(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536073
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】直流電源系統の特性安定化装置
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20190625BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
H02J1/00 306B
H02M3/155 H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-33454(P2015-33454)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-158339(P2016-158339A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】町田 啓
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
【審査官】
坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−099986(JP,A)
【文献】
特開平07−115770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J1/00−1/16
H02M1/00−3/44
7/00−7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流のバスラインに、異なった種類の複数の直流電源と、蓄電装置を有する直流電圧制御装置を接続した電力システムにおいて、
前記直流のバスラインに直流系統特性調整装置を接続し、
前記直流のバスラインに接続された電源系統の構成変更時に、前記直流系統特性調整装置から仮想電流指令ICRを出力し、前記直流電圧制御装置の直流電圧制御部が出力した電流IVRに加算して前記バスラインの電圧制御指令とし、
前記直流系統特性調整装置は、直流電流検出ILと直流電圧検出VDCを入力してバスライン推定容量CEを推定出力すると共に、所定の周波数を有する容量推定電流IESTを発生するバスライン静電容量推定部と、
予め設定された設定静電容量CRと前記バスライン推定容量CEの差分と、直流電圧検出VDC、および前記容量推定電流IESTから前記仮想電流指令ICRを出力する仮想容量制御部を備えたことを特徴とする直流電源系統の特性安定化装置。
【請求項2】
直流のバスラインに、異なった種類の複数の直流電源と、蓄電装置を有する直流電圧制御装置を接続した電力システムにおいて、
前記直流のバスラインに直流系統特性調整装置を接続し、
前記直流のバスラインに接続された電源系統の構成変更時に、前記直流系統特性調整装置から仮想電流指令ICRを出力し、前記直流電圧制御装置の直流電圧制御部が出力した電流IVRに加算して前記バスラインの電圧制御指令とし、
前記直流系統特性調整装置は、直流電流検出ILを直流電圧検出VDCの微分値dVDCで除算する除算部と、
推定実施指令のオン時に前記除算部による除算値を入力し、推定実施指令のオフ時に除算値をホールドしてバスライン推定容量CEとして出力するホールド回路と、
前記推定実施指令のオン時に、方形波状で正・負同一電流値で所定の周波数を有する容量推定電流IESTを発生するバスライン容量推定用電流指令発生部と、
前記バスライン推定容量CEと設定静電容量CRとの差分で生成される仮想容量指令CVRに、前記直流電圧検出VDCの微分値を乗算して電流推定ICVを生成する仮想容量制御部と、を備え、
前記仮想容量制御部により生成された電流推定ICVと前記容量推定電流IESTを加算して仮想電流指令ICRとして前記直流電圧制御装置に出力するよう構成したことを特徴とする直流電源系統の特性安定化装置。
【請求項3】
前記直流系統特性調整装置は、直流電流検出ILを直流電圧検出VDCの微分値dVDCで除算する除算部と、
推定実施指令のオン時に前記除算部による除算値を入力し、推定実施指令のオフ時に除算値をホールドしてバスライン推定容量CEとして出力するホールド回路と、
前記推定実施指令のオン時に、方形波状で正・負同一電流値で所定の周波数を有する容量推定電流IESTを発生するバスライン容量推定用電流指令発生部と、を備え、
前記仮想容量制御部は、前記バスライン推定容量CEと設定静電容量CRとの差分で生成される仮想容量指令CVRに、前記直流電圧検出VDCの微分値を乗算して電流推定ICVを生成し、
前記仮想容量制御部により生成された電流推定ICVと前記容量推定電流IESTを加算して仮想電流指令ICRとして前記直流電圧制御装置に出力するよう構成したことを特徴とする請求項1記載の直流電源系統の特性安定化装置。
【請求項4】
前記容量推定電流IESTは、方形波状の正,負側ともに同じ電流値で所定の周波数であることを特徴とする請求項1乃至3記載の直流電源系統の特性安定化装置。
【請求項5】
前記直流電圧制御装置は、直列接続された2個のスイッチング素子からなるチョッパ回路と、
前記チョッパ回路に接続された電気二重層キャパシタと、
前記チョッパ回路の橋絡点と前記バスラインの正側間に接続されたリアクトルと、
前記直流電圧制御部が出力した電流IVRと前記仮想電流指令ICRとの加算値から電流検出ILを減じて電流指令ILRを生成し、生成された電流指令ILRを入力して前記スイッチング素子のゲート信号を算出する電流制御部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の直流電源系統の特性安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源系統の特性安定化装置に係わり、特に仮想コンデンサの静電容量を可変することで直流電源系統の特性の安定化を図った装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は直流電源系統を示したもので、直流のバスライン1に太陽光発電装置2,出力側にAC/DC変換器を有する風力発電装置3など異なる複数の分散電源および電力貯蔵装置を有する直流電圧制御装置4を接続し、バスライン1の電圧を直流電圧制御装置4により所定の電圧値に制御する。順・逆変換可能に構成された電力変換装置5は、バスライン1の直流電圧を交流電圧に変換して交流の負荷6へ交流電力を供給する。
【0003】
直流電圧制御装置4はその拡大図で示すように、例えば特許文献1に記載されたもので、大略で直列に接続された2個のスイッチング素子S1,S2からなるチョッパ回路ch、リアクトルL、電気二重層キャパシタEDLCおよびバッテリーBなどを備え、チョッパ回路C
hをオン・オフ制御することで充放電制御をし、バスライン1の直流電圧を所定値に維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5169765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バスライン1に直流電圧制御装置4を接続して直流電圧を所定値に制御する電力システムにおいては、安定性・応答性・誤差を考慮して、電力システムに合わせて制御系の調整が行われる。しかしな
がら、
図6で示すような電力システムにおいては、バスライン1に接続する装置の増減や容量変更の可能性が高く、接続装置の増減によりインピーダンス、特に静電容量が増減する。これを放置すると直流電圧制御装置4の制御特性が変化して直流電圧の制御劣化につながることから、接続装置の増減の都度、直流電圧制御装置4の制御パラメータの再調整が必要となっている。
本発明が目的とするところは、接続装置の増減が生じても容易に静電容量の設定を可能にした直流電源系統の特性安定化装置を提供することにある。
【0006】
本発明が目的とするところは、接続装置の増減が生じても容易に静電容量の設定を可能にした直流電源系統の特性安定化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、直流のバスラインに、異なった種類の複数の直流電源と、蓄電装置を有する直流電圧制御装置を接続した電力システムにおいて、
前記直流のバスラインに直流系統特性調整装置を接続し、
前記直流のバスラインに接続された電源系統の構成変更時に、前記直流系統特性調整装置から仮想電流指令I
CRを出力し、前記直流電圧制御装置の直流電圧制御部が出力した電流I
VRに加算して前記バスラインの電圧制御指令としたことを特徴としたものである。
【0008】
本発明の直流系統特性調整装置は、直流電流検出I
Lと直流電圧検出V
DCを入力してバスライン推定容量C
Eを推定出力すると共に、所定の周波数を有する容量推定電流I
ESTを発生するバスライン静電容量推定部と、
予め設定された設定静電容量C
Rと前記バスライン推定容量C
Eの差分と、直流電圧検出V
DC、および前記容量推定電流I
ESTから前記仮想電流指令I
CRを出力する仮想容量制御部を備えたことを特徴としたものである。
【0009】
本発明の直流系統特性調整装置は、直流電流検出I
Lを直流電圧検出V
DCの微分値dV
DCで除算する除算部と、
推定実施指令のオン時に前記除算部による除算値を入力し、推定実施指令のオフ時に除算値をホールドしてバスライン推定容量C
Eとして出力するホールド回路と、
前記推定実施指令のオン時に、方形波状で正・負同一電流値で所定の周波数を有する容量推定電流I
ESTを発生するバスライン容量推定用電流指令発生部と、
前記バスライン推定容量C
Eと設定静電容量C
Rとの差分で生成される仮想容量指令C
VRに、前記直流電圧検出V
DCの微分値を乗算して電流推定I
CVを生成する仮想容量制御部と、
前記仮想容量制御部により生成された電流推定I
CVと前記容量推定電流I
ESTを加算して仮想電流指令I
CRとして前記直流電圧制御装置に出力するよう構成したことを特徴としたものである。
【0010】
本発明の容量推定電流I
ESTは、方形波状の正,負側ともに同じ電流値で所定の周波数であることを特徴としたものである。
【0011】
本発明の直流電圧制御装置は、直列接続された2個のスイッチング素子からなるチョッパ回路と、
前記チョッパ回路に接続された電気二重層キャパシタと、
前記チョッパ回路の橋絡点と前記バスラインの正側間に接続されたリアクトルと、
前記直流電圧制御部が出力した電流I
VRと前記仮想電流指令I
CRとの加算値から電流検出I
Lを減じて電流指令I
LRを生成し、生成された電流指令I
LRを入力して前記スイッチング素子のゲート信号を算出する電流制御部を備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明によれば、直流のバスラインに接続される機器系統の構成が変更されても、直流電圧制御部の電圧制御系パラメータ変更を必要としないものである。また、直流のバスラインに接続される静電容量を設定した容量に合わすことができるので、適当な容量を仮定して直流電圧制御部の電圧制御系を設計することが出来る。さらに、仮想設定を行う仮想容量の推定容量が負になることから、設定する仮想容量は実際の容量よりも小さい値にすることが可能となり、直流のバスラインに値の大きな容量が並列接続されていても、全体の容量を設定値にすることが可能となるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明による構成図を示したもので、
図6と同一部分に同一符号を付している。すなわち、本発明は直流のバスライン1に直流系統特性調整装置10を設けたもので、この直流系統特性調整装置10は
図2のように構成されている。
図2において、11は直流のバスライン1の静電容量推定部で、直流系統の接続装置の変更時に静電容量の推定を行う。静電容量推定部11にはバスラインの直流電圧検出V
DCと直流電流検出I
Lが入力されてバスライン推定容量C
Eと容量推定電流I
ESTが生成され出力される。12は減算部で、予め設定されたバスラインの設定静電容量C
Rとバスライン推定容量C
Eとの差分が求められ、その差分が仮想容量指令C
VRとして仮想容量制御部13に入力される。
【0015】
仮想容量制御部13では、入力されたバスラインの直流電圧検出V
DCと仮想容量指令C
VRからバスラインの仮想容量における電流推定I
CVを生成して加算部14に出力する。加算部14では電流推定I
CVと容量推定電流I
ESTを加算して仮想電流指令I
CRとする。この仮想電流指令I
CRは直流電圧制御装置4の加減算部43に出力される。
【0016】
直流電圧制御装置4は、電気二重層キャパシタEDLC、チョッパ回路C
hよるなる直流電圧調整手段とバッテリーからなる蓄電部を有しており、減算部41において直流電圧指令V
CRと電気二重層キャパシタEDLCの電圧検出V
Cとの差分を求めて直流電圧制御部42に入力する。直流電圧制御部42は入力された差分に基づいて電気二重層キャパシタEDLCの電圧を制御するための電流I
VRを生成し、加減算部43に出力される。
【0017】
加減算部43では、生成
された電流I
VRと仮想電流指令I
CRとの加算値から直流電流検出I
Lを減算して電流指令I
LRを生成して電流制御部44に入力する。電流制御部44は、直流電流が電流指令I
LRとなるようゲート信号S
G1,S
G2を発生してスイッチング素子S1,S2を制御する。
【0018】
図3で示すように、直流電圧調整機能を有する電源または蓄電部を電流源として、PI制御により直流電圧の制御を行う場合、
図3のブロック図から直流電圧V
DCは以下の式となる。
【0020】
ただし、V
DC*は:直流電圧指令、I
E:直流電圧調整機能を持たない電源の発生する電流、K
P:PI制御比例ゲイン、K
I:PI制御積分ゲイン、C:バスラインの静電容量、R:交流負荷の直流に接続された等価抵抗、
ここで、τ=CR,k
P=K
p/C,k
I=K
I/Cとすると、直流電圧V
DCは
【0022】
となり、電圧制御部における直流電圧指令V
DC*に対する応答と、電流I
Eに対する応答は、τ,k
P,k
I,およびCによって変化する。よって、Cの値とRの取り得る範囲を想定してK
p,K
Iを決めるが、バスライン1に接続される機器が変わるとCの値が変化して、電圧制御部の応答性・安定性に影響する。
【0023】
本発明での直流系統特性調整装置10は、直流系統の容量Cを設定した値になるように動作することで、バスライン1に接続される機器構成が変わって容量Cの値が変化しても、直流電圧制御装置4の電圧制御系のパラメータを再調整することなく、制御特性を最初の状態と同じにするものである。
【0024】
図4は静電容量推定部11の構成図を示したもので、この静電容量推定部11の動作は、バスライン1に接続される機器構成の変更時に行う。その際、推定実施指令がホールド回路11dとスイッチ部11eに与えられると、先ず直流電圧検出V
DCは微分回路11aにおいて微分され除算部11bに入力される。除算部11bでは、(3)式の演算を行ってバスライン推定容量C
Eを算出する。
【0026】
すなわち、静電容量推定部11は、直流電流検出I
Lを直流電圧検出の微分値dV
DCで除算し、ローパスフィルタ11cを通ってホールド回路11dに出力する。ホールド回路11dは、推定実施指令をオンからオフにしたときの値を保持してバスライン推定容量C
Eとして減算部12に出力し、設定静電容量C
Rとの差分が算出されて仮想容量指令C
VRとなる。
【0027】
一方、バスライン推定用電流指令発生部11fは、方形波状の正,負側ともに同じ電流値で所定の周波数で正・負同一のバスライン推定用電流指令を発生し、バスライン電圧の変化からバスラインに接続されている容量を推定する。そのために推定実施指令のオンでスイッチ部11eが閉じられたとき容量推定電流I
ESTを加算部14に出力する。なお、容量推定電流I
ESTの周期は、負荷6による負荷電流の変化はあるものの微視的短時間で見て略一定電流値を与える時間とし、推定値に誤差を与えないようにしている。
【0028】
図5は仮想容量制御部13の構成図を示したもので、バスラインの直流電圧検出V
DCをローパスフィルタ13aに通して微分回路13bで微分し、乗算部13cに出力する。乗算部13cでは、微分値と仮想容量指令C
VRとの乗算を行ってバスラインの仮想容量における電流推定I
CVを生成し、加算部14で容量推定電流I
ESTを加算して仮想電流指令I
CRとして加減算部43に入力され、電流指令I
LRが算出される。
【0029】
以上のように本発明は、異なった種類の複数の直流電源と、蓄電装置を有する直流電圧制御装置を同一の直流のバスラインに接続して構成した電力システムにおいて、バスラインに直流系統特性調整装置を接続し、直流系統の容量を設定した値になるよう動作させるものである。これにより、バスラインに接続される機器構成が変わって容量値が変化しても、擬似(仮想)容量の仮想設定を行うことで直流電圧制御装置の電圧制御系パラメータの再調整を省くことが可能となるものである。また、仮想設定を行う仮想容量の推定容量が負になることで、設定する仮想容量は実際の容量よりも小さい値にすることが可能となり、直流のバスラインに値の大きな容量が並列に接続されていても、全体の容量を設定値にすることが可能となるものである。
【符号の説明】
【0030】
1… バスライン
2… 太陽光発電装置
3… 風力発電装置
4… 直流電圧制御装置
5… 電力変換装置
6… 負荷
10… 直流系統特性調整装置
11… 静電容量推定部
13… 仮想容量制御部
42… 直流電圧制御部
44… 電流制御部