【文献】
Journal of biological chemistry,2012年,Vol.287,p.19399-19408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)または(b)のFcポリペプチド鎖が、IgG1 Fcポリペプチド鎖、IgG2 Fcポリペプチド鎖、またはIgG4 Fcポリペプチド鎖であり、改変K392D、K409D、およびY349Tを含む、請求項1に記載のBi-Fc。
(a)(i)次式:V1-L1-V2-L2-V3-L3-V4-L4-Fcを有するアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖であって、式中、FcはヒトIgG Fcポリペプチド鎖であり;V1、V2、V3、およびV4はそれぞれ免疫グロブリン可変領域であり;L1、L2、L3、およびL4はリンカーであり;かつ、L4は存在してもよいし、もしくは存在しなくてもよい、第1のポリペプチド鎖;ならびに
(ii)ヒトIgG Fcポリペプチド鎖を含む第2のポリペプチド鎖;または
(b)(i)次式:Fc-L4-V1-L1-V2-L2-V3-L3-V4を有する第1のポリペプチド鎖であって、式中、FcはヒトIgG Fcポリペプチド鎖であり;V1、V2、V3、およびV4はそれぞれ免疫グロブリン可変領域であり;L1、L2、L3、およびL4はリンカーであり;かつ、L4は存在してもよいし、もしくは存在しなくてもよい、第1のポリペプチド鎖;ならびに
(ii)ヒトIgG Fcポリペプチド鎖を含む第2のポリペプチド鎖
を含む、Bi-Fcであって、
Bi-Fcが、標的細胞および免疫エフェクター細胞に結合し、かつ/または免疫エフェクター細胞による標的細胞の細胞溶解を媒介し、
L1およびL3が、少なくとも15アミノ酸長であり、
L2が、12アミノ酸長未満であり、
V1がVH領域でありかつV2がVL領域であるか、またはその逆であり、
V3がVH領域でありかつV4がVL領域であるか、またはその逆であり、
Bi-Fcが、ヒトおよび/またはカニクイザルCD3εに結合し、かつ
(1)第1のポリペプチド鎖が、電荷対置換R409D、R409E、K409D、もしくはK409Eと、N392D、N392E、K392D、もしくはK392Eとを含み、かつ第2のポリペプチド鎖が、電荷対置換D399KもしくはD399Rと、E356K、E356E、D356K、もしくはD356Rとを含むか;または
(2)第2のポリペプチド鎖が、電荷対置換R409D、R409E、K409D、もしくはK409Eと、N392D、N392E、K392D、もしくはK392Eとを含み、かつ第1のポリペプチド鎖が、電荷対置換D399KもしくはD399Rと、E356K、E356E、D356K、もしくはD356Rとを含み、
Fcポリペプチド鎖が、各Fcポリペプチド鎖の位置384と385との間にSEQ ID NO:36〜47のいずれかのアミノ酸配列の挿入を含み、位置384および385が、EUナンバリング方式に従って割り当てられた位置である、
Bi-Fc。
第1および第2のポリペプチド鎖のFcポリペプチド鎖が、L234A、L235A、およびN297における任意の置換からなる群より選択される、FcγRの結合を阻害する1つまたは複数の改変を含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載のBi-Fc。
(a)病原体が、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、もしくはサイトメガロウイルスを含むウイルス、またはリステリア(Listeria)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、もしくはストレプトコッカス(Streptococcus)属の細菌である、または
(b)疾患を媒介する細胞が、線維性疾患を媒介する線維細胞である、
請求項11に記載のBi-Fc。
それぞれSEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、およびSEQ ID NO:50のアミノ酸配列を含むCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVH領域、ならびにそれぞれSEQ ID NO:51、SEQ ID NO:52、およびSEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含むCDR1、CDR2およびCDR3を含むVL領域を含む、請求項1または4のいずれかに記載のBi-Fc。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
1つのポリペプチド鎖または2つの異なるポリペプチド鎖を含有する、本明細書においてBi-Fcと呼ばれる新規な形態の二重特異性抗体が記載される。1つの鎖は、2つの重鎖可変(VH)領域、2つの軽鎖可変(VL)領域、およびFcポリペプチド鎖を含み、任意の第2のポリペプチド鎖は、Fcポリペプチド鎖を含む。いくつかの態様では、Bi-Fcが結合する一方のタンパク質は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、または好中球のような免疫エフェクター細胞の表面上に発現し、Bi-Fcが結合するもう一方のタンパク質は、標的細胞、例えば、がん細胞、病原体に感染している細胞、または、例えば線維性疾患のような疾患を媒介する細胞の表面上に発現している。Bi-Fcは、これらの各タンパク質について結合部位を1つだけ有する(すなわち、本明細書において意味されるように、各タンパク質と「一価的」に結合する)ので、Bi-Fcの結合は、単独では、細胞表面上でBi-Fcが結合するタンパク質をオリゴマー化しない。例えば、Bi-FcがT細胞表面上のCD3に結合するならば、CD3は、標的細胞の非存在下ではT細胞表面上でオリゴマー化しない。CD3のオリゴマー化は、T細胞の全般的活性化またはT細胞上のCD3の下方調節を引き起こし得、これは望ましくない場合がある。Bi-Fcは、免疫エフェクター細胞を標的細胞に係留することによって、全般的炎症応答ではなく標的細胞に対する特異的細胞溶解活性を誘発する。さらに、Bi-Fc分子は、好都合な薬物動態特性を有し、1つのみのポリペプチド鎖、または2つのみの異なるポリペプチド鎖を含有するので、製造するのは過度に複雑ではない。
【0021】
定義
本明細書において意味される「抗体」は、少なくとも1つのVH領域またはVL領域を、多くの場合、重鎖可変領域および軽鎖可変領域の両方を含有する、タンパク質である。したがって、「抗体」という用語は、単鎖Fv抗体(scFv、リンカーによって連結されたVHおよびVL領域を含有する)、Fab、F(ab)
2'、Fab'、scFv:Fc抗体(Carayannopoulos and Capra, Ch. 9 in FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY, 3
rd ed., Paul, ed., Raven Press, New York, 1993, pp. 284-286に記載されている)、または哺乳類に見られる天然IgG抗体などの2つの完全長重鎖および2つの完全長軽鎖を含有する完全長抗体を含む、多様な構成を有する分子を包含する。同上。そのようなIgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4アイソタイプであることができ、ヒト抗体またはヒト化抗体であることができる。抗体の構造を記載しているCarayannopoulosおよびCapraの部分は、参照により本明細書に組み入れられる。さらに、「抗体」という用語には、ラクダおよび他のヒトコブラクダ種ならびにサメに見られる天然抗体のような、2つの重鎖を含有し軽鎖を含有しない二量体性抗体が含まれる。例えばMuldermans et al., 2001, J. Biotechnol. 74:277-302; Desmyter et al., 2001, J. Biol. Chem. 276:26285-90; Streltsov et al. (2005), Protein Science 14: 2901-2909を参照されたい。抗体は、「単一特異性」(すなわち、1種の抗原だけに結合する)、「二重特異性」(すなわち、2種の異なる抗原に結合する)、または「多重特異性」(すなわち、2種以上の異なる抗原に結合する)であることができる。さらに抗体は、一価、二価、または多価であることができ、これは、一度にそれぞれ1つ、2つ、または複数の抗原分子に結合できることを意味する。抗体が異なる1つのタンパク質にも同様に結合し得るものの、抗体1分子がタンパク質1分子のみに結合する場合、その抗体は、特定のタンパク質に「一価的」に結合する。すなわち、抗体が各タンパク質のうち1つの分子のみに結合する場合、その抗体は、2つの異なるタンパク質に、本明細書が意味する「一価的」に結合する。そのような抗体は「二重特異性」であり、2種の異なるタンパク質のそれぞれに「一価的」に結合する。抗体は、「単量体性」であることができ、すなわち単一のポリペプチド鎖を含むことができる。抗体は、複数のポリペプチド鎖を含む(「多量体性」)ことができ、または2つ(「二量体性」)、3つ(「三量体性」)、もしくは4つ(「四量体性」)のポリペプチド鎖を含むことができる。多量体性であるならば、抗体はホモ多量体であることができ、すなわち1種のみのポリペプチド鎖からなる2つ以上の分子を含有することができ、これは、ホモ二量体、ホモ三量体、またはホモ四量体を含む。あるいは、多量体性抗体は、ヘテロ多量体であることができ、すなわち異なる2種以上のポリペプチド鎖を含有することができ、これは、ヘテロ二量体、ヘテロ三量体、またはヘテロ四量体を含む。抗体は、多様な可能な構成を有し得、これは例えば、数ある可能な抗体構成の中でもとりわけ、それらが結合する分子を阻害または活性化し得る単一特異性一価性抗体(関連部分が参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第2009/089004号および米国特許出願公開第2007/0105199号に記載)、二価単一特異性または二重特異性二量体性Fv-Fc、scFv-Fc、またはダイアボディーFc(diabody Fc)、米国特許出願公開第2009/0311253号に記載された単一特異性一価scFv-Fc/Fc'、多重特異性結合タンパク質および二重可変ドメイン免疫グロブリン(それらの関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる)、本明細書記載のヘテロ二量体性二重特異性抗体、ならびにBISPECIFIC ANTIBODIES, Kontermann, ed., Springer, 2011の1、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14章(これらの章は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載された二重特異性抗体についての多数の構成を含む。
【0022】
本明細書において意味される「Bi-Fc」は、第1のポリペプチド鎖および任意で第2のポリペプチド鎖を含む。多数の態様では、Bi-Fcは、第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖の両方を含む。いくつかの態様では、Bi-Fcは、第1のポリペプチド鎖のみを含む単量体である。第1のポリペプチド鎖は、リンカーによって隔てられ得る2つのVH領域および2つのVL領域ならびにFcポリペプチド鎖を含む。Fcポリペプチド鎖は、4つの免疫グロブリン可変領域に対してN末端側またはC末端側であることができ、Fcポリペプチド鎖はリンカーを介して可変領域に連結することができる。このリンカーは存在してもよいし、または存在しなくてもよい。第2のポリペプチド鎖は、存在するならば、Fcポリペプチド鎖を含む。したがって、Bi-Fcは、単量体またはヘテロ二量体であることができる。Bi-Fcは、エフェクター細胞タンパク質を介して免疫エフェクター細胞に、ならびに標的細胞タンパク質を介して標的細胞に結合することができ、免疫エフェクター細胞による標的細胞の細胞溶解を媒介できる。
【0023】
単量体性Fcポリペプチドは、米国特許出願公開第2012/244578号に詳細に記載されており、それらの関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。単量体性Bi-Fcは、天然Fcポリペプチド鎖よりも単量体としてより安定な改変Fcポリペプチド鎖を含むことができる。簡潔には、そのような単量体は、以下の改変:(1)K409D、K409E、R409D、またはR409E;(2)K392D、K392E、N392DまたはN392E;および(3)F405TまたはY349Tを含む改変ヒトIgG Fcポリペプチドを含むことができる。代替の態様では、位置409および392は改変されず、例えばD399K、D399R、E356K、E356R、D356K、および/またはD356Rを含む、下記「ヘテロ二量体化改変」の定義に記載された1つまたは複数の改変を含むことができる他の改変が存在する。そのような「ヘテロ二量体化改変」は、下記および米国特許第8,592,562号に記載されており、それらの関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。Fcポリペプチド鎖内のアミノ酸の改変は、以下のように表示される。通常、所与の位置に存在するアミノ酸は、一文字コードで示され、それにEUナンバリングに従って番号付けされた位置が続き(下の表2に示す)、それに通常存在するアミノ酸を置換するアミノ酸が続く。例えば、呼称「N297G」は、位置297に通常存在するアスパラギンがグリシンに交換されたことを意味する。さらに、単量体性Bi-FcのFcポリペプチド鎖部分は、ヒンジ領域(下の表2に関連して定義された)を欠如する場合があり、またはそのヒンジ領域中のシステイン残基が欠失もしくは改変されている場合がある。
【0024】
本明細書において意味される「がん細胞抗原」は、がん細胞の表面上に発現されたタンパク質である。いくつかのがん細胞抗原は、いくつかの正常細胞上にも発現され、いくつかはがん細胞に特異的である。がん細胞抗原は、がん細胞表面に高度に発現され得る。多種多様ながん細胞抗原がある。がん細胞抗原の例には、数ある中でもとりわけ以下のヒトタンパク質:上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII(突然変異型EGFR)、黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、メソテリン(MSLN)、葉酸受容体1(FOLR1)、CD33、CDH19、およびヒト上皮成長因子2(HER2)が非限定的に含まれる。
【0025】
本明細書に使用される「化学療法」は、がん細胞に対して細胞傷害効果または細胞増殖抑制効果を有する「化学療法剤」を用いたがん患者の処置を意味する。「化学療法剤」は、細胞分裂に関与していない細胞ではなく、細胞分裂に関与している細胞を特異的に標的とする。化学療法剤は、例えばDNA複製、RNA合成、タンパク質合成、紡錘体の集合、分散、もしくは機能のような、細胞分裂に密接に結び付いている過程、および/またはヌクレオチドもしくはアミノ酸のような、これらの過程に役割を果たす分子の合成もしくは安定性を直接妨害する。したがって化学療法剤は、がん細胞および細胞分裂に関与している他の細胞の両方に対して細胞傷害効果または細胞増殖抑制効果を有する。化学療法剤は、当技術分野において周知であり、それらには、当技術分野において公知の多数のものの中でもとりわけ、例えば:アルキル化剤(例えばブスルファン、テモゾロミド、シクロホスファミド、ロムスチン(CCNU)、メチルロムスチン、ストレプトゾトシン、cis-ジアンミンジクロロ白金、アジリジニルベンゾキノン、およびチオテパ);無機イオン(例えばシスプラチンおよびカルボプラチン);ナイトロジェンマスタード(例えばメルファラン塩酸塩、イホスファミド、クロラムブシル、およびメクロレタミンHCl);ニトロソウレア(例えばカルムスチン(BCNU));抗腫瘍性抗生物質(例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)、ダウノマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、およびブレオマイシン);植物性誘導体(例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンデシン、VP-16、およびVM-26);代謝拮抗物質(例えばロイコボリン併用または非併用のメトトレキサート、ロイコボリン併用または非併用の5-フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウリジン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-アザシチジン、ヒドロキシウレア、デオキシコホルマイシン、ゲムシタビン、およびフルダラビン);ポドフィロトキシン(例えばエトポシド、イリノテカン、およびトポテカン);ならびにアクチノマイシンD、ダカルバジン(DTIC)、mAMSA、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、ペンタメチルメラミン、L-アスパラギナーゼ、およびミトキサントロンが含まれる。例えば、関連部分が参照により本明細書に組み入れられるCancer: Principles and Practice of Oncology, 4
th Edition, DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Co., Philadelphia, PA (1993)を参照されたい。アルキル化剤およびナイトロジェンマスタードは、DNAをアルキル化することによって作用し、それが鎖の巻き戻し(uncoiling)および複製を制限する。メトトレキサート、シタラビン、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、およびゲムシタビンは、ヌクレオチドの合成を妨害する。パクリタキセルおよびビンブラスチンのような植物性誘導体は紡錘体毒である。ポドフィロトキシンはトポイソメラーゼを阻害することでDNA複製を妨害する。抗生物質であるドキソルビシン、ブレオマイシン、およびマイトマイシンは、それぞれDNAの塩基の間にインターカレートする(巻き戻しを阻害する)こと、鎖切断を引き起こすこと、およびDNAをアルキル化することによって、DNA合成を妨害する。他の作用機序には、アミノ酸のカルバモイル化(ロムスチン、カルムスチン)、およびアスパラギンプールの枯渇(アスパラギナーゼ)が含まれる。Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 17
th Edition, Section 11, Hematology and Oncology, 144. Principles of Cancer Therapy, Table 144-2 (1999)。化学療法剤の中に具体的に含まれるのは、上掲の化学療法剤によって直接影響されるのと同じ細胞過程に直接影響する化学療法剤である。
【0026】
薬物または処置は、Bi-Fcと同じ大まかな時間枠内で、任意で継続的に施されるならば、Bi-Fcと「同時に」施されることになる。例えば、患者が薬物Aを1週間に1回継続的に、およびBi-Fcを6ヶ月に1回継続的に摂取するならば、薬物AおよびBi-Fcが同じ日に投与されようとなかろうと、それらは同時に投与されることになる。同様に、Bi-Fcが1週間に1回継続的に摂取され、薬物Aが1日に1回または数回だけ投与されるならば、薬物AおよびBi-Fcは、本明細書に意味されるところでは、同時に投与される。同様に、薬物AおよびBi-Fcの両方が、1ヶ月以内に1回または複数回のいずれかで短期間投与されるならば、両方の薬物が同じ月内に投与される限り、それらは本明細書に意味されるところでは、同時に投与される。
【0027】
本明細書において意味される「保存的アミノ酸置換」は、類似の特性を有する別のアミノ酸によるアミノ酸の置換である。考慮される特性には、電荷および疎水性のような化学特性が含まれる。下の表1に、本明細書において意味される保存的置換であると見なされる、各アミノ酸についての置換を挙げる。
【0029】
本明細書において意味される「Fc領域」は、1つまたは複数のジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチド鎖からなる二量体であって、各鎖が、ヒンジドメインの一部または全部に加えてCH2およびCH3ドメインを含む、二量体である。各ポリペプチド鎖は、「Fcポリペプチド鎖」と呼ばれる。いくつかの態様では、特に、単量体性Bi-FcのようにFcポリペプチド鎖が単量体性であると意図される場合、「Fcポリペプチド鎖」はヒンジ領域を欠如し得る。Fc領域中の2つのFcポリペプチド鎖を区別するために、場合により一方は本明細書において「A鎖」と呼ばれ、もう一方は「B鎖」と呼ばれる。より具体的には、本発明を用いた使用のために企図されているFc領域(または単量体性Bi-Fc中のFcポリペプチド鎖)は、IgG Fc領域(またはFcポリペプチド鎖)であり、それは、哺乳類、例えばヒトのIgG1 Fc領域、IgG2 Fc領域、IgG3 Fc領域、またはIgG4 Fc領域であることができる。ヒトIgG1 Fc領域の中で、少なくとも2種の対立遺伝子型が公知である。他の態様では、2つのFcポリペプチド鎖のアミノ酸配列は、哺乳類Fcポリペプチドのアミノ酸配列の配列に比べてアミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失により、哺乳類Fcポリペプチドのアミノ酸配列から変異していることができる。いくつかの態様では、そのような変異は、ホモ二量体よりもヘテロ二量体の形成を促進し、かつ/もしくはホモ二量体の形成を阻害する「ヘテロ二量体化改変」、半減期を延長するFc改変、Fcγ受容体(FcγR)の結合を阻害する改変、および/またはADCCを増強する改変であることができる。
【0030】
本明細書において意味される「半減期を延長するFc改変」は、改変を含有しないこと以外は同じであるFcポリペプチドを含有する類似タンパク質の半減期に比べて、改変されたFcポリペプチド鎖を含有するタンパク質のインビボ半減期を延長する、Fcポリペプチド鎖内の改変である。そのような改変は、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖中に含まれることができる。改変M252Y、S254T、およびT256E(位置252のメチオニンがチロシンに変化;位置254のセリンがトレオニンに変化;位置256のトレオニンがグルタミン酸に変化;表2に示すようにEUナンバリングにより番号付け)は、半減期を延長するFc改変であり、一緒に、別々に、または任意の組み合わせで使用することができる。これらの改変および他のいくつかは、米国特許第7,083,784号に詳細に記載されている。そのような改変を記載している米国特許第7,083,784号の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。同様に、M428LおよびN434Sは、半減期を延長するFc改変であり、一緒に、別々に、または任意の組み合わせで使用することができる。これらの改変および他のいくつかは、米国特許出願公開第2010/0234575号および米国特許第7,670,600号に詳細に記載されている。そのような改変を記載している米国特許出願公開第2010/0234575号および米国特許第7,670,600号の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。加えて以下の部位:250、251、252、259、307、308、332、378、380、428、430、434、436のうちの1つにおける任意の置換は、本明細書において意味される、半減期を延長するFc改変と見なすことができる。これらの各改変またはこれらの改変の組み合わせは、本明細書記載のヘテロ二量体性または単量体性Bi-Fc抗体の半減期を延長するために使用することができる。半減期を延長するために使用することができる他の改変は、2012年12月17日に出願された国際出願であるPCT/US2012/070146(国際公開公報第2013/096221号として公開)に詳細に記載されている。そのような改変を記載しているこの出願の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。この出願に記載されているいくつかの具体的な態様には、とりわけ、以下のアミノ酸配列:

を含む、位置384と385との間の半減期を延長する挿入部(表2に示すようなEUナンバリング)が含まれる。そのような挿入部を含有するヘテロ二量体性または単量体性Bi-Fc抗体が企図されている。
【0031】
「ホモ二量体形成に不利なFc改変」には、Fcポリペプチド鎖が野生型Fcポリペプチド鎖と比較して、低下したホモ二量体形成能を有するような、Fcポリペプチド鎖中の任意の改変が含まれる。そのような改変は、米国特許出願公開第2012/0244578号に詳細に記載されている。そのような改変を記載しているこの出願の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。そのような改変の例には、非限定的に、個別にまたは任意の組み合わせで使用することができる以下のものが含まれる:R409D、R409E、D399K、D399R、N392D、N392E、K392D、K392E、K439D、K439E、D356K、D356R、E356K、E356R、K370D、K370E、E357K、およびE357R。そのような改変は、特にBi-Fcが単量体である態様において、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖中に含まれることができる。いくつかの態様では、そのような改変は、Fcポリペプチド鎖のCH3領域中に存在し、野生型アミノ酸配列中の1つもしくは複数の荷電アミノ酸が、CH3ホモ二量体形成に静電的に不利なアミノ酸により置き換えられており、かつ/または1つもしくは複数の疎水性界面残基が、例えば、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、もしくはトレオニンのような小型極性アミノ酸により置き換えられているような改変を含む。より具体的には、例えば、荷電アミノ酸、例えば、位置392および/または位置409のリシンは、中性または反対に荷電しているアミノ酸、例えばアスパラギン酸またはグルタミン酸により置き換えることができる。これは、Fcポリペプチド鎖内の任意の他の荷電アミノ酸でも生じることができる。代替的または追加的に、Y349、L351、L368、V397、L398、F405、およびY407からなる群より選択される1つまたは複数の疎水性界面残基は、小型極性アミノ酸により置き換えられることができる。さらに、Fcポリペプチド鎖は、ジスルフィド結合形成を防止するために1つまたは複数の突然変異させたシステイン残基を有することができる。これに関して特に有用なシステイン突然変異は、Fcポリペプチド鎖のヒンジ領域中の突然変異である。そのようなシステインは、欠失させることができ、または他のアミノ酸により置換することができる。単量体性Bi-Fcについて、ヒンジ領域は全く存在しなくてもよい。
【0032】
「ヘテロ二量体化改変」は、一般に、ヘテロ二量体性Fc領域の形成、すなわちFc領域のA鎖およびB鎖が同一のアミノ酸配列を有さないFc領域の形成を促進する、Fc領域のA鎖およびB鎖における改変を表す。そのような改変は、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖内に含まれることができる。ヘテロ二量体化改変は、非対称性であり得、すなわち、ある改変を有するA鎖は、異なる改変を有するB鎖と対形成することができる。これらの改変は、ヘテロ二量体化を促進し、ホモ二量体化に不利に作用する。ヘテロ二量体またはホモ二量体が形成したかどうかは、状況によりポリアクリルアミドゲル電気泳動によって決定されるようなサイズの差によって、またはサイズが顕著な特徴ではない状況では他の適切な手段(例えば、分子タグまたはヘテロ二量体のある部分を認識する抗体による結合)によって評価することができる。そのような対形成するヘテロ二量体化改変の一例は、いわゆる「ノブ(knob)およびホール(hole)」置換である。そのような突然変異を記載している部分が参照により本明細書に組み入れられる、例えば、米国特許第7,695,936号および米国特許出願公開第2003/0078385号を参照されたい。本明細書において意味されるように、1対のノブおよびホール置換を含有するFc領域は、A鎖に1つの置換を含有し、B鎖に別の置換を含有する。例えば、以下のIgG1 Fc領域のAおよびB鎖におけるノブおよびホール置換は、未改変のAおよびB鎖で見られるものと比べてヘテロ二量体形成を増大させることが見出された:1)一方の鎖にY407Tおよびもう一方にT366Y;2)一方の鎖にY407Aおよびもう一方にT366W;3)一方の鎖にF405Aおよびもう一方にT394W;4)一方の鎖にF405Wおよびもう一方にT394S;5)一方の鎖にY407Tおよびもう一方にT366Y;6)一方の鎖にT366YおよびF405Aならびにもう一方にT394WおよびY407T;7)一方の鎖にT366WおよびF405Wならびにもう一方にT394SおよびY407A;8)一方の鎖にF405WおよびY407Aならびにもう一方にT366WおよびT394S;ならびに9)Fcの一方のポリペプチドにT366Wならびにもう一方にT366S、L368A、およびY407V。上に説明されたように、この突然変異表記方法は、以下のように説明することができる。EUナンバリングシステム(これは、Edelman et al. (1969), Proc. Natl. Acad. Sci. 63: 78-85に発表されている;下の表2も参照)を用いて、CH3領域中の所与の位置に通常存在するアミノ酸(一文字コードを使用)にEU位置が続き、これにその位置に存在する代替のアミノ酸が続く。例えば、Y407Tは、通常、EU位置407に存在するチロシンがトレオニンによって置き換えられていることを意味する。代替的にまたはそのような改変に加えて、新たなジスルフィド架橋を生み出す置換がヘテロ二量体の形成を促進することができる。そのような突然変異を記載している部分が参照により本明細書に組み入れられる、例えば、米国特許出願公開第2003/0078385号を参照されたい。IgG1 Fc領域におけるそのような改変には、例えば、以下の置換:一方のFcポリペプチド鎖にY349Cもう一方にS354C;一方のFcポリペプチド鎖にY349Cおよびもう一方にE356C;一方のFcポリペプチド鎖にY349Cおよびもう一方にE357C;一方のFcポリペプチド鎖にL351Cおよびもう一方にS354C;一方のFcポリペプチド鎖にT394Cおよびもう一方にE397C;または一方のFcポリペプチド鎖にD399Cおよびもう一方にK392C、が含まれる。同様に、例えばC
H3-C
H3界面における、1つまたは複数の残基の荷電を変更する置換は、国際公開公報第2009/089004号に説明されているようにヘテロ二量体の形成を増強することができ、そのような置換を記載している該公報の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。そのような置換は、本明細書において「電荷対置換」と呼ばれ、1対の電荷対置換を含有するFc領域は、A鎖中の1つの置換およびB鎖中の別の置換を含有する。電荷対置換の全般的な例には、以下:1)一方の鎖中のK409DまたはK409Eに加えてもう一方におけるD399KまたはD399R;2)一方の鎖中のK392DまたはK392Eに加えてもう一方におけるD399KまたはD399R;3)一方の鎖中のK439DまたはK439Eに加えてもう一方におけるE356KまたはE356R;および4)一方の鎖中のK370DまたはK370Eに加えてもう一方におけるE357KまたはE357Rが含まれる。加えて、両方の鎖中の置換R355D、R355E、K360D、またはK360Rは、他のヘテロ二量体化改変と共に使用される場合にヘテロ二量体を安定化することができる。特定の電荷対置換は、単独でまたは他の電荷対置換と一緒に使用することができる。単一対の電荷対置換およびその組み合わせの具体例には、以下:1)一方の鎖中のK409Eに加えてもう一方におけるD399K;2)一方の鎖中のK409Eに加えてもう一方におけるD399R;3)一方の鎖中のK409Dに加えてもう一方におけるD399K;4)一方の鎖中のK409Dに加えてもう一方におけるD399R;5)一方の鎖中のK392Eに加えてもう一方におけるD399R;6)一方の鎖中のK392Eに加えてもう一方におけるD399K;7)一方の鎖中のK392Dに加えてもう一方におけるD399R;8)一方の鎖中のK392Dに加えてもう一方におけるD399K;9)一方の鎖中のK409DおよびK360Dに加えてもう一方におけるD399KおよびE356K;10)一方の鎖中のK409DおよびK370Dに加えてもう一方におけるD399KおよびE357K;11)一方の鎖中のK409DおよびK392Dに加えてもう一方におけるD399K、E356K、およびE357K;12)一方の鎖中のK409DおよびK392Dならびにもう一方におけるD399K;13)一方の鎖中のK409DおよびK392Dに加えてもう一方におけるD399KおよびE356K;14)一方の鎖中のK409DおよびK392Dに加えてもう一方におけるD399KおよびD357K;15)一方の鎖中のK409DおよびK370Dに加えてもう一方におけるD399KおよびD357K;16)一方の鎖中のD399Kに加えてもう一方におけるK409DおよびK360D;ならびに17)一方の鎖中のK409DおよびK439Dに加えてもう一方におけるD399KおよびE356Kが含まれる。これらのヘテロ二量体化改変のいずれかを、本明細書記載のヘテロ二量体性二重特異性抗体のFc領域に使用することができる。
【0033】
本明細書において意味される「FcγRの結合を阻害する改変」は、例えばALPHALISA(登録商標)に基づく競合結合アッセイ(PerkinElmer, Waltham, MA)によって測定されるようなFcγRIIA、FcγRIIB、および/またはFcγRIIIAの結合を阻害する、Fcポリペプチド鎖内の1つまたは複数の挿入、欠失、または置換である。そのような改変は、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖内に含まれることができる。より具体的には、Fcγ受容体(FcγR)の結合を阻害する改変には、L234A、L235A、またはN297における任意の置換を含む、N297におけるグリコシル化を阻害する任意の改変が含まれる。加えて、N297におけるグリコシル化を阻害する改変以外に、追加的なジスルフィド架橋を生み出すことによって二量体性Fc領域を安定化する追加的な改変も企図されている。FcγRの結合を阻害する改変のさらなる例には、一方のFcポリペプチド鎖中のD265A改変およびもう一方のFcポリペプチド鎖中のA327Q改変が含まれる。いくつかのそのような突然変異は、例えば、Xu et al. (2000), Cellular Immunol. 200: 16-26に記載されており、そのような突然変異およびそれらの活性がどのように評価されるかが記載されているこの文献の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0034】
本明細書において意味される「ADCCを増強する改変」は、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)を増強するFcポリペプチド鎖内の1つまたは複数の挿入、欠失、または置換である。そのような改変は、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖中に含まれることができる。多数のそのような改変が、国際公開公報第2012/125850号に記載されている。そのような改変を記載しているこの出願の部分は、参照により本明細書に組み入れられる。そのような改変は、本明細書記載のヘテロ二量体性二重特異性抗体の一部であるFcポリペプチド鎖中に含まれることができる。ADCCアッセイは、以下のように行うことができる。細胞表面上に、高い量およびより低い量のがん細胞抗原を発現する細胞系を標的細胞として使用することができる。これらの標的細胞を、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識し、次にリン酸緩衝食塩水(PBS)で1回洗浄し、その後、V形状のウェルを有する96ウェルマイクロタイタープレート中に入れることができる。精製された免疫エフェクター細胞、例えばT細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球を、各ウェルに添加することができる。がん抗原に結合し、かつ被験改変を含有する単一特異性抗体、およびアイソタイプが一致する対照抗体を1:3系列で希釈してウェルに添加することができる。細胞を、5% CO
2で3.5時間、37℃でインキュベートすることができる。細胞を遠心沈殿し、それを、死細胞を染色する色素TO-PRO(登録商標)-3ヨウ化物(Molecular Probes, Inc. Corporation, Oregon, USA)を含む1×FACS緩衝液(0.5%ウシ胎児血清(FBS)を含有する1×リン酸緩衝食塩水(PBS))中に再懸濁し、その後、蛍光標示式細胞分取(FACS)によって分析することができる。次式を用いて細胞死滅率を計算することができる:
(二重特異性の存在下の腫瘍細胞の溶解率−二重特異性の非存在下の腫瘍細胞の溶解率)/
(総細胞溶解率−二重特異性の非存在下の腫瘍細胞の溶解率)
総細胞溶解は、エフェクター細胞および標識された標的細胞を含有する試料を二重特異性分子非存在下で80%冷メタノールを用いて溶解することによって決定される。ADCCを増強する例示的な改変には、Fc領域のAおよびB鎖中の以下の改変が含まれる:(a)A鎖がQ311MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、E294L、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(b)A鎖がE233L、Q311M、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、E294L、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(c)A鎖がL234I、Q311M、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、E294L、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(d)A鎖がS298TおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(e)A鎖がA330MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(f)A鎖がA330FおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(g)A鎖がQ311M、A330M、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、E294L、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(h)A鎖がQ311M、A330F、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、E294L、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(i)A鎖がS298T、A330M、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(j)A鎖がS298T、A330F、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(k)A鎖がS239D、A330M、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(l)A鎖がS239D、S298T、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(m)A鎖がK334V置換を含み、かつB鎖がY296WおよびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(n)A鎖がK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、Y296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(o)A鎖がL235S、S239D、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(p)A鎖がL235S、S239D、およびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、Y296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(q)A鎖がQ311MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、F243V、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(r)A鎖がQ311MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(s)A鎖がS239DおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(t)A鎖がS239DおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、Y296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(u)A鎖がF243VおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(v)A鎖がF243VおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、Y296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(w)A鎖がE294LおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、K290Y、およびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;(x)A鎖がE294LおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234Y、Y296W、およびS298C置換を含むか、もしくはその逆である;(y)A鎖がA330MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がL234YおよびY296W置換を含むか、もしくはその逆である;または(z)A鎖がA330MおよびK334V置換を含み、かつB鎖がK290YおよびY296W置換を含むか、もしくはその逆である。
【0035】
本明細書において意味される「IgG抗体」は、本質的に、2つの免疫グロブリンIgG重鎖、およびκまたはλ軽鎖であり得る2つの免疫グロブリン軽鎖からなる抗体である。より具体的には、重鎖は、VH領域、CH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域をこの順序で含有し、一方で軽鎖は、VL領域に続いてCL領域を含有する。そのような免疫グロブリン領域の多数の配列が、当技術分野において公知である。例えば、Kabat et al. in SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, Public Health Service N.I.H., Bethesda, MD, 1991を参照されたい。Kabatらに開示されたIgG抗体由来領域の配列は、参照により本明細書に組み入れられる。免疫グロブリンIgG重鎖および/または軽鎖の公知または天然の配列に比べて、アミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含む、公知および/または天然のIgG抗体の近縁変異体は、IgG抗体によって意味されるものに包含される。
【0036】
本明細書において意味される「免疫エフェクター細胞」は、例えば、T細胞、NK細胞、マクロファージ、または好中球を含む細胞溶解性免疫応答の媒介に関与する細胞である。本明細書記載のヘテロ二量体性または単量体性Bi-Fc抗体は、免疫エフェクター細胞の表面上に発現されるタンパク質の一部である抗原に結合する。そのようなタンパク質は、本明細書において「エフェクター細胞タンパク質」と呼ばれる。
【0037】
本明細書において意味される「免疫グロブリン重鎖」は、本質的に、VH領域、CH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、CH3領域(この順序で)、およびいくつかのアイソタイプにおいて任意で、CH3領域下流の領域からなる。公知または天然の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列に比べて、アミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含有する、免疫グロブリン重鎖の近縁変異体は、免疫グロブリン重鎖によって意味されるものに包含される。
【0038】
本明細書において意味される「免疫グロブリン軽鎖」は、本質的に、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)からなる。公知または天然の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列に比べて、アミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含有する、免疫グロブリン軽鎖の近縁変異体は、免疫グロブリン軽鎖によって意味されるものに包含される。
【0039】
本明細書において意味される「免疫グロブリン可変領域」は、VH領域、VL領域、またはそれらの変異体である。公知または天然の免疫グロブリン可変領域アミノ酸配列に比べて、アミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含有する、免疫グロブリン可変領域の近縁変異体は、免疫グロブリン可変領域によって意味されるものに包含される。例えばKabat et al. in SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, Public Health Service N.I.H., Bethesda, MD, 1991に開示されたもののような、VHおよびVL領域の多数の例が当技術分野において公知である。可変性がより小さなVHおよびVL領域の部分における広範な配列共通性、可変性がより大きな領域の配列内の位置、ならびに予測される三次構造に基づき、当業者は、その配列により免疫グロブリン可変領域を認識することができる。例えば、Honegger and Plueckthun (2001), J. Mol. Biol. 309: 657-670を参照されたい。
【0040】
免疫グロブリン可変領域は、相補性決定領域 1(CDR1)、相補性決定領域2(CDR2)、および相補性決定領域3(CDR3)として公知の3つの超可変領域を含有する。これらの領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。CDRは、可変性がより小さなフレームワーク領域(FR1〜FR4)内に埋め込まれている。免疫グロブリン可変領域内のこれらの小領域の順序は以下の通りである:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。免疫グロブリン可変領域の多数の配列は、当技術分野において公知である。例えば、Kabat et al., SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, Public Health Service N.I.H., Bethesda, MD, 1991を参照されたい。
【0041】
CDRは、以下の方法でVH領域配列中に位置づけることができる。CDR1は、成熟VH領域のおよそ残基31番から始まり、通常は約5〜7アミノ酸長であり、CDR1には、ほぼ常にCys-Xxx-Xxx-Xxx-Xxx-Xxx-Xxx-Xxx-Xxx(SEQ ID NO:1)[式中、「Xxx」は任意のアミノ酸である]が先行する。重鎖CDR1に続く残基は、ほぼ常にトリプトファンであり、多くの場合にTrp-Val、Trp-Ile、またはTrp-Alaである。ほぼ常にアミノ酸14個が、CDR1における最終残基とCDR2における最初の残基との間にあり、CDR2は、典型的にはアミノ酸16〜19個を含有する。CDR2の直前にLeu-Glu-Trp-Ile-Gly(SEQ ID NO:2)がある場合があり、直後にLys/Arg-Leu/Ile/Val/Phe/Thr/Ala-Thr/Ser/Ile/Alaがある場合がある。他のアミノ酸がCDR2に先行または後続し得る。ほぼ常に、CDR2中の最終残基とCDR3中の最初の残基との間にアミノ酸32個があり、CDR3は、約3〜25残基長であることができる。Cys-Xxx-Xxxは、ほぼ常にCDR3の直前にあり、Trp-Gly-Xxx-Gly(SEQ ID NO:3)は、ほぼ常にCDR3に後続する。
【0042】
軽鎖CDRは、以下の方法でVL領域配列中に位置づけることができる。CDR1は、成熟抗体のおよそ残基24番から始まり、通常は約10〜17アミノ酸長である。CDR1にはほぼ常にCysが先行する。ほぼ常にアミノ酸15個が、CDR1の最終残基とCDR2の最初の残基との間にあり、CDR2は、ほぼ常に7残基長である。CDR2には、典型的にはIle-Tyr、Val-Tyr、Ile-Lys、またはIle-Pheが先行する。ほぼ常に、CDR2とCDR3との間に32残基があり、CDR3は通常、約7〜10アミノ酸長である。CDR3には、ほぼ常にCysが先行し、通常はPhe-Gly-Xxx-Gly(SEQ ID NO:4)が後続する。
【0043】
本明細書において意味される「リンカー」は、Bi-Fc抗体に関連して2つの免疫グロブリン可変領域、または可変領域およびFcポリペプチド鎖であり得る、2つのポリペプチドを連結するペプチドである。リンカーは、2〜30または2〜40アミノ酸長であることができる。いくつかの態様では、リンカーは、2〜25、2〜20、または3〜18アミノ酸長であることができる。いくつかの態様では、リンカーは、14、13、12、11、10、9、8、7、6、または5アミノ酸長以下のペプチドであることができる。他の態様では、リンカーは、5〜25、5〜15、4〜11、10〜20、20〜30、または30〜40アミノ酸長であることができる。他の態様では、リンカーは、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30アミノ酸長であることができる。例示的なリンカーには、例えば、数ある中でもとりわけ、アミノ酸配列
が含まれる。
【0044】
下記の「標的細胞の細胞溶解アッセイ」という標題の節および実施例3に記載の、細胞の細胞溶解アッセイ物への0.001pM〜20000pMの量のBi-Fcの添加が、標的細胞の細胞溶解を効果的に誘発するとき、Bi-Fcは、本明細書において意味されるところでは「免疫エフェクター細胞による標的細胞の細胞溶解を媒介する」。
【0045】
「非化学療法的抗腫瘍剤」は、化学療法剤以外の、がん細胞に対して細胞傷害効果または細胞増殖抑制性効果を有する化学薬剤、化合物、または分子である。しかし、非化学療法的抗腫瘍剤は、ホルモンまたは成長因子に対する受容体を含む細胞表面受容体のような、細胞分裂に間接的に影響する分子と直接相互作用することを標的とし得る。しかし、非化学療法的抗腫瘍剤は、例えばDNA複製、RNA合成、タンパク質合成、または紡錘体の機能、集合、もしくは分散のような、細胞分裂に密接に結び付いている過程を直接には妨害しない。非化学療法的抗腫瘍剤の例には、数ある可能な非化学療法的抗腫瘍剤の中でもとりわけ、Bcl2阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、タモキシフェンのような抗エストロゲン剤、抗アンドロゲン化合物、インターフェロン、ヒ素、レチノイン酸、レチノイン酸誘導体、腫瘍特異抗原を標的とした抗体、およびBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、Novartis(New York and New Jersey, USA and Basel, Switzerland)によって商品名GLEEVEC(商標)で販売されている小分子STI-571)が含まれる。
【0046】
1つのアミノ酸配列または核酸配列と別の配列との「同一率」は、コンピュータープログラムを用いて決定することができる。例示的なコンピュータープログラムは、Genetics Computer Group(GCG; Madison, WI)のWisconsin packageバージョン10.0プログラム、GAP(Devereux et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12: 387-95)である。GAPプログラムについての好ましいデフォルトのパラメーターには:(1)Atlas of Polypeptide Sequence and Structure, Schwartz and Dayhoff, eds., National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)に記載の、ヌクレオチドについての単項比較行列(同一に対して1および非同一に対して0の値を含有)ならびにGribskovおよびBurgessの重み付きアミノ酸比較行列((1986) Nucleic Acids Res. 14: 6745)、または他の同等な比較行列のGCG実装;(2)アミノ酸配列について各ギャップに対してペナルティー8および各ギャップ中の各記号に対して追加的なペナルティー2、またはヌクレオチド配列について各ギャップに対してペナルティー50および各ギャップ中の各記号に対して追加的なペナルティー3;(3)末端ギャップに対してペナルティーなし;ならびに(4)長いギャップに対して最大ペナルティーなしが含まれる。当業者によって使用される他の配列比較プログラムも使用することができる。
【0047】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列同一性を決定するための比較に関連して、「同一性領域」は、下記パラメーターを使用するコンピュータープログラムGAP(Devereux et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12: 387-95)により別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと部分的にまたは正確に一致するポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の部分である。例えば、アミノ酸20個のポリペプチドがそれよりもかなり長いタンパク質とアライメントされ、最初のアミノ酸10個が前記のより長いタンパク質と正確に一致し、最後のアミノ酸10個が前記のより長いタンパク質と全く一致しない場合、同一性領域はアミノ酸10個である。他方で、アミノ酸20個のポリペプチドの最初のアミノ酸および最後のアミノ酸が前記のより長いタンパク質と一致し、他の8個の一致が間に点在しているならば、同一性領域は20アミノ酸長である。しかし、少なくとも例えばアミノ酸20個またはヌクレオチド60個の、同一のアミノ酸もしくは保存的に置換されたアミノ酸または同一のヌクレオチドを有さない、アライメントされるいずれかのストランドにおける長い区間が、本明細書において意味される同一性領域の終点を構成する。
【0048】
「標的細胞」は、Bi-Fcが結合する細胞であり、疾患の媒介に関与する細胞である。場合により、標的細胞は、通例、免疫応答の媒介に関与するが、疾患の媒介にも関与する細胞であることができる。例えばB細胞リンパ腫において、通例、免疫応答の媒介に関与するB細胞は、標的細胞であることができる。いくつかの態様では、標的細胞は、がん細胞、病原体に感染している細胞、または自己免疫疾患もしくは炎症性疾患、例えば線維性疾患の媒介に関与する細胞である。Bi-Fcは、標的細胞の表面上に提示されるタンパク質、おそらくは高発現タンパク質である「標的細胞タンパク質」上の抗原への結合を介して標的細胞に結合することができる。
【0049】
「腫瘍量」は、がんを患う患者における生存がん細胞数、腫瘍部位数、および/または腫瘍サイズを表す。腫瘍量の減少は、例えば、患者の血液または尿中の腫瘍関連抗原もしくはタンパク質の量における減少、腫瘍細胞数もしくは腫瘍部位数における減少、および/または1つもしくは複数の腫瘍のサイズにおける減少として観測することができる。
【0050】
Bi-Fcまたは任意の他の薬物の「治療有効量」は、例えば、がん患者の腫瘍量を減少もしくは除去する効果、または処置のためにそのタンパク質が使用される任意の病状の症状を減少もしくは除去する効果を有する量である。治療有効量は、その状態の全ての症状を完全に除去する必要はなく、1つもしくは複数の症状の重症度を低下させるか、または状態が処置された後にいくらかの頻度で発生する可能性がある、より重症の症状もしくはより重症の疾患の発症を遅らせる場合がある。
【0051】
本明細書において言及された任意の疾患の「処置」は、疾患の少なくとも1つの症状の軽減、疾患の重症度の低下、または場合によりその疾患に随伴し得るもしくは少なくとも1つの他の疾患に至り得る、より重症の症状への疾患の進行の遅延もしくは予防を包含する。処置は、疾患が完全に治癒されることを意味しなくてもよい。有用な治療剤は、疾患の重症度を低下させるか、疾患もしくはその処置に関連する1つもしくは複数の症状の重症度を低下させるか、または状態が処置された後にいくらかの頻度で発生する可能性がある、より重症の症状もしくはより重症の疾患の発生を遅らせさえすればよい。
【0052】
指定の免疫グロブリン可変領域のVH/VL対が「IgGおよび/またはscFv抗体の一部であるときに」、それらが標的細胞および/または免疫エフェクター細胞に結合できると言われた場合、両方の重鎖中に指定されたVH領域および両方の軽鎖中に指定されたVL領域を含有するIgG抗体ならびに/またはこれらのVHおよびVL領域を含有するscFv抗体が、標的細胞ならびに/または免疫エフェクター細胞に結合できることが意味される。実施例2に記載された結合アッセイは、結合を評価するために使用することができる。
【0053】
Bi-Fc分子
最も一般的な意味において、Bi-Fcは、2つの異なる抗原に一価的に結合でき、1つのポリペプチド鎖または異なるアミノ酸配列を有する2つの異なるポリペプチド鎖を含む。加えて、Bi-Fcは、わずかに酸性のpH(約pH5.5〜6.0)で、そのFc領域を介して胎児性Fc受容体(FcRn)に結合できる。FcRnとのこの相互作用は、分子のインビボ半減期を延長することができる。第1のポリペプチド鎖(場合により唯一のポリペプチド鎖である)は、Fcポリペプチド鎖、ならびにリンカーによって隔てられ得る2つのVH領域および2つのVL領域を含む。Fcポリペプチド鎖は、4つの免疫グロブリン可変領域に対してN末端側またはC末端側であることができ、リンカーを介して可変領域に連結することができる。第2のポリペプチド鎖は、存在する場合、Fcポリペプチド鎖を含む。Bi-Fcは、免疫エフェクター細胞および標的細胞に結合することができ、かつ/または免疫エフェクター細胞による標的細胞の細胞溶解を媒介することができる。Bi-Fcの一般構造を
図1に図解するが、これはFcポリペプチド鎖がC末端側(パネルAおよびB)である態様ならびにFcポリペプチド鎖がN末端側(パネルCおよびD)である態様を示す。
【0054】
より詳細な態様は、免疫グロブリン可変領域の順序およびリンカーの長さを詳述しており、どの免疫グロブリン可変領域が会合してエフェクター細胞タンパク質または標的細胞タンパク質に対する結合部位を形成できるかを詳述している。一般に、抗体の抗原結合部分は、本明細書において「VH/VL対」と呼ばれるVH領域およびVL領域の両方を含むが、場合により、VHまたはVL領域は、パートナーなしに抗原に結合できる。例えば米国特許出願公開第2003/0114659号を参照されたい。
【0055】
一群の態様では、4つの可変領域を以下の順序:VH1-リンカー1-VL1-リンカー2-VH2-リンカー3-VL2で配列することができ、式中、VH1/VL1は抗原結合対であり、VH2/VL2は別の抗原結合対である。この群の態様では、リンカー1およびリンカー3は少なくとも15アミノ酸長であることができ、リンカー2は12アミノ酸長未満であるか、または場合により存在しなくてもよい。いくつかの態様では、VH1/VL1対は標的細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。他の態様では、VH1/VL1対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対は標的細胞タンパク質に結合することができる。
【0056】
別の群の態様では、4つの可変領域を以下の順序:VL1-リンカー1-VH1-リンカー2-VL2-リンカー3-VH2で配列することができ、式中、VH1/VL1は抗原結合対であり、VH2/VL2は抗原結合対である。これらの態様では、リンカー2は、12アミノ酸長未満であるか、または存在しなくてもよく、リンカー1およびリンカー3は少なくとも15アミノ酸長であることができる。いくつかの態様では、VH1/VL1対は標的細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。他の態様では、VH1/VL1対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対は標的細胞タンパク質に結合することができる。
【0057】
別の群の態様では、4つの可変領域を以下の順序:VH1-リンカー1-VL1-リンカー2-VL2-リンカー3-VH2で配列することができ、式中、VH1/VL1は抗原結合対であり、VH2/VL2は抗原結合対である。これらの態様では、リンカー2は、12アミノ酸長未満であるか、または存在しなくてもよく、リンカー1およびリンカー3は少なくとも15アミノ酸長であることができる。いくつかの態様では、VH1/VL1対は標的細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。他の態様では、VH1/VL1対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対は標的細胞タンパク質に結合することができる。
【0058】
さらなる群の態様では、4つの可変領域を以下の順序:VL1-リンカー1-VH1-リンカー2-VH2-リンカー3-VL2で配列することができ、式中、VH1/VL1は抗原結合対であり、VH2/VL2は抗原結合対である。これらの態様では、リンカー2は、12アミノ酸長未満であるか、または存在しなくてもよく、リンカー1およびリンカー3は少なくとも15アミノ酸長であることができる。いくつかの態様では、VH1/VL1対は標的細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。他の態様では、VH1/VL1対はエフェクター細胞タンパク質に結合することができ、VH2/VL2対は標的細胞タンパク質に結合することができる。
【0059】
Bi-Fcは、抗体のFcポリペプチド鎖を含むことができる。Fcポリペプチド鎖は、哺乳類(例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒトコブラクダ、または新世界もしくは旧世界ザル)、鳥類、またはサメ起源であることができる。例えば、Fcポリペプチド鎖は、ヒトのIgG1 Fcポリペプチド鎖、IgG2 Fcポリペプチド鎖、IgG3 Fcポリペプチド鎖、またはIgG4 Fcポリペプチド鎖であることができる。加えて、上に説明されたように、Fcポリペプチド鎖は、限られた数の改変を含むことができる。より詳細には、Fcポリペプチド鎖は、公知または天然の配列に比べて、アミノ酸100個あたり10個以下の単一アミノ酸の挿入、欠失、および/または置換を含有することができる。いくつかの態様では、ヘテロ二量体性Bi-Fcの2つのFcポリペプチド鎖は、例えば電荷対置換であることができるヘテロ二量体化改変を含有する。例えば、Bi-Fcの第1のポリペプチド鎖は、置換R409D、R409E、K409D、またはK409Eと、N392D、N392E、K392D、またはK392Eとを含むことができ、かつBi-Fcの第2のポリペプチド鎖は、D399KまたはD399Rと、E356K、E356R、D356K、またはD356Rとを含むことができる。あるいは、Bi-Fcの第1のポリペプチド鎖は、D399KまたはD399Rと、E356K、E356R、D356KまたはD356Rとを含むことができ、かつBi-Fcの第2のポリペプチド鎖は、R409E、R409E、K409D、またはK409Eと、N392E、N392D、K392DまたはK392Eとを含むことができる。Fcポリペプチド鎖は、本明細書において意味される、1つもしくは複数の「ホモ二量体形成に不利なFc改変」および/または1つもしくは複数の「半減期を延長するFc改変」も含むことができる。
【0060】
Bi-Fcの単量体性の態様では、Bi-Fcは、上記と同義の1つまたは複数の「ホモ二量体形成に不利なFc改変」を含むことができる。
【0061】
他の種類の改変も、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチド鎖の一部であることができる。一局面では、Bi-Fc中に含まれるFc領域は、上記と同義の、Fc領域への「Fcγ受容体(FcγR)の結合を阻害する1つまたは複数の改変」を含むことができる。別の局面では、Bi-Fc中に含まれるFc領域は、上記と同義の、「半減期を延長する1つまたは複数のFc改変」を含むことができる。なお別の局面では、「ADCCを増強する1つまたは複数の改変」が、Bi-Fcの一部であるFc領域中に含まれることができる。
【0062】
いくつかの態様では、Fcポリペプチドのアミノ酸配列は、哺乳類、例えばヒトのアミノ酸配列、またはヒトのアミノ酸配列に比べてアミノ酸100個の配列あたり10個以下の単一アミノ酸の欠失、挿入、もしくは置換を含む、それらの変異体であることができる。あるいは、Bi-Fcの一部であるFcポリペプチドは、ヒトIgG Fcポリペプチド鎖と90%または95%同一であることができ、同一性領域は、少なくとも約50、60、70、80、90、または100アミノ酸長であることができる。Fcポリペプチドのアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgM、またはIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のようなIgGであり得る。下の表2に、ヒトのIgG1 Fcポリペプチド鎖配列、IgG2 Fcポリペプチド鎖配列、IgG3 Fcポリペプチド鎖配列、およびIgG4 Fcポリペプチド鎖配列のアミノ酸配列のアライメントを示す。
【0063】
(表2)ヒトIgG Fc領域のアミノ酸配列
【0064】
表2に示されるナンバリングは、EUナンバリングシステムに従い、ヒトIgG1抗体の定常領域の連続ナンバリングに基づく。Edelman et al. (1969), Proc. Natl. Acad. Sci. 63: 78-85。したがって、このナンバリングは、IgG3ヒンジの追加的な長さには十分には対応していない。それでもなお、このナンバリングは、Fc領域中の位置を表すために当技術分野においてまだ一般に使用されているので、本明細書においてFc領域中の位置を示すために使用される。IgG1 Fcポリペプチド、IgG2 Fcポリペプチド、およびIgG4 Fcポリペプチドのヒンジ領域は、位置約216から約230までに及ぶ。IgG2およびIgG4のヒンジ領域がIgG1のヒンジよりもそれぞれアミノ酸3個短いことがアライメントから明らかである。IgG3のヒンジはかなり長く、上流の追加的なアミノ酸47個に及ぶ。CH2領域は位置約231〜340に及び、CH3領域は位置約341〜447に及ぶ。
【0065】
Fcポリペプチドの天然アミノ酸配列は、わずかに変異することができる。そのような変異は、Fcポリペプチドの公知または天然アミノ酸配列中にアミノ酸100個の配列あたり10個以下の1アミノ酸の挿入、欠失および/または置換を含むことができる。置換があるならば、それらは、上記と同義の保存的アミノ酸置換であることができる。ヘテロ二量体性Bi-Fcの第1および第2のポリペプチド鎖上のFcポリペプチドは、アミノ酸配列が異なることができる。いくつかの態様では、それらは、上記と同義の1つまたは複数の「ヘテロ二量体化改変」、「ADCCを増強する改変」、「FcγRの結合を阻害する改変」、「ホモ二量体形成に不利なFc改変」、および/または「半減期を延長するFc改変」を含むことができる。
【0066】
Bi-Fcは、エフェクター細胞タンパク質の一部である抗原を介して免疫エフェクター細胞に結合することができ、標的細胞タンパク質の一部である抗原を介して標的細胞に結合することができる。いくつかの可能なエフェクター細胞タンパク質が下に詳細に記載されている。同様に、いくつかの可能な標的細胞タンパク質も下に記載されている。Bi-Fcは、エフェクター細胞タンパク質と標的細胞タンパク質との任意の組み合わせに結合することができる。
【0067】
Bi-Fcの例示的なアミノ酸配列には、以下のアミノ酸配列:SEQ ID NO:10および12(ヘテロ二量体性Bi-Fc);SEQ ID NO:15および12(ヘテロ二量体性Bi-Fc);ならびにSEQ ID NO:34(そのFcポリペプチド鎖部分に改変Y349T、K392D、およびK409D(EUナンバリング)を含む単量体性Bi-Fc)が含まれる。
【0068】
Bi-Fc分子をコードする核酸
Bi-Fcをコードする核酸が提供される。VH、VL、ヒンジ、CH1、CH2、CH3、およびCH4領域を含む免疫グロブリン領域をコードする多数の核酸配列が、当技術分野において公知である。例えば、Kabat et al. in SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, Public Health Service N.I.H., Bethesda, MD, 1991を参照されたい。本明細書において提供された指針を用いて、当業者は、そのような核酸配列および/または当技術分野において公知の他の核酸配列を組み合わせて、Bi-Fcをコードする核酸配列を作製することもできる。Bi-Fcをコードする例示的な核酸には、(1)SEQ ID NO:11および13、(2)SEQ ID NO:16および13、ならびに(3)SEQ ID NO:35が含まれる。
【0069】
加えて、Bi-Fcをコードする核酸配列は、本明細書および他のものにおいて提供されたアミノ酸配列ならびに当技術分野における知識に基づき、当業者が決定することができる。特定のアミノ酸配列をコードするクローニングしたDNAセグメントを生産する、より伝統的な方法以外に、とりわけDNA2.0(Menlo Park, CA, USA)およびBlueHeron(Bothell, WA, USA)などの企業が、現在、化学合成され、遺伝子サイズが調整された任意の所望の配列のDNAを注文に応じて日常的に生産することで、そのようなDNAの生産工程を能率化させている。
【0070】
Bi-Fc分子を作製する方法
Bi-Fcは、当技術分野において周知の方法を用いて作製することができる。例えば、Bi-Fcの1つまたは2つのポリペプチド鎖をコードする核酸は、例えばトランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、核酸をコーティングした微粒子を用いる銃などのような、多様な公知の方法により培養宿主細胞に導入することができる。いくつかの態様では、Bi-Fcをコードする核酸は、宿主細胞中に導入される前に、宿主細胞における発現に適切なベクター中に挿入することができる。典型的には、そのようなベクターは、挿入された核酸の発現をRNAおよびタンパク質レベルで可能にする配列エレメントを含有することができる。そのようなベクターは、当技術分野において周知であり、多くが市販されている。核酸を含有する宿主細胞は、細胞が核酸を発現できるようになる条件下で培養することができ、結果として生じたBi-Fcは、細胞集団または培地から収集することができる。あるいは、Bi-Fcは、インビボで、例えば植物の葉(例えばScheller et al. (2001), Nature Biotechnol. 19: 573-577およびその中に引用された参考文献参照)、鳥の卵(例えばZhu et al. (2005), Nature Biotechnol. 23: 1159-1169およびその中に引用された参考文献参照)、または哺乳類の乳汁(例えばLaible et al. (2012), Reprod. Fertil. Dev. 25(1): 315参照)の中で生産することができる。
【0071】
例えば、数ある中でもとりわけ、大腸菌(Escherichia coli)もしくはバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacilis stearothermophilus)のような細菌細胞、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)もしくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような真菌細胞、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞を含む鱗翅目昆虫細胞のような昆虫細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞、HeLa細胞、ヒト肝細胞癌細胞、もしくは293細胞のような哺乳類細胞を含む、多様な培養宿主細胞を使用することができる。
【0072】
免疫エフェクター細胞およびエフェクター細胞タンパク質
Bi-Fcは、免疫エフェクター細胞の表面上に発現された分子(本明細書において「エフェクター細胞タンパク質」と呼ばれる)および標的細胞の表面上に発現された別の分子(本明細書において「標的細胞タンパク質」と呼ばれる)に結合することができる。免疫エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、または好中球であることができる。いくつかの態様では、エフェクター細胞タンパク質は、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体中に含まれるタンパク質である。TCR-CD3複合体は、TCRαおよびTCRβ、またはTCRγおよびTCRδに加えて、CD3ゼータ(CD3ζ)鎖、CD3イプシロン(CD3ε)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖、およびCD3デルタ(CD3δ)鎖の中からの多様なCD3鎖を含むヘテロ二量体を含む、ヘテロ多量体である。いくつかの態様では、エフェクター細胞タンパク質は、多量体性タンパク質の一部であり得るヒトCD3イプシロン(CD3ε)鎖(その成熟アミノ酸配列はSEQ ID NO:22に開示される)であることができる。あるいは、エフェクター細胞タンパク質は、ヒトおよび/またはカニクイザルのTCRα、TCRβ、TCRδ、TCRγ、CD3β、CD3γ、CD3δ、またはCD3ζであることができる。
【0073】
そのうえ、いくつかの態様では、Bi-Fcは、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル、および/または旧世界ザル種のような非ヒト種由来のCD3ε鎖にも結合することができる。そのような種には、非限定的に、以下の哺乳類:ハツカネズミ(Mus musculus);クマネズミ(Rattus rattus);ドブネズミ(Rattus norvegicus);カニクイザル、マカカ・ファスシクラリス(Macaca fascicularis);マントヒヒ、パピオ・ハマドリアス(Papio hamadryas);ギニアヒヒ、パピオ・パピオ(Papio papio);アヌビスヒヒ、パピオ・アヌビス(Papio anubis);キイロヒヒ、パピオ・シノセファルス(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ、パピオ・ウルシヌス(Papio ursinus);コモンマーモセット(Callithrix jacchus);ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus);およびリスザル(Saimiri sciureus)が含まれる。カニクイザルのCD3ε鎖の成熟アミノ酸配列は、SEQ ID NO:23に提供される。タンパク質治療剤の開発の分野において公知のように、ヒトならびに前臨床試験のために通常使用されるマウスおよびサルなどの種において同等の活性を有することができる治療剤を有することは、医薬品開発を簡略化し、促進することができる。薬物を市場に橋渡しする長く高価な工程において、そのような利点は重大な可能性がある。
【0074】
より具体的な態様では、ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、ヒトCD3ε鎖であり得るまたは異なる種、特に上掲の哺乳類種のうちの1つに由来するCD3ε鎖であり得るCD3ε鎖の、最初の27個のアミノ酸内のエピトープに結合することができる。エピトープは、アミノ酸配列Gln-Asp-Gly-Asn-Glu(SEQ ID NO:24)を含有することができる。そのようなエピトープと結合する抗体の利点は、米国特許出願公開第2010/183615号に詳細に説明されており、その関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。抗体が結合するエピトープは、アラニンスキャニングによって決定することができ、それは、例えば米国特許出願公開第2010/183615号に記載されており、その関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0075】
簡潔には、アラニンスキャニングは以下のように行うことができる。対照では、野生型CD3εをコードするDNAが、宿主細胞、好ましくは哺乳類T細胞系に適切な発現ベクターに挿入され、宿主細胞にトランスフェクションされ、そこでCD3εをTCR-CD3複合体の一部として発現させることができる。被験試料において、DNAは、CD3εのアミノ酸のうちの1つのみがアラニンに変更されているCD3εをコードする。DNA構築物は、1回に1つのアミノ酸がアラニンに変更されている一連の全ての分子を生成させるように作製される。Bi-Fcへの結合に関与するCD3εの細胞外ドメインにおける全ての可能性のあるアミノ酸位置をスキャンするように、構築物毎にアミノ酸1つだけが変異される。検査されるべきBi-Fcは、Bi-FcをコードするDNAにより哺乳類宿主細胞をトランスフェクションし、細胞培養物から抗体を回収することによって作製される。野生型またはアラニン置換を有するCD3εを発現している細胞へのBi-Fcの結合は、標準的な蛍光標示式細胞分取(FACS)法によって評価することができる。CD3εが特定の位置にアラニン置換を有し、検出された結合が、野生型CD3εで検出された結合よりも減少したまたは除去された試料は、改変された位置のアミノ酸が通常、CD3εへのBi-Fcの結合に関与することを示している。
【0076】
T細胞が免疫エフェクター細胞である場合、Bi-Fcが結合できるエフェクター細胞タンパク質には、非限定的にCD3ε、CD3γ、CD3δ、CD3ζ、TCRα、TCRβ、TCRγ、およびTCRδが含まれる。NK細胞または細胞傷害性T細胞が免疫エフェクター細胞である場合、例えばNKG2D、CD352、NKp46、またはCD16aは、エフェクター細胞タンパク質であることができる。CD8
+T細胞が免疫エフェクター細胞である場合、例えば、4-1BBまたはNKG2Dは、エフェクター細胞タンパク質であることができる。あるいは、Bi-Fcは、T細胞、NK細胞、マクロファージ、または好中球上に発現された他のエフェクター細胞タンパク質に結合することもできる。
【0077】
標的細胞および標的細胞上に発現された標的細胞タンパク質
上に説明されたように、Bi-Fcは、エフェクター細胞タンパク質および標的細胞タンパク質に結合することができる。標的細胞タンパク質は、例えば、がん細胞、病原体に感染している細胞、または疾患、例えば炎症性、自己免疫性および/もしくは線維性状態を媒介する細胞の表面上に発現され得る。いくつかの態様では、標的細胞タンパク質は、標的細胞上に高度に発現され得るが、高レベルの発現は必ずしも必要とされない。
【0078】
標的細胞ががん細胞である場合、本明細書記載のヘテロ二量体性二重特異性抗体は、上記のがん細胞抗原に結合することができる。がん細胞抗原は、ヒトタンパク質または別の種由来のタンパク質であることができる。例えば、ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、数ある中でもとりわけ、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル、および/または旧世界ザル種由来の標的細胞タンパク質に結合し得る。そのような種には、非限定的に以下の種:ハツカネズミ;クマネズミ;ドブネズミ;カニクイザル、マカカ・ファスシクラリス;マントヒヒ、パピオ・ハマドリアス;ギニアヒヒ、パピオ・パピオ;アヌビスヒヒ、パピオ・アヌビス;キイロヒヒ、パピオ・シノセファルス;チャクマヒヒ、パピオ・ウルシヌス、コモンマーモセット、ワタボウシタマリン、およびリスザルが含まれる。
【0079】
いくつかの例では、標的細胞タンパク質は、感染細胞上に選択的に発現されるタンパク質であることができる。例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)感染の場合、標的細胞タンパク質は、感染細胞の表面上に発現された、HBVまたはHCVのエンベロープタンパク質であることができる。他の態様では、標的細胞タンパク質は、HIV感染細胞上のヒト免疫不全ウイルス(HIV)によってコードされるgp120であることができる。
【0080】
他の局面では、標的細胞は、自己免疫疾患または炎症性疾患を媒介する細胞であることができる。例えば、喘息におけるヒト好酸球は標的細胞であることができ、その場合、例えば、EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体(EMR1)は、標的細胞タンパク質であることができる。あるいは、全身性エリテマトーデスの患者における過剰なヒトB細胞は、標的細胞であることができ、その場合、例えばCD19またはCD20は、標的細胞タンパク質であることができる。他の自己免疫状態では、過剰なヒトTh2 T細胞は標的細胞であることができ、その場合、例えばCCR4は、標的細胞タンパク質であることができる。同様に、標的細胞は、アテローム動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝硬変、強皮症、腎臓移植線維症、腎臓同種移植腎症、または特発性肺線維症および/もしくはイディオタイプ(idiotypic)肺高血圧症を含む肺線維症のような疾患を媒介する線維細胞であることができる。そのような線維性状態について、例えば線維芽細胞活性化タンパク質α(FAPα)は、標的細胞タンパク質であることができる。
【0081】
標的細胞の細胞溶解アッセイ
下の実施例において、本明細書記載のBi-Fc抗体がインビトロで免疫エフェクター細胞による標的細胞の細胞溶解を誘導できるかどうかを決定するためのアッセイが記載される。このアッセイでは、免疫エフェクター細胞はT細胞である。免疫エフェクター細胞がNK細胞である場合、以下の非常に類似のアッセイを使用することができる。
【0082】
関心対象の標的細胞タンパク質を発現している標的細胞系を、2μMカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)を用いて37℃で15分間標識し、次に洗浄することができる。次に適切な数の標識標的細胞を、1つまたは複数の96ウェル平底培養プレート中で様々な濃度の二重特異性タンパク質、対照タンパク質の存在下または非存在下、またはタンパク質不添加において4℃で40分間インキュベーションすることができる。健康なヒトドナーから単離されたNK細胞を、Miltenyi NK Cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を用いて単離し、次に標的細胞にエフェクター:標的比10:1で添加することができる。このアッセイにおける免疫エフェクター細胞であるNK細胞は、単離直後にまたは37℃で一晩培養後に使用することができる。腫瘍標的細胞、二重特異性タンパク質、および免疫エフェクター細胞を含有するプレートを、5% CO2で18〜24時間、37℃で培養することができる。適切な対照ウェルも準備することができる。アッセイ時間18〜24時間の後に、全ての細胞をウェルから取り出すことができる。ウェルの内容物の体積に等しい体積の7-AAD溶液を各試料に添加することができる。次に、下記実施例に記載のフローサイトメトリーによって試料をアッセイして、死滅した標的細胞に対する生存細胞の割合を決定することができる。
【0083】
治療法および組成物
Bi-Fcは、例えば様々な形態のがん、感染、自己免疫性もしくは炎症性状態および/または線維性状態を含む、多種多様な状態を処置するために使用することができる。
【0084】
本明細書において、Bi-Fcを含む薬学的組成物が提供される。そのような薬学的組成物は、治療有効量のBi-Fcに加えて、生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤のような1種または複数種の追加的な成分を含む。そのような追加的な成分には、多数の可能なものの中でも、緩衝剤、炭水化物、ポリオール、アミノ酸、キレート剤、安定剤、および/または防腐剤が含まれることができる。
【0085】
いくつかの態様では、Bi-Fcは、新しい領域にがん細胞を浸潤、すなわち転移させることができる隣接組織の破壊および新生血管の成長がしばしば付随する、未制御の、および/または不適切な細胞増殖を伴う、がんを含む細胞増殖疾患を処置するために使用することができる。Bi-Fcで処置可能な状態に含まれるのは、結腸直腸ポリープ、脳虚血、肉眼的嚢胞性疾患、多発性嚢胞腎疾患、良性前立腺肥大症、および子宮内膜症を含む、不適切な細胞成長を伴う非悪性状態である。Bi-Fcは、血液悪性腫瘍または固形悪性腫瘍を処置するために使用することができる。より具体的には、Bi-Fcを使用して処置できる細胞増殖疾患は、例えば、中皮腫、扁平上皮癌、骨髄腫、骨肉腫、膠芽腫、神経膠腫、癌腫、腺癌、メラノーマ、肉腫、急性および慢性白血病、リンパ腫、ならびに髄膜腫、ホジキン病、セザリー症候群、多発性骨髄腫、ならびに肺がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、咽頭がん、乳がん、頭頸部がん、膀胱がん、卵巣がん、皮膚がん、前立腺がん、子宮頸がん、膣がん、胃がん、腎細胞がん、腎臓がん、膵臓がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、肝胆道がん、骨がん、皮膚がん、および血液がんを含むがん、ならびに鼻腔および副鼻腔、鼻咽頭、口腔、中咽頭、喉頭、下喉頭、唾液腺、縦隔、胃、小腸、結腸、直腸および肛門領域、尿管、尿道、陰茎、精巣、外陰部、内分泌系、中枢神経系、および形質細胞のがんが含まれる。
【0086】
Cancer, Principles and Practice of Oncology, 4th Edition, DeVita et al., Eds. J. B. Lippincott Co., Philadelphia, PA (1993)は、がん治療のための指針を提供している教科書の中に含まれる。適切な治療アプローチは、がんの特定の型、および関連分野において認知されている、患者の全身状態などの他の要因に応じて選択される。Bi-Fcは、がん患者の処置において単独で使用してもよいし、または他の抗腫瘍剤を使用する治療方式に追加してもよい。
【0087】
いくつかの態様では、Bi-Fcは、例えば化学療法剤、非化学療法的抗腫瘍剤、抗腫瘍剤、および/または放射線のようながん処置に広く採用されている多様な薬物および処置と同時に、その前、またはその後に投与することができる。例えば、化学療法および/または放射線は、本明細書記載の任意の処置の前、処置の途中、および/または処置の後に行うことができる。化学療法剤の例は上に論じられており、それらには、非限定的にシスプラチン、タキソール、エトポシド、ミトキサントロン(Novantrone(登録商標))、アクチノマイシンD、シクロヘキシミド、カンプトテシン(またはその水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(例えばマイトマイシンC)、ダカルバジン(DTIC)、アドリアマイシン(ドキソルビシン)およびダウノマイシンのような抗腫瘍性抗生物質、ならびに上に言及された全ての化学療法剤が含まれる。
【0088】
Bi-Fcは、また、数ある中でもとりわけ、感染症、例えば慢性HBV感染、HCV感染、HIV感染、エプスタイン-バーウイルス(EBV)感染、またはサイトメガロウイルス(CMV)感染を処置するために使用することができる。Bi-Fcは、単独で投与してもよいし、またはそのような感染症を処置するために使用される他の治療剤の投与と同時、投与の前、または投与の後に投与してもよい。
【0089】
Bi-Fcは、ある細胞型を枯渇させることが有益な、他の種類の状態においてさらに利用することができる。例えば、喘息におけるヒト好酸球、全身性エリテマトーデスにおける過剰なヒトB細胞、自己免疫状態における過剰なヒトTh2 T細胞、または感染症における病原体感染細胞の枯渇が有益であり得る。線維性状態では、線維組織を形成する細胞を枯渇させることが有益であり得る。Bi-Fcは、単独で投与してもよいし、またはそのような疾患を処置するために使用される他の治療剤の投与と同時、投与の前、または投与の後に投与してもよい。
【0090】
治療有効用量のBi-Fcを投与することができる。治療用量を構成するBi-Fcの量は、処置される適応症、患者の体重、患者の計算された皮膚表面積に応じて変動し得る。Bi-Fcの投薬は、所望の効果を達成するように調整することができる。多くの場合に、反復投薬が必要となり得る。例えば、Bi-Fcは、1週間に2回、1週間に1回、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10週間に1回、または2、3、4、5、もしくは6ヶ月に1回投薬することができる。毎日投与されるBi-Fcの量は、約0.0036mg〜約450mgであることができる。あるいは、患者の推定皮膚表面に応じて用量を較正することができ、各用量は、約0.002mg/m
2〜約250mg/m
2とすることができる。別の選択肢において、患者の体重に応じて用量を較正することができ、各用量は、約0.000051mg/kg〜約6.4mg/kgとすることができる。
【0091】
Bi-Fc、またはそのような分子を含有する薬学的組成物は、任意の実現可能な方法によって投与することができる。経口投与は、ある特別な製剤または状況の非存在下では、胃の酸性環境中でタンパク質の断片化および/または加水分解をもたらすため、タンパク質治療剤は、通常、非経口経路によって、例えば注射によって投与される。皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、病巣内、または腹膜ボーラス注射が、可能な投与経路である。Bi-Fcは、また、注入、例えば静脈内または皮下注入を介して投与することができる。特に皮膚に影響を与えている疾患に関して、局所投与も可能である。あるいは、Bi-Fcは、粘膜との接触により、例えば鼻腔内、舌下、膣、もしくは直腸投与によって、または吸入剤としての投与によって投与することができる。あるいは、Bi-Fcを含む特定の適切な薬学的組成物を経口投与することができる。
【0092】
本発明を上に一般的な用語で説明したが、以下の実施例を限定ではなく例示として提供する。
【実施例】
【0093】
実施例1:抗HER2 CD3εおよび抗FOLR1/ CD3εのBi-Fc分子および単鎖二重特異性分子の構築
本質的に以前に記載された方法を用いてBi-Fc分子を作製した。Loeffler et al. (2000), Blood 95(6): 2098-2103。より詳細には、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcをコードする構築物を以下のように作製した。抗HER2 IgG抗体のVH領域をコードするDNA断片(SEQ ID NO:5)およびVL領域をコードするDNA断片(SEQ ID NO:6)ならびに抗ヒトCD3ε IgG抗体のVH領域をコードするDNA断片(SEQ ID NO:7)およびVL領域をコードするDNA断片(SEQ ID NO:8)を、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを使用するPCRによって増幅し、フレキシブルリンカーを用いて一緒にスプライシングした。結果として生じた、リンカーによって連結された2つのscFvをコードする線状融合DNAをコードするDNA断片を、本明細書において単鎖抗HER2/CD3ε(SEQ ID NO:9)と呼ぶ。この構築物を抗体生産のための哺乳類発現ベクター中にサブクローニングした。
【0094】
単鎖抗HER2/CD3εをコードするDNAと、操作されたヒトIgG1 Fc領域の2つの鎖のうちの1つをコードするDNAとを融合することによって、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fc(SEQ ID NO:10)を構築した。具体的には、2つの正荷電突然変異(D356K/D399K、EUナンバリング)に加えてFcγRの結合を阻害する改変(L234AおよびL235A)を含有するFcポリペプチド鎖をコードするDNAを、単鎖抗HER2/CD3εをコードするDNAの3'末端に融合した。この抗HER/CD3ε Bi-Fcのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列を、それぞれSEQ ID NO:10および11に示す。抗HER2/CD3ε Bi-Fcの一部である第2のポリペプチド鎖は、SEQ ID NO:12に示すように2つの負荷電突然変異(K392D/K409D、EUナンバリング)に加えてL234AおよびL235Aを含有するヒトIgG1 Fcポリペプチド鎖であった。このポリペプチドをコードするDNA(SEQ ID NO:13)を増幅し、適切な発現用ベクターに挿入した。類似の方法を用いて、抗HER2 scFv断片をコードするDNAを、抗ヒトFOLR1 IgG抗体由来のscFv断片をコードするDNAにより置き換えることによって、単鎖抗FOLR1/CD3ε(SEQ ID NO:14)およびヘテロ二量体性抗FOLR1/CD3ε Bi-Fc(SEQ ID NO:15)を構築した。
【0095】
ヒトHEK293-6E細胞において一過性トランスフェクションにより上記の全ての単鎖Bi-Fc分子およびヘテロ二量体性Bi-Fc分子を産生させた。培養培地を6日後に採集した。ニッケルHISTRAP(登録商標)(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムクロマトグラフィーによって単鎖抗HER2/CD3ε分子および抗FOLR1/CD3ε分子を精製し、25〜300mMイミジゾール(imidizole)勾配をかけて溶出させた。調製用SUPERDEX(登録商標)200(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムを使用して溶出プールをサイズ交換クロマトグラフィー(SEC)によってさらに精製し、>1mg/mLに濃縮し、-70℃で保存した。50mMクエン酸塩、1M L-アルギニン、pH3.5を用いて溶出するMABSELECT SURE(商標)(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)アフィニティークロマトグラフィーを用いてヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fc分子および抗FOLR1/CD3ε Bi-Fc分子を精製した。10mMリン酸カリウム、161mM L-アルギニン、pH7.6を用いる、または酢酸塩およびスクロースを150mM NaCl、161mM L-アルギニン、pH5.2と共に含有する溶液を用いる調製用SECによって、溶出液を製剤化緩衝液に緩衝液交換した。
【0096】
実施例2:標的細胞および免疫エフェクター細胞に対する結合についてのBiTE:Fc分子の試験
CD3を発現しているT細胞およびHER2を発現しているJIMT-1細胞に対するヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcおよび単鎖抗HER2/CD3εの結合を以下のように評価した。10μg/mLヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcまたは単鎖抗HER2/CD3εの非存在下または存在下で、ヒト汎T細胞(Pan T Cell Isolation Kit II, human, Miltenyi Biotec, Auburn, CAを使用して精製)または精製JIMT-1細胞を4℃で16時間インキュベーションした。アロフィコシアニン(APC)標識抗ヒトFc二次抗体を使用して、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcの細胞結合を検出した。マウス抗FLAG(登録商標)抗体に続いてAPC標識マウスIg特異的抗体を使用して、FLAG(登録商標)タグを含む単鎖抗HER2/CD3εを検出した。
【0097】
図2に示される蛍光標示式細胞分取(FACS)ヒストグラムでは、
図2およびその説明に示されるように、白いプロファイルは一方の二重特異性分子の非存在下での細胞からのデータを表し、黒いプロファイルは一方の二重特異性分子の存在下での細胞からのデータを表す。これらの結果は、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcおよび単鎖抗HER2/CD3εが、T細胞(CD3εを発現している)およびHER2を発現しているJIMT-1細胞の両方に結合することを示している。
【0098】
実施例3:Bi-FcおよびT細胞の存在下での腫瘍細胞系の溶解
上記のヘテロ二量体性の抗HER2/CD3ε Bi-Fcおよび抗FOLR1/CD3ε Bi-Fcならびに単鎖の抗HER2/CD3ε分子および抗FOLR1/CD3ε分子をアッセイして、標的細胞としてHER2またはFOLR1を発現している腫瘍細胞を使用するT細胞依存性細胞溶解(TDCC)アッセイにおけるそれらの活性を決定した。簡潔には、Pan T Cell Isolation Kit II, human(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を使用して、健康なヒトドナーから汎T細胞を単離した。
図3および4に示すように、これらのT細胞をCFSE標識腫瘍標的細胞と共に10:1の比で、様々な濃度の実施例1記載のヘテロ二量体性の抗HER2/CD3ε Bi-Fcもしくは抗FOLR1/CD3ε Bi-Fcまたは単鎖の抗HER2/CD3εもしくは抗FOR1/CD3εの存在下または非存在下でインキュベーションした。対照として、いくつかの試料はT細胞および腫瘍標的細胞を含有したが、Bi-Fcも単鎖分子も含有しなかった。
【0099】
抗FOLR1/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子についての標的細胞は、Cal-51細胞(細胞1個あたり約148,000個のFOLR1分子を発現している)、T47D細胞(細胞1個あたり約101,000個のFOLR1分子を発現している)、または対照細胞系BT474(これは、検出可能なレベルのFOLR1は発現しなかった)のいずれかであった。
【0100】
抗HER2/ CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子についての標的細胞は、JIMT-1細胞(細胞1個あたり約181,000個のHER2分子を発現している)、T47D細胞(細胞1個あたり約61,000個のHER2分子を発現している)、または対照細胞系SHP77(これは、検出可能なレベルのHER2を発現しなかった)であった。
【0101】
39〜48時間インキュベーション後に、細胞を採集し、2本鎖核酸を染色する7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)の取り込みによって腫瘍細胞の溶解率をモニターした。無傷細胞は7-AADを排除し、一方で7-AADは死細胞または瀕死細胞の膜を透過してこれらの細胞内部の2本鎖核酸を染色することができる。特異的溶解率は次式に従って計算した:
特異的溶解%=[Bi-Fc存在下での腫瘍溶解%−二重特異性の非存在下での腫瘍細胞溶解%/総細胞溶解%−二重特異性の非存在下での腫瘍細胞溶解%]×100
総細胞溶解率を決定するために、Bi-Fcまたは単鎖分子の非存在下で免疫エフェクター細胞および標識標的細胞を含有する試料を80%冷メタノールで溶解した。
【0102】
抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性のBi-Fcおよび単鎖分子についての結果を
図3に示す。抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性のBi-Fcおよび単鎖分子の両方は、Cal-51標的細胞およびT47D標的細胞の両方の用量依存性溶解を示した。これらの各細胞系におけるこれらの各分子についてのEC
50を下の表3に示す。
【0103】
(表3)Bi-Fcおよび単鎖の抗FOLR1/CD3ε分子のEC
50
* NAは、検出された細胞溶解がほとんどまたは全くなかったことを意味する。
これらのデータは、抗FOLR1/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子の両方がT細胞の存在下でFOLR1を発現している細胞の溶解を媒介することができるが、FOLR1を発現していない細胞の溶解を媒介しないことを示している。Bi-FcのEC
50は、単鎖分子の約7〜15倍高いが、それらは依然としてpM域である。したがって、このアッセイでBi-Fcおよび単鎖分子の両方は、高度に効力がある。
【0104】
抗HER2/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子についての結果を
図4に示す。抗HER2/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子の両方が、JIMT-1標的細胞およびT47D標的細胞の両方の用量依存性溶解を示したが、対照SHP77細胞系(これは、HER2を発現しない)の溶解を示さなかった。これらの各細胞系におけるこれらの各分子についてのEC
50を下の表4に示す。
【0105】
(表4)Bi-Fcおよび単鎖の抗HER2/CD3ε分子のEC
50
* NAは、検出された細胞溶解がほとんどまたは全くなかったことを意味する。
これらのデータは、抗HER2/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子の両方がT細胞の存在下でHER2を発現している細胞の溶解を媒介できるが、HER2を発現していない細胞の溶解を媒介しないことを示している。Bi-FcのEC
50は、単鎖分子の約8.6〜10.3倍高い。
【0106】
実施例4:Bi-Fcおよび標的細胞の存在下でのT細胞によるサイトカインの放出
上記の抗HER2/CD3εの単鎖およびヘテロ二量体性Bi-Fcならびに抗FOLR1/CD3εの単鎖およびヘテロ二量体性Bi-Fcをアッセイして、それらがT細胞による炎症性サイトカインの産生を刺激することができるかどうかを決定した。簡潔には、Meso Scale Diagnostics, L.L.C販売のHuman TH1/TH2 7-Plex KitおよびHuman Proinflammatory 1 4-Plex ultra Sensitive Kitを使用してサイトカイン濃度について、実施例3に記載された上清のような、TDCCアッセイからの24時間細胞培養上清を評価した。製造業者の指示書に従ってアッセイを行った。
【0107】
これらの結果を
図5A、5B、6A、および6Bに示す。
図5Aおよび5Bに示すように、T細胞は、抗FOLR1/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcまたは単鎖の存在下およびFOLR1を発現する細胞(T47D、左側パネル)の存在下でサイトカインを分泌したが、FOLR1を発現しない細胞(BT474、右側パネル)の存在下では分泌しなかった。同様に、
図6Aおよび6Bに示すように、T細胞は、抗HER2/CD3εのヘテロ二量体性Bi-Fcまたは単鎖の存在下、およびHER2を発現している細胞(JIMT-1、左側パネル)の存在下でサイトカインを分泌したが、HER2を発現しない細胞(SHP77)の存在下では分泌しなかった。したがって、ヘテロ二量体性Bi-Fcまたは単鎖分子の存在下でのT細胞によるインターフェロンγ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-2(IL-2)、およびインターロイキン-13(IL-13)の分泌は、標的細胞タンパク質を発現している細胞の存在に依存した。したがって、Bi-Fcおよび単鎖分子によるT細胞の活性化は、その活性化が標的細胞タンパク質を発現している標的細胞の存在下でのみ起こるという意味で、特異的であった。
【0108】
加えて、Bi-Fcは、アッセイにおいて非常に強力な活性を有し、下の表に示すようにpM域にEC
50を示した。
【0109】
(表5)サイトカイン分泌を誘発することに関するEC
50
したがって、ヘテロ二量体性Bi-Fcは、単鎖分子のほぼ2倍のサイズであるにもかかわらず、依然として、標的細胞の非存在下でなく存在下でのT細胞によるサイトカイン分泌の非常に強力な活性化因子である。加えて、ヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子は、非常に類似のサイトカインプロファイルを示す。抗HER2/CD3εヘテロ二量体性Bi-Fcによって誘導されたサイトカイン分泌についてのEC
50は、抗HER2/CD3ε単鎖によって誘導されたEC
50の約9〜19倍高かった。抗FOLR1/CD3ε Bi-Fcによって誘導されたサイトカイン分泌についてのEC
50は、抗FOLR1/CD3ε単鎖によって誘導されたEC
50の約4.5〜6.5倍高かった。
【0110】
実施例5:Bi-Fcおよび標的細胞の存在下でのT細胞活性化マーカーの上方制御
ヘテロ二量体性Bi-Fcが末梢血単核細胞(PBMC)の存在下および標的細胞の存在下または非存在下で、T細胞を活性化できるかどうかを決定するために、以下の実験を行った。健康なドナー由来のPBMCを、Biological Specialty Corporation of Colmar, Pennsylvaniaから購入したヒト白血球からFICOLL(商標)勾配をかけて精製した。これらのPBMCを、10:1比のJIMT-1細胞の存在下または非存在下で上記のヘテロ二量体性抗HER2/ CD3ε Bi-Fcまたは単鎖抗HER2/CD3ε二重特異性分子と共にインキュベーションした。48時間インキュベーション後に、非接着細胞をウェルから取り出し、2つの等しい試料に分けた。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲーション型抗ヒトCD3抗体に加えてアロフィコシアニン(APC)コンジュゲーション型抗CD25または抗CD69抗体を用いて全ての試料を染色した。CD25およびCD69は、T細胞の活性化マーカーである。
【0111】
HER2発現JIMT-1腫瘍標的細胞の非存在下ではなく存在下で、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fcおよび抗HER2/CD3ε単鎖での、CD3
+末梢T細胞によるCD25およびCD69(
図7)活性化マーカーの上方制御を観測した。これらの観測から、Bi-FcによるT細胞活性化が、標的細胞タンパク質を発現している腫瘍標的細胞の存在に依存することが示唆される。抗HER2/CD3ε Bi-FcのFc領域が、FcgRへの結合を阻害する改変を含有するので、かつT細胞活性化がHER2を発現している標的細胞の非存在下で観測されないので、おそらく、T細胞活性化までの代替の潜在的経路、すなわち抗HER2/CD3ε Bi-FcのようなBi-Fcの存在下でのFcγRによる架橋は、観測された効果に関与していない。
【0112】
実施例6:Bi-Fcの薬物動態特性
以下の実験において、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε Bi-Fc(SEQ ID NO:10および12のアミノ酸配列を含む)および抗HER2/CD3ε単鎖(SEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む)の単一用量薬物動態プロファイルを、雄性NOD.SCIDマウス(Harlan, Livermore, CA)における静脈内および皮下ボーラス投与によって評価した。これらの被験分子を一部のマウスにおいて1mg/kgで外側尾静脈を介してボーラスとして静脈内に注射し、または他のマウスでは肩甲を覆う皮膚の下に皮下注射した。各時点で後眼窩静脈叢穿刺により全血約0.1mLを経時的に採血した。全血が凝固したら、試料を処理して血清を得た(1試料あたり約0.040mL)。Gyros AB(Warren, NJ)の技術を用いたイムノアッセイによって血清試料を分析し、抗HER2/CD3ε単鎖およびBi-Fcの血清中濃度を決定した。0、0.5、2、8、24、72、120、168、240、312、384、および480時間目に血清試料を収集した。分析の前に血清試料を-70℃(±10℃)に維持した。Phoenix(登録商標)6.3ソフトウェア(Pharsight, Sunnyvale, CA)を使用するノンコンパートメント解析を用いて、血清濃度から薬物動態パラメーターを推定した。
【0113】
ヘテロ二量体性Bi-Fcおよび単鎖分子の単一用量薬物動態プロファイルを
図8に示す。急速に排出され、わずか5時間の半減期を有した単鎖分子に比べて、Bi-Fcは、延長した血清半減期(219時間)を示した。Bi-Fcの曝露は、単鎖分子についての19hr*μg/mLに比べて524hr*μg/mLという曲線下面積(AUC)によって特徴付けられた。Bi-Fcの皮下バイオアベイラビリティーは83%であったが、一方で単鎖分子の皮下バイオアベイラビリティーは29%であった。したがって、ヘテロ二量体性Bi-Fcは、単鎖分子に比べて好ましい単一用量薬物動態特性を示した。
【0114】
実施例7:単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの構築
単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcを構築した。その全体構造を
図1における左から2番目の略図によって表す。天然Fcポリペプチド鎖に対して特異的改変を含有する単量体性Fcポリペプチド鎖は、米国特許出願公開第2012/0244578号に記載されており、その関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。ヒト単量体性IgG1 Fcポリペプチド鎖(これは、ヒンジ領域を欠如し、すなわちEUナンバリングシステムの位置231から始まり、カルボキシ末端のヘキサ-ヒスチジンタグに加えて改変Y349T、K392D、およびK409Dを有した)をコードするベクターから出発し、Agilent's Quikchange Site-Directed Mutagenesis Kit(カタログ番号200518-5)を使用してさらなる突然変異を導入し、改変N297Gを特定した。したがって、最終的なFcポリペプチド鎖は、位置231のアラニンから出発し、位置447のリシンまで続き、その後にヘキサ-ヒスチジンタグが続いた(SEQ ID NO:92)。それは、以下の改変:N297G、Y349T、K392D、およびK409Dを含有した。
【0115】
抗CD33/CD3ε単鎖分子をコードするDNAを、CD33に結合性の重鎖および軽鎖可変領域に続いてCD3εに結合性の重鎖および軽鎖可変領域を含有する単鎖分子をコードする第2のベクターからPCRによって増幅した。この抗CD33/CD3ε単鎖のアミノ酸配列をSEQ ID NO:33に示すが、それは、米国特許出願第2012/244162号に詳細に記載されており、その関連部分は、参照により本明細書に組み入れられる。ポリメラーゼ連鎖反応によるスプライスオーバーハング伸長(PCRによるSOE)を用いて、このDNAを、上記の改変Fcポリペプチド鎖をコードするDNAに結合させた。例えば、この方法を記載している部分が、参照により本明細書に組み入れられるWarrens et al. (1997), Gene 186: 29-35を参照されたい。
【0116】
結果として生じた単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcのアミノ酸配列をSEQ NO NO:34に提供し、それをコードする核酸配列をSEQ ID NO:35に提供する。単量体性抗CD33/CD3ε Bi-FcをコードするDNAを哺乳類細胞に導入し、それを発現に適した条件下で培養した。タンパク質を細胞上清から回収した。
【0117】
実施例8:CD3εまたはCD33を発現している細胞への抗CD33/CD3ε Bi-Fcの結合
CD3εもしくはCD33を発現している、またはどちらも発現していない細胞への単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖の結合を評価した。Molm-13細胞(CD33を発現している)、Namalwa細胞(CD33およびCD3εのどちらも発現していない)、精製ヒト汎T細胞(CD3εを発現している)、ヒトPBMC(CD3εを発現している)、およびカニクイザルPBMC(CD3εを発現している)を試験した。二重特異性分子の非存在下または存在下で細胞を4℃で2時間インキュベーションした。次に、二重特異性分子のCD3結合領域に結合する10μg/mLマウス抗体と共に細胞を4℃で一晩インキュベーションし、続いて5μg/mL APC標識抗マウスFc二次抗体(Jackson 115-136-071)と共に4℃で2時間インキュベーションすることによって、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖の細胞結合性を検出した。細胞をFACSによって分析し、シグナルの平均蛍光強度(MFI)を決定した。
【0118】
図9に、以下のように、多様な濃度の二重特異性分子の存在下で多様な細胞型について検出されたMFIを示す:パネルA、Molm-13細胞(CD33を発現している);パネルB、Namalwa細胞(CD33およびCD3εのどちらも発現していない);パネルC、ヒト汎T細胞(CD3εを発現している);パネルD、ヒトPBMC(CD3εを発現している);およびパネルE、カニクイザルPBMC(CD3εを発現している)。結果は、これらの2種の二重特異性分子がこれらの細胞型に類似の方法で結合することを実証しており、抗CD33/CD3ε単鎖へのFcポリペプチド鎖の付加は、このアッセイによって測定された、CD33およびCD3εに結合するその能力に、検出可能な程度には影響しなかったことを示している。
【0119】
実施例9:単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの存在下でのCD33発現腫瘍細胞の溶解
上記の単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcが末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でCD33発現腫瘍細胞の溶解を誘導することができるかどうかを決定するために、以下の実験を行った。カニクイザル由来PBMCエフェクター細胞をSNBL USA(Shin Nippon Biomedical Laboratoriesの子会社)から入手した。このPBMC調製物では、61%がCD3
+T細胞であった(データは示さず)。これらのPBMCを、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識腫瘍標的細胞と共に10:1の比で、
図10に示される濃度の単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖の存在下および非存在下でインキュベーションした。37℃で40〜48時間インキュベーション後に、細胞を収集し、フローサイトメトリーを用いて7AAD取り込みによって生存および死滅腫瘍細胞をモニターした。特異的溶解率を次式に従って計算した:
特異的溶解%=1−(生存細胞数(二重特異性の存在下)/生存細胞数(二重特異性の非存在下))×100
【0120】
これらの結果を
図10に示す。
図10のパネルAに示すデータは、細胞1個あたりCD33分子約33,000個を発現するMolm-13細胞が単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖の両方を用いて溶解されたことを示す。半値溶解濃度(EC
50)はpM域内であり、すなわち、それぞれ単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖について1.45pMおよび0.96pMであった。したがって、単量体性Bi-FcのEC
50は、単鎖分子のEC
50の2倍未満高かった。
図10のパネルBに示されるデータは、検出可能なレベルのCD33を発現しないNamalwa細胞の溶解はなかったことを示している。これらの観察は、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcが、カニクイザルPBMCによる腫瘍細胞溶解を誘導する能力がある、高度に特異的で強力な試薬であることを示唆している。
【0121】
第2の実験で、健康なヒトドナーから単離された汎エフェクターT細胞を、CFSE標識したMolm-13またはNamalwa細胞と共に10:1の比で、
図11に示される濃度の単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖の存在下および非存在下でインキュベーションした。37℃で40〜48時間インキュベーション後に、細胞を収集し、フローサイトメトリーを用いて7AADの取り込みにより生存および死滅腫瘍細胞をモニターした。本実施例の上に示された式に従って特異的溶解率を計算した。結果を
図11に示す。
【0122】
単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖の両方を用いてMolm-13細胞の特異的溶解を観測した。
図11、パネルA。EC
50はpM域であり、すなわち単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖について、それぞれ0.65pMおよび0.12pMであった。したがって、Bi-FcについてのEC
50は、単鎖分子の5〜6倍高い。試験された単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの最高濃度で少量の溶解が検出された以外は、どちらの二重特異性分子でもNamalwa細胞の溶解は検出されなかった。
図11、パネルB。T細胞の非存在下でMolm-13細胞の溶解は発生しなかった(データは示さず)。これらの観察は、上記のヘテロ二量体性Bi-Fcのように、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcが、T細胞による腫瘍細胞の溶解を誘導する能力がある、高度に特異的で強力な試薬であることを示唆している。
【0123】
実施例10:単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの存在下でのCD33発現腫瘍細胞の溶解およびPBMCからのインターフェロンγの放出
別の実験では、健康なヒトドナーまたはカニクイザルから単離されたPBMC(SNBL USAから入手)を、それらがCD33発現腫瘍標的細胞を溶解する能力について試験した。これらの調製物では、PBMCは、CD3
+ T細胞が42%(ヒト)およびCD3
+ T細胞が30%(カニクイザル)であった。PBMCを、37℃でCFSE標識腫瘍標的細胞と共に5:1の比で、
図12に示される濃度の単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖の存在下または非存在下でインキュベーションした。37℃で67時間インキュベーション後に、細胞を収集し、フローサイトメトリーを用いる7AAD取り込みによって生存および死滅腫瘍細胞をモニターした。上記式に従って特異的溶解率を計算した。結果を
図12に示す。
【0124】
Molm-13細胞の特異的溶解を、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcおよび抗CD33/CD3ε単鎖の両方を用いて、ヒトPBMC(
図12、パネルA)またはカニクイザルPBMC(
図12、パネルB)を使用して観測した。下の表6に示すように、半値溶解濃度(EC
50)はpM域内であった。
【0125】
(表6)抗CD33/CD3ε二重特異性分子の存在下でのPBMCによるMolm-13細胞の溶解についてのEC
50
【0126】
Molm-13細胞は、T細胞の非存在下ではどちらの二重特異性の存在下でも溶解しなかった(データは示さず)。これらのデータは、単量体性Bi-FcについてのEC
50が、ピコモル濃度以下〜低ピコモル濃度域にあり、エフェクター細胞としてヒトおよびカニクイザルPBMCの両方を使用する単鎖分子のEC
50に非常に近いことを示している。
【0127】
すぐ上に記載された細胞溶解アッセイからの24時間細胞培養上清を、市販のBD OptEIA(商標)Human IFN-γ ELISA Kit II(BD Biosciences)およびMonkey Interferon gamma ELISA Kit(Cell Sciences)を使用してサイトカイン濃度について評価した。製造業者の指示に従ってアッセイを行った。Molm-13細胞の存在下で、IFN-γは、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖で処理されたヒト(
図13、パネルA)およびカニクイザル(
図13、パネルB)のPBMCから放出された。これらの結果は、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcが、抗CD33/CD3ε単鎖のように、PBMCからのインターフェロンγの放出を媒介する能力がある、高度に特異的で強力な試薬であることを示唆している。
【0128】
実施例11:単量体性抗CD33/CD3ε Bi-FcによるT細胞の増殖、CD25発現、およびサイトカイン放出の誘導
健康なヒトドナーから単離された汎Tエフェクター細胞をCFSEで標識し、Molm-13細胞またはNamalwa細胞のいずれかの腫瘍標的細胞と共に、10:1の比で、
図14および15に示される濃度の単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖の存在下または非存在下でインキュベーションした。37℃で72時間インキュベーション後に、細胞を採集し、T細胞の増殖および活性化についてのマーカーであるCD25の発現をフローサイトメトリーによって分析した。
【0129】
CFSE色素からの蛍光シグナルが減少している細胞数をモニターすることによって増殖を評価した。CFSEによるT細胞の標識後の各細胞分裂に伴い、個別の分裂中の各細胞についてのCFSE由来蛍光シグナルの強度は減少する。CFSE標識T細胞にゲート設定し、かつ有糸分裂T細胞の数、すなわち減弱した蛍光シグナルを有する細胞の数を総T細胞数と比較することによって、増殖中のT細胞のパーセントを決定した。アロフィコシアニン(APC)標識抗ヒトCD25抗体との共培養において細胞を染色し、かつ2色フローサイトメトリーを使用してCFSE標識細胞のAPCレベルを測定することによって、CD25陽性T細胞のパーセントを決定した。
【0130】
CD33発現腫瘍細胞系であるMolm-13に加えて単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖のいずれかの存在下でT細胞の増殖を観測した。
図14、パネルA。EC
50は、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの存在下で1桁のpM域、すなわち4.27pMであり、抗CD33/CD3ε単鎖の存在下で1.09pMであった。検出可能なレベルのCD33を発現しないNamalwa細胞の存在下でT細胞の増殖は観測されなかった。
図14、パネルA。
【0131】
Molm-13細胞と、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖のいずれかとの存在下でT細胞は活性化マーカーCD25を発現した。
図14、パネルB。T細胞は、Namalwa細胞(これは、検出可能なレベルのCD33を発現しない)およびいずれかの二重特異性の存在下でCD25を発現しなかった。
図14、パネルB。これらの観測は、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-FcがT活性化および増殖を特異的に誘導する能力があることを示唆している。
【0132】
すぐ上に記載したアッセイからの24時間細胞培養上清を、Meso Scale Diagnostics, LLCから市販のHuman TH1/TH2 7-Plex KitおよびHuman Proinflammatory 1 4-Plex Ultra-Sensitive Kitを使用して、サイトカイン濃度について評価した。製造業者の指示に従ってアッセイを行った。結果を
図15に示す。
【0133】
CD33発現Molm-13腫瘍細胞系の存在下で、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは抗CD33/CD3ε単鎖で処理されたT細胞から、それぞれ
図15のパネルA、B、C、D、およびEに示されるように、インターフェロンγ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-2(IL-2)、およびインターロイキン-13(IL-13)が放出された。最高のサイトカイン濃度が、IFN-γ、TNF-α、IL-2およびIL-10で見られた(400pg/mLを超える)。中等度のレベルのIL-13も観測された。CD33陰性細胞系であるNamalwaの存在下でサイトカイン分泌は観測されなかった。下の表7に、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcまたは単鎖抗CD33/CD3εのいずれかの存在下で、Molm-13細胞による様々なサイトカインの産生についてのEC
50を示す。
【0134】
(表7)サイトカイン産生についてのEC
50
【0135】
これらの結果は、単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcが、T細胞によるサイトカイン放出を媒介する能力がある、高度に特異的で強力な足場であることを示唆している。
【0136】
実施例12:抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性または抗HER2/CD3ε Bi-Fcの存在下での細胞溶解性シナプス形成
実施例1記載の抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性およびHER2/CD3ε Bi-Fcが、T細胞とHER2発現JIMT-1腫瘍細胞との間の細胞溶解性シナプス形成を誘導する能力を決定するために、それらの分子をアッセイした。JIMT-1細胞を、ポリ-L-リシンがコーティングされた24ウェルガラス底培養プレートに蒔いた(1% FCSおよび2g/Lグルコースを含むRPMI培地中に細胞0.5×10
6個/ウェル)。37℃で1時間インキュベーション後に、ガラスウェルに接着しているJIMT-1細胞を温DPBSで静かに洗浄した。1nM抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性または抗HER2/CD3ε Bi-Fcの存在下または非存在下で、新鮮単離されたCD8
+ T細胞(健康ドナーからの細胞1×10
6個/ウェル)を腫瘍細胞に添加し、37℃で追加的に20分間インキュベーションさせて細胞溶解シナプスを生成させた。プレートに接着している細胞を、予備加温されたDPBSで洗浄し、直ちに3.7%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。次に細胞をDPBSで洗浄し、0.1% titron X-100を用いて室温で5分間透過処理した。一次抗体の混合物(5μg/mL抗PKCθおよび0.4μg/mL 抗CD45)を細胞と共に4℃で一晩インキュベーションし、次に3回洗浄した。8μg/mL二次抗体の混合物(抗CD45について緑および抗PKCθについて赤)を室温で3時間添加し、次にプレートをDPBSで2回洗浄した。PCKθは、免疫シナプスに局在することが公知であり、一方で、CD45はT細胞表面に発現される。SLOWFADE(登録商標)Goldアンチフェード試薬をDAPI(核染料)(Life Technologies #536939)と共にガラスウェルに直接添加し、プレートを遮光して-70℃で保存した。
【0137】
免疫蛍光共焦点顕微鏡観察から、CD45が(緑染色)がT細胞表面に存在し(緑色のCD45染色を有する、より小さな細胞型として確認される)、一方でPKCθ(赤染色)が腫瘍細胞(より大きな細胞型として確認される)とT細胞との間のシナプス形成部位で集中的なシグナルを与えたことが示された。T細胞と腫瘍標的との間の細胞溶解シナプスが、抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性および抗HER2/CD3ε Bi-Fcで観測されたが、二重特異性の非存在下では観測されなかった(データは示さず)。これらの観測は、細胞溶解シナプスの形成が二重特異性分子の存在に依存し、Bi-Fcが、単鎖二重特異性分子で見られたものに類似するシナプスを形成できることを示唆している。
【0138】
実施例13:腫瘍成長に及ぼすヘテロ二量体性抗FOLR1/CD3ε Bi-Fcのインビボ効果
下記の実験は、FOLR1発現NCI-N87-lucヒト胃癌細胞を使用するインビボのがんモデル系におけるヘテロ二量体性Bi-Fc二重特異性抗体の活性を実証している。これらの細胞は実際に、ルミネセンスによる腫瘍検出を可能にできるルシフェラーゼを発現するものの、この実験では腫瘍の物理的測定によって腫瘍成長をモニターした。50%マトリゲル中のNCI-N87-luc細胞(3×10
6個)を8週齢雌性NOD scidガンマ(NSG)マウスに皮下移植した(0日目)。10日目に、活性化ヒト汎T細胞20×10
6個を各マウスに腹腔内注射によって投与した。マウスに移植されたヒト汎T細胞は、Miltenyi T cell activation/expansion kitを製造業者の指示に従って使用して、抗CD3/CD28/CD2抗体を使用して18日培養の0および14日目に、予備活性化および増大させた。11日目および18日目に、10mg/匹のGAMMAGARD[免疫グロブリン輸液(ヒト)]10%(Baxter)に加えて0.2mg/匹の抗mu FcγRII/III(クローン2.4G2)からなるFcγRブロックをIP投与した。最初のFcγRブロックの1時間後に、動物(N=10/群)に、(1)0.05mg/kgの抗FOLR1/抗CD3ε単鎖分子(SEQ ID NO:90のアミノ酸配列を含む)の腹腔内注射を毎日、または(2)1mg/kgのヘテロ二量体性抗FOLR1/抗CD3ε Bi-Fc(SEQ ID NO:86および88のアミノ酸配列を含む)もしくは0.9%NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002%Tween 80、pH7.0(ビヒクル対照)の腹腔内注射を5日間隔で2回、を受けさせた。腫瘍体積を測定し、腫瘍が2000mm
3に達したとき、または試験の終了時(27日目)に動物を安楽死させた。
【0139】
ビヒクル処置マウスでは、腫瘍は被験動物全てで成長した。
図16を参照されたい。対照的に、単鎖抗FOLR1/CD3ε二重特異性またはヘテロ二量体性抗FOLR1/CD3ε Bi-Fcで処置されたマウスでは、腫瘍成長が有意に阻害された(ビヒクル処置マウスに比べてp<0.0001)。実験を通して、処置マウスまたは未処置マウスの体重に有意差はなかった(データは示さず)。これらのデータは、抗FOLR1/抗CD3εヘテロ二量体性Bi-Fcがインビボで標的細胞のT細胞媒介死を誘導できることを示している。
【0140】
実施例14:腫瘍成長に及ぼす単量体性およびヘテロ二量体性抗CD33/CD3 Bi-Fcのインビボ効果の比較
以下の実験は、単量体性Bi-Fcが腫瘍細胞をインビボで死滅させることができるかどうかを決定することを目的とした。Miltenyi T cell activation/expansion kitを製造業者の指示に従って使用して、18日の培養期間の0日目および14日目に抗CD3/CD28/CD2抗体を添加することによって、この実験に使用するためにヒト汎T細胞を予備活性化し、増加させた。D-ルシフェリンの存在下でルミネセンスを示すCD33発現腫瘍細胞であるMolm-13-luc細胞(1×10
6個)を、10週齢雌性NSGマウスの右側腹部に皮下(SC)注射した(0日目)。腫瘍細胞接種後の3日目に、ヒト活性化汎T細胞20×10
6個をIP注射により各マウスに投与した。4および11日目に、実施例13記載のFcγRブロックをIP注射により投与した。4日目のFcγRブロックの1時間後に、マウス(N=8/群)に以下の処置の1つを受けさせた:(1)0.05mg/kgの抗CD33/CD3ε単鎖二重特異性(SEQ ID NO:33のアミノ酸配列を有する)、0.05 mg/kgの抗MEC/CD3ε単鎖二重特異性(SEQ ID NO:78のアミノ酸配列を有する;陰性対照)、0.05mg/kgの単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fc(SEQ ID NO:34のアミノ酸配列を有する)、もしくは0.9% NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002% Tween 80、pH7.0(ビヒクル対照)のいずれかの腹腔内注射を10日間毎日;または(2)1mg/kgの抗CD33/CD3εヘテロ二量体性Bi-Fc(SEQ ID NO:80および82のアミノ酸配列を含む)のIP注射を5日間隔で2回。
【0141】
投薬開始後、IVIS(登録商標)-200 In Vivo Imaging System(Perkin Elmer)を用いたバイオルミネセンスイメージングを2週間にわたり月曜、水曜、金曜に行った。イメージングの9分前に、マウスに150mg/kg D-ルシフェリンをIP注射により与えた。画像を集め、LIVING IMAGE(登録商標)ソフトウェア2.5(Caliper Life Sciences)を使用して解析した。ベースラインのバイオルミネセンスを測定するために、ナイーブな動物(Molm-13-lucもヒト汎T細胞も接種されていない動物)を使用した。
【0142】
ビヒクルまたは抗MEC/CD3ε単鎖の投与を受けたマウスは、試験を通して腫瘍成長を経験し、腫瘍細胞の投与を受けなかったナイーブ対照マウスは、はっきりと認識できる腫瘍細胞の成長を示さなかった。
図17。抗CD33/CD3εヘテロ二量体性Bi-Fcまたは単鎖分子のいずれかの投与を受けたマウスは、当初、腫瘍成長を経験したものの、試験の終わりまでに、ナイーブマウスで見られたレベルにほぼ等しい腫瘍細胞のルミネセンスが、これらの群で観測された。単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcの投与を受けたマウスも、当初の腫瘍成長に続く腫瘍細胞のルミネセンスを経験し、そのルミネセンスは、試験の終わりまでに、ビヒクル処置マウスで観測されたものとナイーブマウスで観測されたものとの中間であった。
図17。ビヒクルで処置されたマウスと、単量体性Bi-Fcで処置されたマウスとの間の腫瘍成長の差は、統計的に有意であった(p<-.0001)。したがって、単量体性Bi-Fcは、実際に腫瘍細胞の死滅をインビボで誘発した。
【0143】
実施例15:単量体性抗CD33/CD3 Bi-Fcのインビボ抗腫瘍有効性に及ぼすFc改変N297Gの効果
以下の実験で、Bi-FcのFcポリペプチド鎖部分にN297G改変を有した単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcのインビボ活性を、野生型N297を有したBi-Fcの活性と比較した。方法は、実施例14に記載された方法と本質的に同じである。Molm-13-luc細胞(1×10
6)を、10週齢雌性NSGマウスの右側腹部に皮下(SC)注射し(0日目)、3日目に予備活性化ヒト汎T細胞20×10
6個を各マウスにIP注射により投与した。4および11日目に、実施例13記載のFcγRブロックを投与した。4日目のFcγRブロックの1時間後に、マウス(N=10/群)に以下の1つのIP注射を毎日受けさせた:ビヒクル(0.9%NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002% Tween 80、pH7.0);SEQ ID NO:34のアミノ酸配列を含む単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fc(N297G改変を有する);またはSEQ ID NO:84のアミノ酸配列を含む単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fc(野生型N297を有する)。ナイーブ対照マウスは、腫瘍細胞の注射を受けず、処置の注射も受けなかった。結果を
図18に示す。
【0144】
ビヒクル処置マウスは腫瘍成長を示した。ビヒクル処置マウスとN297G改変を有する単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcで処置されたマウスとの間で、腫瘍成長において小さいが有意な差(p<0.0005)が存在した。
図18。野生型N297を有する単量体性抗CD33/CD3ε Bi-Fcで処置されたマウスは、ビヒクル処置マウスよりも試験の終了時までに有意に低い腫瘍バイオルミネセンスレベルを有した(p<0.0001)。ナイーブマウスは、予想通り低レベルのバイオルミネセンスを有した。
図18。少なくともこれらの結果は、野生型N297を有する単量体性Bi-Fcが、インビボ腫瘍細胞死滅アッセイにおいてN297Gを有するBi-Fcよりも活性が高くないにせよ、同じくらいの活性であることを示唆している。