(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属めっき層と、前記金属めっき層の上に位置し、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物から形成されるプライマー層と、前記プライマー層の上に位置するトップコート層とを含む塗装構造体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪樹脂組成物≫
本発明の樹脂組成物は、式(a1)で表される構成単位(a1)と、式(a2)で表される構成単位(a2)と、を有するアクリル樹脂(A)を含むことを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、金属めっき層の表面に形成されるプライマー層形成用であることが好ましい。
本明細書において「構成単位」とは、高分子化合物(樹脂、重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、α位に水素原子が結合したアクリレートと、α位にメチル基が結合したメタクリレートの一方あるいは両方を意味する。「(メタ)アクリル酸」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸と、α位にメチル基が結合したメタクリル酸の一方あるいは両方を意味する。
【0011】
<構成単位(a1)>
構成単位(a1)は、下記式(a1)で表される構成単位である。
【0012】
【化2】
[式(a1)中、R
a1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
a2は、炭素数10〜20の1価の炭化水素基である。]
【0013】
構成単位(a1)は、下記式(a1’)で表されるモノマーから誘導される構成単位である。
CH
2=C(R
a1)COOR
a2 ・・・(a1’)
[式(A’)中、R
a1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
a2は、炭素数10〜20の1価の炭化水素基である。]
【0014】
R
a1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられる。なかでも、水素原子又はメチル基が好ましい。
R
a2は炭素数10〜20の1価の炭化水素基である。R
a2は直鎖状、分岐鎖状、又は環状であってもよく、直鎖状又は分岐鎖状が好ましい。1価の炭化水素基としては、アルキル基が好ましい。
構成単位(a1)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
構成単位(a1)の割合は、アクリル樹脂(A)を構成する全構成単位の総モル数に対し、16モル%以上であり、16〜71モル%が好ましく、20〜30モル%がより好ましい。構成単位(a1)の割合を上記数値範囲内とすることにより、良好な初期付着性や耐水付着性を付与することができる。
【0016】
<構成単位(a2)>
構成単位(a2)は、下記式(a2)で表される構成単位である。
【0017】
【化3】
[式(a2)中、R
b1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、X
b1は炭素数3〜50の2価の連結基である。]
【0018】
構成単位(a2)は、下記式(a2’)で表されるモノマーから誘導される構成単位である。
CH
2=C(R
b1)COOX
b1−OH ・・・(a2’)
[式(a2’)中、R
b1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、X
b1は炭素数3〜50の2価の連結基である。]
【0019】
R
b1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられる。なかでも、水素原子又はメチル基が好ましい。
X
b1は炭素数3〜50の2価の連結基である。X
b1の炭素数は10〜40が好ましく、20〜35がより好ましい。2価の連結基としては、2価の炭化水素基、ヘテロ原子を含む2価の連結基等が挙げられる。
2価の連結基X
b1としての炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基は、芳香族性を持たない炭化水素基を意味する。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよく、通常は飽和であることが好ましい。
脂肪族炭化水素基としては、直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は構造中に環を含む脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
ヘテロ原子を含む2価の連結基におけるヘテロ原子とは、炭素原子及び水素原子以外の原子であり、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
X
b1がヘテロ原子を含む2価の連結基である場合、−X
b1OHは−(CH
2)
m−O−(X
b2O)
n−H[式中、X
b2は炭素数2〜10の2価の連結基であり、mは2〜10の数であり、nは1〜10の数である]が好ましい。
X
b2は炭素数2〜10の2価の連結基である。2価の連結基としては、2価の炭化水素基、ヘテロ原子を含む2価の連結基等が挙げられる。
2価の連結基X
b2としての炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
X
b2がヘテロ原子を含む2価の連結基である場合、X
b2は−C(=O)−X
b3−[式中、X
b3は炭素数1〜10の2価の炭化水素基である。]が好ましい。X
b3の炭素数は2〜8が好ましく、3〜6がより好ましく、5が最も好ましい。2価の炭化水素基としてはアルキレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基が挙げられる。
mは2〜10の数である。mは2〜8が好ましく、2がより好ましい。
nは1〜10の数である。nは2〜8が好ましく、3〜5がより好ましい。
構成単位(a2)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
構成単位(a2)の割合は、アクリル樹脂(A)を構成する全構成単位の総モル数に対し、12〜30モル%が好ましく、16〜25モル%がより好ましい。構成単位(a2)の割合を上記数値範囲内とすることにより、良好な付着性や耐チッピング性を付与することができる。
【0021】
<その他の構成単位>
本発明の樹脂組成物に含まれるアクリル樹脂(A)は、構成単位(a1)及び(a2)以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。
その他の構成単位としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、パラメチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系モノマー;アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリルアミド、メタクリロニトリル等の窒素含有ビニル系モノマー等から誘導されるものが挙げられる。その他の構成単位は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
アクリル樹脂(A)の水酸基価は30〜50mgKOH/gであり、35〜45mgKOH/gがより好ましい。水酸基価を下限値以上とすることにより、耐候性及び耐チッピング性を向上しやすくなる。水酸基価を上限値以下とすることにより、初期付着性や耐水付着性など付着性を向上しやすくなる。
なお、本明細書における水酸基価は、JIS K 1557−1:2007「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方」に従って求めた数値である。
【0023】
アクリル樹脂(A)のガラス転移点は−30℃以下であり、−35℃以下が好ましく、−40℃以下がより好ましい。
ガラス転移点を上限値以下とすることにより、初期付着性や耐水付着性などの付着性を向上しやすくなり、かつ耐チッピング性を向上しやすくなる。
なお、本明細書におけるガラス転移点は、JIS K7121に基づいて、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定することができる。
【0024】
アクリル樹脂(A)は、公知の重合方法、例えばラジカル重合等で合成することができる。
重合に用いられるラジカル重合開始剤としては例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-アミルパーオキサイド、ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)の他にイソシアネート、ポリオール、シランカップリング剤、溶媒等を含んでいてもよい。
【0026】
イソシアネートとしては、ポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(B)(以降、軟質タイプのイソシアネート(B)という。)が挙げられる。イソシアネート(B)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
イソシアネートとしては、軟質タイプのイソシアネート(B)以外の硬質タイプのイソシアネートであってもよい(以下、イソシアネート(C)という)。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)及びこれらのオリゴマー又はポリマーが挙げられる。イソシアネート(C)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
イソシアネートの含有量は、プライマー層が含有する水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基(−NCO)のモル当量の比が0.5〜2.0となる量が好ましく、1.0〜1.6がより好ましい。イソシアネート基のモル当量の比は、軟質タイプのイソシアネート(B)及びイソシアネート(C)の合計モル当量の比である。ここで、プライマー層が含有する水酸基のモル当量は、アクリル樹脂(A)及びポリオール(D)が有する水酸基のモル当量である。水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基のモル当量の比が下限値以上であると、プライマー層の耐チッピング性、耐水性を向上しやすい。上限値以下であると、金属めっき層との付着性を向上しやすい。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、ポリオール(D)を含んでいてもよい。ポリオール(D)は、耐チッピング性を更に向上させる役割をもつ。ポリオール(D)は、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオールから選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。ポリオール(D)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ポリオール(D)は、重量平均分子量(Mw)が500〜50000であることが好ましく、700〜30000がより好ましく、800〜10000がさらに好ましい。ポリオール(D)のMwが下限値以上であると、プライマー層の耐チッピング性を向上しやすくなる。ポリオール(D)のMwが上限値以下であると、上記アクリル樹脂(A)と混合しやすくなり、プライマー層が白濁するのを防ぐことができる。
なお、本明細書において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法(ポリスチレン換算)により測定することができる。
【0031】
ポリオール(D)の水酸基価は、20〜200mgKOH/gが好ましく、40〜180mgKOH/gがより好ましく、50〜120mgKOH/gがさらに好ましい。ポリオール(D)の水酸基価が下限値以上であると、プライマー層の耐チッピング性を向上しやすくなる。ポリオール(D)の水酸基価が上限値以下であると、金属めっき層との付着性を向上しやすくなる。
【0032】
アクリル樹脂(A)/ポリオール(D)で表される質量比(以下、A/D比ともいう)は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、60/40〜100/0であることが好ましい。
ポリオール(D)の含有量は、アクリル樹脂(A)100質量部に対し、0〜66質量部が好ましく、0〜40質量部がより好ましい。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、シランカップリング剤(E)を含んでいてもよい。シランカップリング剤(E)を含むことにより、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した基材に対しても、良好な付着性を発揮することができる。
【0034】
シランカップリング剤(E)は、グリシジル系トリメトキシシラン類を含有することが好ましい。シランカップリング剤(E)は、グリシジル系トリメトキシシラン類として、グリシジロキシメチルトリメトキシシラン、グリシジロキシエチルトリメトキシシラン、グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジロキシシクロヘキシルトリトリメトキシシラン、グリシジロキシフェニルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。より好ましくは、グリシジル系トリメトキシシラン類として、グリシジロキシメチルトリメトキシシラン、グリシジロキシエチルトリメトキシシラン、グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジロキシシクロヘキシルトリトリメトキシシラン、グリシジロキシフェニルトリメトキシシランから選ばれる2種以上を含有する。シランカップリング剤(E)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
シランカップリング剤(E)の含有量は、アクリル樹脂(A)の質量100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、2〜7質量部がより好ましい。また、樹脂組成物がポリオール(D)を含有する場合には、シランカップリング剤(E)の含有量は、アクリル樹脂(A)及びポリオール(D)の合計質量100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、2〜7質量部がより好ましい。下限値以上であると、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対しても良好な付着性を発揮できる。上限値以下であると、塗膜の耐侯性をより向上しやすく、ポットライフの低下を抑制できる。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、溶媒(F)を含んでいてもよい。
溶媒(F)としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸メチルセロソルブ、セロソルブアセテート、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸カルビトール等のエステル系溶剤;ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒(F)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、光透過率や色調を調整するための色素、可塑剤、補強剤、光増感剤、光安定剤、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘度調整剤、粘着付与剤(タッキファイヤー)、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤等の添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、本発明による効果を阻害しない限度において、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
≪樹脂組成物の製造方法≫
本発明の樹脂組成物は、各成分を公知の方法で混合することにより調整することができる。
【0039】
≪塗装構造体≫
図1に示すように、本発明の塗装構造体10は、金属めっき層1と、前記金属めっき層1の上に位置し、前記樹脂組成物から形成されるプライマー層2と、前記プライマー層2の上に位置するトップコート層3とを含む。
【0040】
<金属めっき層>
金属めっき層1は基材の上に形成される。基材は、例えば、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる。プラスチックは、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリプロピレン(PP)である。繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)である。金属は、例えば、鋼、アルミニウムである。なかでもABS樹脂が好ましい。
基材の厚さは、例えば、2〜10mmである。なお、本明細書において厚さはシックネスゲージによって測定される。
金属めっき層1は、例えば、クロムめっき、亜鉛めっき、カドミウムめっき、錫めっき、ニッケルめっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、白金めっき又はこれらの合金めっきである。なかでも、クロムめっきであることが好ましい。金属めっき層の厚さは、例えば、2〜100μmである。
【0041】
<プライマー層>
プライマー層2は、前記樹脂組成物から形成される。
プライマー層2の厚さは3〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましく7〜15μmがさらに好ましい。プライマー層2の厚さが下限値以上であると、付着性を向上しやすくなり、耐チッピング性を向上しやすくなる。プライマー層2の厚さが上限値以下であると、硬度低下を抑制しやすくなる。
【0042】
<トップコート層>
トップコート層3は、ポリオール(G)、イソシアネート(H)を含むトップコート用樹脂組成物から形成される。
【0043】
ポリオール(G)は、アクリルポリオールを含む。
アクリルポリオールは、例えば、アクリルモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとを共重合させて合成することができる。
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールモノアクリレートなどが挙げられる。
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、炭素数1〜10のものが好ましく、炭素数1〜6のものがより好ましい。
これらの水酸基含有(メタ)アクリルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルなどが挙げられる。
これらのアクリルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオール(G)には、アクリルポリオールの他にポリカーボネートジオールが含まれていてもよい。
ポリオール(G)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
ポリオール(G)の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜100,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましく、7,000〜40,000がさらに好ましい。ポリオール(G)のMwが下限値以上であると、はじき不具合など外観の不具合が生じるのを防ぎやすくなる。ポリオール(G)のMwが上限値以下であると、レべリング性が低下するのを防ぎやすくなる。
【0046】
ポリオール(G)の水酸基価は、10〜150mgKOH/gが好ましく、20〜100mgKOH/gがより好ましく、25〜80mgKOH/gがさらに好ましい。ポリオール(G)の水酸基価が下限値以上であると、トップコート層の耐チッピング性を向上しやすい。ポリオール(G)の水酸基価が上限値以下であると、乾燥性を向上しやすい。
【0047】
イソシアネート(H)の含有量は、トップコート層が含有する水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基(−NCO)のモル当量の比が0.8〜2.0となる量であることが好ましい。より好ましくは、1.1〜1.6である。ここで、トップコート層が含有する水酸基のモル当量は、ポリオール(G)が有する水酸基の合計モル当量である。水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基のモル当量の比が下限値以上であると、トップコート層の耐傷付き性や耐薬品性を向上しやすい。上限値以下であると、硬化収縮が大きくなるのを防ぎ、付着性を向上しやすくなる。
【0048】
トップコート層3の厚さは、10〜50μmが好ましく、15〜30μmがより好ましい。トップコート層3の厚さが下限値以上であると、耐チッピング性を向上しやすい。トップコート層の厚さが上限値以下であると、硬化収縮が大きくなるのを防ぎ、金属めっき層との付着性を向上しやすい。
【0049】
プライマー層2とトップコート層3との合計厚さは、15〜80μmが好ましく、20〜50μmがより好ましく、25〜40μmがさらに好ましい。合計厚さが下限値以上であると、諸性能が低下するのを防ぎやすい。合計厚さが上限値以下であると、付着性を向上しやすい。
【0050】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、光透過率や色調を調整するための色素、可塑剤、補強剤、光増感剤、光安定剤、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘度調整剤、粘着付与剤(タッキファイヤー)、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤等の添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、本発明による効果を阻害しない限度において、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
≪塗布構造体の製造方法≫
基材の表面に金属めっき層1を形成する方法は、特に限定されず、例えば、溶融めっき法、電気めっき法が挙げられる。
プライマー層2は、本発明の樹脂組成物を金属めっき層の表面に塗布し、乾燥して形成することができる。
トップコート層3は、トップコート用樹脂組成物をプライマー層の表面に塗布し、乾燥して形成することができる。
樹脂組成物及びトップコート用樹脂組成物の両方又はいずれか一方には、特徴的な意匠を付与することを目的として、更に着色顔料を配合してもよい。
本発明の樹脂組成物を塗布した後、トップコート用樹脂組成物を塗布して、乾燥させることにより、プライマー層2とトップコート層3とを同時に形成することもできる。
【0052】
樹脂組成物及びトップコート用樹脂組成物の塗装方法は、特に限定されず、公知の方法で塗装することができる。公知の塗装方法は、例えば、刷毛塗り法、ローラー塗り法、スプレーガンによる吹付法、ロールコーター法、浸漬法である。1回の塗装で所望の厚さの塗膜を形成するか、又は複数回塗装することで所望の厚さの塗膜を形成してもよい。
【0053】
樹脂組成物及びトップコート用樹脂組成物を塗装後の乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥するか、又は強制乾燥してもよい。具体的には、60〜80℃の雰囲気下で30〜90分程度乾燥してもよい。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
各モノマー及び各試薬の仕込み量(質量部)を表1及び2に示す。括弧内の数値は得られたアクリル樹脂(A)を構成する全構成単位の総モル数に対する各構成単位の割合(モル%)を表す。なお、各構成単位の割合は、仕込み量から算出したものである。
使用した塗膜の原料は下記の通りである。
【0055】
≪使用原料≫
・MMA:メチルメタクリレート、アクリエステルM、三菱レイヨン製。
・SMA:ステアリルメタクリレート、アクリエステルS、三菱レイヨン製。
・LMA:ラウリルメタクリレート、アクリエステルL、三菱レイヨン製。
・n−BMA:n−ブチルメタクリレート、アクリエステルB、三菱レイヨン製。
・BA:ブチルアクリレート、東亜合成製。
・FM5:プラクセルFM5、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン、式(a2)中、R
b1=メチル基、−X
b1OH=−(CH
2)
2O[C(=O)(CH
2)
5O]H、(株)ダイセル製。
・FM3:プラクセルFM3、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン、式(a2)中、R
b1=メチル基、−X
b1OH=−(CH
2)
2O[C(=O)(CH
2)
5O]H、(株)ダイセル製。
・HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート、ライトエステルHOA(N)、共栄社化学社製。
・HH:メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ライトエステルHO−HH(N)、共栄社化学製。
・i−BAC:酢酸イソブチル、和光純薬工業製。
・ABN−E:アゾビスイソブチロニトリル、反応開始剤、和光純薬工業製。
・EAC:酢酸エチル、和光純薬工業製。
・アクリルポリオール:大成ファインケミカル(株)製、アクリルポリオール#6000シリーズ、製品番手:6BF−203、Mw:26,000、水酸基価:30mgKOH/g)。
・チヌビン384−2:商品名、紫外線吸収剤、BASFジャパン(株)製。
・チヌビン292:商品名、紫外線吸収剤、BASFジャパン(株)製。
・イソシアネート:HDIのポリマー、商品名「スミジュールN−3200」、住友バイエルウレタン(株)製。
・ポリカーボネートジオール:水酸基価:140mgKOH/g、商品名「デュラノールT5650J」、旭化成ケミカルズ製。
【0056】
(実施例1〜8、比較例1〜8)
攪拌機と冷却器、窒素封入機、温度計、モノマー滴下装置を備えた1L容器の4口フラスコに、酢酸イソブチルを200g仕込み、内部温度が90℃になるまで加温した。次いで、表に示すモノマー、溶剤、反応開始剤の混合溶液を1時間かけてこれに滴下し、滴下終了から1時間後に追加の反応開始剤を添加後、90℃で4時間保持したのち反応を終了しアクリル樹脂(A)を得た。
得られたアクリル樹脂(A)について、下記方法によりガラス転移点、水酸基価を求めた。
得られたアクリル樹脂(A)と酢酸エチルとを80/20の質量比で混合したものを樹脂組成物(プライマ―層形成用)とした。
これとは別に、アクリルポリオール(ガラス転移点:24℃、水酸基価:30mgKOH/g、Mw:26,000、不揮発分:50%)と酢酸エチル、チヌビン384−2(商品名)、チヌビン292(商品名)とを80/18.5/1.0/0.5の質量比で混合したものをトップコート用樹脂組成物とした。
ABS基材上に3価クロムめっきを施したものを準備した。めっき処理後、室温、60%RHにて1時間放置したもの(めっき素材X)、めっき処理後、室温、60%RHにて2週間放置したもの(めっき素材Y)、めっき処理後、50℃、95%RHにて2週間放置したもの(めっき素材Z)をそれぞれ準備した。
樹脂組成物(プライマ―層形成用)、トップコート用樹脂組成物に対してそれぞれイソシアネートをNCO/OH(モル比)=1.1になるように加えて、任意の有機溶媒で希釈した。前記めっき素材X〜Z上に、樹脂組成物、トップコート用樹脂組成物の順にスプレーコートでそれぞれ厚みが20μmとなるように塗布し、80℃で60分強制乾燥し、金属めっき層、プライマー層、トップコート層からなる塗装構造体を備える塗装品を形成した。得られた塗装品を用いて以下の試験を行った。試験の結果を表1及び2に示す。表の評価結果において、左がめっき素材Xを使用したもの、中央がめっき素材Yを使用したもの、右がめっき素材Zを使用したものを示す。表中、「−」は評価を行っていないことを意味する。
【0057】
(実施例9)
得られたアクリル樹脂(A)とポリカーボネートジオールとを90:10の質量比で混合した混合物と酢酸エチルとを80/20の質量比で混合したものを樹脂組成物(プライマ―層形成用)とした以外は、上記と同様にして塗装品を形成した。
【0058】
<ガラス転移点>
JIS K7121に基づいて、示差走査熱量測定法(DSC法)によりガラス転移点を求めた。
【0059】
<水酸基価>
JIS K 1557−1:2007「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方」に従い、水酸基価を求めた。
【0060】
<付着性>
塗装品を室温で96時間放置した後の塗膜の付着性を、以下の評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜の剥離が確認されない。
×:塗膜の剥離が確認される。
【0061】
<耐候性・耐チッピング性>
塗装品を室温で96時間放置した後、XENON試験機にて500MJ/cm
2の紫外線を照射し、塗装構造体の外観及び耐チッピング性を評価した。耐チッピング性は、紫外線を照射した後に測定した以外は、後述の<耐チッピング性>と同様の手順で評価した。
○:外観に異常はなく、耐チッピング性が紫外線照射後に低下していない。
△:外観に異常はないが、耐チッピング性が紫外線照射後に低下している。
×:外観に異常があり、耐チッピング性が紫外線照射後に低下している。
【0062】
<耐水性>
塗装品を室温で96時間放置後、40℃、60℃の温水に300時間浸漬し、塗装構造体の付着性と外観とを評価した。
○:40℃、60℃のいずれでも塗膜は剥離していない。
△:40℃、60℃のいずれでも塗膜は剥離していないがブリスターや変色等の外観異常がみられる。
×:40℃、60℃のいずれかで塗膜の剥離がみられる。
【0063】
<耐チッピング性>
塗装品を室温で96時間放置後、−20℃にて飛石試験機を用いて砕石7号100gを衝突角度90°、圧力4kg/cm
2で衝突させ、金属めっき層表面まで届いた傷の数をカウントし、以下の評価基準に基づいて耐チッピング性を評価した。
A:金属めっき層表面まで届いた傷の数が10個以下(実用レベル)。
B:金属めっき層表面まで届いた傷の数が11〜50個の範囲(実用下限レベル)。
C:金属めっき層表面まで届いた傷の数が51個以上(実用不適)。
【0064】
<外観>
塗装品を室温で96時間放置後、塗装構造体の外観を目視にて評価した。
○:透明感を有する塗膜を形成しており、金属めっき層の金属光沢を阻害していない。
×:塗膜にヘイズが確認され、金属めっき層の金属光沢を阻害している。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
本発明を適用した実施例1〜9では、付着性、耐候性、耐水性、耐チッピング性、外観に優れる塗装構造体を得ることができた。
一方、ガラス転移点が−30℃以上の比較例1、2では、付着性、耐候性、耐水性、耐チッピング性において劣っていた。
水酸基価が30mgKOH/g未満の比較例3、4では、付着性、耐候性、耐水性、耐チッピング性において劣っていた。
構成単位(a2)の代わりにHEAを用いた比較例5は、付着性、耐候性、耐水性、耐チッピング性において劣っていた。
水酸基価が50mgKOH/g超の比較例6では、付着性、耐水性に劣っていた。
構成単位(a1)の割合が16モル%未満である比較例7、8は、付着性、耐水性に劣っていた。
以上のことから、本発明を適用した樹脂組成物によれば、得られる塗布構造体が、付着性、耐候性、耐水性、耐チッピング性、外観に優れることが判った。