特許第6536631号(P6536631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536631
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】プロペラファン
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/32 20060101AFI20190625BHJP
   F04D 29/38 20060101ALI20190625BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20190625BHJP
   F04D 29/30 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   F04D29/32 G
   F04D29/38 D
   F04D29/66 M
   F04D29/30 D
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-119658(P2017-119658)
(22)【出願日】2017年6月19日
(65)【公開番号】特開2019-2378(P2019-2378A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2018年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 透
(72)【発明者】
【氏名】富岡 洋峻
(72)【発明者】
【氏名】丸山 要
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−176694(JP,A)
【文献】 特開2015−086803(JP,A)
【文献】 特開平11−201091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/32
F04D 29/38
F04D 29/66
F04D 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のハブ(15)と、該ハブ(15)の側面から外方へ伸びる複数の翼(20a〜20c)とを備えるプロペラファン(10)であって、
複数の上記翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの周方向ピッチが互いに異なり、
複数の上記翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの質量が、上記プロペラファン(10)の重心が該プロペラファン(10)の回転中心軸(11)の近傍または該回転中心軸(11)上に位置するように互いに異なり、
複数の上記翼(20a〜20c)は、それぞれの上記プロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状が互いに共通し、且つそれぞれの前縁部(41a〜41c)の形状が互いに共通し、
互いに質量が異なる上記翼(20a〜20c)のそれぞれは、上記前縁部(41a〜41c)よりも後縁(24a〜24c)寄りの領域の一部または全部の厚さが互いに異なる
ことを特徴とするプロペラファン。
【請求項2】
請求項1において、
全ての上記翼(20a〜20c)の周方向ピッチが互いに異なり、全ての上記翼(20a〜20c)の質量が互いに異なる
ことを特徴とするプロペラファン。
【請求項3】
請求項1又は2において、
全ての上記翼(20a〜20c)に、前縁部(41a〜41c)に沿って延び且つ正圧面(25a〜25c)側へ膨出した膨出部(45a〜45c)が形成され、
全ての上記翼(20a〜20c)の上記膨出部(45a〜45c)は、それぞれの形状が互いに共通する
ことを特徴とするプロペラファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風機などに用いられるプロペラファンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プロペラファンは、送風機などに広く用いられている。プロペラファンが回転することによって生じる騒音には、NZ音と呼ばれる周期性の音が含まれる。NZ音の周波数は、プロペラファンの翼の枚数と回転速度の積である。特許文献1及び2には、このNZ音に起因するユーザー等の不快感を抑えるため、プロペラファンの周方向において翼を不等ピッチで配置することが開示されている。
【0003】
ここで、同じ質量の翼をプロペラファンの周方向に不等ピッチで配置すると、プロペラファンの回転バランスが崩れてしまう。具体的には、プロペラファンの重心とプロペラファンの回転中心軸とが離れてしまう。そして、回転バランスの崩れたプロペラファンを回転させると、回転バランスの崩れに起因して振動が生じるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、互いに前縁の形状が異なる(従って、それぞれの質量が互いに異なる)四枚の翼を、プロペラファンの回転バランスの崩れが抑えられるように、プロペラファンの周方向において翼を不等ピッチで配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−233093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、翼の形状が異なると、その翼に作用する空気力も異なる。従って、特許文献1に開示されているようにプロペラファンに前縁の形状が互いに異なる翼を設けると、翼毎に作用する空気力が異なるため、騒音の増加を招くおそれがある。このため、特許文献1のプロペラファンでは、NZ音に起因する不快感を低減できても、送風音の全体のレベルが上昇してしまい、結局は騒音に起因する不快感の問題を解決できないおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、騒音と振動に起因する問題を抑えた高性能なプロペラファンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、円筒状のハブ(15)と、該ハブ(15)の側面から外方へ伸びる複数の翼(20a〜20c)とを備えるプロペラファン(10)を対象とする。そして、複数の上記翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの周方向ピッチが互いに異なり、複数の上記翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの質量が、上記プロペラファン(10)の重心が該プロペラファン(10)の回転中心軸(11)の近傍または該回転中心軸(11)上に位置するように互いに異なり、複数の上記翼(20a〜20c)は、それぞれの上記プロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状が互いに共通し、且つそれぞれの前縁部(41a〜41c)の形状が互いに共通するものである。
【0009】
第1の発明において、プロペラファン(10)に設けられた複数の翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの周方向ピッチが互いに異なる。このため、いわゆるNZ音に起因する不快感が抑えられる。また、この発明において、プロペラファン(10)に設けられた翼(20a〜20c)のうちの少なくとも二つは、それぞれの質量が、プロペラファン(10)の重心がプロペラファン(10)の回転中心軸(11)の近傍または回転中心軸(11)上に位置するように互いに異なる。このため、プロペラファン(10)の回転バランスが保たれ、その回転バランスの崩れに起因する振動が抑えられる。
【0010】
なお、第1の発明のプロペラファン(10)において、互いに周方向のピッチの異なる二つの翼は、それぞれの質量が互いに異なるとは限らない。また、互いに質量の異なる二つの翼は、それぞれの周方向ピッチが互いに異なるとは限らない。
【0011】
第1の発明のプロペラファン(10)において、互いに質量の異なる少なくとも二つの翼を含む全ての翼(20a〜20c)は、それぞれのプロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状(即ち、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)方向から見た翼(20a〜20c)の形状)が互いに共通し、且つそれぞれの前縁部(41a〜41c)の形状が互いに共通する。プロペラファン(10)の回転中心軸(11)方向から見た翼(20a〜20c)の形状と、翼(20a〜20c)の前縁部(41a〜41c)の形状とは、翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響が大きい。従って、これらの形状が全ての翼(20a〜20c)について共通していれば、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力が均一化される。なお、本願明細書で用いる「共通する」には、同一である場合だけでなく、翼(20a〜20c)に作用する空気力に影響を及ぼさない程度の軽微な相違がある場合も含まれる。
【0012】
また、第1の発明は、上記の構成に加えて、互いに質量が異なる上記翼(20a〜20c)のそれぞれは、上記前縁部(41a〜41c)よりも後縁(24a〜24c)寄りの領域の一部または全部の厚さが互いに異なるものである。
【0013】
ここで、翼(20a〜20c)の前縁部(41a〜41c)よりも後縁(24a〜24c)寄りの領域の形状は、翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響が小さい。そこで、第1の発明では、翼(20a〜20c)の前縁部(41a〜41c)よりも後縁(24a〜24c)寄りの領域の一部または全部の厚さを相違させることによって、翼(20a〜20c)の質量を相違させている。
【0014】
第2の発明は、上記第1の発明において、全ての上記翼(20a〜20c)の周方向ピッチが互いに異なり、全ての上記翼(20a〜20c)の質量が互いに異なるものである。
【0015】
第2の発明において、プロペラファン(10)に設けられた複数の翼(20a〜20c)は、それぞれの周方向ピッチが互いに異なり、且つそれぞれの質量が互いに異なる。このため、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチの差と、各翼(20a〜20c)の質量の差とが、小さく抑えられる。
【0016】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、全ての上記翼(20a〜20c)に、前縁部(41a〜41c)に沿って延び且つ正圧面(25a〜25c)側へ膨出した膨出部(45a〜45c)が形成され、全ての上記翼(20a〜20c)の上記膨出部(45a〜45c)は、それぞれの形状が互いに共通するものである。
【0017】
第3の発明では、プロペラファン(10)の全ての翼(20a〜20c)に膨出部(45a〜45c)が形成される。膨出部(45a〜45c)は、翼(20a〜20c)の正圧面(25a〜25c)側に膨出した部分であって、翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)に沿って延びている。翼(20a〜20c)に膨出部(45a〜45c)を形成すると、翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)において翼(20a〜20c)の正圧面(25a〜25c)側と負圧面(26a〜26c)側に分かれる空気の流れがスムーズになり、騒音の低減が図られる。膨出部(45a〜45c)は、翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)に沿って配置される。このため、膨出部(45a〜45c)の形状は、翼(20a〜20c)に作用する空気力に比較的大きな影響を与える。そこで、この発明では、プロペラファン(10)に設けられた全ての翼(20a〜20c)について、それぞれの膨出部(45a〜45c)の形状を共通にしている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプロペラファン(10)では、翼(20a〜20c)の周方向ピッチを不均一にすることによって、いわゆるNZ音に起因する不快感を抑えることができると共に、翼(20a〜20c)の質量を不均一にすることによって、プロペラファン(10)の振動を抑制できる。更に、本発明のプロペラファン(10)では、翼(20a〜20c)の様々な形状のうち、翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響の大きい形状が、全ての翼(20a〜20c)について共通する。そのため、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力を均一化でき、各翼(20a〜20c)に作用する空気力が相違することに起因する騒音の増加を抑えることができる。従って、本発明によれば、騒音と振動の増加を抑えつつNZ音に起因する不快感を抑えることが可能な高性能のプロペラファン(10)を実現できる。
【0019】
また、本発明では、翼(20a〜20c)の前縁部(41a〜41c)よりも後縁(24a〜24c)寄りの領域の厚さを相違させることによって、翼(20a〜20c)の質量を相違させている。従って、この発明によれば、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力を均一化しつつ、そのうちの少なくとも二つの翼の質量を相違させることが可能となる。
【0020】
上記第2の発明では、プロペラファン(10)に設けられた各翼(20a〜20c)の周方向ピッチと質量のそれぞれが互いに相違しているため、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチの差と質量の差とを、できるだけ小さく抑えることが可能となる。従って、これらの発明によれば、プロペラファン(10)の重心と回転中心軸(11)の距離を確実に短縮でき、プロペラファン(10)の回転バランスを容易に確保できる。
【0021】
上記第3の発明では、翼(20a〜20c)に作用する空気力に比較的大きな影響を与える膨出部(45a〜45c)を、プロペラファン(10)の全ての翼(20a〜20c)について共通の形状としている。従って、この発明によれば、膨出部(45a〜45c)を設けることによる騒音の低減効果も得つつ、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力を均一化して騒音の更なる低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態1のプロペラファンの平面図である。
図2A図2Aは、実施形態1の第1翼の翼断面である。
図2B図2Bは、実施形態1の第2翼の翼断面である。
図2C図2Cは、実施形態1の第3翼の翼断面である。
図3図3は、プロペラファンの送風音の計測結果を示すグラフである。
図4A図4Aは、実施形態2の第1翼の翼断面である。
図4B図4Bは、実施形態2の第2翼の翼断面である。
図4C図4Cは、実施形態2の第3翼の翼断面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態および変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0024】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。本実施形態のプロペラファン(10)は、軸流ファンである。このプロペラファン(10)は、例えば、空気調和機の熱源ユニットに設けられ、熱源側熱交換器へ室外空気を供給するために用いられる。
【0025】
−プロペラファンの構造−
図1に示すように、本実施形態のプロペラファン(10)は、一つのハブ(15)と、三つの翼(20a,20b,20c)とを備えている。一つのハブ(15)と、三つの翼(20a〜20c)とは、一体に形成されている。プロペラファン(10)の材質は、樹脂である。
【0026】
ハブ(15)は、先端面が閉塞した円筒状に形成されている。このハブ(15)は、ファンモータの駆動軸に取り付けられる。ハブ(15)の中心軸は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)である。
【0027】
翼(20a〜20c)は、ハブ(15)の外周面から外側へ突出するように配置されている。三つの翼(20a〜20c)は、ハブ(15)の周方向に所定の間隔をおいて配置されている。各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の径方向の外側に向かって広がる形状となっている。各翼(20a〜20c)の形状の形状と周方向ピッチについては、後述する。
【0028】
各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の径方向の中心側(即ち、ハブ(15)側)の端部が翼元(21a,21b,21c)であり、プロペラファン(10)の径方向の外側の端部が翼端(22a,22b,22c)である。各翼(20a〜20c)の翼元(21a〜21c)は、ハブ(15)に接合されている。
【0029】
各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の回転方向の前側の縁部が前縁(23a,23b,23c)であり、プロペラファン(10)の回転方向の後側の縁部が後縁(24a,24b,24c)である。各翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)及び後縁(24a〜24c)は、翼元(21a〜21c)から翼端(22a〜22c)へ向かってプロペラファン(10)の外周側へ延びている。
【0030】
各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面に対して傾いている。具体的に、各翼(20a〜20c)は、前縁(23a〜23c)がハブ(15)の先端寄りに配置され、後縁(24a〜24c)がハブ(15)の基端寄りに配置されている。各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の回転方向の前側の面(図2A図2Cにおける下向きの面)が正圧面(25a,25b,25c)であり、プロペラファン(10)の回転方向の後側の面(図2A図2Cにおける上向きの面)が負圧面(26a,26b,26c)である。
【0031】
−翼の形状−
翼(20)の形状について、図1と、図2A図2Cを参照しながら説明する。
【0032】
図2A図2Cに示す翼断面は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)から距離rに位置する各翼(20a〜20c)の断面を平面に展開したものである。各翼(20a〜20c)は、負圧面(26a〜26c)側に膨らむように反っている。
【0033】
各翼(20a〜20c)の翼断面において、前縁(23a〜23c)と後縁(24a〜24c)を結んだ線分が翼弦(31)であり、翼弦(31)が“プロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面”となす角が取付け角αである。翼弦長Lは、半径がrで中心角がθの円弧の長さrθを、取付け角αに対する余弦cosαで除した値である(L=rθ/cosα)。なお、θは、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)から距離rの位置における翼(20)の中心角であり(図1を参照)、その単位はラジアンである。
【0034】
図2A図2Cに示す翼断面において、正圧面(25a〜25c)と負圧面(26a〜26c)の中点を結んだ線がキャンバー線(32a,32b,32c)であり、翼弦(31)からキャンバー線(32a〜32c)までの距離が反り高さHである。翼断面のキャンバー線(32a〜32c)の形状は、前縁(23a〜23c)から翼弦(31)上の任意の点Xまでの距離Lと、この点Xからキャンバー線(32a〜32c)までの距離(即ち、点Xにおける反り高さH)と、翼弦長Lとによって定まる。
【0035】
各翼(20a〜20c)は、それぞれのキャンバー線(32a〜32c)の形状が一致している。つまり、各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)から任意の距離rに位置するそれぞれの翼断面において、翼弦(31)上の任意の点Xにおける反り高さHが一致すると共に、翼弦長Lが一致する。
【0036】
なお、二つの物の形状や寸法が完全に一致することは、実際には有り得ない。従って、本明細書で用いる「一致する」には、完全に一致する場合だけでなく、通常の寸法公差程度の相違がある場合も含まれる。つまり、本明細書の「一致する」には、完全には一致しないが実質的に一致すると言える場合も含まれる。
【0037】
また、各翼(20a〜20c)は、それぞれのプロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状が、互いに一致する。つまり、各翼(20a〜20c)は、図1に示す形状(即ち、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)方向から見た翼の形状)が、互いに一致する。従って、各翼(20a〜20c)は、それぞれの前縁(23a〜23c)の形状が互いに一致し、それぞれの後縁(24a〜24c)の形状が互いに一致する。
【0038】
各翼(20a〜20c)は、前縁(23a〜23c)に沿った部分が前縁部(41a,41b,41c)を構成し、残りの部分が本体翼部(42a,42b,42c)を構成する。
【0039】
前縁部(41a〜41c)は、前縁(23a〜23c)の近傍の領域であって、前縁(23a〜23c)の全長に亘っている。本実施形態の各翼(20a〜20c)では、翼(20a〜20c)のうち翼(20a〜20c)の厚さt,t,tが最大となる位置(図2A図2Cに示す仮想面Z)よりも前縁(23a〜23c)の領域が、前縁部(41a〜41c)を構成する。なお、翼(20a〜20c)の厚さt,t,tは、キャンバー線(32a〜32c)と直交する直線上における正圧面(25a〜25c)と負圧面(26a〜26c)の間隔である。
【0040】
本体翼部(42a〜42c)は、前縁部(41a〜41c)から後縁(24a〜24c)に亘る部分である。各翼(20a〜20c)では、翼(20a〜20c)のうち前縁部(41a〜41c)以外の領域が、本体翼部(42a〜42c)を構成する。
【0041】
各翼(20a〜20c)は、それぞれの前縁部(41a〜41c)の形状が一致する。つまり、各翼(20a〜20c)の前縁部(41a〜41c)は、前縁(23a〜23c)の形状と、キャンバー線(32a〜32c)の形状と、厚さt,t,tとが、互いに一致する。
【0042】
各翼(20a〜20c)は、それぞれの本体翼部(42a〜42c)の厚さt,t,tが互いに異なっている。
【0043】
図2Bに示すように、第2翼(20b)の本体翼部(42b)の厚さtの平均値は、第1翼(20a)の本体翼部(42a)の厚さtの平均値よりも小さい。第2翼(20b)の本体翼部(42b)の厚さtと第1翼(20a)の本体翼部(42a)の厚さtの差(t−t)は、前縁部(41b)から後縁(24a〜24c)へ向かって次第に増加し、前縁部(41b)と後縁(24a〜24c)の中間位置において最大となり、厚さの差(t−t)が最大となる位置から後縁(24a〜24c)へ向かって次第に減少する。
【0044】
図2Cに示すように、第3翼(20c)の本体翼部(42c)の厚さtの平均値は、第2翼(20b)の本体翼部(42b)の厚さtの平均値よりも小さい。第3翼(20c)の本体翼部(42c)の厚さtと第2翼(20b)の本体翼部(42b)の厚さtの差(t−t)は、前縁部(41c)から後縁(24a〜24c)へ向かって次第に増加し、前縁部(41c)と後縁(24a〜24c)の中間位置において最大となり、厚さの差(t−t)が最大となる位置から後縁(24a〜24c)へ向かって次第に減少する。
【0045】
−翼の配置−
本実施形態のプロペラファン(10)では、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチφが互いに異なっている。
【0046】
ここで、各翼(20a〜20c)において、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)を含み、且つ翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)と接する平面を、前端平面(35a,35b,35c)とする。第1翼(20a)の前端平面(35a)は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)を含み、且つ第1翼(20a)の前縁(23a)と接する。第2翼(20b)の前端平面(35b)は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)を含み、且つ第2翼(20b)の前縁(23b)と接する。第3翼(20c)の前端平面(35c)は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)を含み、且つ第3翼(20c)の前縁(23c)と接する。
【0047】
翼(20a〜20c)の周方向ピッチφは、翼(20a,20b,20c)の前端平面(35a,35b,35c)と、その翼(20a〜20c)のプロペラファン(10)の回転方向における後方に位置する翼(20b,20c,20a)の前端平面(35b,35c,35a)とのなす角度である。具体的に、第1翼(20a)の周方向ピッチφは、第1翼(20a)の前端平面(35a)と第2翼(20b)の前端平面(35b)とのなす角度である。第2翼(20b)の周方向ピッチφは、第2翼(20b)の前端平面(35b)と第3翼(20c)の前端平面(35c)とのなす角度である。第3翼(20c)の周方向ピッチφは、第3翼(20c)の前端平面(35c)と第1翼(20a)の前端平面(35a)とのなす角度である。
【0048】
本実施形態のプロペラファン(10)において、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチφは、第1翼(20a)、第2翼(20b)、第3翼(20c)の順に大きくなる。つまり、第3翼(20c)の周方向ピッチφは第2翼(20b)の周方向ピッチφよりも大きく、第2翼(20b)の周方向ピッチφは第1翼(20a)の周方向ピッチφよりも大きい(φ<φ<φ)。本実施形態のプロペラファン(10)において、第1翼(20a)の周方向ピッチφは114°であり、第2翼(20b)の周方向ピッチφは119°であり、第3翼(20c)の周方向ピッチφは127°である。なお、ここに示した周方向ピッチφの値は、単なる一例である。
【0049】
−翼の質量とプロペラファンの重心−
上述したように、各翼(20a〜20c)の本体翼部(42a〜42c)の厚さt,t,tの平均値は、第1翼(20a)、第2翼(20b)、第3翼(20c)の順に小さくなる。従って、各翼(20a〜20c)の質量も、第1翼(20a)、第2翼(20b)、第3翼(20c)の順に小さくなる。つまり、第3翼(20c)の質量Mは第2翼(20b)の質量Mよりも小さく、第2翼(20b)の質量Mは第1翼(20a)の質量Mよりも小さい(M<M<M)。本実施形態のプロペラファン(10)において、第2翼(20b)の質量Mは第1翼(20a)の質量Mの約95%であり、第3翼(20c)の質量Mは第1翼(20a)の質量Mの約85%である。なお、ここに示した質量M,M,Mの比率は、単なる一例である。
【0050】
各翼(20a〜20c)は、プロペラファン(10)の重心がプロペラファン(10)の回転中心軸(11)上に位置するように、それぞれの質量M,M,Mが定められている。本実施形態のプロペラファン(10)の重心は、実質的にプロペラファン(10)の回転中心軸(11)上に位置している。プロペラファン(10)の回転中心軸(11)からプロペラファン(10)の重心までの距離が一般的な寸法公差程度である場合、プロペラファン(10)の重心は、実質的にプロペラファン(10)の回転中心軸(11)上に位置すると言える。
【0051】
また、プロペラファン(10)の重心は、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)から若干離れていてもよい。プロペラファン(10)の重心とプロペラファン(10)の回転中心軸(11)との距離がプロペラファン(10)の外径の概ね0.5%以下であれば、プロペラファン(10)の回転バランスは実質的にとれている。
【0052】
なお、プロペラファン(10)の外径は、中心軸がプロペラファン(10)の回転中心軸(11)と一致し且つプロペラファン(10)に外接する円柱面の直径である。本実施形態のプロペラファン(10)の外径Dは、プロペラファン(10)の回転中心軸(11)翼端(22a〜22c)までの距離rの2倍である(D=2r)。
【0053】
−翼に作用する空気力−
本実施形態のプロペラファン(10)は、ハブ(15)に連結されたファンモータによって駆動され、図1における時計方向へ回転する。プロペラファン(10)が回転すると、空気が翼(20a〜20c)によってプロペラファン(10)の回転中心軸(11)方向へ押し出される。
【0054】
プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)には、空気力が作用する。具体的に、各翼(20a〜20c)では、正圧面(25a〜25c)側の気圧が大気圧よりも高くなり、負圧面(26a〜26c)側の気圧が大気圧よりも低くなる。このため、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)には、翼(20a〜20c)を正圧面(25a〜25c)から負圧面(26a〜26c)へ向かって押す方向の揚力が作用する。この揚力は、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)が空気を押し出す力の反力である。
【0055】
上述したように、本実施形態のプロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)は、それぞれの本体翼部(42a〜42c)の厚さt,t,tが互いに異なるが、それぞれのキャンバー線(32a〜32c)の形状と、それぞれのプロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状と、それぞれの前縁部(41a〜41c)の形状とは、互いに一致する。つまり、各翼(20a〜20c)は、翼(20a〜20c)に作用する空気力の大きさに大きな影響を及ぼす形状が、互いに一致する。従って、互いに質量M,M,Mの異なる各翼(20a〜20c)に作用する空気力の差が、小さく抑えられる。
【0056】
−プロペラファンの送風音−
プロペラファン(10)の送風音について、図3を参照しながら説明する。
【0057】
図3では、本実施形態のプロペラファン(10)の送風音の測定結果を実線で示し、比較例のプロペラファンの送風音の測定結果を破線で示す。比較例のプロペラファンは、本実施形態の第1翼(20a)と同じ形状の三枚の翼を周方向に一定の間隔で配置したものである。つまり、比較例のプロペラファンにおいて、各翼の周方向ピッチは、いずれも120°である。
【0058】
図3に示すように、本実施形態のプロペラファン(10)は、比較例のプロペラファンに比べて、NZ音に対応する周波数帯の音圧レベルが低くなる一方、NZ音に対応する周波数帯に隣接する周波数帯の音圧レベルが高くなる。
【0059】
ここで、NZ音に対応する周波数帯の音圧レベルと、NZ音に対応する周波数帯に隣接する周波数帯の音圧レベルとの差が大きいほど、NZ音が人に与える不快感が大きくなる。図3に示すように、これら二つの周波数帯の音圧レベルの差は、本実施形態のプロペラファン(10)についての値ΔBが、比較例のプロペラファンについての値ΔB’よりも小さい。従って、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチが互いに異なる本実施形態のプロペラファン(10)は、比較例のプロペラファンに比べて、NZ音が人に与える不快感を抑えられる。
【0060】
−実施形態1の効果−
本実施形態のプロペラファン(10)では、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチを不均一にすることによって、いわゆるNZ音に起因する不快感を抑えることができると共に、翼(20a〜20c)の質量を不均一にすることによって、プロペラファン(10)の振動を抑制できる。更に、本実施形態のプロペラファン(10)では、翼(20a〜20c)の様々な形状のうち、翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響の大きい形状が、全ての翼(20a〜20c)について共通する。そのため、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力を均一化でき、各翼(20a〜20c)に作用する空気力が相違することに起因する騒音の増加を抑えることができる。従って、本実施形態によれば、騒音と振動の増加を抑えつつNZ音に起因する不快感を抑えることが可能な高性能のプロペラファン(10)を実現できる。
【0061】
また、本実施形態では、翼(20a〜20c)の本体翼部(42a〜42c)の厚さを相違させることによって、翼(20a〜20c)の質量を相違させている。本体翼部(42a〜42c)の厚さは、翼(20a〜20c)に作用する空気力の大きさに与える影響が小さい。従って、この発明によれば、プロペラファン(10)の全ての翼(20a〜20c)に作用する空気力を均一化しつつ、各翼(20a〜20c)の質量を相違させることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、プロペラファン(10)に設けられた各翼(20a〜20c)の周方向ピッチと質量のそれぞれが互いに相違しているため、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチの差と質量の差とを、できるだけ小さく抑えることが可能となる。従って、本実施形態によれば、プロペラファン(10)の重心と回転中心軸(11)の距離を確実に短縮でき、プロペラファン(10)の回転バランスを容易に確保できる。
【0063】
また、本実施形態では、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチが互いに相違したプロペラファン(10)において、各翼(20a〜20c)の質量を互いに相違させることによって、プロペラファン(10)の回転バランスをとっている。このため、本実施形態のプロペラファン(10)は、射出成形しただけ状態で、既に回転バランスがとれている。従って、本実施形態によれば、例えばバランスウェイト等の別の部材をプロペラファン(10)に取り付ける工程を行わずに、各翼(20a〜20c)の周方向ピッチが互いに相違したプロペラファン(10)を製造することが可能となる。
【0064】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態のプロペラファン(10)は、実施形態1のプロペラファン(10)において、翼(20a〜20c)の形状を変更したものである。ここでは、本実施形態のプロペラファン(10)について、実施形態1のプロペラファン(10)と異なる点を説明する。
【0065】
図4A図4Cに示すように、本実施形態の各翼(20a〜20c)には、膨出部(45a,45b,45c)が形成されている。膨出部(45a〜45c)は、翼(20a〜20c)の正圧面(25a〜25c)側に膨出した部分であって、前縁部(41a〜41c)に沿って前縁部(41a〜41c)の全長に亘って延びている。膨出部(45a〜45c)の表面は、翼(20a〜20c)のうち膨出部(45a〜45c)に隣接する領域の表面と滑らかに連続する凸面である。各翼(20a〜20c)は、それぞれの膨出部(45a〜45c)の形状が互いに一致する。つまり、本実施形態の各翼(20a〜20c)は、それぞれの前縁部(41a〜41c)の形状が互いに一致し、且つそれぞれの膨出部(45a〜45c)の形状が互いに一致する。
【0066】
翼(20a〜20c)に膨出部(45a〜45c)を形成すると、翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)において翼の正圧面(25a〜25c)側と負圧面(26a〜26c)側に分かれる空気の流れがスムーズになり、送風音の低減が図られる。一方、膨出部(45a〜45c)は、翼(20a〜20c)の前縁(23a〜23c)に沿って配置される。このため、膨出部(45a〜45c)の形状は、翼(20a〜20c)に作用する空気力に比較的大きな影響を与える。これに対し、本実施形態のプロペラファン(10)では、各翼(20a〜20c)の膨出部(45a〜45c)の形状が互いに一致している。従って、本実施形態によれば、プロペラファン(10)の各翼(20a〜20c)に作用する空気力の差を小さく抑えることと、膨出部(45a〜45c)によって得られる空気流の整流効果とによって、プロペラファン(10)の送風音を一層低減できる。
【0067】
《その他の実施形態》
上記の各実施形態のプロペラファン(10)において、翼(20a〜20c)の数は、五枚以上の奇数枚であってもよい。また、上記の各実施形態のプロペラファン(10)において、翼(20a〜20c)の数は、偶数枚であってもよい。
【0068】
また、上記の各実施形態のプロペラファン(10)は、全部ではなく一部の翼について、それぞれの周方向ピッチと質量とが互いに異なっていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態1のプロペラファン(10)において、各翼(20a〜20c)は、それぞれのキャンバー線(32a〜32c)の形状と、それぞれのプロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状と、それぞれの前縁部(41a〜41c)の形状とが互いに共通していればよい。各翼(20a〜20c)の“キャンバー線(32a〜32c)の形状”と、“プロペラファン(10)の回転中心軸(11)と直交する平面への投影図の形状”と、“前縁部(41a〜41c)の形状”とのそれぞれについて、それらの形状の違いが通常の寸法公差を超える場合であっても、それらの形状の違いが翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響が軽微であれば、それらの形状は互いに共通すると言える。
【0070】
また、上記実施形態2のプロペラファン(10)において、各翼(20a〜20c)は、それぞれの膨出部(45a〜45c)の形状が互いに共通していればよい。各翼(20a〜20c)の“膨出部(45a〜45c)の形状”について、その形状の違いが通常の寸法公差を超える場合であっても、その形状の違いが翼(20a〜20c)に作用する空気力に与える影響が軽微であれば、その形状は互いに共通すると言える。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明は、プロペラファンについて有用である。
【符号の説明】
【0072】
10 プロペラファン
11 回転中心軸
15 ハブ
20a 第1翼
20b 第2翼
20c 第3翼
24a,24b,24c 後縁
25a,25b,25c 正圧面
41a,41b,41c 前縁部
45a,45b,45c 膨出部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C