(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6536766
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】アクリルゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20190625BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20190625BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20190625BHJP
F16J 15/32 20160101ALI20190625BHJP
F16D 25/12 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
C08L33/08
C08K3/36
C08K3/04
F16J15/32
F16D25/12 B
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-513454(P2019-513454)
(86)(22)【出願日】2018年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2018030827
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-166912(P2017-166912)
(32)【優先日】2017年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】井上 航太郎
【審査官】
尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−39822(JP,A)
【文献】
特開平9−194670(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/010615(WO,A1)
【文献】
特開2015−30819(JP,A)
【文献】
特開2010−13532(JP,A)
【文献】
特開2008−51125(JP,A)
【文献】
特開2010−270172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00− 101/14
C08K 3/00− 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのアクリルゴム100重量部に対し、充填剤としてシリカ5〜12.5重量部およびグラファイト5〜15重量部が添加されたアクリルゴム組成物。
【請求項2】
超耐寒グレードのアクリルゴムがハロゲン含有アクリルゴムである請求項1記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
さらに硫黄系加硫剤0.1〜2.0重量部が添加された請求項1または2記載のアクリルゴム組成物。
【請求項4】
ボンデットピストンシール加硫成形用として用いられる請求項3記載のアクリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項4記載のアクリルゴム組成物から加硫成形されたボンデットピストンシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ボンデットピストンシールの加硫成形などに有効に用いられるアクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランスミッションに用いられるボンデットピストンシールとしては、約-30〜+150℃という使用環境温度からアクリルゴム製のシール材が用いられている。
【0003】
しかしながら、近年寒冷地での拡販に向け、-40℃でも破壊しないシール材の開発が求められているが、単にガラス転移点Tgの低いアクリルゴムを用いた場合には、ロール加工性、接着性などに問題がみられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3382676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ボンデットピストンシールの製品機能を満足させ、しかも低温環境下でも十分使用に耐え得るアクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのアクリルゴム100重量部に対し、充填剤としてシリカ5〜12.5重量部およびグラファイト5〜15重量部が添加されたアクリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
アクリルゴムとして超耐寒グレードのものを用いることにより、-30〜+150℃という使用環境温度を満足させるばかりではなく、充填剤としてそれぞれ特定量のシリカおよびグラファイトを添加して用いることにより、現行シールと同等またはそれ以上のロール加工性、接着性を有し、また耐圧縮永久歪特性を満足させるボンデットピストンシールを形成させることができる。
【0008】
さらに、高いロール加工性を有するため、従来に比べ生産が容易であるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
アクリルゴムとしては、ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのもの、好ましくはこのグレードを満たすハロゲン含有アクリルゴムが用いられる。実際には、市販品、例えばユニマテック製品ノックスタイトPA-404N等をそのまま用いることができる。
【0010】
ノックスタイトPA-404Nは、特許文献1に記載されており、アルキルアクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルキルチオアルキルアクリレート、シアノアルキルアクリレートなどの少くとも一種類を主成分(約60〜99.8重量%)としており、これにビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテートあるいはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエステルなどのグリシジル化合物とモノクロロ酢酸との付加反応生成物などを約0.1〜10重量%、好ましくは約1〜5重量%共重合させた共重合体が用いられる。この共重合体中には、他のビニル化合物を30重量%以下の範囲内で共重合させることもできる。
【0011】
また、ハロゲン含有アクリルゴムとしては、ハロゲンおよびカルボキシル基含有アクリルゴム、例えば上記ハロゲン含有アクリルゴム中に、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸またはマレイン酸またはフマル酸のモノ低級アルキル等の不飽和ジカルボン酸モノエステルを約0.1〜10重量%、好ましくは約1〜5重量%共重合させたものなども用いられる。
【0012】
シリカとしては、一般的なグレード、すなわちハロゲン化けい酸または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法シリカやけい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどが用いられ、その比表面積は約30〜300m
2/g程度であり、実際にはゴム工業用として上市されている市販品、例えば日本アエロジル製品アエロジル200、東ソー・シリカ製品ニップシールER#100、E74P、エポニックデグサ社製品Ultrasil 360等をそのまま用いることができる。
【0013】
グラファイトについても、一般的なグレード、すなわち天然黒鉛または人造黒鉛、好ましくは天然黒鉛であって、粒径が約0.5〜250μm、好ましくは約1.5〜30μmのものが用いられる。
【0014】
アクリルゴム100重量部に対して、シリカは5〜12.5重量部、グラファイトは5〜15重量部の割合で用いられる。シリカの使用割合がこれよりも少ないと接着性に劣るようになり、これよりも多く用いられると圧縮永久歪が悪化するようになる。また、グラファイトの使用割合がこれよりも少ないとロール加工性、接着性に劣り、これよりも多く用いられると圧縮永久歪が悪化するようになる。
【0015】
組成物の調製は、シリカ、グラファイト、カーボンブラック等の充填剤、硫黄または含硫黄化合物加硫剤または加硫助剤、その他の加硫上および物性上要求される各種配合剤を加え、オープンロール、ニーダ等を用いる任意の混練手段によって行われる。ここで、硫黄系加硫剤は、一般的にはアクリルゴム100重量部に対して0.1〜2.0重量部の割合で用いられる。含硫黄化合物(硫黄供与性化合物)としては、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、4,4′-ジチオジモルホリン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、2-メルカプトイミダゾリン、高分子多硫化物等が用いられる。
【0016】
調製された組成物は、約150〜200℃、約2〜30分間の条件下でヒートプレスにより加硫成形され、その後必要に応じて約170〜230℃、約9〜22時間の条件下でオーブン加硫(二次加硫)される。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0018】
実施例1
アクリルゴム(ユニマテック製品ノックスタイト 100重量部
PA-404N、Tg:-42℃)
カーボンブラック(旭カーボン製品#35G) 80 〃
シリカ(日本アエロジル製品アエロジル200) 5 〃
グラファイト(日電カーボン製品グラファイトA-0) 5 〃
金属セッケン(花王製品NS-SOAP) 3 〃
金属セッケン(日油製品SK-1) 0.25 〃
硫黄(鶴見化学工業製品) 0.3 〃
以上の各成分を加圧型ニーダーで混練した後、混練物(組成物)について、175℃で15分間の加硫を行った。
【0019】
組成物および加硫物について、次の各項目の測定および評価を行った。
ロール加工性:ロール径10インチ、表面粗さRa 0.04〜0.13のロール
で加工したとき、作業上問題のないものを○、問題の
あるものを×と評価
圧縮永久歪:ASTM D575-91に対応するJIS K-6262準拠(150℃、70時
間)
80%以下であることが望ましい
耐寒性(TR-10値):ASTM D1329-16に対応するJIS K-6261準拠
-35℃以下であることが望ましい
接着性:アクリルゴム組成物を金属環上に載せ、加硫成形した後加硫
ゴム層を剥離し、製品表面のゴム残り率を算出した
ゴム残り率90%以上が望ましい
【0020】
実施例2
実施例1において、グラファイトとして中越黒鉛製品グラファイトG-6Sが同量(5重量部)用いられた。
【0021】
実施例3
実施例1において、グラファイトとして日電カーボン製品グラファイトC-1が同量(5重量部)用いられた。
【0022】
実施例4
実施例1において、グラファイト量が10重量部に変更された。
【0023】
実施例5
実施例1において、グラファイト量が15重量部に変更された。
【0024】
実施例6
実施例4において、シリカ量が7.5重量部に変更された。
【0025】
実施例7
実施例1において、シリカ量が10重量部に変更された。
【0026】
実施例8
実施例5において、シリカ量が10重量部に変更された。
【0027】
実施例9
実施例1において、シリカ量が12.5重量部に変更された。
【0028】
比較例1
実施例1において、アクリルゴムとしてユニマテック製品ノックスタイト402K(Tg:-31℃)が同量(100重量部)用いられた。
【0029】
比較例2
実施例1において、グラファイトが用いられなかった。
【0030】
比較例3
実施例1において、グラファイト量が20重量部に変更された。
【0031】
比較例4
実施例1において、シリカが用いられなかった。
【0032】
比較例5
実施例5において、シリカが用いられなかった。
【0033】
比較例6
実施例7において、グラファイトが用いられなかった。
【0034】
比較例7
実施例1において、シリカ量が15重量部に変更され、グラファイトが用いられなかった。
【0035】
比較例8
実施例1において、グラファイト量が2.5重量部に変更された。
【0036】
比較例9
実施例9において、グラファイト量が17.5重量部に変更された。
【0037】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。
表
例 ロール加工性 圧縮永久歪(%) TR-10値(℃) ゴム残り率(%)
実施例1 ○ 62 -37 90
〃 2 ○ 62 -37 90
〃 3 ○ 62 -36 90
〃 4 ○ 70 -37 90
〃 5 ○ 71 -36 90
〃 6 ○ 75 -36 90
〃 7 ○ 79 -37 90
〃 8 ○ 80 -37 90
〃 9 ○ 80 -37 90
比較例1 × 70 -25 90
〃 2 × 67 -37 70
〃 3 ○ 81 -37 90
〃 4 ○ 70 -37 70
〃 5 ○ 71 -36 70
〃 6 × 79 -36 90
〃 7 × 87 -37 90
〃 8 × 66 -38 70
〃 9 ○ 81 -37 90
【要約】
ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのアクリルゴム100重量部に対し、充填剤としてシリカ5〜12.5重量部およびグラファイト5〜15重量部が添加されたアクリルゴム組成物。アクリルゴムとして超耐寒グレードのものを用いることにより、-30〜+150℃という使用環境温度を満足させるばかりではなく、充填剤としてそれぞれ特定量のシリカおよびグラファイトを添加して用いることにより、現行シールと同等またはそれ以上のロール加工性、接着性を有し、また圧縮永久歪特性を満足させるボンデットピストンシールを形成させることができる。