(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陽イオン交換容量が40meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液と有機陽イオン又はその塩とを共存させることにより、該リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを該有機陽イオンに交換することを含むリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法であって、
前記のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液が、アンモニアと水と極性有機溶媒とを含有する媒体中にリチウム固定型モンモリロナイトを分散してなる分散液(A)であり、該分散液(A)中の該アンモニアの含有量が、該分散液中の該リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である、リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
前記極性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、アセトニトリル、アセトン及び2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
前記リチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量に対して、1〜10倍当量の有機陽イオンを共存させ、前記リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを前記有機陽イオンに交換する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
【背景技術】
【0002】
有機修飾粘土は、親水性を有する粘土結晶層表面を有機修飾することにより得られる。この有機修飾により、粘土鉱物の結晶層表面をより疎水性へと改質することができ、また、粘土鉱物の結晶層の層間距離を広げることができる。したがって、有機修飾粘土は有機溶媒に対する親和性が高く、また、有機溶媒中で膨潤して安定した分散状態を維持することができる。
【0003】
有機修飾粘土の原料(ホスト粘土)としては主にスメクタイトが用いられており、代表的なスメクタイトとしてはモンモリロナイトが挙げられる。モンモリロナイトの一般的な結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がるケイ酸四面体シートがアルミナ八面体シートを挟んで存在する、2:1層構造の単位結晶層からなる。多くの場合、この結晶層中においてアルミナ八面体シートの中心原子であるアルミニウムの一部がマグネシウムに置換され、これにより結晶層は負に帯電し、永久荷電となっている。この負電荷を中和する形で層間にはナトリウムイオン等の陽イオンが取り込まれている。これらの陽イオンはイオン交換が可能であり、これらの陽イオンを有機陽イオン(例えば第4級アンモニウムイオン)へとイオン交換することにより有機修飾粘土を得ることができる(例えば非特許文献1)。
【0004】
有機修飾粘土は有機溶媒中への分散性が高いことから、ペイント塗料、グリース、化粧品、石油ボーリングにおけるオイルベース掘削液等において、増粘剤として広く用いられている。また、その大きな比表面積や有機陽イオンが有する有機基の機能性を利用して汚染物質の吸着剤として用いられたり、層間距離の広さを利用して樹脂に練り込む機能性フィラーとして用いられたりしている。
また、粘土はガスバリア能を有する膜の形成にも用いられている。有機修飾粘土をガスバリア膜の形成に用いると、有機基の存在により膜形成のための塗布液(有機溶媒)中への有機修飾粘土の分散性が高く、成膜性は良好なのであるが、有機陽イオン化合物が結晶層間(空隙)を広げるために、水蒸気や酸素等のガスを通しやすく十分なバリア性が得られにくい傾向にある。すなわち、有機修飾粘土を用いたガスバリア膜において、成膜性(有機溶媒中への分散性)とガスバリア性とは、通常トレードオフの関係にある。
この点を改善しうる技術として、特許文献1には、有機陽イオンとして低分子量のものを用いて粘土を有機修飾したことが記載されている。低分子量の有機陽イオンを取り込んだ有機修飾粘土は疎水化の度合が小さく、通常は有機溶媒に対する分散性が低く成膜性に劣る。特許文献1記載の発明においては、膨潤性粘土を水系の分散媒体に分散させ、この分散液に低分子量の有機陽イオンの塩を投入し、膨潤性粘土の交換性陽イオンと有機陽イオンとをイオン交換してゲル状含水物を得、このゲル状含水物に極性有機溶媒を加えて分散させることにより、無色透明な有機修飾粘土分散液を得ている。
【0005】
有機修飾していない粘土を用いたガスバリア膜のガスバリア性を向上させる技術も知られている。例えば、リチウム型モンモリロナイトを200℃程度あるいはそれ以上の温度で処理すると、脱水に伴い結晶層間のリチウムイオンが固定化されることが知られている。上記加熱処理によるリチウムイオンの固定化は、層間に存在するリチウムイオンがモンモリロナイト結晶の八面体シートの空席に移動することで生じると考えられている。この現象はHofmann−Klemen効果と呼ばれ、層電荷密度をコントロールするために利用されている(例えば非特許文献2)。
リチウムイオンが固定化されたリチウム固定型粘土は、陽イオン交換性が大幅に低下するが、その分、耐水性が向上する。例えば、特許文献2及び3には、層間にリチウムイオンを有するモンモリロナイトの水分散液を用いて成膜した後、これを乾燥機中で加熱処理に付することで、耐水性(水蒸気バリア性)に優れた粘土膜を得たことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機修飾粘土の調製において、結晶層間に交換性陽イオンであるアルカリ金属イオン等を残すことは、粘土の親水性を高めることになるため、有機溶媒への分散性や、この分散液を用いて形成した膜の耐水性等において不利に働く。したがって、従来、ガスバリア膜の形成等に用いる有機修飾粘土の調製においては、修飾前の粘土の陽イオン交換容量に対して、有機陽イオンが過剰に用いられ、交換性陽イオンのほぼすべてを有機陽イオンへとイオン交換している。
また、有機修飾をせずに粘土結晶の表面を疎水化させる特許文献2及び3記載の技術では、リチウム型粘土の分散液を用いて成膜した後に、高温の熱処理に付してリチウムを固定化することを要し、製造効率には制約がある。予めリチウム型粘土のリチウムを固定化してリチウム固定型粘土を調製し、このリチウム固定型粘土の分散液を用いて成膜することができれば製造効率は向上するのであるが、リチウム固定型粘土は水にも有機溶媒にも分散性が低く、かかる手法により成膜することは困難である。さらに、リチウム型粘土の分散液の調製には、分散媒体として水を含む溶媒を用いる必要があり、有機溶媒中に粘土を分散してなる分散液を用いて成膜することはできない。
本発明は、粘土結晶の表面が一様に疎水化され、且つ結晶層間距離が小さく、しかも有機溶媒に対する分散性に優れ成膜性も良好な有機修飾モンモリロナイトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、リチウム型モンモリロナイトを加熱処理してリチウムを固定化し、分散性を低下させたリチウム固定型モンモリロナイトであっても、特定の媒体を用いることにより、安定な分散液を調製することができ、この分散液に有機陽イオン又はその塩を混合することにより、リチウム固定型モンモリロナイトの結晶層間に残存する交換性陽イオンを一様に有機陽イオンに置き換えた形態のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを得ることができることを見い出した。さらに本発明者らは、こうして得られたリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトが有機溶媒に対する分散性に優れ、この有機溶媒を用いた分散液を用いることにより、ガスバリア性に優れた粘土膜を簡便に形成できることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は下記の手段により達成された。
〔1〕
陽イオン交換容量が40meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液と有機陽イオン又はその塩とを共存させることにより、該リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを該有機陽イオンに交換することを含
むリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法
であって、
前記のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液が、アンモニアと水と極性有機溶媒とを含有する媒体中にリチウム固定型モンモリロナイトを分散してなる分散液(A)であり、該分散液(A)中の該アンモニアの含有量が、該分散液中の該リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である
、リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
2〕
陽イオン交換容量が40meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液と有機陽イオン又はその塩とを共存させることにより、該リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを該有機陽イオンに交換することを含むリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法であって、
前記のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液が、アンモニアと水と極性有機溶媒とを含有する媒体中にリチウム固定型モンモリロナイトを分散してなる分散液(A)から、アンモニア及び極性有機溶媒の一部又は全部を除去した分散液(B)であり、該分散液(A)中の該アンモニアの含有量が、該分散液(A)中の該リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である
、リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
3〕
前記極性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、アセトニトリル、アセトン及び2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種である、〔
1〕又は〔
2〕に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
4〕
前記のリチウム固定型モンモリロナイトの分散液中、前記水と前記極性有機溶媒の総量に占める前記極性有機溶媒の割合が10〜70質量%である、〔
1〕〜〔
3〕のいずれか1項に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
5〕
前記リチウム固定型モンモリロナイトが、リチウム型モンモリロナイト粉末を200℃以上の加熱処理に付して得られたものである、〔1〕〜〔
4〕のいずれか1項に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
6〕
前記有機陽イオンが第4級アンモニウムイオンである、〔1〕〜〔
5〕のいずれか1項に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
〔
7〕
前記リチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量に対して、1〜10倍当量の有機陽イオンを共存させ、前記リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを前記有機陽イオンに交換する、〔1〕〜〔
6〕のいずれか1項に記載のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、粘土結晶の表面が一様に疎水化され、且つ結晶層間距離が小さく、しかも有機溶媒に対する分散性に優れ成膜性も良好な有機修飾モンモリロナイトを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という)の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0014】
[リチウム固定型モンモリロナイトの調製]
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、リチウム型モンモリロナイトの結晶構造の層間に存在するリチウムイオン(Li
+)を、後述する加熱処理等により固定化して得ることができる。
本明細書において、「リチウム型モンモリロナイト」とは、モンモリロナイトの浸出陽イオン量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g、以下同様)に占めるリチウムイオンの量(すなわち浸出リチウムイオン量、単位:meq/100g、以下同様)が60%以上のモンモリロナイトであり、好ましくは、浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量が70%以上、より好ましくは80%以上のモンモリロナイトである。リチウム型モンモリロナイトの浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量は100%でもよいが、通常は99%以下である。加えて、本明細書において「リチウム型モンモリロナイト」とは、その陽イオン交換容量が50meq/100gを超えるものである。リチウム型モンモリロナイトの陽イオン交換容量は好ましくは60〜150meq/100gであり、より好ましくは70〜120meq/100gであり、さらに好ましくは80〜110meq/100gである。
【0015】
本明細書において、「リチウム固定型モンモリロナイト」とは、その陽イオン交換容量が40meq/100g以下である。リチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量は好ましくは5〜40meq/100gであり、より好ましくは8〜30meq/100gであり、さらに好ましくは10〜20meq/100gである。
本明細書において「リチウム固定型モンモリロナイト」とは、その調製において原料として用いたリチウム型モンモリロナイト(上述のようにリチウム固定型モンモリロナイトはリチウム型モンモリロナイトを後述の加熱処理に付して得ることができる。)の浸出リチウムイオン量と、当該リチウム固定型モンモリロナイトの浸出リチウムイオン量との差(単位:meq/100g)が、上記の原料として用いたリチウム型モンモリロナイトの陽イオン交換容量(単位:meq/100g)100%に対して60%以上であることが好ましく、より好ましくは70〜150%であり、さらに好ましくは75〜130%であり、さらに好ましくは80〜130%であり、60〜99%であってもよく、65〜95%であってもよい。
本発明に用いる上記リチウム固定型モンモリロナイトは粉末状であることが好ましい。
【0016】
また、上記リチウム固定型モンモリロナイトは、通常は、浸出陽イオンとしてリチウムイオン以外に、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、マグネシウムイオン(Mg
+)、カルシウムイオン(Ca
+)等を含んでいる。本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトにおいて、Na
+、K
+、Mg
+及びCa
+の浸出イオン量は、総量で1〜30meq/100gであることが好ましく、1〜20meq/100gであることがより好ましく、1〜10meq/100gであることがさらに好ましく、2〜8meq/100gであることがさらに好ましい。
【0017】
モンモリロナイトの陽イオン交換容量は、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p.453−454)に準じた方法で測定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−106−77に記載の方法で測定することができる。
モンモリロナイトの浸出陽イオン量は、モンモリロナイトの層間陽イオンをモンモリロナイト0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液を用いて4時間以上かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析等により測定し、算出することができる。
【0018】
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、リチウム型モンモリロナイトを加熱処理に付して結晶構造の層間に存在するリチウムイオンを固定化することで得ることができる。
リチウム型モンモリロナイトは、例えば、天然のナトリウム型モンモリロナイトの分散液に、水酸化リチウム、塩化リチウム等のリチウム塩を添加し、陽イオン交換させることで得ることができる。分散液中に添加するリチウムの量を調節することで、得られるリチウム型モンモリロナイトの浸出陽イオン量に占めるリチウムイオンの量を適宜に調節することができる。また、リチウム型モンモリロナイトは、陽イオン交換樹脂をリチウムイオンにイオン交換した樹脂を用いたカラム法、またはバッチ法によっても得ることができる。
また、リチウム型モンモリロナイトは商業的に入手することもできる。当該リチウム型モンモリロナイトの市販品として、例えば、クニピア−M(商品名、クニミネ工業社製)が挙げられる。
【0019】
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、その原料であるリチウム型モンモリロナイトに比べて陽イオン交換性及び水分散性が格段に低い。これは、リチウム固定型モンモリロナイトにおいて、リチウムイオンが粘土結晶の八面体シートの空席に移動して固定化されることで、粘土結晶が電気的に中和されて層間が密に閉じた状態になり、水分子が進入しにくくなる(層間陽イオンの水和が生じにくくなる)ためと考えられる。
【0020】
リチウム型モンモリロナイトを加熱処理に付してリチウム固定型モンモリロナイトを調製する場合において、当該加熱処理の温度条件は、リチウム型モンモリロナイトをリチウム固定型モンモリロナイトとすることができれば特に制限はない。リチウムイオンを効率的に固定化し、陽イオン交換容量を大きく低下させる観点から、200℃以上に加熱することが好ましい。上記加熱処理の温度は200〜600℃がより好ましく、さらに好ましくは250〜600℃であり、さらに好ましくは300〜500℃であり、さらに好ましくは300〜450℃である。上記温度に加熱することで、陽イオン交換容量をより効率的に低下させることができると同時に、モンモリロナイト中の水酸基の脱水反応等を抑えることができる。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。上記加熱処理の時間も、リチウム型モンモリロナイトを上記の陽イオン交換容量とすることができれば特に制限はないが、生産の効率性の観点から、0.5〜48時間とすることが好ましく、1〜24時間とすることがより好ましい。
加熱処理前のリチウム型モンモリロナイトの含水率は1〜12質量%であることが好ましく、加熱処理後のリチウム固定型モンモリロナイトの含水率は0.1〜5質量%となることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では、上記のリチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを一様に有機陽イオンに交換する。これにより、リチウム固定型モンモリロナイトの結晶層に有機陽イオンが導入された形態のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを得ることができる。
本発明の製造方法において、リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを一様に有機陽イオンに交換するには、リチウム固定型モンモリロナイトの分散液を調製し、この分散液中に有機陽イオンを均質に共存させることが必要である。すなわち、リチウム固定型モンモリロナイトの分散液と有機陽イオン又はその塩とを混合することにより、リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンを一様に、有機陽イオンへと陽イオン交換することが可能になる。
しかし、リチウム固定型モンモリロナイトは上述したように水分散性が低く、リチウム固定型モンモリロナイトが安定的に分散してなる水分散液を得ることはできない。また、リチウム固定型モンモリロナイトは通常のモンモリロナイトと同様に、有機溶媒に対しても分散性が低い。
かかる状況下、本発明者らは、分散媒体として、アンモニアと水と極性有機溶媒とを含有する媒体を採用することにより、リチウム固定型モンモリロナイトが安定的に分散してなる分散液が得られることを見い出した。そして、この分散液中、あるいはこの分散液からアンモニアないし有機溶媒の一部又は全部を除去した分散液中に、有機陽イオン又はその塩を混合することにより、リチウム固定型モンモリロナイトを効率的に有機修飾できることを見い出した。
リチウム固定型モンモリロナイト分散液の調製について以下に説明する。
【0022】
[リチウム固定型モンモリロナイト分散液の調製]
上記リチウム固定型モンモリロナイト分散液は、リチウム固定型モンモリロナイトを、アンモニアと水と極性有機溶媒を含有する媒体中に分散させ、必要により、アンモニア及び極性有機溶媒の一部又は全部を除去することにより得ることができる。
本明細書において、リチウム固定型モンモリロナイトを、アンモニアと水と極性有機溶媒を含有する媒体中に分散して得られるリチウム固定型モンモリロナイト分散液を「分散液(A)」と称す。また、分散液(A)を固液分離等の処理に付し、該分散液(A)からアンモニア及び極性有機溶媒の一部又は全部を除去してなる分散液を「分散液(B)」と称す。分散液(A)及び(B)のいずれも、後述する有機陽イオンによる有機修飾反応に好適に用いることができる。
本明細書おいて、単に「リチウム固定型モンモリロナイト分散液」という場合、上記分散液(A)及び(B)の両分散液を意味する。
また、本明細書において「分散」とは、媒体中に粘土(微粒子)が一様に(均質に)散在している状態をいうが、およそ一様に散在していればよく、粘土の一部が媒体中に局在している部分があってもよい。
【0023】
<アンモニア>
分散液(A)に用いるアンモニアのアンモニア源としては、アンモニア水、気体アンモニア、液体アンモニアのいずれを使用してもよいが、常温、大気圧下でスラリー(分散液)を製造する場合には、アンモニア水を用いるのが好ましい。
分散液(A)中、アンモニアの含有量は、該分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり、0.1mmol以上であり、好ましくは0.2mmol以上、さらに好ましくは0.5mmol以上である。アンモニアの含有量を上記好ましい値とすることで、リチウム固定型モンモリロナイトの粘土結晶の層間に十分な分子数のアンモニアが侵入し、当該リチウム固定型モンモリロナイトの溶液分散性をより向上させることができる。また、アンモニア臭気の発生や製造コストを考慮すると、分散液(A)中のアンモニアの含有量は、該分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり、10mmol以下であることが好ましく、より好ましくは5mmol以下、さらに好ましくは2mmol以下である。
本明細書において「リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり」とは、具体的には、上記分散液(A)中に配合されたリチウム固定型モンモリロナイトに由来する、該分散液(A)中のモンモリロナイト1g当たり、を意味する。より詳細には、該分散液(A)中に配合されたリチウム固定型モンモリロナイトを該分散液中から取り出し、取り出したモンモリロナイトを、温度200℃で24時間処理して得られる処理物(以下、固形分ともいう)の質量1g当たり、を意味する。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。
また、上記分散液(A)中、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの量は、該分散液(A)中のアンモニアの量(mmol)を、該分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイトの質量(すなわち、該分散液(A)中に存在する、配合されたリチウム固定型モンモリロナイト由来のモンモリロナイトを取り出し、取り出したモンモリロナイトを温度200℃で24時間加熱処理して得られる処理物の質量)(単位:g)で除することで得られる。
分散液中のアンモニアの量はインドフェノール法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0024】
<極性有機溶媒>
上記分散液(A)に用いる極性有機溶媒としては、例えばホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、及び2−プロパノールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも反応性の高さからN,N−ジメチルホルムアミド及び/又はアセトニトリルが好適である。また、アセトニトリルは低沸点であるため、乾燥時に気化しやすく、分散液(A)を粘土膜の形成に用いる場合には特に好適である。極性有機溶媒は、リチウム固定型モンモリロナイトの層間にアンモニアとともに進入し、連鎖的にリチウム固定型モンモリロナイトの分散に寄与すると考えられる。
【0025】
<水>
上記分散液(A)は水を含有する。分散液(A)に配合するアンモニアのアンモニア源としてアンモニア水を用いた場合には、アンモニア水中の水は、分散液(A)中の水を構成する。また、該分散液(A)中の水はアンモニア水以外に別途混合した水を含んでいてもよい。
上記分散液(A)中、上記極性有機溶媒と水の総量に占める水の割合は極性有機溶媒の種類にもよるが、通常は30〜90質量%であり、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜90質量%であり、さらに好ましくは60〜85質量%であり、さらに好ましくは65〜85質量%である。
【0026】
上記分散液(A)中、リチウム固定型モンモリロナイトの含有量に特に制限はなく、目的に応じて適宜に調節することができる。流動性を確保し、混練、及び撹拌工程が実際的に可能なものとする観点から、上記分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましく、4〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
上記分散液(A)は、少なくとも、上述したリチウム固定型モンモリロナイトと、上記アンモニアと、上記水と、上記極性有機溶媒とを混合し、均質化することで得ることができる。アンモニアと、水と、極性有機溶媒は、分散液(A)の調製において、最初から全量使用してもよいし、徐々にあるいは段階的に混合する態様としてもよい。
上記分散液(A)の調製に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、粉末であることが好ましい。すなわち、リチウム型モンモリロナイトの粉末を、前述の加熱処理に付してリチウムイオンを固定化し、含水率を0.1〜5質量%としたものを用いることが好ましい。
【0028】
上記均質化は常法によればよく、例えば、各原料を同時にあるいは任意の順序で混合することができる。また、混合に際しては、一般的な羽根つき撹拌機、ホモミキサー、万能混合機、自転公転ミキサー、アイリッヒミキサーなどを用いることが出来る。なかでも、有機処理工程の際に流動性を有する分散液とする観点から、ホモミキサーを好適に用いることができる。
上記均質化の際の温度に特に制限はないが、通常は4〜80℃の温度下で行われる。
【0029】
上記分散液(A)は、そのまま後述する有機修飾反応に用いてもよいし、アンモニア及び極性有機溶媒の一部又は全部を除去する処理に付して分散液(B)を調製し、この分散液(B)を後述する有機修飾反応に用いてもよい。アンモニア及び極性有機溶媒の一部又は全部の除去は、吸引ろ過、振動式ろ過、遠心分離などの固液分離法、あるいは加熱による揮発除去により行うことができ、これらの操作を繰り返すことにより、アンモニア及び極性有機溶媒を所望のレベルまで除去することができる。
分散液(B)中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましく、4〜8質量%であることがさらに好ましい。
また、分散液(B)中のアンモニアの含有量は、分散液(A)に含有されていた全アンモニア量の10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、分散液(B)中の極性有機溶媒の含有量は、分散液(A)に含有されていた全極性有機溶媒量の10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。分散液(B)は、リチウム固定型モンモリロナイトの水分散液であることが好ましい。
【0030】
[リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの調製]
上記分散液(A)又は(B)と、有機陽イオン又はその塩とを共存させる(好ましくは混合する)ことにより、リチウム固定型モンモリロナイト中の交換性陽イオンが有機陽イオンに交換され、分散液中にリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを得ることができる。
【0031】
<有機陽イオン又はその塩>
上記有機陽イオンは、有機基を有する陽イオンである。この有機基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数3〜22、さらに好ましくは炭素数5〜22、さらに好ましくは炭素数8〜22、さらに好ましくは炭素数12〜20、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基であり、直鎖でも分岐を有してもよい。上記アルキル基の好ましい炭素数は、アルキル基が置換基を有する形態の場合、当該置換基を含めた炭素数である。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜18、さらに好ましくは炭素数6〜15、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリール基、さらに好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。上記アリール基の好ましい炭素数は、当該アリール基が置換基を有する形態の場合、当該置換基を含めた炭素数である。)を採用することができる。また、上記有機基はカルボキシ基、ビニル基等の低分子の官能基であってもよい。なかでも上記有機基はアルキル基が好ましい。
上記有機基としての上記アルキル基が有しうる置換基に特に制限はなく、例えば、アリール基、ヒドロキシ基、ビニル基、スルホ基が挙げられる。また、上記有機基としての上記アリール基が有しうる置換基に特に制限はなく、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ビニル基、スルホ基が挙げられる。
【0032】
上記有機陽イオンの価数に特に制限はないが、1価であることが好ましく、有機アンモニウムイオン、有機イミダゾリウムイオン、有機ホスホニウムイオン、及び有機ピリジニウムイオンから選ばれる少なくとも1種の有機陽イオンが好ましい。また、上記有機陽イオンの塩としては、有機アンモニウム塩、有機イミダゾリウム塩、有機ホスホニウム塩、有機ピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種の有機陽イオンの塩が好ましい。これらの有機陽イオン又はその塩1分子が有する有機基の数は、1〜4が好ましく、2〜4がより好ましい。上記有機陽イオンの塩はハロゲン化物の形態が好ましく、塩化物の形態がより好ましい。
なかでも上記有機陽イオン又はその塩は、第4級アンモニウムイオン又はその塩であることが好ましい。すなわち上記有機陽イオン又はその塩は、有機基を4つ有するアンモニウムイオン(NR
a4+(R
aは有機基を示す。この有機基の好ましい例は上述したものと同じである。4つのR
aの炭素数は同じでも異なってもよい。4つのR
aのうち少なくとも1つのR
aの炭素数が12〜20であることが好ましく、少なくとも2つのR
aの炭素数が12〜20であることがより好ましい。))又はそのハロゲン化物であることが好ましく、さらに好ましくはアルキル基を4つ有するアンモニウムイオン(NR
b4+(R
bはアルキル基を示す。このアルキル基の好ましい例は上述したものと同じである。4つのR
bの炭素数は同じでも異なってもよい。4つのR
bのうち少なくとも1つのR
bの炭素数が12〜20であることが好ましく、少なくとも2つのR
bの炭素数が12〜20であることがより好ましい。))又はそのハロゲン化物である。
【0033】
上記分散液(A)及び(B)に含まれるリチウム固定型モンモリロナイトは、結晶表面において多くのリチウムが固定化された状態にあるため、上記有機陽イオンと陽イオン交換可能な交換性陽イオンの量が少ない。それ故、通常のモンモリロナイトに比べ、有機修飾点密度が小さく、導入された有機基はモンモリロナイトの結晶層表面に対し、寝た状態となる(結晶層表面に対して垂直方向に起き上がった状態をとりにくい)。つまり、結晶層表面が有機陽イオンにより一様に覆われながらも、結晶層間の距離をより短く保つことができる。
【0034】
<有機修飾反応(陽イオン交換反応)>
上記リチウム固定型モンモリロナイト分散液と有機陽イオン又はその塩との混合比は、当該分散液中のリチウムイオン固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量(単位:meq/100g)に対し、有機陽イオンが1.0〜10倍当量となるようにすることが好ましい。
ここで、「分散液中のリチウムイオン固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量(単位:meq/100g)に対し、有機陽イオンが1.0〜10倍当量となるようにする」とは、リチウムイオン固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量がZmeq/100gである場合、分散液中のリチウムイオン固定型モンモリロナイト100g当たりの有機陽イオンのモル数が、[1.0×(1/Y)×Z]〜[10×(1/Y)×Z]mmol(Yは有機陽イオンの価数を示す)になるようにすることを意味する。
【0035】
上記リチウム固定型モンモリロナイト分散液と有機陽イオン又はその塩との混合は、上記リチウム固定型モンモリロナイト分散液と、上記有機陽イオン又はその塩を含有する水溶液とを混合することにより行うことが好ましい。上記有機陽イオン又はその塩を含有する水溶液中の、上記有機陽イオン又はその塩の含有量は、1〜15質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。混合の際の上記分散液及び上記水溶液の温度に特に制限はなく、通常は60〜80℃として両液を混合することが好ましい。また、反応時間も特に制限はなく、通常は、15〜60分間の撹拌混合により、十分な陽イオン交換反応を行わせることができる。
有機修飾反応終了後、反応液(リチウム固定型有機修飾モンモロロナイトの分散液)を、水で洗浄することも好ましい。この洗浄は、吸引ろ過、遠心分離、フィルタープレス等により行うことができる。上記反応液あるいは反応液を水で洗浄した液から含水ケーキを回収し、乾燥し、粉砕することで、本発明のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの粉末を得ることができる。
【0036】
本発明の製造方法で得られるリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは、有機溶媒に対し、易分散性である。本発明の製造方法で得られるリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを有機溶媒に分散させ、この分散液を基板上に塗布して膜を形成し、所望のレベルまで乾燥させることにより、耐水性やガスバリア性に優れた膜を簡便に形成することができる。すなわち、本発明の製造方法で得られるリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを有機溶媒に分散させた分散液を用いることにより、水分と接触しても吸水しにくく耐久性に優れ、またガスバリア性にも優れた粘土膜を簡便に形成することができる。さらに本発明の製造方法で得られるリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは有機溶媒に溶解するさまざまな樹脂成分と任意の割合で混合でき、それらをコート材、あるいは塗料として用いることができる。すなわち、本発明の製造方法で得られるリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは、バリアコート材、防水コート材、防錆コート材、難燃コート材、絶縁コート材、防曇コート材等の材料として用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
[参考例] リチウム固定型モンモリロナイトの調製
原料とするリチウム型モンモリロナイトとして、天然モンモリロナイトのイオン交換処理によって得られたリチウム型モンモリロナイト(商品名:クニピア−M、クニミネ工業社製)を用いた。このリチウム型モンモリロナイト100gを電気炉(マッフル炉、FO410、ヤマト科学社製)に入れ、400℃、2時間の加熱処理に付した。
【0039】
原料としたリチウム型モンモリロナイト並びに加熱処理品(リチウム固定型モンモリロナイト)について、陽イオン交換容量(CEC)、浸出陽イオン量(LC)を測定した。
CECの測定は、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−106−77に記載の方法により行なった。また、LCの分析は、CEC測定の際に1M酢酸アンモニウムを用いて浸出させた浸出液を、陽イオン分析にかけることで実施した。
結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[実施例1] リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造−1
上記参考例で調製したリチウム固定型モンモリロナイト100質量部に対し、蒸留水90質量部、28%アンモニア水(関東化学社製)10質量部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF、関東化学社製、試薬特級)300質量部を量りとり、万能混合機(商品名:ACM−5LVT、愛工舎製作所製)に投入し、2時間の撹拌混合を行った。得られた分散ペーストを取り出し、蒸留水を1500質量部加え、ホモディスパーにて撹拌混合して希釈して分散液(分散液(A))を得た。この分散液(A)において、分散液(A)中のアンモニアの含有量は、分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり1.64mmolである。
得られた上記分散液(A)を振動膜ろ過装置(商品名:V−SEP、NewLogicResearch社製)を用いて加水、洗浄を十分に繰り返すことで、分散液(A)からDMF及びアンモニアを除去し、最終的にリチウム固定型モンモリロナイトの含有量が4質量%のリチウム固定型モンモリロナイト水分散液(分散液(B))を得た。
【0042】
有機陽イオンの塩として、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(商品名:リポカード2HP、LION社製、有効成分96%、585.5g/mol、アルキル基の炭素数:18)を用い、これを70℃の蒸留水に溶解させた水溶液(塩化ジアルキルジメチルアンモニウム濃度:3質量%)を準備した。この水溶液1275gを、70℃に加温した上記分散液(B)2500gに添加し、混合し、15分間陽イオン交換反応させた。上記塩化ジアルキルジメチルアンモニウムは、上記分散液(B)中のリチウム固定型モンモリロナイト固形分100質量部(CEC:12.1meq/100g)に対し、38質量部(リチウム固定型モンモリロナイトのCECに対し、5.2倍当量)の量で用いた。
上記陽イオン交換反応後、反応液をろ過し、ろ過ケーキ(含水ケーキ)を回収した。回収したろ過ケーキに、その固形分100質量部に対して2000質量部の蒸留水を加え、再度ホモミキサーを用いて撹拌し、リスラリーさせた。次いで上記と同様のろ過洗浄を5回繰り返し、最終的に得られたろ過ケーキを70℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させ、実施例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイト(粉末)を得た。
【0043】
[実施例2] リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造−2
上記参考例で調製したリチウム固定型モンモリロナイト100質量部に対し、蒸留水1910質量部、28%アンモニア水(関東化学社製)10質量部、アセトニトリル(関東化学社製、試薬特級)480質量部を量りとり、ホモミキサーにて、4時間の撹拌混合し、リチウム固定型モンモリロナイトの含有量が4質量%のリチウム固定型モンモリロナイト分散液(分散液(A))を得た。この分散液(A)において、分散液(A)中のアンモニアの含有量は、分散液(A)中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり1.64mmolである。
【0044】
有機陽イオンの塩として、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(商品名:リポカード2HP、LION社製、有効成分96%、585.5g/mol、アルキル基の炭素数:18)を用い、これを70℃の蒸留水に溶解させた水溶液(塩化ジアルキルジメチルアンモニウム濃度:3質量%)を準備した。この水溶液1275gを、70℃に加温した上記分散液(A)のリチウム固定型モンモリロナイト分散液2500g(上述したリチウム固定型モンモリロナイトの含有量が4質量%の分散液)に添加し、混合し、15分間陽イオン交換反応させた。上記塩化ジアルキルジメチルアンモニウムは、上記分散液(B)中のリチウム固定型モンモリロナイト固形分100質量部(CEC:12.1meq/100g)に対し、38質量部(リチウム固定型モンモリロナイトのCECに対し、5.2倍当量)の量で用いた。
上記陽イオン交換反応後、反応液をろ過し、ろ過ケーキ(含水ケーキ)を回収した。回収したろ過ケーキに、その固形分100質量部に対し、2000質量部の蒸留水で再度ホモミキサーを用いて撹拌し、リスラリーさせた。次いで上記と同様のろ過洗浄を5回繰り返し、最終的に得られたろ過ケーキを70℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させ、実施例2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイト(粉末)を得た。
【0045】
[比較例1] リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの製造−3
リチウム固定型モンモリロナイト100質量部に対し、蒸留水2400質量部を量りとり、ホモミキサーを用いて撹拌した。撹拌後、リチウム固定型モンモリロナイトは水中への分散状態を保てず、分散液は調製できなかった。このリチウム固定型モンモリロナイトを含有する液(リチウム固定型モンモリロナイトの含有量:4質量%)を、分散液(A)に代えて使用したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイト(粉末)を得た。
【0046】
[比較例2] 有機修飾モンモリロナイトの製造−4
ナトリウム型モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業製、陽イオン交換容量:100meq/100g)を蒸留水に分散させ、ナトリウム型モンモリロナイト含有量が4質量%の水分散液を得た。
【0047】
有機陽イオンの塩として、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(商品名:リポカード2HP、LION社製、有効成分96%、585.5g/mol、アルキル基の炭素数:18)を用い、これを70℃の蒸留水に溶解させた水溶液(塩化ジアルキルジメチルアンモニウム濃度:3質量%)を準備した。この水溶液1275gを、70℃に加温した上記ナトリウム型モンモリロナイト分散液2500gに添加し、混合し、15分間陽イオン交換反応させた。上記塩化ジアルキルジメチルアンモニウムは、上記水分散液中ナトリウム型モンモリロナイト固形分100質量部(CEC:100meq/100g)に対し、64質量部(ナトリウム型モンモリロナイトのCECに対し、1.05倍当量)の量で用いた。
上記陽イオン交換反応後、反応液をろ過し、ろ過ケーキ(含水ケーキ)を回収した。回収したろ過ケーキに、その固形分100質量部に対し、2000質量部の蒸留水で再度ホモミキサーを用いて撹拌し、リスラリーさせた。次いで上記と同様のろ過洗浄を5回繰り返し、最終的に得られたろ過ケーキを70℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させ、比較例2の有機修飾モンモリロナイト(粉末)を得た。
【0048】
[試験例1] XRD回折と層間距離
上記実施例1及び2並びに比較例1及び2の有機修飾モンモリロナイトを、X線回折により分析した。X線回折には、リガク社製の「MiniFlex」を用いた。
結果を
図1及び下記表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図1及び表2に示される通り、実施例1及び2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは、いずれも(001)に明瞭なシングルピークが見られ、層間距離はともに1.9nm前後であった。また、原料である分散処理を施す前のリチウム固定型モンモリロナイトは400℃の加熱処理によって層間距離は約1.0nmとなっており、実施例1及び2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは、層間に有機陽イオンが導入されていることも示された。
一方、比較例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは(001)のピークが弱く、ブロードであり、完全かつ均一に有機修飾されていないことがわかる。
また、比較例2の有機修飾モンモリロナイトは、(001)のピークより、層間距離は3nm程度であることがわかった。
上記の結果から、比較例2の有機修飾モンモリロナイトの結晶層間は、実施例1及び2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトの結晶層間に比べて広がっていることが分かる。これは、有機修飾前の粘土結晶表面の電荷密度の違いに起因すると考えられる。
すなわち、比較例2で用いたナトリウム型モンモリロナイトは、その結晶表面の電荷密度が高いために、有機陽イオンが高密度に導入される。結果、有機基(アルキル基)が結晶面に対し、より垂直方向に向けて立ち上がった状態で存在しているものと推定される。これに対し、実施例1及び2で用いたリチウム固定型モンモリロナイトは、多くのリチウムが粘土結晶表面に固定化されており、その分、有機陽イオンが結晶表面に導入されにくく、有機陽イオンの導入密度は小さくなる。結果、有機基(アルキル基)が結晶面に対し、より平行な方向に向けて寝た状態で存在しているものと推定される。
【0051】
[試験例2] 強熱減量の測定
上記各実施例及び比較例で製造した有機修飾モンモリロナイトに含有される有機分を、強熱減量に基づき比較した。強熱減量は次のようにして測定した。
十分に乾燥した磁性るつぼ(W0)に、105℃で2時間以上乾燥させた上記各実施例及び比較例の有機修飾モンモリロナイトを約0.2g入れ、るつぼごと重量を測定した(W1)。電気炉を1000℃まで加熱し、この電気炉に磁性るつぼを投入し、1時間静置して有機分を揮発させた。その後、るつぼを取り出し、デシケーター中で放冷した後、るつぼごと重量を測定した(W2)。以下の計算式から強熱減量を算出した。
強熱減量(質量%)=[(W1−W2)/(W1−W0)]×100
結果を下記表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
強熱減量は有機修飾モンモリロナイトの質量(磁性るつぼを加熱する前の質量)に占める、当該有機修飾モンモリロナイトが有するOH基の脱離量と有機物(有機基)の揮発量の総和の割合(質量%)である。
表3に示される通り、実施例1及び2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトでは、比較例2の有機修飾モンモリロナイトに比べ、強熱減量が明らかに小さかった。つまり、粘土結晶表面への有機陽イオンの導入量が少ないことがわかった。
【0054】
[試験例3] 膜の評価
<コートフィルムの製造と評価−1>
トルエン90質量%及びエタノール10質量%からなる混合有機溶媒中に、実施例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを投入し、ディスパーにて分散させ、リチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを6質量%含有する分散液を得た。この分散液を、自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎、ARE−310、THINKY社製)を用いて、混合モード(2000rpm)で10分間混合し、さらに脱泡モード(2200rpm)で10分間処理し、塗工液を得た。この塗工液をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(50μm厚)上に、キャスティングナイフを用いて0.6mm厚になるように塗工した。次いで、60℃に設定した乾燥機を用いて1時間乾燥し、さらに80℃で一晩乾燥させた。得られたコートフィルムの水蒸気透過度(40℃、90%)及び酸素透過度(25℃、Dry)を、それぞれDELTAPERM(Technolox社製)及びOX−TRAN2/21(MOCON社製)を用いて測定した。
【0055】
<コートフィルムの製造と評価−2>
混合有機溶媒中のエタノールに代えてアセトニトリルを用い、さらに、実施例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトに代えて実施例2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトを用いたこと以外は、<コートフィルムの製造と評価−1>と同様にしてコートフィルムを作製し、その水蒸気透過度(40℃、90%)及び酸素透過度(25℃、Dry)を測定した。
【0056】
実施例1のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトに代えて比較例2の有機修飾モンモリロナイトを用いたこと以外は、<コートフィルムの製造と評価−1>と同様にしてコートフィルムを作製し、その水蒸気透過度(40℃、90%)、及び酸素透過度(25℃、Dry)を測定した。
【0057】
なお、比較例1の有機修飾モンモリロナイトは、有機溶媒中で膨潤、分散させることが出来ず、コート層を形成可能な塗工液を作製できなかった。
結果を下記表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示される通り、比較例2の有機修飾モンモリロナイトは、有機溶媒中に容易に分散させることができるが、この分散液(塗工液)を用いて形成した膜は、水蒸気透過度及び酸素ガス透過度がいずれも高く、ガスバリア性に劣る結果となった。
これに対し、実施例1及び2のリチウム固定型有機修飾モンモリロナイトは、有機溶媒中に容易に分散し、この分散液(塗工液)を用いて形成した膜は、水蒸気透過度及び酸素ガス透過度のいずれも小さくガスバリア性に優れていた。