(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1に示す本実施形態による成膜装置1は、Cat−CVD法により樹脂製の容器Pの内表面にバリア膜を形成するものであり、発熱ユニット30の酸化を防止する構成を備えている。
成膜装置1は、例えば飲料水を容器Pに充填するシステムに適用されるものである。このシステムは、一例として、容器Pを成形する容器成形部と、成形された容器Pの内周面にバリア膜を形成する成膜部と、内周面にバリア膜が形成された容器Pの充填空隙に飲料水を充填する充填部と、飲料水が充填された樹脂容器にキャップをする打栓部と、を備えることができる。この飲料充填システムは、容器成形部、成膜部、充填部及び打栓部の各々の要素がロータリー式の機構からなり、各要素の間には、容器Pを受け渡すための転送装置を設けることができる。ただし、成膜装置1をバッチ式とすることもできる。
【0020】
成膜装置1は、
図1に示すように、樹脂製の容器Pにバリア膜を成膜する成膜部3と、成膜部3に媒質ガスGを搬送するガス搬送部5と、を備える。
成膜部3は、真空チャンバ10を主たる構成要素として備える。また、ガス搬送部5は、容器Pの内部に挿抜可能に配置され、容器Pの内部へ媒質ガスを供給するガス供給管20と、ガス供給管20に支持された発熱ユニット30と、ガス供給管20と発熱ユニット30を収容するシリンダ40と、を主たる構成要素として備えている。
【0021】
以下、成膜装置1の構成要素を順に説明する。
[真空チャンバ10]
成膜部3に設けられる真空チャンバ10は、軸方向の一方端(上端)が開口された円筒状の下部チャンバ13と、この下部チャンバ13の上部に下部チャンバ13と互いに着脱自在に装着される上部チャンバ15と、を備える。真空チャンバ10は、下部チャンバ13と上部チャンバ15により形成される内部空間が、容器Pを収容し、かつガスバリア膜を形成する成膜室11を構成する。
本実施形態においては、容器Pが下部チャンバ13に収容され、容器Pは下部チャンバ13の上方端に形成される開口を出入口14として下部チャンバ13に搬入され、また、搬出される。したがって、下部チャンバ13の内部空間は、そこに収容される容器Pの外形よりも僅かに大きくなるように形成されている。上部チャンバ15は、容器Pが下部チャンバ13に搬入されると出入口14を閉じ、また、容器Pが下部チャンバ13に搬入される時及び搬出される時には出入口14を開く。なお、本実施形態においては、上部チャンバ15の鉛直方向(
図1の上下方向)の位置が固定される一方、下部チャンバ13が図示を省略するアクチュエータにより両矢印に示すように昇降移動するものとするが、この逆であってもよく、下部チャンバ13と上部チャンバ15が相対的に移動することにより、成膜室11の密閉及び開放がなされればよい。なお、下部チャンバ13と上部チャンバ15の間の密閉状態を確保するために、両者の間にOリングなどのシール材を設けることができる。
【0022】
上部チャンバ15は、排気通路16を備え、この排気通路16は一方端が下部チャンバ13の出入口14に連通するとともに、他方端が図示を省略する排気ポンプに接続される。下部チャンバ13と上部チャンバ15が密閉状態とされ、排気ポンプを動作させると、成膜室11の内部及び容器Pの内部のガス成分が排気され、減圧状態、好ましくは真空状態とされる。ここでいう減圧とは大気圧よりも低い圧力の状態をいう。
上部チャンバ15は、ガス供給管20及び発熱ユニット30が進退する通過窓17が、上部チャンバ15の上壁を貫通して設けられている。通過窓17には、第一シリンダ41の先端部が成膜室11に達するように挿入され、上部チャンバ15に固定されている。ガス供給管20及び発熱ユニット30は、第一シリンダ41の内部を通って通過窓17を進退する。
なお、真空チャンバ10の内部には、容器Pを把持するグリッパとも称される器具を設け、このグリッパで容器Pの首部分を把持しながら、バリア膜を成膜できる。
【0023】
上部チャンバ15は、シリンダ40を支持する。シリンダ40の第一シリンダ41は、その下方に位置する一方端が上部チャンバ15の表裏を貫通して上部チャンバ15に固定されており、その内部の減圧室43が成膜室11と連通する。ただし、成膜室11に通じる第一シリンダ41の開口を開閉する揺動式の遮蔽ゲート18が上部チャンバ15の排気通路16に設けられており、遮蔽ゲート18が閉じられると、シリンダ40の減圧室43は閉じた空間を形成する。また、シリンダ40の第二シリンダ45は、第一シリンダ41に隣接して設けられ、その下方に位置する一方端が上部チャンバ15で封止されるように固定されている。より具体的なシリンダ40の構成については後述する。
【0024】
真空チャンバ10の内部及び外部の一方又は双方に、冷却水を循環させる構造を設けて、下部チャンバ13及び上部チャンバ15の温度上昇を防止することが好ましい。この冷却構造は、特に、下部チャンバ13に対応して設けることが好ましい。バリア膜の成膜時に熱源となる発熱ユニット30が挿入される容器Pがちょうど下部チャンバ13に収容されているからである。
また、真空チャンバ10は、下部チャンバ13と上部チャンバ15の成膜室11に臨む内表面には、発熱ユニット30の発熱に伴って放射される光の反射を防ぐ処理が施されていることが好ましい。この処理としては、内表面を黒色に着色するか、微細な凹凸面にすればよい。これにより、容器Pの温度上昇を抑制することができる。
なお、所定の耐熱性、耐食性などの性質を備えている限り、真空チャンバ10を構成する材料は任意であり、好適にはアルミニウム合金を用いることができる。
【0025】
[ガス供給管20]
次に、ガス搬送部5を構成するガス供給管20は、原料タンク29に貯留される媒質ガスGを、真空チャンバ10の成膜室11に導く。ガス供給管20は、バリア膜の成膜時の成膜開始位置P1(
図3(a))と成膜を行わない待機時の待機位置P3(
図3(c))の間を、図示を省略するアクチュエータにより軸線方向に沿って昇降移動が可能に支持されている。
【0026】
ガス供給管20は、
図1に示すように、第一供給管21と、第二供給管23と、第一供給管21と第二供給管23の端部同士を繋ぐ連結管22と、を備え、第一供給管21と第二供給管23が平行に隣接して配置されるように組み付けられている。第一供給管21には、軸方向を貫通する第一ガス流路26が形成され、第二供給管23には、軸方向を貫通する第二ガス流路27が形成されている。ガス供給管20は、第一供給管21がバリア膜の成膜時に容器Pの中に挿入されるが、その分だけ第一供給管21は第二供給管23よりも軸方向の寸法が大きく設定されている。
つまり、第一供給管21が第一ピストン24よりも下方の先端部と上方の後端部とに区分されるものとし、先端部と後端部の長さをそれぞれ、
図1(b)に示すように、L1,L2とする。また、第二供給管23の長さをL3とすると、ガス供給管20はL1≦L2 及び L1≦L3を満足する。
この関係を満足することにより、第一供給管21の先端部は、バリア膜の成膜を行わない待機時に第一シリンダ41に収容されるが、成膜時には成膜室11の容器Pの奥まで挿入される。本実施形態はL1とL2がほぼ等しいので、成膜時には、後端部が第一シリンダ41に収容される。一方、この過程で第二供給管23は、待機時には第二シリンダ45の外部に置かれるが、成膜時には第二シリンダ45の内部に収容される。本実施形態の場合、第一シリンダ41と第二シリンダ45の長さがほぼ等しいので、L2とL3の長さもほぼ等しい。
【0027】
第一供給管21は、一端側(下端側)が開口しており、他端側(上端側)が連結管22により第二供給管23と連通されている。第二供給管23は、一端側(下端側)が開口しており、他端側(上端側)が連結管22により第一供給管21と連通されている。
【0028】
第一供給管21は、軸方向の所定位置の外周面に、第一ピストン24が嵌合されている。第一ピストン24は、第一シリンダ41の内壁面に密着して、第一シリンダ41の内部において、第一ピストン24よりも上方と下方を封止する。また、第一ピストン24は、発熱ユニット30を支持する機能を有する。第一ピストン24は、この二つの機能を有すために、電気絶縁性のセラミック材料で構成される。
第二供給管23は、下端に第二ピストン25が嵌合されている。第二ピストン25は、第二シリンダ45の内壁面に密着して、第二ピストン25よりも上方と下方を封止する機能を有する。第二ピストン25も、第一ピストン24と同様の構成を備えればよい。
【0029】
媒質ガスGは、第二供給管23を通ってから、連結管22を通過すると向きを反転させて第一供給管21を流れ、第一供給管21の先端の開口から吐出される。以下、この先端部分をノズル28と称することがある。
【0030】
ガス供給管20は、
図2(a),
図3(c)に示す待機位置P3にある時には、第一供給管21の第一ピストン24よりも下の先端部が第一シリンダ41の内部に収容され、第二供給管23は第二ピストン25の部分を除いて第二シリンダ45の上方に退避されている。また、ガス供給管20は、
図3(a)に示す成膜開始位置P1にある時には、第一供給管21の第一ピストン24よりも下の先端部が成膜室11の内部に収容され、第二供給管23は第二シリンダ45の内部に収容される。
【0031】
ガス供給管20は、耐熱性及び電気的な絶縁性を有する材料で構成されており、単純な一重の管部材から構成することができるが、冷却管を一体的に形成することができる。この構造としては、例えばガス供給管20を二重管構造とし、内側の管構造の中を媒質ガスの流路とし、内側の管構造と外側の管構造の間に冷却水を流す流路とすることができる。
【0032】
ガス供給管20は、成膜中に発熱ユニット30が1000℃を超える高い温度に発熱されても溶融することなくその形態を維持し、かつ通電される発熱ユニット30との電気的な短絡を防ぐために絶縁性を備えることが要求される。この要求を満たすセラミックス材料をガス供給管20に用いることができるが、冷却性能をも考慮すると、熱伝導率の大きい、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムなどのセラミックス材料を用いるのが好ましい。また、セラミックス材料に限らず、ステンレス鋼、超耐熱合金などの金属材料をガス供給管20に用いることもできる。金属材料を用いる場合には、上述したセラミックス材料で表面を被覆することもできる。
【0033】
[発熱ユニット30]
次に、発熱ユニット30は、図示を省略する電源から電力の供給を受けて発熱することにより、ガス供給管20から容器Pの内部に供給される媒質ガスGの分解を促進する。
発熱ユニット30は、発熱体31と、発熱体31に先端側(
図1の下端)が電気的に接続される一対のリード33と、を備えており、リード33の後端側が第一ピストン24に支持されることにより、ガス供給管20の昇降に追従して昇降する。
発熱ユニット30は、成膜に必要な発熱を担うのは発熱体31の部分であり、リード33は電源からの電力を発熱体31に向けて流す電線として機能するに留まる。つまり、発熱ユニット30は、発熱体31の部分だけを選択的に発熱させることができる。発熱体31は、供給される媒質ガスGとの接触機会を増やために、コイル状に形成されているが、直線状などの他の形態を採用することを許容する。
発熱ユニット30は、発熱体31の部分で折り返すU字状の形態をなし、発熱体31は第一供給管21の先端のノズル28の近傍に配置されることで、ガス供給管20から供給される媒質ガスGが漏れなく吹き付けられる。
【0034】
発熱体31は、通電により発熱するものであり、媒質ガスを効率的に分解するために、発熱温度が1550〜2400℃とされる。そのために、発熱体31は、高融点金属として知られるW(タングステン),Mo(モリブデン),Zr(ジルコニウム),Ta(タンタル),V(バナジウム),Nb(ニオブ),Hf(ハフニウム)の群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料からなる。この材料としては、当該金属元素からなる純金属、合金又は金属の炭化物を選択でき、当該金属元素の中では、Mo,W,Zr,Taの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料が好ましい。
リード33は、電気抵抗の小さい材質、例えば銅、アルミニウム、これらの合金などをから構成される。
なお、本実施形態では、発熱ユニット30として通電により加熱されるものとしたが、媒質ガスGを分解できる限り、本発明における発熱体の発熱方法は通電加熱に限定されるものではない。
【0035】
[シリンダ40]
シリンダ40は、
図1に示すように、第一シリンダ41と、第二シリンダ45と、を備えている。第一シリンダ41は通過窓17に下端が挿入されることで上部チャンバ15に立設され、また、第二シリンダ45は第一シリンダ41に隣接して下端がその上面に接触して上部チャンバ15に立設される。
【0036】
第一シリンダ41は、シリンダ本体42と、シリンダ本体42の内部に設けられる減圧室43と、を備える。前述したように、シリンダ本体42は上部チャンバ15の通過窓17を貫通しており、ガス供給管20の第一供給管21が減圧室43を昇降することで、第一供給管21が成膜室11に対して進退される。減圧室43は、第一ピストン24よりも下方の領域を占め、第一供給管21の昇降に伴って、第二供給管23はその容積が連続的に変化する。このとき、シリンダ本体42は、ガス供給管20の昇降移動をガイドする機能も果たす。
シリンダ本体42には、減圧室43とシリンダ本体42の外部とを連通する排気口44が設けられており、この排気口44は、図示を省略する排気ポンプと接続されている。遮蔽ゲート18が閉じられていることを前提として、この排気ポンプを動作させると、減圧室43は減圧状態、好ましくは真空状態(例えば、2×10
−2〜8×10
−2Torr程度)とされる。ガス供給管20が待機位置P3にいるときには、第一ガス流路26はシリンダ40の減圧室43と連通しており、減圧室43が減圧されると、第一ガス流路26が減圧状態とされる。
【0037】
第二シリンダ45は、シリンダ本体46と、シリンダ本体42の内部に設けられる貯留室47と、シリンダ本体46の表裏を貫通する給気口48と、を備える。貯留室47は、第二ピストン25よりも下方の領域を占め、ガス供給管20の第二供給管23が貯留室47を昇降することで、その容積が連続的に変化する。このとき、シリンダ本体42は、ガス供給管20の昇降移動をガイドする機能も果たす。
給気口48には媒質ガスGを貯える原料タンク29との間を接続する配管49が接続されており、原料タンク29に貯えられた媒質ガスGは、開閉弁V1の開閉動作に応じて、貯留室47に供給される。
【0038】
減圧室43及び貯留室47の容積は、ガス供給管20が成膜開始位置P1にあるときに最も小さく(
図3(a))、ガス供給管20が待機位置P3に(
図2(b))あるときには最も大きくなる。
【0039】
[成膜手順]
次に、成膜装置1を用いて容器Pにバリア膜を形成する一連の手順の一例を、
図2〜
図4をも参照して説明する。なお、
図2〜
図4には、成膜装置1の一部の要素の記載を省略している。
[容器供給工程(
図2(a),
図5 S101)]
上工程で成形された容器Pが成膜装置1に搬送されると、上部チャンバ15から十分に退避した位置で待機した下部チャンバ13の成膜室11に容器Pが収容された後に、下部チャンバ13が上部チャンバ15に突き合せられ、成膜室11が外部に対して気密に保持される。
このときには、ガス供給管20は、真空チャンバ10から退避した待機位置P3に置かれており、減圧室43及び貯留室47は最も広い状態とされている。また、遮蔽ゲート18は第一シリンダ41の開口を閉じており、減圧室43は排気口44を除いて閉じた空間をなしている。
また、このときには、図示を省略する排気ポンプにより、減圧室43を通じてガス供給管20(第一ガス流路26及び第二ガス流路27)は真空引きVacされている。この真空引きVacは次の工程まで継続される。
【0040】
[真空引き+ガス掃気工程(
図2(b),
図5 S103)]
次に、図示を省略する排気ポンプを動作させ、成膜室11を真空引きVacして成膜に備える。この真空引きVacと同時に、原料タンク29に貯えられている媒質ガスGを第二シリンダ45の貯留室47に向けて供給する。供給された媒質ガスGは、第二供給管23、連結管22及び第一供給管21を順に通過する。第一供給管21は、先端に位置するノズル28が遮蔽ゲート18により閉じられているので、供給された媒質ガスGは減圧室43に含まれていた空気を押し出すようにして、排気口44を通じて系外に排出される。継続的にこの真空引きVacと媒質ガスGの供給を並行して行うことにより、減圧室43の内部は媒質ガスGにより掃気され、空気の残存を極めて低くできる。
【0041】
[ゲート開+ノズル下降(
図2(c),
図5 S105)]
真空引きVacと媒質ガスGの供給を所定時間だけ並行して行った後に、遮蔽ゲート18を開くと同時に、ガス供給管20の下降を開始する。ガス供給管20の下降は、成膜開始位置P1(
図3(a))に達するまで行われる。また、遮蔽ゲート18を開くと同時に、第一シリンダ41及び第一供給管21からの真空引きを止めるとともに、真空チャンバ10に接続された排気ポンプにより、成膜室11の内部の真空引きVacに切り替える。成膜室11に加えて第一シリンダ41の減圧室43及び第一供給管21の第一ガス流路26も真空引きされる。この時点でも、媒質ガスGの供給は継続される。
シリンダ40の内部が減圧排気されると、ガス供給管20を下降させて第一供給管21を成膜室11に収容される容器Pの内部に挿入する。このときも、成膜室11の内部が所望する真空度に達するまで、排気ポンプによる排気は続けられる。このときの真空度は、10
−1〜10
−5Torr程度である。
なお、シリンダ40の減圧室43の内部の排気は、真空引き工程よりも前の給びん工程又は真空チャンバ閉工程において行ってもよい。このときの真空度は、上記した成膜室11の真空度と同様に10
−1〜10
−5Torr程度とされる。
【0042】
[ノズル下降完了+成膜開始(
図3(a),
図5 S107)]
成膜開始位置P1に達するまでガス供給管20を下降し、かつ、成膜室11が所望する真空度に達すると、図示を省略する電源から電力を供給して発熱ユニット30の発熱体31を発熱させる。
発熱ユニット30に電力を供給することにより、成膜装置1は待機時又は待機状態から成膜時又は成膜状態に移行する。これと同時にガス供給管20は待機位置P3に向けて上昇し始める。原料タンク29からの媒質ガスGの供給を係属しており、貯留室47に供給された媒質ガスGが、第二供給管23、連結管22及び第一供給管21の順に通って、容器Pの内部に吹き込まれる。吹き込まれる媒質ガスGは、発熱体31を通過する際に発熱体31に接触するので、媒質ガスGが分解して化学種が生成され、容器Pの内表面に化学種を到達させることによってバリア膜が形成される。成膜が行われている間、真空排気は継続される。
【0043】
[成膜完了(
図3(b),
図5 S109)]
ガス供給管20が成膜完了位置P2に達したならば、発熱ユニット30への電力の供給を止める。ただし、媒質ガスGの供給と排気ポンプの動作(Vac)は継続される。媒質ガスGの供給を続けることにより、成膜後にも媒質ガスGが発熱体31に吹き付けられることにより、発熱体31が空気に触れるのを防止できる。
発熱ユニット30への電力の供給を止めることにより、成膜が完了し、成膜装置1は成膜時又は成膜状態から待機時又は待機状態に移行する。
【0044】
[ノズル上昇完+ゲート閉(
図3(c),
図5 S111)]
成膜完了後に、ガス供給管20をさらに退避させ、待機位置P3に達したならば、遮蔽ゲート18を閉じる。第一ピストン24と第一供給管21の内壁面が互いに密着されているので、第一シリンダ41の減圧室43は排気口44を除いて閉じた空間になる。
媒質ガスGの供給及び成膜室11の真空引きVacはこの時点でも継続する。
【0045】
[チャンバ大気開放(
図4(a),
図5 S113)]
遮蔽ゲート18を閉じたならば、真空チャンバ10の成膜室11を大気に開放する。
成膜室11の真空引きVacは、大気開放をする前に止めるが、媒質ガスGの供給は継続して行われる。ただし、減圧室43及び貯留室47の圧力上昇を回避するために、ガス供給管20(第一供給管21,第二供給管23)の真空引きVacを行う。
【0046】
[容器排出(
図4(b),
図7 S115)]
下部チャンバ13を必要な位置まで下降させてから、バリア膜が形成された容器Pは、下工程に向けて適宜の搬送手段で移送され、成膜装置1は、次の処理対象である容器Pが移送されてくるまで、待機状態となる。待機状態において、減圧室43は真空引きVacが継続される。
【0047】
[作用及び効果]
次に、成膜装置1が奏する効果を説明する。
はじめに、成膜装置1によれば、発熱体31に常に媒質ガスGを吹き付けることができるので、発熱体31の酸化、窒化による劣化を防止することができる。
【0048】
ここで、成膜装置1は、第一供給管21が成膜室11を進退するために相当のストロークだけ鉛直方向に直線往復運動をする。位置が固定される原料タンク29を用いる場合、原料タンク29から第一供給管21に繋がるガスの供給径路には、この直線往復運動を吸収する部位が必要になる。樹脂などの可撓性の素材からなる管を螺旋状に巻き回した配管を第一供給管21と原料タンク29の間に用いれば、直線往復運動を吸収することができる。しかし、第一供給管21は、真空引きされる減圧室43に配置されるので、第一供給管21に接続される可撓性素材からなる配管は、真空引きされる減圧室43に少なくとも一部が置かれることになる。可撓性素材は真空引きの環境において気密性が十分とは言えないために、媒質ガスGは配管の外部に漏れ出ることになる。これでは、容器Pの内部への媒質ガスGの供給を満足に行えなくなる。そこで、本実施形態は、可撓性素材を用いることなく、直線往復運動を吸収する構造を採用した。
【0049】
すなわち、本実施形態のガス搬送部5は、ガス供給管20を第一供給管21と第二供給管23に区分するとともに、第二供給管23への媒質ガスGの供給を、第二供給管23が昇降する第二シリンダ45を介して行うことにした。つまり、第二供給管23と第二シリンダ45は、ピストン−シリンダ機構のように振る舞うものであるから、金属材料などの剛性が高く通気性を有しない素材で作製できるので、可撓性素材を用いる必要がない。第二供給管23に連なる第一供給管21及び第一供給管21を収容する第一シリンダ41も同様である。
【0050】
しかも、本実施形態は第一供給管21と第二供給管23が折り返された形態をなしているので、成膜装置1の鉛直方向の寸法を小さく抑えることができる。さらに、成膜装置1は、第二供給管23を収容する第二シリンダ45を上部チャンバ15の上に固定することができるので、第二シリンダ45を支持する格別の部材を設ける必要がないのに加え、ガス搬送部5をコンパクトに収めることができる。
【0051】
次に、成膜装置1によれば、ガス供給管20の第一ガス流路26及び第二ガス流路27が閉塞するのを未然に防ぐことができる。
つまり、バリア膜を成膜した後に真空チャンバ10を大気に開放すると、ガス供給管20や真空チャンバ10内に付着したバリア膜と同等の成分の表面から微小な剥離片であるパーティクルが生じ、第一ガス流路26及び第二ガス流路27に侵入して閉塞し得る。また、媒質ガスGが大気中の酸素や水分と反応して化合物を生成し得る場合には、この化合物が上記のパーティクルと同様に、ガス流路を閉塞させる要因となる。
ところが、成膜装置1によれば、待機時に第一ガス流路26及び第二ガス流路27が真空引きされているので、パーティクル、化合物が第一ガス流路26及び第二ガス流路27に侵入しない。
以上の通りであり、成膜装置1によれば、バリア膜の成膜開始位置P1に必要なガス供給管20を健全な状態に維持することができる。したがって、成膜装置1によれば、ガス供給管20の閉塞に対するメンテナンスの頻度が低くなり、長期間に亘る連続運転を保障できる。
【0052】
次に、成膜装置1によれば、発熱ユニット30が窒素、酸素などと反応することによる破損を防ぐことができる。
発熱ユニット30は、バリア膜の成膜中に1000℃を超える高温になるので、成膜を終えて通電を停止したとしても、相当の高温を維持してしまう。したがって、この高温状態の発熱ユニット30が大気に触れると、発熱ユニット30の表面近傍が大気中の主に窒素、酸素と反応して、本来の機能を失う破損の状態に到るおそれがある。
ところが、成膜装置1によれば、成膜の後に、発熱ユニット30はガス供給管20とともに真空排気されている減圧室43に収容されるので、窒素、酸素などとの反応が抑制され、健全な状態に維持することができる。したがって、成膜装置1によれば、発熱ユニット30に対するメンテナンスの頻度が低くなり、長期間に亘る連続運転を保障できる。
【0053】
次に、成膜装置1によれば、ガス供給管20の第一ガス流路26を減圧する手段として、減圧室43を有するシリンダ40を設け、この減圧室43と連通する第一ガス流路26を介して減圧室43を減圧する。そして、このシリンダ40は位置が固定されているために、減圧を行うための機構を簡易なものにできる。しかも、シリンダ40は、ガス供給管20の昇降移動を行うガイドとして機能するので、他にガス供給管20をガイドする機構を設ける必要がない。さらに、減圧室43は、ガス供給管20が昇降移動するのに必要な最小限のスペースがあれば足りるので、ガス流路26を減圧するのに必要な時間を抑えることができる。さらに、シリンダ40は、ガス供給管20を収容するだけの最小の空間があれば足り、このためシリンダ40内の減圧室43の減圧状態の維持が容易である。
【0054】
また、成膜装置1は、第一シリンダ41が上部チャンバ15に取り付けられており、減圧室43が成膜室11に連通している。このように、成膜装置1は、真空チャンバ10に第一供給管21が進退可能に収容される第一シリンダ41が、配管を介することなく直接的に接続されているので、装置の構成を簡易にかつコンパクトにできる。
【0055】
以上、本発明の好適な形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
【0056】
また、以上の実施形態では、発熱ユニット30への電力の供給を止めて成膜を終了しても、媒質ガスGの供給を継続しているが、ガス供給管20への媒質ガスGの供給を止めることができる。ただし、発熱ユニット30への電力の供給を止めた後でも発熱ユニット30は高温域にあるので、媒質ガスGを発熱体31に吹き付けて発熱体31の酸化などを防止できるので、媒質ガスGの供給を継続することが好ましい。もっとも、酸化などが生じない程度に発熱体31を冷却することができるのであれば、成膜を終了した後の媒質ガスGの供給を止めることもできる。
【0057】
また、以上の実施形態では成膜室11と減圧室43を仕切るのに揺動式の遮蔽ゲート18を用いた例を示したが、スライド式の遮蔽ゲートを用いることもできる。
【0058】
また、以上の実施形態では、ガス供給管20が昇降移動するのに必要な最小限のスペースに留めているシリンダ40を説明したが、本発明はこれに限定されず、ガス供給管20に対して余裕を有するシリンダとしてもよい。ただし、減圧室43は、必要以上に広くなると、減圧排気するのに時間を要してしまうので、できる限り容積を小さくすることが好ましい。成膜される容器Pのサイズによって異なるが、減圧室43は成膜室11と容積が同等であるか又は小さくするのが好ましい。
【0059】
また、以上の実施形態では、第一供給管21と第二供給管23は、互いに連なる連結管22の部分で反転している。これは、成膜装置1の鉛直方向の寸法を抑える上で好ましいといえるが、本発明は、第一供給管21と第二供給管23を直線状に繋ぐことを排除するものではない。
【0060】
また例えば、本発明におけるに用いる容器Pを構成する樹脂は任意であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)などが掲げられる。
【0061】
また、本発明における容器の用途は任意であり、例えば、水、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料又は果汁飲料などの飲料、液体、粘体、粉末又は固体状の食品などを収容する容器に広く適用することができる。
【0062】
また、バリア膜の材質も任意であり、媒質ガスGを用いてCVD法により成膜し得る物質、典型的には炭素膜、シリカ膜、アルミナ膜などの種々の材質を適用できる。
炭素膜として、具体的には非晶質カーボン膜があり、これは、ダイヤモンド成分(炭素原子の結合がSP
3結合)とグラファイト成分(炭素原子の結合がSP
2結合)、ポリマー成分(炭素原子の結合がSP
1結合)が混在した非晶質状の構造を有する炭素膜のことである。非晶質カーボン膜は、それぞれの炭素原子の結合成分の存在比率の変化により硬度が変化し、硬質の炭素膜及び軟質の炭素膜を含むものをいう。また、水素が含まれる水素化非晶質カーボンも含まれる。さらに、硬質の炭素膜には、SP
3結合を主体にした非晶質なDLC膜も含まれる。
また、他のバリア膜としては、SiOx膜、AlOx膜、水素含有SiNx膜、水素含有DLC膜、水素含有SiOx膜、水素含有SiCxNy膜などを用いることができる。