(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535915
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エン−1−イル)エタノンおよび1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−6−エン−1−イル)エタノンの生成のプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 45/51 20060101AFI20190625BHJP
C07C 49/543 20060101ALI20190625BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20190625BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20190625BHJP
【FI】
C07C45/51
C07C49/543
B01J31/24 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-559583(P2016-559583)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公表番号】特表2017-514794(P2017-514794A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】EP2015056595
(87)【国際公開番号】WO2015144832
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】14162237.3
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ボンラス, ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】ビューマー, ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】レチノア, ウラー
【審査官】
伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−508153(JP,A)
【文献】
スイス国特許発明第00603071(CH,A5)
【文献】
KRAFT, P. et al.,European Journal of Organic Chemistry,2004年,pp. 354-365
【文献】
CADIERNO, V. et al.,Dalton Transactions,2010年,Vol. 39,pp. 4015-4031
【文献】
ENGEL, D. A. et al.,Organic & Biomolecular Chemistry,2009年,Vol. 7,pp. 4149-4158
【文献】
LEYVA, A. et al.,The Journal of Organic Chemistry,2009年,Vol. 74,pp. 2067-2074
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
を、式(II)の化合物
【化2】
の転位反応によって生成するプロセスであって、
前記転位反応は、
下記の式(III)の化合物の少なくとも1種のAu(I)錯体によって触媒され
、30℃〜120℃の温度にて行われる、プロセス。
【化3】
[式中、
Zは、[BX4]−、[PX6]−、[SbF6]−、[ClO4]−、CF3COO−、スルホン酸塩、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BArF−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV)のアニオンからなる群から選択されるアニオンであり、
【化4】
式中、Qは、F、Cl、NO2からなる群から選択される少なくとも1個の置換基で置換されている、フェニルまたはC1〜8−アルキルを表し、
Xは、ハロゲン原子、特に、FおよびClであり、
Yは、
【化5】
【化6】
【化7】
からなる群から選択される有機リガンドである]
【請求項2】
式(III)のAu(I)錯体の前記アニオンZが、下記のアニオン[BF
4]
−、[PF
6]
−、[SbF
6]
−、[ClO
4]
−、CF
3COO
−、スルホン酸
塩、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BAr
F−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV’)のアニオン
【化8】
からなる群から選択される、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項3】
溶媒または溶媒の混合物中で行われる、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、2−ブタノールおよびtert−ブタノールからなる群から選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記基質(式(II)の化合物)と触媒の比が、2:1〜10000:1である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エン−1−イル)エタノンおよび1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−6−エン−1−イル)エタノンを生成する改善された方法に関する。
【0002】
1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エン−1−イル)エタノン(式(I’)の化合物)および1−(5,5−ジメチルシクロヘキサ−6−エン−1−イル)エタノン(式(I’’)の化合物)は、
【化1】
様々な公知の芳香化合物の合成のための多用途で重要な中間体である。
【0003】
本特許出願の状況において、式(I’)の化合物および式(I’’)の化合物を、下記の式(I)によって要約する。
【化2】
【0004】
式(I)の化合物(これは、式(I’)の化合物または式(I’’)の化合物それら自体、およびこれらの2種の化合物の任意の混合物を意味する)を使用して、例えば、式(Ia)〜(Ig)の下記の化合物を生成することができる。
【化3】
【化4】
【0005】
式(I)の化合物から式(Ia)〜(Ig)の化合物を得るこれらの反応の全ては、従来技術から周知である。
【0006】
式(I)の化合物は通常、ギ酸(HCOOH)を、式(II)を有する化合物の転位における触媒として使用することによって生成される。
【化5】
【0007】
この反応は、例えば、米国特許第4147672号明細書に記載されている。
【0008】
腐食性反応条件下で強いブレンステッド酸を使用することによるこの生成方法は、いくつかの問題をもたらす。
【0009】
例えば、生成のために高価な耐酸性設備を使用することが必要である。さらに、腐食性化合物の取扱いは、生産チームにとって容易ではない。
【0010】
式(I)の化合物の重要性のために、式(I)の化合物を生成する改善された方法を見出すことが常に必要とされている。
【0011】
驚いたことに、金触媒ルーペ−カンブリ(Rupe−Kambli)転位によって式(I)の化合物を生成することが可能であることが見出された。
【0012】
したがって、本発明は、式(I)の化合物
【化6】
を、式(II)の化合物
【化7】
の転位反応により生成するプロセス(A)に関し、
転位反応は、少なくとも1種のAu(I)錯体の存在下で触媒される。
【0013】
式(I)の化合物を合成するときに起こるさらなる問題は、マイヤー・シュスター(Meyer Schuster)転位などの競争反応が起こることである。
【化8】
【0014】
金触媒を使用することによって、上記の副反応(式(I)の化合物をもたらさない)は(ある程度)抑制され、これは本発明による新規なプロセスの収率および変換が優れていることを意味する。
【0015】
特に、下記のAu(I)錯体は、本発明によるプロセスのための触媒として使用され、
【化9】
式中、
Zは、[BX
4]
−、[PX
6]
−、[SbF
6]
−、[ClO
4]
−、CF
3COO
−、スルホン酸塩、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BAr
F−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV)のアニオン
【化10】
からなる群から選択されるアニオンであり、
式中、Qは、好ましくは、F、Cl、NO
2からなる群から選択される少なくとも1個の置換基で置換されている、フェニルまたはC
1〜8−アルキルを表し、
Xは、ハロゲン原子、特に、FおよびClであり、
Yは、有機リガンドである。
【0016】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)であるプロセス(B)に関し、下記の式(III)の化合物の少なくとも1種のAu(I)錯体
【化11】
[式中、
Zは、[BX
4]
−、[PX
6]
−、[SbF
6]
−、[ClO
4]
−、CF
3COO
−、スルホン酸塩、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BAr
F−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV)のアニオン
【化12】
からなる群から選択されるアニオンであり、
式中、Qは、好ましくは少なくとも1個のハロゲン原子で置換されている、フェニルまたはC
1〜8−アルキル基を表し、
Xは、ハロゲン原子、特に、FおよびClであり、
Yは、有機リガンドである]
が使用される。
【0017】
好ましくは、Yは、下記のリガンド(Y
1)〜(Y
10)からなる群から選択される有機リガンドである。
【化13】
【化14】
【0018】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)または(B)であるプロセス(C)に関し、式(III)のAu(I)錯体の有機リガンドYは、下記のリガンド(Y
1)〜(Y
10)からなる群から選択される。
【化15】
【化16】
【0019】
好ましくは、Zは、下記のアニオン[BF
4]
−、[PF
6]
−、[SbF
6]
−、[ClO
4]
−、CF
3COO
−、スルホン酸塩(例えば、トリフレートCF
3SO
3−)、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BAr
F−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV’)のアニオン
【化17】
からなる群から選択されるアニオンである。
【0020】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)、(B)または(C)であるプロセス(D)に関し、アニオンZは、下記のアニオン[BF
4]
−、[PF
6]
−、[SbF
6]
−、[ClO
4]
−、CF
3COO
−、スルホン酸塩(例えば、トリフレートCF
3SO
3−)、テトラ(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸(BAr
F−)、テトラフェニルホウ酸、および式(IV’)のアニオン
【化18】
からなる群から選択される。
【0021】
触媒(Au(I)錯体)を、式(I)によって定義される形態で反応混合物に加えることができるが、(出発材料が加えられる前、または出発材料が加えられた後に)Au(I)錯体が反応混合物中でin situで形成されることもまた可能である。
【0022】
例えば、塩(例えば、塩化物塩:Y−Au(I)Cl)の形態で有機リガンドを加え、金属塩(例えば、銀塩Ag(I)Z)の形態でアニオンを加えることが可能である。次いで、Au(I)錯体がin situで形成され、このように得られた金属塩(例えば、AgCl)は悪影響を及ぼすように干渉しない。
【0023】
したがって、本発明は、プロセス(A)、(B)、(C)または(D)であるプロセス(E)に関し、Au(I)錯体は、反応混合物にそれ自体で加えられる。
【0024】
さらに、本発明は、プロセス(A)、(B)、(C)、(D)または(E)であるプロセス(F)に関し、Au(I)錯体は、反応混合物中でin situで形成される。
【0025】
好ましい式(III)のAu(I)錯体は、下記のものであり、
【化19】
式中、Cyは、シクロヘキシルであり、iPrは、イソプロピルであり、Tfは、トリフレートである。
【0026】
したがって、好ましいプロセスは、上記のようなプロセスに関し、式(III’)、(III’’)および/または(III’’’)の少なくとも1種の錯体を使用する。
【0027】
本発明によるプロセスは通常、溶媒(または溶媒の混合物)中で行われる。適切な溶媒は、脂肪族炭化水素、アルコールである。好ましい溶媒は、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、2−ブタノールおよびtert−ブタノールである。
【0028】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)、(B)、(C)、(D)、(E)または(F)であるプロセス(G)に関し、プロセスは、溶媒または溶媒の混合物中で行われる。
【0029】
さらに、本発明は、プロセス(G)であるプロセス(G’)に関し、溶媒は、メタノール、エタノール、2−ブタノールおよびtert−ブタノールからなる群から選択される。
【0030】
本発明によるプロセスは通常、高温、通常30℃〜120℃にて行われる。好ましい反応温度は、40℃〜110℃、より好ましくは、50℃〜100℃である。
【0031】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)または(G’)であるプロセス(H)に関し、プロセスは、高温にて行われる。
【0032】
したがって、本発明はまた、プロセス(H)であるプロセス(H’)に関し、プロセスは、30℃〜120℃の温度にて行われる。
【0033】
したがって、本発明はまた、プロセス(H)であるプロセス(H’’)に関し、プロセスは、40℃〜110℃の温度にて行われる。
【0034】
したがって、本発明はまた、プロセス(H)であるプロセス(H’’’)に関し、プロセスは、50℃〜100℃の温度にて行われる。
【0035】
通常、Au(I)錯体は、ある量で存在し、基質(式(II)の化合物)と触媒の比は、2:1〜10000:1であり、好ましくは、10:1〜3000:1である。
【0036】
したがって、本発明はまた、プロセス(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(G’)、(H)、(Η’)、(H’’)または(Η’’’)であるプロセス(I)に関し、基質(式(II)の化合物)と触媒の比は、2:1〜10000:1、好ましくは、10:1〜3000:1である。
【0037】
本発明による(妥当な量で所望の生成物を得るための)プロセスの反応時間は通常、60分〜300分である。
【0038】
上述のように、式(I)の化合物は、他の有機化合物(特に、式(Ia)〜(Ig)のもの)の合成への出発材料として使用することができる。
【0039】
下記の実施例は、本発明を例示する役割を果たす。別途指定のない場合、温度は摂氏温度で示し、全ての部は、重量に関する。
【0040】
[実施例]
[実施例1:1−エチニル−3,3−ジメチルシクロヘキサノールの転位]
【化20】
118.8mg(0.2mmol、0.1当量)のジシクロヘキシルホスフィンビフェニル金(I)クロリドおよび56.88mg(0.2mmol、0.1当量)の銀トリフレートを、セプタムボトルにおいてアルゴン下で23℃にて5.0mlのtert−ブタノールに溶解した。362.6μl(90%、2mmol、1当量)の1−エチニル−3,3−ジメチルシクロヘキサノール(90%、2mmol、1当量)を加えた。反応混合物を80℃にて105分間撹拌した。その後、反応混合物を23℃に冷却した。試料を取り出し、GCおよびNMRによって分析した。
【0041】
この反応の変換は、98.9%であった。式(I’およびI’’)の生成物は、89.6重量%の収率で得られた。
【0042】
必要に応じて、2種の異性体を分離することが可能である。
【0043】
[実施例2〜6]
下記の実施例は、実施例1におけるものと同じ反応条件下で行った。
【0044】
リガンドは上のように定義され、リガンドは塩化物形態で加え、アニオンはAg(I)塩の形態で加える。
【0046】
[比較例(実施例7〜11)]
実施例1に記載したものと同じ反応を繰り返したが、特許請求の範囲に入らないAu触媒を使用した。
【0047】
実施例7および8は、いずれの有機リガンドも伴わずに行う。AuClを、銀塩と組み合わせて使用した。
【0049】
実施例9、10および11および8は、触媒と共に行い、Au(0)は、担体上に吸着される。
【0051】
したがって、適切な(特許請求した)触媒の選択が必須であることを理解することができる。