(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記歪分布の計測を行った後、前記光ファイバーケーブルの端部を前記歪分布計測装置から取り外し、前記構造体に設けたスイッチボックス内に配置することを特徴とする請求項5記載の緊張管理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緊張材の緊張時には、緊張材と周囲との摩擦により緊張力のロスが生じる。そのため、緊張時には摩擦係数のバラつきの範囲を設定して摩擦によるロス分を考慮した緊張力の管理が行われているが、ケーブル長や曲げ角度が大きいとバラつきが想定より大きくなる場合もあった。
【0006】
特許文献1の方法では磁歪式センサーによる計測値を管理に用いることができるが、磁歪式センサーを設置した箇所のみの局所的な応力しか把握できないという問題がある。緊張材の全長に沿った応力分布を把握できれば、ケーブル長と曲げ角度に応じた摩擦係数が評価できるため高精度な管理が可能になるが、磁歪式センサーでは緊張材の長手方向に沿った全体的な応力分布を把握することができず、また設置費用が高額であるため計測箇所を絞らざるを得ないという欠点もあった。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、緊張管理を好適に行うことができる緊張管理システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、
第1の緊張材の長手方向に沿って取り付けられた光ファイバーケーブルと、光ファイバーケーブルの光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測する歪分布計測装置と、前記
第1の緊張材の緊張時の前記歪分布から前記
第1の緊張材が受ける摩擦に関する摩擦情報を算出する摩擦情報算出装置と、
光ファイバーケーブルを有しない、前記第1の緊張材とは別の第2の緊張材の緊張を、前記摩擦情報に基づいて定めた緊張力にて行うジャッキと、を含むことを特徴とする緊張管理システムである。
第2の発明は、緊張材の長手方向に沿って取り付けられた光ファイバーケーブルと、光ファイバーケーブルの光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測する歪分布計測装置と、前記緊張材の緊張時の前記歪分布から前記緊張材が受ける摩擦に関する摩擦情報を算出する摩擦情報算出装置と、前記緊張材の周囲への充填材の充填前と充填時の少なくともいずれかにおける前記歪分布から前記緊張材の周囲の温度に関する温度情報を算出する温度情報算出装置と、当該歪分布の計測値に基づいて加熱を行う、前記緊張材の周囲の温度確保用の温度確保手段と、を含むことを特徴とする緊張管理システムである。
【0009】
第1の発明の前記
第1、第2の緊張材は、例えば緊張により構造体にプレストレスを加えるものである
。
【0010】
第
3の発明は、光ファイバーケーブルを長手方向に沿って取り付けた
第1の緊張材の緊張時、歪分布計測装置により光ファイバーケーブルの光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測し、摩擦情報算出装置により、前記
第1の緊張材の緊張時の前記歪分布から前記
第1の緊張材が受ける摩擦に関する摩擦情報を算出
し、光ファイバーケーブルを有しない、前記第1の緊張材とは別の第2の緊張材の緊張を、前記摩擦情報に基づいて定めた緊張力にて行うことを特徴とする緊張管理方法である。
第4の発明は、光ファイバーケーブルを長手方向に沿って取り付けた緊張材の緊張時、歪分布計測装置により光ファイバーケーブルの光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測し、摩擦情報算出装置により、前記緊張材の緊張時の前記歪分布から前記緊張材が受ける摩擦に関する摩擦情報を算出し、前記緊張材の周囲への充填材の充填前と充填時の少なくともいずれかに、前記歪分布計測装置により光ファイバーケーブルの光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測し、温度情報算出装置により、前記充填材の充填前と充填時の少なくともいずれかの前記歪分布から前記緊張材の周囲の温度に関する温度情報を算出し、当該歪分布の計測値に基づいて、前記緊張材の周囲の加熱を行うことを特徴とする緊張管理方法である。
【0011】
第3の発明の前記
第1、第2の緊張材は、例えば緊張により構造体にプレストレスを加えるものである。
また、前記歪分布の計測を行った後、前記光ファイバーケーブルの端部を前記歪分布計測装置から取り外し、前記構造体に設けたスイッチボックス内に配置することが望ましい。
【0012】
第
4の発明の緊張管理方法では
、前記緊張材の緊張後、前記緊張材の端部にグラウトキャップを取付ける際、光ファイバーケーブルが前記グラウトキャップの孔に通されることが望ましい。
【0013】
本発明では、長手方向に沿って光ファイバーケーブルを取付けた緊張材を緊張する際に、緊張材が周囲から受ける摩擦が緊張材の歪ひいては光ファイバーケーブルの光ファイバーの歪に影響することを利用し、光ファイバーの延長に沿った歪分布をBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)、BOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)、FBG(Fiber Bragg Grating)方式等の手法により計測することで、緊張材が受ける摩擦に関する摩擦情報を得ることができる。
【0014】
本発明では光ファイバーケーブルの全長に渡る歪分布の計測ができるので、緊張材の全長に渡る摩擦を考慮したより有用な摩擦情報が得られ、緊張材の高精度な管理に役立つ。例えばこの摩擦情報に基づいて、別の緊張材の緊張力について摩擦ロスを見込んだ設定を行うことで、より高精度な緊張力の管理ができる。
【0015】
また緊張材の緊張によって構造体にプレストレスを導入する際に本発明の管理手法を適用することで、高品質な構造体を構築できる。歪分布の計測後には、光ファイバーケーブルの端部を構造体に設けたスイッチボックス内に配置し、歪分布等の計測による構造体の管理に用いることができる。
【0016】
また緊張材の周囲の温度が緊張材の歪ひいては光ファイバーケーブルの光ファイバーの歪に影響することを利用して、光ファイバーの歪分布から周囲の温度に関する温度情報を同様に得ることができ、緊張材の全長に渡る温度状態が評価できるので、緊張材の周囲に充填材を充填する際の高精度な温度管理や充填管理に同じく役立つ。また緊張材の端部にグラウトキャップを取付ける際は、光ファイバーケーブルの端部をグラウトキャップの孔に通すことで、光ファイバーケーブルをグラウトキャップから好適に引き出して歪分布計測装置等に接続することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、緊張管理を好適に行うことができる緊張管理システム等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
(1.緊張管理システム1)
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る緊張管理システム1を示す図である。
図1(a)に示すように、緊張管理システム1は、光ファイバー組込式PC鋼材10(緊張材)、緊張管理部2等を有する。
【0021】
緊張管理システム1は、
図1(b)に示すような橋梁の主桁等の桁材60(構造体)にプレストレスを導入する際に緊張管理を行うものである。
図1(b)は桁材60の例として箱桁を示したものであり、
図1(a)では箱桁の一部を示している。
【0022】
光ファイバー組込式PC鋼材10は、光ファイバーケーブルを長手方向に沿って取付けたPC鋼材である。光ファイバー組込式PC鋼材10は桁材60の内部に通して内ケーブルとして用い、桁材60にプレストレスを導入して補強を行う。
【0023】
図2は光ファイバー組込式PC鋼材10を示す図である。
図2(a)は光ファイバー組込式PC鋼材10の端部を側方から見た図であり、
図2(b)は光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向と直交する方向の断面を見た図である。
【0024】
本実施形態では、光ファイバー組込式PC鋼材10として、中心のPC鋼線11の周囲に6本のPC鋼線11を螺旋状に撚り合わせたPC鋼撚り線が用いられる。
【0025】
光ファイバーケーブル12(以下、ケーブルということがある)は隣り合うPC鋼線11の間に沿わせて光ファイバー組込式PC鋼材10の外面で螺旋状に配置され、光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿って略全長に渡り連続的に取り付けて一体化される。ケーブル12は光ファイバーを被覆材等で被覆したものであり、BOTDR、BOCDA、FBG等の既知の手法により光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を計測するために用いられる。
【0026】
各PC鋼線11の長手方向と直交する方向の断面は略円形であり、ケーブル12の長手方向と直交する方向の断面は略三角形状となっている。ケーブル12は、断面の略三角形の頂点を中心のPC鋼線11に向けることで、隣接するPC鋼線11の間の隙間に収まりよく配置でき、
図2(b)の点線で示す光ファイバー組込式PC鋼材10の外接六角形内にうまく収めることができる。なお、隣接するPC鋼線11の間の隙間に収まるのであれば、ケーブル12の断面は丸形状など、他の形状でも問題ない。
【0027】
桁材60ではシース管により長手方向の貫通孔が形成されており、光ファイバー組込式PC鋼材10を貫通孔に挿入して両端部を緊張し、桁材60の両端部にそれぞれ定着することで桁材60にプレストレスが導入される。
【0028】
緊張管理部2は、光ファイバーの長手方向に沿った歪分布の計測を行い、歪分布のデータから光ファイバー組込式PC鋼材10が受ける摩擦に関する摩擦情報や光ファイバー組込式PC鋼材10の周囲の温度に関する温度情報を算出する。
【0029】
図1(a)に示すように、緊張管理部2は、計測装置20(歪分布計測装置)、PC30(摩擦情報算出装置、温度情報算出装置)等を有する。
【0030】
計測装置20はケーブル12と接続され、光ファイバーに検査光を入射して光ファイバーからの反射光を検出し、反射光の分析を行うことでBOTDR、BOCDA、FBG等の手法による歪分布の計測を行う。計測した歪分布のデータはPC30に入力される。
【0031】
BOTDR、BOCDA、FBG等の手法は既知である(例えば、特開2008-224338号公報、特開2009-236813号公報、特開2012-132927号公報参照)ので簡単に説明すると、例えばBOTDR方式では計測装置20によって光ファイバーに検査光を入射するとともに反射光としてブリルアン散乱光を検出し、そのスペクトルを分析する。詳細は省略するが、検査光の入射から反射光の検出までの時間遅れによって反射光の発生位置を特定し、反射光における周波数のシフト量から当該位置での歪の値が得られる。
【0032】
BOCDA方式の場合、折り返して配置したケーブル12の両端を計測装置20に接続し、計測装置20によって光ファイバーの両端から検査光を入射する。詳細は省略するが、BOCDA方式では両検査光の制御によりブリルアン散乱光の発生位置を制御し、その位置でのブリルアンゲインスペクトルから周波数のシフト量を得ることで歪を計測できる。BOTDR、BOCDA方式のいずれの場合でも光ファイバーの長手方向に沿った連続的な歪分布の計測を行うことができる。
【0033】
FBG方式の場合、光ファイバーの長手方向の複数の位置に屈折率を変化させた回折格子を設けておき、計測装置20によって検査光を光ファイバーに入射して反射光を検出する。詳細は省略するが、FBG方式では反射光における周波数のシフト量から各回折格子における歪を計測でき、各回折格子の位置での歪の値から光ファイバーの長手方向に沿った歪分布の計測を行うことができる。
【0034】
PC30は、計測装置20から入力された歪分布のデータを表示したり、歪分布のデータから光ファイバー組込式PC鋼材10が受ける摩擦に関する摩擦情報や光ファイバー組込式PC鋼材10の周囲の温度に関する温度情報を算出する。
【0035】
図3はPC30のハードウェア構成を示す図である。
図3に示すように、PC30は、例えば制御部31、記憶部32、入力部33、表示部34、通信部35等をバス36により接続して構成されたコンピュータにより実現できる。但しこれに限ることなく、適宜様々な構成をとることができる。
【0036】
制御部31は、CPU、ROM、RAMなどから構成される。CPUは、記憶部32、ROMなどの記録媒体に格納されたPC30の処理に係るプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行する。ROMは不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOSなどのプログラム、データなどを恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部32、ROMなどからロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部31が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0037】
記憶部32は例えばハードディスクドライブであり、制御部31が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。これらのプログラムやデータは、制御部31により必要に応じて読み出され、RAMに移して実行される。
【0038】
入力部33はデータの入力を行い、例えばキーボード、マウスなどのポインティングデバイス、テンキーなどの入力装置を有する。
表示部34は、液晶パネルなどのディスプレイ装置等を有する。
通信部35は、ネットワークを介した通信を媒介する通信インタフェースであり、他の装置との間で通信を行う。
バス36は、各部間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0039】
(2.緊張管理方法)
次に、本実施形態に係る緊張管理方法について
図4等を参照して説明する。
図4は緊張管理方法を示すフローチャートである。
【0040】
本実施形態では、光ファイバー組込式PC鋼材10を桁材60の貫通孔に挿入して配置し、その両端部を緊張用のジャッキに通す。また光ファイバー組込式PC鋼材10の一方の端部の光ファイバーケーブル12を剥がして端末処理を行った後、計測装置20に接続する(S11)。
【0041】
そして、光ファイバー組込式PC鋼材10の両端部をジャッキで緊張するとともに、計測装置20によって光ファイバーの長手方向に沿った歪分布の計測を開始する(S12)。PC30は光ファイバーの歪分布のデータを計測装置20から取得し、歪分布から光ファイバー組込式PC鋼材10の摩擦情報を算出する(S13)。
【0042】
図5(a)に示すように、光ファイバー組込式PC鋼材10の緊張時は、光ファイバー組込式PC鋼材10の両端部の緊張力Tと光ファイバー組込式PC鋼材10が周囲(桁材60の貫通孔内面)から受ける摩擦力Fに応じて光ファイバー組込式PC鋼材10の歪が生じ、光ファイバーケーブル12(
図2参照)の光ファイバーも同様に歪む。
【0043】
図5(b)は長さLの光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った位置と歪の関係(歪分布)を模式的に示したものである。緊張力Tと摩擦力Fは逆方向の力なので摩擦力Fにより緊張力Tのロス(摩擦ロス)が生じ、
図5(b)に示すように、光ファイバー組込式PC鋼材10の歪(張力)は、光ファイバー組込式PC鋼材10の各位置での摩擦の影響を受け中央へ行くほど減少する。
【0044】
本実施形態では、光ファイバー組込式PC鋼材10の両端部の緊張力Tと光ファイバーの長手方向に沿った歪分布から、摩擦情報として光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った摩擦力Fの分布を算出でき、予め必要な物性値をPC30に入力しておくことで、摩擦力Fの分布と当該物性値から見かけの摩擦係数を算出することもできる。
【0045】
見かけの摩擦係数は、例えば、光ファイバー組込式PC鋼材10と貫通孔の間の摩擦係数について、光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った分布や光ファイバー組込式PC鋼材10の偏向箇所での値に基づいて算出するものである。この摩擦係数に基づいて、別の緊張材(不図示)の緊張によって桁材60にプレストレスを導入する際の緊張力を、摩擦ロスを見込んで定めることができる。当該別の緊張材は、光ファイバーケーブル12を有しない通常のPC鋼撚り線等でよい。
【0046】
光ファイバー組込式PC鋼材10の緊張後、光ファイバー組込式PC鋼材10の両端部は定着体によって桁材60の両端部の支圧板に定着される。そして、光ファイバーの長手方向に沿った歪分布の計測を行う(S14)。
【0047】
S14では、例えばケーブル12を計測装置20から一旦取り外し、
図6(a)に示すように定着体62の位置まで光ファイバー組込式PC鋼材10からケーブル12を剥がす。そして
図6(b)に示すように光ファイバー組込式PC鋼材10の余長を切断する。
【0048】
その後、
図6(c)に示すように、光ファイバー組込式PC鋼材10の端部や定着体62を覆うようにグラウト漏れを防ぐためのグラウトキャップ50を取り付ける。このグラウトキャップ50にはケーブル挿通用の孔52が設けられており、光ファイバー組込式PC鋼材10のケーブル12はこの孔52を通して外に引き出して計測装置20に接続し、光ファイバーの歪分布の計測を開始する。
【0049】
PC30は光ファイバーの歪分布のデータを計測装置20から取得し、歪分布から光ファイバー組込式PC鋼材10の周囲の温度情報を算出する(S15)。
【0050】
すなわち、光ファイバー組込式PC鋼材10は周囲の温度に応じて歪み、光ファイバーケーブル12の光ファイバーも同様に歪むので、光ファイバーの長手方向に沿った歪分布から周囲の貫通孔601内の温度情報を算出できる。
【0051】
本実施形態では、例えば
図7(a)に示すように、事前の計測により、外部の温度変化Δtと、緊張状態の光ファイバー組込式PC鋼材10の光ファイバーの歪の変化Δsとの関係R(例えば、R=Δt/Δs)を算出してPC30の記憶部32に記憶させておく。
【0052】
S15では、計測装置20により計測した光ファイバーの歪Sの時間変化(Δs、
図7(b)参照)から、上記の関係Rを用いて周囲の温度の時間変化(Δt、
図7(c)参照)を算出し、周囲の温度tを初期値t
0からの時間変化(t
0+Δt)として求めることができる。初期値t
0は例えば外気温とすることができる。
【0053】
本実施形態では光ファイバーの長手方向に沿った歪分布を継時的に計測し、上記の手法により、温度情報として、光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った貫通孔601内の温度分布を継時的に算出する。これにより、貫通孔601内の温度分布が所定の管理値を満たしているか等の確認を行うことができる。
図7(d)は、ある時点における、長さLの光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った貫通孔601内の温度分布を模式的に示したものである。
【0054】
従来は光ファイバー組込式PC鋼材10の長手方向に沿った周囲の温度分布を連続的かつ継時的に計測、管理することは困難であり、冬季などの寒中時ではグラウト材63が凍結する可能性があるため充填作業を工程上避けるか、やむを得ない場合はシース管(貫通孔601)の周囲に電熱線を設けるなどして温度を確保した上で充填を行っていた。
【0055】
本実施形態では上記のように光ファイバー組込式PC鋼材10の全長に沿った温度分布を連続的かつ継時的に計測して貫通孔601内の温度の確認・管理が可能となり、寒中時のグラウト充填の際にも品質確保上有利となる。シース管の周囲に電熱線を設けて光ファイバー組込式PC鋼材10の全長に渡る範囲の加熱を行ってもよく、この場合は加熱温度の制御を光ファイバーの歪分布の計測値に基づいて実施し、シース管内の温度が管理値(例えば5℃など)未満とならないように調整できる。
【0056】
こうして貫通孔601内の温度管理を行い、適切な温度環境にて
図6(d)に示すように支圧板61等に設けたグラウト注入孔(不図示)から貫通孔601内にグラウト材63を充填する(S16)。
【0057】
この時も、PC30は光ファイバーの歪分布のデータを計測装置20から取得し、S15と同様、歪分布から光ファイバー組込式PC鋼材10の周囲の温度情報を算出している(S17)。グラウト材63の充填や硬化に伴う温度変化を光ファイバー組込式PC鋼材10の表面に設置した光ファイバーを用いて計測することにより、グラウト材63の充填不良の有無や充填不良箇所等、充填性の検知を行い、充填状況の把握ができる。従来もシース管の表面に温度計測を目的とした光ファイバーを巻き付けて、その温度変化を計測する技術はあったが、本実施形態ではPC鋼材の表面における温度変化を計測することが可能であるため、より精緻な検知が可能である。
【0058】
この後はケーブル12の端部を計測装置20から外して桁材60等に取り付けたスイッチボックス(不図示)内に配置して保護し、歪分布等の計測による桁材60の管理に用いることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、長手方向に沿って光ファイバーケーブル12を取付けた光ファイバー組込式PC鋼材10を緊張する際に、光ファイバー組込式PC鋼材10が周囲から受ける摩擦が光ファイバー組込式PC鋼材10の歪ひいては光ファイバーケーブル12の光ファイバーの歪に影響することを利用し、光ファイバーの延長に沿った歪分布をBOTDR、BOCDA、FBG方式等の手法により計測することで、光ファイバー組込式PC鋼材10が受ける摩擦に関する摩擦情報を得ることができる。
【0060】
本実施形態では光ファイバーケーブル12の全長に渡る歪分布の計測ができるので、光ファイバー組込式PC鋼材10の全長に渡る摩擦を考慮したより有用な摩擦情報が得られ、緊張材の高精度な管理に役立つ。例えば、従来経験的に決めていた緊張時の摩擦ロスが歪分布から定量的に把握でき、摩擦情報に基づいて、別の緊張材の緊張力について摩擦ロスを見込んだ設定を行うことでより高精度な緊張力の管理ができる。
【0061】
また光ファイバー組込式PC鋼材10の周囲の温度が光ファイバー組込式PC鋼材10の歪ひいては光ファイバーケーブル12の光ファイバーの歪に影響することを利用して、光ファイバーの歪分布から貫通孔601内の温度情報を同様に得ることができ、光ファイバー組込式PC鋼材10の全長に渡る温度状態が評価できるのでグラウト充填時の高精度な温度管理や充填管理に同じく役立つ。緊張時の摩擦情報の算出を省略して上記の温度情報の算出のみ行うことも可能である。なお、光ファイバーの歪分布の計測とこれによる温度情報の算出は、グラウト材63の充填前と充填時のいずれかのみで行ってもよい。
【0062】
またケーブル12の端部をグラウトキャップ50の孔52に通すことで、ケーブル12をグラウトキャップ50から好適に引き出して計測装置20等に接続することができる。歪分布の計測後には、ケーブル12の端部を桁材60に設けたスイッチボックス内に配置して保護し、歪分布等の計測による桁材60の管理に用いることができる。
【0063】
しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば本実施形態では本設の緊張材である光ファイバー組込式PC鋼材10の緊張時に光ファイバーの歪分布の計測を行ったが、光ファイバー組込式PC鋼材10を用いた試験緊張を行い、その際に上記の処理を実施し摩擦情報を得て本設の別の緊張材の緊張力の設定等に用いてもよい。試験緊張時には光ファイバー組込式PC鋼材10の緊張のみ行えばよく、定着等は不要である。
【0064】
また本実施形態では1本の光ファイバー組込式PC鋼材10の緊張時に歪分布の計測を行ったが、複数本の光ファイバー組込式PC鋼材10について同様の計測を行い、各光ファイバー組込式PC鋼材10について算出した摩擦情報の平均値等を求めて管理に用いてもよい。
【0065】
また本実施形態では桁材60にプレストレスを導入したが、本発明の手法は他の構造体へのプレストレス導入時にも適用可能であり、緊張時の摩擦情報やグラウト充填前・充填時の温度情報を得ることで、緊張管理や温度管理・充填管理による高品質な構造体の構築に役立つ。
【0066】
その他、本発明の緊張管理システムは、
図8の緊張管理システム1aに示すようにグラウンドアンカーによる地盤補強を行う場合にも適用できる。
【0067】
図8の例では、光ファイバー組込式PC鋼材10を従来のグラウンドアンカーと同様にして地盤4に打設し、地盤4に圧縮力を導入して補強を行う。光ファイバー組込式PC鋼材10は、地盤4に形成した穴41に挿入して一方の端部を固定部13で地盤4に固定し、他方の端部を緊張して定着部14で地盤斜面に定着し、穴41内をグラウト材42(充填材)で充填し地盤4と一体化する。
【0068】
このように光ファイバー組込式PC鋼材10をグラウンドアンカーとして用いる場合でも前記と同様の緊張管理方法により緊張時の摩擦情報の算出やグラウト充填前・充填時の温度情報の算出を光ファイバーの歪分布から行うことができ、同様の効果が得られる。
【0069】
[第2の実施形態]
図9(a)に第2の実施形態の緊張管理システム1’を示す。第2の実施形態は桁材60’の外ケーブルとして光ファイバー組込式PC鋼材10’を用いる例である。本実施形態では桁材60’に張出部65が設けられており、この張出部65に光ファイバー組込式PC鋼材10’を通してプレストレスを導入する。緊張管理部2の構成については第1の実施形態と略同様である。
【0070】
図9(b)は光ファイバー組込式PC鋼材10’の長手方向と直交する方向の断面を示すものである。この例では、光ファイバー組込式PC鋼材10’の両端部を除き、PC鋼線11やケーブル12がPE(ポリエチレン)管等の外管15内に収容される。外管15の内部にはグリース等の防食材16が充填される。PC鋼線11等に防食用のコーティングを施す場合もある。これらの構成により光ファイバー組込式PC鋼材10’を外ケーブルとして使用する場合にPC鋼線11の腐食が防止される。
【0071】
次に、
図10を参照して本実施形態に係る緊張管理方法について説明する。
図10は緊張管理方法を示すフローチャートである。
【0072】
本実施形態では、光ファイバー組込式PC鋼材10’における摩擦情報の算出区間を予め定めておき、最初に算出区間外の光ファイバーケーブル12の端部を算出区間端部まで剥離し、端末処理を行う(S21)。ケーブル12を剥離する区間は、あらかじめ外管15等が無い状態にしておいても良いし、外管15等を除去した後でケーブル12を剥離させてもよい。ケーブル12を剥がした箇所は必要に応じて外管15等の再被覆を行うか、緊張後にグラウト等を周囲に充填することで耐久性を確保する。
【0073】
次に、この光ファイバー組込式PC鋼材10’を桁材60’の張出部65の孔に通して配置し、ケーブル12の端部を計測装置20に接続する(S22)。
【0074】
そして、光ファイバー組込式PC鋼材10’の両端部を緊張用のジャッキで緊張するとともに計測装置20によって光ファイバーの長手方向に沿った歪分布の計測を開始する(S23)。PC30は光ファイバーの歪分布のデータを計測装置20から取得し、前記と同様に歪分布から摩擦情報を算出する(S24)。
【0075】
光ファイバー組込式PC鋼材10’の緊張後、その両端部は張出部65で定着される。一方、ケーブル12は計測装置20から一旦取り外し、その端部を
図11に示すように桁材60’内に設けたスイッチボックス66内に配置して保護し、前記と同様、歪分布等の計測による桁材60’の管理に用いることができる。本実施形態でも、光ファイバーの歪分布から光ファイバー組込式PC鋼材10’の緊張時の摩擦情報の算出を行うことで、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0076】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。