特許第6536215号(P6536215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6536215-地盤改良材及び地盤改良方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536215
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】地盤改良材及び地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20190625BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20190625BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20190625BHJP
   C09K 17/08 20060101ALI20190625BHJP
   C04B 7/345 20060101ALI20190625BHJP
   C04B 7/21 20060101ALI20190625BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20190625BHJP
【FI】
   C09K17/10 P
   E02D3/12 102
   C09K17/06 P
   C09K17/08 P
   C04B7/345
   C04B7/21
   C09K103:00
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-126920(P2015-126920)
(22)【出願日】2015年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-8249(P2017-8249A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊之
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06447597(US,B1)
【文献】 特開2008−195574(JP,A)
【文献】 特開2014−129213(JP,A)
【文献】 特開2015−034116(JP,A)
【文献】 特開2010−037371(JP,A)
【文献】 特開昭62−001781(JP,A)
【文献】 特開2007−217261(JP,A)
【文献】 特開2009−185220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
E02D 3/12
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーと、
石膏と、
アルミン酸カルシウム水和物を含む無機系粉末と、
を含
前記アルミン酸カルシウム水和物がエトリンガイトを含み、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量100質量部に対する前記アルミン酸カルシウム水和物の含有量が0.1〜5.0質量部であり、
前記アルミン酸カルシウム水和物のエトリンガイト含有量が粉末X線回折パターンのリートベルト解析による定量値で50質量%以上である、地盤改良材。
【請求項2】
セメントクリンカーと、
石膏と、
アルミン酸カルシウム水和物を含む無機系粉末と、
高炉スラグと、
を含
前記アルミン酸カルシウム水和物がエトリンガイトを含み、
前記セメントクリンカーと前記石膏と前記高炉スラグの合計量100質量部に対する前記アルミン酸カルシウム水和物の含有量が0.1〜5.0質量部であり、
前記アルミン酸カルシウム水和物のエトリンガイト含有量が粉末X線回折パターンのリートベルト解析による定量値で50質量%以上である、地盤改良材。
【請求項3】
該地盤改良材100質量部に対する前記高炉スラグの含有量が5〜80質量部であり、
当該地盤改良材100質量部に対するSO量が1.5〜15.0質量部である、請求項に記載の地盤改良材。
【請求項4】
前記セメントクリンカーは、水硬率(HM)が1.75〜2.20、ケイ酸率(SM)が1.50以上2.50未満、鉄率(IM)が3.0〜10.0であり且つボーグ式にて算定されるCA量が15質量%以上、CAF量が0.5〜10質量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の地盤改良材。
【請求項5】
前記セメントクリンカーの遊離石灰(f.CaO)含有量が8.0質量%未満である、請求項1〜のいずれか一項に記載の地盤改良材。
【請求項6】
前記セメントクリンカーのモリブデン含有量が30mg/kg以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の地盤改良材。
【請求項7】
前記セメントクリンカーは、全クロム含有量が100mg/kg以下であり且つ鉛含有量が100mg/kg以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の地盤改良材。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の地盤改良材を用いる地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材及びこれを用いた地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なセメント系地盤改良材(「固化材」又は「セメント系固化材」と称される場合もある。)は、ポルトランドセメントクリンカーを含むポルトランドセメントをベースに製造されている。特許文献1,2は、固化処理土からの六価クロムの溶出量を低減可能な固化材を開示する。特許文献3は、11CaO・7Al・CaX(Xはハロゲン)や、CaO・Al、12CaO・7Al、4CaO・3Al・SOといったカルシウムアルミネートを主成分とする水硬性材料を含む地盤改良材を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−202463号公報
【特許文献2】特開2011−195714号公報
【特許文献3】特公平6−78524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の地盤改良材は、処理対象の土壌の種類によっては強度発現性が不十分となる場合があった。例えばロームや有機質土は、従来の地盤改良材による固化処理では強度が出にくく、十分な強度を確保するには地盤改良材の使用量を比較的多くしなければならなかった。
【0005】
本発明は、従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかった土壌に対しても十分な強度発現性を有する地盤改良材及びこれを用いた地盤改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、地盤改良材に配合すべき成分について鋭意検討した。その結果、アルミン酸カルシウム水和物が強度の出難い土壌に対して有用であることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る地盤改良材は、セメントクリンカーと、石膏と、アルミン酸カルシウム水和物を含む無機系粉末とを含む。
【0008】
上記地盤改良材は、従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかった土壌(例えばロームや有機質土)に対しても十分な強度発現性を発揮できる。この主因は必ずしも明らかではないが、一般に地盤改良材が水和するとアルミン酸カルシウム水和物が多く生成し強度発現に寄与しており、本発明の地盤改良材に含まれているアルミン酸カルシウム水和物は、そのような水和物の生成を好適に促進すると考えられる。ここで、無機系粉末におけるアルミン酸カルシウム水和物の含有量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。なお、無機系粉末が実質的にアルミン酸カルシウム水和物の粉末からなることが特に好ましい。
【0009】
上記地盤改良材は、産業副産物の利用及び重金属の溶出量低減の観点から、適度な量の高炉スラグを更に含むことが好ましい。地盤改良材において、当該地盤改良材100質量部に対する高炉スラグの含有量は5〜80質量部であればよい。また、強度発現性の観点から、上記地盤改良材のSO量は、当該地盤改良材の全質量100質量部に対して1.5〜15.0質量部であればよい。
【0010】
上記地盤改良材の水和活性を適度な程度とするため、セメントクリンカーと石膏との合計量100質量部に対するアルミン酸カルシウム水和物の含有量は好ましくは0.1〜5.0質量部である。地盤改良材が高炉スラグを含む場合は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグの合計量100質量部に対するアルミン酸カルシウム水和物の含有量が0.1〜5.0質量部であればよい。上記無機系粉末はアルミン酸カルシウム水和物としてエトリンガイトを含むことが好ましい。地盤改良材がアルミン酸カルシウム水和物(特にエトリンガイト)を含むことで、水和反応において核生成のサイトが増え、水和反応が促進される。アルミン酸カルシウム水和物におけるエトリンガイト含有量は、粉末X線回折パターンのリートベルト解析による定量値で50質量%以上であることが好ましい。
【0011】
上記セメントクリンカーは、水硬率(HM)が1.75〜2.20、ケイ酸率(SM)が1.50以上2.50未満、鉄率(IM)が3.0〜10.0であり且つボーグ式にて算定されるCA量が15質量%以上、CAF量が0.5〜10質量%であることが好ましい。つまり、上記セメントクリンカーは、従来のポルトランドセメントクリンカーと比較して水硬率及びケイ酸率が低めであり且つ鉄率が高めであることが好ましい。これらの諸率(水硬率、ケイ酸率及び鉄率)を上記範囲に設定することで、焼成温度を低温化することによって製造過程におけるCO発生量を低減するとともに、原料の一部に例えば産業副産物である石炭灰(フライアッシュ、ボトムアッシュなど)を比較的多く使用することができる。なお、間隙相の量(CA量及びCAF量)を比較的高めに設定することも焼成温度の低温化に寄与する。
【0012】
地盤改良材の調製に使用されるセメントクリンカーは、ポルトランドセメントの調製に使用されるセメントクリンカーと比較し、遊離石灰(f.CaO)を多く含有してもよい。例えば、本発明の地盤改良材に含まれるセメントクリンカーは、遊離石灰含有量(f.CaO量)が8.0質量%未満であればよい。
【0013】
上記セメントクリンカーは、例えば、Al量が10質量%以上、SiO/Al質量比が5.0以下である廃棄物又は副産物を250〜600kg/t−cl’と、Fe量が30質量%以上である鉄原料を30kg/t−cl’以下とを原料とし、当該原料を1200〜1450℃の焼成温度で焼成する工程を経て製造することができる。鉄原料の使用量を30kg/t−cl’以下(鉄原料を使用しない場合(0kg/t−cl’)も含む)とすることで、鉄原料(例えば銅カラミ)に含まれる重金属がクリンカーに持ち込まれる量を十分に低減できる。例えば、上記セメントクリンカーにおいて、モリブデン含有量は30mg/kg以下であることが好ましく、全クロム含有量は100mg/kg以下であることが好ましく、鉛含有量は100mg/kg以下であることが好ましい。
【0014】
本発明は上記地盤改良材を用いる地盤改良方法を提供する。上記地盤改良材を用いた地盤改良方法によれば、従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかった土壌に対しても十分な強度発現性を発現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかった土壌に対しても十分な強度発現性を有する地盤改良材及びこれを用いた地盤改良方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アルミン酸カルシウム水和物粉末のX線回折パターンの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
<地盤改良材>
本実施形態の地盤改良材は、セメントクリンカーと、石膏と、アルミン酸カルシウム水和物を含む無機系粉末とを含む。この地盤改良材は、従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかった土壌(例えばロームや有機質土)に対しても十分な強度発現性を発揮できる。
【0019】
(セメントクリンカー)
セメントクリンカーとして、例えば普通ポルトランドセメントクリンカー、早強ポルトランドセメントクリンカー等の各種セメントクリンカーが挙げられる。これらのセメントクリンカーとともに又は代わりに以下の環境負荷低減クリンカーを使用してもよい。環境負荷低減クリンカーを使用することで、原料の一部として廃棄物や産業副産物を十分に有効利用できるとともに製造過程におけるCO発生量を十分に低減できる。
【0020】
上記環境負荷低減クリンカーは、水硬率(HM)が1.75〜2.20、ケイ酸率(SM)が1.50以上2.50未満、鉄率(IM)が3.0〜10.0であり且つボーグ式にて算定されるCA量が15質量%以上、CAF量が0.5〜10質量%である。
【0021】
環境負荷低減クリンカーの水硬率(HM)は、以下の式(1)で算出される。環境負荷低減クリンカーの水硬率は、1.75〜2.20(1.75以上2.20以下)である。水硬率が1.75未満であると地盤改良材の水硬性が低下し強度発現性が不十分となりやすい。他方、水硬率が2.20を超えると環境負荷低減クリンカーの製造プロセスにおける焼成温度を十分に低温化できない。環境負荷低減クリンカーの水硬率は、好ましくは1.85〜2.20であり、より好ましくは1.95〜2.20であり、更に好ましくは2.00〜2.20である。
HM=CaO/(SiO+Al+Fe)・・・(1)
【0022】
環境負荷低減クリンカーのケイ酸率(SM)は、以下の式(2)で算出される。環境負荷低減クリンカーのケイ酸率は、1.50以上2.50未満である。ケイ酸率が1.50未満であると適正な組成の環境負荷低減クリンカーが得られ難い。他方、ケイ酸率が2.50以上であると従来のポルトランドセメントクリンカーと比較して廃棄物使用量を高めることが難しく、環境負荷低減クリンカーの製造原価が上がってしまう。環境負荷低減クリンカーのケイ酸率は、好ましくは1.60〜2.30であり、より好ましくは1.80〜2.05である。
SM=SiO/(Al+Fe)・・・(2)
【0023】
環境負荷低減クリンカーの鉄率(IM)は、以下の式(3)で算出される。環境負荷低減クリンカーの鉄率は、3.0〜10.0である。鉄率が3.0未満であると従来のポルトランドセメントクリンカーと比較して廃棄物又な産業副産物の使用量を高めることが難しく、環境負荷低減クリンカーの製造原価が上がってしまう。他方、鉄率が10.0を超えると環境負荷低減クリンカーを含む地盤改良材に水を添加して得られるスラリーの流動性が悪化する。環境負荷低減クリンカーの鉄率は、好ましくは3.5〜9.0であり、より好ましくは4.0〜8.5であり、更に好ましくは5.0〜8.0である。
IM=Al/Fe・・・(3)
【0024】
セメントクリンカーは、CA、CAF、CS及びCSを含有するものであり、その組成は、ボーグ式により算出することができる。ボーグ式は、セメントクリンカー中の主要な四鉱物の含有量を求める計算式である。セメントクリンカーの場合のボーグ式は、下記のように表される。
S量=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe
S量=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A量=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量=3.04×Fe
【0025】
式中の「CaO」、「SiO」、「Al」及び「Fe」は、それぞれ、セメントクリンカーにおけるCaO、SiO、Al及びFeのセメントクリンカー全体質量に対する含有割合(質量%)である。これらの含有割合は、JIS R 5202(2010)「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定することができる。
【0026】
環境負荷低減クリンカーは、ボーグ式にて算定されるCA量が15質量%以上である。CA量が15質量%未満であるとセメント組成物の強度発現性が不十分になるとともに環境負荷低減クリンカーの製造プロセスにおける焼成温度を十分に低温化できない。環境負荷低減クリンカーのCA量は、好ましくは15〜40質量%であり、より好ましくは16〜40質量%であり、更に好ましくは20〜35質量%であり、特に好ましくは21〜35質量%である。なお、環境負荷低減クリンカーのCA量が40質量%を超えると環境負荷低減クリンカーを含む地盤改良材に水を添加して得られるスラリーの流動性が悪化しやすい。
【0027】
環境負荷低減クリンカーは、ボーグ式にて算定されるCAF量が0.5〜10質量%である。CAF量が0.5質量%未満であると環境負荷低減クリンカーの製造プロセスにおける焼成温度を十分に低温化できない。他方、CAF量が10質量%を超えると地盤改良材の強度発現性が低下するほか、環境基準に定められる六価クロム等の重金属含有量が増加する。CAF量は、好ましくは1〜8.5質量%であり、より好ましくは3〜8質量%であり、更に好ましくは5〜7.5質量%であり、特に好ましくは6〜7.5質量%である。
【0028】
環境負荷低減クリンカーのCA量及びCAF量の合計量は21〜35質量%であることが好ましい。この合計量が21質量%未満であるとセメントクリンカー原料として使用する粘土代替廃棄物の量が少なくなり、資源循環型社会への貢献が小さくなる。他方、この合計量が35質量%を超えると地盤改良材の強度発現性及び流動性が低下するほか、環境負荷低減クリンカーの融液量が多くなり、通常のロータリーキルンで安定的に製造することが難しくなる。CA量及びCAF量の合計量は、より好ましくは24〜32質量%であり、更に好ましくは27〜30質量%である。
【0029】
環境負荷低減クリンカーのCS量は好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは11〜45質量%であり、更に好ましくは15〜40質量%である。CS量が10質量%未満であると長期的な強度発現性が不十分となりやすく、他方、50質量%を超えると短期的な強度が低下する恐れがある。CS量は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは30〜60質量%であり、更に好ましくは35〜60質量%である。CS量が20質量%未満であると中長期的な強度発現性が不十分となりやすく、他方、70質量%を超えると発熱量の増加に伴う収縮が大きくなり、強度発現性が不十分となるばかりか、間隙相量が十分でなくなることで焼成温度が上がる恐れがある。
【0030】
セメントクリンカーにおける遊離石灰含有量(f.CaO量)は、強度発現性の観点から、なるべく少ないことが好ましい(例えば1質量%以下)。ただし、環境負荷低減クリンカーを地盤改良材の調製に使用する場合、ポルトランドセメントの調製に使用する場合と比較し、環境負荷低減クリンカーは遊離石灰を多く含有してもよい。環境負荷低減クリンカーの遊離石灰含有量の上限値は好ましくは8.0質量%であり、より好ましくは6.0質量%であり、更に好ましくは5.0質量%であり、特に好ましくは4.5質量%である。他方、環境負荷低減クリンカーの遊離石灰含有量の下限値は好ましくは0質量%であり、より好ましくは1.0質量%であり、更に好ましくは3.0質量%である。環境負荷低減クリンカーの遊離石灰含有量が8.0質量%以下であれば、環境負荷低減クリンカーを地盤改良材として使用した場合に従来品と同等以上の強度発現性を確保できるとともに、その製造過程において十分に低い温度で焼成することができ、CO発生量を低減できる。
【0031】
環境負荷低減クリンカーにおけるモリブデン含有量は可能な限り少ないことが好ましく、例えば30mg/kg以下であることが好ましい。モリブデン含有量が30mg/kgを超えると環境負荷低減クリンカーを地盤改良材として使用した場合に固化処理条件によっては固化処理土からのモリブデン溶出量が増大する恐れがある。なお、環境負荷低減クリンカーにおけるモリブデン含有量を例えば5mg/kg未満にしようとすると廃棄物及び産業副産物のセメントクリンカー原料としての調合量が少なくなり、環境負荷低減クリンカーの製造原価が上がってしまう。十分に低い製造原価及び十分に低いモリブデン溶出量を両立させる観点から、環境負荷低減クリンカーにおけるモリブデン含有量は好ましくは6〜28mg/kgであり、より好ましくは12〜24mg/kgである。
【0032】
環境負荷低減クリンカーにおける全クロム含有量は可能な限り少ないことが好ましく、例えば100mg/kg以下であることが好ましい。ここで、全クロム含有量とは、環境負荷低減クリンカー中に含まれる三価クロムや六価クロム等の価数の異なる全てのクロムの合計含有量をいう。環境負荷低減クリンカーにおける全クロム含有量が100mg/kgを超えると、環境負荷低減クリンカーを地盤改良材として使用した場合に固化処理条件によっては固化処理土からの六価クロム溶出量が増大する恐れがある。なお、環境負荷低減クリンカーにおける全クロム含有量を例えば30mg/kg未満にしようとすると廃棄物及び産業副産物のセメントクリンカー原料としての調合量が少なくなり、環境負荷低減クリンカーの製造原価が上がってしまう。十分に低い製造原価及び十分に低い六価クロム溶出量を両立させる観点から、環境負荷低減クリンカーにおける全クロム含有量は好ましくは40〜65mg/kgであり、より好ましくは43〜62mg/kgである。
【0033】
環境負荷低減クリンカーにおける六価クロム含有量は、20〜45mg/kgであることが好ましい。全クロム含有量と同様に、六価クロム含有量はできるだけ少ないことが好ましいが、環境負荷低減クリンカーにおける六価クロム含有量が20mg/kg未満では、セメントクリンカー原料に使用できる廃棄物及び産業副産物の量が少なくなり、製造原価が上がる傾向がある。一方、環境負荷低減クリンカーにおける六価クロム含有量が45mg/kgを超えると、環境負荷低減クリンカーを地盤改良材として使用した場合に固化処理土からの六価クロム溶出量が増大する傾向がある。十分に低い製造原価及び十分に低い六価クロム溶出量を両立させる観点から、環境負荷低減クリンカーにおける六価クロム含有量は好ましくは25〜40mg/kgであり、より好ましくは30〜35mg/kgである。
【0034】
環境負荷低減クリンカーにおける鉛含有量は可能な限り少ないことが好ましく、例えば100mg/kg以下であることが好ましい。環境負荷低減クリンカーにおける鉛含有量が100mg/kgを超えると、環境負荷低減クリンカーを地盤改良材として使用した場合に固化処理条件によっては固化処理土からの鉛溶出量が増大する恐れがある。なお、環境負荷低減クリンカーにおける鉛含有量を例えば10mg/kg未満にしようとすると廃棄物及び産業副産物のセメントクリンカー原料としての調合量が少なくなり、環境負荷低減クリンカーの製造原価が上がってしまう。十分に低い製造原価及び十分に低い鉛溶出量を両立させる観点から、環境負荷低減クリンカーにおける鉛含有量は好ましくは10〜100mg/kgであり、より好ましくは30〜70mg/kgである。
【0035】
上述のとおり、環境負荷低減クリンカーは、鉄率(IM、Al/Fe)が比較的高く(3.0〜10.0)且つCA量((2.65×Al)−(1.69×Fe)が比較的多い(15質量%以上)。つまり、環境負荷低減クリンカーは原燃料から持ち込まれるAlの量がFeの量と比較して多いといえる。特に、CA(アルミネート相)は急速に水和反応が進むため、CA量が多い環境負荷低減クリンカーに含む地盤改良材に水を添加してスラリーを調製する場合、スラリーの流動性が不十分となる場合がある。スラリーの流動性の十分に確保するため、換言すると、環境負荷低減クリンカーに含まれるCAの水和活性を適度に抑制するため、環境負荷低減クリンカーを意図的に風化させる処置を施してもよい。この処置は環境負荷低減クリンカーを対象に実施してもよいし、地盤改良材を製造する過程において実施してもよい(後述の「粉砕工程」参照)。
【0036】
(石膏)
地盤改良材における石膏の質量割合は、セメントクリンカー100質量部に対し、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは10〜25質量部であり、更に好ましくは15〜20質量部である。地盤改良材における石膏の質量割合が5質量部未満であると固化処理土の強度発現性が不十分となりやすい。なお、地盤改良材における石膏の質量割合が増えるほど、固化処理土の強度発現性は向上する傾向があるが、30質量部を超えると添加効果が飽和する。
【0037】
上記地盤改良材に使用される石膏の形態は、特に限定されるものでなく、二水塩、半水塩、無水塩のいずれも使用可能である。石膏の具体例としては、天然石膏や排煙脱硫処理によって副生する副産石膏、天然無水石膏、ふっ酸の製造過程で副産するふっ酸無水石膏等が挙げられる。地盤改良材をスラリー工法で使用する場合には、半水石膏の使用量をなるべく低減し、主に二水塩又は無水塩を用いることが好ましい。例えば、地盤改良材に含まれる全石膏に対する半水石膏の割合は好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは0.1〜30質量%であり、更に好ましくは0.5〜20質量%である。半水石膏の割合を40質量%以下にすることで、地盤改良材に水を加えてスラリーを調製する際、スラリーに強張りが生じることを抑制できる。
【0038】
上記地盤改良材におけるSO量は、強度発現性の観点から地盤改良材100質量部に対して好ましくは1.5〜15.0質量部であり、より好ましくは1.8〜14.5質量部であり、更に好ましくは3〜14.0質量部であり、特に好ましくは8〜13.0質量%である。地盤改良材のSO量が上記範囲となるように石膏の配合量を調整すればよい。
【0039】
(無機系粉末)
無機系粉末はアルミン酸カルシウム水和物を含有する。アルミン酸カルシウム水和物としては、市販あるいは天然に存在するもの、液相法、水熱合成法によって合成したもの、およびこれらの混合物および粉砕物などを使用することができる。上述のとおり、無機系粉末のアルミン酸カルシウム水和物含有量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。無機系粉末が実質的にアルミン酸カルシウム水和物の粉末からなることが特に好ましい。地盤改良材の水和活性を適度な程度とするため、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグの合計量100質量部に対するアルミン酸カルシウム水和物の含有量は好ましくは0.1〜5.0質量部であり、より好ましくは0.1〜4.0質量部であり、更に好ましくは0.1〜3.0質量部である。地盤改良材におけるアルミン酸カルシウム水和物の質量割合が0.1質量部未満であると無機系粉末の配合効果が不十分となりやすく、5.0質量部を超えると長期的な強度発現性が低下しやすくなる。
【0040】
無機系粉末はアルミン酸カルシウム水和物としてエトリンガイトを含むことが好ましい。アルミン酸カルシウム水和物におけるエトリンガイト含有量は、Cu−kα線を用いた粉末X線回折パターンのリートベルト解析による定量値で好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
【0041】
上記無機系粉末は、あらかじめ液体(水など)と混合したスラリーとしておくことも可能である。例えば、深層混合処理工法などにおいて地盤改良材をスラリー化して使用する場合には、無機系粉末の一部または全量を除いた地盤改良材と、無機系粉末の一部又は全量を含んだスラリーとを混合して使用してもよい。
【0042】
(高炉スラグ)
上記地盤改良材は、適度な量の高炉スラグを更に含むことが好ましい。高炉スラグの具体例として、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等が挙げられる。地盤改良材における高炉スラグの含有量は、地盤改良材100質量部に対して好ましくは5〜80質量部であり、より好ましくは10〜70質量部であり、更に好ましくは20〜50質量部である。地盤改良材における高炉スラグの質量割合が5質量部未満では産業副産物(高炉スラグ)の有効利用が不十分となりやすく、また関東ロームのような火山灰質粘性土を処理する場合、固化処理条件によってはクロムなどの重金属の溶出量の低減効果が不十分となりやすい。他方、地盤改良材における高炉スラグの質量割合が80質量部を超えると、固化処理土の強度が不十分となりやすい。
【0043】
<地盤改良材の製造方法>
上記地盤改良材の製造方法について説明する。この製造方法は、原料調合工程と、焼成工程と、粉砕工程とをこの順序で含む。原料調合工程と焼成工程を経ることによってセメントクリンカーが製造され、その後の粉砕工程を経ることで地盤改良材が製造される。ここでは、環境負荷低減クリンカーを製造し、これをセメントクリンカーとして使用する場合を例示するが、これに代わりに例えば購入した各種ポルトランドセメントを使用してもよい。
【0044】
(原料調合工程)
原料調合工程は、諸率(水硬率、ケイ酸率及び鉄率)が上記範囲であり且つボーグ式によって算定される構成化合物量(CA量及びCAF量)が上記範囲である環境負荷低減クリンカーが得られるように原料を調合する工程である。つまり、この工程では、所望の物性(諸率及び構成化合物量)の環境負荷低減クリンカーが得られるように原料を選択するとともにその使用量(原料原単位)を調整する。
【0045】
環境負荷低減クリンカーの原料として石灰石、珪石、粘土系廃棄物等を主に使用する。粘土系廃棄物としては石炭灰、建設発生土、スラグ等が挙げられる。ここで、通常のポルトランドセメントクリンカーで使用される銅カラミや鉄精鉱等の鉄原料は極力使用量を抑える。鉄原料の使用量をなるべく少なくすることで、鉄原料に含まれる重金属が環境負荷低減クリンカーに持ち込まれることを十分に抑制できる。
【0046】
環境負荷低減クリンカー1トン当たりの原料原単位は以下の範囲であることが好ましい。
・石灰石:800〜1300kg、より好ましくは900〜1200kg、更に好ましくは1000〜1150kg。
・珪石:0〜100kg、より好ましくは0〜50kg、更に好ましくは0〜20kg。
・粘土系廃棄物:250〜600kg、より好ましくは300〜500kg、更に好ましくは350〜450kg。
・鉄原料:0〜30kg、好ましくは0〜20kg、更に好ましくは0〜10kg、特に好ましくは0kg。
【0047】
粘土系廃棄物(粘土系産業副産物も含む。)のAl量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは10〜70質量%であり、更に好ましくは20〜65質量%であり、特に好ましくは25〜60質量%である。粘土系廃棄物のSiO2/Al23 質量比は、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは1.0〜4.0であり、更に好ましくは2.0〜3.0である。かかる粘土系廃棄物の具体例としては、石炭灰(例えば、フライアッシュ、ボトムアッシュ)、などが挙げられる。なお、粘土系廃棄物として、Feを3質量%以上(より好ましくは4〜6質量%)含む石炭灰等を選択して用いることが好ましく、これによって鉄原料を使用しなくても、環境負荷低減クリンカーの造粒を容易にし、環境負荷低減クリンカーの粉化を抑制することができる。これにより、クーラーでの熱交換効率やダストの集塵効率を高めることができるため、より省エネで且つ安定して環境負荷低減クリンカーを製造することができる。
【0048】
鉄原料のFe量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは30〜90質量%であり、更に好ましくは40〜80質量%であり、特に好ましくは50〜70質量%である。かかる鉄原料の具体例としては、銅カラミ、鉄精鉱、転炉滓などが挙げられる。
【0049】
(焼成工程)
焼成工程は、原料調合工程を経て得られた原料を焼成することによって環境負荷低減クリンカーを得る工程である。この工程を実施するための設備としては、NSPキルン、SPキルンなどが挙げられる。これらの設備は、焼成温度を測定する焼点温度測定機と、f.CaO量測定機(もしくはf.CaO量分析装置)とを有していることが好ましい。
【0050】
焼成温度は、好ましくは1200〜1450℃であり、より好ましくは1250〜1400℃であり、更に好ましい範囲としては1300〜1400℃であり、特に好ましくは1350〜1400℃である。焼成温度が1200℃未満であると地盤改良材の強度発現性が不十分となりやすく、他方、1450℃を超えると焼成工程におけるCO排出量削減効果が不十分となりやすい。なお、焼成された環境負荷低減クリンカーを1〜12時間毎に採取し、そのf.CaO量を測定することが好ましい。f.CaO量をモニタリングし、その値が所定の条件(例えば8.0質量%未満)を満たすように、焼成条件(温度、時間、ロータリーキルンであれば回転速度など)を調整してもよい。
【0051】
(粉砕工程)
粉砕工程は、環境負荷低減クリンカーと、石膏と、無機系粉末と、必要に応じて高炉スラグとを含む混合物を粉砕することによって地盤改良材を得る工程である。この工程を実施するための設備としては、ボールミル、竪型ローラーミルなどが挙げられる。セメントクリンカーに石膏を添加する際に、高炉スラグや石炭灰を添加してもよい。
【0052】
粉砕工程を経て得られる地盤改良材のブレーン比表面積は、地盤改良材の適度な反応性の観点から、好ましくは3000〜5000cm/kgであり、より好ましくは3500〜5000cm/kgであり、更に好ましくは4000〜5000cm/kgである。
【0053】
地盤改良材を使用して調製されるスラリーの流動性を十分に確保する観点から、地盤改良材の反応性を抑制する処理を粉砕工程において実施してもよい。例えば、粉砕工程において環境負荷低減クリンカーに対して所定の粉砕助剤(有機系粉砕助剤及び/又は水)を添加して粉砕することにより、地盤改良材を風化させればよい。有機系粉砕助剤として、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンなどが挙げられる。粉砕助剤として、有機系粉砕助剤及び水をそれぞれ単独で使用してもよいし、これらを併用してもよい。粉砕工程において、粉砕助剤を使用することで粉砕時の温度を所定の温度以下(例えば120℃以下)に抑えることができるという効果も奏される。なお、粉砕工程における風化処理の代わりに、あるいは、これとともにサイロ内において地盤改良材をエージングすることによって地盤改良材を風化させてもよい。
【0054】
粉砕処理すべき混合物において、環境負荷低減クリンカーと石膏と高炉スラグとの合計量100質量部に対する有機系粉砕助剤の含有量は好ましくは0〜1.0質量部であり、より好ましくは0.001〜0.1質量部であり、更に好ましくは0.01〜0.05質量部である。有機系粉砕助剤の含有量(添加量)が1.0質量部を超えるとセメント組成物の強度発現性が低下する恐れがある。
【0055】
粉砕処理すべき混合物において、環境負荷低減クリンカーと石膏と高炉スラグとの合計量100質量部に対する水の含有量は好ましくは0.5〜5.0質量部であり、より好ましくは0.3〜3.0質量部であり、更に好ましくは0.5〜2.0質量部である。水の含有量(添加量)が0.5質量部未満であるとセメント組成物のスラリー流動性ならびに強度発現性が低下する恐れがあり、他方、5.0質量部を超えた場合も、セメント組成物のスラリー流動性及び強度発現性が低下する恐れがある。
【0056】
地盤改良材の風化の程度は、地盤改良材の水蒸気吸着量を測定することによって把握することができる。より具体的には、本実施形態の地盤改良材は、吸着過程における相対圧0.9265での水蒸気吸着量が当該地盤改良材100gに対して4.9g以下(より好ましくは0.1〜4.9g)であり且つ相対圧0.1000における吸着等温線と脱着等温線との水蒸気吸着量の差異(ヒステリシス)が当該地盤改良材100gに対して1.9g以下(より好ましくは0.1〜1.9g)であることが好ましい。ここで、相対圧0.9265での水蒸気吸着量は地盤改良材における水との反応性が高い成分の含有量(CA量及びf.CaO量)が反映される。一方、相対圧0.1000における吸着等温線と脱着等温線との水蒸気吸着量の差異(ヒステリシス)は水蒸気吸着前の地盤改良材の水和活性が反映される。つまり、これらの二つの値が上記条件を満たすように地盤改良材を意図的に風化させることで、地盤改良材を含むスラリーの流動性を十分に確保することができる。
【0057】
本実施形態の製造方法は、粉砕工程後、地盤改良材の水蒸気吸着量を測定する工程を更に含むことが好ましい。この工程を実施することで、製造されたセメント組成物の風化の程度が反応性の観点から適度な範囲であるか否かを把握することができ、製品管理上、有用な情報を得ることができる。水蒸気吸着量の測定は、高精度全自動ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP18)にて地盤改良材を40℃(真空下)で12時間脱気し、25℃で水蒸気吸着試験を行えばよい。これにより、相対圧0.9265における水蒸気吸着量と、相対圧0.1000における吸着等温線と脱着等温線の水蒸気吸着量のヒステリシス(差異)を求めることができる。なお、地盤改良材に吸着した水蒸気量の体積から質量への換算には、以下の式を用いればよい。
B=C/(22.7×1000)×18×100
B:地盤改良材100gあたりの水蒸気吸着量(g/100g)
C:地盤改良材1gあたりの水蒸気吸着量(cm(STP)/g)
【0058】
本実施形態の製造方法は、地盤改良材の製造に使用する石膏における半水石膏の割合(半水石膏化率)を測定する工程を更に含むことが好ましい。半水石膏化率が40質量%以下の石膏を使用することで、地盤改良材に水を加えてスラリーを調製する際、スラリーに強張りが生じることを抑制できる。半水石膏化率の測定は、粉末X線回折測定による二水石膏ならびに半水石膏の定量、あるいは熱重量測定・示差熱分析(TG−DTA)装置による脱水温度、脱水量の測定により実施することができる。
【0059】
<地盤改良方法>
本実施形態の地盤改良方法は、上記の地盤改良材と、土壌とを混合する工程を備える。対象の土壌として、ローム、粘土、砂質土、有機質土などが挙げられる。本実施形態の地盤改良方法は従来の地盤改良材では十分な固化強度を確保しにくかったロームや有機質土に対しても十分な強度発現性を有する。土壌1mにする地盤改良材の混合量は、土壌の固化強度を十分に高める観点から、好ましくは30〜500kgであり、より好ましくは50〜450kgであり、更に好ましくは200〜400kgである。土壌と地盤改良材の混合方法は、従来の地盤改良材と同様に、粉体として土壌に添加して混合する、あるいは水を混ぜてスラリーとして土壌に混合することが可能である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[1.セメントクリンカーの製造]
表1に示す化学組成の原料と、以下の試薬とを準備した。
【0062】
【表1】
【0063】
(試薬)
・二水石膏:和光純薬株式会社製、試薬特級、純度98.0%
・炭酸ナトリウム(NaCO):和光純薬株式会社製、試薬特級、純度99.8%
・炭酸カリウム(KCO):和光純薬株式会社製、試薬特級、純度99.5%
【0064】
表2に示す割合で各成分を調合して得られたクリンカー原料を以下のようにして電気炉で焼成することによってセメントクリンカーを得た。すなわち、1000℃の電気炉にクリンカー原料を投入し、最高焼成温度まで10℃/分で昇温した。最高焼成温度では30分間保持した後、電気炉から取り出した試料を空冷した。なお、表2に記載の「焼成温度」はここでいう最高焼成温度を意味する。
【0065】
得られたセメントクリンカーについて、JIS R5202:2010「セメントの化学分析方法」に準じて化学成分を測定し、クリンカーの諸率及び鉱物組成を以下の式により算出した。また、Cukα線により測定したクリンカーの粉末エックス線回折パターンをリートベルト解析することで鉱物組成(参考値)及びf.CaO量を算出し、f.CaO量から易焼成性を評価した。表3〜5にセメントクリンカーの化学成分、諸率及び鉱物組成を示す。
HM=CaO/(SiO+Al+Fe
SM=SiO/(Al+Fe
IM=Al/Fe
S=4.07×CaO−7.60×SiO−6.72×Al−1.43×
Fe
S=2.87×SiO−0.75×C
A=2.65×Al−1.69×Fe
AF=3.04×Fe
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
[2.セメント組成物の製造]
セメントクリンカー(K1,K3,K4,K7)に以下の石膏、高炉スラグ及び/又はアルミン酸カルシウム水和物粉末を加え、表6及び表7に示す配合の地盤改良材を得た。粉砕処理にはボールミルを使用し、有機系粉砕助剤としてジエチレングリコール(DEG)を使用した。表6,7に示すとおり、有機系粉砕助剤の添加量は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグの合計量を基準(外割質量)とした。地盤改良材の粉末度はいずれもブレーン比表面積で4500±50cm/gとした。
・石膏:フッ酸無水石膏(セントラル硝子製、SO量:58.1%、ブレーン比表面積:3700cm/g)
・高炉スラグ:高炉水砕スラグ微粉末(千葉リバーメント株式会社製、SO量:0.1質量%、硫化物硫黄含有量:0.861質量%、ブレーン比表面積:3460cm/g)
・アルミン酸カルシウム水和物粉末(無機系粉末):REMONDIS社製
【0071】
図1は、実施例で使用したアルミン酸カルシウム水和物粉末のX線回折パターンである。得られたX線回折パターンのリートベルト解析結果から、該アルミン酸カルシウム水和物粉末はエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を99質量%含んでいた。また化学組成から、残り1質量%は水酸化アルミニウムと推測された。
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
[3.セメント組成物を用いた固化処理土の作製]
対象土はローム(自然含水比:132.6%、湿潤密度:1.361g/cm、礫分:0.1%、砂分:11.0%、細粒分:88.9%)とし、ローム1mあたり地盤改良材の配合量が300kgとなるようにロームと地盤改良材を配合し、ホバートミキサーで3分間よく混合した後、円柱形の型枠に詰めて固化処理土供試体を作製した。
【0075】
[4.固化処理土の強度試験]
固化処理土について、20℃で7日間及び28日間の養生後、針貫入試験機(丸東製作所製、SH−70)にて針の貫入量が10mmとなるときの貫入力を測定し、貫入勾配を算出した。更に、貫入勾配から固化処理土の強度を算出した。なお、固化処理土の強度算出には以下の式を用いた。
A=94.248X1.2567
A:固化強度(N/mm
X:針貫入勾配(N/mm)=貫入力(N)/貫入量(mm)
【0076】
[5.試験結果]
表8及び表9に固化処理土の固化強度試験結果を示す。表8は表6に示す地盤改良材(高炉スラグの配合なし)の結果を示し、表9は表7に示す地盤改良材(高炉スラグの配合あり)の結果を示している。
【0077】
実施例1〜4の地盤改良材(高炉スラグの配合なし)では、アルミン酸カルシウム水和物粉末を含有しない比較例1〜4の地盤改良材と比較して7日材齢、28日材齢共に固化強度が向上している。特に実施例2の地盤改良材では、一般的な地盤改良材(比較例1)と同等以上の固化強度が得られている。更に、実施例2〜4の地盤改良材は、通常のクリンカーよりも多量の廃棄物を使用し低温で焼成された環境負荷低減クリンカーを使用していることから、廃棄物利用の拡大とCO排出量の削減によって環境負荷を低減することができる。
【0078】
実施例6〜8の地盤改良材(高炉スラグの配合あり)では、アルミン酸カルシウム水和物粉末を含有しない比較例6〜8と比較して7日材齢の固化強度が4〜13%向上しており、短期材齢の強度発現が良好となっている。実施例6の地盤改良材では、一般的な地盤改良材(比較例5)と同等の28日材齢の固化強度が得られている。一方、実施例5の地盤改良材(普通ポルトランドセメントクリンカーを使用)では、アルミン酸カルシウム水和物粉末を含有しない比較例5と比較して28日材齢の固化強度が37%向上し、長期材齢の強度発現性が良好となっている。更に、実施例6〜8の地盤改良材は通常のクリンカーよりも多量の廃棄物を使用し低温で焼成された環境負荷低減クリンカーを使用していることから、廃棄物利用の拡大とCO排出量の削減によって環境負荷を低減することができる。
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
図1