(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非磁性基板上に少なくとも、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が非磁性基板に対し主に垂直に配向した垂直磁性層と、保護層が設けられた磁気記録媒体であって、前記垂直磁性層は基板側から第1の磁性層、第2の磁性層、第3の磁性層、第4の磁性層をこの順で含み、
前記第1の磁性層から前記第4の磁性層はグラニュラー構造の磁性層であり、
前記第1の磁性層から前記第4の磁性層を構成する磁性粒子が連続した柱状晶であり、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間、及び、前記第2の磁性層と前記第3の磁性層との間には各々交換結合制御層を有し、
前記第3の磁性層と前記第4の磁性層は接し、
前記第1の磁性層から前記第4の磁性層は強磁性結合し、
前記第1から第4の磁性層の磁気異方性定数をKui、飽和磁化をMsi、膜厚をtiとしたとき(iは第1〜第4の磁性層の数字に対応する。)、
Kui>Kui+1 (i=1、2)、
Msi・ti>Msi+1・ti+1 (i=1、2)、
Kui<Kui+1 (i=3)、
Msi・ti<Msi+1・ti+1 (i=3)、
の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(HDD:hard disk drive)は、現在その記録密度が飛躍的に増えており今後もその傾向は続くと言われている。そのために高記録密度に適した磁気記録媒体、磁気記録用ヘッドの開発が進められている。
【0003】
現在、市販されている磁気記録再生装置に搭載されている磁気記録媒体は、磁性膜内の磁化容易軸が主に垂直に配向した、いわゆる垂直磁気記録媒体である。垂直磁気記録媒体は、高記録密度化した際にも、記録ビット間の境界領域における反磁界の影響が小さく、鮮明なビット境界が形成されるため、ノイズの増加が抑えられる。しかも、高記録密度化に伴う記録ビット体積の減少が少なくてすむため、熱揺らぎ効果にも強い。そこで、近年大きな注目を集めており、垂直磁気記録に適した媒体の構造が提案されている。
【0004】
磁気記録媒体の高記録密度化を進めるためには、磁気記録層を構成する結晶粒子の磁気的な分離を促進し、磁化反転単位を小さくしていく必要があるが、これにより磁気記録媒体の熱安定性も低下する。そのため、磁気記録媒体の熱安定性を維持するために磁性粒子を構成する磁性体のKu(磁気異方性定数)を大きくする必要が生ずる。
【0005】
このような磁気記録媒体を構成するためには、磁気記録層に高Ku磁性体を用いたグラニュラー構造を採用するのが有利であるが、高Ku磁性体を用いた磁気記録媒体は記録時に必要となる磁場強度が増加し、磁気記録媒体の記録容易性が低下するという問題点がある。
【0006】
この問題点を解決するために、複数の磁気記録層を、交換結合制御層を介して積層することで各層を構成する磁性粒子を強磁性結合させ、複数の磁気記録層の内、Kuの低い磁性粒子を先に磁化反転させ、それによりKuの高い磁性粒子を磁化反転させることが行われている。即ち、複数の磁気記録層を、交換結合制御層を介さずに積層した場合は、これらの磁気記録層は同時に磁化反転することとなり、磁気記録層の記録容易性が低下するが、一方で、前述の構造を用いることで磁気記録媒体の記録容易性を高めることができる(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0007】
また、非特許文献1には、CoCrPt系磁性材料の飽和磁化Ms、異方性磁界Hkが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、本願発明者が、前述した課題を解決するため鋭意努力検討した結果、磁気記録層を多層化しても、高い熱揺らぎ特性と記録容易性が実現可能な磁気記録媒体を完成させたことによるものである。尚、本発明は、非磁性基板上に少なくとも、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が非磁性基板に対し主に垂直に配向した垂直磁性層と、保護層とが設けられた磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関するものである。
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体および磁気記録再生装置について詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明における磁気記録媒体の一例の構造を示す縦断面図である。ここに示す磁気記録媒体は、非磁性基板1上に、軟磁性下地層2と、配向制御層3と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑層6とが順次形成されている。垂直磁性層4は非磁性基板1側から第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4c、第4の磁性層4d、第5の磁性層4eの5層をこの順で含み、第1の磁性層4aと第2の磁性層4bの間、そして第2の磁性層4bと第3の磁性層4cの間に交換結合制御層7a、7bを含み、第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4c、第4の磁性層4d、第5の磁性層4eを構成する磁性粒子が下層から上層まで連続した柱状晶であり、各磁性層は強磁性結合している。
【0019】
非磁性基板1としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。
【0020】
非磁性基板1としては、上記金属基板、非金属基板の表面にメッキ法やスパッタリング法を用いてNiP層またはNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0021】
非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に、密着層を設けることが好ましい。基板とCoまたはFeが主成分となる軟磁性下地膜が接することで、非磁性基板1における基板表面の吸着ガス、水分の影響、または基板成分の拡散により、腐食が進行する可能性がある。密着層を設けることで、抑制することが可能となる。材料としては、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。厚さは30Å以上であることが好ましい。
【0022】
軟磁性下地層2は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板に対する垂直方向成分を大きくするために、また情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられているものである。この作用は特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなるので好ましい。
【0023】
上記軟磁性下地層2は、軟磁性材料からなるもので、この材料としては、Fe、Ni、Coを含む材料を用いることができる。
【0024】
この材料としては、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど。)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど。)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど。)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど。)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど。)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど。)、FeMg系合金(FeMgOなど。)、FeZr系合金(FeZrNなど。)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
【0025】
軟磁性下地層2の保磁力Hcは100(Oe)以下(好ましくは20(Oe)以下。)とするのが好ましい。なお、1Oeは79A/mである。
【0026】
この保磁力Hcが上記範囲を超えると、軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0027】
軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bsは、0.6T以上(好ましくは1T以上)とするのが好ましい。このBsが上記範囲未満であると、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0028】
また、軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bs(T)と軟磁性下地層2の層厚t(nm)との積Bs・t(T・nm)が15(T・nm)以上(好ましくは25(T・nm)以上)であることが好ましい。このBs・tが上記範囲未満であると、再生波形が歪みをもつようになり、OW(OverWrite)特性(記録特性)が悪化するため好ましくない。
【0029】
軟磁性下地層2は2層の軟磁性膜から構成されており、2層の軟磁性層の間にはRuを設けられていることが好ましい。Ruの膜厚を0.4〜1.0nm、または1.6〜2.6nmの所定の範囲に調整することで、2層の軟磁性膜がAFC構造となる。AFC構造とすることで、いわゆるスパイクノイズを抑制することができる。
【0030】
軟磁性下地層2上に形成される配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善することができる。この材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が特に好ましく、またこれらの合金を多層化してもより。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用するのが好ましい。
【0031】
このため、本実施形態の磁気記録媒体では、配向制御層3の厚さを、多層の場合は合計の厚さで、5〜40nm(好ましくは8〜30nm。)とするのが好ましい。配向制御層3の厚さが5〜40nm(好ましくは8〜30nm。)の範囲であるとき、垂直磁性層4の垂直配向性が特に高くなり、かつ記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離を小さくすることができるので、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
【0032】
本実施の形態においては、垂直磁性層4は、非磁性基板1側から第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4c、第4の磁性層4dを含み、第1の磁性層4aから第4の磁性層4dはグラニュラー構造の磁性層であり、第1の磁性層4aから第4の磁性層4dを構成する磁性粒子が連続した柱状晶であり、第1の磁性層4aと第2の磁性層4bの間には交換結合制御層7a、第2の磁性層4bと第3の磁性層4cとの間には交換結合制御層7bを有し、第3の磁性層4cと第4の磁性層4dは接し、第1の磁性層4aから第4の磁性層4dは強磁性結合し、第1から第4の磁性層の磁気異方性定数をKu
i、飽和磁化をMs
i、膜厚をt
iとしたとき(iは第1〜第4の磁性層の数字に対応する。)、Ku
i>Ku
i+1 (i=1、2)、Ms
i・t
i>Ms
i+1・t
i+1 (i=1、2)、Ku
i<Ku
i+1 (i=3)、Ms
i・t
i<Ms
i+1・t
i+1 (i=3)、の関係を満たすことを特徴とするものである。
【0033】
従来の垂直磁性層は、多層の磁性層で構成し、各磁性層間に交換結合制御層を設けて、各磁性層の結合を制御していた。そして、各磁性層のKu、Ms・tを、非磁性基板側から保護層側に向けて、徐々に下げていく構造を採っていた。これに対し、本実施の形態においては、垂直磁性層4は、第1の磁性層4aから第3の磁性層4cは、そのような構成を採用するが、第3の磁性層4cと第4の磁性層4dとの間には、交換結合制御層を設けずに接合し、さらに、第4の磁性層4dのKu、Ms・tを、第3の磁性層4cに対して高めた構造を採用する。これにより、交換結合制御層を多用することの問題点を解決し、ATI/FTI耐性に優れた磁気記録媒体を提供可能となる。この理由について本願発明者は、磁気ヘッドによる第4の磁性層4dの磁化反転を、第3の磁性層4cに対しても直接的に行い、そして、第3の磁性層4cの磁化反転、交換結合制御層を用いて弱く結合された第2の磁性層4b、および第1の磁性層4aの磁化反転を順次進行させることで、多層化した垂直磁性層の磁化反転をスムーズに進行させるためと考えている。
【0034】
図2に基づき、本実施の形態における垂直磁性層4について説明する。
図2は、垂直磁性層4の基板面に対する断面を模式的に示したものである。
【0035】
本実施の形態における垂直磁性層4を構成する第1の磁性層4aから第4の磁性層4dは、例えばCoCrPt系磁性粒子と、さらに酸化物41を含んだ材料とすることができる。ここで酸化物41としては、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co、B、Ruの酸化物であることが好ましい。また、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物を用いてもよい。
【0036】
第1の磁性層4aから第4の磁性層4dは、層中に磁性粒子42が分散していることが好ましい。この磁性粒子42は、
図2に示すように、第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4cさらには第4の磁性層4dを上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁性層4の磁性粒子42の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得ることができる。
【0037】
このような構造を得るためには、含有させる酸化物41の量および第1の磁性層4aから第4の磁性層4dの成膜条件が重要となる。
【0038】
酸化物41の含有量は、磁性粒子42を構成する例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは6mol%以上13mol%以下である。
【0039】
第1の磁性層4a中の酸化物の含有量として上記範囲が好ましいのは、
図2に示されるように、層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子42の孤立化、微細化をすることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が磁性層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。また、酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなるため好ましくない。
【0040】
本実施の形態においては、第1の磁性層4aから第4の磁性層4dの磁気異方性定数Ku、飽和磁化Ms、膜厚tを所定の範囲内の値とする必要があるが、例えば磁性粒子にCoCrPt系を用いる場合は、
図3、
図4に示される資料を参考にして磁性層を形成することができる(例えば、非特許文献1参照)。ここで、
図3はCoCrPt系磁性粒子の室温における組成比と飽和磁化Msとの関係を示し、
図4はCoCrPt系磁性粒子の室温における組成比と磁気異方性定数Kuとの関係を示す。
【0041】
本実施の形態においては、第1の磁性層4aから第4の磁性層4dの磁気異方性定数Ku、飽和磁化Ms、膜厚tは、好ましくは、第1の磁性層4aにおけるMs
1が、1200〜500emu/ccの範囲内、Ku
1が、12×10
6〜5×10
6erg/ccの範囲内、第2の磁性層4bにおけるMs
2が、1100〜400emu/ccの範囲内、Ku
2が、11×10
6〜4×10
6erg/ccの範囲内、第3の磁性層4cにおけるMs
3が、
900〜
200emu/ccの範囲内、Ku
3が、
9×10
6〜
2×10
6erg/ccの範囲内、第4の磁性層4dにおけるMs
4が、
1000〜
300emu/ccの範囲内、Ku
4が、
10×10
6〜
4×10
6erg/ccの範囲内、第1の磁性層4aにおける膜厚t
1、第2の磁性層4bにおける膜厚t
2、第3の磁性層4cにおける膜厚t
3、第4の磁性層4dにおける膜厚t
4が、1〜10nmの範囲内とする。
【0042】
第1の磁性層4aから第4の磁性層4dの磁気異方性定数Ku、飽和磁化Ms、膜厚tをこの範囲内とすることで、垂直磁性層を多層化した磁気記録媒体で、より高い熱揺らぎ特性と記録容易性を実現できる。Ms、Kuの値が上記範囲以下であると、容易に磁化反転が生じることになり、Hnの低下、熱揺らぎ特性の低下などの問題が生じるために好ましくない。上記範囲を超えると、ヘッド磁界に対して、容易に磁化反転をすることが困難となり、記録容易性が低下する。また、また膜厚tが上記の範囲より薄いと、十分な再生出力が得られず、熱揺らぎ特性も低下する。また、上記範囲を超えた場合、垂直磁性層中の磁性粒子の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0043】
第1の磁性層4aから第4の磁性層4dに適した材料としては、例えば、(CoCrPt)−(SiO
2)、(CoCrPtNb)−(Cr
2O
3)、(CoCrPt)−(Ta
2O
5)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(TiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)−(TiO
2)、(CoCrPtMo)−(TiO
2)、(CoCrPtW)−(TiO
2)、(CoCrPtB)−(Al
2O
3)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y
2O
3)、(CoCrPtRu)−(SiO
2)などをあげることができる。
【0044】
本実施の形態においては、第1の磁性層4aと第2の磁性層4bの間に交換結合制御層7aを、第2の磁性層4bと第3の磁性層4cの間に交換結合制御層7bを設ける。交換結合制御層7a、7bを設けることで、第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4cの磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能となる。
【0045】
交換結合制御層7a、7bとしては、hcp構造を有する材料を用いるのが好ましい。例えば、Ru、Ru合金、RuCo、CoCr合金やCoCrX1合金(X1:Pt、Ta、Zr、Re,Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Zr、Bから選ばれる1種または2種以上)を用いるのが好適である。
【0046】
交換結合制御層7a、7bの厚さは、第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4cの強磁性結合を完全に切断しない範囲とする必要がある。垂直磁性層の強磁性結合が切れた際には、M−Hループが2段階に反転するループになるために容易に判別可能である。この2段ループが生じた場合は、ヘッドからの磁界に対して磁気グレインが一斉に反転しないことを意味しており、その結果再生時のS/N比の著しい悪化や分解能の低下が生ずる。交換結合制御層7a、7bの厚さは0.1nm以上2nm以下、より好ましくは0.1以上0.8nm以下とする。
【0047】
本実施の形態においては、第4の磁性層4dと保護層5との間に第5の磁性層4eを設け、第5の磁性層4eは非グラニュラー構造の磁性層とし、第1の磁性層4aから第5の磁性層4eを構成する磁性粒子を連続した柱状晶とし、第4の磁性層4dと第5の磁性層4eは接して設け、第1の磁性層4aから第5の磁性層4eは強磁性結合させ、第5の磁性層4eの磁気異方性定数Ku
5、飽和磁化Ms
5、膜厚t
5について、Ku
4>Ku
5、Ms
4・t
4>Ms
5・t
5、の関係を満足させるのが、高い熱揺らぎ特性と記録容易性が実現可能な磁気記録媒体を製造する上で好ましく、また、Ku
3>Ku
5、Ms
3・t
3<Ms
5・t
5、の関係を満足させることで、より高い熱揺らぎ特性と記録容易性が実現可能な磁気記録媒体を製造可能となる。
【0048】
第5の磁性層4eは、酸化物等を含まない非グラニュラー構造とし、
図2に示すように、層中の磁性粒子42が第1の磁性層4a中の磁性粒子42から柱状にエピタキシャル成長している構造とする。この場合、第1の磁性層4a、第2の磁性層4b、第3の磁性層4c、第4の磁性層4d、第5の磁性層4eの磁性粒子が、各層において1対1に対応して、柱状にエピタキシャル成長するのが好ましい。
【0049】
第5の磁性層4eの磁性粒子42が第1の磁性層4a中の磁性粒子42からエピタキシャル成長していることで、第5の磁性層4eの磁性粒子42が微細化され、さらに結晶性、配向性がより向上するため好適である。
【0050】
本実施の形態においては、第5の磁性層4eの磁気異方性定数Ku
5、飽和磁化Ms
5、膜厚t
5を所定の範囲内の値とする必要があるが、例えば磁性粒子にCoCrPt系を用いる場合は、
図3、
図4に示す資料を参考にして磁性層を形成することができる。
【0051】
第5の磁性層4eに適した材料としては、CoCrPt系の他、CoCrPtB系、CoCrPtBNd系、CoCrPtTaNd系、CoCrPtNb系、CoCrPtBW系、CoCrPtMo系、CoCrPtCuRu系、CoCrPtRe系などの材料をあげることができる。
【0052】
第5の磁性層4eのMs
5は、950〜250emu/ccの範囲内、Ku
5は、8×10
6〜1×10
6erg/ccの範囲内とするのが好ましい。Ms
5、Ku
5の値が上記範囲以下であると、容易に磁化反転が生じることになり、Hnの低下、熱揺らぎ特性の低下などの問題が生じるために好ましくない。また、上記範囲を超えると、ヘッド磁界に対して、容易に磁化反転をすることが困難となり、書き込み容易性の低下がみられるために好ましくない。
【0053】
保護層5は垂直磁性層4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのもので、従来からの材料を使用でき、例えば硬質炭素膜を含むものが使用可能である。
【0054】
保護層5の厚さは、1〜10nmとするのがヘッドと媒体の距離を小さくできるので高記録密度の点から望ましい。
【0055】
潤滑層6には、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いるのが好ましい。
【0056】
上記構成の磁気記録媒体を製造するには、例えば、非磁性基板1上に、軟磁性下地層2、配向制御層3、垂直磁性層4を順次、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などにより形成する。次いで保護層5を、例えば、プラズマCVD法、イオンビーム法、スパッタリング法により形成する。
【0057】
図5は本実施の形態における磁気記録再生装置の一例を示す概略図である。ここに示す磁気記録再生装置は、本実施の形態における磁気記録媒体10と、磁気記録媒体10を回転駆動させる媒体駆動部11と、磁気記録媒体10に情報を記録再生する磁気ヘッド12と、この磁気ヘッド12を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部13と、記録再生信号処理系14とを備えている。記録再生信号処理系14は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド12に送り、磁気ヘッド12からの再生信号を処理してデータを外部に送ることができるようになっている。本実施の形態における磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド12には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適したヘッドを用いることができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜4、比較例1〜6)
実施例1〜4、比較例1〜6における磁気記録媒体は、以下の方法により作製した。
【0059】
洗浄済みのガラス基板(HOYA製、外形2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタリング装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板上にCrターゲットを用いて、10nm密着層を成膜した。Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で25nmの軟磁性層を形成し、この上にRu層を0.7nm成膜した後、さらにCo−20Fe−5Zr−5Taの軟磁性層を25nm成膜して、軟磁性下地層2とした。
【0060】
上記軟磁性下地層2の上にNi−6W{W含有量6at%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの厚さで順に成膜し、配向制御層3とした。
【0061】
配向制御層3の上に、表1〜表3に示される磁性層等により形成される垂直磁性層をスパッタリング法によりアルゴンガス圧力2Paとして成膜した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
次いでイオンビーム法により膜厚3.0nmの保護層5を形成した。次いで、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層6を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0066】
得られた磁気記録媒体の記録容易性(OW)を評価した。評価は、米国GUZIK社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。ヘッドは、書き込みをシングルポール磁極、再生部にTMR素子を用いたヘッドを使用した。まず、750kFCIの信号を書き込み、次いで100kFCIの信号を上書し、周波数フィルターにより高周波成分をとりだし、その残留割合によりデータの書き込み能力を評価した。
【0067】
熱揺らぎ特性の評価は、70℃の条件下で記録密度50kFCIにて書き込みを行ったあと、書き込み後1秒後の再生出力に対する出力の減衰率を(So−S)×100/(So)に基いて算出した。この式においてSoは書き込み後、1秒経過時の再生出力を示し、Sは10000秒後の再生出力を示す。
【0068】
また、ATI、FTIについても同様に、米国GUZIK社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。結果を表3に示す。
【0069】
また、OW、熱揺らぎ、ATI、FTIの測定結果に基づいた総合評価を表3に示す。これらの測定結果は、それぞれトレードオフの関係があるため、これらの測定結果に基づいて磁気記録媒体の特性を総合的に判断する必要がある。そして、OWが32.5dB以上であり、熱揺らぎが9.3%以下であり、ATIが1.67order以下であり、FTIが0.95order以下であるものを優れた磁気記録媒体(○)とし、それ以外を不可(×)とした。
【0070】
表3に示すとおり、実施例1〜4における磁気記録媒体においては、OWを維持しつつ、ATI及びFTIを改善することができる。尚、実施例3、4における磁気記録媒体の結果に示されるように、第5磁性層の磁気異方性定数Ku
5及び飽和磁化Ms
5を変化させても有効である。比較例1は、従来からある構造の基準となる磁気記録媒体である。尚、比較例2の磁気記録媒体の結果に示されるように、単純に第3の磁性層の磁気異方性定数Ku
3を下げると、OWは向上するが、ATI及びFTIが悪くなる。比較例3の磁気記録媒体の結果に示されるように、単純に第3の磁性層の磁気異方性定数Ku
3を上げると、ATI及びFTIは改善するが、OWが悪くなる。比較例4の磁気記録媒体の結果に示されるように、第4の磁性層の飽和磁化Ms
4及び磁気異方性定数Ku
4が低いと、スムーズに磁化反転ができず、所望の効果を得るとができない。比較例5の磁気記録媒体の結果に示されるように、第3の磁性層と第4の磁性層の間に交換結合制御層を挿入した場合、OWは向上するが、ATI及びFTIが悪くなる。比較例6の磁気記録媒体の結果に示されるように、第3の磁性層と第4の磁性層の間、及び、第4の磁性層と第5の磁性層の間に交換結合制御層を挿入した場合、OWは向上するが、ATI及びFTIが悪くなる。
【0071】
以上より、本実施の形態における磁気記録媒体となる実施例1〜4における磁気記録媒体においては、優れた電磁変換特性を有する、高記録密度に対応できる磁気記録媒体が得られた。