【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明によるロータ本体によって実現された。このロータ本体は、
− 繊維強化型ポリマー材料から構成される主本体と、
− ロータ本体の前面から背面に延びる(軸方向の)穿孔であり、カムシャフト、またはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔を有する中心部分であって、金属製の中心部分と、
− ステータハウジングと係合するベーン先端における動的シール要素(i)と、
− 前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前面側および背面側の動的シール要素(ii)と、を含み、動的シール要素(i)および(ii)は非強化型のプラスチック材料から作製され、金属製の中心部分は、繊維強化型ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分および/または繊維強化型材料が充填される複数の孔を含む。
【0007】
本発明によるロータ本体の効果は以下の点にある。すなわち、ロータ本体が、容易に製造可能であると共に金属製のロータ本体に比べて軽量であり、しかもロータ本体とステータアセンブリとの間にシールが構成される、というだけでなく、寸法精度に対する厳格さが低下し、ロータ本体をカムシャフト上に組み込む場合に堅固に取り付けることが可能になり、固定のための高い機械的負荷および温度変化に起因する寸法の変化から影響を受けることなく、広い温度範囲にわたって良好なシール特性が保持される。プラスチックの本体に対する機械的負荷が低下する結果として、ロータとステータとの間の摩擦および摩耗が減少する。運転中のステータおよびロータ間のオイル漏洩が最小化される結果、シールされた連続的なオイル回路が可能になり、そのため、装置が、オイルを輸送でき、効率的に機能する。さらなる利点は、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達がより効率的であるという点であり、さらに、負荷伝達の効率と負荷伝達のタイミングの精度とが、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持されるという点である。
【0008】
穿孔を有する中心部分が、プラスチックのロータ本体の機能と、カムシャフトへのトルク伝達とに対して決定的に重要である。それは、その中心部分が圧縮力の制限器として、かつ、ロータおよびカムシャフト間の第1伝達要素として機能するからである。その中心部分は、ロータのカムシャフトに対する固定および芯合わせをきわめて確実に提供して、プラスチックの主本体の変形またはクリープなしに固定するように高い負荷を支持し、一方、全温度範囲にわたって必要なシール機能を可能にする。この中心部分は、カムシャフト上のアセンブリ用として用いられる固定要素からの予備荷重に耐えることができなければならない。この固定要素はボルトとすることができる。この中心部分は、適切には、少なくとも50Knのボルトの予備荷重または類似の代替荷重に耐え得るかまたはそれを支持し得るように設計される。これは、例えば、その中心部分の寸法を、穿孔の中心軸に対して半径方向に増大することによって実現することができる。
【0009】
金属の中心部分の形状は、変化することができ、例えば、円筒状の外表面と円筒状の穿孔とを有する円筒形状の本体を有することができる。穿孔は他の形状を有することもできるが、その形状は、好ましくは、受け入れられるべきカムシャフトの端部の形状と連結できるべきである。中心穿孔がボルトを受け入れなければならない場合は、その形状は円筒形であることが望ましい。金属の中心部分は、ほぼ円筒状の外表面を備えたほぼ円筒形状の本体、あるいは、円筒状の外表面を備えた円筒形状の本体を含むことが適切である。
【0010】
特定の一実施形態においては、金属の中心部分が、外表面と、繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを備えた形状化本体を有することが適切である。この実施形態は、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達が一層効率的であるという利点だけでなく、負荷伝達の効率と負荷伝達のタイミングの精度とが、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持されるという利点を有する。
【0011】
代わりの方式として、金属の中心部分が、外表面に、形状化された本体における複数の孔を適切に含む。この孔は、繊維強化型の材料がオーバモールドされる際にその材料で充填され、それによって、同様に、ロータからカムシャフトへの負荷の伝達の有効性および効率が増大し、負荷伝達のタイミングの精度が、VVT装置におけるロータの機能寿命の間一層長く保持される。突起部分および孔は、中心部分のプラスチックのロータ本体の中へのより確実結合的な取り付けが確保される限り、湾曲形状、スロットのような任意の適切な形状を有することができる。
【0012】
中心部分は、ロータの前面から背面に延びる中心軸を有し、複数の突起部分は、中心部分の中心軸にほぼ平行に全表面にわたって延びていることが適切である。また、突起部分は指状の断面形状を有することが適切である。この場合の断面は中心軸に垂直である。
【0013】
突起部分の個数は変えることができる。例えば、2個、5個、10個、15個、20個または25個、および、これらの個数の間またはこれを超える任意の整数個数とすることができる。好ましい実施形態においては、中心部分は、少なくとも4個の突起部分、さらに好ましくは少なくとも8個の突起部分を有する。突起部分の個数が多いと、ロータがより高いトルク負荷を支持し得るという利点がある。
【0014】
本発明の好ましい一実施形態においては、プラスチックの本体と金属の中心部分とが、インタロッキング要素によって相互に固定される。金属の中心部分上の突起部分は、その中に孔を有する突起部分、またはアンダーカットを有するリブの形状の突起部分のようなインタロッキング機能を備えた形状を有するのが適切である。プラスチックの本体および金属の中心部分がインタロッキング要素によって相互に固定される方式の利点として、カムシャフトに対するプラスチックの本体の角度的な変位が制限されるという点だけではなく、半径方向の動きによる遠心力が印加された際の半径方向の変位が低減されるという点もある。
【0015】
中心部分は、機械加工された金属、鋳造金属または焼結金属から適切に作製される。
【0016】
中心部分は、本発明によるロータ本体の中に、任意の適切な方法、例えば圧力嵌めによって、あるいは、中心部分の回りにポリマー材料を圧縮成形または射出成形することによって装着することが可能である。特に、中心部分が、外表面上にインタロッキング機能を有する孔または突起部分を備えている場合は、中心部分を、中心部分の回りにポリマー材料を射出成形することによって、ロータ本体の中に装着することが望ましい。
【0017】
主本体が含む繊維強化型ポリマー組成物は、広い温度範囲にわたって良好な機械的特性と高い弾性率とを有する任意の繊維強化型ポリマー組成物とすることが可能である。主本体は、射出成形可能な繊維強化型熱可塑性または熱硬化性ポリマー材料とからなることが適切である。
【0018】
射出成形可能な繊維強化型熱可塑性ポリマー材料は、繊維強化要素と共に、熱可塑性ポリマーを含む。
【0019】
射出成形可能な繊維強化型熱硬化性ポリマー材料は、繊維強化要素と共に、熱硬化性ポリマーを含む。
【0020】
繊維強化成分は、例えばガラス繊維または炭素とすることが適切である。
【0021】
熱可塑性ポリマーとしては、例えば、熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリエステル、好ましくは熱可塑性ポリアミドを使用できる。
【0022】
適切な熱硬化性ポリマーの例は熱硬化性不飽和ポリマーである。
【0023】
VVT装置のサイズ、形状および用途に応じて、プラスチックのロータが非常に高いトルク負荷に耐え得なければならないという事象が非常に頻繁に生じる可能性がある。例えば、各ベーン要素に100N−mmのトルク負荷または「ベーン圧力」が印加される場合が生じ得る。ある種のポリマー、例えば、オランダのDSM Engineering Plastics B.V.社の「Stanyl TW241F12」が、この量のトルクに安全に耐えることができる。
【0024】
本発明によるロータ本体のベーンの先端におけるシール要素(i)と、前面側および背面側のシール要素(ii)と、以下に記述するシール要素(iii)とは、動的なシール目的に適した任意の非繊維強化型ポリマー材料から作製できる。適切な材料には、非繊維強化型熱可塑性ポリマーまたはゴム材料が含まれる。この動的シール材料は、良好な耐油性および耐熱性を有することが望ましく、例えば、ポリアミドベースの材料、PTFEベースの材料、PTFE修飾ポリマー材料が挙げられる。適切なポリアミドベースの材料の一例は、オランダのDSM Engineering Plastics B.V.社の「Stanyl TW341」である。特定の一実施形態においては、PTFE修飾ポリアミドベースの材料が用いられる。
【0025】
シール要素を位置決めし、かつ、シール特性を良好に持続するために、シール要素(i)をベーン先端のポケットによって包み込むことが有利である。同様に、シール要素(ii)は、それぞれ前面および背面における溝によって包み込むことが有利である。この溝は、シール要素(ii)を受け入れるのに適した任意の形状を有することができる。
【0026】
ロータ本体は、1つのオイルチャンバから他のオイルチャンバへのオイルまたは空気輸送用の流路を含む。この流路は、ドリル穿孔、ボーリングおよび面削りのような2次的機械加工によって創成できるが、この機械加工は、プラスチックに対して行うので金属部品の場合より遥かに容易である。代わりの方式として、射出成形工程の間に、摺動要素を備えた金型空洞を用いて流路が作製される。
【0027】
好ましい一実施形態においては、流路が、主本体の前面側および背面側の表面に配置される主本体における流路であって、動的シール要素(iii)でカバーされる流路によって構成される。この流路は、表面に配置されるので、流れの方向だけでなく、表面の側においても開放される。動的シール要素(iii)でカバーすることによって、表面の側における開放部分が閉止されることになり、オイルまたは空気の目標の流れ方向のみにおける輸送が可能になる。動的シール要素は、通常のエンジンオイルの圧力を介して、または金属もしくはプラスチックスプリングを使用して、あるいはこれらすべての組合せによって機能させることができる。流路は、溝またはスロット、あるいはそれ以外の形状のような任意の形状を有することができ、例えば、三角形、四角形、あるいは、半円形または半楕円形の断面を有することができる。
【0028】
動的オイルシール要素を備えた本発明によるプラスチックのVVTロータは、オイル回路の流路をロータ本体の前面および背面に成形可能にする利点を有し、従って、ドリル穿孔、ボーリングおよび面削りのような2次的機械加工操作を省略できる。これによって、製造コストが大きく低下するだけでなく、比較対象ロータに比べて良好な機械的特性がもたらされる。
【0029】
本発明によるロータ本体の特定の一実施形態においては、
a.中心の金属部分が、円筒状の外表面と、繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含み、かつ、
b.オイルまたは空気輸送用の流路が、主本体の前面側および背面側の表面に配置される主本体における流路によって構成され、その流路は、動的シール要素(iii)によってカバーされる。
【0030】
利点は、ロータ本体がさらに高いトルク負荷をも支持できるという点である。
【0031】
本発明は、さらに、可変バルブタイミング(VVT)装置にも関する。本発明によるVVT装置は、ロータと、カムシャフト上のロータを受け入れるステータとのアセンブリを含み、この場合、このロータは、本発明によるロータ本体、あるいは、このロータ本体の上記の特定のまたは好ましいいずれかの実施形態、あるいはそれらの任意の組合せであって、少なくとも、
− 前面、背面およびベーンの先端を含む主本体であって、繊維強化型のポリマー材料製の主本体と、
− (軸方向の)穿孔を含む金属製の中心部分と、
− 非強化型のポリマー材料製のシール要素であって、ベーンの先端と、前面および背面とにおけるシール要素と、を備え、前記穿孔には、カムシャフトの端部部分および/または固定要素が受け入れられ、ロータはその固定要素によってカムシャフトの端部部分において固定される。この固定要素はボルトまたは類似品が適切であり、固定用の予備負荷は少なくとも50Knとすることが妥当である。