特許第6536165号(P6536165)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536165
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】ダイコート装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/00 20060101AFI20190625BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20190625BHJP
   B05C 13/02 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   B05C11/00
   B05C5/02
   B05C13/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-101641(P2015-101641)
(22)【出願日】2015年5月19日
(65)【公開番号】特開2016-215108(P2016-215108A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木下 純一
(72)【発明者】
【氏名】久喜 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】江川 慎一
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−226620(JP,A)
【文献】 特開2013−000939(JP,A)
【文献】 特開2003−062513(JP,A)
【文献】 特開平10−128211(JP,A)
【文献】 特開2005−000879(JP,A)
【文献】 特開2004−358380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取り形態の基材の一方の面を支持する塗工ロールと、
基材の他方の面に塗工液を吐出するスリットを有するダイヘッドと、
前記スリットの上流側に設けられた減圧チャンバーとを具備し、
前記減圧チャンバーは、チャンバー内の気圧を測定する圧力計と設定値との偏差を補う制御量を決定するための減圧調整機構を備え、前記減圧調整機構は決定した制御量に応じて自動的にリークする自動リークバルブを具備し、連続塗工中の減圧チャンバー内の気圧の現在値と設定値との偏差を自動で制御するダイコート装置であって、
前記自動リークバルブのリーク量が減圧チャンバーに連結した減圧手段の排気量の1/2500であることを特徴とするダイコート装置。
【請求項2】
前記制御量を決める方法が、現在値と設定値の偏差に比例した出力を出す比例動作と、
前記偏差の積分に比例する出力を出す積分動作と、前記偏差の微分に比例する出力を出す
微分動作の和を出力して制御するPID制御であることを特徴とする請求項1に記載のダイコート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヘッドによって巻き取り形態の基材に連続して塗工液を均一に塗布して薄膜を形成するダイコート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヘッドを用いた塗工方式は、高速で均一な薄膜塗工が可能なことから、種々の分野で利用されている。このダイヘッドを用いた塗工方式(ダイヘッド方式)は、塗工ロールと塗工液を吐出するダイヘッド先端部(スリット)との間に隙間(コーティングギャップ)を設けて、この間に塗工ロールで支持された巻取り形態の基材(ウェブ)を走行させ、その上に前記スリットより塗工液を吐出して塗膜を形成する。
【0003】
従って、塗工液はスリットから吐出される瞬間まで、ダイヘッド内では外気に晒されない閉じた系(クローズド方式)で保持され、送液した塗工液がそのまま塗布されることを特徴とし、蒸発速度の速い溶剤からなる塗工液を塗布する場合や、異物混入の防御策としては有効な塗工方式であることが知られている。
【0004】
具合的には、ダイヘッドの先端部のスリットから吐出された塗工液が、基材との間でビード(微細な液溜まり)として形成され、スリット流路からの流量偏差がそのままウエット膜厚の偏差となるため、ダイヘッド内の流量均一性を確保することが求められる。
【0005】
近年では製品の更なる高性能、高機能化に伴い、求められる膜厚精度が益々高くなってきている。このような市場の要求に対して、従来のダイヘッドを用いた塗工方式(ダイヘッド方式)では、巻取り形態の基材に連続走行しながら塗工液を塗布する塗工工程において、エア同伴現象等の様々な要因により、ダイヘッドの先端部のスリットより吐出される塗工液のビードが破壊され、スジやムラ等の塗工欠陥が生じ易い。
【0006】
このような塗工欠陥を抑制する対策として、一般的には塗工ロールとダイヘッドとの下部に減圧チャンバーを設け、ビード近傍を減圧することでビードを安定させて塗工する方法が用いられている。しかしながら、このような減圧チャンバーを設ける方法であっても、塗工のライン速度の高速化や、長時間の連続塗工を行う場合には、減圧チャンバー内に圧力変動が生じ、それによって塗工欠陥が発生するといった問題がある。
【0007】
上記の問題に対しては、例えば、ビード近傍をバックプレート及びサイドプレートを有する減圧チャンバーにより減圧して、バックプレートとウェブとの隙間を、先端リップとウェブとの隙間よりも大きくなるように、減圧チャンバーを設置する塗布方法及び装置が開示されている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、この方法は排気経路にバッファを設けて減圧値変動量を抑制する効果はあるが、市場が求めるより高いレベルの塗膜精度を得るには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−236434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、走行中に周辺の圧力が変化しても、巻取り形態の基材に連続して均一な塗布
膜を形成することができるダイコート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る請求項1の発明は、巻取り形態の基材の一方の面を支持する塗工ロールと、基材の他方の面に塗工液を吐出するスリットを有するダイヘッドと、前記スリットの上流側に設けられた減圧チャンバーとを具備し、前記減圧チャンバーは、チャンバー内の気圧を測定する圧力計と設定値との偏差を補う制御量を決定するための減圧調整機構を備え、前記減圧調整機構は決定した制御量に応じて自動的にリークする自動リークバルブを具備し、連続塗工中の減圧チャンバー内の気圧の現在値と設定値との偏差を自動で制御するダイコート装置であって、前記自動リークバルブのリーク量が減圧チャンバーに連結した減圧手段の排気量の1/2500であることを特徴とするダイコート装置である。
【0012】
また、請求項2の発明は、前記制御量を決める方法が、現在値と設定値の偏差に比例した出力を出す比例動作と、前記偏差の積分に比例する出力を出す積分動作と、前記偏差の微分に比例する出力を出す微分動作の和を出力して制御するPID制御であることを特徴とする請求項1に記載のダイコート装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る請求項1によれば、巻取り形態の基材の一方の面を支持する塗工ロールと、先端部に塗工液を吐出するためのスリットを有するダイヘッドとの上流側に設けた減圧チャンバーが、チャンバー内の気圧を測定する圧力計と設定値との偏差を補う制御量を決定するための減圧調整機構を備え、また、前記減圧調整機構は決定した制御量に応じて自動的にリークする自動リークバルブを具備することで、連続塗工中の減圧チャンバー内の気圧の現在値と設定値との偏差を自動で制御し、減圧チャンバー内の気圧を一定に保つことができる。
【0015】
すなわち、連続走行中の塗工環境周囲の空気の変動に対して、減圧調整機構により決定された減圧チャンバー内の気圧の制御量に応じて、自動リークバルブによりエアーをリークしてチャンバー内の気圧を一定に保つことができ、それによってビードの形状は安定し、膜厚精度に優れた塗膜を形成することができる。
【0016】
また、請求項2によれば、前記制御量を決める方法が、現在値と設定値の偏差に比例した出力を出す比例動作(P動作)と、前記偏差の積分に比例する出力を出す積分動作(I動作)と、前記偏差の微分に比例する出力を出す微分動作(V動作)の和を出力して制御するPID制御とすることで、P動作だけでは解決できない残留偏差(現在値と設定値とのズレが一定の値で永続的に続く問題)を解決することができる。
【0017】
また、請求項3によれば、前記自動リークバルブのリーク量を減圧チャンバーに連結した減圧手段の排気量の1/2500とすることで、減圧チャンバー内の圧力の変動幅を±5Pa範囲に制御することができ、その結果、従来生じていた圧力変動による塗工欠陥を高精度に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のダイコータ装置の一実施形態を示す概略図。
図2】本発明に係る減圧調整機構を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明に係るダイコート装置20は、巻取り形態の基材3の一方の面を支持する塗工ロール2と、基材3の他方の面に塗工液を吐出するスリットを有するダイヘッド1と、前記スリットの吐出上流側に設けられた減圧チャンバー4とを具備したダイコート装置である。また、ダイヘッド先端部のスリットと塗工ロール(バックアップロール)とは一定の隙間(コーティングギャップ)で配置され、基材3はその間をさらにスリットの先端部と一定のギャップを保って走行する。
【0021】
前記減圧チャンバー4は、チャンバー内の気圧を測定する圧力計5と設定値との偏差を補う制御量を決定するための減圧調整機構6を備え、また、前記減圧調整機構6は決定した制御量に応じて自動的にリークする自動リークバルブ7を具備し、連続塗工中の減圧チャンバー4内の気圧の現在値と設定値との偏差を自動で制御することを特徴とする。
【0022】
減圧チャンバー4は、具体的には塗工ロール2とダイヘッド1との間隙を一定の距離で保った状態で、サイドブロックとバックブロック(いずれも図には表記せず)により囲われた空間領域からなり、真空ポンプ等の減圧手段により設定値に減圧される。
【0023】
連続塗工時には塗工ロール2に支持された基材3が連続走行し、同時にダイヘッド1の先端部のスリットから塗工液が基材3に向けて吐出されてビードが形成され、塗膜が形成される。この時、減圧チャンバー4は、基材3が通るスリット(図示しない)から周囲の大気を吸気しているので、従来のダイコータ装置では、周囲の気圧に変動(外乱)が生じると、減圧チャンバー内の圧力(減圧度)も変化する。この減圧度の変動はビードの形状を変形させるので、その結果として塗工状態が変ってしまう。本発明のダイコータ装置20は、上記の外乱による塗工状態の変動を抑制することを特徴としている。
【0024】
具体的には、減圧チャンバー4は圧力計5と減圧調整機構6に連結しており、減圧調整機構6は連続塗工中のチャンバー内の圧力の現在値(PV)と設定値(SV)との偏差(ズレ)を測定して、その偏差を制御量として決定する。同時にその制御量を自動リークバルブ7にて自動でリークする制御機構を有する。
【0025】
本発明に係る偏差の制御について、図2を用いて以下に説明する。
【0026】
図2(a)に示すように、先ず塗工開始前に減圧チャンバー4の減圧度を設定し、真空ポンプ等の減圧手段にて設定値(SV)まで減圧する。圧力が設定値(SV)に到達した状態で、巻取り形態の基材3を連続走行して塗工を開始する。同時に図2(c)に示すように、減圧チャンバーに連結している圧力計のセンサーにてチャンバー内の圧力を現在値(PV)として計測する。
【0027】
上記の状態で連続塗工を行うと、基材3の走行速度や経過時間に起因する外乱がスリット近傍に発生し、減圧チャンバー4内の現在値(PV)と設定値(SV)との偏差が生じる。この時、図2(d)に示すように、減圧チャンバー4に連結した減圧調整機構6では、偏差に応じた制御量をPID制御により決定し、同時に制御量に応じて自動リークバルブ7を作動させて減圧チャンバー4内の圧力を制御する。このような一連の動作により、減圧チャンバー内の圧力を自動制御することで連続塗工を安定して行うことが出来る。
【0028】
本発明に係る偏差の制御方法は、現在値と設定値の偏差に比例した出力を出す比例動作と、前記偏差の積分に比例する出力を出す積分動作と、前記偏差の微分に比例する出力を
出す微分動作の和を出力して制御するPID制御であることを特徴としている。これによりP動作だけでは解決できない残留偏差(現在値と設定値とのズレが一定の値で永続的に続く問題)を解決することができる。
【0029】
また、発明者等の鋭意研究の結果、外乱による塗工欠陥を抑制するためには減圧チャンバー内の圧力の変動幅を±5Pa範囲に制御する必要があることが分かった。そこで、自動リークバルブ7としては、減圧チャンバーの排気量の1/2500以下のリーク量を制御できるものを用いる必要である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0031】
<実施例1>
巻取り形態の基材として膜厚100μmのPETフィルムを、下記組成からなる塗工液をそれぞれ用いて、図1に準拠したダイコート装置にて以下の条件下で連続塗工した。なお、図1には記載していないが、ダイコート装置には塗工後の塗膜を乾燥するための乾燥ユニットが具備されており、適正な条件で乾燥して基材を巻き取った。
【0032】
<塗工液>
MEKと酢酸メチルを希釈溶剤とする、50wt%のUV硬化樹脂塗布溶液(粘度:4mPa・s)。
【0033】
<ダイコート装置の加工条件>
・コーティングギャップ
スリットと対向する基材表面とのギャップ:100μm
・減圧チャンバー内の圧の設定値
ダイコート装置設置周辺の大気圧との差圧800Pa
・塗工ライン速度
30m/min
・吐出量
320cc/min
・塗工厚
10μm
【0034】
上記の条件で20分連続塗工における減圧チャンバー内の圧の偏差に対して、減圧調整機構および自動リークバルブの作動により5Pa以下に制御した。
【0035】
<比較例1>
減圧調整機構および自動リークバルブの作動を行わないこと以外は、実施例1と同様にして連続塗工を実施した。
【0036】
<評価及び方法>
実施例1および比較例1で得られた乾燥後の塗工膜を目視にて観察し、その表面状態の塗工欠陥(スジ、ムラ等)の有無を評価した。
【0037】
<比較結果>
実施例1で得られた乾燥後の塗工膜にはスジおよびムラなどの塗工欠陥が観察されず、極めて均一な塗膜が形成できた。これは減圧チャンバー内の圧の偏差を5Pa以下に制御したことによる効果と推察される。
一方、比較例1で得られた乾燥後の塗工膜にはスジや段ムラが観察された。これは連続
塗工中の減圧チャンバー内の圧が、外乱により最大10Paの変動が生じた(圧力計の測定データから確認)にもかかわらず、制御しなかったことが原因と推察される。
【0038】
これらの結果から、減圧調整機構および自動リークバルブなどを具備する本発明のダイコート装置は、従来、連続走行で生じていた外乱に起因する減圧チャンバー内の圧の変動を制御することで、スジ、ムラなどの塗工欠陥を抑制する効果があることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のダイコート装置は、薄膜で高い膜厚精度が要求される反射防止フィルム等の光学用機能性フィルムの製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1: ダイヘッド
2: 塗工ロール
3: 基材(ウェブ)
4: 減圧チャンバー
5: 圧力計
6: 減圧調整機構
7: 自動リークバルブ
8: 開閉バルブ
9: 排気配管
10: 減圧値制御用配管
11: 減圧手段
12: ダイヘッド支持架台
20: ダイコート装置
図1
図2