(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
手動操作又はアクチュエータによって作動し、前記プレッシャ部材を前記作動位置から前記非作動位置に移動させ得る作動部材を具備するとともに、前記遮断手段は、当該作動部材の作動によって前記ワンウェイクラッチによる前記出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断し得ることを特徴とする請求項2記載の動力伝達装置。
前記ドグクラッチは、前記入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、前記出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第2嵌合面は、所定以上の荷重が付与されたとき嵌合を解き得るテーパ面とされたことを特徴とする請求項4記載の動力伝達装置。
前記ドグクラッチは、前記入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、前記出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第1嵌合面は、軸方向に荷重が付与されたときに噛み合う方向に作用する勾配面とされたことを特徴とする請求項4記載の動力伝達装置。
前記クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記入力部材に入力された回転力が前記出力部材に伝達され得る状態となったときに前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したことを特徴とする請求項1〜6の何れか1つに記載の動力伝達装置。
前記クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したことを特徴とする請求項1〜7の何れか1つに記載の動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、エンジンが所定回転数以下でありウェイト部材が内径側位置にあるとき、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とが圧接されていないので、車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができないという問題があった。また、車両が停車中、ウェイト部材が内径側位置にあるので、キックスタータによってエンジンを始動させる機構を具備させることができないという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ウェイト部材が内径側位置にあるとき、車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、キックスタータによるエンジン始動を可能とすることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が形成されたクラッチハウジングと、前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板と、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記クラッチハウジングの径方向に延設された溝部内に配設され、当該クラッチハウジングの回転に伴う遠心力で当該溝部の内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材と、前記ウェイト部材が内径側位置から外径側位置に移動するのに伴って、前記プレッシャ部材を前記非作動位置から前記作動位置に移動させ得る連動部材とを有した動力伝達装置において、前記連動部材に取り付けられ、前記ウェイト部材が内径側位置にあるとき、前記入力部材から出力部材に向かう動力伝達を遮断するとともに当該連動部材を介して当該出力部材から入力部材に向かう動力伝達を行わせるワンウェイクラッチを具備したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記ワンウェイクラッチによる前記出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断し得る遮断手段を具備したことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置において、手動操作又はアクチュエータによって作動し、前記プレッシャ部材を前記作動位置から前記非作動位置に移動させ得る作動部材を具備するとともに、前記遮断手段は、当該作動部材の作動によって前記ワンウェイクラッチによる前記出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断し得ることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3記載の動力伝達装置において、前記遮断手段は、ドグクラッチから成ることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の動力伝達装置において、前記ドグクラッチは、前記入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、前記出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第2嵌合面は、所定以上の荷重が付与されたとき嵌合を解き得るテーパ面とされたことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の動力伝達装置において、前記ドグクラッチは、前記入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、前記出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第1嵌合面は、軸方向に荷重が付与されたときに噛み合う方向に作用する勾配面とされたことを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記入力部材に入力された回転力が前記出力部材に伝達され得る状態となったときに前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したことを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ウェイト部材が内径側位置にあるとき、入力部材から出力部材に向かう動力伝達を遮断するとともに当該出力部材から入力部材に向かう動力伝達を行わせるワンウェイクラッチを具備したので、ウェイト部材が内径側位置にあるとき、車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、キックスタータによるエンジン始動を可能とすることができる。
【0016】
また、車両の走行中において、出力部材から入力部材に向かう動力伝達は、ウェイト部材が外径側位置にあるとき、圧接された駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板により行われるとともに、ウェイト部材が内径側位置にあるとき、ワンウェイクラッチにより行われることとなる。したがって、ウェイト部材の位置に応じて出力部材から入力部材に向かう動力伝達経路を異ならせることができ、出力部材から入力部材に向かう動力伝達を適切に行わせることができる。
【0017】
さらに、ワンウェイクラッチは、連動部材に取り付けられ、ウェイト部材が内径側位置にあるとき、当該連動部材を介して出力部材から入力部材に向かう動力伝達を行わせるので、連動部材に関して、プレッシャ部材を非作動位置から作動位置に移動させる機能と、出力部材から入力部材に向かう動力伝達を行わせる機能とを兼用させることができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、ワンウェイクラッチによる出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断し得る遮断手段を具備したので、必要なタイミングでワンウェイクラッチによる出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断することができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、手動操作又はアクチュエータによって作動し、プレッシャ部材を作動位置から非作動位置に移動させ得る作動部材を具備するとともに、遮断手段は、当該作動部材の作動によってワンウェイクラッチによる出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断し得るので、任意のタイミングでワンウェイクラッチによる出力部材から入力部材に向かう動力伝達を遮断することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、遮断手段は、ドグクラッチから成るので、ワンウェイクラッチによる出力部材から入力部材に向かう動力伝達及び当該動力伝達の遮断を確実に行わせることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、ドグクラッチは、入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第2嵌合面は、所定以上の荷重が付与されたとき嵌合を解き得るテーパ面とされたので、出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させる際、ドグクラッチに過大な荷重が付与されて破損又は変形してしまうのを抑制することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、ドグクラッチは、入力部材から出力部材に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面と、出力部材から入力部材に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面とを有するとともに、当該第1嵌合面は、軸方向に荷重が付与されたときに噛み合う方向に作用する勾配面とされたので、不用意に第1嵌合面が軸方向に離間して動力伝達が遮断されてしまうのを防止することができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、クラッチ部材に形成された勾配面とプレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、入力部材に入力された回転力が出力部材に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したので、遠心力によるウェイト部材の移動に伴う圧接力に加えて圧接アシスト用カムによる圧接力を付与させることができ、より円滑かつ確実に駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させることができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、クラッチ部材に形成された勾配面とプレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したので、ウェイト部材が外径側位置にあるとき、入力部材を介してエンジン側に過大な動力が伝達されてしなうのを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、
図1〜14に示すように、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、車両の車輪Dを回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたクラッチ部材4と、該クラッチ部材4の
図2中左側に取り付けられたプレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、クラッチハウジング2内を径方向に転動可能な剛球部材から成るウェイト部材8と、連動部材9と、手動操作又はアクチュエータ(不図示)により作動可能な作動部材10と、ワンウェイクラッチ11と、ドグクラッチ(遮断手段)を構成するドグインナ12とから主に構成されている。
【0027】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベットR等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、
図3に示すように、同図中右端側が開口した円筒状のケース部材から成り、エンジンEの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転するとともに、その内周壁には複数の駆動側クラッチ板6が形成されている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(
図2中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
【0028】
また、クラッチハウジング2は、
図2、3に示すように、その底面において当該クラッチハウジング2の径方向に延設された複数の溝部2aが形成されている。かかる溝部2aには、それぞれウェイト部材8が配設されており、クラッチハウジング2が停止した状態(エンジン停止又はアイドリング状態)及び低速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が内径側位置(
図2で示す位置)とされるとともに、クラッチハウジング2が高速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が外径側位置(
図19で示す位置)となるよう設定されている。
【0029】
クラッチ部材4は、その基端部4dが出力シャフト3(出力部材)の先端部に対して連結されており、クラッチ部材4が回転すると当該出力シャフト3も回転するよう構成されている。かかるクラッチ部材4には、プレッシャ部材5が取り付けられており、当該プレッシャ部材5のフランジ面5cとクラッチ部材4のフランジ面4cとの間に複数の駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が取り付けられている。
【0030】
プレッシャ部材5は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪Dに伝達可能な状態とする作動位置(
図19参照)と、当該駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪Dに伝達されるのを遮断し得る非作動位置(
図2参照)との間で移動可能なものである。なお、プレッシャ部材5の外周側面には、
図14に示すように、その軸方向(同図中左右方向)に延びるスプライン5dが形成されており、該スプラインに被動側クラッチ板7が嵌め込まれて形成されている。
【0031】
より具体的には、プレッシャ部材5に形成されたスプライン5dは、同図に示すように、当該プレッシャ部材5の外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン5dを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7のプレッシャ部材5に対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該プレッシャ部材5と共に回転し得るよう構成されているのである。
【0032】
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、両クラッチ板6、7は、プレッシャ部材5の軸方向への摺動が許容されており、当該プレッシャ部材5が
図2中右側に移動してそのフランジ面5c及びクラッチ部材4のフランジ面4cが近接すると、両クラッチ板6、7が圧接され、クラッチハウジング2の回転力がプレッシャ部材5を介してクラッチ部材4及び出力シャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ部材5が
図1中左側に移動してそのフランジ面5c及びクラッチ部材4のフランジ面4cが離間すると、両クラッチ板6、7の圧接力が解放してクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなって停止し、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0033】
しかして、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して車輪D側に伝達するとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0034】
さらに、本実施形態においては、
図14に示すように、クラッチ部材4には、勾配面4a及び4bが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4a及び4bと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4bと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
【0035】
そして、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、プレッシャ部材5及びクラッチ部材4を介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材が外径側位置)となったときに、
図15に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ面5cがクラッチ部材4のフランジ面4cに対して更に近接する方向(
図2中右側)に移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるようになっている。
【0036】
一方、車両が走行中、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回って、
図16中b方向のバックトルクが生じた際には、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置や動力源(エンジン側)に対する不具合を回避することができる。
【0037】
ウェイト部材8は、クラッチハウジング2の径方向に延設された溝部2a内に配設され、当該クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力で当該溝部2aの内径側位置(
図2参照)から外径側位置(
図19参照)に移動することにより駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るものである。すなわち、溝部2aにおけるウェイト部材8の転動面(底面)は、内径側位置から外径側位置に向かって上り勾配とされており、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材8を図示しない付勢手段の押圧力にて内径側位置に保持させるとともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材8に遠心力が付与されて上り勾配に沿って移動させ(
図18参照)、当該クラッチハウジング2が所定の回転数に達することにより外径側位置まで移動させる(
図19参照)ようになっている。なお、図示しない付勢手段は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との離間距離がゼロとなるまで撓み、その後は弾性部材13を撓ませることで駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを締結させるようになっている。また、変速時においては、図示しない付勢手段及び弾性部材13の両方が撓むこととなり、プレッシャ部材5が移動することとなる。
【0038】
連動部材9は、
図11に示すように、中央に孔9aが形成されつつ外周縁に複数の凸部9bが形成された円環状部材から成るもので、凸部9bがクラッチハウジング2の壁部に形成された切欠き部2b(
図3参照)に嵌合して連結され、当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされるとともに、
図2、3中左右方向に移動可能とされている。かかる連動部材9は、ウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動するのに伴って、弾性部材13の付勢力に抗して
図2中右側に移動し、プレッシャ部材5を押圧して非作動位置から作動位置に移動させ得るよう構成されている。
【0039】
弾性部材13(クラッチスプリング)は、連動部材9とプレッシャ部材5との間に介装されたコイルスプリングから成り、当該連動部材9の移動に伴いプレッシャ部材5を押圧して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向に当該プレッシャ部材5を移動させ得るとともに、作動部材10の作動時、当該プレッシャ部材5の連動部材9に対する押圧力を吸収し得るものである。なお、弾性部材13と連動部材9との間には、
図2に示すように、スラストベアリングB2が介在して組み付けられている。
【0040】
すなわち、クラッチハウジング2の回転に伴ってウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動し、連動部材9がウェイト部材8に押圧されると、その押圧力が弾性部材13を介してプレッシャ部材5に伝達され、
図18、19に示すように、当該プレッシャ部材5を図中右側に移動して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、その状態にて作動部材10を作動させると、
図20に示すように、作動部材10の押圧力にてプレッシャ部材5が図中左側に移動するものの、連動部材9に対する押圧力は弾性部材13にて吸収され、当該連動部材9の位置(ウェイト部材8の位置)は保持されるのである。
【0041】
作動部材10は、
図14に示すような外観形状とされるとともに、手動又はアクチュエータで操作可能な操作手段T(
図2参照)により作動され、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得る方向(
図2中左側)にプレッシャ部材5を移動させ得るものである。なお、操作手段Tは、例えば車両が具備するクラッチペダルやクラッチレバー等に対する操作やアクチュエータの作動により
図2中左側に移動可能なもので、作動部材10に取り付けられたベアリングB1のインナレース側に当接して当該作動部材10を同図中左側に押圧可能なものとされている。
【0042】
より具体的には、作動部材10は、プレッシャ部材5との間に図示しない付勢手段を介在させつつ配設されており、操作手段Tにて
図2中左側に押圧されると、当該付勢手段による付勢力に抗して移動してプレッシャ部材5と当接し、当該プレッシャ部材5を同方向に移動させ得るようになっている。さらに、クラッチ部材4には、ストッパ14が形成されている。かかるストッパ14は、図示しない付勢手段で付勢された作動部材10と当接して、
図2中右側(反作動側)に更に移動するのを規制するものである。
【0043】
これにより、作動部材10は、非作動時において、ストッパ14と当接した位置に保持されるとともに、操作手段Tにて押圧されて作動すると、付勢手段の付勢力に抗して移動した後、プレッシャ部材5と当接して、当該プレッシャ部材5を同方向に移動させるようになっている。しかして、非作動時、作動部材10と操作手段Tとの間の離間寸法を保持させるとともに、作動時、当該作動部材10の作動を許容させるようになっている。
【0044】
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)に向かう動力伝達を遮断するとともに当該出力シャフト3(出力部材)から入力ギア1(入力部材)に向かう動力伝達を行わせるワンウェイクラッチ11を具備している。かかるワンウェイクラッチ11は、連動部材9に取り付けられたもので、インナ部材11a、リテーナ部材11b、ローラ11c及びスプリング11dを有して構成されている。
【0045】
インナ部材11aは、
図7、8に示すように、外周壁面11aa及び第1嵌合面K1及び第2嵌合面K3(
図9参照)が複数形成された面11abを有した環状部材から成り、その外周壁面11aaと連動部材9及びリテーナ部材11bの内周壁面との間には、複数のローラ11c及びスプリング11dが取り付けられている。すなわち、リテーナ部材11bは、
図10に示すように、複数の取付部11baが形成されており、先端にローラ11cが固定されたスプリング11dの基端が取付部11baに取り付けられるとともに、当該リテーナ部材11bをインナ部材11a及び連動部材9に組み付けると、
図12、13に示すように、インナ部材11aの外周壁面11aaと連動部材9の内周面との間にローラ11cが位置するようになっている。
【0046】
さらに、インナ部材11aの外周壁面11aaには、
図12に示すように、一方向に相対回転するローラ11cと嵌合するとともに、他方向に相対回転するローラ11cと嵌合しないカムが形成されている。これにより、クラッチハウジング2の回転数が出力シャフト3の回転数よりも高い場合(すなわち、入力ギア1から出力シャフト3に向かう動力伝達時)、インナ部材11aと連動部材9とが他方向に相対回転しようとするが、ローラ11cがカムに嵌合せずワンウェイクラッチ11が空回りして動力伝達が行われないようになっている。一方、出力シャフト3の回転数がハウジング2の回転数よりも高い場合(すなわち、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達時)、インナ部材11aと連動部材9とが一方向に相対回転しようとするので、ローラ11cがカムに嵌合してワンウェイクラッチ11にて動力伝達が行われるようになっている。
【0047】
ドグインナ12は、
図4、5に示すように、貫通孔12aを有しつつフランジ12bが形成された円筒状部材から成り、当該貫通孔12aの内周壁面には、クラッチ部材4の基端部4dに対して回転方向にスプライン嵌合し得るスプラインが形成されている。すなわち、ドグインナ12は、クラッチ部材4と共に回転するとともに、当該クラッチ部材4に対してその軸方向に摺動自在とされているのである。なお、ドグインナ12のフランジ12bと隣接する位置(
図2中左側)には、皿ばね17が配設されており、ドグインナ12が当該皿ばね17に向かって移動すると、当該皿ばね17の付勢力が付与されるよう構成されている。
【0048】
また、ドグインナ12及びインナ部材11aは、ワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断し得るドグクラッチ(遮断手段)を構成している。具体的には、ドグインナ12のフランジ部12bには、ワンウェイクラッチ11を構成するインナ部材11aとドグインナ12とを組み付けた状態において、インナ部材11aの面11abと対峙する面12baに第1嵌合面K2及び第2嵌合面K4が複数形成されているとともに、インナ部材11aの面11abには、
図9に示すように、ドグインナ12における第1嵌合面K2及び第2嵌合面K4のそれぞれに嵌合し得る第1嵌合面K1及び第2嵌合面K3が複数形成されている。
【0049】
第1嵌合面(K1、K2)は、
図17(a)に示す如く嵌合することによって、入力ギア1から出力シャフト3に向かう動力を伝達させ得るとともに、第2嵌合面(K3、K4)は、
図17(b)に示す如く嵌合することによって、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力を伝達させ得るものとされている。しかして、ドグインナ12とインナ部材11aとが近接(すなわち、
図13(a)に示すように、ドグインナ12の面12baとインナ部材11aの面11abとが当接)して第1嵌合面(K1、K2)又は第2嵌合面(K3、K4)が嵌合することにより動力伝達が行われるとともに、ドグインナ12とインナ部材11aとが離間(すなわち、
図13(b)に示すように、ドグインナ12の面12baとインナ部材11aの面11abとが離間)して第1嵌合面(K1、K2)又は第2嵌合面(K3、K4)の嵌合が解かれることにより動力伝達が遮断されるよう構成されているのである。
【0050】
さらに、本実施形態に係る第2嵌合面(K3、K4)は、
図6、9に示すように、嵌合方向に対して所定角度α傾斜したテーパ面とされており、所定以上の荷重(過大なモーメント荷重)が付与されたとき嵌合を解き得るよう構成されている。すなわち、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力を伝達させるとき、
図17(b)で示すように、テーパ状に形成された第2嵌合面(K3、K4)が当接して嵌合するので、動力伝達方向に所定以上の荷重(過大なモーメント荷重)が付与されると、第2嵌合面(K3、K4)が互いに滑り、嵌合が解かれる方向に移動するよう構成されているのである。
【0051】
またさらに、ドグインナ12と作動部材10との間には、レリーズピン18が介在して組み付けられており、操作手段Tにて作動部材10を作動させると、レリーズピン18を介してドグインナ12を皿ばね17の付勢力に抗して移動させることができ、当該移動によって、ドグインナ12の面12baがインナ部材11aの面11abに対して離間して第1嵌合面(K1、K2)又は第2嵌合面(K3、K4)の嵌合が解かれることとなる。これにより、作動部材10の作動によってワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断することができる。なお、作動部材10を初期位置に戻すと、ドグインナ12は、皿ばね17の付勢力によって元の位置に戻り、第1嵌合面(K1、K2)又は第2嵌合面(K3、K4)の嵌合が再び行われるようになっている。
【0052】
一方、クラッチハウジング2が所定の回転数に達し、ウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に向かって移動すると、
図18に示すように、連動部材9に取り付けられたインナ部材11aがドグインナ12に対して離間するので、第1嵌合面(K1、K2)又は第2嵌合面(K3、K4)の嵌合が解かれることとなる。これにより、ウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に向かって移動することによってワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係る動力伝達装置の作用について、
図25のタイミングチャートに基づいて説明する。
車両のエンジンEが停止又はアイドリング状態のとき、入力ギア1にエンジンEの駆動力が伝達されない或いは入力ギア1の回転数が低回転であるため、
図2に示すように、ウェイト部材8が内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置とされている。このとき、
図25中(A)(B)に示すように、クラッチがオフ(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオン(動力が伝達され得る状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0054】
車両の停止又はアイドリング状態の後、車両が発進するとき、入力ギア1の回転数が低回転から高回転に移行(中回転域)するため、
図18に示すように、ウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置と作動位置との間とされている。このとき、
図25中(C)(D)に示すように、クラッチがオン(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が開始された状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオン、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0055】
車両が発進した後、加速し、高速域で走行するとき、入力ギア1の回転数が高回転であるため、
図19に示すように、ウェイト部材8が外径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が作動位置とされている。このとき、
図25中(E)(F)に示すように、クラッチがオン(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が行われた状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオン、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0056】
また、車両が発進した後、加速し、高速域で減速するとき、入力ギア1の回転数が出力シャフト3の回転数より低下するため、
図19に示すように、ウェイト部材8が外径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が作動位置とされている。このとき、
図25中(G)に示すように、クラッチがオン(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が行われた状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオン、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0057】
車両が高速域で変速するとき、
図20に示すように、作動部材10が作動する。なお、ウェイト部材8は、外径側位置に保持されるとともに、プレッシャ部材5は非作動位置とされている。このとき、
図25中(H)に示すように、クラッチがオフ(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオン、作動部材10及びレリーズピン18がオンとされている。
【0058】
車両が低速域で走行するとき、
図21に示すように、ウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置と作動位置との間とされている。このとき、
図25中(I)に示すように、クラッチがオン(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が行われた状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオン、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0059】
車両が低速域で減速するとき、入力ギア1の回転数が出力シャフト3の回転数より低下するため、
図22に示すように、ウェイト部材8が内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置とされている。このとき、
図25中(J)に示すように、クラッチがオフ(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態)、ワンウェイクラッチ11がオン(動力が伝達され得る状態)、ドグクラッチがオン(動力が伝達され得る状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0060】
車両が低速域で変速するとき、
図23に示すように、作動部材10が作動する。なお、ウェイト部材8は、内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5は非作動位置とされている。このとき、
図25中(K)に示すように、クラッチがオフ(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態)、ワンウェイクラッチ11がオフ(動力が伝達されない状態)、ドグクラッチがオフ(動力が伝達されない状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオンとされている。
【0061】
さらに、車両が下り坂を走行、或いはキックスタータによりエンジンEを始動させるとき、
図24に示すように、ウェイト部材8が内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置とされている。このとき、
図25中(L)(M)に示すように、クラッチがオフ(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態)、ワンウェイクラッチ11がオン(動力が伝達され得る状態)、ドグクラッチがオン(動力が伝達され得る状態)、圧接アシスト用カムがオフ、バックトルクリミッタ用カムがオフ、作動部材10及びレリーズピン18がオフとされている。
【0062】
上記実施形態によれば、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)に向かう動力伝達を遮断するとともに当該出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を行わせるワンウェイクラッチ11を具備したので、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、車輪D側の回転力をエンジンE側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、キックスタータによるエンジン始動を可能とすることができる。
【0063】
さらに、車両の走行中において、出力シャフト3(出力部材)から入力ギア1(入力部材)に向かう動力伝達は、ウェイト部材8が外径側位置にあるとき、圧接された駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7により行われるとともに、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、ワンウェイクラッチ11により行われることとなる。したがって、ウェイト部材8の位置に応じて出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達経路を異ならせることができ、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を適切に行わせることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るワンウェイクラッチ11は、連動部材9に取り付けられ、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、当該連動部材9を介して出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を行わせるので、連動部材9に関して、プレッシャ部材5を非作動位置から作動位置に移動させる機能と、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を行わせる機能とを兼用させることができる。
【0065】
さらに、ワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断し得る遮断手段を具備したので、必要なタイミングでワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断することができる。またさらに、手動操作又はアクチュエータによって作動し、プレッシャ部材5を作動位置から非作動位置に移動させ得る作動部材10を具備するとともに、遮断手段は、当該作動部材の作動によってワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断し得るので、任意のタイミングでワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断することができる。
【0066】
特に、本実施形態においては、遮断手段は、ドグクラッチから成るので、ワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達及び当該動力伝達の遮断を確実に行わせることができる。また、本実施形態に係るドグクラッチは、入力ギア1から出力シャフト3に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面(K1、K2)と、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面(K3、K4)とを有するとともに、当該第2嵌合面(K3、K4)は、所定以上の荷重が付与されたとき嵌合を解き得るテーパ面とされたので、出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力を伝達させる際、ドグクラッチに過大な荷重が付与されて破損又は変形してしまうのを抑制することができる。
【0067】
さらに、本実施形態においては、クラッチ部材4に形成された勾配面4aとプレッシャ部材5に形成された勾配面5aとを対峙させて構成され、入力ギア1に入力された回転力が出力シャフト3に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したので、遠心力によるウェイト部材8の移動に伴う圧接力に加えて圧接アシスト用カムによる圧接力を付与させることができ、より円滑かつ確実に駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができる。
【0068】
またさらに、本実施形態によれば、クラッチ部材4に形成された勾配面4bとプレッシャ部材5に形成された勾配面5bとを対峙させて構成され、出力シャフト3の回転が入力ギア1の回転数を上回って当該クラッチ部材4とプレッシャ部材5とが相対的に回転したとき、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したので、ウェイト部材8が外径側位置にあるとき、入力ギア1を介してエンジンE側に過大な動力が伝達されてしまうのを回避することができる。
【0069】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えばワンウェイクラッチ11は、ウェイト部材8が内径側位置にあるとき、入力ギア1から出力シャフト3に向かう動力伝達を遮断するとともに当該出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を行わせるものであれば足り、他の形態のワンウェイクラッチとしてもよい。同様に、遮断手段は、ワンウェイクラッチ11による出力シャフト3から入力ギア1に向かう動力伝達を遮断し得るものであれば足り、他の形態の遮断手段(摩擦式のクラッチ等)であってもよい。
【0070】
また、ワンウェイクラッチ11又は遮断手段(ドグクラッチ)が他の位置に配設されたものであってもよく、圧接アシスト用カム若しくはバックトルクリミッタ用カムが配設されないものとしてもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【0071】
さらに、本発明の他の実施形態として、
図26〜30に示すように、ドグインナ12’(
図26参照)及びインナ部材11’a(
図27参照)にて構成されたドグクラッチを具備したものとしてもよい。ドグインナ12’は、上記実施形態のドグインナ12に相当するもので、クラッチ部材4の基端部4dに対して回転方向にスプライン嵌合し得るスプラインが形成された貫通孔12’aを有している。インナ部材11’aは、上記実施形態のインナ部材11aに相当するもので、一方向に相対回転するローラ11cと嵌合するとともに、他方向に相対回転するローラ11cと嵌合しないカムが形成された外周壁面11’aaを有している。
【0072】
インナ部材11’a及びドグインナ12’には、第1嵌合面(K1、K2)及び第2嵌合面(K3、K4)がそれぞれ形成されており、このうち、第1嵌合面(K1、K2)は、
図29、30に示す如く嵌合することによって、入力ギア1から出力シャフト3に向かう動力を伝達させ得るものとされている。なお、第2嵌合面(K3、K4)は、インナ部材11’a及びドグインナ12’が組み付けられた状態において離間した状態とされており、所定寸法のクリアランスが形成されている。
【0073】
ここで、本実施形態に係る第1嵌合面(K1、K2)は、軸方向(
図30におけるγ方向)に荷重が付与されたときに噛み合う方向に作用する勾配面とされている。すなわち、
図29に示すように、インナ部材11’aの第1嵌合面K1は、軸方向γに対してマイナス側(カムの場合とは反対側であって鋭角側)にβだけ傾斜した勾配面とされるとともに、ドグインナ12’の第1嵌合面K2も同様に、軸方向γに対してマイナス側(カムの場合とは反対側であって鋭角側)にβだけ傾斜した勾配面とされており、嵌合した状態で軸方向γ(第1嵌合面K1、K2が離間する方向)に負荷が付与されると、互いに噛み合う方向に作用(カムの場合とは反対向きに作用)するようになっている。
【0074】
このような他の実施形態に係るドグクラッチによれば、入力部材(入力ギア1)から出力部材(出力シャフト3)に向かう動力を伝達させ得る第1嵌合面(K1、K2)と、出力部材(出力シャフト3)から入力部材(入力ギア1)に向かう動力を伝達させ得る第2嵌合面(K3、K4)とを有するとともに、当該第1嵌合面(K1、K2)は、軸方向γに荷重が付与されたときに噛み合う方向に作用する勾配面とされたので、不用意に第1嵌合面(K1、K2)が軸方向γに離間して動力伝達が遮断されてしまうのを防止することができる。なお、第2嵌合面(K3、K4)にインナ部材11’aに対してドグインナ12’を案内させるためのスロープ形状等を形成させてもよい。