(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記測定部は、前記アンテナ特性データとして、前記一次側アンテナ部の電流値、前記一次側アンテナ部への送信信号を生成する信号生成回路による前記送信信号の出力電流値、又は伝送特性を測定する
請求項1に記載の非接触通信装置。
前記測定部によって測定された前記アンテナ特性データの測定値に基づいて、前記一次側アンテナ部と前記二次側アンテナ部との距離であるアンテナ距離を推定する機能を有する推定部をさらに備え、
前記設定部は、前記推定部における推定結果に基づいて、前記アンテナパラメータを設定する
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の非接触通信装置。
前記測定部は、前記アンテナ特性データとして、前記一次側アンテナ部の電流値、前記一次側アンテナ部への送信信号を生成する信号生成回路による前記送信信号の出力電流値、又は伝送特性を測定し、
前記推定部は、前記一次側アンテナ部の電流値、前記送信信号の出力電流値、又は前記伝送特性に基づいて前記一次側アンテナ部と前記二次側アンテナ部とのアンテナ距離を推定する
請求項7に記載の非接触通信装置。
前記測定部によって測定された前記アンテナ特性データの測定値に基づいて、前記一次側アンテナ部と前記二次側アンテナ部との距離であるアンテナ距離を推定する機能を有する推定部をさらに備え、
前記設定部は、前記推定部における推定結果に基づいて、前記アンテナパラメータを設定し、
前記推定部で前記アンテナ距離が近距離と判定された場合には、前記設定部は、前記アンテナインピーダンスを大きい値にすること、及び前記Q値を小さい値に設定することのうち少なくとも一方を実行する
請求項5又は請求項6に記載の非接触通信装置。
前記一次側アンテナ部に給電アンテナとしての機能、前記二次側アンテナ部に受電アンテナとしての機能が更にそれぞれ備わり、前記設定部は、前記測定部で測定した前記アンテナ特性データが最大値となるアンテナインピーダンスを設定する
請求項1乃至請求項11のうち何れか1項に記載の非接触通信装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0032】
本発明の一実施形態に係る非接触通信システムの概略構成について、図面を使用しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非接触通信システムの概略構成を示すブロック図である。なお、
図1では、各回路ブロック間において情報の入出力に関する配線を実線矢印で示し、電力の供給に関する配線は、点線矢印で示す。
【0033】
本発明の一実施形態に係る非接触通信システム100は、国際標準規格ISO/IEC18092を基礎とするNFC−A、NFC−B、NFC−F等を含む近距離無線通信技術であるNFC(Near Field Communication)や、非接触給電技術であるWPC(Wireless Power Consortium)等に適用される。すなわち、一次側アンテナ部と二次側アンテナ部のコイル間の電磁誘導によって非接触に通信や給電を行う通信・給電システムに適用される。
【0034】
本発明の一実施形態に係る非接触通信システム100は、非接触通信装置としての送信装置102と、受信装置104とを備える。本実施形態の非接触通信システム100は、送信装置102と受信装置104との間で非接触通信により情報の送受信を行う。なお、本実施形態に係る非接触通信システム100の例としては、例えば、Felica(登録商標)に代表されるような非接触ICカード規格と、近距離無線通信(NFC:Near Field Communication)規格とを組み合わせた通信システムが挙げられる。
【0035】
まず、送信装置102について説明する。送信装置102は、受信装置104に対して非接触でデータを読み書きするリーダライタ機能を有する装置である。送信装置102は、
図1に示すように、送信アンテナとしての機能を有する一次側アンテナ部106、可変インピーダンスマッチング部108、送信信号生成部110、変調回路112、復調回路114、送受信制御部116及び送信側システム制御部118を備える。
【0036】
一次側アンテナ部106は、可変インピーダンスマッチング部108に接続され、信号の入出力を行う。また、一次側アンテナ部106の出力端子は、送受信制御部116に接続される。可変インピーダンスマッチング部108の入力端子は、送信信号生成部110の出力端子に接続され、可変インピーダンスマッチング部108の出力端子は、復調回路114の入力端子に接続される。また、可変インピーダンスマッチング部108の制御端子は、送受信制御部116に接続される。
【0037】
送信信号生成部110の入力端子は、変調回路112の出力端子に接続される。また、変調回路112の入力端子は、送信側システム制御部118の一方の出力端子に接続される。復調回路114の出力端子は、送信側システム制御部118の一方の入力端子に接続される。また、送受信制御部116の一方の入力端子は、送信信号生成部110の出力端子に接続され、送受信制御部116の他方の入力端子は、送信側システム制御部118の他方の出力端子に接続される。さらに、送受信制御部116の一方の出力端子は、送信信号生成部110の一方の入力端子に接続され、送受信制御部116の他方の出力端子は、送信側システム制御部118の他方の入力端子に接続される。
【0038】
一次側アンテナ部106は、共振コイルとアンテナ電流のモニター抵抗(不図示)からなり、可変インピーダンスマッチング部108の共振コンデンサと共振回路を構成する。「アンテナ電流」は、一次側アンテナ部106に流れる電流値である。送受信制御部116は、共振コンデンサの容量を調整する電圧発生回路(不図示)とアンテナ電流を測定するAD変換回路を有する。一次側アンテナ部106は、共振回路により所望の周波数の送信信号を送信すると共に、後述する受信装置104からの応答信号を受信する機能を有する。一次側アンテナ部106は、送信及び受信装置104からの応答信号を受信する際に、共振回路の共振周波数が所望の周波数となるように、電圧発生回路が共振コンデンサの容量を調整する。なお、一次側アンテナ部106の詳細な説明については、後述する。
【0039】
可変インピーダンスマッチング部108は、送信信号生成部110と一次側アンテナ部106との間のインピーダンスの整合を取るマッチング回路としての機能を有する。なお、
図1には、示さないが、可変インピーダンスマッチング部108は、可変コンデンサを備える。本実施形態では、電圧発生回路で可変コンデンサの容量を調整することにより、送信信号生成部110と一次側アンテナ部106との間のインピーダンスマッチングを実現する。
【0040】
送信信号生成部110は、変調回路112から入力された送信データにより所望の周波数(例えば13.56MHz)のキャリア信号を変調し、可変インピーダンスマッチング部108を介して、当該変調したキャリア信号を一次側アンテナ部106に出力する機能を有する。
【0041】
変調回路112は、送信側システム制御部118から入力された送信データを符号化し、当該符号化した送信データを送信信号生成部110に出力する機能を有する。
【0042】
復調回路114は、一次側アンテナ部106で受信した応答信号を可変インピーダンスマッチング部108を介して取得し、該応答信号を復調する機能を有する。そして、復調回路114は、復調した応答データを送信側システム制御部118に出力する機能を有する。
【0043】
送受信制御部116は、送信信号生成部110から可変インピーダンスマッチング部108に送出されるキャリア信号の送信電圧、送信電流などの通信状態をモニタリングする機能を有する。また、送受信制御部116は、通信状態のモニター結果に応じて、可変インピーダンスマッチング部108及び一次側アンテナ部106に制御信号を出力する機能を有する。なお、送受信制御部116の詳細については、後述する。
【0044】
送信側システム制御部118は、外部からの指令や内蔵するプログラムにしたがって、各種制御用のコントロール信号を生成し、該コントロール信号を変調回路112及び送受信制御部116に出力して、両回路部の動作を制御する機能を有する。また、送信側システム制御部118は、コントロール信号(指令信号)に対応した送信データを生成し、該送信データを変調回路112に供給する機能を有する。さらに、送信側システム制御部118は、復調回路114で復調された応答データに基づいて所定の処理を行う機能を有する。
【0045】
なお、
図1に示す例では、送信装置102において、送受信制御部116と送信側システム制御部118をそれぞれ別個に設ける例について説明したが、本発明の一実施形態に係る非接触通信システム100は、この例に限定されない。例えば、送受信制御部116が送信側システム制御部118に含まれるように、他の回路構成としてもよい。
【0046】
次に、受信装置104について説明する。なお、
図1に示す例では、受信装置104を非接触ICカード(データキャリア)で構成した例を示す。また、この例では、受信装置104が、自身の共振周波数を調整する機能を備える例を説明する。
【0047】
受信装置104は、
図1に示すように、受信アンテナとしての機能を有する二次側アンテナ部122、整流部124、定電圧部126、受信制御部128、復調回路130、受信側システム制御部132、変調回路134、バッテリ136を備える。
【0048】
二次側アンテナ部122の出力端子は、整流部124の入力端子、受信制御部128の一方の入力端子及び復調回路130の入力端子に接続される。また、二次側アンテナ部122の入力端子は、変調回路134の出力端子に接続され、二次側アンテナ部122の制御端子は、受信制御部128の出力端子に接続される。整流部124の出力端子は、定電圧部126の入力端子に接続される。また、定電圧部126の出力端子は、受信制御部128、変調回路134及び復調回路130の各電源入力端子に接続される。
【0049】
受信制御部128の他方の入力端子は、受信側システム制御部132の一方の出力端子に接続される。復調回路130の出力端子は、受信側システム制御部132の入力端子に接続される。また、変調回路134の入力端子は、受信側システム制御部132の他方の出力端子に接続される。そして、受信側システム制御部132の電源入力端子は、バッテリ136の出力端子に接続される。
【0050】
二次側アンテナ部122は、不図示の共振コイル及び複数の共振コンデンサからなる共振回路を有しており、共振コンデンサは、制御電圧を印加することにより容量が変化する可変コンデンサを含む構成となっている。二次側アンテナ部122は、送信装置102の一次側アンテナ部106と電磁結合により通信を行う部分であり、一次側アンテナ部106が発生する磁界を受けて、送信装置102からの送信信号を受信する機能を有する。この際、二次側アンテナ部122の共振周波数が所望の周波数となるように、可変コンデンサの容量が調整される。
【0051】
整流部124は、例えば、整流用ダイオードと整流用コンデンサとからなる半波整流回路で構成され、二次側アンテナ部122で受信した交流電力を直流電力に整流し、当該整流した直流電力を定電圧部126に出力する機能を有する。
【0052】
定電圧部126は、整流部124から入力された電気信号(直流電力)に対して電圧変動(データ成分)の抑制処理及び安定化処理を施し、当該処理された直流電力を受信制御部128に供給する機能を有する。なお、整流部124及び定電圧部126を介して出力された直流電力は、受信装置104内のIC(Integrated circuit)を動作させるための電源として使用される。
【0053】
受信制御部128は、例えばIC等で構成され、二次側アンテナ部122で受信される受信信号の大きさや電圧/電流の位相などをモニターする機能を有する。また、受信制御部128は、受信信号のモニター結果に基づいて二次側アンテナ部122の共振特性を制御して、受信時における共振周波数の最適化を図る機能を有する。具体的には、二次側アンテナ部122内に含まれる可変コンデンサに制御電圧を印加してその容量を調整し、これにより、二次側アンテナ部122の共振周波数を調整する。
【0054】
復調回路130は、二次側アンテナ部122で受信した受信信号を復調し、当該復調した信号を受信側システム制御部132に出力する機能を有する。
【0055】
受信側システム制御部132は、復調回路130で復調された信号に基づいて、その内容を判断して必要な処理を行い、変調回路134及び受信制御部128を制御する機能を有する。
【0056】
変調回路134は、受信側システム制御部132で判断された結果(復調信号の内容)に従って受信キャリアを変調して応答信号を生成する機能を有する。また、変調回路134は、生成した応答信号を二次側アンテナ部122に出力する機能を有する。なお、変調回路134から出力された応答信号は、非接触通信により、二次側アンテナ部122から一次側アンテナ部106に送信される。
【0057】
バッテリ136は、受信側システム制御部132に電力を供給する機能を有する。このバッテリ136への充電は、その充電端子を外部電源138に接続することにより行われる。
図1に示す例のように、受信装置104がバッテリ136を内蔵する構成である場合には、より安定した電力を受信側システム制御部132に供給することができ、安定した動作が可能となる。なお、受信装置104は、バッテリ136を使用せずに、整流部124及び定電圧部126を介して生成される直流電力を用いて、受信側システム制御部132を駆動する構成にしてもよい。
【0058】
本実施形態の非接触通信システム100では、送信装置102の一次側アンテナ部106と受信装置104の二次側アンテナ部122との間において、電磁結合を介して非接触でデータ通信を行う。このため、送信装置102及び受信装置104において効率良く通信を行うために、一次側アンテナ部106及び二次側アンテナ部122の各共振回路が同じキャリア周波数(例えば13.56MHz)で共振するように構成される。
【0059】
また、本実施形態の非接触通信システム100は、送受信アンテナ間の距離や送受信アンテナの相対位置が変わっても、通常通信を開始する前にアンテナ特性を決めるアンテナパラメータを、送受信アンテナの結合状態に適した値にダイナミックに設定することによって、より安定した通信特性を確保できることを特徴とする。具体的には、通常通信に移行する前の段階で、アンテナパラメータをダイナミックに変化させた際におけるアンテナ特性データの変化を解析して、当該解析結果に基づいて、アンテナパラメータの、アンテナ特性に適した値(典型的には最適値)を判定して、当該最適値に設定してから、通常通信モードに移行する。なお、本発明の一実施形態に係る非接触通信システム100のダイナミック制御の詳細については、後述する。
【0060】
次に、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置に備わる一次側アンテナ部の構成について、図面を使用しながら説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置に備わる一次側アンテナ部106及び可変インピーダンスマッチング部108を含む回路の概略構成を示すブロック図である。
【0061】
本発明の一実施形態に係る非接触通信装置に備わる一次側アンテナ部106は、送信アンテナとしての機能を有する。一次側アンテナ部106は、
図2に示すように、アンテナコイルL1と、モニター抵抗部R1とを備える。そして、一次側アンテナ部106は、この一次側アンテナ部106と、マッチング回路108と、フィルタ回路140とから構成される共振回路により、所望の周波数の送信信号を送信すると共に、前述した受信装置104からの応答信号を受信する機能を有する。
【0062】
モニター抵抗部R1は、アンテナコイルL1に流れるアンテナ電流の大きさを測定部142で計測するためのモニター回路である。測定部142は、アンテナコイルL1の後段側に直列に接続されているモニター抵抗部R1に流れる電流を、アンテナ電流として測定して、当該アンテナ電流の測定値を送受信制御部116(
図1参照)に送る機能を有する。本実施形態では、測定部142は、アンテナコイルL1のアンテナパラメータを短時間に連続的に変更した際における一次側アンテナ部106のアンテナ電流を測定する機能を有する。
【0063】
マッチング回路108は、
図2に示すように、固定式共振コンデンサC1、C2、C3、直列可変式共振コンデンサVC2、VC3、及び並列可変式共振VC1が設けられ、アンテナコイルL1と共振回路を構成する。そして、マッチング回路108は、当該共振回路の共振周波数が所望の周波数となるように、これらの可変式共振コンデンサVC1、VC2、VC3の容量を調整することにより、送信信号生成部110と一次側アンテナ部106との間のインピーダンスマッチングを実現する。
【0064】
フィルタ回路140は、送受信制御部116から送信される送信信号Tx1、Tx2の高調波成分を落とすためのLCフィルタ部としての機能を有する。フィルタ回路140は、
図2に示すように、フィルタ用コイルL2、L3とフィルタ用コンデンサC4、C5がそれぞれ連結されて設けられている。フィルタ回路140は、送受信制御部116からの送信信号Tx1、Tx2の高調波成分を除去してから、当該送信信号Tx1、Tx2は、信号生成回路(IC、本実施形態ではLSI)の出力とアンテナコイルL1のインピーダンスマッチングを取るためのマッチング回路108を経由して、アンテナコイルL1に送信される。
【0065】
上記の信号生成回路は、少なくとも送信信号生成部110を含む回路である。信号生成回路は、送信信号生成部110の他、送受信制御部116及び/又は送信側システム制御部118を含んでいてもよい。以下、信号生成回路をLSIと記載する。
【0066】
本実施形態では、直列可変式共振コンデンサVC2、VC3と並列可変式共振コンデンサVC1の双方を連動して可変させることで、共振周波数を一定に保ちながらLSI(Tx端子)から見たアンテナのインピーダンスZを例えば3段階の80/50/20Ωに可変させている。
【0067】
LSIから見たアンテナのインピーダンスとは、アンテナコイルL1を含む共振回路、つまり、アンテナコイルL1〜L3及び直並列の各コンデンサ等を含む共振回路のインピーダンスである。以下、これを「アンテナインピーダンス」と称し、あるいは単に「インピーダンス」という場合もある。
【0068】
可変式の直列及び並列コンデンサVC1、VC2、VC3の共振容量によって、アンテナインピーダンスZの値が決まる。したがって、これらの直列及び並列コンデンサVC1、VC2、VC3の共振容量をそれぞれ最適化することによって共振周波数を一定にしながら、アンテナインピーダンスのみを変化させている。このため、本実施形態では、並列用の制御電圧Vcnt1と直列用の制御電圧Vcnt2の接続端子をそれぞれ別に設けて、直列可変式共振コンデンサVC2、VC3と並列可変式共振VC1が連動して変化させるようにしている。
【0069】
ここで、本実施形態の一次側アンテナ部106及びマッチング回路108の直列及び並列コンデンサによる共振回路の検証結果について、図面を使用しながら説明する。
図3(A)は、一次側アンテナ部の検証回路となるドライブ回路の概略構成図であり、
図3(B)は、当該ドライブ回路による直列及び並列共振コンデンサの容量とアンテナインピーダンスの解析結果を示すグラフである。また、
図4(A)は、一次側アンテナ部の検証回路となるドライブ回路の概略構成図であり、
図4(B)は、当該ドライブ回路で並列共振コンデンサのみを可変式とした場合における並列共振コンデンサの容量とアンテナインピーダンスの解析結果を示すグラフである。
【0070】
図3(A)に示すように、直列共振コンデンサVC13、VC14と並列共振コンデンサVC11、VC12をそれぞれ可変式に設け、これらとアンテナコイルL11とにより共振回路を構成する。それぞれの可変式共振コンデンサを連動して変えると、共振周波数を変えることなくアンテナインピーダンスを変化させることが可能である。
【0071】
また、
図4(A)に示すように、直列共振コンデンサVC13、VC14の容量を固定式として、並列共振コンデンサVC11、VC12の容量を可変式として、これらとアンテナコイルL11とにより共振回路を構成する。並列共振コンデンサVC11、VC12の容量を変えると、共振周波数も一緒に変化してしまうため、
図4(B)に示すように、あまり大きなインピーダンス変化を実現しにくいという欠点があるが、160pFから120pFへΔ25%と小さな容量変化でも設計の最適化により十分大きなインピーダンス変化を得ることも可能となることが分かる。なお、
図3(A)及び
図4(A)に示すドライブ回路では、並列共振コンデンサVC11、VC12が2個直列になっているが、実際の回路では、
図2に示すように、1つの可変式コンデンサVC1に置き換えることが可能であり、より低コストの回路とすることもできる。
【0072】
次に、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置を設計する過程における検証結果について、図面を使用しながら説明する。
図5は、アンテナインピーダンスを20、50、80Ωに設定した場合における送信アンテナのアンテナ電流と受信アンテナの誘起電圧(励起電圧)Vovとの関係を示す図である。また、
図6(A)は、アンテナインピーダンスの値を変更した場合における受信アンテナの誘起電圧と磁気結合係数(以下、単に結合係数と言う。)Kxとの関係を示すグラフであり、
図6(B)は、送信アンテナのインピーダンスの値を変更した場合における送信アンテナのアンテナ電流と結合係数との関係を示すグラフである。さらに、
図7は、アンテナインピーダンスの値を80、50、20Ωと変更した場合におけるLSIから見たS21と結合係数との関係を示すグラフである。S21は、LSIの入力の伝送特性を規定するパラメータであるS(Scattering)パラメータのうちの1つであり、挿入損失を表す。
【0073】
なお、
図5では、縦軸が受信アンテナの誘起電圧を示し、横軸が各インピーダンスZごとの初期アンテナ電流を1とした場合の相対値で示す。初期アンテナ電流とは、送受信アンテナ間の距離(以下、アンテナ距離と言う。)が遠距離であり、後述するセンシング期間における最初の電流値である。これに対し、
図6(B)ではアンテナ電流を絶対値で示す。
図6(A)は、送受信アンテナ間の距離により結合係数Kxが変わったときの受信アンテナに励起される電圧を示し、LSIから見たアンテナインピーダンスZをパラメータにして、Z=80/50/20Ωの場合を示している。一般に、アンテナ距離が大きくなるほど、結合係数Kxが小さくなることがわかっている。
【0074】
図5に示すように、特許文献1で示された従来例と同様に、実際のLSI駆動でも、初期電流の半分程度の大きさのときに、誘起電圧が最大値になることが分かる。但し、より詳しく見ると、アンテナインピーダンスZが高くなるにつれて、初期電流値の半分(相対値で0.5)よりも大きな値で電圧最大値となっていることが分かる。このことから、アンテナインピーダンスZを制御することによって、二次側に励起される電圧を制御可能であることが分かる。具体的には、並列の共振コンデンサ及び/又は直列の可変コンデンサを電圧で容量を可変できる可変コンデンサに置き換えることによって、アンテナインピーダンスを制御できる。
【0075】
また、
図6(A)に示すように、送受信アンテナ間の距離が近づいて結合係数Kxが大きくなると、誘起電圧は、大きくなるが、あるKxを境に逆に電圧が減少する特性となることが分かる。電圧最大になる結合係数Kxは、アンテナインピーダンスZにより変わり、アンテナインピーダンスZが大きい方がより大きな結合係数Kxで最大値となることが分かる。すなわち、より近い距離まで良好な通信状態が維持されることが分かる。
【0076】
さらに、
図7に示すように、
図6(A)と比べると、誘起電圧とS21の両者が同じ特性を表していることが分かる。二次側と結合した状態におけるこれらの特性は、アンテナインピーダンスで理解することができ、電圧最大値になる点は、LSIの出力とインピーダンスマッチングが取れた点となり、そのときの受信エネルギーは、送信の半分、つまりアンテナ電流が半分の点となることが理解できる。
【0077】
原則として、インピーダンスZの大きさでアンテナに流れる電流の大きさが決まるため、結合係数Kxが小さい範囲では、インピーダンスZが小さい方が誘起電圧は大きくなるが、アンテナ距離によって、その関係が逆転してしまう。すなわち、インピーダンスZの大きさによって、結合係数Kxに対する受信アンテナの誘起電圧が最大になるポイントが変わることが分かる。送受信アンテナが磁気的に結合すると、相互インダクタンスMが発生して、その影響で共振アンテナの共振周波数がずれて、インピーダンスが大きくなるように変化することが、その理由として考えられる。
【0078】
また、
図6(B)に示すように、結合係数Kxが大きくなるにつれて、すなわち送受信アンテナの距離が小さくなるにつれて、送信アンテナの電流値が小さくなることが分かる。また、
図6(B)に示すように、Z=80Ωと50Ωの逆転するポイントQ1、Z=50Ωと20Ωの逆転するポイントQ2が、
図6(A)に示すZ=80Ωと50Ωの逆転するポイントP1、Z=50Ωと20Ωの逆転するポイントP2と、それぞれ同じ結合係数Kxであることが分かる。
【0079】
つまり、アンテナ距離が大きい場合(例えば
図6(A)、(B)において結合係数0.06以下の場合)、アンテナインピーダンスZが小さい方がアンテナ電流が大きく、誘起電圧も高くなる。アンテナ距離が小さい場合(例えば
図6(A)、(B)において結合係数0.09以上の場合)、アンテナインピーダンスZが大きい方がアンテナ電流が大きく、誘起電圧も高くなる。一方、このことから、任意の結合係数Kx(つまり任意のアンテナ距離)において、アンテナ電流が大きくなるように、アンテナインピーダンスZを制御することによって、誘起電圧が高くなり、通信特性の安定化を実現することが可能となることが分かる。
【0080】
すなわち、短時間で高速にアンテナインピーダンスZを変化させながら、アンテナコイルL1のアンテナ電流を測定すれば、最適なインピーダンスZを求めることができ、それに伴い、より安定した通信特性を確保できることが分かる。また、同様にして、短時間で高速にアンテナインピーダンスZを変化させながら、S21を測定すれば、最適なインピーダンスZを求めることができ、それに伴い、より安定した通信特性を確保できることが分かる。
【0081】
次に、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置に備わる送受信制御部の概略構成について、図面を使用しながら説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置に備わる送受信制御部の回路の概略構成を示すブロック図である。
【0082】
本発明の一実施形態に係る非接触通信装置は、通常通信を開始する前のセンシング期間中に、複数段階に設定されたアンテナパラメータ(典型例としてはアンテナインピーダンス)を高速に変更した際における一次側アンテナ部106のアンテナ電流の変動を解析することを特徴とする。そして、アンテナ電流の変動結果に基づいて、受信アンテナの誘起電圧の変化をリサーチして、アンテナ距離を推定することによって、結合係数における最適なアンテナパラメータを設定することを特徴とする。なお、本実施形態では、測定部142(
図2参照)において測定されるアンテナ特性データとして、アンテナ電流を用いて動作制御を行っているが、LSI電流や一次側アンテナ部106から二次側アンテナ部122を見たS21等の伝送特性を用いても、同様なシステムを構成することができる。
【0083】
送受信制御部116は、
図8に示すように、制御部120と、D/A変換部(DAC)154と、A/D変換部(ADC)156と、記憶部158とを備える。また、送信信号生成部110は、発振器(OSC)150と、ゲイン設定部152とを備え、送受信制御部116の制御部120に接続される。これらの各機能部は、半導体素子で形成されて、上述したように、例えば送受信制御部116及び送信信号生成部110がLSIにより構成される。
【0084】
発振器150は、制御部120から指定された周波数の信号として送信信号Tx1,Tx2を生成して、バッファー及びインバータA1、A2で差動信号としてドライブする機能を有する。当該送信信号Tx1,Tx2のレベルは、制御部120によりゲイン設定部152で制御されて、最適な電圧振幅に制御される。また、制御部120は、アンテナインピーダンスを所望の大きさに設定するために、制御電圧Vcnt1、Vcnt2を生成する。
【0085】
発振器150で生成された送信信号Tx1,Tx2は、
図2に示す一次側アンテナ部106に電流を流して、一次側アンテナ部106のアンテナコイルL1に磁界を発生させる。一次側アンテナ部106に流れた電流は、モニター抵抗部R1により電圧に変換されて、A/D変換部156を経由して、制御部120にフィードバックされ、第1のインピーダンス(80Ω)に対するアンテナ電流として記憶部158に記憶される。
【0086】
また、制御部120は、第2のインピーダンス(50Ω)になるように、制御電圧Vcnt1、Vcnt2を変更して、そのときのアンテナ電流を記憶部158に記憶させる。同様にして、第3のインピーダンス(20Ω)に対するアンテナ電流を記憶部158に記憶させる。このようにして、制御部120から制御電圧Vcnt1、Vcnt2を可変コンデンサに印加して、その大きさを変えることでインピーダンスZを高速に変えることが可能となる。
【0087】
制御部120は、送受信制御部116の各構成部の動作を制御する機能を有する。本実施形態では、制御部120は、
図8に示すように、変更部(変化部)144と、推定部146と、設定部148とを備える。
【0088】
変更部144は、一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122との間のアンテナ特性を決めるための期間であるセンシング期間T1において、アンテナ特性を決める複数段階に設けられたアンテナパラメータをダイナミックに変更する機能を有する。前述した測定部142が、かかるアンテナパラメータを変更した際における一次側アンテナ部106のアンテナ電流を、モニター抵抗部R1により測定する。
【0089】
ここでアンテナ特性を決めるアンテナパラメータとして、一次側アンテナ部106のアンテナインピーダンス、Q値、共振周波数、LSIの出力インピーダンス、及びアンテナゲイン(送信信号レベル)の少なくとも何れか1つが使用される。
【0090】
アンテナパラメータのうち1つを変えるときは、当該1つのアンテナパラメータ以外のアンテナパラメータを一定にすることが望ましい。具体例として、アンテナパラメータのうちQ値を変えるときは、アンテナインピーダンスを一定とする。ただし、アンテナパラメータのうち2つ以上(例えば、Q値及びアンテナインピーダンスの両方)を変更することも原理的には可能である。本実施形態では、変更部144は、アンテナパラメータとして、アンテナインピーダンスを80/50/20Ωの3段階に設定したものを短時間で連続的に変更する。
【0091】
本明細書では、通信状態、つまりアンテナの結合状態に適したアンテナパラメータを得るために測定される対象が、アンテナ特性を表すデータである「アンテナ特性データ」である。その意味で、「アンテナパラメータ」と「アンテナ特性データ」を区別している。
【0092】
推定部146は、測定部142によって測定された電流値に基づいて、一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122との距離であるアンテナ距離を推定する機能を有する。本実施形態では、推定部146は、アンテナインピーダンスを80/50/20Ωの3段階に設定した場合における各電流値の測定結果に基づいて、どのインピーダンスZ(80/50/20Ω)で電流値が最大となるのかを判定することによって、当該アンテナ距離が遠距離であるか、中距離であるか、近距離であるかを推定できる(
図6(B)参照)。なお、ここで言及する遠距離、中距離、近距離は、送信アンテナと受信アンテナのそれぞれを構成するアンテナコイルの大きさや巻数等のアンテナ特性に基づいて、相対的に決まる。
【0093】
設定部148は、推定部146における推定結果に基づいて予め記憶部158に記憶されている最適なパラメータ(つまり、上記のように)を設定するか、又は複数段階に設けられたアンテナパラメータから、アンテナ特性に適したアンテナパラメータを選定して設定する機能を有する。アンテナパラメータとしてアンテナインピーダンスを使用した場合には、設定部148は、測定部142で測定したアンテナ電流が最大値となるアンテナインピーダンスを最適なアンテナパラメータとして設定する。
【0094】
このように、設定部148がアンテナインピーダンスを設定することによって、送信アンテナのアンテナ電流が最大値となるアンテナインピーダンスのときに、受信アンテナの誘起電圧も最大値となる。これにより、送受信アンテナの結合係数(つまり、アンテナ距離)に応じて最適化が行われるので、より良好な通信特性を確保できる。推定部146でアンテナ距離が近距離と判定された場合には、設定部148は、アンテナインピーダンスを大きい値に設定すること、又はQ値を小さい値に設定することの少なくとも何れかを実行して、より安定した通信特性を確保するようにしてもよい。
【0095】
次に、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置によるダイナミック制御の動作について、図面を使用しながら説明する。
図9(A)乃至(C)は、本発明の一実施形態に係る非接触通信装置によるダイナミック制御の動作説明図である。なお、
図9(A)乃至(C)では、送信アンテナの電流波形(横軸が時間、縦軸が電流の大きさ)を示している。
【0096】
R/W等の送信装置は、ポーリングと呼ばれるCARD/Tagの検出を定期的に行っており、ポーリングの初期段階では、CARD/Tagにエネルギーを供給して、CARD/Tag内蔵のLSIを起動するために、システム周波数である13.56MHzのキャリアを連続で出力する。このポーリング初期に
図9(A)乃至(C)に示すように、送信アンテナのインピーダンスを80/50/20Ωの順序で変化させて、アンテナ電流を測定及び比較するセンシング期間T1を設けることで、その時点でのアンテナ特性を推定することができる。
【0097】
図9(A)は、送信アンテナと受信アンテナとの距離が遠距離の場合に相当し、インピーダンスZの変化として80、50、20Ωの順で、電流が徐々に大きくなる。これに対して、
図9(B)は、送信アンテナと受信アンテナとの距離が中距離の場合に相当し、インピーダンスZの値80Ωで電流が最も小さく、次の50Ωで最も大きく、次の20Ωで電流はそれらの中間程度の値となる。
図9(C)は、送信アンテナと受信アンテナとの距離が近距離の場合に相当し、インピーダンスZの変化として80、50、20Ωの順で、電流が徐々に小さくなる。これらのことは
図6(B)に示す関係に対応する事実である。
【0098】
つまり、それぞれのインピーダンスにおける電流値を比較することによって、送受信アンテナの結合状況を推定できることが分かるので、その状態に最適なインピーダンスやQ値に設定することによって、安定した通信特性が確保できる。なお、本実施形態では、一番電流の大きいインピーダンスに設定した場合を示してあるが、遠距離において、Z=20Ωと小さなインピーダンスに設定するとバッテリの消耗が激しくなるため、センシングで使うインピーダンスと異なるインピーダンス等を用いるなどして、センシングと別なパラメータに使用してもよい。なお、センシング期間T1は、バッテリの消耗を小さくするために、50μsec.程度の短時間とすることが望ましい。
【0099】
このようにして、本実施形態では、制御部120は、インピーダンスに対する電流の大小が
図9(A)、(B)、(C)の何れに相当するか(つまり、アンテナ特性データがどのように変化するか)を判断してから、送受信アンテナの距離の推定を行う。そして、アンテナ距離を推定してアンテナパラメータを最適値に設定してから、通常の通信モードを実行する。このようにアンテナ距離に応じて、好適なアンテナパラメータを設定することによって、以下のような効果が得られる。
【0100】
図10に示すように、例えば遠距離の通信を重視して高い誘起電圧を得るためにZ=20Ωに設定した場合、Kxが、0.3のように大きい領域では、Z=80Ωを設定する場合の誘起電圧の方が、Z=20Ωを設定する場合のそれより約5割程度も高くなる。すなわち、通常通信開始前に、アンテナ距離に応じて好適なアンテナパラメータを設定することによって、より安定した通信特性を確保することができる。
【0101】
一例として、
図10に太い実線で示すように、任意のアンテナ距離で、アンテナ電流が大きくなるように(この場合、誘起電圧も高くなる(
図6(A)、(B)参照))、インピーダンスを可変に制御することが、アンテナ特性に最適な制御となる。
【0102】
なお、本実施形態では、マッチング回路108の定数等を可変にできるアンテナパラメータとしては、アンテナインピーダンスの他、共振周波数、共振回路のQ値、送信信号レベル、LSIの出力インピーダンスがある。これらのパラメータの最適値を記憶部158に記憶させておいて適宜呼び出すようにしてもよい。これにより、予め設定されている最適なパラメータで通信することが可能となる。
【0103】
また、本実施形態では、設定部148は、アンテナパラメータとしてアンテナゲインをセンシング期間T1と通常通信が行われる通常通信期間T3とそれぞれ別の値に設定してもよい。特に、設定部148は、より安定した通信特性を確保するために、
図11(A)乃至(C)に示すように、センシング期間T1におけるアンテナゲインを通常通信期間T3におけるアンテナゲインより大きい値となるように設定して、センシング時のSN(S/N比)を稼ぐことが好ましい。
【0104】
なお、本実施形態における非接触通信システム100は、送信アンテナとしての機能を有する一次側アンテナ部106と受信アンテナとしての機能を有する二次側アンテナ部122の安定した通信特性を確保するために適用されているが、非接触給電システムにも適用可能である。すなわち、一次側アンテナ部に給電アンテナとしての機能、二次側アンテナ部に受電アンテナとしての機能が更にそれぞれ備わる構成として、通常通信を開始する前にアンテナパラメータを双方のアンテナの結合状態に合わせて最適値にダイナミックに設定することによって、非接触給電をする際に、アンテナ距離やアンテナの相対位置が変わった場合でも、非接触給電における通信特性を安定化させられる。このとき、設定部148は、測定部142で測定したアンテナ電流が最大値となるアンテナインピーダンスを最適なアンテナパラメータとして設定することが好ましい。
【0105】
このように、本実施形態では、通常通信を開始する前のセンシング期間中に、複数段階に設定されたアンテナパラメータを変更した際における一次側アンテナ部のアンテナ電流の変動を解析することによって、受信アンテナの誘起電圧の変化をリサーチできる。このため、アンテナ距離やアンテナの相対位置が変わっても、最適なパラメータ設定をダイナミックにできるため、安定した通信特性が得られる。また、アンテナ距離に応じて最適なアンテナインピーダンスに設定できるので、LSIの負荷電流を少なくできる。さらに、センシング時における電流値を最適化できるため、SNのよい検出が可能となる。
【0106】
次に、本発明の一実施形態に係る非接触通信方法について、図面を使用しながら説明する。
図12は、本発明の一実施形態に係る非接触通信方法の概略を示すフロー図である。
【0107】
本発明の一実施形態に係る非接触通信方法は、前述した本発明の一実施形態に係る非接触通信システム100を用いて、送信アンテナとしての機能を有する一次側アンテナ部102と受信アンテナとしての機能を有する二次側アンテナ部104との間において、ダイナミック制御による非接触通信を実現するものである。
【0108】
すなわち、本実施形態では、受信アンテナに励起される電圧の変化に着目し、LSIから見たアンテナインピーダンスにより受信アンテナの誘起電圧のピーク値と結合係数に違った傾向を示すことをセンシング(検出)モード時に応用して、送受信アンテナの結合状態を判断する。そして、その後、セッティング(条件設定)モード時に送受信アンテナの結合状態から導かれるアンテナインピーダンスとQ値等のアンテナパラメータを適宜設定してから、通常の通信による送受信開始のプロセスに移行して、非接触通信システムにおける送受電アンテナの安定した通信性能を確保することを特徴とする。
【0109】
一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122との間の通常通信を開始する前に、まず、アンテナ特性を決めるためのセンシングモードを開始する(工程S11)。センシングモードを開始したら、アンテナ電流の出力周波数を13.56MHzに設定して(工程S12)、アンテナゲイン等のアンテナパラメータを所定の大きさに設定する(工程S13)。
【0110】
次に、センシングモードが実行されるセンシング期間T1において、アンテナ特性を決める複数段階に設けられたアンテナパラメータをダイナミックに変更する(変更工程S14)。本実施形態では、アンテナパラメータとして、80/50/20Ωの3段階に設けられたアンテナインピーダンスZを、短時間で高速に大きい値の80Ωから50Ω、20Ωと順々に変更する(変化させる)。
【0111】
アンテナインピーダンスZを連続的に変更したら、次に、アンテナパラメータを変更した際における一次側アンテナ部106のアンテナ特性データをそれぞれ測定する(測定工程S15)。すなわち、アンテナインピーダンスZの変化に対応するアンテナ特性データの変化を測定する。本実施形態では、一次側アンテナ部106のアンテナ特性データとして測定部142がモニター抵抗部R1の電流を測定することによって、現在の送受信アンテナの結合状態において、どのアンテナインピーダンスZ(80/50/20Ω)が最適であるかが次工程S16で分かるようになる。
【0112】
アンテナインピーダンスZ(80/50/20Ω)のアンテナ特性データを測定したら、これら測定工程S15で測定されたアンテナ特性データの測定値に基づいて、一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122とのアンテナ距離を推定する(推定工程S16)。本実施形態では、測定部142がアンテナ特性データとして、アンテナインピーダンスZ(80/50/20Ω)のアンテナ電流を測定するので、推定工程S16では、測定工程S15で測定された電流値に基づいて、一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122とのアンテナ距離を推定する。このように、本工程S16において、当該アンテナ距離を推定することによって、その距離に応じた最適なアンテナパラメータを選ぶことができる。
【0113】
次に、アンテナ距離推定工程S16における推定結果に基づいて複数段階に設けられたアンテナパラメータからアンテナ特定に適したアンテナパラメータを選定して設定する(設定工程S17)。そして、アンテナパラメータ設定工程S17で最適なアンテナパラメータを設定後に、一次側アンテナ部106と二次側アンテナ部122との間の通常通信を実行する通常通信モードに移行する(通常通信工程S18)。
【0114】
このように、本実施形態では、通常通信を開始する前のセンシング期間中に、複数段階に設定されたアンテナパラメータを変更した際における一次側アンテナ部106のアンテナ電流の変動解析結果に基づいて、より好適なアンテナパラメータを設定できる。このため、アンテナ距離やアンテナの相対位置が変わっても、双方のアンテナの結合状態における最適値にアンテナパラメータをダイナミックに設定してから通常通信に移行するので、より安定した通信特性を確保できる。
【0115】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例についてについて詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0116】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、非接触通信システム、及び信号生成回路の構成、非接触通信方法の動作も本発明の各実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0117】
例えば、上記実施形態では、アンテナパラメータとしてのアンテナインピーダンスを制御する(変化させる)例として、3段階のアンテナインピーダンス(第1〜3のアンテナパラメータ値)を例に挙げた。しかし、これは2段階でもよいし、4段階以上であってもよい。このことは、後述する、アンテナのQ値を制御する場合、及び送信信号生成部110による送信信号の出力電流値(LSIの出力電流値)を制御する場合も同様である。
【0118】
また、上記実施形態では、推定処理の対象とされるアンテナ距離が、遠距離(第1の距離)、中距離(第1の距離より小さい第2の距離)、及び近距離(第2の距離より小さい第3の距離)の3段階とされた。しかしそれは、2段階に分けられてもよいし、4段階以上に分けられてもよい。
【0119】
例えば、
図12に示したフローチャートの処理は、基本的には、送信装置102と受信装置104の1回の通信の度に実行される。しかし、例えば送信装置102及び受信装置104が一度通信した後は、例えば少なくともS14〜S16により得られたデータをルックアップテーブルデータとして記憶部に記憶しておいてもよい。つまり、このルックアップテーブルデータは、アンテナパラメータ、アンテナ特性データ、及びアンテナ距離をそれぞれ関連付けるデータである。そして、2回目以降の通信では、送信装置102及び受信装置104が互いの固有の識別情報に基づいて互いの装置を認識した場合、制御部は、アンテナ特性データを測定し(S15)、ルックアップテーブルデータに基づき、最適なアンテナパラメータを設定するようにしてもよい。このことは、以下に説明する各実施形態についても同様である。
【0120】
ここで、上記実施形態の補足のための説明をする。
図13(A)は、アンテナパラメータとしてアンテナインピーダンスごとの(つまりアンテナインピーダンス変化における)、アンテナ電流と誘起電圧(Vov)との関係を示す。すなわち、これは、上記実施形態における
図6(A)、(B)に示すデータを、アンテナ電流と誘起電圧との関係で示すものである。
図13(A)において、異なるアンテナインピーダンス間において、細線で結ばれる3つのプロットは同じ結合係数による値を示す。このことは、
図14以降で説明するグラフでも同様である。
【0121】
図13(B)は、
図13(A)に示すグラフにおいて、誘起電圧の最大点をトレースしたもの(太い実線で示す)である。この最大点のトレースの範囲は、
図10で示した太い実線のトレースの範囲に対応する。
図13(B)のグラフから、上記したように、任意のアンテナ距離で(異なるアンテナインピーダンス間の同じ結合係数ごとに)、アンテナ電流を大きくして誘起電圧を高くするように、アンテナインピーダンスを可変に制御することが、アンテナ特性に最適な制御となることが理解できる。
【0122】
本実施形態では、共振回路の直並列コンデンサ(
図2、
図3(A)、
図4(A)参照)のうち少なくとも1つの容量を可変することにより、アンテナインピーダンスZを変えることができる。例えば、直並列コンデンサの容量の変化の方向を同時に逆向きに制御することにより、共振周波数を変えずにインピーダンスのみを変えることができるという効果がある。このような直並列コンデンサの制御方法は、例えば特開2014-165583に開示されている。
【0123】
以下、他の実施形態に係る、アンテナ特性に適したアンテナパラメータの設定について説明する。上記では、アンテナパラメータとして、主にアンテナインピーダンスを使用した例を図を用いて説明した。また、上記では、アンテナ特性データとして、アンテナ電流、又は伝送特性(S21)を使用した例を説明した。次に説明する実施形態では、アンテナパラメータとしてアンテナインピーダンスを使用することは変わらないが、アンテナ特性データとして、送信信号生成部110による送信信号の出力電流値(LSIの出力電流値)が使用される。以降の説明では、このLSIの出力電流値を便宜的に「LSI電流」と言う。
【0124】
なお、LSI電流は、例えば差動増幅器A1(
図8参照)に入力される発振器150からの発振信号の電圧と、差動増幅器A1から出力される発振信号の電圧との電圧差を抵抗によって換算することで測定される。LSI電流の検出手段は、これに限られず、LSIの回路形態に応じて種々の手段が採用されることは言うまでもない。
【0125】
図14(A)は、インピーダンスごとの、LSI電流(Ilsi)と誘起電圧との関係を示す。
図14(A)から、任意のアンテナ距離で(異なるアンテナインピーダンス間の同じ結合係数ごとに)、LSI電流が大きくなるように、インピーダンスを可変に制御することが、アンテナ特性に最適な制御となることが理解できる。
図14(A)では、このような最適な制御のために設定されるアンテナインピーダンスを太い実線で示している。
図14(B)は、このような最適な制御に対応する、結合係数及び誘起電圧の関係を示す。
図14(B)において太い実線で示す誘起電圧の最大点のトレースの範囲は、
図14(A)に示した、太い実線で示す誘起電圧の最大点のトレースに対応する。
【0126】
具体的なアンテナインピーダンスの制御方法(設定方法)としては、上記実施形態と同様であり、
図12に示す方法にしたがって処理が実行されればよい。すなわち、センシング期間において、制御部は、アンテナインピーダンスを変化に対応する、同じ結合係数ごとの、LSI電流を測定し(S14、S15に対応、
図14(A)参照)、これによりアンテナ距離を推定し(S16に対応)、最適なアンテナパラメータ(アンテナインピーダンス)を設定する(S17に対応)。
【0127】
本実施形態では、LSIの内部でLSI電流を検出する回路を構成できる。そのため、上記実施形態のようにアンテナ電流を監視するための測定部142からの出力線、及びその出力線とLSIとをつなぐためのLSIの入力端子が不要になる。
【0128】
ここで、本実施形態と、上記実施形態(アンテナ電流を使用する形態)とを比較する。上記実施形態では、
図13(B)に示すように、インピーダンスごとのカーブがそれぞれクロスしているのに対し、本実施形態では、
図14(A)に示すように、クロスポイントがない。そのため、
図14(B)に示すように連続する結合係数の範囲で、太い実線で示す誘起電圧の最大点のトレースが断続的になる。これをできるだけ連続的なトレースに近づけるためには、サンプリングされるインピーダンス値をより多く、すなわちインピーダンスの変化をより細かくすればよい。言い換えれば、アンテナ電流を測定する上記実施形態は、LSI電流を測定する本実施形態に比べ、誘起電圧の最大点を効率的にトレースすることができ、最適制御のカーブを滑らかにすることができるというメリットがある。
【0129】
次に、さらに別の実施形態について説明する。
図6(A)、(B)で説明した上記実施形態では、アンテナ特性データとして、アンテナ電流の絶対値が使用されたが、本実施形態ではそのアンテナ電流の相対値が使用される。
図15は、
図5と同じように、アンテナ電流(相対値)と誘起電圧との関係を示し、異なるアンテナインピーダンス間で、同じ結合係数のプロットが細線で結ばれた例を示す。また、最適値として設定されたインピーダンスを太い実線で示している。
図15において、各アンテナインピーダンスにおいてアンテナ電流(相対値)が大きくなるほど、アンテナ距離が大きくなることが分かっている。以下、説明の便宜上、相対値で示されるアンテナ電流を、「相対アンテナ電流」もしくは「相対アンテナ電流値」と言う。
【0130】
図15より、アンテナインピーダンスが変わっても、誘起電圧は例えば0.53〜0.55の間において略0.54で最大になっているのが分かる。したがって、後述するように、最適なアンテナインピーダンスの設定処理のための判定閾値として、制御部は、相対アンテナ電流値0.54を用いることができる。
【0131】
図16は、本実施形態に係るセンシングモードの処理を示すフローチャートである。工程S31、32は、
図12におけるS12、S13と同様の処理である。
【0132】
制御部は、遠距離用のアンテナパラメータ、ここでは3段階のアンテナインピーダンスのうち最も低いアンテナインピーダンスZ(例えば20Ω)を設定して、そのアンテナインピーダンスにおける相対アンテナ電流値を取得する(S33)。遠距離、中距離、近距離のうち、最初に遠距離のアンテナパラメータを設定するのは、送信装置102と受信装置104とが相対的に近付いて行くときの過程で、アンテナ距離が大きい値から徐々に小さくなることが想定されるからである。つまり、相対アンテナ電流値が、大きい状態から徐々に小さくなることを想定している。
【0133】
上記したように、制御部は、相対アンテナ電流値が0.54以下であるか否かを判定する(S34)。これは、現在のアンテナ距離が、遠距離にあるか、近距離にあるかの判定処理である。0.54以下の場合、制御部は、中距離用のアンテナパラメータである、中程度のアンテナインピーダンスZ=50Ωを設定する(S35)。
【0134】
同様に、制御部は、相対アンテナ電流値が0.54以下であるか否かをさらに判定し(S36)、0.54以下の場合、制御部は、近距離用アンテナパラメータである、アンテナインピーダンスZ=80Ωを設定する(S38)。そうでなければ、中距離用のアンテナパラメータを設定である、アンテナインピーダンスZ=50Ωを設定する(S37)。
【0135】
このように、相対アンテナ電流値が小さいほど、アンテナインピーダンスを大きく制御する(又は、アンテナのQ値を小さく制御してもよい)ことにより、アンテナ特性を最適にすることができる。
【0136】
なお、制御部は、判定閾値として異なる2つの値を使用することにより、それらの判定処理の結果、現在のアンテナ距離が、遠距離、中距離、又は近距離であるかを検出するようにしてもよい。異なる2つの判定閾値としては、例えば0.5〜0.6のうち任意の2値が使用され得る。
【0137】
次に、さらに別の実施形態について説明する。本実施形態では、アンテナ特性データとして、上記相対アンテナ電流値の代わりに、LSIへの入力の伝送特性(Sパラメータ)のうち、反射損失であるS22が使用される。
図17は、インピーダンスごとの、S22と誘起電圧との関係を示す。本実施形態では、上記実施形態と同様な考えで、送信装置102と受信装置104とが相対的に近付いて行くときの過程でのアンテナ距離が、大きい値から徐々に小さくなることを想定している。つまり、S22が、小さい状態から徐々に大きくなることを想定している。
【0138】
図18は、本実施形態に係るセンシングモードの処理を示すフローチャートである。ここでは、アンテナ距離を検出するためのS22の閾値として、S44、46で0.89という値が用いられる他は、
図16に示した処理と同じである。このように、S22が大きいほど、アンテナインピーダンスを大きく制御することにより、アンテナ特性を最適にすることができる。
【0139】
上記各実施形態では、アンテナパラメータの例として、アンテナインピーダンスを主に説明した。以下では、アンテナパラメータの例として、アンテナのQ値が設定される場合について説明する。
【0140】
図19は、Q値ごとの、結合係数と誘起電圧との関係を示す。ここではアンテナインピーダンスが一定とされる。例えば異なる複数のQ値として、10、13、16.2の3値が使用される。
図19から、誘起電圧に対して、上記各実施形態で示したアンテナインピーダンスの大小関係と、Q値の大小関係とは、逆になっていることがわかる。
【0141】
図20(A)は、
図19において誘起電圧の最大点をトレースしたもの(太い実線で示す)である。この図から、結合係数が大きくなる、すなわちアンテナ距離が小さくなるにしたがって、Q値を下げることにより、誘起電圧が回復することがわかる。
【0142】
図20(B)は、Q値ごとの、アンテナ電流(絶対値)と誘起電圧との関係を示す。各Q値において、誘起電圧の最大点のトレースが太い実線で示されている。この図から、任意のアンテナ距離で(異なるQ値間での同じ結合係数ごとに)、アンテナ電流を大きくして誘起電圧を高くするように、Q値を可変に制御することが、アンテナ特性に最適な制御となることが理解できる。
【0143】
次に、さらに別の実施形態について説明する。
図21(A)は、Q値ごとの、LSI電流(Ilsi)と誘起電圧との関係を示す。この図から、任意のアンテナ距離で(異なるQ値間での同じ結合係数ごとに)、LSI電流が大きくなるように、Q値を可変に制御することが、アンテナ特性に最適な制御となることが理解できる。
図21(A)では、このような最適な制御のために設定されるQ値を太い実線で示している。
図21(B)は、このような最適な制御に対応する、結合係数及び誘起電圧の関係を示す。
図21(B)において太い実線で示す誘起電圧の最大点のトレースの範囲は、
図21(A)に示した、太い実線で示す誘起電圧の最大点のトレースに対応する。
【0144】
本実施形態では、LSIの内部でLSI電流を検出する回路を構成できる。そのため、上記実施形態のようにアンテナ電流を監視するための測定部142からの出力線、及びその出力線とLSIとをつなぐためのLSIの入力端子が不要になる。
【0145】
次に、さらに別の実施形態について説明する。
図22は、直列コンデンサ及び並列コンデンサの、Q値と容量との関係を示す。例えば、インダクタンスL1は1.25μH、アンテナインピーダンスZは80Ωに設定した。この図から、直並列共振コンデンサ(の容量)を可変に制御することで、つまり共振周波数を変化させることで、インピーダンスは一定のまま、Q値を制御できることがわかる。