特許第6535923号(P6535923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6535923植物組織の分解を促進する植物組織処理方法、その主剤、その植物組織処理方法で抽出した原料組成物、および植物組織の嵩低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535923
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】植物組織の分解を促進する植物組織処理方法、その主剤、その植物組織処理方法で抽出した原料組成物、および植物組織の嵩低減方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/20 20060101AFI20190625BHJP
   D21C 3/02 20060101ALI20190625BHJP
   C08B 15/08 20060101ALI20190625BHJP
   C08B 37/14 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   B27K3/20
   D21C3/02
   C08B15/08
   C08B37/14
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-515739(P2018-515739)
(86)(22)【出願日】2017年5月3日
(86)【国際出願番号】JP2017017319
(87)【国際公開番号】WO2017191845
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-92879(P2016-92879)
(32)【優先日】2016年5月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-163137(P2016-163137)
(32)【優先日】2016年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-1511(P2017-1511)
(32)【優先日】2017年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511252051
【氏名又は名称】アイセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】堀井 三郎
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−026088(JP,A)
【文献】 特開2015−218299(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123419(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/002674(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/046473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 − 9/00
C08B 15/08
C08B 37/14
D21C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆砕方法またはボールミル処理方法の物理的分解手段を併用せず、木材片または草本片の植物組織またはそれらを原料として加工した植物由来加工物に植物組織処理剤を添加することにより化学的分解手段を用いて、前記植物組織または前記植物由来加工物の分解を促進させ、内部のセルロースI型成分を抽出する植物組織または植物由来加工物処理方法であって、
前記植物組織処理剤が7w%から10w%の濃度の水酸化リチウム水溶液を主剤とするものであり、前記植物組織または前記植物由来加工物に対して添加することにより前記セルロースI型成分を得ることを特徴とする植物組織または植物由来加工物処理方法。
【請求項2】
前記植物組織処理剤の濃度が、7w%であることを特徴とする請求項に記載の植物組織処理方法。
【請求項3】
前記分解抽出処理工程が、常温、常圧で行われるものである請求項1または2に記載の植物組織処理方法。
【請求項4】
前記分解抽出処理工程が、撹拌を伴って行われるものである請求項1または2に記載の植物組織処理方法。
【請求項5】
前記植物組織処理剤が副剤として水酸化ナトリウム水溶液を用い、前記主剤の水酸化リチウム水溶液と前記副剤の水酸化ナトリウム水溶液の比率を100:0から75:25の範囲に調整したことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の植物組織処理方法。
【請求項6】
前記分解抽出処理工程の後、浸漬液に溶出している前記植物由来物質を抽出する浸漬液処理工程と、前記植物組織の残渣に残存している前記植物由来物質を抽出する残渣処理工程を含む請求項1からのいずれかに記載の植物組織処理方法。
【請求項7】
前記浸漬液および前記植物組織の残渣を水洗して得た液体に対して、二酸化炭素を反応させ、液分中に含まれている前記主剤中の金属元素を炭酸加工物として回収する回収工程を備えた請求項に記載の植物組織処理方法。
【請求項8】
前記植物組織が、竹類、稲わら、麦わら、ササ、ススキ、スイッチグラス、ジャイアントミスカンサス、木材木質、木材樹皮、製紙工程から排出されるパルプ液に含まれる植物片残渣のいずれかまたはそれらの組み合わせである請求項1からのいずれか1項に記載の植物組織処理方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の植物組織処理方法を実施する植物組織処理装置。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の植物組織処理方法により、前記植物組織の分解を促進させ、前記植物組織の体積を小さくする植物組織の嵩低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材片、草本片またはそれら由来の加工製品などの植物組織に添加することによって、その植物組織の分解を促進し、植物由来物質を抽出する植物組織処理方法、その主剤、その植物組織処理方法で抽出した原料組成物、および植物組織の嵩低減方法に関する。特に、大掛かりな処理装置を用いたり過剰なエネルギーを投入したりすることなく植物組織を簡単に分解し、植物組織から植物組織由来物質を容易に抽出することができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、古くから多く利用されており、建築材料、燃料、紙パルプ材料など、その用途は多様である。このように伝統的には構造物としての木材そのものや、ほぐした木質繊維の利用が中心であった。
近年は、木材や草本類に含まれる植物組織由来物質を取り出して化合物としての素材利用が注目されている。近年、木材や草本等の植物組織から抽出される植物組織由来物質はそれぞれ産業上の利用価値があり、それら抽出物を多様な用途で積極的に利用する試みが進んでいる。
【0003】
地球上で最も豊富な有用素材とされるセルロースであるが、未だその活用は十分なものとは言えない。その大きな理由の一つとして、樹木や草本類の細胞の一部を構成するセルロースを取り出す方法に、物理的、化学的なコストの問題があげられる。
木材や草本等の植物組織は、化学構造が異なる多種多様な物質が含まれている複合体である。植物組織を構成する物質としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、タンニン、スベリンなどが含まれている。植物組織の構成は、構造の中心にセルロースがあり、その周りをヘミセルロースが覆い、さらにリグニンが強固に存在している。セルロース抽出には、まず強固なリグニンを弛緩、あるいは除去する必要がある。つまり、これら植物組織由来物質を利用する際には、利用目的とする植物組織由来物質を植物組織から抽出し、それ以外の物質を除去しなければならない場合もあり得る。ここで、物理的・化学的コストが問題となってくる。
【0004】
セルロースは、例えば、衣料用繊維、合成樹脂の原料として利用が進んでいる。セルロースから得られるグルコースは、バイオエタノールの原料になる等バイオマス関連において特に重要な物質である。
ヘミセルロースは、例えば、製紙のほか、他の抽出成分と合わせることにより化学製品の製造等に用いられ、工業原材料として広く用いられている。
リグニンは、例えば、セルロースなどと結合して細胞間を接着・固化する性質を利用した接着剤、医薬、消毒剤等の原材料として広く利用されている。
タンニンは、例えば、皮革の鞣し(いわゆるタンニン鞣し)に必要不可欠の物質であり、皮革工業に広く利用されている。
スベリンは、例えば、スベリン酸として、アルキド樹脂、ポリアミド等の製造原料となる物質であり、工業原材料として広く用いられている。
このように、植物組織由来物質には、多様な利用用途があり、産業上の利用価値は高く、工業原材料としての潜在的重要が大きいものである。
【0005】
従来技術において、これら植物組織由来物質を得るための植物組織処理方法としては、高温高圧下で濃硫酸など強酸または強アルカリ(特に水酸化ナトリウム)を用いるアルカリ加水分解法(特許文献1)、環状炭酸類と酸を用いた加水分解法(特許文献2)などが知られている。触媒を併用することもある。また、爆砕処理という爆発的な圧力変化により木質繊維などを物理的に破壊・破砕する処理方法も知られている。このように、木材を出発原料として素材利用する際には高温高圧下での処理や爆砕処理など多大なエネルギー投入が必須である。
【0006】
また、近年バイオマス利用が進み、様々なバイオマス利用装置が稼働しているが、その炭素源であるバイオマスの安定供給、保存性の向上、輸送コストの低減などが課題となっている。バイオマスは、一般には、木材のみならず、稲わら、麦わら、ササ、ススキ、スイッチグラス、ジャイアントミスカンサスなどの草木や、木材間伐材の樹皮などが利用されている。木材の場合は塊のままでは運搬や保存に不便である。また、草木は嵩密度が低く体積が大きくやはり運搬や保存に不便である。いずれも植物組織の分解を促進して粉体化することが好ましい。
【0007】
【特許文献1】特開平2−233701号公報
【特許文献2】特開平11−80367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の植物組織処理方法のうち、アルカリ加水分解法は、植物組織を分解することができるものの、得られるものはアルカリセルロース(繊維素)と呼ばれるものである。このアルカリセルロースは、それ自体は工業原料となるもので、ビスコースレーヨンを作るビスコースやメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースとして抽出される。これらは、それぞれ用途に応じた使い方をされる。
ここで、自然界におけるセルロースの結晶型はI型であり、その多形として、II型、III型、IV型が存在する。その中で自然界に存在するセルロースI型が夫々の多形の出発点である。
【0009】
しかし、上記従来技術のアルカリ加水分解法は、アルカリセルロースを得る方法として知られているが、セルロースI型成分を得る知見が知られていなかった。
また、上記従来技術の爆砕を伴う物理的手段はセルロースI型成分を得ることができるものの、いずれも高温高圧下において耐酸性または耐アルカリ性を持つ頑丈で大掛かりな高価な装置類や、爆砕処理という強烈な圧力変化に耐える頑丈で大掛かりな高価な装置類が必要となってしまうという問題がある。また、処理の過程で投入する酸、アルカリ、環状炭酸類、芳香族系グリコールエーテルなどの施用物を除去する後処理工程などが必要となり、コスト増加の一因になっていた。また、触媒を必要とする場合は触媒にコストが掛かってしまう。
【0010】
また、一方、植物由来物質を抽出した植物組織残渣の有効利用を考えた場合、バイオマスの炭素源とすることができるが、木材や草木などから炭素源を製作する場合、木材の場合であれば塊のままでは運搬や保存に不便である。また、草木であれば嵩密度が低く体積が大きくやはり運搬や保存に不便である。いずれも植物組織の分解を促進して粉体化することが好ましい。
【0011】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、大掛かりな処理装置を用いたり過剰なエネルギーを投入したりすることなく植物組織を簡単に分解しつつ、植物組織からセルロースI型成分を含む植物組織由来物質を容易に抽出することができる植物組織処理剤および植物組織処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、木材片または草本片の植物組織またはそれらを原料として加工した植物由来加工物に植物組織処理剤を添加することにより前記植物組織または前記植物由来加工物の分解を促進させ、内部のセルロースI型成分を抽出する方法であって、水酸化リチウムを主剤とする植物組織処理剤を前記植物組織または前記植物由来加工物に常温かつ常圧で添加して、組織内のセルロースミクロフィブリルまで直接浸透させるとともに、他の有効成分を施用させずに、前記セルロースミクロフィブリルの非結晶部分の少なくとも一部を穏やかに溶解して前記セルロースI型成分を溶出させる、セルロースI型成分の緩慢的な溶解抽出方法である。
植物組織は主に炭素で構成されているので、炭素原子より原子径の小さな金属化合物はリチウム化合物であり、水溶性を示すものとして、水酸化リチウムを挙げることができる。ここで、本発明は、従来技術のように他の有効成分を施用さたりエネルギーを投入せずに、水酸化リチウム水溶液への浸漬により水酸化リチウムを施用することにより、セルロースミクロフィブリルの非結晶部分の少なくとも一部を穏やかに溶解してセルロースI型成分を溶出させる方法である。本発明者らはセルロースI型成分の穏やかな溶解抽出方法を発明した。
本発明者らは、研究を通じて、水酸化リチウム水溶液は植物組織の破壊能力が大きく、工業用途に耐える程度の植物組織由来物質の植物組織処理剤として利用可能であることを初めて突き止めた。
【0013】
本発明の植物組織処理方法は、植物組織を簡単に分解しつつ、植物組織から植物組織由来物質を容易に抽出することができるものであり、従来技術のように高温高圧下で強酸や強アルカリによる加水分解処理や、爆砕処理などの高エネルギー処理を必要とするものではない。
図2は植物組織の構造を極めて簡単に示した図である。図2(a)に示すように、木材、草本類の基本構成である植物組織はセルロース、ヘミセルロース、リグニンであり、セルロースを中心にヘミセルロース、リグニンが強固に絡み合った組織構造をしており、それら基本構造の分解が難しい。特に、中央に位置するセルロースの基本形であるセルロースI型成分の抽出は難しい。従来技術では、木材資源を利用する際、爆砕処理等の物理処理や、高温高圧で強酸または強アルカリを用いた加水分解処理等の熱化学処理を行ってセルロースを抽出するという前処理工程が必須工程であったが、本発明は、従来技術における加水分解処理や爆砕処理等の前処理工程を一切用いずに、また、特段ほかの有効成分を施用させる必要なく、図2(b)に示すように、水酸化リチウムの持つ高い極性と浸透性によって容易に植物組織の構造を弛緩させ、セルロースミクロフィブリルまで浸透してアクセスし、セルロースミクロフィブリルの非結晶部分に水酸化リチウムを施用させ、穏やかに溶解してセルロースI型成分を溶出させ、セルロースレベルまでの分解処理を実施できるというセルロースI型成分の緩慢的な溶解抽出方法の発見に基づくものである。ここで、植物組織を構成する原子径より小さな原子径を持つリチウムの水溶性化合物、特に水酸化リチウム主剤とする植物組織処理剤を植物組織に常温かつ常圧で添加すれば、組織内のセルロースミクロフィブリルまで直接浸透させることができる。水酸化リチウムは植物組織の内部への浸透性が大きく、内部のセルロースミクロフィブリルに作用しやすいと考えられる。セルロースミクロフィブリルの非結晶部分に水酸化リチウムを施用させ、ゆっくりと穏やかに非結晶部分の少なくとも一部を破壊・分解し、セルロースI型成分として溶脱させる。
本発明の植物組織処理方法を用いれば、植物組織からセルロースI型成分、さらには、ヘミセルロース、リグニン、タンニン、スベリンなどの植物由来物質が取り出しやすくなる。
【0014】
植物組織処理剤としては、水酸化リチウムを主剤とするものである。配合としては、濃度は1w%から一水塩を構成する50w%台まであり得るが、3w%から10w%、特に7w%程度が好ましい。植物組織をこれら濃度範囲の植物組織処理剤の水溶液に常温常圧で浸漬させることにより、比較的短期間の処理時間によって植物組織から内部の植物組織由来物質を抽出することができる。
植物組織としては、竹類、稲わら、麦わら、ササ、ススキ、スイッチグラス、ジャイアントミスカンサス、木材木質、木材樹皮、製紙工程から排出されるパルプ液に含まれる植物片残渣のいずれかまたはそれらの組み合わせなどを利用することができる。
【0015】
本発明の植物組織処理方法において、植物由来物質を効率的に収集するため、上記の分解抽出処理工程の後、さらに、浸漬液に溶出している植物由来物質を抽出する浸漬液処理工程と、植物組織の残渣に残存している植物由来物質を抽出する残渣処理工程を後続させることができる。
本発明者らは実験を重ねた結果、分解抽出処理工程の結果、分解した植物由来物質は浸漬液側にも溶出するし、残渣側にも残存している。浸漬液側にはセルロースI型分子やヘミセルロース分子の形で溶出しており、残渣側には一部が植物組織として維持されている部分が残っている場合もあるが、内部では植物組織が破壊され、セルロースI型分子内の水素結合やヘミセルロース分子などの共有結合が断裂している割合が多くなっていると考えられる。
【0016】
また、植物組織処理剤は、主剤である水酸化リチウムのみで副剤を用いない構成も可能であるが、副剤として水酸化ナトリウムを用いることもできる。配合としては、主剤と副剤を合わせた濃度として、3w%から10w%、特に7w%程度が好ましい。植物組織をこれら濃度範囲の植物組織処理剤の水溶液に常温常圧で浸漬させることにより、比較的短期間の処理時間によって植物組織から内部の植物組織由来物質を抽出することができる。
植物組織処理剤の主剤である水酸化リチウム水溶液と前記副剤の水酸化ナトリウム水溶液の比率として100:0〜75:25の範囲に調整することができる。
次に、主剤として使用したリチウムやナトリウムの回収に関しては、浸漬液および植物組織の残渣を水洗して得た液体に対して、二酸化炭素を反応させ、液分中に含まれている主剤中の金属元素を炭酸加工物として析出して回収する回収工程を備えることができる。
【0017】
植物組織残渣側の処理としては、水洗工程での水洗処理後の植物組織残渣を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程での乾燥処理後の植物組織残渣を粉砕する粉末化工程を備えた製造工程により、効率的に植物組織の粉体を得ることができる。例えば、粉体化後、バイオマスの原料として使用することもできる。
【0018】
また、本発明は植物組織の嵩低減方法に応用することができる。つまり、本発明の植物組織処理方法を用いて植物組織の分解抽出処理工程を促進させれば、植物組織の嵩密度を増加せしめて体積を小さくすることができる。
【0019】
竹類、稲わら、麦わら、ササ、ススキ、スイッチグラス、ジャイアントミスカンサス、木材間伐材樹皮などは比較的に体積が大きく保存に不利であるところ、本発明の嵩低減方法を用いればこれら植物組織の保存コストを低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の植物組織の分解を促進する植物組織処理方法によれば、木材や草本等の植物組織を常温常圧下で水酸化リチウム溶液の主剤に浸漬するという極めて簡単な工程により、植物組織からセルロースI型成分を含む植物組織由来物質を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の植物組織処理方法の工程を簡単に示すフロー図である。
図2】植物組織の構造を極めて簡単に示した図である。
図3】スギ材の場合のエックス線回析の結果を示す図である。
図4】孟宗竹の場合のエックス線回析の結果を示す図である。
図5】セルロース反応工程の結果得られたグルコース収量結果を示す図である。
図6】圧縮試験にかけたスギ試験片の耐圧変化の結果を示す図である。
図7図6の結果をグラフ化した図である。
図8】圧縮試験にかけたブナ試験片の耐圧変化の結果を示す図である。
図9図8の結果をグラフ化した図である。
図10】各混合比率の植物組織処理剤を用いて得た抽出結果物の結晶化度を示す図である。
図11】植物組織処理剤として水酸化リチウムを用いた場合と水酸化ナトリウム用いた場合の抽出物のグルコース収量結果を示す図である。
図12】スギを処理対象とした場合の抽出物のエックス線回析結果を示すグラフを示す図である。
図13】孟宗竹を処理対象とした場合の抽出物のエックス線回析結果を示すグラフを示す図である。
図14】植物組織の分解抽出処理工程、その後取り出した植物組織残渣の水洗工程、さらに乾燥工程を模擬した結果を示す図である。
図15】植物組織残渣の粉砕し易さを示す図である。
図16】段ボールの表面に各溶液を滴下して1時間経過した状態を観察した様子を示す図である。
図17】紙片の表面に各溶液を滴下して1時間経過した状態を観察した様子を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の植物組織の分解を促進する植物組織処理方法および植物組織処理剤の実施形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されない。
【実施例1】
【0023】
本発明の植物組織処理方法の工程について説明する。
図1は本発明の植物組織処理方法の工程を簡単に示すフロー図である。
本発明の植物組織処理方法の工程の概略は、原料となる木材や稲わらなどの植物組織に対して植物組織処理剤を添加し、植物組織の分解抽出処理工程を経て、セルロースI型成分を効率的に抽出する方法である。この本発明の植物組織処理方法によって製造したセルロースI型成分は、様々な工業用途に利用可能な原材料となり得る。
なお、本発明の植物組織処理方法の必須の工程は、分解抽出処理工程(1)であり、その他の分離工程(2)〜セルラーゼ反応工程(6)などは一例に過ぎず、用途や内容に応じてそれら工程の他にも多様な処理工程があり得る。
本実施例1では以下、分解抽出処理工程(1)について中心に述べる。
【0024】
図1に示した分解抽出処理工程(1)において、投入される原材料となる植物組織としては、木材、草本の天然植物資源や、化学処理済みの植物資源などで良い。例えば、天然植物資源としては、竹類、稲わら、麦わら、ササ、ススキ、スイッチグラス、ジャイアントミスカンサス、木材間伐材樹皮のいずれかまたはそれらの組み合わせなどで良い。例えば、化学処理済みの植物資源としては、製紙工程から排出されるパルプ液に含まれる植物片残渣などなども利用可能である。
【0025】
また、図1に示した分解抽出処理工程(1)において、投入される植物組織処理剤は、水酸化リチウムを主剤とするものである。
本発明は、図2に示すように、木材片または草本片の植物組織またはそれらを原料として加工した植物由来加工物に植物組織処理剤を添加することにより植物組織または植物由来加工物の分解を促進させ、内部のセルロースI型成分を抽出する方法である。本発明者らは、ここで、植物組織を構成する原子径より小さな原子径を持つ金属元素の化合物かつ水溶性を示す化合物を主剤とする植物組織処理剤を植物組織に常温かつ常圧で添加し、組織内のセルロースミクロフィブリルまで直接浸透させることを考えた。植物組織は主に炭素で構成されているので、炭素原子より原子径の小さな金属化合物はリチウム化合物であり、水溶性を示すものとして、水酸化リチウムを挙げることができる。水酸化リチウムはリチウムの原子径が植物組織を構成する炭素の原子径より小さいため植物組織の内部への浸透性が大きく、内部のセルロースミクロフィブリルに作用しやすいと考えられる。セルロースミクロフィブリルの非結晶部分に水酸化リチウムを施用させ、特段ほかに他の有効成分を施用させず、穏やかに溶解してセルロースI型成分を溶出させる、セルロースI型成分の緩慢的な溶解抽出方法を確立した。
なお、本発明の植物組織処理剤は、同じアルカリ金属水酸化物であっても、他のアルカリ金属水酸化物を主剤とするものを用いてもかならずしも本発明と同等の効果を得ることはできない。一般的に、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化カルシウム溶液などが広く用いられているが、植物組織の破壊能力についてはアルカリ金属水酸化物すべてに広く見られる性質とまでは言えない。本発明者らの研究により、水酸化リチウムの持つ植物組織の破壊能力は、他のアルカリ金属水酸化物の持つ植物組織の破壊能力より明確に大きいことを初めて突き止めた。なお、水酸化ナトリウムは水酸化リチウムに比べて植物組織の破壊能力は劣るものの、水酸化リチウム水溶液を主剤としつつ、副剤として使用することも検討できる。
【0026】
植物組織処理剤のpHは、pH13以下の弱アルカリ性に調製した。
本発明はセルロースミクロフィブリルの非結晶部分に対して水酸化リチウムを施用させて緩慢に非結晶部分を破壊・溶解できるものであるので、温度および圧力は、常温常圧で施用させれば良いが、処理速度の一層の向上のため高温高圧下の処理環境とすることを排除はしない。例えば、温度は5℃から200℃の範囲が好ましい。
【0027】
次に、植物組織処理方法の分解抽出処理工程の検証実験について述べる。
[試験片]
実験に用いる植物組織の試験片として孟宗竹材とスギ(辺材と心材混合)材を80メッシュ以上30メッシュ以下の大きさに調整したものを100mgずつ用意した。
【0028】
[植物組織処理剤]
分解抽出工程(1)における植物組織処理剤として、水酸化リチウムを用いた試験区分と、比較対象として水酸化ナトリウムを用いた試験区分を用意した。
水酸化リチウム水溶液の濃度は、本発明の植物組織処理方法で想定する濃度範囲3w%から10w%のうち代表的な濃度である7wt%のものを用いた。一方、比較対象である水酸化ナトリウム溶液は、水酸化リチウム溶液7w%と同モル数に換算して、11.8wt%の水酸化ナトリウム溶液を用いた。
【0029】
[植物組織処理方法]
植物組織処理方法は、用意した試験片をビーカーに入れ、試験片が十分に浸漬する程度、植物組織処理剤を投入し、浮かないようガラス栓により押さえ、そのまま、1時間の静置浸漬した。
その後、流水で約1時間水洗して中性にした。
【0030】
[評価方法]
評価は京都大学生存圏研究所にて行った。
それぞれの試験区分で得られたセルロースの結晶型を調べるため「Rigaku X-RAY PIFFRACTOMETER」を用いてエックス線回析を行い、回析結果を得て解析した。
図3図4はエックス線回析の結果を示す図である。
図3は、スギ材の場合の試験結果、図4は、孟宗竹の場合の試験結果である。
図3(a)、図4(a)に示すように、エックス線回析グラフを解析した結果、水酸化リチウムを用いた試験区分では、20度から23度付近に高いピークがあり、10度付近にセルロースII型の特有のピークが見られないためセルロースI型のみが抽出されたものと判定することができた。つまり、セルロースII型のアルカリセルロースは抽出されておらず、結晶型はすべてセルロースI型であった。
濃度範囲を変えて検証した結果、植物組織処理剤の主剤である水酸化リチウム溶液3w%〜10w%の範囲においてエックス線回析結果を解析すると結晶型はすべてセルロースI型であった。
【0031】
一方、水酸化ナトリウムを用いた試験区分では、エックス線回析結果において、10度付近にセルロースII型の特有のピークが見られたため、セルロースII型が抽出されたものと判定することができた。水酸化ナトリウムを用いた試験区分ではセルロースII型のアルカリセルロースであると検証できた。
このように、本発明の植物組織処理剤の主剤として水酸化リチウムを用いたものは、爆砕などの物理的処理を伴うことなく、水酸化リチウムを常温常圧で浸透させるという緩慢な化学的処理だけで、セルロースI型の結晶型のセルロースを得ることができる。
【0032】
次に、それぞれの試験区分におけるセルロース抽出量を比較する実験も行った。
セルロースの抽出量の多寡は直接計測することが難しいため、セルロースをグルコースへと分解し、そのグルコース量を比較することで行った。
実験および評価は京都大学生存圏研究所にて行った。
試験方法の手順は以下とした。
試験片は、スギ材は1.0gを用いた。
植物組織処理剤は、上記と同じく、水酸化リチウム7w%、水酸化ナトリウムは同モル数となるよう11.8w%の試験区分を用意した。
植物組織処理方法は、上記と同じく、1時間浸漬して抽出物を得た。
評価方法は、セルロース抽出量を直接測ることに代え、セルラーゼ反応工程によりグルコース変換してそのグルコース量の多寡を測定した。
それぞれの試験区分に対して、tricoderma由来のセルラーゼ40mlを施用させた。溶液温度をセルラーゼの酵素活性が高くなる50〜53℃付近に保ちつつ振盪して反応させた。
次に、セルラーゼ浸漬後、60分、120分、240分にグルコース収量を測定した。グルコース収量測定にはGOD、比色法を用いた。
【0033】
結果を図5に示す。
図5に示すように、グルコースの収量は、本発明の植物組織処理剤の主剤である水酸化リチウムの試験区分の方が、水酸化ナトリウムの試験区分よりも多いことが分かる。つまり、セルロースの抽出量においても水酸化リチウムの優位性が確認できる。
さらに、上記したエックス線回析結果を加味すれば、図5において、水酸化リチウムの試験区分は、セルロースI型成分から生成されたグルコース量であり、水酸化ナトリウムの試験区分は、セルロースII型のアルカリセルロースから生成されたグルコース量である。
【0034】
次に、植物組織の破壊の進行の指標として、試験片の耐圧強度の変化を調べるべく圧縮試験にかけることで評価した。
評価は京都大学生存圏研究所にて行った。
試験片の初期状態はいわゆるコルク質、木質のもので硬くまとまっており崩れることはない。しかし、植物組織の破壊が進行するといわゆる脆くなり始め、進行が進むと粗い粉体のような破壊状態になってゆく。この物理的変化は試験片の圧縮耐圧変化を調べることで評価できる。
処理対象材はスギ材とした。また参考に処理対象材としてブナ材、稲わら材も用いて観察した。
植物組織処理剤は、上記と同じく、水酸化リチウム7w%、水酸化ナトリウムは同モル数となるよう11.8w%の試験区分を用意した。
植物組織処理方法は、1時間浸漬、2時間浸漬、4時間浸漬、12時間浸漬、24時間浸漬したものをそれぞれ用意した。
【0035】
水酸化リチウム溶液に浸漬した試験区分は、いずれも水酸化ナトリウム溶液に浸漬した試験区分よりも破壊が進行していることが確認できた。水酸化リチウム溶液に浸漬したスギ材についてはそれぞれ試験時間内では粉体までの破壊はなかったが脆くなっていることが触感により確認できた。なお、参考までにコルク材を用いた場合は、粗い粉体、いわゆる粉々になるまでの破壊が見られた。
一方、水酸化ナトリウム溶液に浸漬したスギ材についても試験時間内では木材の硬さの変化が小さいことが触感により確認できた。
【0036】
スギ材の圧縮試験にかけた試験片の耐圧変化の結果を図5および図6に示す。図6は測定結果、図7はそれをグラフ化したものである。
図6および図7に示すように、水酸化リチウム溶液に浸漬したスギ材の試験区分は脆性が大きくなるよう変化していることが分かる。水酸化ナトリウム溶液に浸漬したスギ材の試験区分も同様、脆性が大きくなるよう変化していることが分かる。
また、ブナ材の圧縮試験にかけた試験片の耐圧変化の結果を図13および図14に示す。図8は測定結果、図8はそれをグラフ化したものである。
図8および図9に示すように、水酸化リチウム溶液に浸漬したブナ材の試験区分は脆性が大きくなるよう変化していることが分かる。水酸化ナトリウム溶液に浸漬したブナ材の試験区分も同様、脆性が大きくなるよう変化していることが分かる。
【0037】
以上から、本発明の植物組織処理方法によれば、爆砕などの物理的手段を伴うことなく、化学的処理のみで、従来では得ることが難しかったセルロースI型を抽出することができ、かつ、その収量が大きいものであると結論付けられる。
【実施例2】
【0038】
実施例として、主剤である水酸化リチウムに対して、副剤を混合して用いる例を述べる。
[植物組織処理剤の調製]
本発明の植物組織処理剤の主剤として、水酸化リチウム水溶液を主剤として用意した。植物組織処理剤の水酸化リチウム水溶液濃度は7w%となるよう調製した。副剤として水酸化ナトリウムを添加する場合、水酸化リチウムの代替となるよう、水酸化ナトリウム水溶液濃度を7%に調整した。主剤の水酸化リチウムと副剤の水酸化ナトリウムの混合比率を変えて以下の5つの植物組織処理剤を用意した。
【表1】
ここで、項番1は、主剤である水酸化リチウム水溶液のみとし、副剤を用いない例となる。
それぞれの植物組織処理剤の液量は10mlとし、ビーカーに入れた試験片が十分に浸漬される程度の量を用意した。pHは10から12程度になるよう調製した。
【0039】
[試験片]
実験に用いる植物組織の試験片として、スギ材(S)、孟宗竹材(T)を用意した。
孟宗竹材とスギ(辺材と心材混合)材を80メッシュ以上30メッシュ以下の大きさに調整したものを100mgずつ用意した。
【0040】
[植物組織処理方法]
植物組織処理方法は、上記5つの植物組織処理剤をそれぞれビーカーに入れ、用意した試験片が十分に植物組織処理剤に浸漬するようにし、浮かないようガラス栓により押さえ、そのまま、1時間の静置浸漬した。
その後、流水で約1時間水洗して中性にした。
【0041】
[効果検証]
以下、3つの試験(セルロースの結晶化度、抽出物生成の効率を評価するグルコース生成量試験、抽出物のエックス線回析試験)を行って効果の検証をした。
セルロースの結晶化度
結晶化度の測定は京都大学生存圏研究所にて行った。
上記した各混合比率の植物組織処理剤を用いて得た抽出結果物を十分乾燥後、「Rigaku X-RAY PIFFRACTOMETER」でエックス線回析をし、そのプロットしたグラフから面積質量法により、各試験結果の結晶化度を求めた。
【0042】
図10は、各混合比率の植物組織処理剤を用いて得た抽出結果物の結晶化度を示す図である。図10においてTは孟宗竹の場合、Sはスギ材の場合である。引数は各々の植物組織処理剤の項番である。例えば、T−1は孟宗竹を項番1の植物組織処理剤を用いて処理した抽出物の結晶化度を示すものである。
結晶化度とは、注目する分子が結晶化している度合いであり、結晶化度が高いほど高分子化して安定であり、結晶化度が低いほど分解が進み、抽出しやすい状態となっていることを示す。
【0043】
図10に示すように、孟宗竹の試験結果を見れば、明らかにT−1の結晶化度は低い。T−1からT−2、・・T−5の順で結晶化度が高くなっていることが分かる。また、図10に示すように、スギ材の試験結果を見れば、やはり、明らかにT−1の結晶化度は低い。T−1からT−2、・・T−5の順で結晶化度が高くなっている傾向が分かる。
このことから、やはり、水酸化リチウム100%の植物組織処理剤がもっとも炭素源を分解していることが分かる。もし副剤を用いるとしても、T−1からT−2の間、S−1からS−2の間程度とするべきであると言える。つまり、水酸化リチウムと水酸化ナトリウムとの混合比率は、100:0〜75:25の範囲とすることが好ましいと結論付けられる。
【0044】
抽出物生成の効率を評価するグルコース生成量試験
次に、上記した各混合比率の植物組織処理剤を用いて得た抽出結果物におけるセルロースの収量を検証する。セルロースの収量は直接計測するのが難しいため、セルラーゼ反応によりセルロースをグルコースへと分解し、そのグルコース量を比較することで行った。
試験方法の手順は以下とした。
試験片は孟宗竹を400mg使用した。植物組織処理剤は、表1の項番1と項番5、つまり、水酸化リチウム7w%水溶液と、水酸化ナトリウム7%を用いて比較した。植物組織処理方法は上記と同じとした。
抽出した抽出物に対して、tricoderma由来のセルラーゼ40mlを施用させた。溶液温度をセルラーゼの酵素活性が高くなる50〜53℃付近に保ちつつ振盪して反応させた。
次に、セルラーゼ浸漬後、60分、120分、240分にグルコース収量を測定した。グルコース収量測定にはGOD、比色法を用いた。
【0045】
結果を図11に示す。
図11に示すように、孟宗竹400mgから優れたグルコースの収量は、水酸化リチウムの方が多く得られたことが分かる。水酸化リチウムの試験区分と水酸化ナトリウムの試験区分を比較すると、グルコース変換した収量において、水酸化リチウムの試験区分の方が、水酸化ナトリウムの試験区分より、1.5倍も収量が多いことが分かった。
【0046】
抽出物のエックス線回析試験
上記試験結果より、主剤である水酸化リチウムは、副剤と混合することなく100%で用いることが良く、副剤として水酸化リチウムを加える場合も主剤と副剤の割合が100:0〜75:25の範囲に抑えることが良いという結論を得たが、上記試験に用いた項番1(主剤と副剤の割合が100:0の場合)、項番2(主剤と副剤の割合が75:25の場合)について、X線回析結果を出し、両者がセルロースI型であることを確認した。
つまり、試験片として、孟宗竹、スギ材の2種類をそれぞれ100mgずつ使用し、植物組織処理剤は、表1の項番1と項番2のものを使用し、植物組織処理方法は、上記のように1時間浸漬する方法とし、水洗、乾燥させた後の抽出物を用いた。X線回析試験は、「Rigaku X-RAY PIFFRACTOMETER」を用いてエックス線回析を行い、回析結果を得て解析した。
【0047】
このX線回析試験、解析結果の確認は、京都大学生存圏研究所内にて行った。
図12はスギを処理対象とした場合の抽出物のエックス線回析結果を示すグラフ、図13は孟宗竹を処理対象とした場合の抽出物のエックス線回析結果を示すグラフである。
図12図13のエックス線回析グラフより、いずれも20度から23度付近に高いピークがあり、10度付近にセルロースII型の特有のピークが見られないため、主剤と副剤の割合が100:0の場合も、主剤と副剤の割合が75:25の場合も、セルロースI型が抽出されたものと判定することができた。また、セルロースII型は抽出されておらず、セルロースI型以外のセルロース型が混在しないことも分かった。
【実施例3】
【0048】
実施例3は、植物組織処理の分解抽出処理工程の結果得られた浸漬液側の利用と、残渣側の利用を説明する。
本実施例3は、実施例1の図1に示した植物組織の分解抽出処理工程(1)を経て得られた浸漬液または植物組織残渣に対する後処理を行い、バイオマスの炭素源等の有用物質を得るものである。
【0049】
[浸漬液の分離工程]
図1の浸漬液側の工程として、分離工程(2)について述べる。
本発明の植物組織処理剤を用いた分解抽出処理工程の後、浸漬液には植物由来構成物質の一部が溶出している。図1に示すように、分解抽出処理工程の後工程である分離工程により利用可能な形に分離することができる。分離・抽出の方法は様々あり得る。
植物由来物質の中には、いわゆる水溶性のものと油溶性のものがあるが、これらは油分と水分の分離によりそれぞれ分離抽出することができる。図1に示す分離工程により、分離抽出した水分層に溶存している水溶性成分は脱水処理により濃縮することができ、また、油分層に溶存している油溶性成分は脱油処理により濃縮することができる。
【0050】
次に、残渣側の処理として、図1の水洗工程(3)以降について述べる。
図1の水洗工程(3)は、分解抽出処理工程(1)の後、分解処理済の植物組織残渣を取り出して水洗する工程である。分解抽出処理工程(1)では植物組織処理剤に浸漬されているので植物組織内部には植物組織処理剤が多量に残存している。この植物組織処理剤の成分はバイオマスの炭素源生成には不要であるので、除去する必要がある。植物組織処理剤は実施例1で示したように水酸化リチウムなどのアルカリ金属化合物であるので水溶性を示すので、水洗することによりほぼ洗い流すことが可能である。
水洗工程(3)の後、植物組織残渣は乾燥工程(5)に移行し、水洗した水洗処理水はリチウム回収工程(4)に移行する。
【0051】
リチウム回収工程(4)は、水洗処理水に包含されているリチウムを回収する工程である。リチウムは素材として経済価値のあるものであり、分解抽出処理工程に使用した水酸化リチウムはそのまま廃棄するのは勿体なく、リチウムを回収して再利用することが好ましい。
【0052】
リチウム回収工程(4)では水洗処理水に対して二酸化炭素を投入する。
水酸化リチウムは、二酸化炭素を加えることにより、炭酸リチウムに変化させると溶解度が大きく変化して沈殿するため、リチウムは炭酸リチウムの形で容易に回収することができる。
2LiOH・H2O+CO2 → Li2CO3+3H2O
炭酸リチウムの形でも経済価値の大きな物質であり、そのまま炭酸リチウムとして利用も可能である。
また、炭酸リチウムに対して水酸化カルシウムを反応させることにより、水酸化リチウムを生成して再利用することも可能である。
Li2CO3+Ca(OH)2 → 2LiOH+CaCO3
【0053】
セルラーゼ反応工程(5)は、水洗工程(3)の処理後の植物組織残渣中に残存しているセルロースに対して、(1→4)−β−グルコシド結合の加水分解酵素であるセルラーゼを施用してセルロース分解を行う工程である。
セルロース分解酵素であるセルラーゼには多様な菌がある。用いる菌種は限定されず、セルロース分解を行うものであれば良い。
セルラーゼ反応工程はセルロースを分解してグルコースを生成する反応である。
【0054】
次に、濾過工程(6)について述べる。残渣側の工程におけるセルラーゼ反応工程(5)により生成されたグルコースを濾過により取り出す工程である。
グルコースは糖化が進んだ物質であり、例えば、バイオエタノールを得るための基本原料となるものであり、バイオマス利用に適した物質である。
グルコースは液分に溶出しているので、濾過工程(6)によりグルコースと、残渣を簡単に分離することができる。
【0055】
濾過工程(6)で残渣として回収されたものは、脆くなっており、特別な粉砕機でなくともボールミル等の汎用的な粉砕機を用いて粉砕することができ、それもバイオマス源として利用用途に応じた原料となる。
これらの工程で得られたセルロースに対してセルロース分解酵素であるセルラーゼを適温で反応させれば、セルロース分解反応によりグルコースを生成することができる。
【実施例4】
【0056】
実施例4として、本発明の植物組織処理方法を適用し、植物組織の分解を促進させて植物組織の体積を小さくする嵩低減方法の実施例について述べる。
以下の検証実験では、植物組織として「稲わら」を用いた例として各工程の結果を検証する。
本発明の水酸化リチウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化リチウム溶液試験区分と略記する。)と、比較実験として、水酸化ナトリウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化ナトリウム溶液試験区分と略記する。)と、コントロールとして植物組織処理剤を用いずに単なる精製水を用いた試験区分(以下、精製水試験区分と略記する。)を用意して実験した。
【0057】
実験に用いる植物組織である稲わらは、あらかじめ自然乾燥し、約30mmの長さにカットしたものを用いた。カットした稲わらを0.5gずつ用意した。
各試験区分において、水酸化リチウム溶液の濃度は7w%、pHは10から12程度になるよう調製されており、水酸化ナトリウム溶液の濃度は11.8w%、pHは10から12程度になるよう調製したものを用いた。
図1における分解抽出処理工程(1)は、各試験区分とも溶液に6時間浸漬することで行った。
なお、分解抽出処理工程(1)の結果得られた植物組織残渣は乾燥させて保存に適した形態とすることが好ましい。
【0058】
図14は、植物組織の分解抽出処理工程、その後取り出した植物組織残渣の水洗工程、さらに乾燥工程を模擬した結果を示す図である。
図14(a)は、植物組織の分解抽出処理工程(1)の結果を示す図である。
図14(a)に示すように、水酸化リチウム溶液試験区分では浸漬溶液の色が時間経過とともに透明色から茶系の濃色に変化しており、植物由来構造物が溶脱している様子が見られる。
【0059】
一方、水酸化ナトリウム溶液試験区分では、溶液の色の変化が水酸化リチウム溶液試験区分の溶液の色の変化とは若干違っているが、時間経過とともに透明色から茶系の濃色に変化しており、植物由来構造物が溶脱している様子が見られる。
精製水試験区分では精製水は透明のままであり特段何も溶脱していないことが分かる。
【0060】
図14(b)は、それぞれの試験区分から植物組織残渣を取り出した様子を示す図である。水酸化リチウム溶液試験区分ではかなり脆くなっていることが触感で感得された。水酸化ナトリウム溶液試験区分では全体に粘り気があり、若干植物組織が軟らかくなっているようであったが脆くなっているとまでは言えないことが触感で感得された。精製水試験区分は明らかに湿っているのみである。
【0061】
図14(c)は、水洗処理工程(3)を終えた状態の各試験区分の植物組織残渣の様子を示す図である。なお、ナイロン製ネット上で18日間、風通しの良い屋内で室内風乾を行なった。
水酸化リチウム溶液試験区分では乾燥してさらに脆くなっていることが触感で感得された。水酸化ナトリウム溶液試験区分では乾燥により少し縮んだ感じであるが繊維がしっかりと残存しており脆くなっているとまでは言えないことが触感で感得された。精製水試験区分は原材料の稲わらの初期状態に戻った感じであった。
【0062】
図15は、植物組織残渣の粉砕し易さを示す図である。
図15の上段は、植物組織残渣を簡単に指で擦った状態を示す図である。
水酸化リチウム溶液試験区分では、植物組織残渣が脆くなっており、指でも簡単にすり潰すことができ、繊維状に残るものは少なく、バラバラな小さな破砕片に砕けた。水酸化リチウム溶液試験区分では、浸漬時間を長くしたり撹拌を加えたりすることで繊維まで分解することができることが分かる。
【0063】
一方、水酸化ナトリウム溶液試験区分では、植物組織残渣が軟らかくなっており、指でも押し潰すことができたが、繊維に沿って裂ける程度であり、小さな破砕片に砕けることはなかった。
精製水試験区分では、稲わらが乾燥しただけであり割ること自体も容易とは言えないものであった。
【0064】
次に、図15の下段は、植物組織残渣を乳鉢ですり潰した状態を示す図である。
水酸化リチウム溶液試験区分では、植物組織残渣が脆くなっているので、乳鉢で軽く擦る程度でもすり潰すことができ、小さな粉体状になった。さらに力を込めて乳鉢ですり潰せばより粉末化が進んでいくことが分かった。つまり、植物組織残渣は容易に粉末化できるものであることが分かった。
【0065】
一方、水酸化ナトリウム溶液試験区分では、植物組織残渣が軟らかくなっており、繊維に沿って裂けて行くが、繊維がバラバラになるだけで小さな破砕片になることはなかった。つまり、植物組織残渣は容易に粉末化できるものでないことが分かった。
【0066】
なお、図15に示した結果から、本発明の植物組織または植物由来加工物の処理方法によって植物組織残渣を効果的に粉末化することができる結果、嵩張っていた植物組織を粉末化することにより嵩密度を上げることができ、体積を小さくすることができることが分かる。
このように、植物組織または植物由来加工物をバイオマスの炭素源として利用する材料として体積を減らせることができれば、輸送、保存などのコストを低減することができる。
【実施例5】
【0067】
実施例5として、本発明の植物組織処理剤を、段ボールや紙製品などの植物由来加工物に適用し、その分解を促進させる実施例について述べる。
以下の検証実験では、植物由来加工物の例として「段ボール」と「紙片」を用いた場合を検証する。
【0068】
まず、段ボールに対する本発明の植物組織処理剤の施用効果について検証した。
本発明の水酸化リチウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化リチウム溶液試験区分と略記する。)と、比較実験として、水酸化ナトリウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化ナトリウム溶液試験区分と略記する。)と、コントロールとして植物組織処理剤を用いずに単なる精製水を用いた試験区分(以下、精製水試験区分と略記する。)を用意して実験した。
【0069】
実験に用いる段ボールは、あらかじめ自然乾燥したものを用いた。
各試験区分において、水酸化リチウム溶液の濃度は7w%、pHは10から12程度になるよう調製されており、水酸化ナトリウム溶液の濃度は11.8w%、pHは10から12程度になるよう調製したものを用いた。
分解抽出処理工程は、各試験区分とも溶液を滴下して1時間施用させることで行った。1時間施用させた後の状態を観察した。
【0070】
図16は、段ボールの表面に各溶液を滴下して1時間経過した状態を観察した様子を示す図である。
図16上段に示す水酸化リチウム溶液試験区分では、段ボールの表面から内部に向けて浸透しており、段ボールの表面が分解されてやや崩れ始めており、時間経過とともにやや変色してゆき、段ボールの植物由来構造物が溶脱している様子が見られる。
【0071】
一方、図16中段に示す水酸化ナトリウム溶液試験区分では、段ボールの表面から内部への浸透が水酸化リチウムほど大きくはなく、段ボールの表面がやや変色しているが崩れている様子までは観察されず、時間経過してもリチウム溶液試験区分の変化のような植物由来構造物の溶脱の度合いは大きくない。
一方、図16下段に示す精製水試験区分では、段ボールの表面で撥かれて精製水が表面に溜まった状態で透明のままであり、特段何も溶脱していないことが分かる。
【0072】
次に、紙片に対する本発明の植物組織処理剤の施用効果について検証した。
本発明の水酸化リチウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化リチウム溶液試験区分と略記する。)と、比較実験として、水酸化ナトリウムを主剤とした植物組織処理剤を用いた試験区分(以下、水酸化ナトリウム溶液試験区分と略記する。)と、コントロールとして植物組織処理剤を用いずに単なる精製水を用いた試験区分(以下、精製水試験区分と略記する。)を用意して実験した。
【0073】
実験に用いる紙片は、あらかじめ自然乾燥したものを用いた。
各試験区分において、水酸化リチウム溶液の濃度は7w%、pHは10から12程度になるよう調製されており、水酸化ナトリウム溶液の濃度は11.8w%、pHは10から12程度になるよう調製したものを用いた。
分解抽出処理工程は、各試験区分とも溶液を滴下して1時間施用させることで行った。1時間施用させた後の状態を観察した。
【0074】
図17は、紙片の表面に各溶液を滴下して1時間経過した状態を観察した様子を示す図である。
図17上段に示す水酸化リチウム溶液試験区分では、紙片の表面から内部に向けて浸透しており、紙片の表面が分解されて表面がやや崩れ始めており、時間経過とともにやや変色してゆき、植物由来構造物が溶脱している様子が見られる。
【0075】
一方、図17中段に示す水酸化ナトリウム溶液試験区分では、表面がやや変色しているが、崩れている様子までは観察されず、時間経過してもリチウム溶液試験区分の変化のような植物由来構造物の溶脱の度合いは大きくない。
一方、図17下段に示す精製水試験区分では、紙片の表面で撥かれて精製水が表面に溜まった状態で透明のままであり、特段何も溶脱していないことが分かる。
【0076】
木片や草本片の植物組織への本発明のセルロースI型成分の緩慢的な溶解効果や、植物組織の分解促進効果は、上記の実施例1から4で実証してきたが、この実証実験により、段ボールや紙片という植物由来加工物であっても同様に、本発明のセルロースI型成分の緩慢的な溶解効果や、植物組織の分解促進効果が得られることが分かる。もっとも、段ボールや紙片という植物由来の加工物は本質的には木片や草本片という植物組織を残した状態の加工物であるので、それら効果が得られることは当然といえる。
【0077】
以上、本発明の植物組織の分解を促進する植物組織または植物由来加工物の処理方法、その主剤、その植物組織または植物由来加工物の処理方法で抽出した原料組成物、および植物組織または植物由来加工物の嵩低減方法に関する実施例が示された。
【0078】
本発明によれば、植物組織をバイオマスの炭素源としての原材料へ生成する処理において、従来技術では必要とされていた、消費されてしまう処理剤(化学薬品)や、大掛かりな機械装置や、多量なエネルギーなどを不要とし、本発明の植物組織処理剤に対して浸漬するだけで緩慢に反応させるという、非常に簡易な方法で、かつ植物組織処理剤も消費せずに、木材、草本類の植物組織、段ボールや紙製品などの植物由来加工物からセルロースI型のセルロースを含む植物由来成分を抽出することができる。
また、草本系抽出後の植物組織残渣、例えば稲わらの場合では、容易にその体積を数分の一位に小さくすることが出来、生産地から消費地までのカーボンマイレイジ低減に大きく寄与するものである。貯蔵コストも低減できる。
【0079】
本発明を用いれば、大きな土地も・大規模な装置も必要としないため、従来は農業の現場では活用が難しかった木材、草本類の植物組織から植物由来物質を簡易に抽出することおよびバイオマスの炭素源材料を得ることができ、農業地域での新しい雇用も生み出す可能性も持っている。
【0080】
リチウムはバッテリーなどの材料として工業的利用が進んでいるが、水酸化リチウムをこのような形態で植物組織処理に活用することは現在まで無かったところ、新たな活用を見出した意義もある。無機材料で塩基性の化合物としては水酸化ナトリウムが多用されてきたが、水酸化リチウムは同じ塩基性を示す化合物であるところ両者には植物組織に対する分解能力において大きな差があることを見出した。
【0081】
今般、本発明にあたって、見出した水酸化リチウムの植物組織に対する分解能力、植物由来物質の抽出能力は今まで知られていなかった水酸化リチウムの効果であり、当該効果を本願の発明者である2名、つまり、当特許出願に際し参考文献とした「セルロースの事典」、朝倉出版の共同著書の一人である、京都大学生存圏研究所の吉村教授と共同開発者である堀井三郎2名の名前を取って「吉村・堀井効果」と称することとする。
【0082】
以上、本発明の植物組織処理剤および植物組織からの植物由来物質の製造方法の構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、現在低迷している国内林業の活性化と、それ程大規模ではないにしろ、地域振興の一翼を担えることが考えられる。
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