【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の一実施例である身体運動計測装置10の外観を説明する図である。この身体運動計測装置10は、本体部12と、その本体部12とケーブル18により電気的に接続された電気刺激部14の電極16と、本体部12とケーブル24により接続された磁気センサ20のセンサヘッド22を主として含んで構成される。なお、本実施例においては
図1などに示す様に、正極および負極の2つの電極16が設けられている。また、本体部12にはタッチパネル30が設けられており、必要な情報が表示されるとともに、身体運動計測装置10の作動に関する必要な操作を行なうことができるようになっている。すなわち、タッチパネル30は操作入力部および表示部として機能する。また、本体部12は電源ケーブル28が接続されており、身体運動計測装置10の作動に必要な電気が供給される。なお、これは一例であって、身体運動計測装置10に必要な電気は図示しない電池、二次電池などによって供給されることもできる。
【0016】
前記センサヘッド20からの出力は、プリアンプ26を介して本体部24に供給されるようになっている。このプリアンプはセンサヘッドから例えば200mm程度の所定距離以上離して設けられるもので、プリアンプ26においては必要な増幅が行なわれる。後述する様に、ケーブル24には磁気センサ20を駆動するためのケーブル、磁気センサ20の出力信号を出力するためのケーブル、プリアンプ26を駆動するためのケーブルなどが含まれる。また、ケーブル18、ケーブル24はそれぞれ、あるいはケーブル18と24とがまとめて一本のケーブルに複数の線が束ねられた複合ケーブルとして設けられてもよい。また、センサヘッド22からの出力が伝達されるケーブルについては、信号の減衰を防止するために好適には同軸ケーブルが用いられる。
【0017】
電極16はパッド状の一対の電極であり、自己粘着性を有しており、被
験者の特定の部位に貼り付けられる。後述する電気刺激回路部40から電流が供給されると、貼り付けられた部分を介して被
験者にその電流を流すことができる。
【0018】
図2は、本発明の本体部に設けられる回路部34の有する機能の概要を説明する機能ブロック図である。この回路部34は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより磁気センサ20の駆動や磁気センサ20から得られた信号の処理、電気刺激部14の駆動などの処理を実行するようになっている。また、回路部34は入出力インタフェース32を介して前述の操作入力部および表示部としてのタッチパネル30と接続されている。
【0019】
回路部34は、センサ駆動回路部36、センサ検出回路部38、電気刺激回路部40、制御回路部42、および、信号処理部44を機能的に含んで構成されている。このうちセンサ駆動回路部36は、前述のセンサヘッド22、プリアンプ26、センサ検出回路部38などとともに磁気センサ20を構成する。また、制御回路部42は、これら回路部34の全体の作動を制御するためのものであって、例えば前記タッチパネル30を介した入出力や、センサ駆動回路部36、センサ検出回路部38、電気刺激回路部40、信号処理部44のそれぞれが必要な情報の受け渡しをするなど、協調して作動するための制御を行なう。
【0020】
図3はセンサヘッド22の構成の一例を説明する図である。
図3に示すセンサヘッド22は、いわゆる磁気インダクタンスセンサ(MIセンサ)であり、後述するパルスジェネレータ62から供給される駆動電流(励磁電流)Peが流されるためのMI素子52と該MI素子52の周囲の磁界を計測するための検出コイル54とを含んで構成されている。この検出コイル54は、MI素子52によって生ずる磁界変化を検出することができる位置に数百〜数千回巻き回されて設けられており、
図3の例においてはソレノイド状のコイル54の中心をMI素子52が突き抜けるように配設されている。後述するパルスジェネレータ62とセンサヘッド22のMI素子52とは電気的に接続されており、パルスジェネレータ62から出力された駆動電流Peは、MI素子52を流れるようになっている。MI素子52は例えば10mm程度の長さのアモルファスワイヤなどの磁気異方性材料により構成されている。そのため、駆動電流PeがMI素子52に流されるとその表皮効果により検出コイル54に一過性の誘導起電力波形を生ずることとなる。センサヘッド22の検出コイル54の出力Ocoil(以下、センサヘッド22の出力Ocoilともいう。)はそれぞれ後述するACカップル器64に入力される。
【0021】
図4は、センサ駆動回路部36、センサ検出回路部38の構成の一例を説明する図である。センサ駆動回路部36は、クロック回路60、パルスジェネレータ(パルスゲート)62を含んで構成されている。また、センサ検出回路部38は、ACカップル器64、アンプ66、ACカップル器68、ロックインアンプ70、ローパスフィルタ72などを含んで構成されている。
【0022】
このうち、クロック回路60は後述するパルスジェネレータ62やロックインアンプ70の差動のタイミングを決定するためのクロック信号をそれらに供給する。クロック回路60としては、繰り返し時間の精度が高く、好適には5桁以上の精度を持って正確に繰り返すファンクションジェネレータなどがクロックとして使用される。このクロック回路60において、クロック信号の繰り返し時間を可変にする事により、適切な励起効率を得ることが出来る。なお、このクロック回路60はセンサ駆動回路部36に設けられても良いし、回路部34内のいずれかに設けられてクロック信号がセンサ駆動回路部36に供給されるものであってもよい。
【0023】
パルスジェネレータ62は、前記センサヘッド22を駆動するためのパルス状の駆動電流Peをセンサヘッド22に供給するためのもので、図示しない電源部によって供給された電力により作動する。またパルスジェネレータ62は前記クロック回路60から出力されたクロック信号に基づいて駆動電流を反復的に出力する。この駆動電流Peは、地磁気などの影響を考慮して、例えば5V、100ns程度のパルスが0.25乃至1MHz程度の周波数とされる。
【0024】
センサヘッド22の出力OcoilはACカップル器(バンドパスフィルタ)64に入力され、例えば10kHzから100MHz程度のカップリングが行われる。そして、アンプ66において所定の増幅率による増幅が行われる。このアンプ66には、好適には例えば2MHz以上の信号伝達が可能な高速アンプが用いられる。
【0025】
アンプ66の出力は、更にACカップル器68によりクロック回路60のクロック周波数(繰り返し周波数)に適合した所定のバンドパスフィルタによる処理が行われ、さらにロックインアンプ70に入力される。ロックインアンプ70には前述のクロック回路部60からクロック信号が供給されるようになっており、ロックインアンプ70はアンプ66によって増幅されたセンサヘッド22の出力Ocoilの振幅を、クロック回路60のクロック信号と同期して検出する。具体的には検出した振幅、すなわちピーク値を連続的に出力する。そしてこの出力は、所定のオフセット電圧だけオフセットされた後に所定の増幅率、例えば1000倍程度に増幅される。このロックインアンプ70の出力は、さらにローパスフィルタ72により高周波成分が取り除かれた後、センサ検出回路部38の出力信号、すなわち磁気センサ20の出力信号とされる。なお、好適には、このように生成した出力信号だけではなく、前記オフセット電圧や、検出位相(ディレイ時間)についても併せて出力するようにしてもよい。
【0026】
なお、
図4の例においては、センサ駆動回路部36、センサ検出回路部38を構成する部材のうち、パルスジェネレータ62、センサヘッド22、ACカップル器64、およびアンプ66が一つの筐体に収められて、センサプローブとされることも可能である。
【0027】
図5は、本実施例における電極16、センサヘッド22の被
験者への取付例を説明する図である。本実施例においては、麻酔中の筋弛緩効果の判定を行なうための身体運動計測装置を一例として、電極16は前腕部の尺骨神経を刺激することができる位置である電極取付部位8に貼り付けられる。一方、前記尺骨神経を刺激した場合には、母指の内転筋が動作するので、例えば母指の先端近くであるセンサ取付部位9に固定される。センサヘッド22はセンサ取付部位9に貼り付けることによって固定されてもよいし、ベルト等の固定具によって固定されてもよい。この実施例における母指が、本発明の身体可動部に対応する。この場合、電極16に流される電流は、閾値上刺激、すなわち、最大筋収縮を生ずるのに必要な強度以上の出力のものとされる。
【0028】
また、
図5に示す様に、母指の動作する範囲(可動域)の近傍には、環境磁界生成装置6が設けられ、その環境磁界生成装置6によって、母指の可動域を含む近傍に一様な平行磁界が環境磁界として存在している。この環境磁界生成装置6は例えば永久磁石であってもよいし、あるいは電磁石であってもよい。また、前記母指の可動域における一様な平行磁界として地磁気が利用できる場合には、特に環境磁界生成装置6を設けることをせず、その地磁気を利用するものであってもよい。
【0029】
図2に戻って、電気刺激回路部40は、電極16が貼り付けられた前記被
験者の所定部位に与える電流を発生させる。この電流は、例えば電圧が300V、電流が0〜60mA、パルス幅が200μsecのようなものであって、既存の刺激の種類に対応する電流がDAコンバータなどにより発生される。既存の刺激とは、例えば筋弛緩効果のモニタリングに用いられる刺激パターンである、単一刺激、50〜200Hzの早い連続した刺激であるテタヌス刺激、あるいは、Train of Four(TOF;連続4回刺激法)と呼ばれる2Hz2秒間の4回の刺激などが該当する。例えば、予め複数の電流のパターンを準備しておき、操作者により前述のタッチパネル30を用いて選択された電流が出力される様にしても良いし、あるいはタッチパネル30を用いて入力した任意の周波数、長さ、電流などによって設定されたパターンの電流が出力されてもよい。
【0030】
この電気刺激回路部40には例えば、回路を駆動するための電流と、前記電極16に供給される電流のもととなる電流がそれぞれ供給される。また、電気刺激回路部40は、好適には感電対策が行なわれると共に、例えば同時に使用され得る機器、例えば電気メスや除細動器などの影響を受けないように設計される。
【0031】
信号処理部84は、磁気センサ部20の出力信号に基づいて様々な処理を行なうものであって、センサ信号処理部88、運動評価部92、筋弛緩評価部94などを機能的に有している。
【0032】
このうちセンサ信号処理部88は、センサ検出回路38の出力信号に基づき、センサが取り付けられたセンサ取付部位9、すなわち親指の動きを示す数値に変換する処理を行なう。具体的には、磁気センサ20は、その磁気センサ20の周囲における前記環境磁界、すなわち一様な平行磁界に対して、平行とされた場合に最大の出力(電圧)を生じ、環境磁界との角度が大きくなるほどその出力が小さくなる様にされている。言い換えれば、磁気センサ20の出力値は、その磁気センサ20と環境磁界とがなす角度に対応した値である。従って、磁気センサ20の出力値の1階時間微分処理を行なった値は、磁気センサ20と環境磁界とがなす角度の変化速度に対応した値であり、磁気センサ20の出力値の2階時間微分処理を行なった値は、磁気センサ20と環境磁界とがなす角度の変化加速度に対応した値である。なお、このセンサ信号処理部88における処理は前述の様にいわゆるコンピュータによって実現される場合においては、微分処理は微小時間間隔における差分処理として実行されてもよい。
【0033】
また、センサ信号処理部88は、角度算出部90を機能的に有している。この角度算出部は、前記磁気センサ20の出力に基づいて、磁気センサ20の環境磁界に対する角度を算出する。磁気センサ20の出力Zは、前述の通りセンサ取付部位9の環境磁界に対する角度θに伴って変化するものであり、具体的には、
Z=F×cos θ
の関係となる。これは、本実施例の磁気センサ20として用いられるMIセンサにおいては、磁気センサ20の出力Zは、センサ周囲の磁束密度ベクトルの感度軸方向成分の大きさに比例するためである。また、Fはθ=0、すなわち磁気センサ20の向きと、環境磁界の向きとが平行の場合に出力される磁気センサ20の出力である。この値は、予めキャリブレーションを目的として実際に磁気センサ20を環境磁界の向きと平行になる様に設置して計測することなどによって得られる。なおFは、磁気センサの身体筋肉に沿った角度運動が同一平面内で行われるという仮定の下で、測定値全体の中の絶対値が最大値である値を抜き出してもよい。すなわち、ある磁気センサ20の出力Zにおける、磁気センサ20の向きと環境磁界の向きとの角度θは、
θ=arccos (Z/F) ・・・(1)
となる。角度算出部90は、この関係を用いることにより、磁気センサ20の出力Zを磁気センサ20と環境磁界との角度θ(rad)に時系列的に変換する。なお、磁気センサ20の向きとは、本実施例のように磁気センサ20としてMIセンサが用いられる場合には、その磁性材料52の向きである。
【0034】
そして、センサ信号処理部88は、角度算出部90によって算出された磁気センサ20の回転角度Yの1階時間微分、および、2階時間微分を算出することによりセンサ取付部位9の回転面の角度の影響を考慮した角速度、および、角加速度をそれぞれ算出することができる。
【0035】
図6は、(a)磁気センサ20の出力Z、(b)角度算出部90によって算出される磁気センサ20の環境磁界に対する角度θ、および、(c)センサ信号処理部88によって算出されるその2階微分の値のそれぞれを時系列的に示した図である。具体的には、被検者の左手首の電極取付部位8に電極16を、左母指のセンサ取付部位9にセンサヘッド22を取り付け、電流30mA、時間幅200μsecの電気刺激を0.5秒おきに4回連続で印可した場合に対応している。
【0036】
図6(a)に示す様に、磁気センサ20の出力Zとして、センサ周囲の磁束密度ベクトルの感度軸方向成分の大きさに比例した値が出力される。
図6(a)は、電気刺激部14による電気刺激によって母指の運動に伴って、振幅約1(V)のスパイク上の波形が観測されている。
図6(b)は、角度算出部90によって算出される磁気センサ20の環境磁界に対する角度θを表している。この例においては磁気センサ20と環境磁界との向きが一致した(平行となった)場合のセンサ20の出力Zの値Fは、F=2.96(V)であり、これと
図6(a)のように得られたデータとを上記(1)式に適用することにより得られたものである。
図6(b)に示す様に、磁気センサ20は電気刺激によって約−0.04(rad)回転していることがわかる。
図6(c)は磁気センサ20の角度の時間変化を2階微分したものであって、磁気センサ20の角加速度に対応する値である。
図6(c)に示す様に、この例においては、電気刺激にともなうセンサ取付部位9の動作は、負のスパイク状の波形T1〜T4として観測されている。なお、センサ20の角度とセンサ取付部位9との相対的な角度は、その取付状態に依存するものであり、例えば、本実施例において説明した様にセンサ取付部位9が母指である場合には、その長手方向に磁気センサ20の向きが向く様に取り付けた場合には、センサ20の向きとセンサ取付部位9である母指の向きとは同一である。
【0037】
図2に戻って、信号処理部84の運動評価部92は、前記センサ信号処理部88において処理された磁気センサ20の出力信号に基づいて、被
験者の運動を評価する。具体的に本実施例においては、運動評価部は、磁気センサ20の回転加速度についての値の時間変化において、電気刺激部14による刺激に伴って生じた変化を特定し、そのピーク(極値)における波高の絶対値を算出する。なお、運動評価部92は、例えば前記電気刺激部14が電気刺激を行なった時刻についての情報を電気刺激部14などから得ることにより、その時刻から例えば0.1sec以内のように所定時間内に生じた前記回転加速度の変化を、対応する電気刺激部14による刺激に伴って生じた運動であると推定する。逆に、電気刺激部14による刺激を行なった時刻から前記所定時間内に前記回転加速度の変化が生じなかった場合には、当該刺激によっては運動は生じなかったと判定する。例えば前記ピークの波高の絶対値がベースラインの3σの場合には、ピークが生じなかったものと判定する。また、前記所定時間は、例えば通常の状態、すなわち、麻酔のされていない状態にある被
験者に電気刺激を与えた場合に、センサ取付部位9に運動が生じるのに平均的な時間として実験的に得られるものである。なお、以下の説明においては、磁気センサ20の回転加速度におけるピークを、単にピークと呼ぶことがある。
【0038】
信号処理部84の筋弛緩評価部94は、電気刺激部14において前述のように既存の刺激パターンにより電流が発生される場合に、その刺激パターンに応じて前記運動評価部92の評価結果をさらに評価する。例えば、本実施例の身体運動計測装置10がTOFモードと呼ばれるモードで作動させられる場合、前述のTOFと呼ばれる刺激パターンが選択される。筋弛緩評価部94は、前記運動評価部92によって特定された、前記磁気センサ20の回転加速度の時間変化におけるピークについて、その刺激パターンに含まれる4回の刺激のそれぞれへの対応づけを行なう。この対応づけは、前述の様に、刺激を行なってから予め定められた所定時間内にピークが生じたことに基づいて行なわれる。そして、4回の刺激のそれぞれに対応するピークが存在すると判断された場合には、4回の刺激のうち最初の刺激に対応するピーク(
図6(c)の例においてはT1)の大きさに対する、4回目の刺激に対応するピーク(
図6(c)の例においてはT4)の大きさの比率を算出し、出力手段としてのタッチパネル30に表示させる。一方、4回の刺激のすべてに対応するピークが存在しなかった場合には、連続検出したピークの数としてTOF反応数を表示させる。3回目の刺激に対応するピークまで検出された場合、すなわち、4回目の刺激に対応するピークのみ検出されなかった場合にはTOF反応数はT3であり、2回目の刺激に対応するピークまで検出された場合、すなわち、3回目の刺激以降に対応するピークが検出されなかった場合にはTOF反応数はT2となる。また、いずれの刺激に対応するピークも検出されなかった場合にはTOF反応数はT0となる。
【0039】
また、PTC(Post Tetanic Count)モードと呼ばれるモードで本実施例の身体運動計測装置10が作動させられる場合には、電気刺激部14からは、まず、1Hzの電気刺激を15回発生させ、その15回の刺激に対して前記ピークが検出されなかった場合に、50Hz、5秒間のテタヌス刺激を発生させる。その5秒後に1Hzの電気刺激を15回再度発生させる。筋弛緩評価部94は、再度発生された15回の刺激に対して何回のピークを検出できたかをカウントし、タッチパネル30に表示する。
【0040】
また、1Hzモードと呼ばれるモードで本実施例の身体運動計測装置10が作動させられる場合には、電気刺激部14からは、まず、1Hzの電気刺激が発生される。筋弛緩評価部94は、その刺激の1秒以内に発生した前記ピークについて、前記運動評価部92によって計測されたピークの大きさを表示する。
【0041】
図7は、前記タッチパネル30の表示例を説明する図である。左上の動作モード領域102においては、電気刺激の開始/停止を制御するためのボタンが表示されるとともに、身体運動計測装置10の選択可能な動作モードがそのモードを選択するためのボタンとして表示される。
【0042】
なお、
図7の動作モード領域102における最大上刺激設定モードとは、最大上刺激(supramaximal stimulus)の大きさを設定するためのモードである。具体的には次の様に作動する。まず、電流20mAの刺激を1回発生させ、前記ピークの発生により動作を確認する。次いで、60mAで1Hzの刺激を5回発生させ、それらに対するピークの大きさがその平均の±5%以内であるかを確認する。不安定、すなわち±5%を上回る場合には本モードを終了する一方、安定、すなわち±5%以内である場合には、最後の1回の刺激に対するピークの大きさを100%として記憶する。その後5mAずつ電流値を下げながら1Hzの刺激を1回ずつ発生させ、その刺激に対するピークの大きさが90%となった時の電流値を最大刺激電流値として記憶する。さらに60mAで1Hzの刺激を5回発生させ、それらの刺激に対するピークの大きさがその平均の±5%以内であるか否かを確認する。±5%以内である場合には、最大刺激電流値の110%の電流値を最大上刺激電流値として設定する。
【0043】
また、キャリブレーションモードとは、電気刺激部14による刺激の発生をすることなく、センサヘッド22を様々な方向に向けることにより、その環境における磁気センサ20の出力の最大値を検出し、記憶するためのものである。このモードにより検出された最大値は前述のFの値として利用される。前述したようにFは、磁気センサの身体筋肉に沿った角度運動が同一平面内で行われるという仮定の下で、測定値全体の中の絶対値が最大値である値を抜き出してもよい。その場合はキャリブレーションモードを用いることなく測定を実行することができる。
【0044】
また、
図7の電流表示・設定領域104においては、現在の電気刺激の電流値が表示されるとともに、上下キーが表示され、そのキーをタッチすることにより電流値の変更が可能とされている。
【0045】
また、表示領域104、106、108においては、それぞれ、TOFモードで測定された値、TOF反応数、あるいは他のモードでの測定・評価結果や現在の測定の進行状況、設定内容などが必要に応じて表示されるようになっている。
【0046】
本実施例の身体運動計測装置10によれば、磁気センサ20のセンサヘッド22が被験者の身体可動部の体表面であるセンサ取付部位9に配設され、周囲の磁界に対して前記身体可動部が運動する際に生じる磁気信号の時間変化が検出される。そして、前記信号処理部84により、前記磁気センサ20によって検出される前記磁気信号の時間変化に基づいて前記身体可動部の動作が検出されるので、磁気センサ20を用いた被験者の運動を精度よく検出および計測することが可能となる。ここで、前記周囲の磁界は、環境磁界、もしくは、前記身体可動部近傍に配設される磁場生成装置6によって形成される局所的な勾配磁界であるので、被験者のセンサ取付部位9に配設されたセンサヘッド22は、被験者の運動に伴って好適に磁界の変化を検出することができる。
【0047】
また、本実施例の身体運動計測装置10によれば、前記信号処理部48は、前記磁気センサ20によって検出される磁気信号、もしくは、前記磁気センサ20によって検出される磁気信号と前記周囲の磁界の方向の磁気信号との強度の比の逆余弦関数に基づいて得られる角度を、1階時間微分処理もしくは2階時間微分処理を行うセンサ信号処理部88と、該センサ信号処理部88において処理された信号のピークおよびその前後における変化に基づいて、被験者の運動を評価する運動評価部92と、を有するので、前記磁気センサ20によって検出される磁気信号と前記周囲の磁界の方向の磁気信号との強度の比の逆余弦関数に基づいて得られる角度に基づいて前記被
験者の身体可動部の動作における加速度に対応する数値を得ることができるとともに、その加速度に関連する数値のピークおよびその前後における変化に基づいて被
験者の運動を評価することができる。
【0048】
また、本実施例の身体運動計測装置10によれば、前記被験者の筋肉に電気刺激を与える電気刺激部14を備え、前記磁気センサ20は、該電気刺激部14によって刺激される筋肉の反応に伴って動く身体可動部のセンサ取付部位9に配設されるので、前記電気刺激部14によって前記被
験者に対して電気刺激を与えることによって生ずる反応としての被
験者の身体可動部の動作を検出することができる。
【0049】
また、本実施例の身体運動計測装置10によれば、前記信号処理部84は、前記電気刺激部14による電気刺激と、前記運動機能評価部92において評価される前記被験者の運動とに基づいて、前記被験者の筋弛緩の深度を評価する筋弛緩評価部94を有するので、既知の筋弛緩評価方法に基づいて前記電気刺激部14により被
験者に電気刺激を与えるとともに、前記磁気センサ20によりその電気刺激に対する被
験者の身体可動部の動作を検出し、前記筋弛緩評価部94によりそれを評価することにより、既知の筋弛緩評価方法をより精度よく実施することができる。
【0050】
続いて、本発明の別の実施例について説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0051】
前述の実施例においては、角度算出部90は、磁気センサ20の出力Zとその最大値Fとの比を逆余弦関数に適用することによって、環境磁界に対するセンサヘッド22の角度を得た。一方、本実施例においては、角度算出部90は、実施例1における方法に代えて、身体可動部である母指の回転面と環境磁場とがなす角度Xを考慮することにより、センサヘッド22の回転角をより精度よく得るものである。以下、具体的に説明する。
【0052】
図8は、前記環境磁界生成装置6によって生じる環境磁界のモデルを説明する図である。
図8に示す様に、母指の回転面と環境磁場とがなす角度X(rad)と、母指の回転角度Y(rad)に対して磁気センサの出力Z(V)が、
Z=2.8×(cos X)×(cos Y) ・・・(2)
となるように定められている。ここで、2.8は装置固有の係数K(装置係数)である。
【0053】
また、センサ信号処理部88は、角度算出部90を機能的に有している。この角度算出部は、前述の環境磁界生成装置6によって前記(2)式に示す様な環境磁界モデルが生成されている場合に、前記磁気センサ20の出力に基づいて、センサ取付部位9の回転角度Yを算出する。この算出は次の様に行なわれる。まず、前述の様に、センサ取付部位9の回転面と環境磁場とがなす角度X(rad)、母指の回転角度Y(rad)、および、磁気センサの出力Z(V)に対して、環境磁界モデルが前記(2)式で表されており、センサ取付部9の回転前すなわちY=0における磁気センサ20の出力ZがZ=Z
0である場合、
Z=F×cos X×cos 0=F×cos X
であるので、
cos X=Z
0/F ・・・(3)
となる。上記(2)式および(3)式より、
Z=F×cos Y×Z
0 /F=cos Y×Z
0
となって、
cos Y=Z/Z
0 ・・・(4)
すなわち、
Y=arccos(Z/Z
0) ・・・(5)
である。角度算出部90は、この(5)式の関係を用いることにより、磁気センサ20の出力Zを磁気センサ20の回転角度Y(rad)に時系列的に変換する。ここで、前記Y=0における磁気センサ20の出力Z
0 の値は、例えば事前にキャリブレーションを行なうことなどによって得る、または磁気センサの身体筋肉に沿った角度運動が同一平面内で行われるという仮定の下で、測定値全体の中の絶対値が最大値である値を抜き出して得ることができる。
【0054】
そして、センサ信号処理部88は、角度算出部90によって算出された磁気センサ20の回転角度Yの1階時間微分、および、2階時間微分を算出することによりセンサ取付部位9の回転面の角度の影響を考慮した角速度、および、角加速度をそれぞれ算出することができる。
【0055】
図9は、上記角度算出部90によって算出される磁気センサ20の回転角度Yの時間変化の一例を示す図であって、センサ取付部位9の回転面と環境磁場とがなす角度Xを考慮しないで算出した場合の値と比較した図である。
図9の上側に示された値(左目盛り)は、センサ取付部位9と環境磁場とがなす角度の変化を示す一方、
図9の下側に示された値(右目盛り)は、磁気センサ20の回転角度Yを表すものである。このように、角度算出部90によって得られる値を用いることで、磁気センサ20の回転角度Y、すなわちセンサ取付部位9の回転をより精度よく把握し得る。
【0056】
前述の実施例によれば、前記角度算出部90において、センサヘッド22、すなわち身体可動部である母指の回転面と環境磁場とがなす角度Xを考慮することにより、センサヘッド22の回転角をより精度よく得ることができる。
【0057】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0058】
例えば、前述の実施例においては、磁気センサ20としてMIセンサが用いられたがこれに限られない。一様な磁界に対して角度が変化するのに伴って出力信号が変化する磁気センサであれば本発明に適用可能である。具体的には、ホール素子、フラックスゲートなどが用いられてもよい。
【0059】
また、前述の実施例においては、センサ信号処理部88は、センサ出力(もしくはその回転角度への換算値)の2回時間微分、すなわち角加速度に関連する値を算出し、運動評価部92、筋弛緩評価部94はそれに基づいてセンサ取付部位9である母指の運動を評価したが、これに限られない。例えば、センサ出力(もしくはその回転角度への換算値)の1回時間微分、すなわち角加速度に関連する値を算出し、それに基づいてセンサ取付部位9である母指の運動を評価することもできるし、微分しない値を用いる場合であっても、それに基づいてセンサ取付部位9の運動の評価をすることもできる。
【0060】
また、前述の実施例においては、単一のセンサヘッド22を有する磁気センサ20が用いられたが、これに限られず、複数のセンサヘッド22を有する磁気センサ20であってもよい。特にこれら複数のセンサヘッド22が相互に直交する成分を検出可能であれば、センサ取付部位9の動作を3次元に検出することができる。また、一のセンサヘッド22が環境磁界の向き対して直交するような場合においても、良好にセンサ取付部位9の動作を検出、評価することができる。
【0061】
また、前述の実施例においては、身体運動計測装置10が筋弛緩状態の評価に用いられることを前提として、その運動評価部92は、センサ取付部位9に対応する身体の可動部の動作を、センサヘッド22の回転加速度における電気刺激タイミングに対応するピークの絶対値の大きさやピークの有無により評価したが、これに限られない。例えば、電気刺激からピーク発生までの時間など、様々な評価が可能である。
【0062】
また、前述の実施例においては、身体運動計測装置10が筋弛緩状態の評価に用いられることを前提として、電極取付部位8が例えば左手の尺骨神経に対応する部位とされ、センサ取付部位9が左手の親指とされたが、このような用途や態様に限定されない。具体的には例えば、首の筋肉の動作を評価することにより被
験者の嚥下機能を評価することも可能であるなど、筋肉の動作を検出・評価するのに広く用いられ得るものである。この場合、必ずしも電気刺激部14は必要とされない。また、従来筋電計により筋電図を測定していた場合に、これに代えて本発明の身体運動計測装置10を用いることも可能である。この場合、筋電計を用いた検査のためには、筋肉に針を刺すことが必要であったが、本発明の身体運動計測装置によればその必要がなく、非侵襲により測定できる。
【0063】
また、前述の実施例においては、身体運動計測装置10は、タッチパネルとしての表示部30を出力手段として有していたが、それに代えて、あるいはそれに加えて、音声、点滅・点灯光などによって必要な報知を行なう出力手段を有していてもよい。