(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、圧電歪15モードを利用した円環状圧電素子では、円環状の圧電体を周方向に一方向に分極する必要がある。周知のごとく、圧電体を分極するためには圧電体を二つの電極板で狭持して大きな電界を印加する。圧電歪31モードであれば一体的な円環状圧電体の上面と下面に電極を配置して電界を印加すれば上下方向に分極する。しかし圧電歪15モードで使用する円環状圧電素子では、円環の円周に沿う方向に分極している。
図1に圧電歪15モードで使用する円環状圧電素子における従来の分極手順を示した。まず
図1(A)に示したように、扇状に円周分割された圧電材料からなるセラミックス焼結体110の端面に導電性ペーストなどを塗布して電極120を形成し、この電極間(120−120)の電圧Vによって扇状の圧電体110に電界Eを印加する。そして
図1(B)に示したように電極120を除去して扇状の圧電体111を作製する。なお図中では分極方向を矢印Pで示した。つぎに
図1(C)に示したように扇状の圧電体111の表裏両面に駆動用の電極(以下、駆動用電極130)を形成する。そして
図1(D)に示したように表裏両面に駆動用電極130が形成された扇状の圧電体111を円環状に配置した状態で固定すると、
図1(D)に示した円環状圧電素子100が完成する。このように圧電歪15モードで使用する円環状圧電素子は極めて複雑な工程を経て作製される。そのため製造コストが嵩み圧電素子を安価に提供することが難しくなる。
【0006】
そこで本発明は、圧電歪15モードで使用する円環状圧電素子をより簡素な工程を用いてより安価に製造するための方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、円環状の圧電体の表裏に電極が形成されて、当該電極間に電界を印加すると圧電歪15モードで振動する円環状圧電素子の製造方法であって、
円環の軸方向を上下方向として、
圧電材料からなる一体的な
円環状セラミックス焼結体を成形する焼結体成形ステップと、
前記円環状セラミックス焼結体の上面に半径方向に延長する分極用電極を複数箇所に配置する電極配置ステップと、
前記複数箇所に配置された分極用電極のうち、互いに隣り合う二つの電極の一方を接地電極として当該二つの電極間に電位差を与えることで、
前記円環状セラミックス焼結体において当該二つの分極用電極によって区分される円周分割領域を円周方向に向かって分極させる分極ステップと、
を含むことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法としている。
【0008】
前記電極配置ステップでは、分極用電極を配置する角度位置を3カ所以上とし、
前記分極ステップでは、互いに隣り合う二つの
分極用電極を順次選択するとともに、当該二つの分極用電極の延長方向がなす劣角側の円周分割領域を円周の所定方向に向かって分極させる、
ことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法とすることもできる。
【0009】
前記電極配置ステップでは、
前記円環状セラミックス焼結体の半径方向に延長する
前記分極用電極が、所定の半径となる位置にて分割されて、内周側から外周側に向かって複数の
分極用電極片が形成され、
前記分極ステップでは、同じ半径となる領域に形成されて互いに周方向で隣接する二つの前記分極用電極片を選択するともに、選択した二つの
前記分極用電極片が属する分極用電極の延長方向がなす劣角側の円周分割領域に同じ強度の電界が印加されるように電位差を与える、
ことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法としてもよい。
【0010】
前記焼結体成形ステップでは、上面に半径方向に延長する溝が形成された円環状セラミックス焼結体を成形し、
前記分極用電極配置ステップでは、前記溝内に導電体を配置する、
ことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法としてもよい。
【0011】
前記焼結体成形ステップでは、半径方向を横断する切欠が形成された円環状セラミックス焼結体を形成し、
前記分極ステップでは、前記切欠をギャップとすることで、前記円環状セラミックス焼結体を周の一方向にのみ分極させる、
ことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法とすることもできる。そして前記切欠に絶縁体からなる補強部材を充填することを特徴とする円環状圧電素子の製造方法としてもよい。
前記電極配置ステップでは、分極用電極を配置する角度位置を3カ所以上とし、
前記分極ステップでは、互いに隣り合う二つの分極電極を順次選択するとともに、当該二つの分極用電極の延長方向がなす劣角側の円周分割領域を円周の所定方向に向かって分極させる、
ことを特徴とする円環状圧電素子の製造方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電歪15モードで使用する円環状圧電素子をより簡素な工程を用いてより安価に製造することができる。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0015】
===第1の実施例===
図2は本発明の実施例に係る製造方法によって製造される円環状圧電素子の一例を示す図である。当該圧電素子1は、円環の軸方向を上下方向として、一体的な円環状圧電体11の上下両面に円周分割された駆動用電極30が形成されている。そして円環状圧電体11は円環を周回する方向Pに分極している。そして本発明の実施例に係る円環状圧電素子の製造方法では、圧電材料からなる円環状セラミックス焼結体を円環を周回する方向に分極させる手順に大きな特徴がある。
【0016】
概略的には、円環状セラミックス焼結体の上下一方の面に上記軸から放射方向に上面を横断する分極用電極を複数に形成し、その複数の分極用電極において、互いに隣接する分極用電極間に一方向の電界を印加することで圧電体を円周の一方向に分極させることとしている。以下では、基本的な分極手順を本発明の第1の実施例として挙げる。
【0017】
図3に第1の実施例の概略を示した。なお第1の実施例を含め、以下に挙げる各実施例では分極用電極20を円環状セラミックス焼結体10の上面12に形成することとする。そして
図3に示したように、第1の実施例に係る製造方法では一体的な円環状セラミックス焼結体(以下、円環状焼結体10とも言う)の上面12に二つの分極用電極(21、22)を劣角θ
1(あるいは優角θ
2)となるように形成し、その二つの分極用電極間(21−22)に電位差Vを与えることで、当該二つの電極間(21−22)の円周分割領域(121、122)に円周に沿った一方向の電界(E
1、E
2)を印加する。それによって劣角θ
1に対応する円周分割領域121と優角θ
2に対応する円周分割領域122のそれぞれが円周に沿うように分極する。またその分極方向は互いに反対となる。なお分極用電極(21、22)については銀ペーストなどを印刷によって形成してもよいし、焼結体10の表面に固定せずに帯状の金属板を焼結体10の上面12に一時的に接触させることで形成してもよい。そして焼結体10を分極させてなる圧電体の上下両面に駆動用電極を形成すれば
図2に示したような円環状圧電素子1が完成する。円環状圧電素子1を駆動する際には、上下方向で対面する駆動用電極間(30−30)の電圧を分極の方向や分極の強度に応じて制御すればよい。
【0018】
<分極状態>
図3に示した第1の実施例に係る製造方法では、円環状焼結体10の軸50に対して半径方向に延長する二つの分極用電極(21、22)によって分極していた。そのため焼結体10は劣角θ
1の円周分割領域121と、優角θ
2の円周分割領域122の二つの領域に分割され、それぞれの領域(121、122)では分極方向が互いに反対方向となる。また二つの円周分割領域(121、122)に印加される電界強度(E
1、E
2)は分極用電極間(21−22)の周方向の距離に反比例するため、劣角θ
1に対応する円周分割領域121の方が分極の強度が大きくなる。
【0019】
そこで第1の実施例のように、二つの分極用電極(21−22)を用いて円環状焼結体10を分極させる際に劣角θ
1の円周分割領域121と優角θ
2の円周分割領域122のそれぞれに印加される電界強度をシミュレーションによって求めてみた。
図4にそのシミュレーションの概略と結果を示した。
図4(A)はシミュレーションに用いた焼結体10のサイズを示す図であり、当該焼結体10は円環の外径φ
1=12mm、内径φ
2=7mm、厚さ(以下、t
1)=0.4mmの外形サイズを有し、二つの分極用電極(21、22)は、幅w
1=2.0mmで劣角θ
1=120°(優角θ
2=240°)となる位置に形成されている。また二つの分極用電極間(21−22)に電位差V=1Vを与えることとしている。そしてこの電位差Vにより劣角θ
1の円周分割領域121では円周に沿う所定の方向(ここでは時計回り)の電界E
1が印加され、優角θ
2の円周分割領域122では反時計回りの方向に電界E
2が印加される。
【0020】
図4(B)は上述した条件に基づいて行ったシミュレーションの結果を示す図である。ここでは電位差Vによる分極に際して焼結体10に印加される電界強度を濃淡で表している。劣角θ
1および優角θ
2のそれぞれに対応する円周分割領域(121、122)では、同心円上に沿って同じ強度の電界(E
1、E
2)が印加されており、外周(121o、122o)側より内周(121i、122i)側の電界強度が大きくなっている。具体的には劣角θ
1の円周分割領域121における電界強度は、外周121oで81.5V/m、内周121iで140.0V/mとなる。一方優角θ
2の円周分割領域122における電界強度は、外周122oで40.1V/m、内周122iで66.8V/mとなる。なお上下方向の電界強度は分極用電極(21、22)の直下以外では一様に0A/mであり、上下方向には分極されないことが分かった。以上より第1の実施例に係る方法によって、円環の周方向に分極させることができ、圧電歪15モードで駆動可能な円環状圧電体が得られることが確認できた。
【0021】
===第2の実施例===
図3、
図4に示したように、第1の実施例では二つの分極用電極(21、22)によって焼結体10を円周に沿う方向に分極させていた。しかし二つの分極用電極(21、22)によって分極の方向や強度が異なる二つの円周分割領域(121、122)が形成されてしまう。そして焼結体10を分極させた円環状圧電体の上下両面に駆動用電極を形成した圧電素子を駆動する際には、二つの円周分割領域(121、122)が協調して振動するように制御する必要がある。そこで第2の実施例として、円環状焼結体10を全円周に亘って一方向に分極させるための手順を示す。
【0022】
図5に第2の実施例における分極手順を示した。まず
図5(A)に示したように、円環状焼結体10に三つ以上の分極用電極(21〜24)を等角度間隔で形成する。この例ではθ=90°の角度ごとに四つの分極用電極(21〜24)を形成している。つぎに
図5(B)に示したように、互いに隣接する二つの分極用電極(21、22)を選択し、その電極間(21−22)に電位差Vを与えて、当該二つの分極用電極間(21−22)の円周分割領域(121、122)を分極させる。ここでは劣角θ
1=90゜に対応する円周分割領域121に時計回り方向の強電界E
1が印加され、優角θ
2=270゜に対応する円周分割領域122に反時計回りの方向に弱い電界E
2が印加される。ここで、このとき接地電位にした分極用電極21を基準となる第1電極21と称し、以下この第1電極21に対して反時計回りにθ=90°ごとに形成されている分極用電極(22〜24)を順次第2電極22、第3電極23、および第4電極24と称することとする。また円環状焼結体10において、第1電極21と第2電極22との間の劣角θ
1=90°に対応する円周分割領域を第1領域1211とし、以後反時計回りに角度90°ごとに区切られた領域を第2〜第4領域(1212〜1214)とする。
【0023】
そして第1領域1211とその優角θ
2に対応する領域122を分極したら、
図5(C)に示したように、第3電極23を高電位にして第2電極22との間に電位差Vを与え、第2領域1212に時計回りの電界E
1を印加する。もちろんこの場合も優角θ
2に対応する領域122に反時計回りの電界E
2(<E
1)が印加される。つぎに
図5(D)(E)に示したように、同様にして第3領域1213と第4領域1214に時計回りの電界E
1を順次印加する。そしてこの時点で第1〜第4領域(1211〜1214)は、各領域(1211〜1214)に印加された時計回りの強い電界E1と、これらの領域(1211〜1214)において優角θ
2に対応する領域122に印加された反時計回りの弱い電界E
2との差分に相当する時計回りの電界によって分極される。すなわち
図5(E)に示したように、第1〜第4領域(1211〜1214)が同じ方向に同じ強度Pで分極される。すなわち全円周に亘って同方向に分極された円環状圧電体11が作製される。
【0024】
なお
図5に示した分極手順では円周に沿って一方向に順番に二つの分極用電極(21〜24)を選択し、劣角θ
1に対応する第1〜第4領域(1211〜1214)とその優角θ
2に対応する円周分割領域122を順番に分極していたが、例えば第1領域1211に続いて第3領域1213を分極するなど円周に沿って順番に分極させる必要は無い。また各領域(1211〜1214)の分極回数は1回ずつでなくてもよい。いずれにしても各領域(1211〜1214)の分極回数が同じであればよい。もちろん分極用電極の数は四つに限らない。
【0025】
====第3の実施例===
第1および第2の実施例では、円環状焼結体を放射方向に連続して延長しつつ所定の角度を介して離間する二つの分極用電極間を用いて分極させていた。そのため
図4にも示したように、焼結体10の内周側から外周側に向かって(121i→121o、122i→122o)電界強度(E
1、E
2)が円環の軸50からの距離に反比例して強くなっていく。そのため円環状焼結体の径方向の幅が広い場合、内周側と外周側に印加される電界強度の差が大きくなる。そこで円環状焼結体の外周側と内周側とに印加される電界強度の差を小さくできる分極手順を本発明の第3の実施例として挙げる。
【0026】
図6に第3の実施例における分極手順の概略を示した。
図6に示したように、ここでは放射方向に延長する分極用電極(21〜24)が90゜の角度間隔ごとに配置し、各分極用電極(21〜24)をさらに所定の半径rとなる位置で分割している。この例では、内周の半径r
iと外周の半径r
oとの中間の半径rを有する同心円16上で分割している。それによって一つの分極用電極(21〜24)に外周側の分極用電極(以下、外周側分極用電極21o〜24oとも言う)と内周側の分極用電極(以下、内周側分極用電極21i〜24iとも言う)が形成される。
【0027】
そしてこれらの内周側と外周側の分極用電極(21i〜24i、21o〜21o)を用いて円環状焼結体10を分極させる際には、例えば、図中で示したように互いに隣接する分極用電極(21、22)を用いるのであれば、外周側分極用電極(21o、22o)で区切られた外周側の円周分割領域121oに印加される電界強度Eoと内周側分極用電極(21i、22i)で区切られた内周側の円周分割領域121iに印加される電界強度Eiが同じになるように、外周側と内周側のそれぞれにおいて互いに隣接する二つの分極電極間(21i−22i、21o―22o)の電位差V
1とV
2を調整する。
【0028】
===第4の実施例===
上記第1〜第3の実施例では分極用電極を円環状焼結体の表面(ここでは上面)に形成していた。そのため分極用電極の直下では、
図4(B)にも示したように上下方向にも電界が印加され、分極用電極の形成領域では上下方向の分極成分が残存する。その結果、圧電歪15モードでの振動効率が低下する可能性がある。そこ円環状焼結体を周方向に一様に分極させる手順を第4の実施例として以下に説明する。
図7に第4の実施例における分極手順の概略を示した。
図7(A)は円環状焼結体10を上方から見たときの平面図である。ここでは4つの分極用電極20がθ=90゜の角度間隔ごとに形成されている例を示した。
図7の(B)と(C)は、ともに
図7(A)におけるa−a斜視断面を示している。なお
図7の(B)と(C)では分極用電極20の構成が異なっている。
【0029】
第4の実施例では、そして
図7の(B)と(C)に示したように、焼結体10の上面12おいて分極用電極20が形成される位置に溝13が形成されている。そしてその溝13内に導電体(120a、120b)を埋め込み、その導電体(120a、120b)を分極用電極20としている。なお
図7(B)に示した例では、ブロック状の金属などからなる導電体120aを溝13内に嵌め込んで、上端が焼結体10の上面12から突出している。
図7(C)に示した例では、溝13内に導電体20bとして銀ペーストを充填している。このように第4の実施例では焼結体10の厚さ方向にも分極用電極20を形成することで分極用電極20の形成領域における上下方向の電界強度を低減させている。
【0030】
===第5の実施例===
上記第1〜第4の実施例では、周囲が連続する円環状焼結体に形成した二つの分極用電極を用いて当該焼結体を分極していた。そのため優角に対応する円周分割領域と劣角に対応する円周分割領域のそれぞれに互いに逆方向の電界が印加されていた。すなわち分極用電極間の電位差を用いて効率よく分極させることが難しかった。そこで第5の実施例としており効率よく分極させるための手順を挙げる。
【0031】
図8は第5の実施例における分極手順の概略を示す図である。
図8(A)は第5の実施例に用いる円環状焼結体10の外観を示す図であり、
図8(B)は
図8(A)に示した円環状焼結体10を分極させるときの電界の印加状態を示す図である。そして
図8(A)に示したように、円環状焼結体10bは、その一部に切欠部14が形成されており、この切欠が円環状焼結体10に印加される電界を遮断するギャップとして機能する。
図8(B)に示したように、円環状焼結体10に形成された二つの分極用電極間(20−20)に電位差Vを与えたとき、切欠部(以下、ギャップ14)を含む円周分割領域122では電界E
2が遮断される。それによって一方向にのみ電界E
1が印加され、効率的に円環状焼結体10を分極させることができる。
【0032】
なお第5の実施例では、円環状焼結体の一部にギャップ14が設けられているため、当該焼結体10が薄い場合などでは強度不足が懸念される。そのような場合にはギャップ14内に樹脂などの絶縁体を充填して補強すればよい。
【0033】
===圧電特性===
<サンプル>
上述した第1〜第5の実施例における方法によって製造される円環状圧電素子の特性を評価するために、上記各実施例の分極手順で得た円環状圧電体をサンプルとして作製した。ここで第1〜第5の実施例に対応するサンプルを順にサンプルa〜eとする。また第5の実施例によって得た環状圧電体のギャップに樹脂を充填したサンプルをサンプルfとして作製した。そして各サンプルの圧電特性を調べた。なお各サンプルの作製手順は分極の手順以外は一般的な圧電体の製造手順と同じである。
【0034】
<サンプルの作製手順>
図9にサンプルの作製手順を示した。
図9に示したように、まず圧電材料をリング状に形成する。具体的にはPLZTなどの圧電材料を粉末状にした原材料をバインダを添加した上で型を用いて円環状の成形体にする。あるいは粉末状の原材料にバインダを添加してスラリー状にしたものを圧膜印刷技術により円環状の成形体にする(s1)。第4および5の実施例に対応するサンプルe、サンプルfについては、この成形工程(s1)において溝やギャップを形成しておく。もちろん円環状焼結体に成形したあとにダイサーなどを用いた機械加工によって溝やギャップを形成してもよい。
【0035】
つぎに円環状に成形した圧電材料を300℃〜500℃の温度で1〜5時間程度加熱してバインダ成分が残渣しないよう完全に脱脂する(s2)。そして1000℃〜1300℃の温度で成形体を焼成し、相対密度95%以上の緻密化されたセラミックからなる円環状焼成体を作製する(s3)。ついで上記第1〜第5の実施例のそれぞれの分極手順に応じて位置や形状が異なる分極用電極を円環状焼結体に設ける。なお分極用電極は、溝内に分極用電極を形成する第4の実施例に対応するサンプルd以外のサンプルでは、電極板を円環状焼結体の表面に接触させることで設ける(s4→s5)。サンプルdについては溝内に銀ペーストを充填した後、これを加熱して溝内に焼き付けることで分極用電極を設けた(s4→s10)。最後に分極用電極を用いて円環状焼成体に電界を印加して分極させる(s5→s6、s10→s6)。分極時に二つの分極用電極間に電圧を印加する際には、分極させたい方向に平均して1kV/mの強度の電界が印加されるようにする。そして円環状焼結体の全周にわたって分極させれば円環状圧電体が完成する(s7→s8→終わり)。サンプルdについては、分極後に溶剤を用いたり機械的に研磨したりするなどして銀ペーストからなる分極電極を除去した(s7→s8→s9→終わり)。
【0036】
<評価用素子について>
上述した手順によって作製した各サンプルの圧電特性を測定するために、サンプルの一部を試料片として切り出し、その切り出した矩形平板状の試料片の表裏に特性評価用の電極を形成した。
図10に各サンプルの外形や試料片についての概略を示した。具体的には、
図10(A)〜(F)のそれぞれに、サンプルa〜fの外形やサンプル片の形状や切り出位置、および分極時の分極用電極の位置や形状を示した。各サンプルの外形は
図10(C)に示したサンプルcが外径φ1=50mm、内径φ2=20mm であり、
図10(A)(B)(D)〜(F)に示した他のサンプルa、b、d〜fは外径φ1=50mm、内径φ2=40mmである。厚さt
1は全てのサンプルで0.2mmである(
図10(D)参照)。分極用電極20の幅w1は各サンプル共通でw
1=2mmである。
【0037】
また
図10(C)に示したサンプルcについては、内周から外周までの円環の幅w
3を二等分する半径φ3=35mmの同心円16によって内周側分極用電極20iと外周側分極用電極20oに分割され、内周側分極用電極20iと外周側分極用電極20oとの間には幅w
4=0.5mmの間隙が介在している。
図10(D)に示したサンプルdは表面に溝が形成されており、このサンプルdは
図10(B)に示したサンプルbの分極用電極20が配置される位置に深さd=2mmの溝13が形成されて、その溝13内に分極用電極20として厚さt
2=1mmの銀ペースト120bが充填されている。
【0038】
分極用電極20の配置については、
図10(A)に示したサンプルaでは120゜の角度間隔を隔てて二つの分極用電極20を設けているが、
図10(B)〜(D)に示したサンプルb〜dでは90゜の角度ごとに4カ所に分極用電極20を設けている。
図10の(E)と(F)のそれぞれに示したサンプルeとサンプルfでは、ギャップ14の両側に他と同様の幅w
1=2mmの分極用電極20gが形成されているとともに、ギャップ14の形成位置から90゜の角度ごとに3カ所に分極用電極20が設けられている。
【0039】
そして
図10の(A)、(B)、(C)、(E)および(F)に示したように、各サンプルについて所定の位置から長さL=10mm、幅w
2=2.5mmの試験片200を分極後の円環状焼結体10の厚さt
1=0.2mmにわたって切り出した。
図10(D)に示したサンプルdは
図10(B)に示したサンプルbと同じ位置から試験片200を切り出した。そして各サンプルの特性を評価するために切り出した試験片200の上面と下面に塗布した銀ペーストを焼き付けてなる電極を形成して圧電素子(以下、評価用素子とも言う)を作製した。
図11に評価用素子220の概略を示した。サンプルa〜fから切り出した矩形平板状の試験片200の上下両面に電極210を形成している。そして評価用素子220における分極方向Pは矩形の平面形状における長辺方向に分極している。また各サンプルとの特性を比較するための基準となる試料として試験片200と同じ大きさの焼結体を分極させてなる圧電素子(以下、比較用素子とも言う)も用意した。
図12に比較用素子の作製手順の概略を示した。試験片と同じ矩形平面形状を有する焼結体310の短辺側の端面に分極用電極320を形成し、この電極間(320−320)間に与えた電位差Vによって焼結体310の長辺方向に電界Eを印加して分極させる。そして分極用電極320を除去し、評価用素子と同様に分極後の焼結体310の上下両面に電極を形成して比較用素子を完成させた。
【0040】
<特性評価>
上述したように作製した各サンプルa〜fに対応する評価用素子と比較用素子の圧電特性を調べた。以下の表1に各サンプルの圧電特性を示した。
【0041】
【表1】
表1ではサンプルa〜fのそれぞれに対応する評価用素子a〜fと、比較用素子gの圧電特性として、電気機械結合係数k
15、機械的品質係数Qm、および比誘電率ε
r11を示した。これらの特性の中で最も重要なのは圧電歪15モードで駆動する際の電気エネルギーと機械エネルギーの変換効率の指標となる電気機械結合係数k
15である。なお比較用素子gは最も理想的な状態で焼結体を分極させたものであり、評価用素子a〜fのk15の値は原理的に比較用素子gには及ばない。しかし本発明の目的は圧電歪15モードで駆動できる円環状圧電素子をより簡素により安価に製造するための方法を提供することであり、実用的に問題がない程度の圧電特性を有していればよい。
【0042】
そして表1に示したように、評価用素子a〜fのk
15はいずれも比較用素子の80%以上の値を有し、充分に実用的な特性を有している。しかもQmについては全ての評価用素子で比較用素子を上回っている。またε
r11についてはほぼ同等の特性が得られた。以上により本発明の実施例に係る方法では圧電歪15モードで駆動する実用的な円環状圧電素子をより安価に製造することが可能となる。