による乾燥、又は、凍結乾燥を伴うものである。これらの技法は複雑で費用がかかるため、より単純な乾燥方法によって得ることができる、大きい比表面積を有する有機エアロゲルを開発することが望ましい。
【0004】
レゾルシノール−ホルムアルデヒド有機エアロゲルは、カーボンエアロゲル(すなわち、多孔質炭素)を得るために、不活性雰囲気下において600℃を超える温度で熱分解することができる。これらのカーボンエアロゲルは、高温で安定した断熱材としてだけでなく、スーパーキャパシタ用の電極の活物質としても有利である。
【0005】
スーパーキャパシタが、電気エネルギーを高出力で変換することを要する用途に特に有利とされる電気エネルギー貯蔵システムであることを忘れてはならない。それらの急速な充放電能、及びハイパワーバッテリーと比較したそれらの長い耐用期間から、スーパーキャパシタは、数ある用途に期待される候補物となっている。スーパーキャパシタは概して、大きい比表面積を有する2つの導電性多孔質電極の組合せからなり、それらの電極はイオン性電解質中に浸漬し、かつ「セパレータ」と称される絶縁膜によって隔てられており、セパレータは、イオン伝導性をもたらすとともに、電極間の電気的接触を防止するものである。各電極は、外部システムとの電流のやり取りを可能とする金属製集電体と接触している。
【0006】
スーパーキャパシタにおいて実現可能な容量は、比表面積が最大となった炭素系電極の使用の結果、また電気化学的な二重層の極端な薄さ(通例数nm厚)の結果として、従来のキャパシタによって実現されるものよりもかなり大きい。これらの炭素系電極は、電荷の移送を確実なものとするために導電性であり、イオン電荷の移送及び大きい表面積にわたる電気二重層の形成を確実なものとするために多孔性であり、また、任意のエネルギーを消費するような寄生反応(parasitic reaction:副反応)を回避するために化学的に不活性でなければならない。
【0007】
スーパーキャパシタの電極を製造する従来技術としては、非特許文献1を挙げることができる。この文献は、炭酸ナトリウム系塩基性触媒Cに加えて、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)からなるカチオン性高分子電解質Pを含む、RFの水性化学ゲルから得られるメソ多孔性モノリス炭素を開示しており、該メソ多孔性モノリス炭素は、空気乾燥(すなわち、溶媒交換も、超臨界流体による乾燥も伴わない)後のゲルの多孔性の維持を可能とする。モノリスゲルは、モル比R:F:C:P=1:2.5:9×10
−3:1.6×10
−2及び対応する濃度[4M]:[10M]:[0.036M]:[0.064]により、RとFとを直ちにC及びPの存在下、70℃で24時間重合することによって製造される。なお、この文献は、30頁(左欄、第1パラグラフ)に、「対照」例として、粉末形態のゲルを、モノリスゲルに使用したものよりも10倍大きいP/Rモル比で調製したことを付け加えている。Pの数平均分子量が4763g/molであれば、これより、モノリスゲル及び粉末状のゲルを調製するのに使用したP/R重量比はそれぞれ0.69及び6.91と推測される。
【0008】
上記文献に提示されている不可逆的なモノリス化学ゲルは、2mm未満の厚さでの塗布に完全に不適切なものとなる極めて小さい粘度を有し、また特に効率的に乾燥することが難しい大容量のゲルでは、モノリス有機エアロゲルを、(最終電極を得るために結合剤の有無にかかわらず凝集させる)エアロゲル粉末へと変換する中間工程を必要とするという大きな欠点を有する。したがって、モノリスから開始すると、費用がかかるとともに十分に制御されない粉砕工程を経る必要がある。
【0009】
上記文献における比較によって提示される粉末形態の化学ゲルによると、それらは、極めて小さい収率及び極めて小さい多孔質炭素比表面積(わずか約4m
2/g)を伴って得られるという欠点を有する。
【0010】
特許文献2として本特許出願人により出願された特許出願は、
水溶液を得るために、上述の文献のものと同様のカチオン性高分子電解質及び触媒の存在下で、水にレゾルシノール−ホルムアルデヒド前駆体を溶解させる工程と、
ずり減粘性(rheofluidifying)物理ゲルを形成するプレポリマーを得るために、この溶液が沈降するまでこの溶液をプレポリマー重合させる工程と、
このゲルを形成するこの沈降プレポリマーを、2mm未満の厚さで塗布又は成型する工程と、
多孔質キセロゲルを得るために、この塗布又は成型したゲルを、加湿炉内で架橋及び乾燥させる工程と、
多孔質炭素を得るために、キセロゲルを熱分解する工程と、
によって通例得られる、スーパーキャパシタ電極用の有機エアロゲル、及びモノリス多孔質炭素形態のその熱分解物を提示している。
【0011】
既知のように、スーパーキャパシタのエネルギー密度を増大させるために、渦巻状の構成を使用することが更に好ましく、スーパーキャパシタの1つ又は複数の(the or each)セルは、活物質をベースとする電極と、セパレータとで被覆した(coated)金属製集電体の層からなる、軸に巻きつけた円柱状の形態をとる。モノリス電極の使用は、嵌合又は湾曲し得ない炭素系活物質の剛性の理由から、この円柱状の構成では不可能である。さらに、高出力運転のためには、200μm未満の厚さの活物質層を使用することが必要となり、モノリス多孔質炭素はこの薄い厚さでは概して脆弱となりすぎる。
【0012】
多孔質炭素をスーパーキャパシタ電極に組み込むために、多孔質炭素をミクロ粒子形態で、非活性な有機結合剤及び溶媒中に分散させ、次いで、得られたペーストを集電体(current collector)上に塗布することが、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5から特に知られている。多孔質炭素がミクロ粒子形態で利用可能であることから、その後、200μm未満の堆積厚を得ること、及び対応する電極を巻きつけて円柱状スーパーキャパシタを形成することが可能となる。
【0013】
ミクロ粒子形態のこれらの多孔質炭素を得るためには、上記の炭素モノリスを通常摩砕するが、これらは多数の欠点を示す。具体的には、モノリスの合成時、反応後にゲルを形成するように、R及びFの前駆体の混合物を通例密閉型に入れる。しかしながら、混合物が金型に接着することを制限するために、金型に、通例フッ素化した非接着性塗膜を施すことが必要となり、それにより高いコストが発生する。さらに、厚いモノリスのゲル化及び乾燥は、かなり長時間、およそ1日〜数日にわたり、モノリスの粉砕もコストのかなりの増大をもたらすとともに、得られるミクロ粒子の直径の制御が困難であることが証明され得る。
【0014】
したがって、これまでは、
レゾルシノール−ホルムアルデヒド等の前駆体の水性有機相を、鉱油又は非水溶性有機溶媒中に分散させる工程と、
得られる分散液を加熱する工程と、
非水系有機相を除去するために分離する工程と、
水を有機溶媒(例えばアセトン)と交換する工程と、
有機エアロゲルを得るために、超臨界流体を用いて乾燥させる工程と、
任意に、多孔質炭素を得るために、熱分解させる工程と、
を含む、ミクロ粒子形態の有機エアロゲル粉末を合成する直接的な方法を提示している特許文献6に記載されているような方法を開発することが求められてきた。
【0015】
この方法では、1μm〜3mmの範囲の直径及び比較的大きい比表面積を有するエアロゲルミクロスフェアを得ることが可能となる。それにもかかわらず、この方法は、超臨界流体を用いて乾燥させる工程のように費用のかかる鉱油又は有機溶媒を使用する必要があるという欠点を有する。
【0016】
また、特許文献7は、水を、レゾルシノール−ホルムアルデヒド等の前駆体の混合物に連続的に添加することと、水を有機溶媒と交換することと、乾燥させてこの溶媒を抽出することと、得られるエアロゲルを炭化させることとを含む、多孔質炭素ナノスフェアを合成する方法を記載している。
【0017】
この方法は、乾燥工程前に有機溶媒を必要とするという欠点を有する。さらに、エアロゲルは、毒性の問題を有するおそれのあるナノ粒子形態で得られている。挙句、材料の多孔度は不確定となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4997804号
【特許文献2】国際出願PCT/IB2013/059206号
【特許文献3】米国特許第6356432号
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0146967号
【特許文献5】米国特許第7811337号
【特許文献6】米国特許第5508341号
【特許文献7】米国特許出願公開第2012/0286217号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】乾燥中にレゾルシノール−ホルムアルデヒドの多孔度を維持する新規な方法:カチオン性高分子電解質を用いたゾルゲルナノ構造の安定化(A novel way to maintain resorcinol-formaldehyde porosity during drying: Stabilization of the sol-gel nanostructure using a cationic polyelectrolyte)、Mariano M. Bruno et al., 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、非モノリス有機エアロゲルをミクロ粒子形態で直接形成することができるゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を提供することであり、該水性高分子組成物は、上述の欠点を克服すると同時に、単純かつ費用のかからない方法、及び有機溶媒の使用又は超臨界乾燥による乾燥を必要としない急速乾燥によって得られる
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、本出願人が、驚くべきことに、RF前駆体及び水溶性カチオン性高分子電解質Pを水性相に先に溶解させた後に、この溶解により得られたプレポリマーを沈降させ、その後、プレポリマー溶液を水で希釈すると、ずり減粘性(剪断減粘性(shear-thinning))物理ゲルのミクロ粒子の水性分散液を得ることが可能となり、こうした分散液にもかかわらず多孔度及び比表面積がともにかなり大きく、主にミクロ多孔性であり、粉末状エアロゲル、及びその熱分解物である多孔質炭素が、高収率を伴って、架橋及びその後の単純な炉乾燥によってもたらされることを見出したことで実現される。
【0022】
本発明によるゲル化かつ架橋した未乾燥の水性組成物は、ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rとホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとの重縮合から少なくとも部分的に得られる樹脂をベースとし、少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pを含み、該水性組成物は、水性媒体中で架橋するずり減粘性物理ゲルのミクロ粒子の水性分散液から形成される。
【0023】
ゲル化ミクロ粒子の分散液形態の本発明によるこのゲル化組成物は、従来技術のモノリスゲルの十分な乾燥に必要とされてきたゲルを粉砕する工程を無くすことを可能とし、また、単純な炉乾燥によって直接粉状エアロゲルをもたらすことに留意されたい。
【0024】
また、この水性分散液は有利なことに、密閉型において行われる上述の従来技術のゲル化方法と比べ短時間で、本発明によるゲル化組成物を得ることができることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「ゲル」という用語は、既知のように、コロイド溶液の凝析及び凝結により自然に又は触媒の作用下において形成する、コロイド材料と液体との混合物を意味するように意図される。注意すべきは、化学ゲルと物理ゲルとを区別することであり、化学ゲルは化学反応に起因する構造を有し、定義上不可逆的なものとされるのに対し、物理ゲルでは、巨大分子鎖間の凝集が可逆的なものであることである。
【0026】
また、注意すべきは、「剪断減粘性ゲル」又は「ずり減粘性ゲル」という用語が、非ニュートン粘性及び時間非依存性であり、時に疑似塑性とも記載される、剪断速度勾配が増大するにつれてその粘度が減少することを特徴とする、レオロジー的挙動を有するゲルを意味するように意図されることである。
【0027】
「水溶性ポリマー」という用語は、水と混合すると分散液を形成し得る水分散性ポリマーとは異なり、添加剤(特に界面活性剤)を添加することなく水に溶解し得るポリマーを意味するように意図される。
【0028】
また、本発明による組成物は、可逆的な剪断減粘性ゲルを薄層形態で使用することができるとともに、改善された機械特性を有するおかげで利点を有することに留意されたい。比べてみると、それらの前駆体から直接形成される従来技術の非改質RF樹脂である、不可逆的な化学ゲルは、薄層形態で被覆することができず、厚さが薄いとゲルの熱分解中に変形した。
【0029】
本出願人は実際に、上記カチオン性高分子電解質Pが、凝結効果を有し、ポリヒドロキシベンゼンRのフェノラートの電荷を中和することを可能にすることにより、プレポリマーコロイド間の反発が抑えられるため、重縮合反応の変換率が小さくても高分子ナノ粒子の形成及び凝集が促されることを見出した。さらに、本発明による組成物の架橋前に沈降が起こることから、ゲルが形成するときの変換率が高くても機械的応力は小さくなる。
【0030】
この結果、本発明のゲル化組成物は、従来技術の水性ゲルよりも、単純な炉乾燥によって、より容易かつより急速に乾燥することができる。この炉乾燥は実際、溶媒交換及び超臨界CO
2によって行われる乾燥よりもかなり行いやすいものであり、またこれらの乾燥方法よりもゲルの製造コストに悪影響を及ぼすこともない。
【0031】
また、上記少なくとも1つの高分子電解質Pは、この炉乾燥後にゲルの高い多孔度を保つことを可能とし、大きい比表面積及び大きい細孔容積と関連付けられる小さい密度をゲルにもたらし、本発明によるこのゲルは、主にミクロ多孔性であり、この熱分解されたゲルからなるスーパーキャパシタ電極にとって高い比エネルギー及び高い容量をもたらし得るのに有利であると明示されることに留意されたい。
【0032】
本発明の別の特徴によれば、上記ミクロ粒子は、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、1μm〜100μmの体積中位粒径を有していてもよい。
【0033】
これらのミクロ粒子は、上述の特許文献7で得られるエアロゲルを形成する潜在的に毒性のナノ粒子とは異なることに留意されたい。
【0034】
上記プレポリマーの溶液の希釈を特徴とする上記水性分散液中における上記ゲルの重量分率は、10%〜40%、好ましくは15%〜30%とすることができることが有利である。
【0035】
同様に、P/R重量比は0.5未満とすることができ、好ましくは0.01〜0.1であることが有利である。
【0036】
本発明の別の特徴によれば、上記ゲルは、水性溶媒W中における、ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rと、ホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fと、上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質Pと、酸触媒又は塩基性触媒Cとの水溶液のプレポリマー重合及び沈降の反応生成物である沈降プレポリマーとすることができ、該組成物は有機溶媒を含まない。
【0037】
このプレポリマー重合及び沈降の反応生成物は、
0.2%〜3%の重量分率に従って、上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質P、及び/又は、
0.01〜2、好ましくは0.04〜1.3のR/W重量比に従って、上記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)R及び上記水性溶媒W、
を含み得ることが有利である。
【0038】
本発明による組成物に使用され得る上記少なくとも1つの高分子電解質Pは、水に完全に溶解するとともに、イオン強度の小さいいずれのカチオン性高分子電解質であってもよい。
【0039】
好ましくは、上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質Pは、第四級アンモニウム塩、ポリ(ビニルピリジニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートクロライド)、ポリ(アクリルアミド−co−ジメチルアンモニウムクロライド)、及びそれらの混合物で構成される群から選ばれる有機ポリマーとする。
【0040】
更に好ましくは、上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質Pは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムハライド)から選ばれる第四級アンモニウムに由来の単位を含む塩であり、好ましくは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)又はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド)とする。
【0041】
本発明に使用され得る上記樹脂の前駆体であるポリマーの中でも、ポリヒドロキシベンゼンタイプの少なくとも1つのモノマー及び少なくとも1つのホルムアルデヒドモノマーの重縮合から得られるものが挙げられ得る。この重合反応は、3つ以上の互いに異なるモノマーを伴うものであってもよく、更なるモノマーは任意にポリヒドロキシベンゼンタイプのものとされる。使用され得るポリヒドロキシベンゼンは、優先的にはジヒドロキシベンゼン又はトリヒドロキシベンゼンとされ、レゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、又はレゾルシノールと、カテコール、ヒドロキノン及びフロログルシノールから選ばれる別の化合物との混合物とすることも有利である。
【0042】
例えば、ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)R及びホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fを、0.3〜0.7のR/Fモル比により利用してもよい。
【0043】
同様に、本発明による組成物の上記剪断減粘性物理ゲルを形成する上記プレポリマーが、非架橋状態で、ブルックフィールド粘度計を用いて25℃で測定した、50回転/分の剪断速度で、100mPa・sより大きく、好ましくは150mPa・s〜10000mPa・sの粘度を有し得ることが有利であり、20回転/分では、この粘度は、200mPa・sより大きく、好ましくは250mPa・sより大きいことが明示される。
【0044】
本発明による非モノリス有機エアロゲルは、本発明に関連して上で記載した上記ゲル化かつ架橋した未乾燥の組成物の乾燥により得られ、このエアロゲルは、炉内の加熱によって乾燥した上記ミクロ粒子の粉末から形成されるものであり、上記乾燥したミクロ粒子は、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、10μm〜80μmの体積中位粒径を有する。
【0045】
エアロゲルのミクロ粒子のこの粒径は、下記に示されるように、このエアロゲルの熱分解物を組み込むスーパーキャパシタの電極の最適化された特性を得るのに特に好適であることに留意されたい。
【0046】
上記エアロゲルの比表面積及び細孔容積がともに、主にミクロ多孔性、好ましくは60%より大きいミクロ多孔性を示し得ることが有利である。
【0047】
この基本的なミクロ多孔性構造は、定義上、包括的に2nm〜50nmの細孔径を特徴とする上述の非特許文献1において得られるもの等のメソ多孔性構造に反して、定義上、2nm未満の細孔径を特徴とすることに留意されたい。
【0048】
同様に、上記エアロゲルは、(同様に上述の文献に反して)40mW/(m・K)以下の熱伝導率を有することができ、このため超断熱材料の一群に属していることが有利である。
【0049】
本発明による非モノリス多孔質炭素は、通例600℃を超える温度で行われる上記有機エアロゲルの熱分解により得られ、この多孔質炭素は、液体媒体中においてレーザー回折式粒度分析器を用いて測定した、10μm〜80μm、好ましくは10μm〜20μmの体積中位粒径を有するミクロスフェアの粉末から形成されるものとする。
【0050】
有利なことに、上記多孔質炭素は、
(粉末形態のゲルをもたらす試験に関して上述の文献に反して)400m
2/gより大きいミクロ多孔性比表面積と、200m
2/gより小さいメソ多孔性比表面積とを含む、500m
2/g以上の総比表面積、及び/又は、
0.15cm
3/gより大きいミクロ孔容積を含む、0.25cm
3/g以上の細孔容積、
を有し得る。
【0051】
本発明による電極は、水性イオン性電解質に浸漬させることによって、スーパーキャパシタセルに搭載するのに使用することができ、該電極は金属製集電体を被覆し(covering)、この電極は、上記非モノリス多孔質炭素を活物質として含み、200μm未満の厚さを有する。好ましくは、この電極は、例えば略円柱状である、軸に巻きつけた幾何学的形状を有する。
【0052】
本発明による電極を得るために、本発明による多孔質炭素ミクロスフェアを、インクに直接組み込み、インクを乾燥させる前に金属製集電体上に塗布する。
【0053】
好ましくは円柱状に巻かれた一対のかかる非常に薄い電極は、非常に高いエネルギー密度をスーパーキャパシタにもたらすことを可能にすることに留意されたい。
【0054】
上記ゲル化かつ架橋した未乾燥の水性高分子組成物を製造する方法は、連続的に、
a)上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質P、及び酸触媒又は塩基性触媒Cの存在下で、上記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rとホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとを水性溶媒Wに溶解させ、水溶液を得ることと、
b)a)で得られた溶液を、該溶液が沈降するまで、好ましくは40℃を超える温度、例えば45℃〜70℃の油浴内でプレポリマー重合させ、上記剪断減粘性物理ゲルを形成する沈降プレポリマーを得ることと、
c)上記プレポリマーを、好ましくは20℃未満の温度まで冷却させることと、
d)上記プレポリマーを上記水性溶媒で希釈し、上記ゲルのミクロ粒子の上記水性分散液を形成することと、
e)水性分散液中において、この分散液を加熱することによって上記プレポリマーを架橋させることと、
を含む。
【0055】
工程a)では、上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質P及び上記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rが、0.5未満、好ましくは0.01〜0.1のP/R重量比により使用されることが好ましい。
【0056】
工程a)では、
上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質Pが、0.2%〜3%の重量分率により使用され、及び/又は、
上記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)R及び上記水性溶媒Wが、0.01〜2、好ましくは0.04〜1.3のR/W重量比により使用されることが好ましい。
【0057】
工程a)において使用され得る触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸、シュウ酸、トルエンスルホン酸、ジクロロ酢酸又はギ酸の水溶液等の酸触媒、そうでなければ、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸リチウム、アンモニア水、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウム等の塩基性触媒が挙げられ得る。
【0058】
同様に、工程d)は、10℃〜30℃の温度で、10%〜40%、好ましくは15%〜30%の上記水性分散液中における上記プレポリマーの重量分率により行うことが優先される。
【0059】
工程e)の加熱は、還流させた状態で、少なくとも1時間、撹拌しながら、80℃〜110℃の温度で行い、上記ゲルを完全に重合させることが有利である。
【0060】
同様に、本方法は、工程e)後に、分散液の上澄水の沈殿及び除去、そうでなければ、上記分散液の濾過を含む、上記架橋されたプレポリマーの上記水性分散液に適用される分離工程f)を含み得ることが有利である。
【0061】
本発明の別の特徴によれば、本方法は有利なことに、有機溶媒を使用せず、モノリスゲルを得る工程及びその後モノリスゲルを粉砕する工程も伴わない。
【0062】
本発明によれば、上記非モノリス有機エアロゲルを製造する方法は、溶媒交換も、超臨界流体による乾燥も伴うことなく、上記ゲル化かつ架橋した未乾燥の組成物を炉内の加熱によって乾燥させるものである。
【0063】
そのため、特に複雑な粉砕及び乾燥の工程に関する、従来技術の費用のかかる設備及び道具を使用する必要がないことに留意されたい。
【0064】
本発明の他の特徴、利点、及び詳細は、非限定的な例示として与えられる本発明の幾つかの以下の例示の実施形態の記載を読むことで明らかとなる。
【実施例】
【0065】
「対照」例と比較した、エアロゲル及びそれに由来の多孔質炭素のゲル化かつ架橋した組成物の本発明による調製例:
以下の実施例は、本発明による3つのゲル化かつ架橋した未乾燥の組成物G1〜G3、乾燥によりG1〜G3にそれぞれ由来する粉末形態の本発明による3つのエアロゲルAG1〜AG3、エアロゲルAG1〜AG3の熱分解によってそれぞれ得られる本発明による3つの多孔質炭素C1〜C3の調製を、ゲル化かつ架橋した「対照」組成物G0、同様に粉末形態のエアロゲルAG0、及びAG0に由来する多孔質炭素C0と比較して説明する。
【0066】
本出願人は、上述の非特許文献1の30頁に掲載される、比較試験のために非モノリスゲルの調製について述べた上記「対照」例において設定した条件下で、G0ゲル、AG0エアロゲル及びC0多孔質炭素を調製した。
【0067】
有機ゲルG0〜G3を得るために、以下の試薬:
Acros Organicsによるレゾルシノール(R)、純度98%、
Acros Organicsによるホルムアルデヒド(F)、純度37%、
炭酸ナトリウム又は塩酸からなる触媒(C)、及び、
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(P)、純度35%(水溶液W中)、
を、触媒C及び高分子電解質Pの存在下で、レゾルシノールRとホルムアルデヒドFとの重縮合に使用した。
【0068】
これらの試薬は、
R/W:レゾルシノールと水との重量比、
R/F:レゾルシノールとホルムアルデヒドとのモル比、
R/C:レゾルシノールと触媒とのモル比、及び、
P/R:高分子電解質とレゾルシノールとの重量比、
とする、以下の表1に挙げられる量及び比率により使用した。
【0069】
1)ゲル化かつ架橋した組成物G1、エアロゲルAG1、及び多孔質炭素C1の調製:
a)ゲルG1を調製するために、初めにレゾルシノールをホルムアルデヒドに溶解した。その後これに、炭酸カルシウムの溶液、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の35%溶液からなる添加剤を15分間撹拌しながら添加した。得られた混合物のpHは6.5程であった。
【0070】
次に、この非粘性混合物を、70℃の油浴に浸したリアクタ内で30分間プレポリマー重合させた。形成したプレポリマーをその後、15℃まで冷却した後、25℃の水で25%に希釈した。RFゲルを完全に重合(架橋)させるために、得られた混合物を還流した。架橋されたゲルG1のミクロ粒子の水性分散液がその後得られた。希釈及び還流の条件は、以下の表2に示す。
【0071】
b)エアロゲルAG1を調製するため、分散液を放置し、ゲルG1の粒子を沈殿させた。分散剤の上澄みを除去し、得られた湿潤粉末を、70℃の炉に2時間入れ、これらのミクロ粒子を乾燥させた。
【0072】
c)多孔質炭素C1を調製するため、エアロゲルAG1を窒素下、800℃で熱分解させ、ミクロスフェアを得た。
【0073】
2)ゲル化かつ架橋した組成物G2、エアロゲルAG2及び多孔質炭素C2の調製:
a)ゲルG2を調製するため、初めにレゾルシノールをホルムアルデヒドに溶解した。その後これに、炭酸カルシウムの溶液、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の35%溶液からなる添加剤を15分間撹拌しながら添加した。得られた混合物のpHは6.5であった。
【0074】
次に、この非粘性混合物を、45℃の油浴に浸したリアクタ内で45分間プレポリマー重合させた。形成した混合物をその後、4℃の冷却器に24時間入れた。形成したプレポリマーをその後、水で希釈した。その後、得られた混合物を還流し、RFゲルを完全に重合(架橋)させた。架橋されたゲルG2のミクロ粒子の水性分散液がその後得られた。希釈及び還流の条件は表2に示す。
【0075】
b)エアロゲルAG2を調製するため、分散液を放置し、ゲルG2の粒子を沈殿させた。分散剤の上澄みを除去し、得られた湿潤粉末を、90℃の炉に12時間入れ、これらのミクロ粒子を乾燥させた。
【0076】
c)多孔質炭素C2を調製するため、エアロゲルAG2を窒素下、800℃で熱分解させ、ミクロスフェアを得た。
【0077】
3)ゲル化かつ架橋した組成物G3、エアロゲルAG3、及び多孔質炭素C3の調製:
a)ゲルG3を調製するため、初めにレゾルシノールを水に溶解した。その後これに、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の35%溶液からなる添加剤、次にホルムアルデヒド、最後にHCl触媒を添加した。その後、混合物を15分間撹拌した。得られた混合物のpHは1.8であった。
【0078】
次に、この非粘性混合物を、70℃の油浴に浸したリアクタ内で45分間プレポリマー重合させた。形成した混合物をその後、4℃の冷却器に24時間入れた。形成したプレポリマーをその後、水で希釈した。その後、得られた混合物を還流し、RFゲルを完全に重合(架橋)させた。架橋されたゲルG3のミクロ粒子の水性分散液がその後得られた。希釈及び還流の条件は表2に示す。
【0079】
b)エアロゲルAG3を調製するため、分散液を放置し、ゲルG3のミクロ粒子を沈殿させた。分散剤の上澄みを除去し、得られた湿潤粉末を、90℃の炉に12時間入れ、これらのミクロ粒子を乾燥させた。
【0080】
c)多孔質炭素C3を調製するため、エアロゲルAG3を窒素下、800℃で熱分解させ、ミクロスフェアを得た。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
得られた各ゲルG0〜G3、エアロゲルAG0〜AG3、及び多孔質炭素C0〜C3について、MasterSizer3000レーザー回折式粒度分析器を用い、液体方式を介して体積中位粒径を測定した。以下の表3にこのように測定したこれらの粒径値を示す。
【0084】
【表3】
【0085】
これらの測定値から特に、本発明によるエアロゲルAG1及びAG3、並びに多孔質炭素C1及びC2が、50μm〜70μmの体積平均径を有するミクロ粒子形態であることが示される。
【0086】
得られた各有機エアロゲルAG0〜AG3及び各多孔質炭素C0〜C3はまた、Micromeritics社によるTristar3020及びASAP2020の計器によって77Kで窒素吸着マノメトリー法を用いて特性決定した。比表面積(それぞれ、総、ミクロ多孔性及びメソ多孔性)及び細孔容積(それぞれ総及びミクロ孔)の結果は以下の表4に提示してある。
【0087】
【表4】
【0088】
これらの結果から、本発明による有機エアロゲルAG1〜AG3及び多孔質炭素C1〜C3がそれぞれ、水性分散液を使用しているにもかかわらず、スーパーキャパシタ電極に組み込むのに十分に大きい比表面積(500m
2/gよりも大きい、又は更には600m
2/gよりも大きい)及び細孔容積を有し、ミクロ多孔性分率が、この比表面積に対して80%より大きく、又は更には90%より大きく、この細孔容積に対して60%より大きく、又は更には80%よりも大きいことが示される。それに反して、本出願人は、上記文献の「対照」試験による多孔質炭素C0の比表面積が、スーパーキャパシタ電極の活物質として使用するのに余りにも小さすぎることを確認した。
【0089】
その上、炭素電極E1、E2、及びE3をそれぞれ多孔質炭素C1、C2、及びC3から調製した。そのために、本出願人名義の仏国特許出願公開第2985598号の実施例1に記載の方法に従って、水を、結合剤、導電性フィラー、様々な添加剤、及び本発明による各多孔質炭素のミクロスフェアと混合させた。得られた配合物を金属製集電体に塗布した後に架橋させた。以下の機器及び試験を用いて、電極E2の容量を電気化学的に測定した。
【0090】
セパレータによって絶縁された2つの同一の電極を、水性電解質(LiNO
3、5M)を含有するスーパーキャパシタの測定セル内に直列に設け、Bio−Logic VMP3ポテンショスタット/ガルバノスタットによって三電極界面を介して制御した。第1の電極は作用電極に相当し、第2の電極は対電極を形成し、基準電極はカロメル電極とする。
【0091】
この容量は、システムを1A/gの定電流Iにおける充放電サイクルにかけることによって測定した。電荷が変換するにつれて電位が線形に展開したことから、スーパーキャパシタシステムの容量は、充放電時における傾斜pから推測した。このように測定した電極E2の比容量は90F/gであった。
【0092】
最後に、本発明により得られる粉状エアロゲルAG3の熱伝導率を、熱線法に従い、Neotimの伝導率測定器を用いて22℃で測定した。このように測定した熱伝導率は30mW/(m・K)であった。