特許第6536711号(P6536711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000006
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000007
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000008
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000009
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000010
  • 特許6536711-細胞の分化状態の評価方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536711
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】細胞の分化状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20190625BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20190625BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20190625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20190625BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20190625BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   G01N33/68
   !C12N5/0735
   !C12N5/10
   !C12N5/0789
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-88721(P2018-88721)
(22)【出願日】2018年5月2日
(62)【分割の表示】特願2016-516327(P2016-516327)の分割
【原出願日】2015年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-121659(P2018-121659A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2018年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-94507(P2014-94507)
(32)【優先日】2014年5月1日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発/ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(72)【発明者】
【氏名】中辻 憲夫
(72)【発明者】
【氏名】末盛 博文
(72)【発明者】
【氏名】中馬 新一郎
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−240308(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/126013(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/065302(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/139907(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/123349(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/027842(WO,A1)
【文献】 鈴木崇 他,メタボローム解析によるヒト多能性幹細胞の品質評価技術の開発,島津評論,2014年 3月31日,Vol.70 No.3/4,Page.123-131,p.125-6, 表1, p.128-9,図8, p. 129右欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化状態が未知の多能性幹細胞あるいは多能性幹細胞より分化誘導を行った細胞を被検細胞として、該被検細胞の分化状態を評価する方法であって、
被検細胞の培養上清における指標物質の存在量を測定するステップと、
前記指標物質の存在量に基づいて前記被検細胞の分化状態を評価するステップを有し、
前記指標物質が、キヌレニン、及び/又はシスタチオニンであることを特徴とする細胞の分化状態の評価方法。
【請求項2】
分化状態が既知の多能性幹細胞である対照細胞の培養上清における指標物質の存在量を測定するステップをさらに有し、
前記被検細胞の培養上清における前記指標物質の存在量と、前記対照細胞の培養上清における前記指標物質の存在量とを比較することにより、前記被検細胞の分化状態の評価が行われる、請求項1に記載の細胞の分化状態の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の分化状態を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の分化状態を評価するためには、免疫染色を利用した方法(例えば特許文献1を参照)やマーカー遺伝子の発現レベルを定量する方法(例えば特許文献2を参照)が広く用いられている。
【0003】
免疫染色を利用した方法では、まず評価対象とする細胞、例えば多能性幹細胞をパラホルムアルデヒドなどで固定化した上で抗原−抗体反応を行う。ここで、多能性幹細胞が未分化状態であるか否かを判定するための抗体としては、SSEA−4やTRA1−60が広く用いられている(例えば特許文献1を参照)。続いて、前記抗体に結合する二次抗体を細胞に添加し、その後、予め前記二次抗体に付与しておいた蛍光標識等を検出する。これにより、細胞上に前記抗体に対する抗原が存在するか否か、すなわち該細胞が未分化状態であるか否かを評価することができる。
【0004】
また、マーカー遺伝子の発現レベルの定量による方法では、例えば多能性幹細胞からmRNAを抽出し、これを逆転写酵素によってcDNAに変換した後、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)によってマーカー遺伝子を増幅する。このとき、多能性幹細胞の未分化性を評価するためのマーカー遺伝子としては、NANOGやPOU5F1(OCT3/4)が広く用いられる(例えば非特許文献1を参照)。このPCR産物を電気泳動やリアルタイムPCR装置で検出することにより前記細胞におけるマーカー遺伝子の発現量を確認し、その結果から該細胞が未分化状態であるか否かを評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-313184号公報
【特許文献2】特開2006-042663号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology), 2007, 第25巻, pp.803-816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の評価方法では、いずれも細胞に対して侵襲的な処理を行う必要がある。そのため、分化状態の評価を行った後に、該評価に供した細胞を別の目的に利用すること、例えば再生医療用の細胞源とすることができなかった。また、同一サンプル(すなわち同一培養皿中の細胞)について、時間経過に伴う変化を評価することは不可能であり、分化状態の経時的な変化を評価するためには複数の培養皿で並行して培養を行うなど、煩雑な作業が必要であった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、細胞の分化状態を非侵襲的に評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、細胞の分化状態によって培養上清中におけるプトレシン、キヌレニン、シスタチオニン、アスコルビン酸、リボフラビン、ピルビン酸、セリン、システイン、トレオン酸、クエン酸、及びオロト酸の存在量が異なることを見出し、本願発明に至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために成された本発明に係る細胞分化状態の評価方法は、分化状態が未知の幹細胞あるいは幹細胞より分化誘導を行った細胞を被検細胞とし、該被検細胞の培養上清における所定物質の存在量に基づいて該被検細胞の分化状態を評価する方法であって、
前記所定物質が、プトレシン、キヌレニン、シスタチオニン、アスコルビン酸、リボフラビン、ピルビン酸、セリン、システイン、トレオン酸、クエン酸、及びオロト酸から成る群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴としている。
【0011】
上記本発明に係る細胞分化状態の評価方法は、例えば、前記被検細胞の培養上清における前記所定物質の存在量と、分化状態が既知である対照細胞の培養上清における前記所定物質の存在量とを比較することにより、前記被検細胞の分化状態を評価するものとすることができる。
【0012】
また、本発明に係る細胞分化状態の評価方法は、前記幹細胞がES細胞(Embryonic Stem cells、胚性幹細胞)やiPS細胞(Induced Pluripotent Stem cells、人工多能性幹細胞)などの多能性幹細胞であるものとすることができる。
【0013】
また、本発明に係る細胞分化状態の評価方法は、前記培養上清中の前記所定物質の存在量を質量分析法により定量するものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る細胞分化状態の評価方法によれば、従来のように細胞を破壊する必要がなく、非侵襲的に細胞の分化状態を評価することができる。これにより、分化状態の評価後に、被検細胞を再生医療用の細胞源などとして利用することが可能となる。また、分化状態の経時的な変化を評価する場合にも、従来のように複数の培養皿で並行して培養を行うといった煩雑な作業を行う必要がなく、同一培養皿中の細胞を対象として容易に時間経過に伴う分化状態の変化を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例における細胞分化状態の評価方法を説明する模式図。
図2】上記実施例において培養上清のGC−MS分析により求められた各物質の存在量の経時変化を示すグラフ。
図3】上記実施例において培養上清のLC−MS分析により求められた各物質の存在量の経時変化を示すグラフ。
図4】DMEM/F12の構成成分を示す表。
図5】mTeSR1の構成成分を示す表の前半部分。
図6】mTeSR1の構成成分を示す表の後半部分。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る細胞分化状態の評価方法は、プトレシン、キヌレニン、シスタチオニン、アスコルビン酸、リボフラビン、ピルビン酸、セリン、システイン、トレオン酸、クエン酸、及びオロト酸から成る群から選ばれる少なくとも一つの化合物をバイオマーカーとし、被検細胞の培養上清における前記バイオマーカーの存在量に基づいて該被検細胞の分化状態を評価するものである。
【0017】
前記被検細胞としては幹細胞、典型的にはES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いることができる。また前記幹細胞より分化誘導を行った細胞も被検細胞として用いることができる。また、こうした被検細胞の培養に用いる培地としては、幹細胞の培養に一般的に使用される培地、例えばDMEM/F12や、該DMEM/F12を主成分とする培地(例えばmTeSR1など)を用いることができる。図4にDMEM/F12の構成成分を示す。
【0018】
培養上清における前記バイオマーカーの存在量を測定する方法としては、質量分析法による定量分析、特に液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)や、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)を用いた定量分析を好適に利用することができるが、これに限定されるものではない。例えば、前記各バイオマーカーを特異的に発色又は発光させる試薬等を培養上清に添加し、該発色又は発光の強度に基づいてバイオマーカーの存在量を求めるようにしてもよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の方法による細胞の分化状態評価の一実施例について説明する。図1は本実施例による細胞分化状態の評価方法の実施手順を示す模式図である。
【0020】
本実施例では、2種類のヒトES細胞株KhES−1及びKhES−3を使用した。また、各ES細胞株に分化誘導刺激を与えたものを被検細胞とし、同ES細胞株の未分化状態を維持したものを対照細胞とした。以下、本実施例における細胞培養から培養上清の分析までの手順について説明する。
【0021】
[対照細胞の培養及び培養上清の回収]
バイオコートマトリゲル(登録商標、コーニングインターナショナル株式会社)がコートされた4枚の培養皿(直径60 mm)に前記KhES−1株を植え継いで培養を行った(図1では簡略化のため培養皿1枚のみを示している)。培地としてはmTeSR1(modified Tenneille Serum Replacer 1)を使用し、毎日培地の交換を行った。mTeSR1の構成成分を図5及び図6に示す。同様にKhES−3株についても4枚の培養皿に植え継いで培養を行った。細胞の植え継ぎ(継代)を行った日を0日目としてコンフルエント(confluent)に達するまで培養を継続し、各日の培地交換時に培養皿から回収した培養上清を質量分析用のサンプルとした。なお、培養0日目については、mTeSR1そのものを質量分析用サンプルとした。
【0022】
[被検細胞の培養及び培養上清の回収]
マトリゲルがコートされた4枚の培養皿(直径60 mm)に前記KhES−1株を植え継いで培養を行った(図1では簡略化のため培養皿1枚のみを示している)。培地としてはmTeSR1を使用し、毎日培地の交換を行ってコンフルエントに達するまで培養を継続した。同様にKhES−3株についても4枚の培養皿に植え継いで培養を行った。継代を行った日を0日目とし、2日目からは前記培地交換の際に、レチノイン酸を終濃度0.1 μMとなるよう添加したmTeSR1に交換することにより、分化誘導刺激を行った。各日の培地交換時に培養皿から回収した培養上清を質量分析用のサンプルとし、培養0日目については、mTeSR1そのものを質量分析用サンプルとした。
【0023】
[サンプルの前処理]
前記サンプルにそれぞれ内部標準物質としてイソプロピルリンゴ酸を添加し、抽出溶液(メタノール:クロロホルム:水=2.5:1:1)で処理して除蛋白を行った。抽出後の上清を回収し、乾燥させた。
【0024】
[GC−MSによる分析]
上述の前処理を行った各サンプルをメトキシアミン塩酸塩を含むピリジン溶液中でインキュベートすることにより、サンプル中の化合物のメトオキシム化を行った。更に、各サンプルにMSTFA(N−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド)を添加することでサンプル中の化合物をトリメチルシリル化した。そして、これらの誘導体化処理を施したサンプルをGC−MSによる分析に供した。分析結果の解析には、島津製作所製の「GCMS代謝成分データベースVer. 2」を使用した。該データベースは前記と同様の誘導体化処理を施した種々の化合物標準品をGC−MSで分析したデータが集約されたものである。化合物の同定は、前記データベースで設定された保持指標(保持時間を相対化した数値)とサンプル中の誘導体化化合物の保持指標との差が±5以内であるか否か、及び前記データベースで設定された定量イオン及び確認イオンの両者がサンプル中の誘導体化化合物について検出されているか否かを指標に行った。一方、化合物の定量は、前記データベースで設定された条件に従い、サンプル中の各誘導体化化合物に特徴的なイオンに関するマスクロマトグラムの面積を算出する方法により実施した。
【0025】
[LC−MSによる分析]
上述の前処理を行った各サンプルに適当量の超純水(Milli-Q(登録商標)水、メルク株式会社)を加えて溶解させ、LC−MSによる分析に供した。LC−MS分析では、各サンプル中の化合物を逆相分離カラムを用いた勾配溶出によって時間的に分離した後、多重反応モニタリング(MRM、Multiple Reaction Monitoring)モードによる質量分析を行った。MRMモードにおける分析条件の設定は、化合物標準品を用いて実施した。化合物の同定は、標準品の保持時間とサンプル中の化合物の保持時間との差が±0.1分以内であるか否かを基準に行った。また、化合物の定量は、サンプル中の各化合物に特徴的なイオンについてマスクロマトグラムの面積を算出する方法により実施した。
【0026】
培養最終日に回収された培養上清(すなわちコンフルエントに達した培養皿から採取された培養上清)について、上記のGC−MS分析及びLC−MS分析を行うことにより求められた各化合物の定量値(面積値)を、前記内部標準物質の定量値(面積値)で除した値を算出し、これを培養上清中における各化合物の存在量の指標値とした。そして、対照細胞と被検細胞のそれぞれに関し、前記4枚の培養皿から回収した培養上清をそれぞれGC−MS及びLC−MSで分析した結果から得られた前記指標値の平均をとり、該指標値の平均値を用いて対照細胞と被検細胞における各化合物の存在量を比較した。具体的には、対照細胞について求められた前記指標値の平均値をA、被検細胞について求められた前記指標値の平均値をBとしたときに、A/B、又はB/Aが1.2以上であり、且つスチューデントのt検定でP<0.05のとき、その化合物の存在量には対照細胞の培養上清と被検細胞の培養上清の間で有意差があると判定した。
【0027】
以上により、対照細胞の培養上清中と被検細胞の培養上清中とで存在量に有意差があると判定された化合物を以下の表1〜表4に示す。なお、表中の「E」は10のべき乗を意味し、例えば「1.326E-02」は「1.326×10-2」を意味している。
【0028】
以下の表1及び表2は、対照細胞の培養上清中の存在量が被検細胞の培養上清中の存在量より多いことが確認された化合物を示している。表1はKhES−1株における結果であり、表2はKhES−3株における結果である。なお、これらの表中における「変動値」とは、上記のA/B、すなわち「被検細胞における前記指標値の平均値」に対する「対照細胞における前記指標値の平均値」の比を意味している。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
以下の表3及び表4は、被検細胞の培養上清中の存在量が対照細胞の培養上清中の存在量より多いことが確認された化合物を示している。表3はKhES−1株における結果であり、表4はKhES−3株における結果である。なお、これらの表中における「変動値」とは、上記のB/A、すなわち「対照細胞における前記指標値の平均値」に対する「被検細胞における前記指標値の平均値」の比を意味している。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
以上により、表1〜表4に記載の各化合物は、分化誘導により細胞における代謝量及び/又は細胞外への分泌量が変化するものであって、細胞の分化状態を評価するためのバイオマーカーとして利用できることが分かる。すなわち、例えば未分化状態を維持しているか否かが不明である幹細胞を被検細胞、未分化状態であることが明らかな幹細胞を対照細胞とし、表1及び表2に記載の化合物のいずれかについて「被検細胞の培養上清中における存在量」に対する「対照細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態でないと判定することができる。あるいは、表3、4に記載の化合物のいずれかについて「対照細胞の培養上清中における存在量」に対する「被検細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態でないと判定することもできる。
【0035】
また、上記とは逆に、分化していることが明らかな細胞を対照細胞とし、表1及び表2に記載の化合物のいずれかについて「対照細胞の培養上清中における存在量」に対する「被検細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態であると判定するようにしてもよい。あるいは、表3、4に記載の化合物のいずれかについて「被検細胞の培養上清中における存在量」に対する「対照細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態であると判定することもできる。
【0036】
また、例えば未分化状態の細胞が残存しているか否かが不明である幹細胞由来の分化誘導細胞を被検細胞、未分化であることが明らかな細胞を対照細胞とし、表1及び表2に記載の化合物のいずれかについて「対照細胞の培養上清中における存在量」に対する「被検細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態の細胞が混在していると判定することができる。あるいは、表3、4に記載の化合物のいずれかについて「被検細胞の培養上清中における存在量」に対する「対照細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態の細胞が混在していると判定することもできる。
【0037】
また、例えば上記同様に未分化状態の細胞が残存しているか否かが不明である幹細胞由来の分化誘導細胞を被検細胞とし、対照細胞としては上記とは逆に、分化したことが明らかな細胞を使用して、表1及び表2に記載の化合物のいずれかについて「対照細胞の培養上清中における存在量」に対する「被検細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態の細胞が混在していると判定することができる。あるいは、表3、4に記載の化合物のいずれかについて「被検細胞の培養上清中における存在量」に対する「対照細胞の培養上清中における存在量」の比を求めて、その値が予め定めた閾値以上であった場合に、前記被検細胞は未分化状態の細胞が混在していると判定することもできる。なお、上記いずれの方法による判定を行う場合においても、対照細胞の培養上清中における化合物の存在量については、被検細胞と同じ時間に測定する必要はなく、予め測定したデータを用いてもよい。
【0038】
なお、上記の表1〜表4に記載の化合物の内、被検細胞の上清中での存在量に比べて対照細胞の培養上清中での存在量が多いプトレシン、シスタチオニン、キヌレニン、及びアスコルビン酸において、変動値が3.00以上という存在量の大きな変化が確認された(表1及び表2を参照)。従って、これらの化合物は、被検細胞が未分化状態であることを示す、あるいは被検細胞中に未分化状態の細胞が混在することを示すバイオマーカーとして特に好適に利用できると考えられる。
【0039】
また、KhES−1株の培養0日目〜6日目の培養上清における前記バイオマーカーの存在量の変化を図2及び図3に示す。なお、図2はGC−MS分析による結果であり、図3はLC−MS分析による結果である。これらの図から明らかなように、培養開始直後は被検細胞と対照細胞とで前記バイオマーカー化合物の存在量に違いはないが、時間が経過するにつれて被検細胞と対照細胞の間で各バイオマーカー化合物の存在量の差が広がっていくことが確認された。なお、図2及び図3では、KhES−1株についての結果を示したが、KhES−3株についても同様の変化を示すことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6