特許第6536742号(P6536742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536742
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】シリコン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/021 20060101AFI20190625BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C01B33/021
   H01M4/38 Z
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-510270(P2018-510270)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007757
(87)【国際公開番号】WO2017175518
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2018年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-76798(P2016-76798)
(32)【優先日】2016年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敬史
(72)【発明者】
【氏名】合田 信弘
(72)【発明者】
【氏名】井山 彩人
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−016245(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/171053(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/068351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B33/00−33/193
H01M4/00−4/62
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程を含むことを特徴とするシリコン材料の製造方法。
【請求項2】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程、
前記シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を冷却し、Caを析出させるCa析出工程、
を含むシリコン材料の製造方法。
【請求項3】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程、
前記シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を冷却し、Caを析出させるCa析出工程、
前記Ca析出工程の後に、Caと、NaClを含有する溶融塩とを分離する分離工程、
を含むシリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程における溶融塩の温度が1020℃未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン材料の製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩が、LiCl、KCl、RbCl、CsCl、FrCl、SrCl及びBaClからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコン材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたシリコン材料を用いる負極活物質製造工程を含む、負極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法で製造された負極活物質を用いる電池製造工程を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン材料は半導体、太陽電池、二次電池などの構成要素として用いられることが知られており、それゆえに、シリコン材料に関する研究が活発に行われている。
【0003】
特許文献1には、CaSiと酸とを反応させてCaを除去したポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成し、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させたシリコン材料を製造したこと、及び、当該シリコン材料を活物質として具備するリチウムイオン二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/080608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示する技術によれば、シリコン材料を製造する過程で酸を使用するため、酸廃液が生じる。また、当該技術によれば、2段階の反応工程が必要であった。酸として塩化水素を用いた場合における、特許文献1で開示する技術の反応式を以下に示す。
3CaSi + 6HCl → Si + 3CaCl
Si → 6Si + 3H
以上のとおり、工業的な観点からは、特許文献1で開示する技術は、必ずしも効率的とはいえなかった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、少ない工程数でシリコン材料を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、シリコン材料の製造方法について熟慮した。CaSiからCaを離脱させるには、何らかのドライビングフォースが必要となる。例えば、CaSiからCaを離脱させるリアクタントと比較して、副生物のCaClが安定的に生成される条件がそれにあたる。本発明者は、Ca+Cl→CaClなる反応式で生じるギプス自由エネルギーΔGCaCl2の値と、2Na+Cl→2NaClなる反応式で生じるギプス自由エネルギーΔGNaClの値との関係が、温度に因って、ΔGCaCl2<ΔGNaClの関係を示したり、ΔGCaCl2>ΔGNaClの関係を示すことを知見した。ΔGCaCl2<ΔGNaClの関係を満足する条件であれば、リアクタントとしてNaClを用いた場合に、NaClが消費されてCaClが生成する反応が進行する可能性が有る。当該見解を基にして、本発明者は、CaSi + 2NaCl → 2Si + CaCl + 2Naなる反応が進行し得る可能性を見出した。そして、本発明者は実際に種々の条件で実験を行い、上記の反応の進行を確認して、本発明を完成させた。
【0008】
本発明のシリコン材料の製造方法は、NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコン材料の製造方法は、CaSi + 2NaCl → 2Si + CaCl + 2Naなる反応が進行するものであり、1反応工程でシリコン材料を製造できる。また、本発明のシリコン材料の製造方法においては酸を使用しないため、酸廃液が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】NaCl、LiCl及びKClの3元系における、各成分のmol%と融点の関係を示した状態図である。
図2】実施例1〜3及び比較例1のシリコン材料のX線回折チャートである。
図3】実施例1のシリコン材料のSEM像である。
図4】実施例3のシリコン材料のSEM像である。
図5】実施例33のシリコン材料のSEM像である。
図6】比較例2のシリコン材料のSEM像である。
図7】実施例49のシリコン材料の断面のSEM像である。
図8】評価例7の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0012】
本発明のシリコン材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということがある。)は、NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程を含むことを特徴とする。本発明のシリコン材料の製造方法は、CaSi + 2NaCl → 2Si + CaCl + 2Naなる反応が進行するものである。
【0013】
上記反応が進行するためには、上記反応式で生じるギプス自由エネルギーΔGの値がΔG<0となればよい。ΔGは、以下の式で表わされる。
ΔG=ΔG+RTln((aSi・aCaCl2・aNa)/(aCaSi2・aNaCl))
ΔGは標準状態での自由エネルギー、Rは気体定数、Tは温度、aSiはSiの活量、aCaCl2はCaClの活量、aNaはNaの活量、aCaSi2はCaSiの活量、aNaClはNaClの活量を意味する。
【0014】
ここで、Siの融点は1414℃、CaClの融点は772℃、Naの融点は98℃、CaSiの融点は1020℃、NaClの融点は800℃である。
【0015】
NaClを含有する溶融塩の温度が1020℃未満の場合には、SiとCaSiは固体であるから、これらの活量は1とみなすことができる。そうすると、ΔG=ΔG+RTln((aCaCl2・aNa)/(aNaCl))となる。ここで、((aCaCl2・aNa)/(aNaCl))において、分子の数値に対する分母の数値が大きい場合であれば、換言するとNaClの濃度がCaClとNaの濃度と比較して非常に高い状態であれば、RTln((aCaCl2・aNa)/(aNaCl))の値はマイナスとなり、ΔG<0との条件を満足し得る。
【0016】

また、NaClを含有する溶融塩の温度が1020℃以上であったとしても、CaSi及び/又はNaClの濃度が非常に高い状態であれば、ΔG<0との条件を満足し得る。
【0017】
原料の入手容易性及び価格の観点、並びに、反応を十分に進行させる観点から、反応工程においては、NaClの濃度が高い状態であるのが好ましい。NaClの濃度がCaSiの濃度よりも非常に高い状態であれば、反応が進行するにつれてCaSiとNaClが消費されてCaClとNaが生成しても、CaClとNaの濃度は比較的低くとどまるため、((aCaCl2・aNa)/(aNaCl))の値は小さいままである。そうすると、CaSiからSiを製造する反応工程は十分に進行すると考えられる。
【0018】
反応工程で使用するNaClとCaSiとの割合としては、CaSi1モルに対してNaClが2モル以上であるのが好ましい。反応工程で使用するNaClとCaSiとの質量比としては、好ましくはNaCl:CaSi=2:1〜10000:1を例示でき、より好ましくはNaCl:CaSi=10:1〜5000:1を例示でき、さらに好ましくはNaCl:CaSi=50:1〜1000:1を例示できる。
【0019】
なお、上記反応式で副生するNaはNaClを含有する溶融塩に速やかに溶解するため、NaとSiとが反応する副反応はほとんど生じないと推定される。
【0020】
反応工程の温度に因り、本発明の製造方法で製造されるシリコン材料(以下、本発明のシリコン材料という。)の状態が変化する場合がある。本発明のシリコン材料に含まれるシリコンの状態としては、アモルファス、1〜50nmの大きさのシリコン結晶子、及び、μm水準の大きさのシリコン結晶との3形態が少なくとも想定される。反応温度が高すぎると、本発明のシリコン材料の一部がμm水準の大きさのシリコン結晶となる。大きなシリコン結晶を有するシリコン材料が、二次電池の負極活物質として用いられる場合、二次電池の寿命を短くする恐れがある。したがって、反応温度は低い方が好ましい。
【0021】
反応工程の反応温度がSiの融点未満であれば、本発明のシリコン材料を固体状態で分離できるため、有利である。反応工程の反応温度t(℃)は、350≦t<1414の範囲内が好ましく、350≦t<1020の範囲内がより好ましく、380≦t≦800の範囲内がさらに好ましく、400≦t≦700の範囲内が特に好ましく、420≦t≦600の範囲内が最も好ましい。好適な反応温度で製造された本発明のシリコン材料は、アモルファス状態のシリコンや1〜50nmの大きさのシリコン結晶子を含有する。なお、シリコン結晶子の大きさは、本発明のシリコン材料に対してX線回折測定(XRD測定)を行い、得られたXRDチャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0022】
NaClを含有する溶融塩には、LiCl、KCl、RbCl、CsCl、FrCl、SrCl及びBaClからなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物を添加するのが好ましい。これらの金属塩化物を添加することにより、NaClを含有する溶融塩の溶融可能温度の下限が低下するため、反応温度をNaClの融点の800℃未満にすることができる。なお、LiCl、KCl、RbCl、CsCl、FrCl、SrCl及びBaClにおいては、金属と塩素との反応で生じる金属塩化物のギプス自由エネルギーΔG金属塩化物は、少なくとも350≦t<1020の範囲内では、ΔG金属塩化物<ΔGCaCl2の関係を満足する。そのため、上記金属塩化物が、CaSiとの反応に関与する割合はきわめて小さいと想定される。
【0023】
参考までに、NaCl、LiCl及びKClの3元系における、各成分のmol%と融点の関係を示した状態図を図1に示す。当該状態図は、溶接学会誌、第36巻、11号(1967)1211頁〜1217頁より引用したものである。NaCl、LiCl及びKClの3元系においては、350℃〜800℃の間で融点を制御できる。
【0024】
NaClを含有する溶融塩に、LiCl、KCl、RbCl、CsCl、FrCl、SrCl及びBaClからなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物を添加する場合には、所望の温度で溶融塩が得られるように、添加量を適切に決定すればよい。NaClを含有する溶融塩における、NaClと金属塩化物とのモル比として、NaCl:金属塩化物=1:100〜100:1を例示でき、好ましくはNaCl:金属塩化物=1:50〜50:1を例示でき、より好ましくはNaCl:金属塩化物=1:10〜10:1を例示できる。
【0025】
CaSiを作用させる前のNaClを含有する溶融塩から水分を除く目的で、NaClを含有する溶融塩に対して、塩化水素や塩素、塩化アンモニウムなどの水分除去剤を添加し、かつ、これらの水分除去剤を蒸発又は分解及び揮発させてもよい。塩化水素や塩素、塩化アンモニウムなどの水分除去剤は水と共に気化する性質があるためである。また、本発明のシリコン材料に積極的に酸素を含有させたい場合には、水分除去剤の使用を避ければよく、さらには、NaClを含有する溶融塩に、LiCOなどの炭酸塩、LiOなどの酸化物、NaOHなどの水酸化物を添加するとよい。酸素を含有する本発明のシリコン材料は、アモルファス状態のシリコンの存在割合が高くなる傾向にある。アモルファス状態のシリコンの存在割合が高いシリコン材料を負極活物質として具備する二次電池は、容量維持率に優れる傾向がある。
【0026】
以下、具体的に本発明のシリコン材料の製造方法について説明する。
【0027】
CaSiは、一般にCa層とSi層が積層した構造である。CaSiは、公知の製造方法で合成してもよく、市販されているものを採用してもよい。例えば、二次電池の負極活物質に用いるのが不適当である、μm水準の大きさのシリコン結晶を有するシリコンと、Caとを合金化する方法で、CaSiを製造してもよい。
【0028】
本発明の製造方法に用いるCaSiは、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。好ましいCaSiの平均粒子径として、0.1〜50μmの範囲内を例示でき、より好ましくは0.3〜20μmの範囲内、さらに好ましくは0.5〜7μmの範囲内、特に好ましくは1〜5μmの範囲内を例示できる。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
【0029】
また、本発明の製造方法に用いるCaSiは、溶融状態のCaSiを急速冷却装置を用いて冷却して製造したものを用いてもよい。急速冷却装置を用いて冷却して製造したCaSiは、比較的小さな結晶粒を有する。
【0030】
急速冷却装置としては、回転する冷却ロール上に溶湯を噴射する冷却手段(いわゆるメルトスパン法、ストリップキャスト法、又は、メルトスピニング法)や、細流化した溶湯に対して流体を吹き付けるアトマイズ法などの冷却手段を用いた冷却装置を例示できる。アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法、プラズマアトマイズ法を例示できる。具体的な急速冷却装置としては、液体急冷凝固装置、急冷薄片製造装置、液中紡糸装置、ガスアトマイズ装置、水アトマイズ装置、回転ディスク装置、回転電極法装置(以上、日新技研株式会社)、液体急冷装置、ガスアトマイズ装置(以上、株式会社真壁技研)を例示できる。
【0031】
特に、急速冷却装置としてアトマイズ法を用いた冷却装置を用いることで、球状のCaSiの粒子を得ることができる。そして、本発明の製造方法における反応温度t(℃)をCaSiの融点である1020℃よりも低い条件下とすれば、原料の形状を維持したままでシリコン材料を製造し得るため、原料として球状のCaSiの粒子を用いることで、球状のシリコン材料の粒子が製造できる。シリコン材料の球状の程度としては、電子顕微鏡像において、シリコン材料の粒子の最長軸の長さLlongに対する、最長軸に直交する軸の長さLshortの比が、0.9≦(Lshort/Llong)≦1の範囲内にあるのが好ましい。球状のシリコン材料は流動性に優れるため、以後の工程の作業が簡便になる。なお、特許文献1に記載の従来の製造方法においては、原料として球状のCaSiの粒子を用いた場合、シリコン材料の粒子の形状は長軸が比較的長い回転楕円体となる。
【0032】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させる方法としては、NaClを含有する溶融塩にCaSiを浸漬させる方法でもよいし、CaSiに対してNaClを含有する溶融塩を連続的に浴びせる方法でもよい。NaClを含有する溶融塩にCaSiを浸漬させる方法では、撹拌翼による撹拌条件下で実施するのが好ましい。
【0033】
反応工程の反応時間は、反応の進行に応じて適宜決定すればよい。反応時間として、1〜24時間、3〜12時間、5〜10時間を例示できる。反応工程は、不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素を例示できる。
【0034】
反応工程に用いる反応容器の材質としては、所望の反応に悪影響を及ぼさないものがよく、安定な金属や安定なセラミックス製の容器を採用すればよい。具体的には、ニッケル、ジルコニウム、鉄、白金、ステンレス、アルミナ、炭化ケイ素又はムライト製の容器が好ましく、高温安定性の面から、ニッケル、ジルコニウム、鉄、白金、ステンレス又は炭化ケイ素製の容器が特に好ましい。
【0035】
さて、反応工程を経て、本発明のシリコン材料が分離された後の、NaClを含有する溶融塩には、少なくともCaClとNaが存在する。ここで、溶融塩の温度を下げていくと、ΔGCaCl2>ΔGNaClの関係を満足する条件となる。そうすると、CaCl+2Na→2NaCl+Caなる反応が進行する。事実、反応工程を経て本発明のシリコン材料が分離された後のNaClを含有する溶融塩の温度を下げると、液面の上部にCaが浮遊してくる現象が観察される。なお、後述の実施例1〜実施例3の結果からみて、ΔGCaCl2>ΔGNaClの関係を満足する温度は、NaClを含有する溶融塩の組成などに左右されると考えられる。
【0036】
上記の現象から、少なくとも以下の2つの発明を把握できる。
【0037】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程、
前記シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を冷却し、Caを析出させるCa析出工程、を含むシリコン材料の製造方法。
【0038】
NaClを含有する溶融塩にCaSiを作用させてシリコン材料とする反応工程、
前記シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を冷却し、Caを析出させるCa析出工程、
前記Ca析出工程の後に、Caと、NaClを含有する溶融塩とを分離する分離工程、
を含むシリコン材料の製造方法。
【0039】
分離工程における具体的な分離方法としては、メッシュ状のステンレス製の器具などを利用して分離を行えばよい。より詳細な分離方法としては、濾過を行う方法、溶融塩のみを他の容器に移す方法、又はCaを掬い取る方法を例示できる。
【0040】
分離工程を経たCaは、例えば、μm水準の大きさのシリコン結晶を有するシリコンと、Caとを合金化するCaSiの製造方法に用いることができる。また、分離工程を経たNaClを含有する溶融塩は、反応工程に再利用できる。
【0041】
理想的な反応式で前段落の製造方法を記述すると以下のとおりとなる。
1:Ca+2Si(結晶)→CaSi
2:CaSi+2NaCl→2Si(本発明のシリコン材料)+CaCl+2Na
3:CaCl+2Na→2NaCl+Ca
3の反応式で生成したCaは、1の反応式のCaとして再利用できる。また、3の反応式で生成したNaClは、2の反応式のNaClとして再利用できる。そうすると、1〜3の反応式を総括すると、Si(結晶)→Si(本発明のシリコン材料)との反応が行われたことになる。
【0042】
本発明の製造方法により得られた本発明のシリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粒子としてもよい。一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、本発明のシリコン材料の好ましい粒度分布としては、平均粒子径(D50)が1〜30μmの範囲内であることを例示でき、より好ましくは平均粒子径(D50)が1〜10μmの範囲内であることを例示できる。
【0043】
本発明の製造方法により得られた本発明のシリコン材料は、比誘電率5以上の溶媒で洗浄する洗浄工程に供されるのが好ましい。洗浄工程は、本発明のシリコン材料に付着している不要な成分を、比誘電率5以上の溶媒(以下、「洗浄溶媒」ということがある。)で洗浄することにより除去する工程である。同工程は、主に、NaClなどの洗浄溶媒に溶解し得る塩を除去することを目的としている。洗浄工程は、洗浄溶媒中に本発明のシリコン材料を浸漬させる方法でもよいし、本発明のシリコン材料に対して洗浄溶媒を浴びせる方法でもよい。
【0044】
洗浄溶媒としては、塩の溶解しやすさの点から、比誘電率がより高いものが好ましく、比誘電率が10以上や15以上の溶媒をより好ましいものとして提示できる。洗浄溶媒の比誘電率の範囲としては、5〜90の範囲内が好ましく、10〜90の範囲内がより好ましく、15〜90の範囲内がさらに好ましい。また、洗浄溶媒としては、単独の溶媒を用いても良いし、複数の溶媒の混合溶媒を用いても良い。
【0045】
洗浄溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ベンジルアルコール、フェノール、ピリジン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジクロロメタンを挙げることができる。これらの具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換したものを洗浄溶媒として採用しても良い。洗浄溶媒としての水は、蒸留水、逆浸透膜透過水、脱イオン水のいずれかが好ましい。
【0046】
参考までに、各種の溶媒の比誘電率を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
洗浄溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、アセトンが特に好ましい。
【0049】
洗浄溶媒として複数の溶媒の混合溶媒を用いる場合には、水100容量部に対し、その他の溶媒を好ましくは1〜100容量部、より好ましくは2〜50容量部、さらに好ましくは5〜30容量部の割合で混合した混合溶媒を採用するとよい。洗浄溶媒として混合溶媒を用いることで、本発明のシリコン材料の洗浄溶媒に対する分散性や親和性が向上する場合があり、その結果、不要成分が洗浄溶媒に好適に溶出する。
【0050】
洗浄工程の後には、濾過及び乾燥にて本発明のシリコン材料から洗浄溶媒を除去することが好ましい。
【0051】
洗浄工程は複数回繰り返してもよい。その際には、洗浄溶媒を変更しても良い。例えば、初回の洗浄工程の洗浄溶媒として比誘電率の著しく高い水を選択し、次回の洗浄溶媒として水と相溶し、かつ沸点の低いエタノールやアセトンを用いることによって、水を効率的に除去できるとともに、容易に洗浄溶媒の残存を防ぐことができる。
【0052】
洗浄工程の後の乾燥工程は減圧環境下で行うことが好ましく、洗浄溶媒の沸点以上の温度で行うことが更に好ましい。温度としては80℃〜110℃が好ましい。
【0053】
本発明のシリコン材料は、珪素を必須の構成要素とする。本発明のシリコン材料を基準として、珪素は50〜99質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、60〜95質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、70〜90質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましい。
【0054】
本発明のシリコン材料は、Na、Ca、Clなどの原料由来の不純物、洗浄工程で使用した洗浄溶媒由来の不純物、不可避の不純物を含有する場合がある。そのような不純物の存在量(質量%)として、以下の範囲を例示できる。
Na:0.001〜5質量%、0.005〜3質量%、0.01〜1質量%、
Ca:0〜30質量%、0〜20質量%、0〜10質量%、0〜5質量%、0.1〜5質量%、0.5〜3.5質量%
Cl:0.1〜10質量%、1〜10質量%、3〜9質量%
O:0.1〜40質量%、1〜30質量%、5〜20質量%、10〜13質量%、0.1〜10質量%、1〜10質量%、3〜9質量%
【0055】
本発明のシリコン材料は、内部に空洞を有する、多孔質であるものが好ましい。本発明のシリコン材料を二次電池の活物質として用いた場合、当該空洞は、リチウムイオンなどの電荷担体の挿入及び脱離反応が生じる際の、本発明のシリコン材料の膨張及び収縮を緩衝する役割、並びに、電荷担体の通路としての役割を果たすと推定される。
【0056】
また、本発明のシリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するのが好ましい。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。当該積層構造は、原料のCaSiにおけるSi層の名残りであると考えられる。したがって、当該積層構造を有する本発明のシリコン材料は、反応工程における反応温度t(℃)がCaSiの融点である1020℃よりも低い条件下において製造され得るといえる。
【0057】
本発明のシリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用することができる。以下、本発明のシリコン材料を具備する本発明の二次電池について、その代表としてリチウムイオン二次電池を例にして、説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する負極、電解液及びセパレータを具備する。
【0058】
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
【0059】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0060】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0062】
正極活物質としては、層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の各組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも正極活物質として使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0063】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0064】
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0065】
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0066】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0067】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0068】
負極活物質としては、本発明のシリコン材料を含むものであればよく、本発明のシリコン材料のみを採用してもよいし、本発明のシリコン材料と公知の負極活物質を併用してもよい。本発明のシリコン材料を負極活物質として用いる際には、炭素で被覆して導電性を増加させたものを採用するのが好ましい。
【0069】
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0070】
負極用の結着剤としては、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを用いてもよい。当該架橋ポリマーを結着剤として用いることに因り、本発明のリチウムイオン二次電池の特性がより好適となることが期待できる。
【0071】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0072】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0073】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0074】
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0075】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0076】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0077】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0078】
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
【0079】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0080】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0081】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0084】
(製造例1)
Caとシリコン結晶とをモル比1:2で混合し混合物とした。高周波溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気下、前記混合物を1150℃で加熱して、CaSiを製造した。冷却後のCaSiを粉砕して、60メッシュの篩を通過させ、製造例1のCaSiを得た。
【0085】
(製造例2)
Caとシリコン結晶とをモル比1:2で混合し混合物とした。高周波溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気下、前記混合物を1150℃で加熱して、CaSiを製造した。冷却後のCaSiを液体急冷凝固装置(日新技研株式会社)に投入し、溶融状態とした後に急速冷却して、薄帯状のCaSiを得た。薄帯状のCaSiを乳鉢で粉砕し、目開き53μmの篩にかけた。目開き53μmの篩を通過したCaSiを製造例2のCaSiとした。なお、液体急冷凝固装置(日新技研株式会社)は、回転する冷却ロール上に溶湯を噴射する冷却手段を具備する装置である。
【0086】
(製造例3)
Caとシリコン結晶とをモル比1:2で混合し混合物とした。高周波溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気下、前記混合物を1150℃で加熱して、CaSiを製造した。溶融状態のCaSiを遠心粉末製造装置(株式会社デュコル)で冷却し、球状の粒子である製造例3のCaSiを得た。なお、遠心粉末製造装置(株式会社デュコル)は、回転するディスク上に溶湯を流下し、溶湯を液滴状に飛散させることで、液滴状の溶湯を冷却して粉末を製造する装置であり、遠心力アトマイズ法を利用した冷却装置に該当する。
【0087】
(実施例1)
212質量部のNaCl、292質量部のLiCl及び496質量部のKClを混合し、アルゴン雰囲気下、550℃に加熱して、NaClを含有する溶融塩とした。溶融塩におけるNaClとLiClとKClとのモル比は、NaCl:LiCl:KCl=32:28:40である。
ステンレス製のメッシュ状の籠に、1質量部の製造例1のCaSiを配置して、籠ごと550℃の溶融塩に浸漬させた。溶融塩に8時間浸漬させた後に、溶融塩から籠を引き上げて、シリコン材料を分離した。
シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を480℃に冷却したところ、Caが析出して、溶融塩の液面の上部に浮遊してくるのが観察された。
分離されたシリコン材料を、水で洗浄し、濾過及び乾燥して、実施例1のシリコン材料とした。
【0088】
(実施例2)
152質量部のNaCl、331質量部のLiCl及び516質量部のKClを混合し、アルゴン雰囲気下、500℃に加熱して、NaClを含有する溶融塩とした。溶融塩におけるNaClとLiClとKClとのモル比は、NaCl:LiCl:KCl=25:35:40である。
ステンレス製のメッシュ状の籠に、1質量部の製造例1のCaSiを配置して、籠ごと500℃の溶融塩に浸漬させた。溶融塩に8時間浸漬させた後に、溶融塩から籠を引き上げて、シリコン材料を分離した。
シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を430℃に冷却したところ、Caが析出して、溶融塩の液面の上部に浮遊してくるのが観察された。
分離されたシリコン材料を、水で洗浄し、濾過及び乾燥して、実施例2のシリコン材料とした。
【0089】
(実施例3)
103質量部のNaCl、373質量部のLiCl及び524質量部のKClを混合し、アルゴン雰囲気下、450℃に加熱して、NaClを含有する溶融塩とした。溶融塩におけるNaClとLiClとKClとのモル比は、NaCl:LiCl:KCl=15:45:40である。
ステンレス製のメッシュ状の籠に、1質量部の製造例1のCaSiを配置して、籠ごと450℃の溶融塩に浸漬させた。溶融塩に8時間浸漬させた後に、溶融塩から籠を引き上げて、シリコン材料を分離した。
シリコン材料を分離した後、NaClを含有する溶融塩を380℃に冷却したところ、Caが析出して、溶融塩の液面の上部に浮遊してくるのが観察された。
分離されたシリコン材料を、水で洗浄し、濾過及び乾燥して、実施例3のシリコン材料とした。
【0090】
(比較例1)
氷浴中の36質量%HCl水溶液100mLに、アルゴン雰囲気下、製造例1のCaSi10gを加え、90分間撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びアセトンで洗浄し、さらに、室温で12時間以上減圧乾燥して層状シリコン化合物を得た。層状シリコン化合物をアルゴン雰囲気下、900℃で1時間加熱して、水素を離脱させて、比較例1のシリコン材料を得た。
【0091】
(比較例2)
製造例3のCaSiを用いた以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2のシリコン材料を得た。
【0092】
(評価例1)
実施例1〜3のシリコン材料及び比較例1のシリコン材料につき、蛍光X線分析装置及び酸素窒素分析装置EMGA(株式会社堀場製作所)を用いて、組成分析を行った。結果を表2に示す。表2の数値は質量%である。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例と比較例のシリコン材料の組成を比較すると、実施例のシリコン材料の方がSiの割合が高く、Oの割合が低いといえる。なお、Oの存在は、実施例のシリコン材料においては主に水洗浄に由来すると考えられ、比較例のシリコン材料においては水溶液中での反応及び水洗浄に由来すると考えられる。また、実施例のシリコン材料には、溶融塩に由来するNaとKの存在が確認された。Al及びFeはCaSi由来の不純物と考えられる。
【0095】
(評価例2)
実施例1〜3のシリコン材料及び比較例1のシリコン材料につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。図2に、各シリコン材料のX線回折チャートを示す。
各シリコン材料のX線回折チャートから、シリコン結晶子の存在が確認された。Si(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出されるシリコン結晶子の大きさは、以下のとおりであった。
実施例1:49nm、実施例2:23nm、実施例3:6nm、比較例1:4nm
【0096】
評価例2の結果から、本発明の製造方法における反応工程の温度、すなわち溶融塩の温度が低い方が、本発明のシリコン材料に含まれるシリコン結晶子の大きさが小さくなるといえる。
【0097】
(評価例3)
実施例1及び実施例3のシリコン材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られたSEM像を図3及び図4に示す。各SEM像から、本発明のシリコン材料が多孔質であることが示唆される。
【0098】
(実施例4〜実施例23)
以下の表3に示す条件を採用した以外は実施例1と同様の方法で、実施例4〜実施例23のシリコン材料を製造した。いずれの条件下においても、原料が減少又は消失したこと及びシリコンの存在を、粉末X線回折法等による分析により、確認した。いずれの条件下においても、シリコン材料が製造されたといえる。
【0099】
【表3】
【0100】
(実施例24〜実施例39)
以下の表4に示す条件を採用し、かつ、実施例34については製造例1のCaSiを用い、実施例24〜実施例32、実施例36については製造例2のCaSiを用い、実施例33、実施例35、実施例37〜実施例39については製造例3のCaSiを用いて、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例24〜実施例39のシリコン材料をそれぞれ製造した。いずれの条件下においても、原料が減少又は消失したこと及びシリコンの存在を、粉末X線回折法等による分析により、確認した。いずれの条件下においても、シリコン材料が製造されたといえる。
【0101】
【表4】
【0102】
(実施例40〜実施例48)
以下の表5に示す条件を採用し、実施例40〜実施例44、実施例46〜実施例47については製造例3のCaSiのうち、目開き20μmの篩を通過したCaSiを用い、実施例45については製造例3のCaSiのうち、目開き40μmの篩を通過し且つ目開き20μmの篩を通過しないCaSiを用い、実施例48については製造例3のCaSiを用いて、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例40〜実施例48のシリコン材料を製造した。いずれの条件下においても、原料が減少又は消失したこと及びシリコンの存在を、粉末X線回折法等による分析により、確認した。いずれの条件下においても、シリコン材料が製造されたといえる。
【0103】
【表5】
【0104】
(実施例49〜実施例59)
以下の表6に示す条件を採用し、製造例3のCaSiを用いた以外は実施例1と同様の方法で、実施例49〜実施例59のシリコン材料を製造した。いずれの条件下においても、原料が減少又は消失したこと及びシリコンの存在を、粉末X線回折法等による分析により、確認した。いずれの条件下においても、シリコン材料が製造されたといえる。
【0105】
【表6】
【0106】
(実施例60〜実施例70)
以下の表7に示す条件を採用し、実施例60〜実施例63については製造例3のCaSiを用い、実施例64〜実施例70については製造例3のCaSiのうち、目開き40μmの篩を通過し且つ目開き20μmの篩を通過しないCaSiを用いて、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例60〜実施例70のシリコン材料を製造した。いずれの条件下においても、原料が減少又は消失したこと及びシリコンの存在を、粉末X線回折法等による分析により、確認した。いずれの条件下においても、シリコン材料が製造されたといえる。
【0107】
【表7】
【0108】
(評価例4)
実施例のシリコン材料につき、蛍光X線分析装置及び酸素窒素分析装置EMGA(株式会社堀場製作所)を用いて、組成分析を行った。実施例5〜11、17〜18、21、23、26〜30、39〜65、68〜70のシリコン材料について、CaとOについての分析結果を表8及び表9に示す。表8及び表9の数値は質量%である。シリコン材料には、原料や副生物に由来するCaや、主に水洗浄に由来する酸素が、残存するといえる。
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
(評価例5)
SEMにて、実施例33及び比較例2のシリコン材料の粒子を観察した。実施例33のシリコン材料のSEM像を図5に示し、比較例2のシリコン材料のSEM像を図6に示す。
【0112】
図5から、実施例33のシリコン材料の粒子は、球状であって、板状シリコン体が隙間をあけて積層されてなる構造を有することがわかる。他方、図6から、比較例2のシリコン材料の粒子の形状は、長軸が比較的長い回転楕円体であることがわかる。実施例33及び比較例2のシリコン材料はいずれも球状である製造例3のCaSiを原料として製造されたが、実施例33のシリコン材料は原料の形状を維持したものの、比較例2のシリコン材料は原料の形状を維持できなかったといえる。
【0113】
また、SEMにて、実施例49のシリコン材料の粒子の断面を観察した。実施例49のシリコン材料における粒子の断面のSEM像を図7に示す。実施例49のシリコン材料の粒子内部には、空洞が存在することがわかる。
【0114】
<リチウムイオン二次電池>
負極活物質として実施例40のシリコン材料を45質量部、さらに負極活物質として黒鉛を40質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、結着剤としてポリアミドイミドを10質量部及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合してスラリーとした。
集電体として厚さ20μmの電解銅箔を準備した。該銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去し、その結果、表面に負極活物質層が形成された銅箔を得た。該銅箔をロールプレス機で圧縮して接合物とした。この接合物を200℃で2時間減圧加熱乾燥し、電極とした。
【0115】
上記電極を裁断して評価極とした。金属リチウム箔を裁断して対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート50容量部及びジエチルカーボネート50容量部を混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例40のリチウムイオン二次電池とした。
【0116】
実施例40のシリコン材料に代えて、実施例43、実施例44、実施例46、実施例48、実施例49又は比較例2のシリコン材料を用いた以外は、同様の方法で、実施例43、実施例44、実施例46、実施例48、実施例49又は比較例2のリチウムイオン二次電池をそれぞれ製造した。
【0117】
(評価例6)
各リチウムイオン二次電池につき、評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで電流0.2mAで充電を行い、評価極の対極に対する電圧が1Vになるまで電流0.2mAで放電を行った。なお、評価例6では、評価極にLiを吸蔵させることを充電といい、評価極からLiを放出させることを放電という。初期効率を以下の式で算出した結果を表10に示す。
初期効率(%)=100×(放電容量)/(充電容量)
【0118】
【表10】
【0119】
各実施例のリチウムイオン二次電池は、比較例2のリチウムイオン二次電池と同等以上の初期効率で、充放電することが裏付けられたといえる。
【0120】
(評価例7)
各リチウムイオン二次電池につき、評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで電流0.2mAで充電を行い、評価極の対極に対する電圧が1Vになるまで電流0.2mAで放電を行う充放電サイクルを50サイクル行った。(各サイクルの容量/初回容量)を容量維持率として算出した結果をグラフにして図8に示す。
【0121】
図8から、いずれのリチウムイオン二次電池も充放電サイクルを繰り返すことが可能といえる。これらの結果から、いずれのシリコン材料も二次電池の負極活物質して機能し得ることが裏付けられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8