特許第6536036号(P6536036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536036
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20190625BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20190625BHJP
   C03C 13/04 20060101ALI20190625BHJP
   C03B 37/012 20060101ALI20190625BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   G02B6/02 376A
   G02B6/036
   C03C13/04
   C03B37/012 A
   C03B37/018 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-4887(P2015-4887)
(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-130786(P2016-130786A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】春名 徹也
(72)【発明者】
【氏名】田村 欣章
(72)【発明者】
【氏名】佃 至弘
【審査官】 廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−048775(JP,A)
【文献】 特開平05−043267(JP,A)
【文献】 特表2007−516929(JP,A)
【文献】 特表2007−513862(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0231852(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02
C03B 37/012,37/018
C03C 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系ガラスを主成分とし、カリウムを含むコアと、前記コアを取り囲み前記コアの屈折率より小さい屈折率を有するクラッドとを備える光ファイバであって、
前記光ファイバの断面において、カリウム濃度は、ファイバ軸中心位置にピークを有するだけでなく、径方向の或る位置においてもピークを有し、
ラマン散乱スペクトルにおける波数範囲750〜875cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3波数範囲565〜640cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3の径方向分布を、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界分布E(r)で、直径20μmの領域で重みづけを行って得られる値
【数1】
が0.48以下である光ファイバ。
【請求項2】
石英系ガラスを主成分とし、カリウムを含むコアと、前記コアを取り囲み前記コアの屈折率より小さい屈折率を有するクラッドとを備える光ファイバであって、
前記光ファイバの断面において、カリウム濃度は、ファイバ軸中心位置にピークを有するだけでなく、径方向の或る位置においてもピークを有し、
ラマン散乱スペクトルにおける波数範囲750〜875cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3波数範囲565〜640cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3が、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置において0.50以下である光ファイバ。
【請求項3】
石英系ガラスを主成分とし、カリウムを含むコアと、前記コアを取り囲み前記コアの屈折率より小さい屈折率を有するクラッドとを備える光ファイバであって、
前記光ファイバの断面において、カリウム濃度は、ファイバ軸中心位置にピークを有するだけでなく、径方向の或る位置においてもピークを有し、
ラマン散乱スペクトルにおける波数範囲750〜875cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3波数範囲565〜640cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で定義されるシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3の径方向分布において、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置での値とファイバ軸中心での値との差が0.15以下である光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レイリ散乱が小さく伝送損失が小さい光ファイバとして、コアがアルカリ金属元素を含む石英ガラス系の光ファイバが知られている(例えば特許文献1〜10を参照)。光ファイバ母材のコア部がアルカリ金属元素を含んでいると、光ファイバ母材を線引きするときにコア部の粘性を下げることができ、石英ガラスのネットワーク構造の緩和が進行することから、光ファイバ内の仮想温度が低下し、光ファイバの伝送損失を低減することが可能であるからである。
【0003】
アルカリ金属元素を石英ガラス中に添加する方法としては拡散法が知られている(例えば特許文献1,2を参照)。拡散法は、原料となるアルカリ金属元素またはアルカリ金属塩などの原料蒸気をガラスパイプ内に導入しながら、ガラスパイプを外部熱源により加熱したり、ガラスパイプ内にプラズマを発生させたりすることで、アルカリ金属元素をガラスパイプの内表面に拡散添加するものである。
【0004】
このようにしてアルカリ金属元素をガラスパイプの内表面近傍に添加した後、このガラスパイプを加熱して縮径させる。縮径後、アルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素を除去する目的で、ガラスパイプの内表面のある厚みをエッチングする。アルカリ金属元素は遷移金属元素よりも拡散が速いためガラス表面をある厚みでエッチングして遷移金属元素を除去してもアルカリ金属元素を残留させることが可能である。エッチング後、ガラスパイプを加熱して中実化することで、アルカリ金属元素添加コアロッドを製造する。このアルカリ金属元素添加コアロッドの外側に、アルカリ金属元素添加コアロッドを含むコア部より屈折率が低いクラッド部を合成することで、光ファイバ母材を製造する。そして、この光ファイバ母材を線引きすることで光ファイバを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−537210号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0130530号明細書
【特許文献3】特表2007−504080号公報
【特許文献4】特表2008−536190号公報
【特許文献5】特表2010−501894号公報
【特許文献6】特表2009−541796号公報
【特許文献7】特表2010−526749号公報
【特許文献8】国際公開第98/002389号
【特許文献9】米国特許第5146534号明細書
【特許文献10】特開2009−190917号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Raman studies of vitreous SiO2versus fictive temperature, Physical Review B., 28, 3266 (1983).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の拡散法によりアルカリ金属元素をガラスパイプの内表面に拡散添加した結果、アルカリ金属元素の拡散により、コアにおける仮想温度の径方向分布はファイバ軸中心において最小となる傾向を有する。この場合、コアを導波する光のパワー分布を考慮すると、パワーが大きいコア外周部の仮想温度が高くなるので、光ファイバの伝送損失が十分に低減しない。一方、光ファイバの伝送損失を下げるために一度に高濃度のアルカリ金属元素を添加しようとすると、結晶化が発生し、伝送損失が上昇するという課題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、コアがアルカリ金属元素を含み伝送損失が小さい光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ファイバは、石英系ガラスを主成分とし、アルカリ金属元素を含むコアと、前記コアを取り囲み前記コアの屈折率より小さい屈折率を有するクラッドとを備え、ラマン散乱スペクトルにおけるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3とシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3の径方向分布が所定の要件を満たすことで、伝送損失が低減される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光ファイバは、コアがアルカリ金属元素を含み、伝送損失が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】石英系ガラスのラマン散乱スペクトルの一例を示す図である。
図2】(ID2/Iω3)weightと伝送損失との関係を示すグラフである。
図3】(ID2/Iω3)Pmaxと伝送損失との関係を示すグラフである。
図4】(ID2/Iω3)differenceと伝送損失との関係を示すグラフである。
図5図2図4に示した実施例1〜11の光ファイバの諸元を纏めた表である。
図6】光ファイバ製造方法を説明するフローチャートである。
図7】第2コラプス工程S10で作製されたガラスロッドのカリウム濃度分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光ファイバは、石英系ガラスを主成分とし、アルカリ金属元素を含むコアと、前記コアを取り囲み前記コアの屈折率より小さい屈折率を有するクラッドとを備える。
【0013】
本発明の光ファイバは、ラマン散乱スペクトルにおけるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3とシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3の径方向分布を、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界分布E(r)により、直径20μmの領域で重みづけを行って得られる値
【数1】

が0.48以下である。
【0014】
または、本発明の光ファイバは、ラマン散乱スペクトルにおけるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3とシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3が、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置において0.50以下である。
【0015】
または、本発明の光ファイバは、ラマン散乱スペクトルにおけるSi-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3とシリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2との比ID2/Iω3の径方向分布において、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置での値とファイバ軸中心での値との差が0.15以下である。
【0016】
本発明の光ファイバでは、前記コア部は、任意のアルカリ金属元素を含んでよいが、アルカリ金属元素としてカリウムを含むのが好適である。
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
初めに、石英系ガラスのラマン散乱スペクトルと仮想温度との関係について説明する。一般に、物質に光を照射すると、光と物質(分子振動)との相互作用により、照射光波長と異なる波長のラマン散乱光が発生する。そのラマン散乱光を分光して得られたラマン散乱スペクトルより、物質の分子レベルの構造を解析することができる。石英系ガラスに波長532nmのレーザ光を照射すると、図1に示されるようならラマン散乱スペクトルが得られる。
【0019】
同図において、Si-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3が波数範囲750〜875cm-1に認められる。シリカ三員環構造に帰属されるラマン散乱光D2が波数範囲565〜640cm-1に認められる。また、シリカ四員環構造に帰属されるラマン散乱光D1が波数範囲475〜525cm-1に認められる。
【0020】
以下では、Si-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3を、ラマン散乱スペクトルにおいて波数範囲750〜875cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で表す。また、シリカ三員環構造によるラマン散乱光D2の強度ID2を、ラマン散乱スペクトルにおいて波数範囲565〜640cm-1に引かれたベースラインとラマン散乱スペクトルとの間に挟まれた領域の平均強度で表す。
【0021】
比ID2/Iω3が小さいほど、石英系ガラスの均一化が進み、仮想温度が低いことが知られている(非特許文献1を参照)。石英系ガラスを主成分とする光ファイバは、比ID2/Iω3が小さいほど、レイリ散乱損失が低減し、伝送損失が低くなる。
【0022】
光ファイバにおける比ID2/Iω3の測定は、顕微ラマン分光法により行われ、例えば以下の方法により行われる。半導体レーザ装置から出力される波長532nmのレーザ光を、幅100μmのスリットに通した後、倍率50倍の対物レンズにより集光することで、約2μmのスポット径として光ファイバ端面に照射する。露光は積算30秒で2回とする。レーザ光の強度は、発振出力1W(光ファイバ端面では約100mW)である。そして、光ファイバ端面に対して上記レーザ光を垂直照射して、後方散乱配置によりラマン散乱スペクトルを測定する。更に、レーザ光を照射しながらファイバ径方向に走査することで、ファイバ径方向のラマン散乱光分布を測定する。
【0023】
ラマン散乱スペクトルを測定する際の検出器の各チャネルの間の感度の違いを補正する為に、以下の計算を行なう。
[補正後のスペクトル] = [測定されたスペクトル] × [各チャネル補正係数]
[各チャネル補正係数] = [校正用ハロゲンランプの測定されたスペクトル]
÷ [校正用ハロゲンランプの理論上のスペクトル]
そして、補正後のラマン散乱スペクトルの波数依存性のデータに基づいて、Si-O伸縮振動によるラマン散乱光ω3の強度Iω3を算出するとともに、シリカ三員環構造に帰属されるラマン散乱光D2の強度ID2を算出して、これらID2とIω3との強度比ID2/Iω3を算出する。
【0024】
以下の図2図5は、光ファイバのコアに含まれるKの平均濃度を10、15、20原子ppmの各値とし、Kを含む領域を変えた光ファイバ母材を複数本線引し、得られた光ファイバについてラマン分光法でD2及びω3の径方向分布を測定した結果を表す。
【0025】
図2は、(ID2/Iω3)weightと伝送損失との関係を示すグラフである。(ID2/Iω3)weightは、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界分布で、比ID2/Iω3の径方向分布を、直径20μmの領域で重みづけを行って得られる値である。伝送損失は、波長1550nmでの値である。
【0026】
同図から、コアの平均K濃度が高い程、波長1550nmでの伝送損失が低いことが分かる。また、(ID2/Iω3)weightが小さい程、波長1550nmでの伝送損失が低いことが分かる。(ID2/Iω3)weightと波長1550nmでの伝送損失との間に略線形関係があることが認められる。
【0027】
また、同図から具体的に以下のことが分かる。伝送損失≦0.154dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)weight≦0.48であることが必要である。伝送損失≦0.152dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)weight≦0.44であることが必要である。伝送損失≦0.150dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)weight≦0.40であることが必要である。また、伝送損失≦0.148dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)weight≦0.36であることが必要である。
【0028】
よって、伝送損失≦0.154dB/kmを実現するためには、(ID2/Iω3)weightは0.48以下であることが好ましく、製造バラつきを考慮すると(ID2/Iω3)weightは0.44以下であることが更に好ましい。
【0029】
図3は、(ID2/Iω3)Pmaxと伝送損失との関係を示すグラフである。(ID2/Iω3)Pmaxは、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置での比ID2/Iω3の値である。伝送損失は、波長1550nmでの値である。例えば、コアの実効断面積が130μmであって、モードフィールド径が12.2μmである場合、波長1550nmの電界強度が最大となる位置は半径4μmの位置となる。
【0030】
同図から、(ID2/Iω3)Pmaxが小さい程、波長1550nmでの伝送損失が低いことが分かる。(ID2/Iω3)Pmaxと波長1550nmでの伝送損失との間に略線形関係があることが認められる。
【0031】
また、同図から具体的に以下のことが分かる。伝送損失≦0.154dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)Pmax≦0.48であることが必要である。伝送損失≦0.152dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)Pmax≦0.45であることが必要である。伝送損失≦0.150dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)Pmax≦0.40であることが必要である。また、伝送損失≦0.148dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)Pmax≦0.40であることが必要である。
【0032】
よって、伝送損失≦0.154dB/kmを実現するためには、(ID2/Iω3)Pmaxは0.48以下であることが好ましく、は製造バラつきを考慮すると(ID2/Iω3)Pmaxは0.45以下であることが更に好ましい。
【0033】
図4は、(ID2/Iω3)differenceと伝送損失との関係を示すグラフである。(ID2/Iω3)differenceは、屈折率プロファイルに基づいて計算される波長1550nmの導波光の電界が最大となる径方向位置での比ID2/Iω3の値と、ファイバ軸中心での比ID2/Iω3の値との差である。伝送損失は、波長1550nmでの値である。
【0034】
同図から、各K濃度において、(ID2/Iω3)differenceが小さい程、波長1550での伝送損失が低いことが分かる。これは、コア部のID2/Iω3の径方向の変動が小さい程、ガラス構造の変化が小さくなり、即ち歪が小さくなり、その結果、ガラスの散乱損失が低減し、伝送損失が低減したと推測される。
【0035】
また、同図から、K濃度が15ppmである場合において、具体的に以下のことが分かる。伝送損失≦0.154dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)difference≦0.14であることが必要である。伝送損失≦0.152dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)difference≦0.08であることが必要である。また、伝送損失≦0.150dB/kmを得るためには (ID2/Iω3)difference≦0.03であることが必要である。
【0036】
よって、伝送損失≦0.154dB/kmを実現するためには、(ID2/Iω3)differenceは、0.14以下(K濃度=15原子ppm時)であることが好ましく、0.03以下(K濃度=10原子ppm時)であることが更に好ましい。
【0037】
図5は、図2図4に示した実施例1〜11の光ファイバの諸元を纏めた表である。同図は、実施例1〜11の各光ファイバについて、コア部の平均K濃度、波長1550nmでの伝送損失、(ID2/Iω3)weight、(ID2/Iω3)Pmaxおよび (ID2/Iω3)differenceを示す。
【0038】
実施例11の光ファイバは以下の方法により製造された。図6は、光ファイバ製造方法を説明するフローチャートである。この光ファイバ製造方法は、準備工程S1、第1添加工程S2、第1縮径工程S3、第1エッチング工程S4、第1コラプス工程S5、小径化工程S6、第2添加工程S7、第2縮径工程S8、第2エッチング工程S9、第2コラプス工程S10、第1研削工程S11、第3コラプス工程S12、コア延伸工程S13、第2研削工程S14、第4コラプス工程S15、延伸工程S16、第2クラッド部付与工程S17および線引き工程S18を順に行うことで、光ファイバを製造することができる。
【0039】
準備工程S1では、第1ガラスパイプを用意する。第1ガラスパイプは、石英系ガラスからなり、塩素(Cl)濃度が150原子ppmであり、フッ素(F)濃度が6,000原子ppmであり、その他のドーパント及び不純物の濃度が10モルppm以下である。また、この第1ガラスパイプの外径は35mmであり、内径は20mmである。
【0040】
第1添加工程S2では、第1ガラスパイプの内表面にアルカリ金属元素を添加する。具体的には、アルカリ金属原料として臭化カリウム(KBr)を用い、これを熱源により温度850℃に加熱してKBr蒸気を発生させる。そして、キャリアガスとして導入する1slm(標準状態にして1リットル/分)の酸素と共にKBr蒸気を第1ガラスパイプの中に導入しながら、外部から酸水素バーナによって第1ガラスパイプの表面が2150℃となるように第1ガラスパイプを加熱する。このとき、酸水素バーナを速さ40m/minでトラバースさせ、合計15ターン加熱し、カリウム元素を第1ガラスパイプ内表面に拡散させる。
【0041】
第1縮径工程S3では、第1ガラスパイプを加熱して縮径する。具体的には、カリウム元素が添加された第1ガラスパイプの中に酸素(0.5slm)を流しながら、酸水素バーナによって第1ガラスパイプの外表面が2250℃となるように第1ガラスパイプを加熱する。酸水素バーナを複数回トラバースさせて第1ガラスパイプを加熱し、内径が5mmになるまで第1ガラスパイプを縮径する。
【0042】
第1エッチング工程S4では、第1ガラスパイプの内面をエッチングして、第1添加工程S2においてアルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素やOH基を除去する。具体的には、カリウム元素が添加された第1ガラスパイプの中にSF(0.2slm)及び酸素(0.5slm)の混合ガスを導入しながら、酸水素バーナで第1ガラスパイプを加熱し気相エッチングする。
【0043】
第1コラプス工程S5では、第1ガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する。具体的には、第1エッチング工程S4後の第1ガラスパイプの中を絶対圧97kPa以下に減圧すると共に、酸素(2slm)を第1ガラスパイプの中に導入しながら、酸水素バーナによって第1ガラスパイプの表面温度を2150℃として第1ガラスパイプを中実化し、これにより、直径25mmのカリウムを添加したガラスロッドを作製する。
【0044】
小径化工程S6では、第1コラプス工程S5で作製されたガラスロッドの外周部分を除去して、小径化した第1ガラスロッドを作製する。具体的には、第1コラプス工程S5で作製されたガラスロッドの中心部分を直径5mm穿孔により刳り貫く。または、第1コラプス工程S5で作製されたガラスロッドの外周部分を研削する。ここで作製される第1ガラスロッドの表層部のカリウム濃度は200原子ppmである。
【0045】
第2添加工程S7では、第2ガラスパイプの内表面にカリウム元素を添加する。第2ガラスパイプは、第1ガラスパイプの同様の石英系ガラスからなる。第2ガラスパイプへのカリウム元素の添加は、第1添加工程S2と同様にして行われる。
【0046】
第2縮径工程S8では、第2ガラスパイプを加熱して縮径する。具体的には、カリウム元素が添加された第2ガラスパイプの中に酸素(0.5slm)を流しながら、酸水素バーナによって第2ガラスパイプの外表面が2250℃となるように第2ガラスパイプを加熱する。酸水素バーナを6回トラバースさせて第2ガラスパイプを加熱して縮径する。縮径後の第2ガラスパイプの内径は、小径化工程S6で製造された第1ガラスロッドの外径より0.1mm〜1mm程度大きい。
【0047】
第2エッチング工程S9では、第2ガラスパイプの内面をエッチングして、第2添加工程S7においてアルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素やOH基を除去する。具体的には、カリウム元素が添加された第2ガラスパイプの中にSF(0.2slm)及び酸素(0.5slm)の混合ガスを導入しながら、酸水素バーナで第2ガラスパイプを加熱し気相エッチングする。
【0048】
第2コラプス工程S10では、小径化工程S6で製造された第1ガラスロッドを第2エッチング工程S9後の第2ガラスパイプの中に挿入し、第1ガラスロッドと第2ガラスパイプとを加熱し一体化するロッドインコラプス法により、ガラスロッドを作製する。具体的には、第1コラプス工程S5と同様に、第2ガラスパイプの中を絶対圧97kPa以下に減圧すると共に、酸素(2slm)を第2ガラスパイプの中に導入しながら、酸水素バーナによって第2ガラスパイプの表面温度を2150℃としてロッドインコラプスを行う。
【0049】
第1研削工程S11では、第2コラプス工程S10で作製されたガラスロッドの外周部分を研削して第2ガラスロッドを作製する。ここで作製される第2ガラスロッドは、直径16mmであり、全体にはカリウム元素が添加されておらず、外周領域にはカリウム元素が添加されていない。この第2ガラスロッドは、塩素濃度が150原子ppmでありフッ素濃度が6,000原子ppmでありカリウム元素を含む第1コア部と、第1コア部を取り囲み塩素濃度が150原子ppmでありフッ素濃度が6,000原子ppmでありカリウム元素濃度が10原子ppm以下である第2コア部と、を有する。第2コア部は実質的にカリウム元素を含まない。
【0050】
第3コラプス工程S12では、第2ガラスロッドの外周上に第3コア部を付加する。この工程では、塩素濃度が12,000原子ppmであり塩素以外の添加物を実質的に含まない石英系ガラスからなる第3ガラスパイプを準備し、この第3ガラスパイプの中に第2ガラスロッドを挿入し加熱一体化するロッドインコラプス法により、第2ガラスロッドの外周上に第3コア部を付加して、これにより第3ガラスロッドを作製する。この第3ガラスロッドは、光ファイバのコアとなる部分である。
【0051】
コア延伸工程S13では、第3コラプス工程S12で作製された第3ガラスロッドを加熱延伸して、第3ガラスロッドの外径を27mmとする。
【0052】
第2研削工程S14では、コア延伸工程S13で延伸された第3ガラスロッドの外周部分を研削して、直径20mmのコアロッドを作製する。
【0053】
このコアロッドは、塩素濃度が150原子ppmでありフッ素濃度が6,000原子ppmでありカリウム元素を含む第1コア部と、第1コア部を取り囲み塩素濃度が150原子ppmでありフッ素濃度が6,000原子ppmでありカリウム元素濃度が10原子ppm以下である第2コア部と、第2コア部を取り囲み塩素濃度が12,000原子ppmでありカリウム濃度が10原子ppm以下である第3コア部と、を有する。第2コア部および第3コア部は実質的にカリウム元素を含まない。コアロッド内の第1コア部の径とコアロッドの径(20mm)との比は5倍である。
【0054】
第4コラプス工程S15では、第3コア部の外周上に第1クラッド部を付加する。この工程では、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第4ガラスパイプを準備し、この第4ガラスパイプの中にコアロッドを挿入し加熱一体化するロッドインコラプス法により、第3コア部の外周上に第1クラッド部を付加する。コア部と第1クラッド部との相対比屈折率差は最大で0.34%程度である。
【0055】
延伸工程S16では、第4コラプス工程S15においてコアロッドおよび第4ガラスパイプが一体化されてなるガラスロッドを延伸して、線引き工程S18で製造される光ファイバのコアの径が所望値となるように、該ガラスロッドの径を調整する。
【0056】
第2クラッド部付与工程S17では、第1クラッド部の外周上に第2クラッド部を付加する。この工程では、延伸工程S16後のガラスロッドの外周上に、OVD法、VAD法、ロッドインコラプス法等の方法により、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第2クラッド部を合成して、これにより光ファイバ母材を製造する。コア部の平均K濃度は20原子ppmである。
【0057】
線引き工程S18では、以上のようにして製造された光ファイバ母材を線引きして、光ファイバを製造する。この光ファイバの波長1550nmでの伝送損失は0.148dB/kmである。
【0058】
図7は、第2コラプス工程S10で作製されたガラスロッドのカリウム濃度分布の一例を示すグラフである。同図に示されるように、光ファイバ断面において、カリウム濃度は、ファイバ軸中心位置にピークを有するだけでなく、径方向の或る位置においてもピークを有する。
【0059】
実施例11の光ファイバは以上の方法により製造された。実施例3、4、7、8の各光ファイバは、同様の第1添加工程S2および第2添加工程S7を有する製造方法で製造されたが、第1添加工程S2および第2添加工程S7それぞれにおける電気炉の温度およびトラバース回数を変えて、図5に示される特性を有するものとされた。実施例2の光ファイバは、上記の実施例11の製造方法法で、中心ロッドがKを含まないガラスロッドで、上記第2添加工程S7以降を同様のプロセスで製造し、コアの一部にリング状にKを添加したものとされた。また、実施例6、10の各光ファイバも同様の製造方法で製造された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7