特許第6536749号(P6536749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536749
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20190625BHJP
   B29C 43/56 20060101ALI20190625BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20190625BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20190625BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C08J5/04CEZ
   B29C43/56
   B29C43/34
   B29C70/16
   B29C70/42
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-527651(P2018-527651)
(86)(22)【出願日】2017年7月13日
(86)【国際出願番号】JP2017025481
(87)【国際公開番号】WO2018012567
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2018年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-139900(P2016-139900)
(32)【優先日】2016年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-93103(P2017-93103)
(32)【優先日】2017年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堀江 茂
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】染谷 昌男
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/087789(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/159015(WO,A1)
【文献】 特開平05−271403(JP,A)
【文献】 特開昭63−082731(JP,A)
【文献】 特開2013−173872(JP,A)
【文献】 特開2015−017184(JP,A)
【文献】 特表2015−522682(JP,A)
【文献】 特開平05−178985(JP,A)
【文献】 特開平01−299838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10、5/24
B29B 11/16、15/08−15/14
B29C 39/00−39/24、39/38−39/44、
41/00−41/36、41/46−41/52、
43/00−43/34、43/44−43/48、
43/52−43/58、45/00−45/24、
45/46−45/63、45/70−45/72、
45/74−45/84、70/00−70/88
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08G 69/00−69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状の樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程、及び0.005MPa以下の真空度の真空下でプレスしながら前記樹脂前駆体を縮合重合させる工程を含む、複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂前駆体が、熱可塑性樹脂のオリゴマーである、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
キャピラリーレオメータを使用し、温度220℃、せん断速度1200s-1の条件で測定される、前記樹脂前駆体の粘度が、1〜100Pa・sである、請求項1又は2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂前駆体が、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルフィド、及びケトン系樹脂からなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、SiC繊維および有機繊維からなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
複合材料における前記強化繊維の割合が、1〜90体積%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記強化繊維が、非連続繊維である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記非連続繊維が、ロービング、不織布、及びテープからなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、請求項7に記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記非連続繊維の繊維長が、0.5mm〜100mmである、請求項7又は8に記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記強化繊維が、連続繊維である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記連続繊維が、一方向繊維、織物、編み物又は組物である、請求項10に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記複合化する工程において、複合化が浸漬法、含浸法、及び混練法のいずれかによって行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記重合させる工程における反応温度が、100℃〜400℃である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記プレスの圧力が、0.1〜30MPaである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法及び該複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、構造材料として航空宇宙、航空機、風力発電、自動車および海事用途等の多くの技術分野において使用されている。このような複合材料は金属材料よりも軽量であるため、主に燃費向上等の目的で自動車産業等での需要が期待されている。
【0003】
自動車産業等での適用には、生産性とリサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂を用いた材料が検討されている。しかし、熱可塑性樹脂は粘度が高いため、繊維などの強化材料を加えた場合、樹脂と強化材料との界面に空隙が生じ、また強化材料が不均一になるため、機械強度が低下する問題があった。また、これらの問題の為、実質的に強化材料の高充填が不可能であった。
【0004】
強化材料として、例えば強化用繊維に対する含浸性を高める事を目的として、特許文献1では、ε―カプロラクタムや環状ブチレンテレフタレートのような粘度が低いモノマーで含浸した後、開環重合でポリマー化する方法が知られている。このような重合であれば、重合において実質発生するガスがないため、空隙のない複合材料を製造できる一方、モノマーからの重合であるため十分に高分子量化できず高い強度が得られない、樹脂の種類が限定されるといった問題があった。
【0005】
特許文献2では、粘度が低い反応性のプレポリマーに鎖延長剤を添加し、含浸後に高分子量化をしているが、繊維に含浸する前にプレポリマーと鎖延長剤をミキサーする工程が必要であり作業性に課題があった。
【0006】
特許文献3では、強化用繊維にポリアミドのオリゴマーを含浸し、引抜成形することで高い機械強度の複合材を得る方法が記述されている。この方法ではプレポリマーの重合時に生成する小分子が残存するため、重合の進行が不十分となり、また空隙が生じる可能性があり、複合材料の物性が劣る懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011−516654号公報
【特許文献2】特表2015−501360号公報
【特許文献3】特開昭63−82731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高強度の複合材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程、及び前記樹脂前駆体を重合させる工程を含む複合材料の製造方法によれば高強度の複合材料を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、前記方法において、重合を真空下(減圧下)で加圧しながら行うときわめて高強度の複合材料を得られることも判明した。
即ち本発明は以下の通りである。
<1> 樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程、及び前記樹脂前駆体を縮合重合させる工程を含む、複合材料の製造方法である。
<2> 前記樹脂前駆体が、熱可塑性樹脂のオリゴマーである、<1>に記載の複合材料の製造方法である。
<3> 前記樹脂前駆体の粘度が、1〜100Pa・sである、<1>又は<2>に記載の複合材料の製造方法である。
<4> 前記樹脂前駆体が、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルフィド、及びケトン系樹からなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、<1>〜<3>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<5> 前記強化繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、SiC繊維および有機繊維からなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、<1>〜<4>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<6> 複合材料における前記強化繊維の割合が、1〜90体積%である、<1>〜<5>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<7> 前記強化繊維が、非連続繊維である、<1>〜<6>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<8> 前記非連続繊維が、ロービング、不織布、及びテープからなる群のうち、少なくとも一種以上を含む、<7>に記載の複合材料の製造方法である。
<9> 前記非連続繊維の繊維長が、0.5mm〜100mmである、<7>又は<8>に記載の複合材料の製造方法である。
<10> 前記強化繊維が、連続繊維である、<1>〜<6>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<11> 前記連続繊維が、一方向繊維、織物、編み物又は組物である、<10>に記載の複合材料の製造方法である。
<12> 前記複合化する工程において、複合化が浸漬法、含浸法、及び混練法のいずれかによって行われる、<1>〜<11>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<13> 前記重合させる工程における反応温度が、100℃〜400℃である、<1>〜<12>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<14> 前記重合させる工程における反応の減圧度が、0〜0.095MPaである、<1>〜<13>のいずれかに記載の複合材料の製造方法である。
<15> 前記重合させる工程において、同時に加圧を行う、<1>〜<14>のいずれか記載の複合材料の製造方法である。
<16> 前記加圧方法が、真空プレス法である、<15>に記載の複合材料の製造方法である。
<17> 前記真空プレス法の圧力が、0.1〜30MPaである、<16>に記載の複合材料の製造方法である。
<18> <1>〜<17>のいずれかに記載の方法で製造した複合材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、高い機械物性を有する熱可塑性樹脂複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1参考例2で得られた複合材料(ボイドなし)の断面SEM写真である。
図2】比較例2で得られた複合材料(ボイドあり)の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0013】
本発明は、樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程、及び前記樹脂前駆体を重合させる工程を含む、複合材料の製造方法である。
上記のように構成されているため、本実施形態に係る複合材料の製造方法によれば、強化繊維間に樹脂が十分に含浸され、空隙が少なく、高い機械物性を有する複合材料を製造することができる。また、この複合材料は、生産性やリサイクル性に優れる。
【0014】
本実施形態の複合材料は、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む材料である。本実施形態において、熱可塑性樹脂の具体例としては、縮合反応により得られる樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルフィド、及びケトン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂は1種のみを用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0015】
(樹脂前駆体)
樹脂前駆体は、重合することによって樹脂が得られるものであればよく、樹脂を構成する単量体であってもよいが、単量体が結合したオリゴマーであることが好ましい。
該オリゴマーは、構成単位である反応性モノマーが縮合重合反応することで得られるものである場合には、本発明がより効果的に働くため好ましい。このような樹脂前駆体は、減圧条件下で加熱されることで残りの末端官能基がさらに縮合重合し、分子量が増加することで熱可塑性樹脂(ポリマー)の状態となり得る。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前記樹脂前駆体の溶融粘度に限定はないが、樹脂前駆体と強化繊維を複合化する温度において1〜100Pa・sであることが好ましく、1〜80Pa・sであることがより好ましい。
【0016】
前記樹脂前駆体は、構成成分に由来する異なった複数種類の官能基末端を有することが好ましく、例えば、2種類の官能基末端(X、Y)を有することができ、例えば、以下の式(1)〜(3)のうち2種類以上を含む組成物であってもよいし、又は、式(2)単体でもよい。
X-C-X 式(1)
X-C-Y 式(2)
Y-C-Y 式(3)
【0017】
前記式(1)〜(3)で示したCは前記熱可塑性樹脂の原料であるモノマー構成単位の重縮合物である。モノマー構成単位数は増加するほど分子量が大きくなり加熱溶融時の粘度が高まるが、構成単位数は特に限定されない。もっとも、樹脂前駆体の溶融粘度は、100Pa・s以下であることが好ましく、したがって、モノマー構成単位数(重合度)はそのような溶融粘度を実現する値であることが好ましい。また、Cは脂肪族系でも芳香族系でも複素環系でもよく、またこれらの2種以上を混合して用いても良い。
樹脂前駆体が上記(1)〜(3)のうち2種類以上を含む組成物である場合の混合例としては、例えば、式(1)と式(2)の混合、式(1)と式(3)の混合、式(1)、式(2)及び式(3)の混合が挙げられる。
【0018】
上記樹脂前駆体は、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルフィド、及びケトン系樹脂の前駆体からなる群のうち、少なくとも一種以上を含むことが好ましい。中でも、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネートのオリゴマーがより好ましい。これらの樹脂前駆体は単独で用いても良く、2種類以上含んで用いても良い。
【0019】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂は、ジアミン成分とジカルボン酸成分の2種類の構成成分からなり、前記式(1)〜(3)で示される樹脂前駆体も同様の構成成分からなる。また、ポリアミド樹脂の構成成分としては、アミノ基とカルボキシル基の両方を末端官能基として有するアミノ酸やペプチド等を用いる事も可能である。
【0020】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、ジオール成分とジカルボン酸成分の2種類の構成成分からなり、前記式(1)〜(3)で示される樹脂前駆体も同様の構成成分からなる。また、ポリエステル樹脂の構成成分としては、ヒドロキシ基とカルボキシル基の両方を末端官能基として有するアミノ酸やペプチド等を用いる事も可能である。
【0021】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、ジオール成分と、炭酸ジエステル成分もしくはホスゲンの2種類の構成成分からなり、前記式(1)〜(3)で示される樹脂前駆体も同様の構成成分からなる。
【0022】
上記ジアミン成分は、その種類は特に限定されないが、具体的にはテトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類;等を例示することができ、これらのジアミンに由来する構成単位は、1種又は2種以上含有することができる。特に、優れた靭性を得る観点からはメタキシリレンジアミン又はメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとの混合物等の芳香族骨格のものであることがより好ましい。
【0023】
上記ジカルボン酸成分は、その種類は特に制限されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0024】
上記ジオール成分は、その種類は特に限定されないが、1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン[=ビスフェノールC]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、α,ω−ビス[2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル]ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、および4,4'−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール等が挙げられる。
【0025】
上記炭酸ジエステルは、その種類は特に限定されないが、具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。
【0026】
上記ポリエーテル樹脂は、エチレングリコール等のアルキル基を骨格に持つジオール化合物、ヒドロキノン誘導体、ビスフェノール誘導体等の芳香環を骨格に持つ化合物を原料として縮合することで得られる。
【0027】
上記ポリスルフィド樹脂は、p-ブロモチオフェノール等の化合物を原料として縮合する事で得られる。
【0028】
上記ケトン系樹脂はPEK(ポリエーテルケトン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)等のポリエーテルケトン樹脂であり、フッ素基を有する化合物とヒドロキシ基を有する化合物を原料として縮合することで得られる。
【0029】
前記重合反応は、縮合反応であることが好ましい。縮合反応は、特定の反応方法に限定されないが、一般的には縮合反応型の樹脂を合成する過程で重合度をある一定以下に抑え、未反応の官能基を多く残す方法で行われる。つまり、通常の縮合重合で得られる熱可塑性樹脂の合成条件より反応時の温度条件、圧力条件をより穏和な条件とすることで行われる。
【0030】
例えば、1つの実施形態として、ポリアミドの樹脂前駆体は、ポリアミドの原料であるジアミン成分とジカルボン酸成分との縮合重合によって得られる。例えば、ジアミン成分とジカルボン酸成分とからなるナイロン塩を水の存在下に加圧状態で昇温し、溶融状態で重合させる方法によりポリアミドの樹脂前駆体を製造することができる。また、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸成分に直接加えて、常圧下又は加圧下で重縮合する方法によってもポリアミドの樹脂前駆体を製造することができる。その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0031】
ポリアミドの樹脂前駆体の製造では、アミド化反応促進、及び着色抑制のため、重縮合反応系内にリン原子含有化合物を添加してもよい。リン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のホスフィン酸化合物;次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル等のジ亜リン酸化合物;ホスホン酸、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸リチウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸マグネシウム、ホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム等のホスホン酸化合物;亜ホスホン酸、亜ホスホン酸ナトリウム、亜ホスホン酸リチウム、亜ホスホン酸カリウム、亜ホスホン酸マグネシウム、亜ホスホン酸カルシウム、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル等の亜ホスホン酸化合物;亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等が挙げられる。
これらの中でも、特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩が、アミド化反応を促進するため好ましく用いられ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましい。なお、本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
【0032】
また、重縮合反応速度の制御の観点から、重縮合反応系内に更にアルカリ金属化合物を共存させてもよい。
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が通常使用される。但し、アルカリ金属を含む上記リン原子含有化合物は除く。アルカリ金属化合物の具体例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム等が挙げられ、水酸化ナトリウム及び酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本実施形態では、樹脂前駆体を強化繊維と複合化した後にさらに重合を進めるが、重合が縮合重合である場合、重合が進みすぎると、脱離成分が多くなり除去困難になり空隙要因となる、得られる樹脂が所望のものより可撓性や靱性に乏しくなる、などの弊害が生じることがある。このため、最大重合度を調整する必要がある。このような手法として、上記の官能基XとYの量を当量から若干ずらす方法がある。Xの当量をx、Yの当量をyとした時のx/yの値は、通常0.90〜x/y〜1.1、より好ましくは、0.95〜x/y〜1.05、さらに好ましくは0.99〜x/y〜1.01とする。
【0034】
前記、最大重合度を調整する方法として、官能基を一つしか有しないモノマー成分を適量添加する方法もとりうる。官能基を一つしか有しないモノマーの添加量は官能基を二つ以上有するモノマー成分に対し、0.1〜10%当量、好ましくは0.5〜5%当量、さらに好ましくは0.6〜3%当量である。
【0035】
本実施形態においては、強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、SiC繊維および有機繊維からなる群のうち、少なくとも一種以上を含むことが好ましい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、SiC繊維等の無機繊維や、アラミド繊維、麻繊維等の有機繊維を用いることがより好ましい。中でも、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、SiC繊維等の無機繊維を用いることがさらに好ましく、ガラス繊維や炭素繊維を用いることが特に好ましい。
また、前記強化繊維の複合材料中の割合は、1〜90体積%であることが好ましい。即ち、樹脂前駆体と強化繊維を複合化し、前記樹脂前駆体を重合することで得られた複合材料中の強化繊維の配合比率は、成形体体積に対して、強化繊維1〜90体積%の範囲であることが好ましく、作業性や高い機械強度を得る観点から、20〜70体積%の範囲であることがより好ましく、25〜55体積%であることがさらに好ましい。
高い強度を得るためには強化繊維の配合比率は高い方がよいが、一方で、強化繊維の配合比率が高まると、マトリックスである樹脂が強化繊維の間に存在する隙間等に十分に含浸できず、その結果、得られる複合材料中にボイドが発生することがある。このようなボイドが発生すると、複合材料の強度は急激に低下する。しかしながら、本実施形態の方法によれば、強化繊維の配合比率が高い場合であっても、強化繊維間にも樹脂を完全に含浸させることができるので、ボイド発生による強度低下を招くことなく強化繊維の配合比率を高めることができる。そのような観点からは、強化繊維の配合比率の下限値は、40体積%以上とすることもできるし、45体積%以上とすることもできるし、50体積%以上とすることもできる。
【0036】
前記強化繊維としては、非連続繊維を用いることができる。非連続繊維の形状としては、繊維長さと繊維直径との比が50以上であるものが好ましく、1000以上であることがより好ましい。強化繊維として、例えば、ロービング、不織布、及びテープからなる群のうち、少なくとも一種以上を含むことが好ましい。なお、連続繊維とは、複合材料を構成する強化繊維であって、かつ、途切れることなく連続的につながっている強化繊維を指す。そして、非連続繊維とは、前記連続繊維以外を指す。
【0037】
また、前記の非連続繊維の繊維長は、0.5mm〜100mmであることが好ましい。複合材料の高い機械強度を保持し賦形成を維持する観点から、10〜80mmであることがより好ましく、20〜50mmがさらに好ましい。
【0038】
前記強化繊維としては、連続繊維を用いることもでき、この場合、一方向繊維、織物、編み物及び組物であることがより好ましい。このような織物、編み物及び組物として、例えば二軸または多軸の織物、編み物、及び組物である連続繊維が好ましい。
【0039】
前記の非連続繊維又は連続繊維を用いることにより、複合材料の補強度が向上し、より優れた機械的特性を発揮する成形体の製造が可能になる。
【0040】
前記不織布は、強化繊維を3次元構造に重ねあわせ結合したシートであり、例えばランダムマット、紙材、フェルト等が挙げられる。
【0041】
前記ガラス繊維としては、ガラス繊維ロービング、ガラス繊維不織布、ガラス繊維織物、ガラス繊維編み物及びガラス繊維テープ等を用いることができ、ガラス繊維ミルドファイバー等のガラス繊維短繊維を含んでいてもよい。このようなガラス繊維として、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられ、なかでもEガラスが好ましい。また、ガラス繊維モノフィラメントの断面は円形でも、楕円形等の扁平形状でもよい。
【0042】
前記炭素繊維は、上記のガラス繊維同様の炭素繊維で作製された様々な形態のものを用いる事ができる。
【0043】
具体的には、炭素繊維には、コールタールピッチや石油ピッチを原料にした「ピッチ系」と、ポリアクリロニトリルを原料とする「PAN系」と、セルロース繊維を原料とする「レーヨン系」の3種類があり、どの炭素繊維でも本実施形態に用いることができる。
【0044】
(樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程)
樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程は、各強化繊維の周囲に樹脂前駆体が存在するような状態とする工程である。複合化する方法は、各強化繊維の周囲に樹脂前駆体が存在するような状態を実現できるものであればよく、例えば浸漬法、含浸法、混練法等の混合方法が挙げられるが、これらに限定されない。浸漬法としては、例えばプルトルージョン法、プリプレグ法、ワインディング法等が挙げられる。含浸法としては、例えばプレス機、ダブルベルトプレス機等での含浸、またはトランスファーモールド法が挙げられる。
なお、樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程は、各強化繊維の周囲に樹脂前駆体が存在するような状態が実現される限り特段の操作を行う必要はなく、例えば、適度に分散させた強化繊維に溶融状態の樹脂前駆体を添加する(注ぎ入れる、振り入れる)等などであってもよい。
また、複合化する際、樹脂前駆体は、液状であってもよいし、粉末等の固体状であってもよい。
【0045】
さらに、前記混練法は、撹拌、溶融混練、ロール混練のいずれかであることが好ましい。生産性の観点から、強化繊維がロービングをカットした形態である場合、攪拌機、単軸または二軸混練機、ロール混練機などを用いて、樹脂が溶融する温度条件下で溶融混練する方法がより好ましい。
【0046】
(前記樹脂前駆体を重合させる工程)
本実施形態においては、樹脂前駆体と強化繊維とを上記のようにして複合化した後、例えば、前駆体中に含まれる官能基が縮合重合する温度より高温の条件にするなどして、重合させ、重合度を高めポリマー化することで、高い機械強度を示す複合材料を得る。
【0047】
前記樹脂前駆体を重合させる工程において、重合反応は樹脂前駆体の種類によるが、縮合反応であることが好ましい。
重合反応の反応温度は、100℃〜400℃であることが好ましい。重合反応の温度は、樹脂前駆体の種類、すなわち樹脂原料の構成成分(モノマー)の種類や樹脂前駆体の重合度によって調整するが、後述するように減圧条件下で重合を行う場合には、これをより容易に行う観点から、もしくは強化繊維への樹脂の含浸性を高めると言った観点から150〜400℃がより好ましく、200〜400℃がさらに好ましい。このような重合反応温度は、例えば、減圧条件下で縮合重合に伴い発生する小分子の除去、あるいは、温度溶融しにくい小分子(モノマー)の除去においても、好ましい。
【0048】
また、前記樹脂前駆体を重合させる工程は、特に限定はされないが、真空下(減圧雰囲気下)で行うことができる。重合反応時に減圧条件にすることで、縮合によって発生する小分子を反応系中から取り除き、効率的にポリマー化を進めることができると共に、高強度の複合材料を得ることができる。前記重合反応の際の真空度(減圧度)は、小分子が取り除ける事ができればよく、好ましくは0〜0.095MPa、より好ましくは0〜0.08MPa、さらに好ましくは0〜0.02MPa、特に好ましくは0.0001〜0.01MPaである。尚、ここで上記真空度(減圧度)は、絶対圧力を示す。
【0049】
上記の樹脂前駆体と強化繊維を複合化する工程と、前記樹脂前駆体を重合させる工程は、順次に実施してもよいし、同時に実施してもよい。
【0050】
また、前記重合反応の際に複合材料を加圧(プレス)すると、高強度の複合材料を得ることができる。特に、真空下でプレスしながら重合反応を進めると、複合材料の強度をより高めることができる。その際の真空度は、強度の観点から、0.08MPa以下であることが好ましく、0.01MPa以下であることがより好ましく、0.009MPa以下であることがさらに好ましく、0.005MPa以下であることが特に好ましい。
具体的には、真空プレス法を採用することが好ましく、この場合には成形も同時に行うことができる。真空プレス法は、連続プレス法、又は多段プレス法であることがより好ましい。多段プレス法であれば、バッチ式で複数の材料を一括して真空プレスできるので、量産性の欠点を補うことができる。また、さらに量産性に優れる連続プレス法で行うこともできる。
【0051】
複合化する工程と重合させる工程を同時に実施する場合、生産性、強度の観点から、複合化と重合反応を真空下で行うことが好ましい。
具体的な方法としては、混練機中の空間を減圧状態にして樹脂前駆体と強化繊維を混練することで縮合重合が進行する方法が好ましい。
上記以外の方法としては、例えばVa-RTM装置、または真空プレス機を用いて、真空(減圧)加熱時に強化繊維に対して樹脂前駆体を供給する形態を採る事で、真空下で複合化と縮合重合を同時に行い、繊維強化複合材料を得ることも出来る。
【0052】
樹脂前駆体の重合反応時(縮合重合反応における加熱時)に真空(減圧)条件にすることができる装置は、特に特定されないが、Va-RTM装置、真空プレス機等を用いた方法がある。これらの装置を用いて重合することで、空隙がなく機械強度に優れる繊維強化複合材料が得られる。
【0053】
また、Va-RTM装置、真空プレス機等を用いた樹脂前駆体の縮合重合反応では、同時に繊維強化複合材料を板状もしくはシート状等の形状に成形することができる。
【0054】
Va-RTM装置、真空プレス機等を用いた場合、樹脂前駆体の縮合重合反応中に繊維強化複合材料にかかる圧力は,特に限定されないが、成形される複合材料に残る空隙を除去する観点から、0.1〜30MPaであることが好ましく、0.5〜30MPaであることがより好ましい。汎用設備を使う観点では、0.5〜10MPaであることがさらに好ましく、0.5〜5MPaであることが特に好ましい。
【0055】
本実施形態により得られた複合材料は、高強度であり、特に高い曲げ強度と曲げ弾性率を有する。曲げ強度と曲げ弾性率は、板状に成形された複合材料に対して、曲げ特性試験を行うことにより評価することができる。曲げ特性試験は、例えば、オートグラフAG5000B(島津製作所製)を使用し、3点曲げ試験により実施することができる。
本実施形態において、強化繊維がガラス繊維である複合材料の曲げ強度は、500MPa以上であることが好ましく、500〜800MPaであることがより好ましい。また、曲げ弾性率は、28GPa以上が好ましく、28〜50GPaであることがより好ましい。
【0056】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<曲げ特性試験>
実施例、比較例の熱可塑性複合材料の曲げ特性試験は、オートグラフAG5000B(島津製作所製)を使用し、3点曲げで実施した。試験片形状は、高さh=1.5mm、幅b=15mm、長さl=60mmで曲げスパンは40mmであった。測定温度は25℃で行った。
【0058】
<樹脂前駆体Aの調製>
ポリアミド樹脂の前駆体を調製するために、ジカルボン酸であるセバシン酸を90g、さらに添加剤として酢酸ナトリウム80mg、次亜リン酸ナトリウム一水和物80mgを反応容器中に加え、窒素ガスでフローしつつ145℃で溶融した。そこにジアミン成分としてメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとの混合物60.1gをゆっくり滴下した。滴下後は温度を200〜230℃に昇温し、常圧下で20〜30分溶融攪拌を行うことで、樹脂前駆体Aを得た。
【0059】
上記で得られた樹脂前駆体Aの溶融粘度は、キャピラリーレオメータ(キャピログラフ:(株)東洋精機製)を使用して測定し、温度:220℃、せん断速度:1200s-1の条件で20〜80Pa・sであった。下記の参考例1,2及び実施例3の熱可塑性複合材料では、樹脂前駆体Aの溶融粘度が72Pa・sのものを使用した。
【0060】
参考例1)
直径12μmのガラス繊維ロービングを40mmにカットし、大きさ100mm(W)×100mm(D)×1.5mm(H)の直方体型プレス金型に敷き詰めた。さらに金型中に粉末状に粉砕した樹脂前駆体A(溶融粘度は72Pa・s)を加えた。この樹脂前駆体70体積%とガラス繊維30体積%が充填されたプレス金型を0.01MPaの減圧条件で、260℃、3.5MPaの条件で加熱プレスを30分行うことで、板状に成形された繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。
参考例2)
樹脂前駆体Aを55体積%、ガラス繊維を45体積%とした以外は、参考例1と同様にして繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。また、得られた複合材料の断面SEM写真(SEM-EDX:JSM‐6460LA(日本電子株式会社製))を図1に示す。図1において、白色状の丸がガラス繊維の断面である。
参考例1に比して、複合材料中のガラス繊維体積含有率が高く、曲げ強度の向上を確認できた。
(実施例3)
加熱プレスの際の減圧条件を、0.001MPaに変更した以外は、参考例2と同様にして繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。
加熱プレスの際の減圧条件を、0.001MPaに変更したことで、さらなる曲げ強度の向上を確認できた。
【0061】
<熱可塑性樹脂Bの調製>
樹脂前駆体Aと同様の原料組成でジカルボン酸とジアミンの縮合重合反応を進めた。ジアミンの滴下後は、温度を250℃に昇温し、さらに0.05MPaに減圧し反応系から発生する水を除去することで重合度が高い熱可塑性樹脂Bを得た。
【0062】
上記で得られる熱可塑性樹脂Bの溶融粘度は、キャピラリーレオメータ(キャピログラフ:(株)東洋精機製)を使用して測定し、温度:220℃、せん断速度:1200s-1の条件で380Pa・sであった。
【0063】
(比較例1)
樹脂前駆体Aの替わりに、熱可塑性樹脂Bを用いた以外は、参考例1と同様にして繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。
(比較例2)
樹脂前駆体Aの替わりに、熱可塑性樹脂Bを用いた以外は、参考例2と同様にして繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。また、得られた複合材料の断面SEM写真(撮影条件は参考例2と同じ)を図2に示す。図2において、白色状の丸がガラス繊維の断面である。
参考例2だけではなく、比較例1に比しても、曲げ強度の値が劣る結果になった。この原因としては、溶融粘度の大きな熱可塑性樹脂Bは、使用したガラス繊維ロービング内部に完全に含浸できずに、ボイド(図2において楕円/円で囲った部分)となった部位があるためと考えられる。そして、比較例1より比較例2の方が繊維の含有量が大きいため、比較例2においてはボイドによる影響がより顕著となったと考えられる。
(比較例3)
樹脂前駆体Aの替わりに、熱可塑性樹脂Bを用いた以外は、実施例3と同様にして繊維強化複合材料を得た。得られた複合材料の物性を表1に示した。加熱プレスの際の減圧条件を、0.001MPaに変更したことで、その断面写真(図示せず)の目視検査でボイドは確認されなかったが、実施例3に比して、曲げ強度の値が劣る結果になった。
(参考例)
ナイロン66をガラスクロスに含浸したBond Laminates製「Tepex dynalite 101」についても参考例1,2及び実施例3、比較例1〜3と同様に曲げ特性を測定した。「Tepex dynalite 101」は、強化繊維として、連続繊維織物を用いた複合材料である。得られた複合材料の物性を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から明らかなように、熱可塑性樹脂の前駆体、即ちオリゴマーをガラス繊維に含浸後、減圧下でポリマー化して得られる繊熱可塑性樹脂複合材料は、高い機械物性を示す材料であることが確認できた。
特に、加熱プレス時の減圧条件を0.001MPaとした場合には、きわめて高い曲げ強度を有する複合材料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したとおり、本発明の製造方法で得られる熱可塑性樹脂複合材料は、剛性、強度に優れており、各種用途に使用でき、とりわけ航空機、自動車等の軽量化と高強度が求められる部材等の用途で好ましく適用できる。
【0067】
本願は、2016年7月15日又は2017年5月9日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2016−139900、特願2017−093103)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2