特許第6535656号(P6535656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535656
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】建造物用すべり支承および寸法設定方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20190617BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20190617BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   E04H9/02 331E
   E01D19/04 Z
   F16F15/02 L
【請求項の数】28
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-509354(P2016-509354)
(86)(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公表番号】特表2016-524664(P2016-524664A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】EP2014056255
(87)【国際公開番号】WO2014173622
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年1月31日
(31)【優先権主張番号】102013104161.2
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515269464
【氏名又は名称】マウレール エンジニアリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ディストル ヨハン
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−016905(JP,A)
【文献】 特開2000−320611(JP,A)
【文献】 特開2003−090013(JP,A)
【文献】 特表2009−519387(JP,A)
【文献】 特開2003−147991(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0195942(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0188179(US,A1)
【文献】 米国特許第06021992(US,A)
【文献】 特開2008−062921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E01D 19/04
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのすべり要素(20)が取り付けられる少なくとも1つの第1の支承部品(15)と、前記第1の支承部品に対して変位可能に配置される第2の支承部品(25)とを有し、前記第2の支承部品は、前記すべり要素(20)の接触表面(AK)との組合せで、前記2つの支承部品(15、25)間のすべり移動を可能にするすべり表面(30)を形成する、建造物用すべり支承であって、
前記接触表面(AK)は、いくつかの部分接触表面に細分化され、
前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)の形状が、所望の摩擦係数(Y)が前記すべり表面(30)内で確立されるように設計されており、
前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が、前記すべり要素(20)の自由周縁表面(AM)に対する接触表面(AK)の比を変更して形状ファクタ(S)の関数として調整されている、ことを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項2】
請求項1に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり表面(30)内の前記所望の摩擦係数(Y)が、周縁長さ、および/または前記接触表面(AK)の水平面内形状、および/またはすべりスリット高さ(h)、および/またはすべり方向に対する前記接触表面(AK)の縁部の向きに応じて調整されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)のサイズが、前記すべり表面(30)内の前記所望の摩擦係数(Y)が達成されるように、前記形状ファクタ(S)に応じて最適化されている、好ましくは最小限に抑えられていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)の総計が前記形状ファクタ(S)に応じて最大化されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、すべり分離振り子支承として設計されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記接触表面(AK)が、4つ以上の部分接触表面から形成されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)が、少なくとも1つのすべり円板(35)を有し、前記接触表面(AK)が、前記少なくとも1つのすべり円板(35)の表面の少なくとも一部から形成されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記少なくとも1つのすべり円板(35)の表面の少なくとも一部が、少なくとも1つの凹部(40)によって部分接触表面(50)に細分化されていることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項9】
請求項8に記載の建造物用すべり支承であって、前記凹部(40)が、円、環、またはそれらのいずれかのセグメントの形状を有することを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項10】
請求項8または9に記載の建造物用すべり支承であって、少なくとも1つの凹部(40)内に、少なくとも1つのスペーサ(45)が配置されることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)が、いくつかのすべり円板(35)を有することを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記接触表面(AK)および/または少なくとも1つの部分接触表面(50)が、円、環、またはそれらのいずれかのセグメントの形状を有することを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)および/または前記すべり要素(20)の少なくとも1つのすべり円板(35)が、第1の支承部品15内に埋め込まれて保持されることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、少なくとも1つのスペーサ(45)が、2つのすべり円板(35)間に配置されることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)および/または少なくとも1つのすべり円板(35)は、少なくとも部分的にすべり材料、特に熱可塑性すべり材料からなることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承であって、前記すべり要素(20)および/または少なくとも1つのすべり円板(35)は、少なくとも部分的にPTFE、UHMWPE、ポリアミド、および/またはそのような材料の少なくとも2つの組合せからなることを特徴とする建造物用すべり支承。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承(10)の寸法を設定するための方法であって、
前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が、形状ファクタ(S)を変更することによって調整され、
前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が、前記すべり要素(20)の自由周縁表面(AM)に対する接触表面(AK)の比を変更して形状ファクタ(S)の関数として調整される、ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の建造物用すべり支承の寸法を設定するための方法であって、前記すべり表面(30)内の前記所望の摩擦係数(Y)が、周縁長さ、および/または前記接触表面(AK)の水平面内形状、および/またはすべりスリット高さ(h)、および/またはすべり方向に対する前記接触表面(AK)の縁部の向きに応じて調整されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17または18に記載の建造物用すべり支承(10)の寸法を設定するための方法であって、前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)のサイズが、前記すべり表面(30)内の前記所望の摩擦係数(Y)が達成されるように、前記形状ファクタ(S)に応じて最適化される、好ましくは最小限に抑えられることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項17から19のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承(10)の寸法を設定するための方法であって、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)の総計が前記形状ファクタ(S)に応じて最大化されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項19または請求項19を引用する請求項20に記載の建造物用すべり支承(10)の寸法を設定するための方法であって、前記すべり表面(30)内の材料組合せが、前記接触表面(AK)のサイズの最適化中、変更されないことを特徴とする方法。
【請求項22】
少なくとも1つのすべり要素(20)が取り付けられる少なくとも1つの第1の支承部品(15)と、前記第1の支承部品に対して変位可能に配置される第2の支承部品(25)とを有し、前記第2の支承部品は、前記すべり要素(20)の接触表面(AK)との組合せで、前記2つの支承部品(15、25)間のすべり移動を可能にするすべり表面(30)を形成し、前記接触表面(AK)が、いくつかの部分接触表面に細分化されている、建造物用すべり支承を設計するための方法であって、
前記すべり表面(30)内の摩擦係数(Y)を、前記すべり要素(20)の自由周縁表面(AM)に対する前記接触表面(AK)の比である形状ファクタ(S)を変更することにより調整して、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が所望の値となる前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)の形状を求める、
ことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の建造物用すべり支承を設計するための方法であって、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が、周縁長さ、前記接触表面(AK)の水平面内形状、すべりスリット高さ(h)およびすべり方向に対する前記接触表面(AK)の縁部の向きのうち少なくとも1つを変更することにより調整される、ことを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載の建造物用すべり支承(10)を設計するための方法であって、前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)のサイズが、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)が前記所望の値となる範囲において最小となるように、前記形状ファクタ(S)を変更する、ことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項22から24のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承(10)を設計するための方法であって、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)の総計が最大となるように、前記形状ファクタ(S)を変更する、ことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項22から25のいずれか1項に記載の建造物用すべり支承(10)を設計するための方法であって、前記すべり表面(30)内の前記摩擦係数(Y)は、あらかじめ取得されている前記摩擦係数(Y)と前記形状ファクタ(S)と圧力(X)との関係に基づき、前記形状ファクタ(S)および圧力(X)から求められる、ことを特徴とする方法。
【請求項27】
少なくとも1つのすべり要素(20)が取り付けられる少なくとも1つの第1の支承部品(15)と、前記第1の支承部品に対して変位可能に配置される第2の支承部品(25)とを有し、前記第2の支承部品は、前記すべり要素(20)の接触表面(AK)との組合せで、前記2つの支承部品(15、25)間のすべり移動を可能にするすべり表面(30)を形成し、前記接触表面(AK)が、いくつかの部分接触表面に細分化されている、建造物用すべり支承の寸法を設定するための方法であって、
前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)の形状を、前記すべり表面(30)内の摩擦係数(Y)が所望の値となるように、あらかじめ取得されている前記摩擦係数(Y)と形状ファクタ(S)と圧力(X)との関係に基づき求めることを特徴とし、
前記形状ファクタ(S)は、前記すべり要素(20)の自由周縁表面(AM)に対する接触表面(AK)の比である、
方法。
【請求項28】
請求項27に記載の建造物用すべり支承の寸法を設定するための方法であって、前記すべり要素(20)の前記接触表面(AK)のサイズを最小とする、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのすべり要素が取り付けられる少なくとも1つの第1の支承部品と、第1の支承部品に対して変位可能に配置された第2の支承部品とを有し、第2の支承部品は、すべり要素の接触表面との組合せで、2つの支承部品間のすべり移動を可能にするすべり表面を形成する、建造物用すべり支承に関する。さらに、本発明は、建造物用すべり支承の寸法を設定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物用すべり支承は、建造物用支承の特別な設計である。建築業界で支承とも呼ばれる建造物用支承は、一般に、橋、桁、ビルディング、タワー、またはそれらの一部など、可能な場合、制約なしに、任意の建造物の定義された支持のためのものである。すなわち、建造物用支承は、着目する建造物の2つの構成要素間で相対移動を可能にする。欧州規格EN1337によれば、様々な設計および動作が知られている。設計および動作に応じて、建造物用支承は、異なる構造、および異なる数の自由度を有する。
【0003】
以下では簡潔にすべり支承とも称する建造物用すべり支承は、少なくとも1つのすべり要素が取り付けられる少なくとも1つの第1の支承部品と、第1の支承部品に対して変位可能に配置される第2の支承部品とを有する。第2の支承部品は、第1の支承部品のすべり要素の接触表面との組合せで、2つの支承部品間のすべり移動を可能にするすべり表面を形成する。
【0004】
一般に、すべり要素は、すべり材料製である。すべり材料としては、たとえばPTFE、UHMWPE、またはポリアミドなど、低い摩擦力を有する様々なプラスチックが使用される。また、EN1337−2に与えられているCM1およびCM2など複合材料も使用される。
【0005】
すべり挙動、耐久性などに関する所望の特性がすべり表面全体において達成されるように、第2の支承部品の表面は、一般に、それがすべり要素と直接相互作用する場合、たとえば硬質クロムめっきなど特別な表面コーティングを有する。しかし、第2の支承部品はまた、対向すべり要素をさらに有する点で、すべり要素と間接的に相互作用することがある。これは、たとえばオーステナイト鋼板製のいわゆるすべりプレートとすることができ、これは第2の支承部品に適用されており、それ自体、規定された表面品質を有する。
【0006】
EN1337は、すべり要素、任意選択の対向すべり要素、ならびに関連の取付け要素および支承部品をいかに実現するかについての規定を含む。すべり支承によって分離されている建造物または建造物の一部の相対変位またはねじれが生じたときすべり抵抗が可能な限り低いことが目標とされている。しかし、すべり支承ならびに建造物の寸法を設定するためには、一般に、摩擦係数の上側の寸法設定値を使用し、安全サイドに置く。ここで、すべり抵抗は、摩擦係数を介して定義される。摩擦係数は、すべり移動に向かう移動に必要とされる力を、すべり表面に対して直角に作用する力で割った値である。
【0007】
建造物の可動支持に加えて、すべり支承はまた、建造物またはその一部をさらなる周囲の建造物から、および/または地盤から分離するために使用されることがある。そのような分離の目的は、たとえば地震による構造的な損傷を防止することであり得る。分離のためのそのようなすべり支承の特定の設計が、いわゆるすべり分離振り子支承である。これにおいて、少なくとも1つのすべり表面は湾曲している。すべり表面の湾曲により、水平変位中心転換力が生成される。そのような支承のための規定が、たとえば欧州規格EN15129に与えられている。
【0008】
そのような応用例において、建造物の移動を可能にすべきであるだけでなく、地震によって生成されるエネルギーを散逸する必要がある場合には、すべり表面内でのある種の数値的に規定された摩擦挙動が必要とされる。すべり支承では、エネルギーの散逸は、移動したとき発生する支承部品間の摩擦によってすべり表面内で行われることがある。エネルギー散逸の所望の効果に加えて、同時に、摩擦は、反力が建造物に加えられることを可能にする。摩擦が増大するにつれて、反力と散逸されるエネルギーが共に増大する。一方で高い反力は回避すべきであるが、他方で大量のエネルギーをなくすることが望ましいので、逆の効果の間で構造関連の最適を探し求めなければならない。
【0009】
2つの移動する物体間の摩擦に関する決定的なパラメータは、述べたように摩擦係数である。現況技術によれば、すべり対向材料、すべり表面の潤滑のタイプ、ならびに接触圧の選択によって実質的に制御される。
【0010】
従来のすべり支承に伴う問題は、所望の目的、およびそれに望ましい、またはそれに必要とされる最小摩擦または最大摩擦に応じて、すべり支承をそれぞれの目的に合わせて個々に設計しなければならないことである。部分的に逆の設計目的の背景に照らして、支承を寸法設定し適合させるのは容易でない。そこで、たとえば第1の潤滑されたすべり材料が第1のすべり表面に使用され、潤滑なしの第2のすべり材料が第2のすべり表面に使用されるすべり分離振り子支承がすでに試みられている。第1のすべり材料は、可能な場合、制約なしに、通常の使用中に支承部品の移動を確保するためのもの、すなわち低い摩擦力を生成するためのものである。第2のすべり材料は、地震の場合、高いエネルギー散逸をもたらすためのものであり、すなわち、大きな摩擦力を有するべきである。
【0011】
しかし、すべり特性の調和、および異なるすべり材料の使用は、些細なことではない。一方で、EN1337−2は、何らかの形で潤滑されなければならないPTFEの使用についてガイドラインを提供しているにすぎない。別のすべり材料を使用したい、または潤滑を修正したいと望む場合、非常に複雑かつコストがかかる適性のための特別なテストを実施しなければならない。また、製造時における異なるすべり材料、潤滑、表面品質などの使用は、きわめて複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、その摩擦特性に鑑みて容易に適合可能であり、可能な限り単純かつ経済的に製造することができる建造物用すべり支承を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による前記問題の解決策は、請求項1に記載の建造物用すべり支承の発明、ならびに請求項18に記載の寸法設定方法で達成される。すべり支承および寸法設定方法の好適な他の発展形態は、それぞれ従属請求項に記載されている。
【0014】
すなわち、本発明による建造物用すべり支承は、すべり要素の接触表面の形状が、所望の摩擦係数がすべり表面内で確立されるように構成されることを特徴とする。本発明は、同じすべり材料での摩擦係数が、すべり要素の接触表面の形状と共に変化すること、そしてこの特性を利用し、摩擦係数、したがって建造物用すべり支承の摩擦をも特に調整することができるという知見に基づく。すなわち、以前から一般的なすべり支承の摩擦特性が、すべり材料および対向材料の選択、すべり表面を潤滑する方法、ならびに接触圧によって調整されるのではない、むしろ、すべり要素の接触表面を特段の形状とすることにより、摩擦係数が、望むように、したがってさらに決定的なパラメータによって影響を受ける。出願人のテストでは、建造物用すべり支承において、接触表面の中央と接触表面の縁部でのすべり材料の異なる変形挙動がすべり抵抗を調整し、この効果を特に使用し、すべり表面内での所望の摩擦特性を調整することができることが示された。
【0015】
建造物用すべり支承の好適な他の発展形態では、すべり表面内の所望の摩擦係数が、周縁長さ、および/または接触表面の水平面内形状、および/またはすべりスリット高さ、および/またはすべり方向に対する接触表面の縁部の向きに応じて調整される。そこで、すべり方向に対して平行に延びる縁部は、摩擦方向に対して直交して延びる縁部より摩擦係数に対して影響が小さいと考えられる。したがって、建造物用すべり支承の様々な自由度に向かう自由周縁表面の規定された向きにより、異なる摩擦係数、したがって摩擦抵抗が様々な自由度に向かって存在することになる。さらに、形状係数を介して、摩擦係数に対するすべり表面の水平面内の個々の形状が影響することが考えられる。ここで、すべり表面の水平面内形状がどちらかと言えばまるい輪郭の縁部を有するか、それとも鋭い隅部を有するか、またそれぞれの縁部の数、さらにはすべり表面重心に対するそれらの距離および向きが、関係のあるものとなり得る。また、すべりスリット高さを使用し、すべり表面内の摩擦係数に影響を及ぼすことができる。そこで、たとえば、大きなすべりスリットについては、すべり表面の縁部でのすべり材料の流動により、摩擦係数は減少するが、非常に低いすべりスリットの場合も、摩擦係数の影響の効果は、部分的に確立されるだけである。したがって、摩擦係数に対する所望の効果に応じて、最適なすべりスリット高さが存在し得る。
【0016】
建造物用すべり支承のすべり要素は任意の所望の形状のものとすることができないので、特に自由周縁表面に対する接触表面の比を調整することによってすべり要素の形状を設計することにより、摩擦係数を調整することが可能である。ここで、自由周縁表面は、すべり要素の周縁側にて第1の支承部品と第2の支承部品の間で、すべりスリット内で拘束されず自由に変形することができる、すなわち露出される表面を意味する。反対側に完全に平坦に嵌合するすべり円板の埋込み支持の場合、これは、周長にすべり円板の高さを乗じ、埋込みの深さを引いたものである。接触表面は、第2の支承部品に完全に接触するすべり要素の表面の割合を意味する。すべりスリットの接触高さで接触表面の周長を増大することによって自由周縁表面が一定の接触表面で減少する場合には、摩擦が増大する。
【0017】
特にすべり要素形状によるすべり支承の摩擦特性の影響により、すべり支承は、様々な問題および応用目的に非常に容易に適合させることができる。また、これは、適性のための特別なテストも、特別な承認を要求する必要もない。むしろ、このようにして、たとえばすべり材料としての承認がすでに得られている1つの同じすべり材料で、様々な問題を解決することができる。そこで、一方で、その材料で通常のすべり支承を構築することも、それに比べて、すべり要素の周縁表面の割合を増大することによって注目のすべり表面内で増大された摩擦を有するべきである地震振動絶縁装置を構築することも可能である。さらに、本発明は、製造時に、もはや様々な材料を貯蔵しなくてもよいはずであるという効果を有する。これは、貯蔵コストを削減し、製造時に支承の混乱を防止し、購入時に利点をもたらす。すなわち、本発明による支承は、著しく容易に、よりコスト効果的に準備することができる。
【0018】
本発明の有利な他の発展形態は、すべり表面内の摩擦係数が、すべり要素の自由周縁表面に対する接触表面の比を考慮して形状ファクタの関数として調整されるようにする。ここで、形状ファクタは、接触表面の面積を自由周縁表面の面積で割った値であり、すでに述べたように、自由周縁表面は、接触表面の周縁の長さにすべりスリットの高さを乗じたものである。好適には、すべり要素の接触表面のサイズは、すべり表面内の所望の摩擦係数が圧力の変化なしに達成されるように最適化されている、好ましくは最小限に抑えられている。このようにして、それぞれの応用目的のための建造物用すべり支承を、より小さく、したがってより経済的なものにすることができる。
【0019】
特に、すべり支承を地震振動の絶縁に使用しようとする場合、すべり表面内の摩擦係数の総計が形状ファクタに応じて最大化されているようにすべり要素を形作ることが好適である。したがって、実際的な応用例については、これは、建造物用すべり支承と同じ接触表面にて自由周縁表面を増大することによって最大可能な摩擦係数、したがって最大可能な散逸能力をも達成することができることを意味する。たとえば、自由周縁表面の増大は、接触表面の形状を変更することによって行うことができる。たとえば、接触表面は、楕円もしくは星形形状、またはより大きな自由周縁表面をもたらす任意の他の考えられる形状を有することができる。
【0020】
好ましくは、そのような応用例では、建造物用すべり支承は、球面支承、特にすべり分離振り子支承として設計される。球面支承に典型的なことは、少なくとも1つの湾曲したすべり表面を有することであり、一方、すべり分離振り子支承は、いくつかの湾曲したすべり表面を有する。そこで、異なるすべり表面内の摩擦係数が、特に異なるように調整され、しかし上述のように同じすべり材料からなることが考えられる。そこで、1つのすべり表面を、低い摩擦を有する従来のすべり支承として通常使用のために設計することができ、一方、第2のすべり表面は、特に地震に鑑みて、高い摩擦係数、すなわち高い散逸能力と共に設計される。
【0021】
他の発展形態では、すべり要素の接触表面は、2つ、特に4つ以上の部分接触表面から形成される。接触表面を部分接触表面に細分化することにより、すべり要素の自由周縁表面が増大する。そのような細分化は、いくつかのすべり要素によって、または切欠きなどによって行うことができる。ここで、細分化は、作製を容易にする。なぜなら、容易に生み出すことができ、すべり要素の基本幾何形状、またはその初期材料(しばしば、すべり材料製のある厚さのプレート)に対してほとんど変更する必要がないからである。
【0022】
建造物用すべり支承の有利な他の発展形態は、接触表面が少なくとも1つのすべり円板の表面の少なくとも一部から形成される少なくとも1つのすべり円板をすべり要素が有するようにする。すべり要素はまた、それ自体知られている従来のすべり円板を有し、完全にそれからなっていてもよい。この場合、少なくとも1つのすべり円板の表面の少なくとも一部が少なくとも1つの凹部によって部分接触表面に細分化される場合、好適である。そこで、摩擦を、同じ材料の従来のすべり円板に比べて増大することができる。たとえば、そのような凹部は、少なくとも1つのすべり円板の表面の一部に適用される1つ以上の溝であってもよい。前記1つ以上の溝を適用することは、たとえば少なくとも1つのすべり円板の表面の一部に機械加工することによって行うことができる。
【0023】
すべり材料に凹部を適用することは、部分接触表面を生み出すための特に経済的な方法である。一般に、凹部の幅は、一方ですべり材料の十分な支持を確保し、他方で圧力を隣接する構成要素内に均一に分散するために、数ミリメートルと第1の支承部品の厚さの2倍との間である。少なくとも1つのすべり円板の表面の少なくとも一部を細分化することにより、すべり要素の自由周縁表面が接触表面に対して増大し、したがって形状ファクタが影響を受ける。
【0024】
基本的に、少なくとも1つの凹部は、任意の部分接触表面を作り出すために任意の所望の形状のものであってよい。しかし、好ましくは、凹部は、細長い形状であり、円、環、またはそれらのいずれかのセグメントの形状を有する。そのために、旋削加工またはフライス加工などの作製方法が、それらの高い柔軟性のために好適である。しかし、別法として、凹部は、すべり要素の製造時に、たとえばプレート形状に鋳込みまたは焼結プレスするとき、すでに準備されてもよい。
【0025】
特に、すべり支承、またはすべり円板のすべり材料が、それぞれ高圧にさらされる場合、少なくとも1つのスペーサが少なくとも1つの凹部内に挿入されることが好適である。スペーサを凹部内に挿入することにより、部分接触表面の縁部においてすべり円板のすべり材料が荷重下で横方向に逸れることができないようになる。
【0026】
第1の支承部品におけるすべり要素の埋込み支持と同様に、すべり円板は、内側に埋め込まれる。同じ荷重での内側埋込みによって、すべり円板および建造物用すべり支承は、より小さくすることができ、または同じサイズのすべり円板の場合、より高い荷重を建造物用すべり支承で吸収することができる。
【0027】
建造物用すべり支承の有利な他の発展形態では、すべり要素がいくつかのすべり円板を有する。このようにして、一方で、すべり要素を、等しいおよび/または異なる形状のすべり円板で構成することができ、他方で、すべり円板を使用することによって、すべり要素を、異なるすべり材料から様々に構築することもできる。さらに、大きな、および/または個々に形作られたすべり要素を、いくつかの標準化されたすべり円板から構成することも可能になり、それにより、本発明による建造物用すべり支承の生産は、特に経済的なものになる。
【0028】
好ましくは、接触表面および/または少なくとも部分接触表面は、円、環、またはそれらのいずれかのセグメントの形状を有する。前記の形状は、摩擦の選択的な増大をもたらすことになる隅部が形成されない、またはわずかしか形成されない利点を有する。すなわち、前記の形状は、摩耗を低く保つ助けとなる。
【0029】
建造物用すべり支承の有利な他の発展形態は、すべり要素、および/またはすべり要素の少なくとも1つのすべり円板が第1の支承部品内に埋め込まれたまま保たれるようにする。すべり要素または少なくとも1つのすべり円板を埋め込まれたまま保つことによって、構造荷重から生成される圧力によりすべり材料が流動することが低減される。さらに、埋込みのタイプは、自由周縁表面のサイズに対して影響を有する。なぜなら、これは、すべりスリットの高さ、換言すれば第1の支承部品の上方のすべり要素の突出部の高さに依存するからである。
【0030】
必要な場合、少なくとも1つのスペーサが2つのすべり円板間に配置されることが好適となり得る。一般に、前記スペーサは、数ミリメートルと第1の支承部品の厚さの2倍との間の幅を有する。このようにして、一方で、流動に対して十分な支持またはすべり材料の内側埋込みが確実に保証される。他方では、圧力が確実に隣接する構成要素内に均一に分散される。
【0031】
好ましくは、すべり要素および/または少なくとも1つのすべり円板は、少なくとも部分的にすべり材料、特に熱可塑性すべり材料からなる。熱可塑性材料は、たとえば部分接触表面に細分化するための凹部を作り出すためにすでにウェブを有することができる型に容易に流し込むことができる。
【0032】
特に好ましくは、すべり要素および/または少なくとも1つのすべり円板は、少なくとも部分的にPTFE、UHMWPE、ポリアミド、および/またはそのような材料の少なくとも2つの組合せからなる。ここで、すべり要素と少なくとも1つのすべり円板は共に、純粋な形態の上述の材料から、あるいはそのような材料の2つ以上の材料混合物からなっていてもよい。また、純粋な形態のそのような材料の異なるもの、および/またはそのような材料の異なる混合物からなるいくつかのすべり円板をすべり要素に構成することも考えられる。
【0033】
本発明による建造物用すべり支承の寸法を設定するための方法は、すべり表面内の摩擦係数が、形状ファクタを考慮することによって調整されるようにする。摩擦係数、したがって建造物用すべり支承もまた、すべり材料および対向材料の選択、すべり表面の潤滑のタイプ、ならびに接触圧によって影響を受ける従来技術と異なり、本発明による手法は、接触表面の形状に影響を及ぼすことによって、すなわち材料または単位応力に影響を及ぼすことによってではなく、幾何学的パラメータに影響を及ぼすことによって、摩擦が特に調整されるということに基づく。したがって、すべり要素の接触表面形状によって、驚くほど単純に、また非常に柔軟に、摩擦係数に影響を及ぼすことができる。
【0034】
好ましくは、建造物用すべり支承の寸法設定は、すべり表面内の所望の摩擦係数が、周縁長さ、および/または接触表面の水平面内形状、および/またはすべりスリット高さ、および/またはすべり方向に対する接触表面の縁部の向きに応じて調整されるという点で実施される。摩擦係数を計算するためには、摩擦係数の計算方法において、周縁長さ、接触表面の水平面内形状、すべりスリット高さ、変位の方向に対する接触表面の縁部の向きが個々の係数を介して考慮されることが考えられる。
【0035】
本発明による方法の有利な他の発展形態は、すべり表面内の摩擦係数が、すべり要素の自由周縁表面に対する接触表面の比を考慮して形状ファクタの関数として調整されるようにする。上述のように、形状ファクタは、接触表面の面積を自由周縁表面の面積である。
【0036】
他の発展形態では、すべり要素の接触表面のサイズは、すべり表面内の所望の摩擦係数が達成されるように、形状ファクタに応じて最適化される、好ましくは最小限に抑えられる。このようにして、それぞれの応用目的のための建造物用すべり支承を、より小さく、同時により経済的なものにすることができる。
【0037】
別法として、または追加として、すべり表面内の摩擦係数の総計が形状ファクタに応じて最大化され得る。これは、支承を地震振動の絶縁のために設計しなければならない場合、特に道理にかなっている。
【0038】
好ましくは、寸法設定は、すべり表面内の材料組合せが最適化中、一定に保たれるように実施される。これは、すべり支承の単純化された寸法設定を可能にする。
【0039】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】平坦なすべり表面を有する、本発明による建造物用すべり支承の第1の例を通る断面の概略図である。
図2】湾曲したすべり表面を有する、本発明によるすべり支承の第2の例を通る断面からの詳細の概略図である。
図3】本発明によるすべり支承の第3の例を通る断面からの詳細の概略図である。
図4】本発明によるすべり支承の第4の例を通る断面からの詳細の概略図である。
図5】本発明によるすべり支承のすべり分離振り子支承として設計された第5の例を通る断面の概略図である。
図6図5に示されているすべり分離振り子支承の断面A−Aの概略図である。
図7】第6の実施形態におけるすべり円板の接触表面の平面図の概略図である。
図8】第7の実施形態におけるすべり円板の接触表面の平面図の概略図である。
図9】圧力Xの関数として摩擦係数Yを示す測定チャートの概略図である。
図10】形状ファクタおよび圧力の積の関数として摩擦係数Yを示す測定チャートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図では、同一の部分に同じ符号が使用される。
【0042】
図1は、本発明による建造物用すべり支承10の第1の例を示す。構造に関しては、基本的にEN1337に記載の建造物用すべり支承に対応する。この建造物用すべり支承は、第1の支承部品15と、そこに取り付けられたすべり要素20と、第2の支承部品25とを有する。第2の支承部品25は、この場合には、硬質クロムコーティングとして設計される対向表面55を有するが、オーステナイト鋼などのすべりプレートからなっていてもよい。第1の支承部品15および第2の支承部品25は、互いに対して変位可能に設計され、その結果、すべり要素20および対向表面55のこれらの平坦な表面の組合せから、すべり表面30が形成される。この場合には、すべり要素20は、すべり材料製の平坦なすべり円板からなり、埋込みにより第1の支承部品15内で保持される。しかし、本発明によりさらに、ここでは図示されていない水平面内でのすべりプレート20の幾何形状は星形であり、その結果、接触表面に対して比較的大きな周縁表面が確立され、それにより、円形のすべりプレートに比べて高い摩擦係数がすべり表面30内で確立される。
【0043】
図2では、湾曲したすべり表面30を有する、本発明による建造物用すべり支承10の第2の例の概略断面が示されている。また、この例は、第1の支承部品15と、プレート状のすべり要素20と、それに対して変位可能な第2の支承部品25とを有する。すべり要素20は、すべり要素20の接触表面AKを介して第2の支承部品25と接触する。ここでは、すべり要素20もまた第1の支承部品15内に埋め込まれて保持されるので、自由周縁表面AMは、周縁長さと、すべりスリットの高さh、すなわちプレート状のすべり要素20の厚さtPから埋込みの深さを引いたものの積から生じる。
【0044】
図3は、本発明による第3の建造物用すべり支承の断面の詳細である。第1の支承部品15と、対向表面55を有する第2の支承部品25とがわかる。図の第1の実施形態におけるすべり要素20は、いくつかのすべり円板35で構成される。すべり円板35は、第1の支承部品15内に埋め込まれて保持される。これが機能するために、すべり円板を互いに一定の距離で保ち、同時にすべり円板35間の内側埋込みを提供するスペーサ45が、すべり要素20のすべり円板35間に位置する。このようにして、接触表面AKは、すべり表面30内で分断され、自由周縁表面AMの割合は、すべり要素の接触表面AKにわたって増大される。そこで、すべり要素20の表面の幾何学的設計により、形状ファクタSに影響を及ぼすことができる。その結果、いくつかのすべり円板35の表面およびスペーサ45を有するすべり要素の場合、摩擦係数Yは、連続的なすべり円板に比べて増大される。挿入されたスペーサ45の代替として、材料によって閉じられた状態で第1の支承部品15上にウェブが存在することもできる。
【0045】
図4は、単一の湾曲したすべり円板35からなるすべり要素を有するすべり支承10の第4の例の断面の詳細図であり、すべり円板35の表面は、凹部40によっていくつかの部分接触表面に細分化されている。凹部40は、すべり円板35の表面を分断するように、すべり円板35の表面に適用される。このようにして、すべり表面30内の接触表面AKは細分化され、それぞれすべり円板35またはすべり要素20の自由周縁表面AMのサイズが増大される。このようにして、それぞれすべり円板35またはすべり要素20の表面の幾何学的設計により、形状ファクタSに影響を及ぼすことができる。その結果、摩擦係数Yが増大される。
【0046】
図5では、2つのすべり表面30と、それぞれが接触表面AKを有する2つのすべり要素20とを有するすべり分離振り子支承が示されている。すべり要素20のどちらの接触表面も、それぞれのすべり表面30内で所望の摩擦係数が確立されるように設計され得る。すべり要素20の1つは、いくつかのすべり円板35からなる。交差線A−Aが前記すべり要素20を通過し、すべり要素20およびすべり円板35を通る断面を示す。
【0047】
図6は、図5に示されているすべり要素20を通る線A−Aに沿った断面を示す。前記断面では、2つの外側のすべり円板35が環形状を有し、内側のすべり円板35が円形形状を有するいくつかのすべり円板35がわかる。図6では、外側のすべり円板35を含み埋め込む第1の支承部品15もわかる。さらに、個々のすべり円板35は、スペーサ45によって均等に離隔されて保たれる。したがって、スペーサ45は、すべり円板35で構成されたすべり要素20の内側埋込みを生じ、その結果、従来のようにして支承部品15内で完全に保持され得る、すなわち埋め込まれる。スペーサ45の上で突出するすべり円板35の部分は、自由周縁表面AMとして働き、したがって形状ファクタSに影響を及ぼす。すべり要素20の図示されている表現に加えて、すべり要素20が、環形状の、または円形状のすべり円板35で構成されるだけでないことも考えられる。むしろ、すべり円板35は、任意の形状をとり、任意に形作られたすべり要素20を形成してもよいことが考えられる。
【0048】
図7では、単一のすべり円板35からなるすべり要素20の他の例が示されている。周縁形状の変形形態に加えて、すべり表面30内の接触表面AKとして第2の支承部品25に接触するすべり円板の表面もまた、変わることがある。図7では、凹部40を有するすべり円板35が示されており、その結果、接触表面AKは、いくつかの部分接触表面50で構成される。図の例では、部分接触表面50は円形である。ここで、部分接触表面50の和は、すべり円板の接触表面AKを形成する。さらに、すべり円板35に対する凹部40の適用により、部分接触表面50が凹部の上方に突出する。このようにして、すべり円板35の自由周縁表面AMが増大され、そのようなすべりプレートの摩擦が、連続的な接触表面を有するものに比べて増大されるように形状ファクタSが影響を受ける。
【0049】
図8は、直線溝または環の形態で凹部40がすべり円板35に適用される、本発明によるすべり円板35の他の例を示す。このようにして、すべり円板35の接触表面AKは、環形状の面および/または円に細分化することができ、ならびに環状セグメントおよび/または円セグメントを形成することができる。
【0050】
図9は、すべり材料UHMWPE製の潤滑なしの円形のすべり要素20を有する建造物用すべり支承10が調査された試験シリーズの測定結果が説明されている。一定のすべりスリット高さでの試験シリーズ中、一方で、円形のすべり要素の直径が、またすべり要素の圧力が変えられた。一方で、同じ圧力での80mmの直径のすべり要素は、直径120mmの比較可能な円形のすべり要素より著しく高い摩擦係数を有することが証明された。直径120mmの円形のすべり要素は、直径300mmの比較可能な円形のすべり要素より著しく高い摩擦係数を有する。また、増大する圧力において一定の直径を有する円形のすべり要素についての摩擦係数は減少することがわかる。明らかに、接触表面AKの中央と縁部でのすべり材料の異なる変形特性は、すべり抵抗に影響を及ぼす。円形のすべり要素の直径が増大するにつれて、接触表面AKは、自由周縁表面AMに対して不釣り合いに増大する。それに応じて、摩擦係数は減少する。
【0051】
実際には、たとえばこの現象を使用し、接触表面AKを、その和において同じ接触表面AKを有するいくつかの部分接触表面50に細分化することによって、同じ接触表面AKを有するすべり要素20について摩擦係数Yを増大することができる。しかし、このようにして自由周縁表面のサイズが増大されるので、それに応じて建造物用すべり支承の摩擦係数が増大される。
【0052】
図10は、試験で決定された一定の圧力Xにおける摩擦係数と形状ファクタSとの関係を示し、横軸は、形状ファクタSの0.6乗に圧力Xを乗じた積を示す。試験では、形状ファクタの増大、すなわち自由周縁表面AMに対する接触表面AKの割合が増大するにつれて、摩擦係数Yが減少することが示された。試験結果より、試験されたUHMWPEについての摩擦係数Yが、たとえば以下のように、形状ファクタSと圧力Xの関数として十分正確に与えられることが示されている。
Y=34*S-0.78*X-1.3+0.02
【0053】
示されている式では、形状ファクタSは無次元である。しかし、圧力Xは、指数により、次元を有する。したがって、図の関係は、[N/mm2]単位の圧力の入力を必要とする。形状ファクタSは、以下のように計算される(Uは、接触表面AKの周縁長さである)。
S=AK./.AM=AK./.(U*h)
【0054】
直径D1の円形のすべり要素を直径D2の4つの円板によって置き換えるときについて、形状ファクタの効果が示されており、ここでD2=(1/2)D1である。
【0055】
同一の接触表面AKの場合、形状ファクタは、4つの個々の円板に細分化することによって半分になることが判明している。この実際的な例では、そのような細分化により、すべり表面の摩擦を、材料特性の変更なしに最大60%だけ増大することができ、または、接触表面AKの削減の結果として、ほぼ2倍の圧力で同じ摩擦係数を達成することができる。これにより、建造物用すべり支承でより高いエネルギー散逸が可能になる。あるいは、前記効果を使用し、同じ摩擦係数ですべり接触表面AKを著しく削減し、したがって建造物用すべり支承をより経済的なものにすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 建造物用すべり支承、 15 第1の支承部品、 20 すべり要素、 25 第2の支承部品、 30 すべり表面、 35 すべり円板、 40 凹部、 45 スペーサ、 50 部分接触表面、 55 対向表面、 Y 摩擦係数、 AK 接触表面、 AM 自由周縁表面、 S 形状ファクタ、 h すべりスリットの高さ、 X 圧力、 tP すべり要素25またはすべり円板35の厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10