【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例とその効果について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0037】
電解液中のリチウムの含有率を20,30,100,200,250mmol/lとし、正極活物質の比表面積を4,5,6、9,10m
2/gとして、これらを組み合わせたマトリクス(後掲の表1〜3を参照)を満たす構成の、EN規格で定められたLN2の型式の鉛蓄電池を、以下の手順に従って作製した。
【0038】
正極活物質の比表面積を調整するため、所定の割合で酸化鉛粉を硫酸と精製水とで混練して正極活物質ペーストを作製した。Pb−Sn−Sb合金シート(鉛合金に対してSnは1.1質量%、Sbは1.5質量%)をレシプロ方式でエキスパンド展開して得た格子の連続体にこの正極活物質ペーストを充填して、一定の寸法に切断し、4,5,6、9,10m
2/gの5種類の正極活物質の比表面積を有する正極板を各々作製した。
【0039】
正極活物質の比表面積を変更するためには、上述した鉛粉に対する水若しくは希硫酸の量を調整しても良いし、希硫酸中の硫酸濃度を調整しても良い。また、ペースト状の正極活物質に硫酸スズ、酸化スズ又はリン酸塩等を添加しても良い。
【0040】
一方、酸化鉛粉に対して有機添加剤や硫酸バリウム、カーボンなどを常法により添加したものを硫酸と精製水とで混練して負極活物質ペーストを作製し、Pb−Sb合金箔を貼り付けたPb−Ca−Sn合金シートをレシプロ方式でエキスパンド展開して得た格子にこの活物質ペーストを充填し、負極板を作製した。ここで負極活物質に対するカーボンの添加量は0.1質量%とした。
【0041】
電解液(希硫酸)には、所定量の硫酸リチウムを添加して、電解液中のリチウムの含有率を20,30,100,200,250mmol/lとなる5種類の電解液を各々作製した。
【0042】
上述した正極板および負極板を熟成乾燥した後、ポリエチレン製のセパレータを介して交互に重ねて極板群を作製し、電槽のセル室に収納した。それぞれの極板群における正極板および負極板の極板耳を別々のストラップに接続し、隣り合った極板群の異なる極性のストラップどうしを接続し、両端のセル室の正極板および負極板の極板耳は正極性および負極性の端子に接続し、電槽の開口部を蓋で封止して液口から電解液を注入し、液口を、電池の外部空間と連通させる排気口を有する液口栓で封止した。
【0043】
なお、液口の下部には、電解液の液面の上限に相当する位置まで、スリーブが形成されている。電解液は、このスリーブの下端の位置まで注入した。
【0044】
上述した手順で作製した鉛蓄電池の試験方法と、本発明による効果について、以下に詳述する。各々の鉛蓄電池において、寿命特性、液面の推移、および液面の視認性を評価するために、以下の試験を行い、その結果を表1〜3に示した。
【0045】
<寿命特性の試験方法>
各々作製した鉛蓄電池を満充電状態にしてから、25±1℃の周囲温度に保った環境下で、次の手順で評価した。
A:放電電流45Aで59秒間放電する
B:放電電流300Aで1秒間放電する
C:制限電流100A条件下で60秒間14.0V定電圧充電する
D:A、B、Cの順に行う充放電サイクルを1サイクルとし、3600サイクル繰り返した後、40〜48時間放置する。
【0046】
上述したA〜Dの手順を繰り返す中で、放電電圧が7.2Vを下回った時点で寿命に到達したと判断し、累計のサイクル数を寿命として後掲する表1に記した。
【0047】
<液面の推移の試験方法>
寿命特性の評価における4万サイクル時点で、液面の位置を電槽側面より目視にて確認し、下限ライン(LOWER LEVEL)以上の場合を「〇」、それ未満を「×」として、後掲する表2に記した。なお、4万サイクルが、市場での一般的な使われた方での約2年に相当する。4万サイクル未満の電池については評価の対象外とし、「−」を記した。
【0048】
<液面の視認性の試験方法>
寿命特性の評価における4万サイクルの時点で、液口より目視にて液面の濁りを確認した。電解液が透明性を保ったまま薄茶色に着色された状態を「〇」、着色されていない状態を「×」として、後掲する表3に記した。なお、4万サイクル未満の電池については評価の対象外とし、「−」を記した。以下に各々の評価結果について詳述する。
【0049】
<寿命特性>
【表1】
【0050】
表1に示すように、電解液中のリチウムの含有率が20mmol/lの鉛蓄電池では、充電不足に陥って4万サイクル以下の寿命となった。
【0051】
正極活物質の比表面積が10m
2/gの鉛蓄電池では、正極活物質が正極板から脱落が著しく、2万サイクル以下の寿命となった。
【0052】
電解液中のリチウムの含有率が30〜250mmol/lで、正極活物質の比表面積が4〜9m
2/gの鉛蓄電池では、4万サイクルを超える結果となり、車検を迎えるまでに寿命を終えることはない良好な寿命特性を有することが判明した。
【0053】
<液面の推移>
【表2】
【0054】
表2に示すように、電解液中のリチウムの含有率が250mmol/lの鉛蓄電池では、寿命が4万サイクルに達した時点で、液面の下限ライン(LOWER LEVEL)を下回っており、車検を迎えるまでに補水が必要な状態であった。過剰のリチウムにより、活物質の利用率が向上し過ぎて、減液を促進したものと思われる。
【0055】
電解液中のリチウムの含有率が30〜200mmol/lで、正極活物質の比表面積が4〜9m
2/gの鉛蓄電池では、液面の下限ライン(LOWER LEVEL)を下回ることはなく、良好な結果が得られた。
【0056】
<液面の視認性>
【表3】
【0057】
表3に示すように、正極活物質の比表面積が4m
2/gの鉛蓄電池では、寿命が4万サイクルに達した時点で、電解液の着色は認められなかった。
【0058】
電解液中のリチウムの含有率が30〜250mmol/lで、正極活物質の比表面積が5〜9m
2/gの鉛蓄電池では、電解液は透明性を保ったまま薄茶色に着色された状態となった。
【0059】
この状態において、液面の視認性が向上していることから、液口から液面を覗き、スリーブの下端まで、精度よく簡単に補水することができた。
【0060】
以上の結果より、電解液中のリチウムの含有率を30〜200mmol/lの範囲とし、正極活物質の比表面積を5〜9m
2/gの範囲とすればよいことは明白である。これらの範囲を満たす場合、液口から電解液の規定液面高さまで形成したスリーブの下端を基準として補水を行う鉛蓄電池の構成において、正極板から正極活物質の一部を遊離させて、その使用開始から約2年後(車検時に新品に交換して次の車検時を想定した期間に相当する)に、電解液を、透明性を保ったまま薄茶色に着色させることができ、液面の視認性を向上させて精度よく簡単に補水することができる。