(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535508
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】半導工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20190617BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20190617BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20190617BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20190617BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
C08J5/18CES
C08J5/18CFG
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
C09J7/22
H01L21/78 M
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-96085(P2015-96085)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-210898(P2016-210898A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】河村 仁志
【審査官】
深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−529843(JP,A)
【文献】
特表2004−510865(JP,A)
【文献】
特開2014−229682(JP,A)
【文献】
特開2009−267389(JP,A)
【文献】
特開2007−063340(JP,A)
【文献】
特開2016−089138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
B32B 1/00−43/00
C09J 7/00−7/50
H01L 21/301、21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの全質量に対して、オレフィン系変性ポリマーを40質量%以上含有する基材フィルムであって、
前記オレフィン系変性ポリマーは、ポリオレフィンの主鎖に少なくとも1つのポリアミドがグラフト結合したポリアミドブロックグラフトコポリマーであり、ポリオレフィンドメインとポリアミドドメインが共連続構造を有し、引張弾性率が50〜200MPaであることを特徴とする、半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項2】
前記オレフィン系変性ポリマーは、融解ピーク温度が180℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項3】
150℃における熱荷重伸度が10%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項4】
融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を更に含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項5】
基材フィルムの全質量に対して、オレフィン系変性ポリマーを40質量%以上含有する基材フィルムからなる層を少なくとも1つ備える、半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムであって、
前記オレフィン系変性ポリマーは、ポリオレフィンの主鎖に少なくとも1つのポリアミドがグラフト結合したポリアミドブロックグラフトコポリマーであり、ポリオレフィンドメインとポリアミドドメインが共連続構造を有し、
かつ、前記基材フィルムの引張弾性率が50〜200MPaである、半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる半導体製造工程用粘着フィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなるダイシング工程用粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造工程で使用される粘着フィルムに使用する基材フィルムに関し、さらに詳しくは、高温下での製造工程にも耐え得る耐熱性と耐荷重性を有する基材フィルム、及びそれを用いてなる半導体製造工程用またはダイシング工程用の粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工程には、様々な工程があるが、たとえば、シリコンやガリウム砒素等の半導体ウェハの製造工程において、半導体ウェハを個々のチップに切断分離するダイシングが行われる。この際、ウェハを固定するためにダイシング用粘着フィルムを貼り付けて切断し、その後にダイシング用粘着フィルムを放射状にエキスパンドして個々のチップをピックアップするなどの工程がある。
【0003】
このような半導体ウェハは、近年の電子機器の小型化に伴い薄型化が進んでおり、ウェハの強度が低下しているため、製造工程において破損しやすくなっている。このため、エキスパンド時やピックアップ時に発生する半導体ウェハへの負荷を軽減しチップの破損を防止するため、柔軟性に優れた粘着フィルムが求められている。
【0004】
柔軟な粘着フィルムを得るため、ポリプロピレン系樹脂やオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を粘着フィルムの基材フィルムとして用いる方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体水素添加物とポリプロピレン系樹脂とからなる樹脂組成物を積層したことを特徴とする多層ダイシング用基体フィルムが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、エキスパンド性は十分であるものの、基材の耐熱性が劣るため、高機能層の積層工程や転写工程における加熱処理の際にフィルムが溶融したり、ウェハの重みによってフィルムが弛んだりするという問題がある。
【0007】
近年においては、ダイシングフィルム上にさらにダイボンドフィルムやダイバックサイドフィルムといった高機能層を設ける技術が活用されている。このような高機能層付きダイシングフィルムにおいては、高機能層を積層するための工程や半導体ウェハに高機能層を転写するための工程で加熱処理される場合があるため、基材にはエキスパンド性に加えて耐熱性が求められている。
【0008】
これらの用途に対応するため、例えば特許文献2には、エキスパンドが可能で基材が耐熱性を備えた保護膜形成層付ダイシングシートが開示され、基材フィルムにポリプロピレンフィルムまたはポリブチレンテレフタレートフィルムを使用し、この基材フィルムは、融点が130℃を超えるか、もしくは融点を持たない、かつMD方向およびTD方向の破断伸度が100%以上、25%応力が100MPa以下である基材フィルムが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2の方法では、基材フィルムは耐熱性を有しているものの、基材フィルムの強度が高いため、エキスパンドの性能においてはまだ十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009―94418号公報
【特許文献2】特許第5363662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであり、高温下においても半導体ウェハの荷重に耐え得る耐熱荷重性と、ダイシング工程におけるエキスパンド性を両立できる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記問題を解決すべく半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムについて鋭意検討した結果、基材フィルムに特定のオレフィン系変性ポリマーを用いることで前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムである。
【0014】
[1]基材フィルムの全質量に対して、オレフィン系変性ポリマーを40質量%以上含有する基材フィルムであって、
前記オレフィン系変性ポリマーは、ポリオレフィンの主鎖に少なくとも1つのポリアミドがグラフト結合したポリアミドブロックグラフトコポリマーであり、ポリオレフィンドメインとポリアミドドメインが共連続構造を有していることを特徴とする、半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【0015】
[2]前記オレフィン系変性ポリマーは、融解ピーク温度が180℃以上であることを特徴とする、[1]に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【0016】
[3]引張弾性率が50〜200MPaであり、かつ150℃における熱荷重伸度が10%以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【0017】
[4]融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を更に含有することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【0018】
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載の基材フィルムを少なくとも1つ備える、半導体工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【0019】
[6][1]〜[4]のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる半導体製造工程用粘着フィルム。
【0020】
[7][1]〜[4]のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなるダイシング工程用粘着フィルム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高温下での製造工程にも耐え得る耐熱荷重性を有し、かつエキスパンド性に優れる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム(以下「本発明の基材フィルム」ともいう)は、基材フィルムの全質量に対して、オレフィン系変性ポリマーを含有する基材フィルムであって、前記オレフィン系変性ポリマーは、ポリオレフィンの主鎖に少なくとも1つのポリアミドがグラフト結合したポリアミドブロックグラフトコポリマーであり、ポリオレフィンドメインとポリアミドドメインが共連続構造を有していることを特徴とする。該オレフィン系変性ポリマーを含有することにより、基材フィルムに耐熱荷重性を効果的に付与することができる。
【0023】
また、本発明の基材フィルムは、前記オレフィン系変性ポリマーを基材フィルムの全質量に対して40質量%以上含有することが重要であり、45質量%以上含有することが好ましく、55質量%以上含有することがより好ましく、65質量%以上含有することが更に好ましい。オレフィン系変性ポリマーの含有量を40質量%以上にすることで、耐熱性をもつオレフィン系変性ポリマーの相をマトリックスとすることができるため、耐熱荷重性を維持できるため好ましい。
【0024】
[オレフィン系変性ポリマー]
本発明の基材フィルムに使用するオレフィン系変性ポリマーは、ポリオレフィンの主鎖に少なくとも1つのポリアミドがグラフト結合したポリアミドブロックグラフトコポリマーであり、ポリオレフィンドメインとポリアミドドメインが共連続構造を有していることが重要である。ポリマーの主鎖をポリオレフィンとすることで基材フィルムに柔軟性を持たせることができ、ポリアミドをグラフト化することで高い耐熱荷重性を持たせることができ、さらに、該ブロックグラフトコポリマーにおけるポリオレフィンのドメインとポリアミドのドメインをナノスケールで共連続構造化させることにより、両成分の性質を阻害することなく柔軟性と耐熱性を両立することができる。両成分が共連続構造化せず海島構造化(ポリオレフィン成分がマトリックス/ポリアミド成分がドメイン)した場合はポリアミドのネットワークが分断されてしまうため耐熱荷重性が著しく劣る。
【0025】
なお前記ブロックグラフトコポリマーにおけるポリアミド成分の比率は特に限定されないが、グラフト化率が20%〜40%であると耐熱性と成形性のバランスが良いため好ましい。
【0026】
このようなオレフィン系変性ポリマーの製法の一例は、例えば、特表2004−510865号公報等に記載されている。
【0027】
ここで、共連続構造とは、両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに3次元的に絡み合った構造、または、両相が連続相を形成して、3次元的に規則正しく(周期構造をもって)絡み合った構造であるが、例えば、部分的に相が途切れた箇所が存在し、あるいは一部に海島構造が存在していても構わない。また、共連続構造に関する説明は、例えば「ポリマーアロイ」(高分子学会編、東京化学同人、1993年刊)においてなされている。
【0028】
なお、共連続構造は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)、その他の分析機器を用いて観察することが可能である。
【0029】
また、本発明の基材フィルムに使用するオレフィン系変性ポリマーは、融解ピーク温度が180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。オレフィン系変性ポリマーの融解ピーク温度を180℃以上とすることで、基材フィルムに耐熱荷重性を効果的に持たせることができる。なお、前記オレフィン系変性ポリマーに複数個の融解ピークが存在する場合は、最も高い側の融解ピーク温度が180℃以上であればよい。
【0030】
なお、本発明における融解ピーク温度とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料5mgを230℃まで昇温した後、25℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、再度10℃/分の昇温速度で融解させたときに描かれるDSCチャート(溶融曲線)のピークが現れる位置の温度のことをいう。
【0031】
また、本発明の基材フィルムは、引張弾性率が50〜200MPaであることが好ましく、50〜150MPaであることがより好ましく、50〜130MPaであることが更に好ましい。基材フィルムの引張弾性率を上記の範囲とすることで、基材フィルムが適度な強度を有しエキスパンド性が好ましくなる。
【0032】
また、本発明の基材フィルムは、150℃における熱荷重伸度が10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。熱荷重伸度を10%以下とすることで、高機能層を積層する工程や転写する工程において加熱処理する際に、フィルムが溶融したり、ウェハの重みによってフィルムが弛んだりすることを抑制することができ、その後のダイシングする工程や、ピックアップの工程における作業性が好ましいものとなる。また、熱荷重伸度の下限値は特に限定することはなく、伸度がより小さい方が好ましい。
【0033】
なお、本発明において熱荷重伸度とは、下記の耐熱荷重性試験の方法によって算出される数値のことを言い、熱荷重伸度は、0以下、つまり伸縮する結果となることもある。
【0034】
[耐熱荷重性試験]
長さ100mm、幅10mmの試験片を使用し、長さ方向に40mm間隔の標線を引く。次いで標線下部に荷重5.5g(取り付け冶具含む)の錘を取り付け、試験片を垂直に保持し、試験温度150℃の環境で30分間養生し、得られた結果を下記式1にて算出し、得られた結果を熱荷重伸度とする。
【0035】
[式1]
熱荷重伸度=(加熱後の標線間長−加熱前の標線間長)/(加熱前の標線間長)×100
【0036】
また、本発明の基材フィルムは、さらに、融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。本発明の基材フィルムは、当該ポリオレフィン系樹脂を好ましくは65質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは40質量%以下含有することができる。融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を含有することで、上記オレフィン系変性ポリマーと相溶性に優れ、かつ基材フィルムの耐熱性が低下することを抑制することができ、さらにフィルム成形性が好ましいものとなる。
【0037】
また、前記ポリオレフィン系樹脂は、融解ピーク温度が100℃以上であれば特に限定することはなく、たとえば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒を用いて重合して得られたエチレン−α−オレフィン共重合体(メタロセン系ポリエチレン)等)及びこれらの混合物等が例示でき、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンの共重合体、リアクター型のポリプロピレン系熱可塑性エラストマー及びこれらの混合物等が例示できる。これらの中でも、オレフィン系変性ポリマーとの相溶性が優れるという観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましく、とりわけ柔軟性の観点から低密度ポリエチレン系樹脂(LDPEおよびLLDPE)が好ましい。
【0038】
また、本発明の基材フィルムは、必要に応じて他の樹脂や添加剤を含有することができる。このような樹脂としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレン−メチルアクリレート共重合体やエチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−メチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂およびアイオノマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
【0039】
また、添加剤としては、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤及び着色剤等が挙げられる。
【0040】
[本発明の基材フィルムの層構成]
本発明の基材フィルムの層構成としては、単層フィルムでも多層フィルムでもよい。多層フィルムとする場合は、少なくとも1層が本発明で規定するオレフィン系変性ポリマーを40質量%以上含有すればよい。また、多層フィルム全体としての引張弾性率が50〜200MPaであり、かつ150℃における熱荷重伸度が10%以下であればよい。また、多層フィルムは、表層及び裏層からなる2種2層の積層フィルムおよび/または表層及び裏層と中間層からなる2種3層の積層フィルムとすることもできる。
【0041】
本発明の基材フィルムの1つの好ましい側面としては、少なくとも表層、裏層及び中間層を備えた積層フィルムであって、少なくとも中間層が本発明で規定するオレフィン系変性ポリマーを40質量%以上含有し、表層及び裏層は、主成分としてポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましく、より好ましくは、主成分として、融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を含有する積層フィルムである。また、主成分であるポリオレフィン系樹脂の含有量は、表裏層の全質量に対して、50%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。ここで、中間層は、融解ピーク温度が100℃以上のポリオレフィン系樹脂を含有することが更に好ましい。かかる積層フィルは、柔軟性及び耐熱荷重性に優れ、更に成形時の発煙やロール汚染を抑制できるため成形性にも優れる。
【0042】
本発明の好ましい態様においては、基材フィルムの厚みは、30μm〜500μmであり、更に好ましくは、50μm〜300μmである。基材フィルムの厚みが30μm〜500μmの範囲であれば、柔軟性を保持しつつも半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムとして十分な強度を保ち、また成形加工性にも優れる。
【0043】
[本発明の基材フィルムの製法]
本発明の基材フィルムは、前記オレフィン系変性ポリマーの他に、必要に応じて任意の添加剤及び他の樹脂をドライブレンド又は押出機で混練することにより樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物をTダイ押出し成形法等の押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の一般的な熱可塑性樹脂フィルムの成形方法により製造することができる。本発明の基材フィルムの製造方法においては、特に押出し成形法が適している。尚、押出しの際の樹脂組成物のメルトフローレートは、1〜20g/10分、好ましくは、5〜15g/10分である。樹脂組成物のメルトフローレートが1g/10分以上であれば溶融粘度が高くなり過ぎることがなく押出加工性が良好であり、20g/10分以下であれば溶融粘度が低くなり過ぎることがなく流動性が良好で加工性に優れる。
【0044】
[粘着フィルム]
本発明のもう一つの態様である粘着フィルムは、本発明で得られる単層または多層の基材フィルムが少なくとも1層含まれていればよい。本発明の粘着フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる。
【0045】
粘着剤層として用いられる粘着剤は特に限定されないが、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等の各種粘着剤が用いられる。また粘着剤層の上にさらに接着剤層や熱硬化性樹脂層等の機能層を設けても良い。
【0046】
本発明の粘着フィルムにおいて、基材フィルムの少なくとも片面側は、プラズマ処理やコロナ処理、オゾン処理および火炎処理等の方法により表面処理されてもよい。また、基材フィルムと粘着層の間には、必要によりプライマー層を設けてもよい。また、本発明の目的を損ねない限り、基材フィルムの粘着層が設けられた側の反対面に更に樹脂層を設けても良い。
【0047】
本発明の粘着フィルムは、各種の半導体製造工程用粘着フィルムとして好適に用いられる。半導体製造工程用粘着フィルムとしては、バックグラインドフィルムやダイシングフィルム、半導体ウェハおよびウェハを個片化したチップの表面保護フィルム等が挙げられるが、エキスパンド性の観点から特にダイシングフィルムとして好適に用いられる。
【0048】
ダイシングフィルムとしては、シリコンやガリウム砒素等の半導体ウェハ用ダイシングフィルムや、BGAやQFN等のパッケージ基板用ダイシングフィルムが挙げられるが、耐熱荷重性の観点から特に接着剤層や熱硬化性樹脂等の機能層を積層してなるダイシングフィルムとして好適に用いられる。
【0049】
ダイシングの方法としては特に限定されないが、高い融解ピーク温度を持つため、レーザーダイシングに用いた場合に粘着フィルムが溶融しチャックテーブルへ融着するといった問題を抑制することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施形態について実施例を用いて詳述するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[使用した材料]
樹脂A:アルケマ社製「アポリヤ LP21H」(ポリオレフィン/ポリアミド6ブロックグラフトコポリマー、融解ピーク温度:215℃)
樹脂B:日本ポリエチレン社製「ノバテック LC500」(低密度ポリエチレン、融解ピーク温度:106℃)
樹脂C:三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン 5510S」(ポリブチレンテレフタレート、融解ピーク温度:217℃)
【0052】
実施例に使用した各樹脂の分析方法は以下の通りである。
[融解ピーク温度]
示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド製 DSC823e)を用い、試料約5mgを、昇温速度10℃/分で25℃から230℃まで昇温した後、冷却速度10℃/分で25℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で230℃まで昇温した際に測定されたチャートのピーク温度を融解ピーク温度とした。
【0053】
[基材フィルムの作製]
各樹脂を表1に記載する配合にてドライブレンドし、東芝機械製単軸押出機(中間層押出機:50φmm、L/D=32、表裏層押出機:35φmm、L/D=28)の各ホッパーに投入し、各押出機温度をC1:190℃、C2:210℃、C3:230℃、C4:230℃、C5:230℃のように設定し、550mm幅Tダイ(温度設定:210℃、リップ開度0.5mm)から押出した。押出された溶融樹脂は、冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度30℃)にて冷却固化し、厚み0.08mmの単層および2種3層(表層/中間層/表層、層比1/8/1)の基材フィルムを得た。
【0054】
得られた各フィルムについて、以下の評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[柔軟性(引張弾性率)]
得られた基材フィルムを使用し、JISK7127に準拠し、1号ダンベル試験片を採取し、23℃、60%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS−X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率を測定した。
【0056】
[耐熱荷重性(熱荷重伸度)]
得られた基材フィルムを使用し、長さ100mm、幅10mmの試験片を作製し、長さ方向に40mm間隔の標線を引く。次いで標線下部に荷重5.5g(取り付け冶具含む)の錘を取り付け、試験片を垂直に保持し、ギヤオーブン(東洋精機製作所製STD60−P)を用いて、試験温度150℃の環境で30分間養生した。
養生後、ギヤオーブンから取り出し、標線間長さを測定し、下記式にて熱荷重伸度を求めた。
熱荷重伸度[%]=(加熱後の標線間長さ−加熱前の標線間長さ)/(加熱前の標線間長さ)×100
【0057】
[成形性]
基材フィルムの製膜時の生産性について、ダイスからの発煙および冷却ロール汚染について確認した。
評価は以下の基準で実施した。なお、△は実用範囲内である。
◎:ダイスからの発煙および冷却ロール汚染がない。
○:ダイスからの発煙および冷却ロール汚染がほとんどない。
△:ダイスからの発煙および冷却ロール汚染が少しあり。
×:ダイスからの発煙および冷却ロール汚染があり。
【0058】
【表1】
なお、質量部は、各層毎における質量部を示す。
【0059】
表1より、実施例1〜5の基材フィルムは柔軟性と耐熱荷重性に優れていることが認められる。特に、実施例4、5の基材フィルムは成形性にも優れ、より好ましい性能を有していることがわかる。
一方、比較例1、2は高い温度条件における負荷に耐えきれず、基材が破断する結果となり、耐熱荷重性が不足していることが認められる。
また、比較例3は耐熱荷重性が良好であるものの、引張弾性率が高く、柔軟性が不足しており、エキスパンド性に優れないことが確認された。
【0060】
この結果から、本発明の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムは、半導体製造工程における高温環境下においても半導体ウェハの荷重に耐え得る耐熱荷重性と、ダイシング工程におけるエキスパンド性を両立できる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムであることがわかる。