特許第6537058号(P6537058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6537058可変バルブタイミング装置用のロータおよびそのロータを備えたVVT装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537058
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】可変バルブタイミング装置用のロータおよびそのロータを備えたVVT装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20190625BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
   F16J15/10 G
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-197798(P2017-197798)
(22)【出願日】2017年10月11日
(62)【分割の表示】特願2015-509385(P2015-509385)の分割
【原出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-40361(P2018-40361A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2017年11月7日
(31)【優先権主張番号】61/640,866
(32)【優先日】2012年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12171715.1
(32)【優先日】2012年6月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ハーディング, ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】ホーウォース, カール
(72)【発明者】
【氏名】バーンハム, ビル
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−80963(JP,A)
【文献】 特開2014−70549(JP,A)
【文献】 特表2015−516039(JP,A)
【文献】 特開2000−161028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00−1/356
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの可変バルブタイミング装置用のロータ本体において、
− 主本体であって、
・前面側カバーと係合する前面および背面側カバーと係合する背面と、
・ステータハウジング内部にオイルまたは空気の可変圧力チャンバを画定するためのベーンであって、前記ステータハウジングと係合するベーン先端を有するベーンと、
・1つのオイルまたは空気の可変圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路と、を含む主本体と、
− 前記前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトまたはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔を含む中心部分と、
を含み、
− 前記主本体は繊維強化型ポリマー材料から構成され、
− 前記軸方向の穿孔を含む中心部分は金属製であり、
− 前記ロータ本体は、
・前記ステータハウジングと係合するベーン先端における動的シール要素(i)と、
・前記前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前記前面および背面における動的シール要素(ii)と、を含み、
前記動的シール要素(i)および(ii)は非繊維強化型ポリマー材料から作製され、
前記金属製の中心部分は、前記繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔を含む、ロータ本体。
【請求項2】
前記中心部分が、金属を機械加工することによって、または、鋳造金属若しくは焼結金属から、作製される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項3】
前記中心の金属部分が、円筒状の外表面と、前記繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含む、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項4】
前記中心部分が、前記ロータ本体の中に、圧力嵌めによって、あるいは、前記中心部分の回りにポリマー材料を圧縮成形または射出成形することによって装着される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項5】
前記主本体が、射出成形可能な繊維強化型熱可塑性または熱硬化性ポリマー材料から構成される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項6】
前記シール要素(i)および(ii)が、エンジニアリングポリマー、PTFE、またはPTFE修飾ポリマーから作製される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項7】
前記シール要素(i)が、前記ベーン先端におけるポケットによって包み込まれる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項8】
前記シール要素(ii)が、溝によって、それぞれ前記前面および背面の中に包み込まれる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項9】
前記オイルまたは空気輸送用の流路が、前記主本体の前面側および背面側の表面に配置される前記主本体における流路によって構成され、前記流路が動的シール要素(iii)によってカバーされる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項10】
a.前記中心の金属部分が、円筒状の外表面と、前記繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含み、かつ、
b.前記オイルまたは空気輸送用の流路が、前記主本体の前面側および背面側の表面に配置される前記主本体における流路によって構成され、前記流路が動的シール要素(iii)によってカバーされる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項11】
ロータと、カムシャフト上の前記ロータを受け入れるステータとのアセンブリを含む可変バルブタイミング装置であって、前記ロータは、請求項1に記載のロータ本体であると共に、前面と背面とベーンの先端とを含む繊維強化型ポリマー材料製の主本体と、(軸方向の)穿孔を含む金属製の中心部分と、ベーンの先端および前面側並びに背面側における非繊維強化型ポリマー材料製のシール要素とを備え、前記穿孔内には、前記カムシャフトの端部部分および/または固定要素が受け入れられ、前記ロータは、前記固定要素によって前記カムシャフトの端部部分に固定される、可変バルブタイミング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータと、カムシャフト上のロータを受け入れるステータとのアセンブリを含む可変バルブタイミング(VVT)装置と、VVT装置において使用するロータとに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、可変バルブタイミングフェーザまたは可変バルブ作動(VVA)としても知られる可変バルブタイミング(VVT)は、内燃機関の内部におけるバルブリフト事象の形態またはタイミングを変化させることができる任意の機構または方法を記述するために用いられる一般的な用語である。VVTによって、エンジンが運転している間の吸気および/または排気バルブのリフト、時間またはタイミングを(種々の組合せにおいて)変化させることができる。2行程エンジンは、VVTに類似の結果を得るためにパワーバルブ装置を用いる。これを実現するには、機械的な装置から電気油圧式およびカムレス装置に及ぶ多くの方法がある。この場合、発明者らは、カムシャフトに基づくVVT装置、特に自動車産業において使用するVVT装置に焦点を合わせる。
【0003】
VVT装置における要素、すなわち、内部ロータまたは被駆動要素とも呼称されるロータと、駆動ホイールとも呼称されるステータとは、通常複雑な形状のものである。ロータ本体は、通常、ベーンと、オイルまたは空気輸送用の流路と、カムシャフトに組み付けるための中心穿孔とを有する主本体を有する。ステータは、ステータハウジング、および、前面側並びに背面側用のカバーのような複数個の部品から構成することが可能である。ステータハウジングは、通常、複雑な形状を有するか、あるいは前面カバーまたは背面カバーのいずれかと一体化されるので、別個の部品とすることができる。ロータの主本体は、前面側カバーと係合する前面と、背面側カバーと係合する背面とを含む。ステータハウジングと組み合わされるベーンは、ステータハウジングの内側のオイルまたは空気の可変圧力チャンバを画定し、ステータハウジングと係合するためのベーン先端を有する。流路は、1つの圧力チャンバから他の圧力チャンバへのオイルまたは空気の輸送を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今日に至るまで、自動車産業において用いられるロータおよびステータの部品は金属製である。このような部品の生産および加工処理は、特に部品の形状が複雑であると共に、オイル漏洩の観点から寸法精度に対する要求が非常に高いことから、きわめてコスト高である。さらに、自動車産業においては、重量低減に関する多大の留意点がある。従って、金属部品からプラスチック部品への変更に関する関心が生まれているが、この用途におけるプラスチック部品の使用には多くの問題点が生じる。カムシャフトおよびオイルシールの機能に関するアセンブリについては、高い機械的負荷が必要である。特に金属と組み合わせた場合、プラスチック材料の熱膨張の違いによって寸法的な適合性が損なわれ、それによって、実際の使用中にオイルが漏洩し、VVT装置内部における圧力伝達が不十分になる結果が生じる。さらに、VVT装置からカムシャフトには高いトルクを伝達しなければならないが、これは高い機械的負荷および力を必然的に伴う。一般的に、ポリマー材料は、機械的負荷の支持においては劣る。
【0005】
本発明の目的は、これらの問題点が少なくとも部分的に克服されるVVT装置用のロータ本体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明によるロータ本体によって実現された。このロータ本体は、
− 繊維強化型ポリマー材料から構成される主本体と、
− ロータ本体の前面から背面に延びる(軸方向の)穿孔であり、カムシャフト、またはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔を有する中心部分であって、金属製の中心部分と、
− ステータハウジングと係合するベーン先端における動的シール要素(i)と、
− 前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前面側および背面側の動的シール要素(ii)と、を含み、動的シール要素(i)および(ii)は非強化型のプラスチック材料から作製され、金属製の中心部分は、繊維強化型ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分および/または繊維強化型材料が充填される複数の孔を含む。
【0007】
本発明によるロータ本体の効果は以下の点にある。すなわち、ロータ本体が、容易に製造可能であると共に金属製のロータ本体に比べて軽量であり、しかもロータ本体とステータアセンブリとの間にシールが構成される、というだけでなく、寸法精度に対する厳格さが低下し、ロータ本体をカムシャフト上に組み込む場合に堅固に取り付けることが可能になり、固定のための高い機械的負荷および温度変化に起因する寸法の変化から影響を受けることなく、広い温度範囲にわたって良好なシール特性が保持される。プラスチックの本体に対する機械的負荷が低下する結果として、ロータとステータとの間の摩擦および摩耗が減少する。運転中のステータおよびロータ間のオイル漏洩が最小化される結果、シールされた連続的なオイル回路が可能になり、そのため、装置が、オイルを輸送でき、効率的に機能する。さらなる利点は、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達がより効率的であるという点であり、さらに、負荷伝達の効率と負荷伝達のタイミングの精度とが、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持されるという点である。
【0008】
穿孔を有する中心部分が、プラスチックのロータ本体の機能と、カムシャフトへのトルク伝達とに対して決定的に重要である。それは、その中心部分が圧縮力の制限器として、かつ、ロータおよびカムシャフト間の第1伝達要素として機能するからである。その中心部分は、ロータのカムシャフトに対する固定および芯合わせをきわめて確実に提供して、プラスチックの主本体の変形またはクリープなしに固定するように高い負荷を支持し、一方、全温度範囲にわたって必要なシール機能を可能にする。この中心部分は、カムシャフト上のアセンブリ用として用いられる固定要素からの予備荷重に耐えることができなければならない。この固定要素はボルトとすることができる。この中心部分は、適切には、少なくとも50Knのボルトの予備荷重または類似の代替荷重に耐え得るかまたはそれを支持し得るように設計される。これは、例えば、その中心部分の寸法を、穿孔の中心軸に対して半径方向に増大することによって実現することができる。
【0009】
金属の中心部分の形状は、変化することができ、例えば、円筒状の外表面と円筒状の穿孔とを有する円筒形状の本体を有することができる。穿孔は他の形状を有することもできるが、その形状は、好ましくは、受け入れられるべきカムシャフトの端部の形状と連結できるべきである。中心穿孔がボルトを受け入れなければならない場合は、その形状は円筒形であることが望ましい。金属の中心部分は、ほぼ円筒状の外表面を備えたほぼ円筒形状の本体、あるいは、円筒状の外表面を備えた円筒形状の本体を含むことが適切である。
【0010】
特定の一実施形態においては、金属の中心部分が、外表面と、繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを備えた形状化本体を有することが適切である。この実施形態は、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達が一層効率的であるという利点だけでなく、負荷伝達の効率と負荷伝達のタイミングの精度とが、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持されるという利点を有する。
【0011】
代わりの方式として、金属の中心部分が、外表面に、形状化された本体における複数の孔を適切に含む。この孔は、繊維強化型の材料がオーバモールドされる際にその材料で充填され、それによって、同様に、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達の有効性および効率が増大し、負荷伝達のタイミングの精度が、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持される。突起部分および孔は、中心部分のプラスチックのロータ本体の中へのより確実結合的な取り付けが確保される限り、湾曲形状、スロットのような任意の適切な形状を有することができる。
【0012】
中心部分は、ロータの前面から背面に延びる中心軸を有し、複数の突起部分は、中心部分の中心軸にほぼ平行に全表面にわたって延びていることが適切である。また、突起部分は指状の断面形状を有することが適切である。この場合の断面は中心軸に垂直である。
【0013】
突起部分の個数は変えることができる。例えば、2個、5個、10個、15個、20個または25個、および、これらの個数の間またはこれを超える任意の整数個数とすることができる。好ましい実施形態においては、中心部分は、少なくとも4個の突起部分、さらに好ましくは少なくとも8個の突起部分を有する。突起部分の個数が多いと、ロータがより高いトルク負荷を支持し得るという利点がある。
【0014】
本発明の好ましい一実施形態においては、プラスチックの本体と金属の中心部分とが、インタロッキング要素によって相互に固定される。金属の中心部分上の突起部分は、その中に孔を有する突起部分、またはアンダーカットを有するリブの形状の突起部分のようなインタロッキング機能を備えた形状を有するのが適切である。プラスチックの本体および金属の中心部分がインタロッキング要素によって相互に固定される方式の利点として、カムシャフトに対するプラスチックの本体の角度的な変位が制限されるという点だけではなく、半径方向の動きによる遠心力が印加された際の半径方向の変位が低減されるという点もある。
【0015】
中心部分は、機械加工された金属、鋳造金属または焼結金属から適切に作製される。
【0016】
中心部分は、本発明によるロータ本体の中に、任意の適切な方法、例えば圧力嵌めによって、あるいは、中心部分の回りにポリマー材料を圧縮成形または射出成形することによって装着することが可能である。特に、中心部分が、外表面上にインタロッキング機能を有する孔または突起部分を備えている場合は、中心部分を、中心部分の回りにポリマー材料を射出成形することによって、ロータ本体の中に装着することが望ましい。
【0017】
主本体が含む繊維強化型ポリマー組成物は、広い温度範囲にわたって良好な機械的特性と高い弾性率とを有する任意の繊維強化型ポリマー組成物とすることが可能である。主本体は、射出成形可能な繊維強化型熱可塑性または熱硬化性ポリマー材料とからなることが適切である。
【0018】
射出成形可能な繊維強化型熱可塑性ポリマー材料は、繊維強化要素と共に、熱可塑性ポリマーを含む。
【0019】
射出成形可能な繊維強化型熱硬化性ポリマー材料は、繊維強化要素と共に、熱硬化性ポリマーを含む。
【0020】
繊維強化成分は、例えばガラス繊維または炭素とすることが適切である。
【0021】
熱可塑性ポリマーとしては、例えば、熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリエステル、好ましくは熱可塑性ポリアミドを使用できる。
【0022】
適切な熱硬化性ポリマーの例は熱硬化性不飽和ポリマーである。
【0023】
VVT装置のサイズ、形状および用途に応じて、プラスチックのロータが非常に高いトルク負荷に耐え得なければならないという事象が非常に頻繁に生じる可能性がある。例えば、各ベーン要素に100N−mmのトルク負荷または「ベーン圧力」が印加される場合が生じ得る。ある種のポリマー、例えば、オランダのDSM Engineering Plastics B.V.社の「Stanyl TW241F12」が、この量のトルクに安全に耐えることができる。
【0024】
本発明によるロータ本体のベーンの先端におけるシール要素(i)と、前面側および背面側のシール要素(ii)と、以下に記述するシール要素(iii)とは、動的なシール目的に適した任意の非繊維強化型ポリマー材料から作製できる。適切な材料には、非繊維強化型熱可塑性ポリマーまたはゴム材料が含まれる。この動的シール材料は、良好な耐油性および耐熱性を有することが望ましく、例えば、ポリアミドベースの材料、PTFEベースの材料、PTFE修飾ポリマー材料が挙げられる。適切なポリアミドベースの材料の一例は、オランダのDSM Engineering Plastics B.V.社の「Stanyl TW341」である。特定の一実施形態においては、PTFE修飾ポリアミドベースの材料が用いられる。
【0025】
シール要素を位置決めし、かつ、シール特性を良好に持続するために、シール要素(i)をベーン先端のポケットによって包み込むことが有利である。同様に、シール要素(ii)は、それぞれ前面および背面における溝によって包み込むことが有利である。この溝は、シール要素(ii)を受け入れるのに適した任意の形状を有することができる。
【0026】
ロータ本体は、1つのオイルチャンバから他のオイルチャンバへのオイルまたは空気輸送用の流路を含む。この流路は、ドリル穿孔、ボーリングおよび面削りのような2次的機械加工によって創成できるが、この機械加工は、プラスチックに対して行うので金属部品の場合より遥かに容易である。代わりの方式として、射出成形工程の間に、摺動要素を備えた金型空洞を用いて流路が作製される。
【0027】
好ましい一実施形態においては、流路が、主本体の前面側および背面側の表面に配置される主本体における流路であって、動的シール要素(iii)でカバーされる流路によって構成される。この流路は、表面に配置されるので、流れの方向だけでなく、表面の側においても開放される。動的シール要素(iii)でカバーすることによって、表面の側における開放部分が閉止されることになり、オイルまたは空気の目標の流れ方向のみにおける輸送が可能になる。動的シール要素は、通常のエンジンオイルの圧力を介して、または金属もしくはプラスチックスプリングを使用して、あるいはこれらすべての組合せによって機能させることができる。流路は、溝またはスロット、あるいはそれ以外の形状のような任意の形状を有することができ、例えば、三角形、四角形、あるいは、半円形または半楕円形の断面を有することができる。
【0028】
動的オイルシール要素を備えた本発明によるプラスチックのVVTロータは、オイル回路の流路をロータ本体の前面および背面に成形可能にする利点を有し、従って、ドリル穿孔、ボーリングおよび面削りのような2次的機械加工操作を省略できる。これによって、製造コストが大きく低下するだけでなく、比較対象ロータに比べて良好な機械的特性がもたらされる。
【0029】
本発明によるロータ本体の特定の一実施形態においては、
a.中心の金属部分が、円筒状の外表面と、繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含み、かつ、
b.オイルまたは空気輸送用の流路が、主本体の前面側および背面側の表面に配置される主本体における流路によって構成され、その流路は、動的シール要素(iii)によってカバーされる。
【0030】
利点は、ロータ本体がさらに高いトルク負荷をも支持できるという点である。
【0031】
本発明は、さらに、可変バルブタイミング(VVT)装置にも関する。本発明によるVVT装置は、ロータと、カムシャフト上のロータを受け入れるステータとのアセンブリを含み、この場合、このロータは、本発明によるロータ本体、あるいは、このロータ本体の上記の特定のまたは好ましいいずれかの実施形態、あるいはそれらの任意の組合せであって、少なくとも、
− 前面、背面およびベーンの先端を含む主本体であって、繊維強化型のポリマー材料製の主本体と、
− (軸方向の)穿孔を含む金属製の中心部分と、
− 非強化型のポリマー材料製のシール要素であって、ベーンの先端と、前面および背面とにおけるシール要素と、を備え、前記穿孔には、カムシャフトの端部部分および/または固定要素が受け入れられ、ロータはその固定要素によってカムシャフトの端部部分において固定される。この固定要素はボルトまたは類似品が適切であり、固定用の予備負荷は少なくとも50Knとすることが妥当である。
【発明の効果】
【0032】
このVVT装置の利点は、本発明によるロータ本体、すなわち、それぞれ特定のまたは好ましいその実施形態について上記のとおりである。
【0033】
以下、添付の図面によって本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の主本体の前面の模式図(図1a)、および、同じく主本体の模式的な立体図(図1b)である。
図2】本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の中心部分の模式的な上面図(図2a)、および、同じく中心部分の模式的な立体図(図2b)である。
図3】本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の主本体と、その中に組み込まれた中心部分との模式的な立体図であり、 − 前面側カバーおよび背面側カバーとの係合用の前面および背面における動的シール要素(ii)が表現されている。
図4】本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の主本体および動的シール要素の模式的な立体図である。
図5】本発明による可変バルブタイミング装置用の動的シール要素の模式的な上面図(図5a)および底面図(図5b)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1aおよび図1bは、それぞれ、本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の主本体(1)の前面の模式図と、同じく主本体(1)の模式的な立体図とを示す。主本体(1)は、穿孔を有する中心部分を受け入れるかまたは含むための中心の空所(2)と、ベーン(3)と、ステータハウジングと係合する動的シール要素(i)を受け入れるかまたは含むためのベーン先端におけるポケット(4)と、前面側における溝(5)であって、前面側カバーと係合する動的シール要素(ii)を受け入れるための溝(5)と、一方の側(6、a)および他方の側(6、b)の表面におけるオイルまたは空気輸送用の流路(6)とを含む。主本体(1)は、また、背面側カバーと係合する動的シール要素(ii)を受け入れるための背面側の溝(図には見えない)をも含む。主本体(1)は、繊維強化型ポリマー材料から作製される。
【0036】
図2aおよび図2bは、それぞれ、本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体用の、軸方向の穿孔(12)を含む中心部分(10)の前面の模式図と、同じく中心部分(10)の模式的な立体図とを示す。中心部分(10)は、円筒状の外表面を有する円筒形状の本体(11)と、外表面上の複数の突起部分(13)とを含む。この突起部分は、繊維強化型ポリマー材料製の主本体(1)の中に突き出ることができる。軸方向の穿孔(12)を含む中心部分(10)は金属製である。
【0037】
図3は、主本体(1)と、その中に組み込まれた中心部分(10)との模式的な立体図であり、本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の実施形態を示す。
【0038】
図4は、本発明による可変バルブタイミング装置用のロータ本体の主本体(1)および動的シール要素(15)の模式的な立体図である。動的シール要素は主本体の一方の面に係合させることができる。ロータ本体が、主本体のもう一方の面と係合する同様の第2動的シール要素を有することは図示されていない。主本体(1)は、上面および底面における流路(6)と、溝(5)を含むベーン(3)とを有する。動的シール要素(15)は、ベーンと係合する部分(16)を有し、その部分(16)は、溝(5)に受け入れられるリップ(19)を有する。動的シール要素(15)は、また、流路(6)と係合する部分(17)を有し、その部分(17)は、流路(6)に受け入れられるリップ(18)を有する。
【0039】
図5は、本発明による可変バルブタイミング装置用の動的シール要素の模式的な上面図(図5a)および底面図(図5b)である。動的シール要素(15)は、ベーンと係合する部分(16)と、主本体における流路(6)と係合する部分(17)とを有する。動的シール要素は、流路(6)に受け入れられるリップ(18)と、主本体(1)における溝(5)に受け入れられるリップ(19)とを有する。
図1
図2
図3
図4
図5